ダウ・ボーイ

【だうぼーい】

ジャンル アクション
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売元 ケムコ(コトブキシステム)
開発元 SYNSOFT
発売日 1985年12月11日
定価 5,300円
プレイ人数 1~2人
判定 なし

概要

1984年にSynapse Software*1が発表したコモドール64向けソフトの移植作。コトブキシステムがケムコブランドのもと初めてファミコン向けにリリースしたソフトでもある。

プレイヤーは24時間以内に要人を救出せよとの特命を受けたアメリカ兵「ダウボーイ」として敵陣の只中に落下傘で降下し、共に投下された装備を回収した後に捕虜収容所に向かうこととなる。単に敵兵を倒すだけではなく、ダイナマイトやハシゴといった装備の使い方が攻略上の重要なポイントになる。


システム

  • ダウボーイは通常攻撃として銃*2を撃てるほか、各種の装備を使用できる。
    • TNT(ダイナマイト)は様々なものを破壊するために使用し、ヒューズ(導火線)を同時に消費する。地雷は戦車を破壊するために使う。クリッパー(ペンチ)は鉄条網を切断するために使う。ハシゴは壁を乗り越えるために使う。
  • 全5ステージ。各ステージの制限時間は5分。基本的にはマップのどこかにあるカギを拾って画面右端に到達すればステージクリアとなる。ただし、道中では様々な障害がダウボーイの行く手を阻む。
    • 敵は歩兵のほか、一部のマップには戦車や戦艦も現れる。
    • ステージ1ではダウボーイと共に投下された装備を集める必要がある。ここで拾ったものを以後のステージの攻略に使うことになる。
    • 無事にステージをクリアすると残機が1増える。スコアは回収した装備の数、倒した敵の数、残り時間によって算出される。
    • ステージ5の捕虜収容所では夜間が舞台となり、周囲のわずかな範囲しか見えない上、サーチライトを避けつつ進まなければならない。
    • 要人を救出した後は画面左端へと脱出する。エンディングは要人の生死で分岐し、救出に失敗すればメインテーマのアレンジ版が、成功すれば国歌『星条旗』が流れてゲームクリア。若干難易度の上がった2周目が始まる。
  • GAME A、GAME B、2PLAYの3つのゲームモードがある。Aは通常のゲーム。Bは画面右側から敵のミサイル攻撃が加わる。このミサイルは銃撃で撃墜可能。2PLAYではBと同じミサイルを2Pが操作することになるが、対戦と協力のどちらを意図していたかは不明。
    • 一見するとBのほうが難易度が高いのだが、ミサイルの爆風はTNTと同じ威力があるので、うまく誘導した上で撃墜していけばTNTを使うより素早く安全に目標を破壊できる。2PLAYで協力すれば一層と楽になる。
  • 大抵のゲームでは自機が敵に接触した場合は自機がダメージを受けるが、ダウボーイが敵兵と接触すると敵兵のほうが死ぬ。銃を使うよりも距離を詰めて白兵戦に持ち込んだほうが強い場面も多い。ただし、敵兵を銃で倒せばスコアは100点だが、白兵戦では50点になる。

評価点

  • 戦闘ではなく救出任務の遂行をメインに据えたデザイン。
    • 敵を倒すことにさほどの意味はなく、装備を活用して障害を乗り越え、収容所への潜入および要人の救出という任務を速やかに達成することが求められる。本作は特殊作戦という題材から銃撃戦だけを切り抜くのではなく、各種工作を含む全体を描こうとしているのである。
    • 敵地潜入後の装備回収、爆薬の設置や鉄条網の除去、サーチライトを避けながらの潜入などの様々な演出は、後年のミリタリーアクションでもよく見られるものである。この点から、本作のコンセプトは時代を先取りしたものと言われることもある。
  • 銃を構えたりクリッパーで鉄条網を切断したりといった細かいアニメーションにもこだわりがうかがえる。
  • アメリカの軍歌や行進曲をモチーフとしたBGMの出来はよい。
    • ステージ開始時に流れるのは『タップス』(Taps)というラッパ譜である。本来は追悼式典や軍隊葬、あるいは消灯時に吹かれるものだが、本作では明るい曲調にアレンジされている。
    • ステージ1と3のBGMは『You're in the Army Now』。1917年に発表された後、アメリカ陸軍を題材した映画などでしばしば使われた。
    • ステージ2のBGMは『ジョニーが凱旋する時』。これも多くの映画などで使われてきた有名な曲。

問題点

  • 全体的な説明不足による難易度の高さ。操作性の悪さと共に本作がリリース当時クソゲー扱いされた原因。
    • 当時のアクションゲームとしては複雑な部類に入るが、設定や目的、装備の使い道やステージ内のギミックについてゲーム内でのヒントや説明は一切ない。
      • ただし、取扱説明書には簡素ながらステージ1から5までの攻略方法が掲載されていた。
    • 装備回収はステージ1でしか行えず、さらに敵兵もこれらを拾おうとするので全て入手できない場合がある。特にハシゴを拾っていない場合、ステージ4で壁を超えられずに詰む。
      • 地雷とクリッパーは攻略上必須ではなく、TNTとヒューズは数に余裕をもって配置されているので、全く拾わないということでもなければハシゴ以外が原因で詰むことは稀。
  • 操作性の悪さ。ダウボーイの移動のぎこちなさのほか、複数の道具の使い分けを十字キーと2つのボタンだけで行わせていることによる複雑さも。
    • Aボタンは銃撃とTNTと地雷に、Bボタンはクリッパーとハシゴに割り当てられており、装備の使い分けのためにはボタン長押しや方向キーとの同時押しを駆使する必要がある。
      • 例えばピッという音がなるまでAボタンを長押しし、そのまま離せば地雷が、離さず方向キーで移動すればTNTが設置されてヒューズが伸ばされる。そのため、TNTを置くつもりが指を離して地雷を置いてしまったり、逆に指を離すのが遅れてTNTと短いヒューズが設置されて自爆するといったミスが起こる。
    • 銃を撃つには方向キーとAボタンの同時押し。敵が迫ってきている時の咄嗟の操作ではミスしやすい上、射撃前には銃を構えるアニメーションが入るので、ボタンを押したタイミングと実際の射撃のタイミングがズレている。
  • 一部マップ構造のシビアさ。
    • 川の流れるステージ2では細い橋を渡りつつ小島の上を進む必要がある。水に少しでも触れれば即死だが、一部の足場はダウボーイ1人分の幅しかない。そんな中で戦艦の砲撃を避けつつTNTをうまく仕掛けるのは容易ではない。TNTを仕掛けるには多少のスペースが必要、ヒューズの引き直しは不可能という仕様も作業を一層と困難なものとする。
    • ステージ5ではスタート地点の目前に地雷原が広がっている。さらに夜間のため自分の周囲に視界が限られており、それより遠くはTNTを起爆した際の光で照らされるわずかな間に確認しなければならない。また、脱出時には要人も地雷を踏まないよう誘導しなければならないのだが、例によって味方AIはあまり賢くないので、障害物に引っかかったり妙な迂回を試みて地雷を踏むこともある。
      • 起爆した地雷はコンティニュー後も復活しないので、残機に余裕があれば要人救出に向かう前にダウボーイを1人か2人犠牲にして地雷を処理し、ルートを切り開くという非人道的な攻略法も。
  • 周回要素があるとはいえステージは5つと少なく、ボリュームのあるゲームとは言えない。
  • 一部の装備は存在価値が薄く、ギミックとして活かしきれていない。クリッパーと地雷はどちらもTNTで代用可能。装備の数が操作の複雑さを招くことから、これらをそもそも回収しないことを勧めるプレイヤーもいる。

総評

リリース当時には主に複雑さと不親切さ故に酷評され、クソゲーと呼ばれることも多かった。とはいえ、情報がインターネットで簡単に入手できるようになってからは当時のプレイヤーが感じた不親切さを追体験することは難しい。操作性の悪さや複雑さ、ボリューム不足という問題は変わらず残されているものの、今となってはせいぜい「一部パズル的な要素を含むクセのあるアクションゲーム」程度の評価に落ち着くだろう。

時代を先取りしたコンセプトがハードの性能に対して野心的過ぎたのは間違いないが、銃撃戦以外の工作にスポットライトを当てて特殊作戦のディティールを再現しようとしたことは評価すべきだろう。


余談

  • タイトルの「ダウボーイ」(Doughboy)とは、第一次世界大戦頃に使われたアメリカ陸軍の歩兵の愛称で、1940年代に同じ意味合いのGIという言葉が普及するまで使われていた。Dough(ダウ、ドウ)とはパン生地の意味。
    • 語源は諸説あり正確には不明。歩兵の制服のボタンの形が練った生地に似ていた、あるいはベルトに使う磨き粉が小麦粉に似ていたことをからかって騎兵らが言い始めたという説、米墨戦争中にメキシコに舞う粉塵で白くなった顔がパン生地のように見えたことに由来するという説などがある。
    • 空挺降下や物資投下が軍事戦術として普及するのは第二次世界大戦頃からだが、世界で最初の事例はいずれも第一次世界大戦中に記録されている*3。本作が第一次世界大戦の戦場を描いているとすれば、ダウボーイは極めて実験的な戦術を複数採用した高度な特殊作戦に従事しており、また恐らく記録に残る世界初の空挺降下を行ったアメリカ兵ということになる。鳥になってこい!幸運を祈る!
    • C64版のパッケージには第一次世界大戦風のアメリカ兵が描かれていたが、FC版のパッケージには1980年代風のアメリカ兵が描かれている。
  • C64版との違いについて。
    • ゲーム中のBGMの多くはFC版で新たに追加されたものである。一方、C64版ではゲーム開始前のロード時に『星条旗』のほか、FC版では使われなかった『ジョージア行進曲』、『ヤンキードゥードゥル』が演奏される。
    • マップのレイアウトは基本的に変わらないが、C64版では1画面に収まっていた。FC版では横方向に2画面分となり、画面がスクロールするようになった。
    • C64版では常にFC版のGAME Bと同様に敵ミサイルが降り注ぐ。
    • ステージ1開始時、C64版ではダウボーイおよび各種装備がパラシュートで投下されているアニメーションが表示される。
    • C64版ではミッション失敗時および完了時のテキストがあった。要人救出に成功すればプレイヤーは名誉勲章を授与されることになる一方、途中で失敗した場合は降格されたり不名誉除隊*4を言い渡されたりと散々。
      • 失敗時のテキストでは全ての分隊員を失った責任に言及されている。つまり、C64版でプレイヤーが演じているのはダウボーイ自身ではなく彼ら(残機を含む)を指揮する分隊長である。
    • 要人を救出した際、C64版では着陸した友軍の飛行機に共に乗り込んで脱出するカットシーンがあった。FC版では砲撃の中を要人と共に走り抜けるダウボーイのカットシーンが流れる。

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最終更新:2024年05月02日 18:22

*1 SYNSOFTは同社製品のイギリス向け展開時に使われた名称。

*2 説明書には「マシンガン」と書かれているものの、連射間隔が長い。0.5秒に1発くらいの感覚。そのため、「ピストル」と読んでいる書籍もある。

*3 1916年8月12日、イギリス軍はメソポタミア戦線で包囲された部隊に対し航空機による食料投下を試みた。1918年8月にはイタリア軍の特殊部隊将校が単独で敵後方に落下傘で降下して偵察および破壊工作を行った。前者は物資投下の、後者は脱出以外の戦術的な目的による落下傘使用の世界初の事例とされる。

*4 米海兵隊員に対しての最大の懲罰。退役軍人への恩給や褒賞などを一切受けられないだけではなく、経歴に「元海兵隊員」と名乗ることも禁じられる。逆に、戦場での負傷や捕虜となって生還し、その後の作戦行動が不可能と判断された場合は「名誉除隊」となり、通常の除隊以上のメリットが保証されている。