実況パワフルプロ野球'98開幕版
【じっきょうぱわふるぷろやきゅう きゅうじゅうはちかいまくばん】
実況パワフルプロ野球'98決定版
【じっきょうぱわふるぷろやきゅう きゅうじゅうはちけっていばん】
ジャンル
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スポーツゲーム(野球)
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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コナミ
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開発元
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コナミコンピュータエンタテイメント大阪 (ダイヤモンドヘッド)
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発売日
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開幕版:1998年7月23日 決定版:1998年12月23日
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定価
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開幕版:5,800円(税別) 決定版:4,800円(税別)
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判定
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良作
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実況パワフルプロ野球シリーズ
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概要
シリーズで初めて決定版が発売されたPS版パワプロ4作目。人気のサクセスは5(N64)と同じくファン待望の高校野球編なのだが、一部システムが現在のサクセスへの過渡期とも呼べる作品であった5と違い3・4のようなプロ二軍編をベースとしたシンプルな高校サクセスモードとなっている。
具体的には…
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練習レベル、精神点の削除。練習内容もプロ二軍編がベースとなっている。
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爆発するとゲームオーバーや強制コンバートが発生する「爆弾」がない。
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休息系コマンドによるスタミナ減少がない。
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監督評価が低いとゲームオーバーになる可能性がある。
今作のサクセスは矢部君や猪狩と別地区という世界観。そして高い自由度と育成しやすい環境により、ある種の高校野球シミュレーションと化している。
評価点
サクセスの自由度が非常に高い。
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思い通りのチームを作って甲子園を目指せる。
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まず特筆すべきは高校の名前と設定を任意で入力できることだろう。地元の高校や実在の名門校を入力することで特別な思い入れを持って甲子園を目指すことができる。
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設定の名門、普通、弱小の選択はレギュラーのなりやすさとチームの初期能力以外はどれを選んでもストーリーはほとんど変わらないが、大会序盤で敗退する可能性を甘受してでも速攻でレギュラーになり評価やボーナス経験値を稼ぐ回数を増やすために弱小を、早期レギュラーを諦めて万全の体制で試合に臨み出場できる大会を確実に勝ち進むために名門を選択といったように自分の力量に合わせて選択できる。
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そして本作最大の魅力はキャプテンになるとできるチームメイトへの練習指示にある。
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この指示は一人ひとりに出すことができ、いつでも変更可能。
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例えば同じ高校編で評価も高い『9』では指示を出すのがランダムイベントだったり、各校の固定キャラ、自分で作った継承選手がランダムで加わるなどでチームの個性が決まり「チームの自由な育成」という要素はあまりない。
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練習指示自体は同時期に発売された5を筆頭に他の作品にもあるのだが能力の伸びが尋常ではない。
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弱小高校で機動力重視のチームを作ろう思ってチーム全員の走力をAにでき、更に他の練習指示ができる余裕があるのは『栄冠ナイン』を除けば本作ぐらいである。
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なので本当に思った通りのチームを作ることが可能。バランス重視、打撃重視、守備重視、機動力重視はもちろん。補欠をやむなく代打の切り札や守備固めにしたりなど、チーム作りは自キャラを成長させるのと同じくらい楽しく。最終的には補欠にまで愛着がわいてくるほど。
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サッカー部の速水か柔道部の権田のどちらかを途中で入部させるか決められる点もチーム作りの自由度に貢献している。
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またチームの強さがグラフで表示されるので成長が実感できるのも嬉しい。
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このあたりのバランスは『14』『15』の監督になりきる「栄冠ナイン」に近いものがある。
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またPS1シリーズはサクセスを使いまわされる事が多いのだが、本作は全パワプロサクセス中登場人物、ストーリー共にほぼ使い回しがないサクセスであり「レギュラー」が脇役である事もあって新鮮な気持ちで遊べる。
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高い初期能力による自由なキャラメイク
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本サクセスの大きな特徴といえば初期能力の高さである。オールCも当たり前。
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他のシリーズでは1/250とも言われる天才型の能力すら、今作では「君、帰宅部?」扱いされるほど。
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初めに中学の部活を選ぶことによって能力が変化する。俊足の選手が作りたいなら陸上部のようにキャラメイクがしやすい。
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当時では習得が難しかったり習得そのものが不可能だった特殊変化球が全て初期設定で習得可能。
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打法、投球フォームも当時のパワプロと比べ選べるものが多い。
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一部に壊れた性能を誇る部活があり、それを利用してスーパー1年生プレイが可能。
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野手なら柔道部でパワーCやBから始められ、投手なら卓球部+バグ技(開幕版のみ)によって沢村賞投手ばりの変化球を持った状態で始められる。なので1年から試合に出て清原桑田の如く甲子園を荒らすという本作限定のプレイもできる。
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実在感のある世界観
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舞台は珍しく矢部や猪狩とは同世代の別地区となっているのだが、その結果。サクセスの世界というより現実の高校野球に近い世界観を作り出すことに成功している。
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後のシリーズにある、あからさまなネタ高校が存在しない。
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対戦相手の高校はどれも実在感があり、試合後のセリフからは真剣に勝利と甲子園を目指していたのが伝わってくる。後の「冥球島」で強烈なキャラ付けをされる「聖マリアンヌ」も今作時点では髪型以外は『力不足だが真剣な弱小校』という印象が強い。
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しかも単にリアルなだけでなく。試合前に表示されるグラフでチームの強さや特徴が比較できる上、自信やプライドを覗かせるセリフによって非常に良いキャラ付けがされている。
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登場高校は他の作品のサクセスと比べても圧倒的に多く、1試合毎に選ばれる候補の高校が最大4つとランダム性はかなり高い。
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大抵のサクセスでライバルとの対決が行われる地区大会決勝すらもライバルが在籍する高校2つ、妨害要因のいる高校、そしてイベント等が一切なく全くプレイヤーに関与してこないが実は地区大会最強レベルの強豪高校の4つの中からランダムで選ばれる。
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甲子園の演出が見事。甲子園まで行くと名前のアナウンスに加え「ワッショイ」などおなじみの応援歌に笛の音と湧き上がる大きな歓声は憧れの地と呼ぶに相応しく。母校の名前でプレイしているときなどの感動はひとしおである。
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ラスボスが「主人公チーム」としてのパワフル高校
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3年の夏に甲子園決勝まで行くと、サクセスでおなじみのキャラと対戦することができる。
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その相手こそ矢部明雄の所属するパワフル高校であり、猪狩はなんとパワフル高校の引き立て役として登場し(予選で敗退したのにユニフォーム着用)、本作の主人公にパワフル高校には勝てるわけがないと人間臭い弱音を吐く姿が見られる。
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ただ猪狩の自信を喪失させるだけありパワフル高校の強さは本物。オールAあるいはそれに近いステータスの野手が勢ぞろい。
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矢部もほぼオールAに近いという今では考えられないほど強力なステータスを誇る。
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他の選手も『パワプロ5』を中心に香本・松倉・鮫島・駒坂、更に監督の山宮・スカウトの影山・他校の阿畑など当時のサクセスオールスター状態。
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4番の戸井はステータスがカンスト状態でサクセス史上最強の能力を誇る。
なお戸井は初期パワプロの設定ではパワプロ5の主人公の公式ネームというものがあり、実質「別の主人公チーム」であり最後の相手として相応しい実力を誇る。
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強豪校にも弱点がある
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あかつき大付属やアンドロメダ学園などは、どんなに粘って猪狩や先発投手を降板させても控え投手すらレベルが無駄に高く(好調だったりするとむしろ猪狩より強い)一切隙がないので、上級者以外は運が良くなければ勝てないというのが通例である。
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だが、本作では控え投手がリアル感のあるものだったり、実はスタミナに難があったりなど。一見すると滅法強そうなチーム相手でも付け入る隙があり勝つ算段が用意されている。前述のパワフル高校でさえも例外ではない。この絶妙なバランスも各高校の個性を引き立てる要素の一つとなっている。
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育成のしやすさもあって総合的に初心者でも遊びやすいパワプロである。
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見せ球による駆け引き
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今作は非常にホームランの出やすい打者有利の設定となっている。
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しかし、CPUも含めミートカーソルが自動で中心に戻らない仕様が奇跡的に良バランスを生み出している。
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例えば外角に投げた場合。球を追ったミートカーソルが外に残るため、次の投球で内角を攻めれば芯やタイミングを外し易くなるという現象が起きる。
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このように本作は見せ球が非常に有効で、打高投低のパワプロにありがちなCPUの理不尽な打撃が駆け引きによって上手く緩和されている。
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もちろんプレイヤーはセレクトを押すことで自分のカーソルを中心に戻すことは可能。
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繰り返し遊べる中毒性
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もともとパワプロのサクセスは繰り返し遊べるように調整されているのだが今作は中毒性も高い。
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前述のとおり高校や主人公の初期設定を細かく設定できる上にパワフル高校以外の試合の高校は全てランダムで設定されるため各サクセス毎に違った展開になりやすく作業感が軽減されている。
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イベントは全体的に癖がなく簡潔に纏められており、同時期の5と違いイベント簡易化ができない上に順次チームメイトが加入、離脱したり2人のライバルが登場する、というように強制イベントが多い割には繰り返しが苦痛になりにくい。
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前述のキャプテンに関しては各試合7回までは自動で7回以降はすべてマニュアルで行わなければならないので守備が苦手なプレイヤーにとっては苦痛でしかなく、プレイ時間も大幅に増える為に一部では不評であった。
今作に関してはたとえ主人公が条件を満たしていても拒否権があり、その選択によって後味の悪くなるような描写やイベント等もないのでチームメイトの強化やボーナス経験値を諦めてプレイ時間の短縮を図ることも可能。
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開幕版には90年代のコナミを代表する名作『メタルギアソリッド』の体験版が同梱。この体験版から3Dによるステルスアクションという進化したゲームの姿に衝撃と感動を受けた人も多い。
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その他
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後述の通り野球部分はまだSFC時代ベースのものとなっているのだが、投手の先発・リリーフ適性が明示されている珍しい作品である。
先発投手は選手名プレートのカラーが従来の赤なのに対し、リリーフ投手はピンク色となっている。
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『99』以降の他作品では長らく採用されなかった。『2012』でステータスに明示されるようになり、『2013』で本作同様のカラーが設定され、ひと目でわかるようになった。
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ちなみにサクセスで作れる選手は先発固定であるが、もちろんリリーフ起用も可能。
問題点
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野球部分は全体的に大味で、グラフィックもSFC時代と比べても大差がなく、今野球ゲームとして遊ぶには厳しいものがある。
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一応前作『パワプロ'97』からのブラッシュアップは行われている。全体的なUIがN64で展開されていたメインシリーズのUIに近づけられ、ミートカーソルも同様にバット型に。デュアルショックによるアナログ入力に対応したのも今作から。とはいえ、メインシリーズとの格差はまだまだ否めないところであった(本作は『パワプロ5』とほぼ同時期)。
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今から見れば、N64互換のグラフィックを2年遅れながらようやく実装できた次作『パワプロ'99』の布石とも取れるブラッシュアップであった。
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サクセスモードにおけるCPUの思考レベルは全ての高校が高めに設定されているために浮き球はホームラン以外はほぼ取られ、投手の投げる球も上記のCPUの穴を付くかよほど際どいコースを突かないと簡単に打たれる。そのために攻撃重視のチームは今作ではかなりの強敵になる。
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サクセスとしてバランスが崩壊している
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右打ちと左打ちでミートに格差があり、右打ちが有利になっている。
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バグ技も含め色々と自由度が高い反面。オールAの選手などが簡単に作れるためバランスの崩壊を理由に批判されることも多い。
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ただし、これに関しては同時期に発売された5と比較して初期評価が低く弱小でも計画的に練習しないと1年夏でレギュラーになるのは(5の場合は評価が落ちなければレギュラー確定)厳しい、絶対に怪我をしない練習がない、対戦高校がランダムで殆どのチームが5より強めに調整されており評価を稼ぐのが困難、スカウトの訪問がランダムでライバルとの対決イベントが少なくスカウト評価が稼ぎにくいといった面もあるので簡単に断定はできないが。
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パワプロのサクセスは大抵リセット技に対して対策がされており強烈なペナルティが発生するのが通例だが今作ではセーブ、ロード機能が手動の為に容易にリセット技が使用可能。
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最も使用ブロック数の関係上、メモリーカードの書き込みと読み込みがかなり遅いのでものすごい手間がかかる。サクセスは選手作成までの過程を楽しむ要素もあるので仮にこの技でオールA、特殊能力満載の選手を作ったとしてもただの自己満足や虚しさしか残らないと思うが。
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次回作の『'99』では正式な終了方法をとらなかった場合はデータが消えるような配慮がされている。
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期末試験イベント、勉強コマンドの蛇足感
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期末試験に関しては真面目に勉強して赤点を回避する(最低5回分の勉強程度の学力が必要、更に学年ごとに必要学力が増加)よりも一切勉強せずに赤点をとって強制補習を受ける(4回強制的に勉強)方が拘束期間が短いという本末転倒なイベントとなっている。更に春の選抜大会にも選ばれている場合、1,2回やるだけで後は問題なく出場できる。
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5では赤点時にバッドステータスが付く上に学力が練習レベルの上昇条件になっている物があった事から学力向上手段の勉強コマンドは無視できない存在であった。今作では補修の有無以外では学力の高低によるメリット、デメリットがなく、事実上勉強コマンドは選択価値がない。
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これは攻略本にも堂々と書かれている。
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一部キャラクターの描写が希薄
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殆どのキャラクターはランダムイベントでしか登場せず相談にもほとんどのキャラクターはあまりメリットがないためにキャラクターの背景がつかみにくい。設定自体は決して悪いものではないので惜しい。
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特にパワフル高校から転校してきた花崎(投手)は登場時しかイベントがなく、相談相手にもならず更にパワフル高校と対戦する前のビデオ鑑賞時にもセリフすらない。パワフル高校の弱点を教えてくれればよかったのだが。
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矢部、猪狩といったおなじみのキャラも最後にちょこっと出てくる程度でありストーリーには関わらない。まあ、別地区なのであまり積極的に関わられて今作のキャラ達が霞んでしまうのも困るが。
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今後の作品では、チームメイトの鬼頭が2000のどすこい編のライバルチーム「仁徳建設」のキャプテンとして、ライバルキャラの滝本と久方は99の冥球島に登場する他、パワプロ2012で西強大学でチームメイトとして登場する。
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また、この作品での対戦校のいくつかが99冥球島の対戦チームとして再登場しており、一部の投手はこの時の能力で登場している。
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彼女候補が、『3』や『97』の様に外見と名前が違うだけ。
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流石に上記の作品とは違い、台詞や出会いは変わったが、誰と付き合っても殆ど変わらない。一応甲子園に出場しなければ告白されないキャラもいるが…。
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サクセスとシナリオ・フリー対戦以外、これといったモードは無し。
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『ドラマティックペナント』は次回作以降の登場となる。つまりサクセスで作った選手は対戦か通常のペナント・リーグでしか活かす場面が無いのが惜しい。
総評
野球ゲームとしては、はっきり言って今から遊ぶべきソフトではない。しかし、オーソドックスなサクセスに自由なチーム作りとリアルな世界観を足すことにより、高校野球シミュレーションゲームという観点なら今でも十分楽しめる名作となっており、ニンテンドウ64のメインシリーズとは違った魅力を醸し出している。もし、高校球児の気分を味わいたくなったら手にとってみるのもいいかもしれない。
余談
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本作のサクセスを高校野球シミュレーションとしての側面で捉えると、後の『パワポケ甲子園』や『パワプロ14』の「栄冠ナイン」モードの遠いご先祖様といえるかもしれない。
最終更新:2024年06月25日 23:36