蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン
【あおきおおかみとしろきめじか じんぎすかん】
ジャンル
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歴史シミュレーションゲーム
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対応機種
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PC-8801、PC-9801、X1turbo、 FM77AV、MSX、MSX2、 ファミリーコンピュータ、Windows
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発売・開発元
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光栄
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発売日
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【PC88】1985年7月 【MSX】1986年2月 【FC】1989年4月20日 【Win】2005年7月29日 【Steam】2017年1月25日
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備考
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Win版の単品は廉価版のみ
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判定
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良作
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蒼き狼と白き牝鹿シリーズ 初代 / ジンギスカン / 元朝秘史 / IV
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コーエー歴史SLG作品
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概要
光栄(現コーエーテクモゲームス)から発売された歴史シミュレーションゲーム。
舞台を13世紀のユーラシア大陸と北アフリカに広げ、大陸を征服するのが目的。
元々は『蒼き狼と白き牝鹿』というタイトルでカセットテープ版で発売されたもののバージョンアップ版であった(そのため、本作を「チン2」とよぶことも)。
しかし、媒体としてフロッピーディスクやROMカセットが普及したこと、『信長の野望』『三國志』とともに本作を「歴史三部作」として大々的に打ち出したこと、その後のシステムの基となる要素を多く含んでいたこともあって、いつの間にか第一作のような扱いを受けるようになった。
特徴
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シナリオは「モンゴル編」と「世界編」の二つ。サブタイトルにもなっているジンギスカンは「モンゴル編」ではそれ以前の名前であるテムジンとして登場する。
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「モンゴル編」でプレイできるのはテムジンのみ。モンゴル編を1205年の冬までに統一すると将軍候補(他の作品の武将に当たる)、后、子ども、人口と資産の10分の1を保有して「世界編」に移行する。そして、ユーラシア大陸の征服を目指す。
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将軍(『信長の野望』等における「城主」にあたる)を引き継げない点に注意。人事面できちんと準備してから世界編に移行させないと将軍候補に血縁者がいない状況が起こりうる。この状況で初期配備の4王子がおらず、姫もいないとなるとかなり厳しい状況に追い込まれる。
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姫をできるだけ多い状態にして世界編に移行する方が当然ながら楽。モンゴル編で余裕がある状況なら姫を温存しておくのも一つの戦略。
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はじめから「世界編」を選ぶこともできる。その場合、プレイできるのはジンギスカン(モンゴル帝国)、源頼朝(日本)、アレクシオス(ビザンツ帝国)、リチャード1世(イングランド)の4人。
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血縁者の重要性。
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王子・兄弟・婿は決して裏切らないが、それ以外の将軍は必ず裏切る可能性を持っている。
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また、将軍候補にしていない王子はプレイヤー国王の後継者にすることができる。
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ただし、モンゴル編ではテムジンの死亡は即ゲームオーバー。
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王子は10歳で将軍候補にでき、姫は8歳で将軍候補と結婚できる。姫と結婚した将軍候補も血縁者となり、決して裏切らなくなる。
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将軍候補にした王子は後継者にできない。これについてはモンゴルに見られた末子相続を再現したためと説明されている。
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オルド。
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本作最大の特徴といってもいい。要するに后との子作りである。本作では血縁者が非常に重要なので重要なコマンドの一つである。オルドに4回成功すると次の春に后は出産する。
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ちなみに多人数プレイの場合、他のプレイヤーが3回オルドした后を奪い取って1回オルドを実行すると奪った側の子どもが生まれる。まさに寝取られである。
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后にはコマンドを実行するだけでほぼOKの人物、必ず何らかの交渉が必要な者、絶対NGのキャラの三種類が存在する。
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オルドの交渉に成功すると后のグラフィックが変わる。微笑む程度のキャラもいるが、わりと色っぽいグラフィックだったり、中には喘ぎ顔にしか見えないキャラもいる。さすが日本初のアダルトゲームを作っただけのことはある。
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公式攻略本の人物辞典には「カマトト」「体が弱い」などの説明がなされている者も。これがオルドにどんな影響を与えているのかは不明。
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以降の作品でも半ばネタと化した后候補ラッチが登場する。
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本作では強引に后になる(他の后候補と違って后とすることを拒否できない)。彼女が加わるときのメッセージは笑える。
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ブ○だが、オルドの交渉はほとんど必要なく、2回のコマンド実行で子どもを生むなど妙に役に立つ。
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なお、オルドとは本来「宮殿」程度の意味だったが、本作によってオルド=後宮もしくはHという誤解のもととなった。
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それをのばして、同じ「宮殿」から生まれた人を仲間として扱い、決して裏切ってはいけないという決まりが存在した。つまり、今作で肉親が裏切らないのは「オルド」が法律として機能しているからである。Hを示すのは別の言葉のはず
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例えば、『ワールドヒーローズ』のJカーンの趣味は「オルド」となっていて、明らかに本作の「オルド」を意識している。
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生まれる子どもの性別に法則性がある。つまり、男女の産み分けがある程度は可能。
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ただ、どちらか片方だけ産み続けていると、いずれはその性別の子どもを産めない状況になる。
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コマンドと能力の消費
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本作では「統率力」「判断力」「説得力」「企画力」「体力」「武力」というステータスがある。これらはコマンドの成否に影響することは少なく、一種の行動力として扱われている。つまり、コマンドを実行するたびにこれらの能力を消費するのである。
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したがって、これらの能力が減少すると実行できないコマンドも多い。なにしろ他国の情報を見るだけでも「判断力」を消費するのだから。
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これを回復するのが「訓練」である。本作では兵士だけでなく、自分も「訓練」できる。この訓練を通さないとほとんどの能力は回復しない。
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内政コマンドが少ない。
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投資系のコマンドは一切ない。できることは人口の割り振りと施しぐらい。これは広大な地域を支配するのに細かい指示をするわけにはいかず、大まかな政治方針を打ち出すことしかできないという現実を反映したものである。
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1ターンに命令できるのは3回。
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一つの季節が1ターンというのは『信長の野望』とも共通している。また、内政系のコマンドが少ないため、3回も命令できるというのは『信長の野望』より楽そうに見えるが、人事、属国(コンピュータへの委任国)への指示、資産売買、軍の再編・強化、自己鍛錬、情報収集、オルドとやるべきことが多いので、実は結構シビアである。
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柔軟な戦略と戦術の必要性。
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細かい内政コマンドはなく、産業への人口の割り振りによって国力を増大できる。本作では人口のすべてを兵力に当てることも可能なため、一時的にハッタリをかますことや公式攻略本で「イナゴ作戦」と呼ばれた、全人口で他国を荒らしまわるという作戦もできる。
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戦術(つまり、HEX戦)においては、機動力があり平地での攻撃力の高い騎馬隊、山林の戦闘に強く伏兵で大打撃を与えられる歩兵隊、飛び道具で遠距離攻撃ができる弓兵隊の使い分け、平地以外の移動では兵士が脱落してどんどん減少する地形の活用も必要とされる。
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公式攻略本では地形による兵士の減少を利用した「地獄のツアー作戦」などが紹介されていた。
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特産品と商人。
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日本では絹、モンゴルでは毛皮といった特産品が登場する。基本的に換金か施しにしか使わないが、その国の特徴が出ている。
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商人には中国商人・ウイグル商人・イスラム商人の三種類がある。それぞれ高く買い取る・安く販売する特産品や武器が異なる。例えば中国商人は絹・陶磁器・火薬を安く販売し、ガラスや宝石を高く買う。彼らの特徴を見極めることも富国強兵には欠かせない。
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あえて史実を無視している面がある。
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世界編のプレイヤーキャラの内、リチャード1世と源頼朝は既に死去している。また、プレイヤー国のビザンツ帝国(東ローマ帝国)にいたっては第四回十字軍によって滅ぼされている。こうした措置はあまりなじみのない13世紀のユーラシア大陸情勢の中で、少しでもプレイヤーに感情移入しやすくするためのものだったと考えられる。
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また、プレイヤー国の血縁者の公平を図るために(おそらく)架空の子どもも用意されている。
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小部族に分かれていたシベリアや小国が乱立して統一国家の形成が遅かったインドを無理やり一つの国家としてまとめている。
評価点
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扱う題材やゲーム内容が斬新
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日本ではミリタリーや戦国ものが多い中、モンゴルの民族争いにスポットを当て、また主役であるテムジンにまつわるエピソードをゲームシステムに取り入れているのは面白い。
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特にオルドによる、「自分で配下を生み出せる」というシステムはそれを象徴するものだと言える。ある意味で後の新武将や武将エディットに通ずるのではないだろうか。また「信長の野望」「三國志」では一族であろうと「配下武将」の枠を出なかったのに対し、本作はそれらを特別な存在として発展させている。
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舞台の壮大さ
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これも「信長の野望」「三國志」とは異なる大きな魅力。これまでの一国統一から世界への飛翔は、ただ単に広大な世界へと飛び出して行くだけでなく、当時の権力者の支配欲や野心を表すリアルさを醸し出している。
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国ごとの特産品や音楽も、様々な文化があるという視点から世界の広さを魅せている。
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産まれた子供に名前を付けることが出来る。王朝の由緒ある名前を付けてもいいし、奇抜な名前で世界観を破壊するのも一興。MSX版では占い師が適当に名付けるので、面白みが少なくなった。
問題点
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コンピュータに有利に働く現象が多い。
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「モンゴル編」から移行した場合、国力は非常に高くなるのだが、はじめのターンで他国からの怒涛の破壊工作が行われ、国力を大きく落とされる。
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コンピュータの国はいつの間にか膨大な人口を擁する場合が多く、大軍を擁していると思って油断するとあっという間に攻め込まれることも。
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架空の国がやたらと増える。
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複数の国を支配する国家の本国(族長・国王の所在地)が陥落するとその国家が支配していた地域はすべて独立する。その際、架空の国家名を名乗るようになる。プレイ開始から15年も経つと初期の国家名を名乗っている国はほとんどなくなる。
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この名前はどういう基準でつけられるのかわからないため、カタカナを乱数で並べ替えてネーミングしているのではないかと思われてくる。もっとも、人間には発音不可能な名前は出てこないが。
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将軍候補の問題。
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将軍候補は5人までしか雇えない。モンゴル編の国は14、世界編でも27なのでそれほどたくさんの将軍候補が必要というわけでもないが、それにしても少なすぎる。
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最大の問題は、将軍候補が5人の時に将軍のいる国に撤退する、もしくは属国が敵国に落とされるとその国の将軍は枠が無いので下野してしまう。敵に押し込まれて優秀な人材が次々在野になってしまうと目も当てられない。
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子供も5人まで。ゲーム序盤は将軍候補や子供の人数が多いので王子を将軍にできずに子供が増やせず、オルドの意味がなくなることも多い。
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史実系の将軍候補は優秀なものも多いが、架空将軍ははっきりいって無能。能力のMAXは999なのに能力の平均は100にも届かない。
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ポーランドに登場する人材(在野武将)はなんと20世紀の人物。もう少し資料に当たってもよかったのではないか。
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ゲームの性格からいって仕方がない面もあるが、モンゴル編で裏切る可能性のある元族長以外の実在人物が、四駿四狗(チンギスハンの側近で軍事上の信頼が厚かった8人の臣下)や義兄弟など、チンギスハンの忠臣ばかりというのはさすがに違和感が…。
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実在人物の中でも特に四駿四狗たちはそろって優秀な人物揃い。彼らを使いこなせるかは完全にこのゲームの鍵になる。
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せめて後宮に空きがあってたくさん姫を産むことができれば…。
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彼らと同じくらい優秀だったはずのチンギスハンの4王子はなぜか彼らの能力の半分にも満たない。4王子の存在があるから姫が産めないわけで、難易度調整だと考えてもかなりシビアといえる。
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もう一点、世界編の主人公の一人、源頼朝は郎党には支持が厚かったが身内には裏切られ続けた人物で、親族が絶対に裏切らないという設定は無理がありすぎる。
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これらの点を踏まえると忠誠に関するシステムはもう少し練った方がよかったと思われる。
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PC版付属の小冊子の内容が井上靖『蒼き狼』の
パクリ
影響を受けすぎている。文体や台詞回しまで似ている。
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当時、モンゴルについては地理的にも政治的にも遠い国だったため、参考資料が不足していたのは致し方ないにしても『元朝秘史』とかの資料にもう少し(ry。
総評
後述するように、以降の光栄・コーエー作品にいろいろと影響を与えている。
プレイの自由度は高く、自由な戦略とさまざまな戦術を考案したり、実行できたりするのも本作の魅力である。
ただし、他の光栄の作品と違い、コマンド・能力・時代などにクセのあるところが多いので、万人向けとはいいがたく「歴史三部作」の中ではいまいちマイナーなシリーズではある。
しかし、現在でも熱狂的なファンが多く、ファンによるシリーズのHPも少なくない。
その後
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以降の光栄・コーエー作品に影響を与えた作品でもある。
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血縁武将の重要性は『信長の野望』『三國志』にも引き継がれる。さすがに「決して裏切らない」ということは無いが、はじめから忠誠度が高い・後継者にしたときのデメリットが少ないなどの特徴が継承されている。
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歩兵による伏兵や飛び道具による遠距離攻撃を採用したのも本作が始めてである。
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コマンド実行のたびに能力を消費するというシステムは「体力」「行動力」などという形で他の作品にも引き継がれた。
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強大な勢力からの脅迫は『水滸伝 天命の誓い』でも「賄賂の要求」という形で引き継がれた。
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一地方の統一後、より広範囲の世界が広がるというのは『戦国無双2 Empires』で復活した。
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後継者の育成は『大航海時代III』や『三國志』シリーズの一部に引き継がれる。
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悪い面では後から「完全版」を出すいわゆる「コーエー商法」のさきがけともいえる。
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iモードなどで携帯電話に配信されている。こちらはキャラクターのグラフィックが『IV』のものに差し替えられており、プレイヤーとしてジャムカ(モンゴル編)・フィリップ2世(世界編)なども選べるようになっている。
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PC98版は『コーエー25周年パックVol.3』に収録された後に『コーエー定番シリーズ』として単独販売された。
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現在は公式サイト「GAMECITY」でシブサワ・コウ35周年を記念した「シブサワ・コウ アーカイブス」にてSteam版を購入出来る。
余談
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日本では先述の続編通り「チンギス・ハーン」という呼称が最も一般的で「ハーン」は「Khan」なので「カーン」「カン」「ハン」といった表記ゆれはあるものの上の名前は「Chinggis」なので「チンギス」で統一されている。
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そもそも日本で一般的な「ジンギスカン」とは羊肉を使った鍋料理のことであり、中にはこれが「チンギス・ハーンが遠征にあたって陣中食としたもの」に由来したものと説かれることもあるが、実際はモンゴル料理とは程遠いため無理のある定説である。
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むしろ「チンギス・ハーン」=「ジンギスカン」で直接つながるのは西ドイツの男女混合のミュージシャングループ「ジンギスカン」だろう。とはいえ日本でジンギスカンが人気だったのはモスクワオリンピックの1980年前後であり、本作発売の1985年以降ともなれば日本ではすっかり過去の人でチンギス・ハーンを指してジインギスカンと呼称するのは極めてまれな例である。
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そのため一般的な「チンギス・ハーン」を使うのが自然と思われるが敢えて日本ではニッチな「ジンギスカン」を使ったあたり相当な愛着があったと思われる。
最終更新:2024年07月07日 20:29