DS電撃文庫ADV バッカーノ!
【でぃーえすでんげきぶんこあどべんちゃー ばっかーの!】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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ニンテンドーDS
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メディア
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1024MbitDSカード
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発売元
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メディアワークス
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開発元
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熱中日和
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発売日
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2008年2月28日
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定価
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4,800円(税抜)
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象)
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判定
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良作
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電撃文庫シリーズ
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ストーリー
1931年12月30日、シカゴ発ニューヨーク行きの列車「フライングプッシーフット号」は、この大時代な豪華特急が惨劇の舞台となる。
テロリストは自らの師を救うべく、黒服を纏い一等車両に乗り込んだ。
マフィアは己の快楽のために、白服を身につけ二等車両を選んだ。
不良集団は列車強盗を目的に、いつものボロ服で三等車両に乗った。
強盗カップルはニューヨークの友人に会うために、ガンマンと踊り子の格好で食堂車に居座った。
様々な思惑が絡み合い、盛大な
BACCANO!
が幕を開ける!
…そして、誰も気づかないうちに一つの怪物が列車の中にいた。
今はまだ眠れるその怪物の名は―――
線路の影をなぞる者
概要
電撃文庫シリーズの人気作品、『バッカーノ!』(成田良悟)を原作にとったアドベンチャー。
原作の内、『1931 鈍行編 The Grand Punk Railroad』『1931 特急編 The Grand Punk Railroad』を元にしている。
なお、タイトルから分かるとおりこの2冊は連作であり、実質1つの事件を描いている。
ただし、前後編という訳ではなく鈍行編で語られる事件と、特急編で語られる事件は同時進行しており、互いに複雑に絡み合っている。
ちなみに『DS電撃文庫シリーズ』とは同シリーズであるが、同記事で扱っていないのは他の作品が原作をそのままDSに移植した「サウンドノベル」であるのに対し、本作が選択肢による分岐を持つ完全な「アドベンチャー」であるため。
システム
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原作の特徴とも言えるのが、多数の登場人物により展開される「主人公のいない物語」であり、本作に中心となる語り手は存在しない。
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一応建前の主人公はパッケージ中心にも描かれている不良集団リーダー、「ジャグジー」なのだが彼もあくまでキーパーソンの一人に過ぎない。特に特急編ではジャグジー視点の話はほとんどなくなる。
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この独特の構造を再現するため、本作ではザッピングシステムを採用している。「時間」「車両」「人物」を選んで話を進めていくことになる。
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時間は、なにかしら事件の起きた時間のこと。本作では時間を遡ることもできる。
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車両は「フライングプッシーフット号」の各車両のこと。前方から順番に一等車、食堂車、二等車、三等車、貨物車、車掌室となっている。
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人物はその時間、その車両にいた人物である。選択肢によっては本来の話とは違う場所に違う人物が行くこともある。
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一度鈍行編を最後まで読むと、続けて特急編がプレイ可能になる。
評価点
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ボリュームが多い。
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原作単行本2冊分+各選択肢の先にあるエンディング+書き下ろしの特別編3編と非常にボリュームが多い。
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特別編は「小気味良い男編」「特Q編」「死亡勇戯編」の3編。「小気味良い男編」は事件の裏で起きていたとある2人の人物の邂逅を描いた物語。原作的にも結構重要なキャラクターの話である。
「特Q編」と「死亡勇戯編」は完全なギャグシナリオ。ちなみに「特Q編」は名前から分かるとおりクイズなのだが、これがまんま「ニューヨークに行きたいかー!」のアレである。いや、確かに目的地はニューヨークだが、そういう話じゃないだろ、コレ。
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ストーリーもハイクオリティ。
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成田の代表作の一つとして知られるだけあり、緊迫感のあふれるシーンの連続で物語にグイグイ引き込まれていく。
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鈍行編では明かされなかった謎が、特急編で見事に明かされる構成もすばらしい。まぁこの辺りは原作そのままなのだが。
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登場人物も魅力的である。
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また、原作にはなかった要素として「登場人物一覧」も搭載されている。元々多数の人物が入り乱れる話なので、登場人物の整理に役立つ。
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分岐後の派生も、非常に多彩。
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エンディングの総数は59種類。コンプリート目指すのも一興だろう。
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演出もよい。
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音楽は1930年代アメリカらしく、ジャズ中心。メインテーマは非常にノリのいいまさしく「バッカーノ!」らしい良曲。
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白服、黒服らにもそれぞれテーマ曲が用意されている。これらもイメージによく合っている。
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基本的にボイスはないが、「小気味良い男編」と「死亡勇戯編」はフルボイスである。
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また、各エンディングにはフィーロが解説(というかツッコミ)を入れるのだが、こちらもボイスあり。
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フルカラーのイラストも美麗。また、本作ではDSを横持ちし主に下画面で小説を読み進めるのだが、上画面には現在の会話の登場人物が表示されている。とにかく登場人物が多いので、会話者を把握しにくい本作ではありがたい要素。
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ザッピングシステムも面白い。
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というよりも純粋にタイムチャート機能としてありがたい存在。全体的に話の構造が複雑なので、「どの時間にどの人物がどの場所にいたか」ということがわかるのは原作既読者にも有益。
賛否両論点
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人を選ぶ描写多数。
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CERO:C(15歳以上対象)という時点で気づかれている方も多いだろうが、結構グロい描写は多い。耐性のない人は要注意。
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むしろ、よく15歳以上対象で済んだなというレベル。原作がライトノベルなのだからCERO:D(17歳以上対象)ぐらい食らってもおかしくないほどなのだが…。
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とりあえず、「人間おろし金」「赤い部屋」といった表現で嫌な予感を覚える人は避けた方が無難だろう。
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追加エンディングの多くがギャグエンド。
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一度特急編の最後まで読むと追加選択肢が多数登場し、新しいエンディングに行けるようになるのだが、そのほとんどが本編完全無視のコミカルなものになっている。
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中には世界観まで無視して同じ電撃文庫の時雨沢恵一の『学園キノ』から木乃がゲスト出演するという荒唐無稽なものもある。
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ちなみに同作者の『ヴぁんぷ!』からのゲスト出演もあるが、こちらは世界観が同じであることが明かされているので、木乃ほどとんでもなくはない…はず。
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面白いことは面白いのだが、人を選ぶことは確か。原作で明かされなかった事実の補完などを求めるとガッカリしてしまうだろう。
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左利きのプレイヤーはプレイしにくい
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電撃文庫という事もあってか、本を読むようにDSを横にしてプレイする事になる。そのときにタッチ画面が右にきてしまうので、左利きのプレイヤーの場合は、一度ペンを持ち直したりする必要がある。過去に発売されたゲームの中に、コンフィグで右利き用と左利き用で設定できるゲームも多かっただけに、このゲームに左利きに設定できるものが無かったのは人によってプレイしづらいと感じただろうか
問題点
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アドベンチャーとしては若干微妙な出来。
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基本的に本筋から外れた選択肢を選ぶと、ほぼ確実にそれ以上話が派生せず、なんらかのエンディングにたどりついてしまう。『修羅の門 (MD)』と違いゲームオーバーというわけではないが「原作単行本が攻略本」というのは近いものがある。
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随所に挟まれる「ムービータッチ」の存在意義が不明。
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要するにアクションシーンに読者を介入させよう、という趣向なのだろうが「タッチせよ」「スライドせよ」など単調なものばかりで、認識も悪い。また失敗すると即ゲームオーバーになり、そこから話が派生するわけでもない。
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ただ、失敗しても直前からやり直せるのでペナルティは軽い。…ますます存在意義は不明になってしまうが。
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システムの多くをDS電撃文庫シリーズから受け継いでしまっている。
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何が問題かというと、文字送りが遅い。選択肢を変えても終盤の展開が変わるだけでそこに至るまではほぼ同じ話、というポイントも多いのでかったるく感じてしまう。
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システム面では、「未選択の選択肢がある場所を一発で探してくれる機能」がないのもキツイ。
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「未読の文章がある場所を探してくれる機能」はあるのだが…。前述の特急編クリア後は既読の場所に多数の選択肢が追加されるので、探すのが大変。
総評
原作の完成度の高さもあり、一個の物語としての質は非常に高い。
純粋にアドベンチャーとして見るとひっかかる部分も多いが、極端なストレスになるほどではない。話を追うだけならさほど問題ないレベル。
総じて魅力的な作品であり、原作既読者、未読者どちらにも勧められる良作である。
余談
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完成度の高さ故か、出荷数が少なかったのか、それとももともと定価が若干高かったためか他の『DS電撃文庫シリーズ』に比べて値段が落ちていない。
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他の作品は500円程度で売られている店も多いが、本作は1000円を切っていることはほぼない。2000円近い値段も覚悟した方がいいだろう。これはDSのゲームとしてはやや高めの価格設定である。
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『バッカーノ!』単品でのゲーム化は本作が最初で最後になっている。
最終更新:2022年08月06日 16:00