名門!第三野球部
【めいもん だいさんやきゅうぶ】
ジャンル
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スポーツ(野球)
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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発売元
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バンダイ
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開発元
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ヒューマン
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発売日
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1989年8月8日
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定価
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5,800円(税別)
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プレイ人数
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1~2人
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判定
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シリーズファンから不評
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ポイント
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マガジン創刊30周年記念作品 ドラマチック野球のはずなのにドラマ性ゼロ 劣化版ファミスタ
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少年マガジンシリーズ
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概要
1989年8月に発売されたファミコンソフトの野球ゲーム。少年マガジン創刊30周年を記念して制作された。
原作「名門!第三野球部」は、むつ利之によって描かれ少年マガジンで連載されていた野球漫画作品で、本作はそのタイアップとなる。
連載開始は1987年も終わる頃の第47号、翌1988年10月22日にアニメが放送された。
原作は、主人公・檜あすなろを中心とした名門桜高校の三軍、「第三野球部」が「ダメな補欠の集まりで名門校の邪魔者」というレッテルを跳ね返し、野球愛から努力と根性でどん底から這い上がっていくストーリーになっている。
当時はまだ連載開始から1年9か月程度で、チームメイトが揃ってきてやっと甲子園出場を決めた時期である。
特徴
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ゲームモードは単戦の「1Pモード」「2Pモード」とストーリーモード的な扱いの「ドラマチックモード」がある。
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「1Pモード」「2Pモード」はフリープレイのモードで、甲子園大会で対戦する7校(決勝の「まかしん高校」以外)と桜高校で自由に選ぶことができる。同校戦はできない。
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試合の形式。
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試合は、延長は無制限でコールドもないという高校野球らしからぬルールで行われる。
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滅多にないがエンタイトルツーベースが実装されている。
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打順オーダーの変更が可能。この頃の野球ゲームには搭載されていることが多かった。
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盗塁でのリード距離はBボタンの長押しで自由に決められる(放すと戻る)。
ドラマチックモード
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本作の中核とも言えるモード。説明書によれば「単なる野球ゲームでは物足りない。もっと感動と興奮を!」というコンセプトで「主人公・檜あすなろになりきってストーリーを展開する」モードということだが…上記の通り、当時は原作が進んでいなかったので、甲子園以降はオリジナル展開である。
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試合ごとにパスワードが発行されるので、これにより中断が可能。
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典型的な野球ゲームをベースに試合間にストーリーパート、特訓パートが挟まれる。
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試合中はキャラの顔アップが画面上部に表示される。表情も変わり、その間に打者目線で投げられたボールが近づいてくる描写がある。
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一部の試合で負けた後は特訓して再試合となる。
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作中で対戦したライバルは一軍と「銚子工業高校」「浅加学院」「黒潮商業高校」の3校。
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甲子園大会で対戦する順番は「せいせい高校(東東京)」「ばんた芸能高校(千葉)」「つばめ学園(神奈川)」「よしもと高校(大阪)」「きょにん高校(西東京)」「なかにち学院(愛知)」「ところ商業高校(埼玉)」「まかしん高校(不明)」となっているが、プロ野球のファンならひと目ですぐわかるだろう。
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プロモデルの4校は、つばめ学園=ヤクルトスワローズ(セ・リーグ4位)、きょにん高校=読売ジャイアンツ(セ・リーグ2位)、なかにち学院=中日ドラゴンズ(セ・リーグ優勝)、ところ商業高校=西武ライオンズ(パ・リーグ優勝、日本一)と、この通り律義に前年の結果そのままに並んでいる。
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せいせい高校は原作で登場した「聖誓高校」ではなく、「あいこん(ロッテの愛甲猛)」など上記4球団以外の東日本球団から寄せ集めたもので、「こんせ(大洋のカルロス・ポンセ)」「いすら(日本ハムのマイク・イースラー)」など外人選手も混じっている。
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「よしもと高校」は大阪代表ということで阪神モデルかと思いきや、それだけでなく上記4球団以外の西日本球団からの寄せ集めになっており、こちらも「ぶらい(近鉄のラルフ・ブライアント)」など外国人が混じっている。西日本球界の看板阪神ではなく広島の選手が多いのは対象の球団でセ・リーグ最上位(3位)だからだろうか?
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「ばんた芸能高校」は「けいすけ(ザザンオールスターズの桑田佳祐)」や「きよしろ(忌野清志郎)」といったミュージシャンで構成されている。
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「まかしん高校」は講談社の週刊少年マガジンキャラの集まりで、「おそ松くん」のイヤミ、「コータローまかりとおる!」の新堂功太郎、「あしたのジョー」の矢吹丈などがいる。
問題点
原作ファンに不評な要素が多い
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特殊なステータスや技などもないただの平凡な野球ゲームでしかなく台詞と顔グラがあるとはいえ原作の見所がシステムで再現されていない上、ストーリーゲーとしても出来は良くない。その注力度合いの低さが露呈しており「ドラマチック」とは程遠い。
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先述の通り、ある程度オリジナルな展開とするのは仕方ないにしても、作中で登場したライバル3校以外と桜高一軍以外はかなり無理矢理なチームで雑すぎる感が否めない。
マガジンキャラの寄せ集めチーム「まかしん高校」は一応、マガジン30周年記念作品ということでゲスト的に特例出演ということでまだ納得はいくが、他7校中6校は当時のプロ野球選手をもじって無理矢理入れただけ。しかも揃いも揃ってもじった名前になっているので、おかしな響きが付きまとう。
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特に中日モデルの「なかにち学院」は選手がみんな「○○りん」とふざけているとしか思えない名前で「感動と興奮」どころか一層マヌケなイメージを強めている。甲子園出場という一つの目的を達成したとたんに、このようなマヌケな相手との試合ではムードもブチ壊し。
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原作再現度に関しても、オープニングこそそれなりに再現できているものの、原作であった『海堂と鬼頭監督の確執』や、それにまつわる『鬼頭監督の苦悩』などドラマチックでバックボーンを描く場面が大分端折られてしまっており、ほぼないに等しい。
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最初の一軍との練習試合は「負けたら解散」という条件で行われる。この点は原作もゲームでも同じなのだが、原作では『第三野球部は負けたものの、その健闘を鬼頭監督や見ていた桜高生徒から讃えられ解散を一旦免れる。後日一軍から再試合を申し込まれ、今度こそ勝って一軍の座をつかみ取った』と言う流れだったのに、ゲームでは『最初の試合に負ければ即ゲームオーバー』であり、勝たないと話が進まない。原作再現のために負けた場合でも、ストーリーを進められるようにできなかったものだろうか。
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一軍のエース京本(とそのバッテリー桜井)の加入にも、原作だと熱いエピソードがあるのだがゲームでは全てカット。二度目の一軍戦の後ドラマもクソもなくしれっと控えに入っている。
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特に甲子園に出場してからは「とうとう○○に勝った」から次の学校の特徴を適当に言うばかりの一本調子で、一層ドラマ性のないものになる。しかも監督が話す相手校特徴も「ばんた芸能高校」のように妙にふざけたものもある。更に展開の分岐も勝ったら「次の相手と戦う」、負ければ「特訓を介して再試合」または「ゲームオーバー」と、それだけでしかない。
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当時コールドゲームの仕様を取り入れていた野球ゲームは多かったにもかかわらず、本作では搭載されていない。
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それだけならまだ批判にはあたらないのだが、原作ではコールドゲームありきで高校野球が描かれているのである。最初の一軍との試合は『10点差がつけばコールドルール』で行われている。「初回で10失点しコールドのピンチだったのを、ウラのイニングで2点取ってひとまずは免れた」という展開があり、ストーリー上でも大事な部分なのに何故か取り入れられていない。その後もダイジェストながら「第三野球部がコールド勝ち」した試合も描写されており、一軍戦1回だけの要素でもないのである。
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本来、最初の一軍との練習試合では人数が足りず夕子が出ていたのだが、ゲームでは最初から達郎が入っている。
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もっともこれは、1試合だけのために女の子のグラを用意しなければならないことを考えると仕方ないのかもしれないが、「ばんた芸能高校」には女性がモデルの「のつこ(「レベッカ」のボーカル「NOKKO」)」もいるので、この2人のために女性型のキャラグラがあっても決して悪くなかったであろう。または汎用グラのままでも夕子ぐらいは出せそうなものだが、それもしていない。
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当時は容量削減は避けて通れず、使用する文字の節約は必須の時代だったが、拗音はひらがなの「っ」と「きょ」(京本などに使われる)のみと必要最低限な文字すらカットしている。
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そのため「ヒット」も「ヒツト」、「デッドボール」が「デツトボール」、「野球」も「やきゆう」などとなってしまっている。
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試合中のキャラの台詞についても、個性がなく適当な使い回しが目立ち作り込まれていない。
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試合中の台詞も、展開と合っていない台詞が平然と出たり、原作での名台詞も少ない。
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例えばフォアボールやデッドボールを立て続けに出しても「ちようしがいいようだな。」(調子がいいようだな)などと言ったりもする。
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また、あすなろや桑本に「オレだってヒツトぐらいうってやる」と一人称が「オレ」の台詞を使い回したりと、取り込み自体いい加減。
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結局のところ、原作の魅力など微塵も伝わらず、劣化版ファミスタでしかない。
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フリープレイの「1Pモード」「2Pモード」では原作相手との対戦ができない。
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しかも、決勝の「まかしん高校」も使えない。30周年記念作品なのに、その目玉ともいうべきチームと対戦できないのは流石に残念。
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その上1試合して、結果に伴うイベントなどもなく、ゲームセットのスコアボードからそのまま機械的にプレタイトルに戻るだけというのは少々寂しい。
その他の問題点
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BGMが盛り上がりに欠ける。
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他の野球ゲームのようにランナーが出たり得点圏に進んでも変わることもなく、最初から最後まで同じ曲が流れる。
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バント以外で内野ゴロや内野フライを落とすと、フォースアウトが無効になるバグがある。
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CPUの守備がお粗末であり、
バントをすれば大抵内野安打に出来てしまうので、幾らでも大量得点出来てしまう。
これは当時のファミリーコンピュータMagazineでも攻略法として紹介されていた。
評価点
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野球ゲームとしてはそれなりに無難な出来
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操作性も悪くなく、投げて打って取る…という基本的なところは快適。普通に遊べる。
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ドラマチックモードの一部演出は評価できる点もある
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上記の通り、原作再現ということを考えると雑な点が目立つが、野球ゲームの打席画面で上部に敵味方の顔グラや投球グラフィックが入る点は、時代を考えるとかなり頑張っている。
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投手が疲れてくると汗をかいて息を乱す顔グラフィックにちゃんと変わる。球威が落ち始めてくるのが分かるので、ピンチ(またはチャンス)を理解しやすい。
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台詞についてもかなり簡易的ではあるが、台詞を見てから球を投げ、それを打つ事を考えるとこれくらいが無難な内容と言える。
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オープニングは原作再現度として及第点レベル。
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桜高校の選手面々のグラフィックはそこそこ特徴を捉えて描かれている。
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「ばんた芸能高校」のようなミュージシャン球団というのは当時も今でも珍しいし、マガジンキャラ集合チームの「まかしん高校」は一応マガジン創刊30周年として存在自体は悪くない。
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ただ、せっかくの野球ゲームなのに『巨人の星』の星飛雄馬は含まれていない。
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マルチゲームオーバー。
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一軍との最初の練習試合に負けた場合は自分たちの力のなさに涙して終わり。甲子園で負けた場合は悔し涙を流すも夕子に慰められて来年を目指すという二通りが用意されている。
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こういった部分はストーリー性を大事にしていると言ってもいい。
総評
原作のストックがあまりない状態でのゲーム化ということもあって、当時の人気ゲームであるファミスタに「名門!第三野球部」のガワを被せ、30周年記念としてマガジンキャラが登場するチームがある…というゲームとなっている。
当時まだ数試合しかなかった原作でも1試合の中に見せ場や名台詞はいっぱいあったが、それらの再現もろくになくストーリーも名場面の取り込みがプロローグ以外まったくない。ドラマチックという謳い文句には程遠い出来。
野球ゲームとしてはプレーに支障をきたすような致命的欠陥はなく一通り遊ぶのに支障はないものの、BGMも1つしかなくあまり名曲でもない、ピンチやチャンスで変化することもないなど、完成度は当時の野球ゲームの中でも一枚劣るものと言わざるを得ない。
せっかくの30周年記念作品、名門!第三野球部のゲーム化作品としては全体的に残念な出来となってしまっている。
余談
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原作は結果的に1993年25号まで連載が続き約5年半以上にもわたる長期連載となった。
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しかしアニメはそれから1年も満たない間に始まり、更に本作はそれから1年満たない間に発売された。これらを見る限りマルチ展開の一環としてかなり急いで制作された様子。
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更に本作の場合、原作の試合内容は延長の果ての勝利が多く1試合にかかる時間が非常に長かった。そのため、キャラや試合のストックの乏しさが特に顕著になってしまった。
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翌年の3月にアーケードで『あしたのジョー』が登場するのだが、本作で「まかしん高校」のメンバーで力石徹と矢吹丈が出ている。
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言うまでもなく名前だけなので、正式に登場しているとは言えないかもしれないが…一応形式だけなら正式なゲームに先んじての登場に違いない。
最終更新:2024年07月27日 15:15