千代の富士の大銀杏
【ちよのふじのおおいちょう】
ジャンル
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スポーツ(相撲)
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2MbitROMカートリッジ
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発売元
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フェイス
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開発元
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ARC
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発売日
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1990年12月7日
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定価
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5,800円(税別)
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プレイ人数
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1~2人
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判定
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なし
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ポイント
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つっぱり大相撲の
類似品
進化形 おとぼけはあれど硬派なゲーム
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概要
スーパーファミコン発売の翌月、ファミコン末期にあたる1990年12月に発売された対戦型相撲ゲーム。
主人公は一介の幕内力士となり、15日間の取組をこなしながら稽古を重ね、横綱昇進を目指して奮闘する。
タイトルに冠している通り、当時現役であった第58代横綱・千代の富士も番付に名を連ねているが、通常のモードでは千代の富士を操作するわけではなく、実質的なラスボスとしての存在となる。
取組シーンの見た目や操作体系から既に存在した相撲ゲーム、特に『つっぱり大相撲』との類似がしばしば指摘されるが、「まわし」「気力」システムの追加や、決まり手におふざけが無いなどの差別化はなされている。
システム
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ゲームの目的
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横綱に昇進するとエンディングとなる。昇進条件は「大関であるときに14勝以上を連続2回」。
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ちなみに現実の相撲においては「2場所連続で優勝またはそれに準ずる成績」を昇進判断の目安としている。上記の条件は勝ち数で判断している分それよりも厳しめだが、当時の大相撲の状況を鑑みれば不自然な基準ではない。
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「しょうしん」もーど
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横綱を目指して取組を続ける通常のモード。
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「かんたん まくした もーど」と「むずい? せきとり もーど」の2つの難易度があり、初期パラメータに影響する。
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名称こそ「幕下」「関取」だが、いずれも幕内・前頭14枚目からのスタートとなる。
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また、十両への降格はなく、最低番付は前頭14枚目で固定。他の力士の番付も少量変動するが、十両力士との入れ替えはない。
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コンティニューはパスワード制(平仮名25文字)。
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「たいせん」もーど
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2Pやコンピュータと勝負を行える簡易的な対戦用モード。
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初めに両者は5名ずつの力士を好きに選び、任意の順番で戦わせる。勝ち越したプレイヤーが勝利となる。
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なお、「しょうしん」「たいせん」いずれも、全ての取組をコンピュータに行わせる「かんせん」システムが実装されている。
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まわし・体力・気力
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取組中は常に、画面下部に「手の形のアイコン×2個」「気力ゲージ」「体力ゲージ」が表示されている。
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本作では相手と組んだ姿勢になっただけでは十分にまわしを掴んでいることにはならず、組んでから専用の操作「まわしがぶり(右+B)」を行う必要がある。
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まわしを掴めていないと吊りなど一部の技は出すことができない。
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気力ゲージは下ボタンを長押しすることで上昇する。ボタンを押していない間は時間経過で減少するほか、相手の技を食らった際に大幅に減少する。
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また、下ボタンを押し続けて最大値を超えると、ループして最小値に戻る。
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体力ゲージはパラメータに応じた固定値であり、これも時間経過で減少するが、取組中に回復する手段はない。
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この気力と体力の量に応じて技の決まりやすさが判定されるため、総合すると、「まわしの状態」「気力ゲージの確保」「長期戦を防ぐ対応」を考慮することになる。
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パラメータと稽古
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主人公を含む全ての力士には「たいりょく」「わんりょく」「あしこし」「すぴーど」「たいじゅう」のパラメータが設定されている。
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「たいりょく」は前述の体力ゲージに反映されるほか、他のパラメータは技の決まりやすさや、反対に技を食らった際の負けにくさに影響する。
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例えば「わんりょく」が高いと投げ技を決めやすくなるし、「たいじゅう」が高いと相手に投げられてもつまずくだけで負けずに済むことが多くなる。
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15日間の取組(1場所分)を終えると、稽古メニューの選択画面となる。
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「ちよのふじとけいこ」:千代の富士に稽古をつけてもらう。ここでの千代の富士はかなり弱めに設定されており、倒すまでの早さに応じて「たいりょく」が増加する。
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「10にんぬき」:雑魚力士10人と連続で相撲を取り、撃破人数に応じて「あしこし」が増加。
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「てっぽうおし」:ABボタンを交互に連打してテッポウを行う。制限時間内に押下した回数に応じて「わんりょく」が増加。
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「たわらとり」:画面上部のランダムな位置から降ってくる俵をキャッチし、その数に応じて「すぴーど」が増加。
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「ちゃんこ」:下ボタン連打でちゃんこを食べまくり、制限時間内に食べた量に応じて「たいじゅう」が増加。
評価点
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従来の相撲ゲームと比較してコマンドが進化している
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『つっぱり大相撲』等では無かった「まわし」の概念があるため、組んでから投げや吊りに至るまでにワンクッションのプロセスが存在する。
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まわしを掴むのはチャンスである一方、反対に相手からまわしを掴まれると攻撃機会を与えてしまう。そのため「わんりょく」が高く「あしこし」の低い相手なら、まわしの攻防に至る前にあえてつっぱりで突き放し、向かってきたところをはたきで処理するといった、実際の相撲に近い戦略をとることができる。
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対人においても、得てしてレバガチャになりやすい相撲ゲームに多少のプレイテクニックの介入余地を与えているといえる。
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また『つっぱり大相撲』にはない「けたぐり」コマンドがあるのも小さなこだわりとして評価できる。
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力士に顔画像がある
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全力士に正面顔のグラフィックがあり、取組中にセレクトボタンを押下し、パラメータ画面に遷移することで確認できる。
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もちろん主人公にも設定でき、目眉セット22種、鼻10種、口14種からそれぞれパーツを選んでエディット可能。
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難易度が分かれている
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スポーツゲームでは珍しく、2種の難易度が用意されている。
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EASYにあたる幕下モードは、主人公の初期パラメータが関取モードの倍近く違うため、かなりサクサク進めることが可能。
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併せて横綱昇進条件も、14勝以上2回が連続でなくても良いよう緩和されている。
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また幕下モードでは横綱昇進しても、千代の富士から「関取モードで昇進しないと真の横綱とは言えんぞ」と叱咤されるノーマルエンドのような扱いとなっているため、関取モードがただの高難度モードではなく真エンドのための目的として活かされている。
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他の力士の取組を観戦することができる
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自分以外の取組について、1番ごとにスキップするか観戦するかを選ぶことができる。
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観戦の際は等速・早送りも選択できるため、手早く相撲観戦の気分を味わうことが可能。
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本作では自分と千代の富士以外は実在力士のパロディとなっているため、発売当時は本物になぞらえて観るのも一興だった。
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また、取組観戦中はセレクトボタンでその力士のパラメータを参照できるので、データ確認の意味でも有用な機能となっている。
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1番ずつ選択するのが手間という場合は、1日の最初に「ほかの しあいを みない」を選べば一括スキップもできる。ユーザビリティに優れた設計といえる。
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行司が合成音声でしゃべる
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取組の開始時に「ハッケヨーイ、ノコッタ!」という音声が、ファミコンとしてはかなり明瞭な音質で再生される。
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当時既にPCエンジンCD-ROM2が存在していたとはいえ、ゲームから日本語のボイスが発声されるというのはまだ物珍しく、本作の特徴のひとつとなっている。
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ちなみに余談ではあるが、実際の大相撲では行司が取組の開始を合図するわけではない。両力士がタイミングを合わせて立ちさえすれば成立し、「はっけよいのこった」と発言するのは進行中である。
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本作に限らず現実でもありがちな勘違いだが、そもそも「試合の開始のタイミングを当事者が決めて良い」ということ自体スポーツや対戦ゲームでは特殊なので、特にコンピュータゲームにおいては現挙動でも問題はないだろう。
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BGMの雰囲気が地味に良い
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マイナーメーカーの単発スポーツゲームということもあって評価されにくいが、BGMのクオリティが良好。
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民謡・演歌に見られる定番の「ヨナ抜き音階」を用いながら、フレーズ間の気の利いた合いの手や、あえてベースとノイズのドラム音だけにする抜きの部分がバランス良く配されており、妙にこなれている。
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取組中の楽曲が3曲あるのも良い。15戦で1場所という単位だとどうしても同じ曲だと飽きが来やすいが、メリハリに貢献している。
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ファミコンのゲームにおいては同じ場面なのに楽曲が複数あるということ自体が珍しいので、それも評価できる点である。
賛否両論点
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決まり手におふざけや派手さがない
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勝敗は、寄り・押し、投げ、はたきなどによってごく普通に土俵外に出るか倒れるかによってのみ決まり、『つっぱり大相撲』の「ぶれえんばすたあ」や「もろだし」のようなネタ技は存在しない。
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投げられた力士が頭から土俵にめりこみ両脚をピクつかせる程度のコミカル表現はあるものの、『SDバトル大相撲 平成ヒーロー場所』のような豪快な飛び方をするわけでもなく、全体的にファミコンの相撲ゲームとしては演出が地味である。
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しかし裏を返せばそれでこそ正当な相撲ゲームであり、派手な演出やネタに頼らない、パラメータ育成とボタン入力の応酬による面白さのみを追求した質実剛健な作りであるとも言える。
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よくも悪くも『つっぱり大相撲』と比較できる部分が多い
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キャラクターの大きさ、全体的な色味、観客の描画などなど、既存の相撲ゲームとほとんど見た目が同じである。
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相撲ゲームを作るにあたり、当時の技術的に土俵を横から見た視点以外に作りようがないとはいえ、まわしと気力によるUIの違い以外は「天幕の色が違う」くらいしか異なる点がない。
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また、上記の通りおふざけは少ないものの、「しこ名が実在力士のパロディ」「投げで負けた方は頭部が土俵にめりこむ」「たいせんモードの勝者発表時、必ず表示されている力士のうち1名がコケる」など半端にコミカルな演出が仕込まれている面もあり、しばしば「『つっぱり大相撲』のパクリ・劣化ゲー」という評価を下されている。
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実際、名前に使える文字種が少ない(つっぱり:55種類 千代の富士:35種類)など一部劣っている要素はある。
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しかし、それゆえに画面要素の理解や操作習熟に困ることはなく、また前述したシステムや操作の差別化を感じやすいようになっている。
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見た目でパクリと見なされやすいが、プレイしてみると過去の相撲ベースを参考にしつつもオリジナリティを取り入れた手堅い作りになっている、という点で一長一短なコンセプトである。
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ちなみにしこ名のパロディについては本作の方が直接的である。
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例えば『つっぱり大相撲』では百代富士(千代の富士)、満潮(朝潮)、黒天竜(北天佑)など複数の読み違えや字義からの連想を絡めた名付けになっているが、本作は巨錦(小錦)、逆横(逆鉾)、頭戸(柏戸)、高ノ花(貴ノ花)のような安易な読み違えが多い。寧ろ高ノ花に至っては、それはそれで初代貴ノ花の活躍時期より50年前に実在した力士なので、パロディが成立していない。
問題点
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決まり手が表示されない
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他の相撲ゲームでは付き物となる(それこそ『SDバトル大相撲』ですら存在する)決まり手表示が無い。
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要は「おしだし」や「よりきり」といった、勝負の決め手となった技が出てこない。
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無くてもプレイ自体に支障はないのだが、雰囲気作りという面では不足といえる要素だろう。
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難易度の名称が適切でない
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システム項に記載の通り、番付が幕内のみであるにもかかわらず難易度が「幕下モード」「関取モード」との名称であるためまぎらわしい。
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まず相撲にはおおまかに「(下位)序の口<序二段<三段目<幕下<十両<幕内(上位)」と階級が分かれている。つまり「幕下モードで幕内力士を操作する」というのは意味の通らない表現ということになる。
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「関取」も幕内~十両力士を指す言葉であるため、やはり話がややこしくなる。
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別ジャンルに例えるなら、J1チームしか取り扱わないサッカーゲームの難易度が「J2モード」「J1モード」だったり、高校を舞台にした恋愛シミュレーションの難易度が「小学生モード」「中高生モード」となっているようなものである。
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要は安易に相撲用語になぞらえた難易度名称にしたせいで、実情と合わなくなってしまっている。
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パスワードがやや長めの25文字
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『つっぱり大相撲』16文字、『寺尾のどすこい大相撲』18文字に対し、本作のパスワードは25文字。
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無論、RPGを中心により長いパスワードは当時存在しており、ファミコン全体で見れば25文字というのはごく普通の範囲ではある。しかし既存の相撲ゲームとそう変わらないゲーム内容なため、それらと比較すると無駄に長く感じやすい。
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しかも濁点・半濁点の文字にも対応しているため、写し間違いに気付いても誤った文字がどれなのかアタリをつけにくい。
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電源ON時に全く千代の富士に似ていない人物が表示される
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本作は電源をつけると鼓の音を模したリズミカルなSEと共に、化粧まわしとしめ縄を付けた力士の立ち姿が表示される。
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が、これがどこからどう見ても千代の富士ではない。顔のパーツはどれも特徴を捉えておらず、輪郭はしもぶくれで、何より本人とは似ても似つかない太鼓腹。最早、半裸で髷を結っている以外の共通点がなく、似ていないというより普通に別の人である。
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どちらかといえば、千代の富士と同時期に活躍した大乃国に似ている。
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一方、ゲーム内で使われる顔グラフィックはそこそこ千代の富士に似ている。
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が、しこ名が全て「千代ノ富士」と3文字目がカタカナ表記になっており、結局のところ別人である。
総評
大横綱の名を冠していながら、発売時期の遅さとメーカーのマイナーさからか知名度の少ない一作。
更に画面構成が災いし、インターネット黎明期にはレトロゲームサイトにパクリ・劣化ゲーとこきおろされることも多かった不遇の作品だが、実際には地味ながら手堅くまとまった、いぶし銀の魅力を持つゲームといえる。
余談
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発売時期は既に千代の富士の力士生活において最晩年であり、発売から5か月後の91年夏場所を以て「体力の限界。気力もなくなり引退することになりました」とのコメントと共に土俵を去った。
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但し、最後の優勝となる九州場所の翌月の発売ということを加味すると、ある意味ベストな時期だったと言える。
最終更新:2023年03月31日 17:57