春ゆきてレトロチカ

【はるゆきてれとろちか】

ジャンル ミステリアドベンチャー


対応機種 Nintendo Switch
プレイステーション5
プレイステーション4
Windows(Steam)
iOS/Android
発売元 スクウェア・エニックス
開発元 ハ・ン・ド
発売日 【Switch/PS5/PS4】2022年5月12日
【Steam】2022年5月13日
【iOS/Android】2023年4月25日
プレイ人数 1人
定価 【Switch/PS5/PS4/Steam】7,480円
【iOS/Android】3,000円
レーティング CERO:B(12才以上対象)
判定 良作
ポイント 実写アドベンチャーゲーム
本当の意味でムービーゲー
俳優陣の好演
巧みな伏線
難易度は低め


概要

キングダム ハーツ 358/2 Days』や『新すばらしきこのせかい』を手掛けたハ・ン・ドによる実写を使用した推理型のアドベンチャーゲーム。プレイヤーはミステリー小説家河々見はるかの視点から、昭和を思い起こす旧家・四十万家にて起こった殺人事件、それにまつわる不老の果実「トキジクノカクノコノミ(以下トキジク)」を巡る100年に渡る謎に挑む。
プロデューサーは『BABYLON'S FALL』や共同プロデューサーとして『NieR:Automata』を務めた江原純一氏、ディレクターは『428 ~封鎖された渋谷で~』、『TRICK×LOGIC』、『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』のシナリオとゲームデザインを務めた伊東幸一郎氏がそれぞれ担当している。

あらすじ

令和4(2022)年、春。

ミステリ小説家の河々見(かがみ)はるかは、

科学者の四十間(しじま)永司の依頼を受け、

編集者の山瀬明里とともに、

富士山麓にある永司の実家、四十間邸を訪れる。

永司の依頼は、桜の下で見つかった白骨死体の

正体究明と、四十間邸に眠ると言われる“不老の果実”の捜索。

大真面目に語る永司と、半信半疑のはるか。

そんなはるかに明里が一冊の古書を差し出す。

そこに掲載されていたのは永司の先祖、四十間佳乃が書いた

“不老の果実”をめぐる、百年前のある物語。

それは小説の体裁をとった、実際に起こった殺人事件だという。

古書を読み終え、事件の謎を解き明かしたのも束の間。

はるかの目の前で四十間家を揺るがす殺人事件が起きた…

(公式サイトより)

特徴

  • ゲームは章仕立てであり、章ごとに問題編・推理編・解決編の3つのパートに分かれている。
    • 問題編はムービーがメインであり、各章の主人公の視点から事件を体験する。 たまに選択肢がでるが、基本的には展開に影響を及ぼさない。
      • 事件の概要や登場人物の情報などはいつでも確認可能なほか、事件の鍵となる言動は「手がかり」として機種ごとに対応したボタンを押すことで入手できる。
    • 推理編は主人公の思想空間内で、「謎」と「手がかり」を組み合わせて「仮説」を作る。
      • 全ての組み合わせをする必要はなく、ある程度「仮説」を作ったところで推理を終えることもできる。 当然ながら「仮説」がすべて正しいとは限らず、むしろフェイクの「仮説」の方が多い。
      • 解決編へ向かう前に推理のまとめをすることもできる。作り上げた「仮説」に対して各章の相棒がコメントをする。
    • 解決編は推理編で作り上げた「仮説」を突きつけ、真相を暴く。
      • 間違った「仮説」を選ぶと推理失敗となりゲームオーバーとなる。必要な「仮説」が足りない場合は推理パートに戻り、新たな「仮説」を作る必要がある。
      • ゲームオーバーになった際は「天啓(いわゆるヒント)」に頼ることもできるが、各章クリア後の総合評価が大きく下がる。
  • マルチロールシステム
    • 今作はメインの舞台となる2022年のほか、1922年と1972年に起こった事件を体験することになるが、その方法が「事件をもとにした小説を読んだはるかが、身近な人物を小説の登場人物に当てはめて想像する。」というもの。そのため、一人の役者が複数の人物を演じている。

評価点

  • ミステリーのツボを押さえたストーリー
    • 旧家で起こった殺人事件、四十間家に伝わる風習とそこに隠された真実、事件の陰に常に存在する謎の人物「赤椿」の正体、ある人物と別の人物の意外な関係といった謎が全編を通じて伏線を張りつつ展開していく。
    • 最終的には全ての伏線が綺麗に消化され、一つの物語としてしっかりと完結する。
      • また、伏線の貼り方も「登場人物のさりげない動作や発言」といったものが多く、実写であることを最大限に生かしている。
  • クオリティの高い映像
    • 本職の映画監督を起用していることもあってか、セットやカメラワークなども非常に凝っており、物語への没入感は随一。荒唐無稽な不老の設定や四十間家の人々らが、あたかも実在するようなリアリティを演出している。
    • 「仮説」で流れるCGジオラマも動きが自然で分かりやすく、推理の分かりやすさにも繋がっている。コミカルに思えるような仮説もきっちり再現していたりと、芸が細かい。
  • 解決編の分岐の豊富さ
    • 解決編では、間違いの選択肢を選ぶとゲームオーバーとなるが、選択肢ごとにほぼ全て実写ムービーが用意されている。
    • はるかが周囲に論理の不備を指摘され、すっとぼけたり逆ギレしたりする様子がコミカルに描かれているものもあり、ミスをしても楽しめるような作りになっている。
  • ミステリーとしてフェアな謎解き
    • 今作は「不老」がテーマの一つであり、実際作中には不老と思わしき人物も登場する。 しかしファンタジー要素はそれぐらいであり、事件の謎やトリックは現実の物理法則に基づいている。そのため、手がかりをもとに仮説を組み立て、論理的に考えていけば必ず真相にたどり着ける。
  • 俳優陣の好演
    • 今作はストーリーの構成上、「全く性格の違う人物を同じ役者が演じる」必要があるため、役者には高い演技力が求められる。それを今作の俳優陣は見事にこなしている。
      • メインキャストの多くが一人二役以上を演じ分け、池内万作氏と佐野岳氏にいたっては一人四役をこなしている。
    • また、榎木孝明氏、梶裕貴氏、麻倉もも氏、香川愛生氏などは一役のみだが、それぞれ印象的な演技をこなしている。
      • 特に梶氏は進撃の巨人のエレン・イェーガー役など多くのアニメやゲームでメインキャラを務めた人気声優だが、今作では探偵・西毬真琴*1を名乗る胡散臭さ全開の男を演じ、氏を知るプレイヤーに強い印象を残した。
    • さらに…
      + ネタばれ注意 マルチロールシステムはあくまで過去の人物を身近な人物に置き換えたもの、つまり見た目が同じでも全くの別人なのだが、このことを逆手に取ったミスリードや伏線も存在する。詳細はプレイして確かめてほしい。
  • 印象的なBGM
    • 今作の音楽プロデューサーは『リーガル・ハイ』や『僕のヒーローアカデミア』などを手掛けた林ゆうき氏。派手さこそないものの、主題歌『漂流する果実』を始めに情緒的なものが多く、ゲームの世界に浸らせてくれる。
    • 『流れゆく時』や『エニグマ』のように令和・大正・昭和と三つの時代に合わせてアレンジされた楽曲もある。
  • (iOS/Android版のみ)柔軟なデータダウンロード対応
    • 章ごとのゲームダウンロードおよび削除に対応している。全てをダウンロードするとおよそ15Gほどとなるが、プレイするのみのデータを有していればよいため、容量がカツカツになりがちなスマートフォンには嬉しい配慮。
    • ダウンロードしながらのゲームプレイにも対応している。

賛否両論点

  • 難易度が低い
    • 今作のゲームオーバー条件は推理パートでの選択ミスのみ。また、その際に「天啓」を使うとほとんど答え同然のムービーが流れるため、ゲームに詰まる可能性はほとんどない。
  • 反面、全章クリア後の総合評価Sを目指すと意外と難易度は高い。というのも、一度でも選択肢を間違えるとA評価になるため。
    • もっとも、総合評価Sを会得しても特にメリットはなく、ただの自己満足でしかない。トロフィーにも影響しない。
  • 第五章の仕様
    • 今作では前述した通り、「章ごとに発生する事件に対し推理を行い解決する事で真相を導く」のが基本的なルーチンとなっているのだが、その中でも第五章は全く別の内容が展開される。
      + ネタバレのため折りたたみ
    • 第五章は推理パートではなく脱出パートがメインとなっている。
      • 監禁されたとある場所でヒントや道具を探り、推理することで脱出を行うというもの。この内容自体がミニゲーム形式になっている。
      • 脱出パートの存在は事前の説明も無ければ公式サイトにもそのような情報は無く、脱出劇が始まるまでのストーリーもやや急展開であることから唐突に始まる印象を受けやすい。
      • 脱出パート自体は専門のスタッフが作っていることもあり完成度は高い。チュートリアルもありシステム自体もそこまで複雑ではなく難易度も低いため、慣れていないプレイヤーでも楽しめるように作られている。
      • とはいえプレイヤーによっては「これまで推理をやってたのにいきなり脱出ゲームをやらされる」という印象を感じやすく、このパート自体の評価が大きく分かれている。

問題点

  • 全体的にテンポが悪い。
    • 推理編では、仮説を作った際にジオラマ動画で事件が再現されることがあるが、「逆再生→ワンテンポ置いて再生」という過程となっている。中盤以降は仮説の量も多くなるため、地味に時間がかかる。
    • また、推理編では「鍵」と「手がかり」を組み合わせて「仮説」を作るのだが、中盤以降は「手がかり」の数が多くなるため、やはり時間がかかる上に作業感も強い。
      • 間違えた時のペナルティはないが、逆に言えば真剣に推理せずとも総当たりで何とかなるということで、作業感を強める一因となっている。「謎と手がかりの模様を合わせる」「ひらめきゲージを使い、謎に合う手がかりを見つける」と言った救済措置もあるが、あくまで手間が若干省けるだけであり、作業感そのものは解決していない。
    • 解決編ではゲームオーバーになった際に推理編に戻るか、天啓を得るかの二択となっており、解決編からやり直すという選択肢がない。推理編で仮説をすべて作っていた場合、推理編にもどる→推理を終える→事件のまとめを終える→解決編となるため、これも地味に時間がかかる。
  • ゲーム上意味のないシステムがある
    • 特徴欄にて問題編でボタンを押すことで手がかりが入手できると書いたが、別に押さなくとも推理編で自動的に入手できる。一応トロフィーには影響するが、ゲーム的には無意味なシステムとなっている。
    • 推理編の最後に推理のまとめができるが、これも行わずとも展開に全く影響しない。内容は、作った仮説から論点を整理するといったもので、あくまでプレイヤーが個人的に謎解きをするための助けに過ぎない。
  • ボリュームが少ない
    • 今作のクリアまでのプレイ時間はおよそ10~15時間ほど。アドベンチャーゲームとしては決してボリューム不足というわけではないが、フルプライスなこともあり、やや割高感がある。
      • これは今作より前に発売された実写ADV作品『デスカムトゥルー』でも同じ様な問題を抱えており、実写ADVの制作コスト事情を考えると価格設定の高さは仕方ないともいえる。
      • これを気にしたのか、スマートフォン版では先発のCS機やSteam版の定価の半分以下の価格で売られている。ただし、キャストインタビューDLCは配信されていない。
+ ネタバレ注意
  • 周回要素こそないが、エンディング後の隠しシナリオが存在する。 が、その存在がやや分かりづらいという指摘が見られる。
  • 解放条件は表のエンディングを迎えると、「ピロン」とメールの着信音が鳴り、タイトル画面に新たな選択肢が出現するというもの。決して極端に分かりにくいわけではないが、スタッフロールがかなり長いことも相まって油断し聞き逃したプレイヤーが多かったようである。

総評

俳優を使った実写メインのゲームは昨今珍しくないが、実写であることをゲーム的に意味を持たせたゲームは決して多くない。
そんな中、今作は実写だからこそ成立したアドベンチャーゲームである。
過去と現在を行き来し、100年に渡る四十間家の謎を追うストーリーは、その緻密な伏線と俳優の好演も相まって良質な推理ドラマを見ているような気分を味わえる。

肝心の推理パートには改善の余地はあるが、アドベンチャーゲーム好きなら一度手に取ってほしい。
ゲームの新たな可能性を味わえるだろう。

余談

  • 今作の発売直後はプレイ動画の公開・配信やネタバレ投稿がガイドラインで全面的に禁止されていた。
    • これは作品の特性上「映像公開自体がストーリーのネタバレに繋がってしまう」ため、発売後に購入したプレイヤーでも楽しめるよう配慮するためガイドラインを定めて配信やネタバレ投稿を全面禁止にしていた背景がある。
      • 2022年9月14日の体験版配信の際に「体験版のみ配信可能」にガイドラインが改訂され、2023年4月25日のiOS/Android版配信に合わせて全て解禁された。
  • スクエニは過去に完全実写ゲームを制作した実績があり、その中でも今作のエグゼクティブプロデューサーを務めた齊藤陽介氏は『シネマアクティブ』シリーズ*2のプロデューサーを担当していた。
    • そのためなのか江原氏が企画を持ち込んだ際に却下にされるどころか、逆に様々な助言を貰うほど今作に対して寛容だったことがインタビュー記事で語られている。
  • 今作のシステムや演出に他作ADV作品を彷彿とさせる要素が存在する。
    • 映像の中から謎と手がかりを見つけ出し、推理して真実を見つけるシステムが『TRICK×LOGIC』のゲームシステムを彷彿とさせる。実際電ファミニコゲーマーのインタビュー記事でも伊東氏が「システムの元は『TRICK×LOGIC』ですからね」と話している。
      • 『TRICK×LOGIC』のゲームシステムのおおまかな流れは今作のシステムと似ているが事件解決に必要な要素を自分で見つける必要があり、「謎が解けていても肝心のキーワードが見つからずゲームを進められない」というのが問題点として挙げられていた。
      • 今作ではムービー中に現れる謎と手がかりを取り逃していたとしても推理編ではすべて回収されているため、難易度こそは低くなったもののシステムとしては改善されている。
    • 一部仮説の演出や正解を間違えた際のハズレ推理の演出がチュンソフトのサウンドノベルシリーズを彷彿とさせる。
      • 仮説パートを行う人物モデルの色が水色であることから『かまいたちの夜2』以降の3Dモデル演出と似ており、バッドエンドを選んだ際もチュンソフトサウンドノベルと彷彿とさせるような演出となっている。
      • これは伊東氏自身も電ファミニコゲーマーのインタビュー記事で「だいぶ消したつもりなんですけどねぇ……」と事実上認めており、江原氏も「チュンソフトっぽいですよね」と言い切っている。
最終更新:2024年12月23日 18:00

*1 ちなみにこの名前ははるかの代表作である『探偵 西毬真琴シリーズ』の主人公と全く同じもの、つまり明らかな偽名である

*2 当時人気だったアイドルを起用し、全編実写・フルボイスで展開されるADVシリーズ。『ユーラシアエクスプレス殺人事件』、『ØSTORY』、『the FEAR』の3作が制作された。