本記事はPSP版の解説です。原作に当たる3DO版はこちらを参照してください。
山村美紗サスペンス 京都鞍馬山荘殺人事件
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション・ポータブル
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発売・開発元
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マーベラスエンターテイメント
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発売日
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2009年9月3日
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定価
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4,800円(税抜)
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レーティング
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CERO:B(12歳以上対象)
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プレイ人数
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1人
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判定
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劣化ゲー
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ポイント
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実写ADVの実写抜きリメイク第二弾 第一弾『悪逆の季節』のような露骨な改悪はなし シルエット採用による問題点は健在 そもそも企画が無謀すぎた
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山村美紗サスペンスシリーズ
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概要
『西村京太郎トラベルミステリー 悪逆の季節』に続いてPSPリメイクを果たした3DOのアドベンチャーゲーム。
原作はローンチタイトルとして『悪逆の季節』より前に発売されたが、PSP版は『悪逆の季節』より3ヶ月遅れて発売された。
3DO版の実写映像は使われておらず、『悪逆』同様にすべての登場人物を『かまいたちの夜』風シルエットで再現したものとなっている。
ただし今回は『悪逆』と異なり、女性に限ってピンク色で分けられるようになった。
特徴
舞踊の名門・桜木家をめぐる連続殺人事件に対し、フリーライターの園山千晶が解決に臨む。
より詳細なシステム・シナリオ等は原作記事を参照。
主な変更点
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原作では重要なヒントが含まれる会話を聞いた後、それを要約して表示する機能があったが、今作では廃止された。
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該当シーンは代わりに特殊なSEが鳴るだけにとどまっている。
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これにより、原作に比べると推理の難易度は上昇している。
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露骨なヒントが無くなったと肯定的に見るか、遊びづらくなったと否定的に見るかはプレイヤーによって変わると思われる。
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シナリオ関連の変更
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時勢に合わせて「看護婦」が「看護士」に変更されている。
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なぜか山荘前の狛犬を調べられなくなった。
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元々攻略と関係ないため、ゲームへの影響はない。カットされた理由は不明。
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レーティングの都合か、ゲーム終盤のシャワーシーンがカットされた。
今作の仕様で見られても楽しいかどうかはさておき。
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原作ではファックス機の操作を求められるシーンが存在したが、PSP版発売時にはインターネットの普及でファックスが廃れており、新規ユーザーに優しくないためかカットされた。
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あくまで操作シーンがカットされただけで、周辺におけるシナリオの変更は特になし。
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山荘探索シーンにて、原作に無かった隠し要素が追加された。
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原作にあったミニゲーム「彩選」は削除され、代わりに「推理占い」モードが実装された。
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「彩選」同様、千晶の部屋でテレビを調べるとプレイ可能。
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占いというよりは心理テストに近く、たまにクイズが出る場合もある。
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パズルゲームだった原作に比べて簡素な内容となっているが、今回は1日ごとに内容が変わるので少しずつ覗く楽しみが増えている。
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原作で指摘されていた真エンド絡みの問題を避けるためか、エンディングで明かされる内容が一段階繰り下がった。
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原作のノーマルエンド以上で明かされる真相はグッドエンド時にしか見られなくなっており、グッドエンドも原作におけるノーマルエンド相当の内容となっている。
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原作のグッドエンドはかなりメタな内容だった上、その中で掲げられた公約は残念ながら果たされなかったため、カットもやむなしである。
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なおグッドエンド到達にあたってゲーム内スコアを満点にする必要はないのだが、満点クリアでエンディングの内容が変わるかどうかは不明。今作は原作含めて攻略情報がネット上に無く、クリアしたプレイ動画も存在しないため、検証は困難な状況にある。PSP版に至っては攻略本の類が一切ない。
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発売時の雑誌記事によるとエンディングは3通りとされており、これは原作同様なので、大きな変更は無いと見られる。
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なおPSP版『悪逆の季節』は原作説明書の重要な部分が欠けていたが、今作は特に問題ない。
評価点
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同じシステムの『悪逆の季節』と異なり、原作のムービー・演出が必要最低限再現された。
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『悪逆』はシナリオの印象が変わってしまうレベルで原作再現度が低く、重要な人物描写すらカットされる有様だったが、今作は(後述するラストを除いて)十分に再現されている。
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前作で露骨に描写を避けられていた自動車も、オープニングできっちり登場する。
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黒背景・全画面黒塗りといった省略は場面転換の際に多少行われる程度であり、『悪逆』のような露骨な手抜き感はない。
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原作で移動時に入っていた会話は一通り用意されており、シーン固有のポーズを取るシルエットも3Dで用意されている。
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一部の背景には3DCGが用意され、様々なアングルのカメラワークを実現している。
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原作でロケ地に使われた名所は今作向けに背景グラフィックを描き下ろしており、大文字や清水の舞台、化野念仏寺に至るまで全て用意された。場面転換がある際は、これらの一枚絵が用意されるようになっている。
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特に料亭「ひろや」の会食シーンでは豪華な料理のカットまで用意されているこだわりっぷり。ハード性能の向上により、原作よりも色鮮やかに描画されている。
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UIの改善
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クリックポインタの移動速度を始め、PSP版『悪逆の季節』におけるUIの改善点は今作も引き継がれている。
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PSP版『悪逆の季節』では最後に選んだ選択肢のカーソル位置を記憶してくれない不備があったが、今作ではこの問題が修正された。これにより、複数回選んで引き出せる情報を捉えやすくなっている。
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3DOと比べて3D描画速度が改善されたことにより、ダンジョン風に山荘を探索するパートがテンポよく進められるようになった。
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新モード「推理占い」は原作の「彩選」にない魅力がいくつかある。特にパズルゲームが合わない人にとっては、良改変と呼べるかもしれない。
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一回遊びきると終わりだった彩選とは異なり、こちらはゲーム進行のたびに内容が更新され、ストーリーの小休止として定期的に覗く楽しみがある。
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基本的に出題されるのは心理テストだが、時たま知恵を絞らないと解けないクイズが出されたり、作品内容を問うカルトクイズも出されるので、原作プレイ済みでも新たに楽しめる。
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中には『悪逆の季節』を元にしたファンサービス的設問も。
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今作はヒント機能廃止に伴い3DO版から趣が変わった部分があるのだが、これを新要素で上手くフォローしている。
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推理に関わる重要な部分のネタバレ注意
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3DO版は「ある人物が血液型占いの話をした後、なぜかそれがヒントとして表示され、血縁にまつわる不穏な真相を予期させる」という要素があった。
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PSP版はヒントが廃止されたのでこの演出は無くなったのだが、代わりに6日目で推理占いを見ると該当人物の血液型を復唱させるクイズが出題され、一捻り加えた形でヒントとして機能するようになった。
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それだけでなく、新規プレイヤーに対して「血液型はクイズのためだけの要素」とミスリードを誘うようになっており、重要な伏線のカモフラージュとしても機能している。
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エンディングを見終えた後は得点が表示されるようになり、ゲーム内の要素をどれだけ完遂できたかわかるようになった。
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元は原作より後発の3DO版『悪逆の季節』で実装されたものが逆輸入された形になる。
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ただし具体的にミスした部分は明かされないため、完全クリアを目指すには不十分な作りとなっている。
問題点
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PSP版『悪逆の季節』の不備は概ね解消されたが、シルエットを採用したことによる根本的な問題はほとんど解決されていない。むしろ解消しようがないと言うべきか……
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詳しい問題点はPSP版『悪逆の季節』の「実写廃止・シルエットでの代用」の項目を参照。
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「登場人物に感情移入できない」「見分けが付かない」「不気味」と言った重大な問題点は今作も同様に存在する。
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もちろん、ボイスも採用されていない。幸い今作には『悪逆の季節』ほどキャストの演技が必須となる描写は少なく、あちらに比べると比較的マシなのは救いだろうか。
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シルエットによる感情移入の妨げはやはり大きく、今回も『悪逆』同様、各種レビューにおいてシナリオごと酷評されている。前回ほどシナリオの省略は無いものの、やはり原作と同じ体験ができるとは思わない方が良い。
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ただし『鞍馬山荘』の方は原作からして起伏の弱さを指摘する声もあったので、実写が失われたことで難点が露呈した側面も否定できない。
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流石にスタッフも重く見たのか、今作のオープニングでは各登場人物の名前を明確に併記する演出が入るのだが、焼け石に水でしかない。服装だけで人物を区別するのは流石に無理がある。
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特に今作の登場人物はほとんどが○扇という名前で統一されており、これも分かりづらさを助長している。
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先述の通り、今作は幕間のムービーシーンも頑張って再現しているのだが、原作にあった踊りのシーンは表情のないシルエットが舞い踊るという不気味なものになってしまった。
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踊り自体はきちんと再現されているだけに、スタッフの頑張りに結果が見合っていない残念な結果に……
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再現度がマシになったといっても、やはり実写映像の完全再現には至っていない。
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流石に全シーンをくまなく再現してはおらず、細かい動きはどうしても失われている。
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カメラワークの工夫は特に無く、迫力のあった死亡シーンも固定視点になって躍動感が失われた。
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グラフィックがきちんと用意されたとはいえ、その質はあまり高くない。
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冒頭でこぼれるワインや終盤の本棚などは、それこそ原作当時のプリレンダリングCG相当。
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シルエットの質感に合ってはいるが、違和感は拭えない。
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イラストとして描かれた背景はそこまで問題無いものの、原作が実写だったことを考えると見劣りするのは否めない。
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参考に、今作の前年にテクモが発売した『DS山村美紗サスペンス』は背景に実写映像を使用しており、こちらと比べても雰囲気が落ちている。
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ゲーム性・ボリューム共に2009年のゲームとしては厳しい内容だが、これに関する補完がほとんどない。
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『悪逆の季節』同様、今作もレトロゲームのリメイクであることが事前に告知されていなかった。
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今作は総当たりでシンプルに進むゲーム設計となっており、プレイ時間も1周4時間ほどとなる。
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原作は当時の家庭用ハードで実現できなかった実写を取り入れたからこそ評価されていた向きが強く、ゲーム性を重視した雑誌レビューでも厳しめの評価を受けていた。そこから実写を取り除いてしまったとなると、同時期のゲームと比較して単にボリューム不足なだけの内容に陥っている。
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PSP版の雑誌レビューでは「別作品とカップリングすべきだったのでは」という意見も挙がっていた。
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参考例として、原作と同年には当時最先端の3Dでレースを遊べたPS版『リッジレーサー』が絶賛されていたが、これとほぼ同じボリュームで2011年に出した新作は酷評を食らっている。90年代半ばに技術面や革新性で評価されていたソフトは2010年前後のゲームとは大きく評価軸が異なっており、低ボリュームでも大目に見られていた側面は少なからずあった。
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選択肢を記録してくれることを除き、『悪逆の季節』におけるUIの改悪要素もそのまま。
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「テキストを読み返せない」「既読の見分けが付かない」「カーソルが1周できない」といった問題は引き続き残っている。
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新モード「推理占い」は評価点に挙げた改善要素こそあるものの、大部分の内容である心理テストに関しては難あり。人によっては不快になるような回答が多く、結果を見て一喜一憂する楽しさが根本的に欠けている。
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最大の難点として、約半分の項目において、プレイヤーの性格を勝手に決めつけて責め立ててくる。
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たとえば近くに死体があった際の対応を答えただけで「あなたは罪をなかなか認めないタイプです」「素直になるのも大切ですよ」などといった風に、突然プレイヤーが人を殺したという前提で説教をしてくる。
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これ以外にも「たまには人との協力をするのも大切ですよ」「攻撃的な態度ばかり向けるのは良くないですよ」などといったふうに、勝手に決めつけた性格を前提とした上から目線の説教が多い。設問同士で相反するアドバイスを与えてくることも。
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同じ要領で推理のアドバイスなども投げてくるのだが、純粋な推理ADV全般の心得に終始しており、今作で直接活かせる要素がほとんどない。
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各回答についても心理学的な根拠は特に示されておらず、真面目な監修で作られているのかどうかも怪しい。
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ゲーム後半、山荘探索シーンにて原作に無い謎解きが追加されたのだが、解くのが面倒な上に肩透かしなオチがつく。
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詳細(ネタバレ注意)
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今作では一部の窓枠が光っており、そこを調べると暗号が出るようになっている。
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全て合わせると特定の位置を指し示すようになっているのだが、辿り着いたところで発生するイベントは、容疑者の1人から「昔暗号を隠したのを見つけられてしまった」と驚かれるだけのもの。攻略と一切関係無く、ストーリー上の意味合いも一切ない。
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厄介なのは、この暗号を解くのが地味に面倒なことである。
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この探索シーンには全体マップが存在しないため、目当ての場所を特定するにはわざわざ様々な場所を歩いて位置を調べる必要がある。
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階段の登り降りはやたら長いアニメーションが入り、スキップができないため、その点も地味に面倒。
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こうして少し手間をかけた末に見せられるのが何のオチもない悪戯という、何のために追加したのかわからないイベントとなっている。
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特に原作プレイヤーであれば追加シナリオを期待する場面になっているので、余計にガッカリ感が強い。
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エンディングムービーの重要なセリフがカットされ、後味が悪くなってしまった。
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原作のムービーを廃止した皺寄せと見られ、スタッフのミスである可能性が高い。
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詳細(ネタバレ注意)
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原作では主人公の千晶によるモノローグが入り、桜木家が残った面子(と千晶の協力)により再興を目指すことが示唆されていた。
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PSP版も原作同様、刑事が千晶に評価を行うとそのままスタッフロールになる。本来はこのエンディングで該当のモノローグが出てくるのだが、PSP版はゲーム内カットシーンと共に淡々とスタッフ名が流れるだけとなっており、一切のセリフが無い。
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これにより、事件によってめちゃくちゃになった桜木家のフォローが一切なく、投げっぱなしな結末となってしまった。
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総評
同路線のPSP版『悪逆の季節』に比べ、今作の原作再現度は大きく上昇した。
あちらとうって変わって露骨な工数カットはほとんどなく、実写廃止の上で移植できる内容は概ね揃っている。
しかし完成度としては「原作(それも15年前)のゲーム部分がギリギリ最低限担保された」という範疇でしかなく、やはり気軽に勧められる作品とは言い難い。
「表情が見えない」「感情移入ができない」といった重要な問題は一切解決しておらず、今作もまた原作の魅力を味わうには不十分な作りとなっている。
前作より大分マシになっただけで、実写だった原作の表現が大きく削られたことには変わりなく、今作も(新規プレイヤー含め)あまり良い評価は得られていない。
そもそもシルエットで実写ADVを再現する企画そのものに無理があったのだろう……
余談
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今作の3D移動シーンでは、壁に歩こうとすると演者が「いてっ!」と叫ぶシュールなシーンがあるのだが、今作でもわざわざ鈍い音を立てて衝突する形で律儀に再現されている。これまた原作以上にシュールである。
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パッケージ裏には「総キャラクター28名により紡がれる壮絶な人間ドラマ」と書かれているが、これは名前のないモブ・エキストラもカウントした数である。実際の主要キャラは10人前後で、ミステリーとしては平凡な人数でしかない。
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前作といい、このシリーズの広報担当者はなぜ誇大広告に走るのか……
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ちなみに3DO版の出演俳優は32人いたので、少し減っている。
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特徴の項でも記したように、今作の満点クリア手順は2025年3月現在でも確立されていない(原作同様のグッドエンドは問題なく到達可能)。
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グッドエンドは原作同様煮え切らない内容となっているが、内容に若干の変更が含まれており、90点獲得してクリアした場合にも攻略の余地を示唆される。このため検証の余地は非常に大きいのだが、現状到達者はネット上に現れていない。
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もし満点クリアにより大きな発見を見出せば相当な功績になるので、根気のある方は検証してみてはいかがだろうか。
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ただし得点計算の手掛かりはゲーム内に一切無く、最後まで遊ばないと得点は見られないので、解析でもしない限りは到達が厳しい点にも注意。
最終更新:2025年04月05日 00:00