本記事はPSP版の解説です。原作に当たる3DO版はこちらを参照してください。


西村京太郎トラベルミステリー 悪逆の季節 東京~南紀白浜連続殺人事件

ジャンル アドベンチャー
対応機種 プレイステーション・ポータブル
発売・開発元 マーベラスエンターテイメント
発売日 2009年6月4日
定価 4,800円(税抜)
レーティング CERO:C(15歳以上対象)
プレイ人数 1人
判定 クソゲー
劣化ゲー
ポイント 3DOで好評を博した実写ミステリーを大胆にリメイク
売りだった実写をシルエットで代用して感情消失
作品を楽しむうえで欠かせないシーンが劣化&大量カット
ゲームシステムの大前提が説明書に書かれていない
ミニゲームも悪化
同じプロットのADVなのに評価は原作と真逆
西村京太郎シリーズ


概要

3DOより、知る人ぞ知る国産実写ADVのリメイク作品。
原作はパック・イン・ビデオより発売されていたが、今作は同社を2007年に吸収合併したマーベラスにより発売されている。

元はあまり普及せず終わったハードの作品ゆえ、実際に触れたプレイヤーは限られていたものの、今作は晴れて初のリメイクとなった。


特徴

ジャンルはコマンド選択式ADV。
ボウガンで男が殺された事件を皮切りに、東京と和歌山で次々と殺人事件が勃発するので、十津川警部とともに真犯人を突き止めていく。
より詳細なシステム・シナリオ等は原作記事を参照。

  • テレビドラマを意識していた原作とは異なり、今作はミステリー小説の文庫本を意識した装丁が印象的。
    • パッケージには本の帯のようなデザインが施されており、説明書の裏表紙も文庫本のバーコードを模した文字が貼り付けられている。

主な変更点

  • 原作は3DOソフトらしく、実写映像を用いてサスペンスドラマさながらの作品に仕上げていた。しかし肖像権や出演料の都合ゆえか、原作映像の移植は行われていない。
    • 今作は実写映像に変わる体験として"MGS(ムービング・ジェスチャー・システム)"なるものを採用している。詳しくは後述。
    • ちなみに原作演者の顔が映る写真が作中いくつか登場するのだが、これらは権利に引っかからないよう大幅に加工した上で流用されている。
  • ムービーシーンは人物のモーションが変わった兼ね合いか、全面的にテキストが書き直されている。
    • 唐突にマグロ一本釣りの話が出てくるゲーム終盤はすこしシュール。
  • DISK1相当のシーンにおける制限時間が撤廃された。
    • 詳しくは賛否両論点で後述。
  • ゲーム後半のモンタージュにおいて、正解となる顔は原作同様なのだが、その選択肢に割り当てられたアルファベットが変更された。
    • 3DO版の答えを使いまわすと痛い目を見るので注意。
  • 人物名入力時、3DO版では最終手段として特別なヒントを見られるコマンドが説明書に書かれていたが、PSP版では未記載となった。
    • 機能自体は続投しているので引き続き使用可能。原作同様にSELECT*1+L+Rで閲覧できる。
  • 作中のミニゲーム「張り込み」「尾行」の内容が変更された。
    • いずれも現代のゲームに合わないインタラクティブムービー寄りの内容であり、映像路線廃止に伴って差し変わったと見られる。
    • 詳しい内容は問題点で後述。
  • エンディングでの得点公表時、成績に応じて原作以上に細かいランク付けが行われるようになった。
  • なお時代設定は原作のまま1994年となっている。
    • 作中の文化やテクノロジー(テレクラ、ワープロなど)は変わっておらず、おなじみのトリックに関わる時刻表や作中人物の生年月日も3DO版を引き継いでいる。

登場人物

原作記事では割愛しているが、本記事では説明に必要となるため、最低限の情報を記載する。

  • 十津川警部:主人公。捜査一課のリーダーとして亀井刑事・西本刑事・北条刑事・清水刑事を率いて捜査に乗り出す。
  • 高木:最初の事件の被害者。ジョギング中にボウガンで撃たれて死亡。
  • 吉川:第二の事件の被害者。旅行会社勤務。
  • 辻井:高木・吉川と親交がある銀行員。
  • 洋子:高木の死を目撃した近隣住人。今作のメインヒロイン。セントラル陶器に勤務し、作中では2人の同僚が登場する。
  • 由美:その同僚の一人。作品序盤で洋子と共に和歌山へ旅行する。
  • 木戸:高木が死亡した際に持っていた写真の撮影者。売れっ子カメラマン。
    • 作中には同じ苗字の肉親も登場するが、本記事では一番使用頻度の高い呼称である"木戸"表記で統一する。
  • この他、後半のシナリオに大きく関わる人物はネタバレ防止のため、別途代名詞を用いて表記する(「婚約者」「真犯人」など)。

問題点

実写廃止・シルエットでの代用

原作は3DOの特徴を活かした実写ムービーが売りだったのだが、代わりに今作は『かまいたちの夜』のようなシルエット*2の人物を並べたものとなっている。

  • 名作タイトルの手法をなぞったから問題なし……というわけにはいかない。
    • 元ネタは高度な文章でプレイヤーの想像を掻き立てるサウンドノベルであり、「あえて人物をぼかすことで没入感を高める」という意図がこもっていた。
    • 今作は普通のADVなので、地の文はほぼ存在せず、人物の会話を主体として物語が展開される。想像力を働かせる要素など全くないので、結果的に今作は表現が劣化しただけで終わっている。
    • ノベルゲームではないのにシルエットを採用したことで、下記に挙げる様々な問題点が浮き彫りになっている。
  • キャラクターの顔が描かれないので、登場人物の表情が見えず、感情移入ができない。
    • 原作は実写ゲームであり、作品を楽しむ前提に出演者の演技も据えられていた。ノベルゲーのように文章を使った感情表現は基本的に無く、登場人物からは人間味がほとんど感じられない。
    • それこそ登場人物の顔はファミコン以前のADVでも描かれており、今作の感情表現はそれ以下とも言える。
  • 同様の理由により人物の見分けが付かず、誰が何をしているのかわかりづらい。
    • 例えばゲーム序盤には「目撃者の女性が不審者に付き纏われる」というムービーが入るのだが、服装や髪型を覚えておかないと誰が襲われているのかわからず、ストーリーの理解に大きな支障が出る。
    • 中盤で新たな登場人物が現れるムービーに至っては、原作と違って顔がわからないせいで、既出の誰かと誤認しやすくなっている。
+ ムービー詳細(ネタバレ注意)
  • このムービーでは、容疑者候補として第一線に上がっている木戸が女性とベッドで会話し、事件のことで互いに腹を探りあっている。
    • 女性はこのムービーで初登場となっており、重要人物との密会が明かされるという点でシナリオ上大きな意味を持つ。それが誰だかわからないとなれば大きく問題がある。
    • また原作ではこの直前にモンタージュを完成させるミニゲームがあり、そこで判明した人物がこのムービーで現れるという演出になっていた。しかし今作では顔が見えなくなったことで演出が意味をなさなくなり、せっかくのミニゲームが台無しにされている。
  • 今作の空気感をわかりやすく知りたい人は、『名探偵コナン』の登場人物全員が例の黒い犯人の姿になったところを想像して欲しい。話が頭に入ってこなくなるのがわかるだろうか……
  • そもそも不気味すぎる。
    • 今作のシルエットはニュース番組で刑事事件を報道した際の再現CGに近く、雰囲気などあったものではない。ニュースの再現CGを見てミステリードラマ並みの興奮が味わえるかと言うと……
  • 独自システムとして打ち出した「MGS(ムービング・ジェスチャー・システム)」というのは、「会話の最中に人物が体を動かして感情表現する」というものらしい*3新システムでもなんでもない当たり前の機能では……
    • 言うまでもないが、キャラが大きく体を動かしてリアクションを見せるADVやSLGは当然これ以前にも沢山出ている。もちろんシルエットではなく普通の立ち絵である。
    • 何の革新性もないシステムをアルファベットでそれらしく言い換えるアコギさは『里見の謎』を彷彿とさせるが、あちらは一応独自性を打ち出しているだけマシである。こちらはシステムでも何でもない。
      • それ以前に「動くジェスチャー」という重複表現丸出しの名前はどうにかならなかったのか。
    • 同じシステムを採用した後発の『鞍馬山荘』ではパッケージ裏に「会話のニュアンスを動作からも読み取れ!」とあるのだが、実際にジェスチャーがヒントとなるような展開は一切ない。
    • 後述するが、この「ジェスチャーで感情を表現する」というコンセプトに関しても、今作は極めておざなりなものとなっている。
  • 原作は事実上のフルボイスだったが、今回はボイスなし。
    • これにより、キャストの演技を楽しむ余地が完全に失われてしまった。
      • 特に原作はゲーム序盤の十津川警部を筆頭に、登場人物の二面性を押し出した演じ分けが要所で魅力的に描かれていた。その醍醐味は大きく失われてしまったと言っていい。

ここまでなら単に「原作より表現が弱くなった」で済む話なのだが、問題はここから。
以下に挙げる問題の多くは、同じくコンセプトでリメイクされた後発の『鞍馬山荘』には無い、固有のものがほとんどである。

映像部分の劣化

十分な開発時間が無かったのか、原作映像のほとんどがまともに再現されておらず、改悪と言って良いほどの変更が加えられている。
その実「シルエットに置き換えたから劣化した」というだけの話ではなく、原作が高評価だったにもかかわらず各種レビューでシナリオが低評価を受けるほど、作品の印象が別物となっている。
PSP版はプロットこそ3DO版と同じだが、実際に味わえるストーリーは全く異なると考えた方が良い。

  • 新規ムービーの質は総じて低く、描写が大きく劣化している。
    • どうやら「歩く」「走る」以外のほぼすべてのモーションが用意できなかったらしく、それ以外の動きはありとあらゆる方法で誤魔化している。
      • 今作はシルエットが動くことを(強引に)売りにしていたのに、ムービーではそれすら果たせていない。
    • 複数人が出てくるシーンの多くは「漫画のようなコマを並べてそこに体の一部を映す」といった表現が行われており、人間同士が躍動感ある動きをするようなことがない。
      • 例えばゲーム終盤で「酔っ払った人物が別の人物にぶつかってしまう」というシーンがあるのだが、これはコマ同士がぶつかって衝突を表現するという婉曲表現に置き換わっている。
    • 「?」「!」「…」などの記号を表示することで感情表現している場面も多い。
      • 単体で見る分には問題ないが、演技だけで感情表現していた原作に比べると大きく劣っているのは確かである。
    • これらはまだ良い方で、ほとんどのシーンは背景を映しただけの止め絵を連発している。
      • たとえば登場人物が電車に乗り込むシーンは「駅の看板を映す」→「既に電車に乗った登場人物を映す」といった形に省略され、雰囲気が大きく損なわれている。
      • ゲーム中盤、登場人物が狭い部屋で殺し合いに発展する場面は、口論の様子がテキスト上で表現されるだけで終わる。決着に至るまでの乱闘シーンは無く、緊迫感は弱まってしまった。
    • 尤も背景があるだけ良い方で、そもそも背景を描画せず真っ暗な空間で誤魔化すシーンが大多数を占める。
      • どうやら背景素材をロクに用意できなかったらしく、特定の場面を別アングルから映さなければならないシーンは全て黒背景となってしまった。
    • 恐ろしいことに、今作のムービーは人物を映しているだけでもマシで、画面を一切映さず黒塗りで済ませるシーンすら多数ある始末である。
      • どうやら素材を一切用意できなかったようで、「真っ暗な中にテキストだけを表示する」という場面が多くの場所に点在する。
      • 中でも一番酷いのはゲーム中盤。十津川警部が目撃位置から現場を俯瞰する重要シーンまで黒塗りで省略されている。
      • 原作においてこの場面は、事件現場の詳細がわかる重要シーンとなっていた。そもそも今作は原作からして現場の描写が不親切だったのに、補完するどころか余計に悪化させてどうするのか……
    • 特にゲーム中盤のムービーシーンは、ここまで挙げた問題が全て詰まっている。
+ 環境の都合で動画が見られない人向け・文章解説
  • 該当のシーンは「女性が車で襲撃され、男が助けに入って足を轢かれる」というものなのだが、PSP版は車すら映しておらず、轢かれるシーンも全部黒塗りなので、何が起きているのかさっぱりわからない。
    • どうやら車のポリゴンモデルすら間に合わなかったらしい。
    • このシーンは鈍い音とともに男が足を轢かれるグロテスクな描写もあるのだが、PSP版はそれもカット。ストーリーだけ聞いていると、単に転んだ衝撃で骨折しただけにも見えてしまい、インパクトが弱まっている。
  • これ以外では、ある人物がその婚約者と抱き合うシーンも悪い意味で印象的なものになっている。
    • 淡々とドラマチックに描かれていた原作と異なり、PSP版は真っ暗な中で抱き合う2人に天の光が降り注ぐという、サスペンスドラマの世界観に合わない大げさなものになってしまった。
    • しかもこのシーンはある場面でも流用され、ゲームをやり込むと2回見る羽目になる。
    • またこのシーン(1回目)はプレイヤーの想像の余地を削ぐ描写が追加されており、3DO版ユーザーによっては違和感を抱くものとなっている。
+ 詳細:物語の核心に触れるネタバレ注意
  • PSP版では女性が抱かれながら何かを企んでいることを示すような、ホラーチックなエフェクトが追加された。
  • 確かにこの女性は婚約者を利用していた側面があるのだが、何から何まで冷徹だったかどうかはボカされており、想像の余地を狭めるものになってしまっている。*4
  • しかもこの時点だと捜査一課は彼女に疑いの目を向け始めたばかりで、シロかクロかははっきりしていない段階であったので、ネタバレも甚だしい。
  • 原作の該当シーンは不適な笑みにも純粋な安堵にも見えるようになっており、その内面はプレイヤーの解釈に委ねられていた。
  • ある人物の死亡シーンでは鈍い音と共にBGMが途切れる強烈な演出があったのだが、これも通常通りBGMが流れ、味気ないものになってしまった。
    • 特にこのシーンは演者の表情も強烈だったのだが、先述の通り表情関連はすべてカットされている。
  • 極め付けに、実はムービーが用意されただけでも大分マシな方で……
  • 3DO版に存在したムービーシーンの大部分が削除されており、登場人物が掴みどころのないものとなってしまった。
    • 今作のムービーは物語の伏線に関わる要素を除いて何から何までカットされているのだが、その多くは登場人物の人柄がわかる内容となっていた。
      • これらを削ったことにより、今作はシルエットの件と合わせて登場人物が一層無個性になっており、シナリオが酷評された件と無関係ではないと見られる。
    • 以下に削除された映像を羅列する。一つ一つ見る分には地味なのだが、積み重なったことで生じる劣化は見過ごせない。
+ 物語の核心に関わるネタバレ含む
  • 移動時のムービーは全て削除。
    • 原作は原作で毎回流れて煩わしかったが、今回は流石に削りすぎである。せめて初回だけでも流すべきだったのでは……
    • 木戸が仕事している際の人となりがわかるフォトスタジオ、危なげな雰囲気の漂う風俗店・ミレニアム、店主の温厚で生真面目な態度*5が窺い知れるバー・サウンドトラップ、清水刑事が大人気なくはしゃいで亀井刑事に小突かれるセントラル陶器……と、物語の雰囲気を形作る場面が多かったのだが、これらは一切描かれない。
    • ただでさえ今作は捜査一課の人物描写が少ないのに、セントラル陶器のムービーを削ったせいで更に悪化してしまった。
    • 洋子の命が木戸に狙われていることを至急伝えるシーンは普段の捜査一課の画像(刑事たちがデスクに着席している様子)を流用しており、緊張感が無くなっている。
    • 被害者の家庭を訪問するシーンでは門前の様子からそれぞれの生活水準がわかるようになっていて、事件の真相にも大きく関わる要素だったのだが、これらもカット。
    • 端折りすぎて唐突になってしまった部分も多い。例えば高木や木戸の家に訪問すると、いつのまにか大家や管理人がいて混乱しやすい(原作では彼らが部屋の中に案内するムービーが挟まれていた)。このせいで、会話コマンドが使用できることを見落としやすくなっている。
  • 洋子らOL三人の人となりがわかるムービーは全て削除されており、目撃者の洋子以外はモブ同然に。
    • 原作の彼女らはセントラル陶器初回訪問時に「刑事ドラマみたい」とはしゃいでいたり、旅行シーンで明るい様子が描かれていたりしたのだが、今作では刑事から聞かれた事を淡々と話すだけになってしまった。
    • 特に事件の第一発見者として重要な立ち位置になる洋子については、真相を知ってから旅行ではしゃぐシーンを見ると大きく印象が変わるようになっていたのだが、これを消されたのは味気ない。
+ ネタバレに踏み込んだ更なる解説
  • 何よりここで旅行に行く2人は中盤の事件現場周辺に滞在していたため、真犯人候補として注目に値する重要人物である。描写の多い洋子はまだしも、由美に至っては個性的な描写が皆無となったため、空気化したのは物語を楽しむ上でも大きなマイナスである。
  • 物語序盤、真相を彩る伏線が仕込まれていたシーンもカットされている。
+ 核心に触れるネタバレ注意
  • 該当するのは、冒頭で追跡された洋子の訴えを警察官が「気のせいじゃないんですか?」と半笑いで流すシーン。PSP版はその直前の「誰もいませんよ?」で終わっている。
  • 真相を知った2周目に遊んだ場合、初見だと特に気にならないこの場面は彼女の過去を皮肉るシーンだったことが判明するようになっていた。
  • 俳優の演技もそれぞれ「露骨な半笑い」「一見安堵に見えてその実いら立ちと失望を含んだため息」が強調されていて、結末を意識したものとなっていた。
  • 中盤、モンタージュの女性がホテルで辻井と鉢合わせになるシーンもカット。
    • 原作では裏切られた彼女の悲痛さがひしひしと伝わる場面であり、エキストラ*6を含めた俳優陣の演技を含めて強烈な印象を残すのだが、今作は単に婚約破棄された事実を淡々と述べるだけなので味気なくなっている。辻井の冷徹っぷりを示す上でも重要だっただけに、これもまた削除が惜しまれる場面である。
  • 尾行対象が墓参りするシーンもカット。
    • 該当シーンは容疑者候補というレッテルを覆す優しさが見える瞬間で、ターゲットの表情からも意外な内面がわかるようになっていた。PSP版はそのまま寺で調査するシーンにまで飛んでしまい、尾行対象が何をしに来たのかもわかりづらくなっている。
  • 女性を轢こうとした男の正体を婚約者が目撃する瞬間もカットされた。
    • ムービーの少し前には「婚約者は身内の仕業だと知っていたのに、見なかったフリをしてかばっていたのではないか」という考察が行われている。このシーンはそれを印象的に裏付け、婚約者の葛藤と人間性を知らしめる重要な場面となっていた。
    • 間の取り方もドラマチックに描かれていたのだが、カットされたことで印象が原作と別物になっている(ちなみにこの後が先述の天の光のシーン)。
  • ゲーム終盤で描写される強姦現場のスナップショットも省略されてしまった。
    • 原作では被害者の悲痛な表情が克明に描かれており、これを踏まえて十津川警部が真犯人へ「警察官という仕事が嫌になる時があります」と重いセリフを吐くのだが、今作は画像が無いせいで説得力が落ちてしまった。
    • 原作ではBGMも重々しいものに変わっていたのだが、今作では一切の変化がないので演出としても大きく劣化。
    • ちなみにこのシーンはいきなり3DO本体が出てくる迷場面でもあるので、そこをカットしたことは評価できるかもしれない……
  • ムービーだけでなく、通常のアドベンチャーパートの映像も作り込みの甘さが垣間見える。
    • モンタージュ室や鑑識などと言った、原作でワンカットしか無い場面は背景画像の用意が無い。代わりに既存の部屋を使い回している。
      • このせいで「個人的な用事のために旧知の知り合いを旅行会社の応接デスクに呼んで怒鳴りつける吉川*7」「容疑者を放免にするか送検するか本人の前で決める十津川警部*8」「オフィスのデスクに座りながらみんなで暴力的なフィルムを鑑賞する捜査一課」といった不自然な絵面が生まれている。
      • 初見プレイヤーだとあまり気にならない可能性が高いのは救いだろうか。
    • トリックに使用されたボウガンのポリゴンすらゲーム中に用意されていない。
      • このため最初の会議で十津川警部がボウガンを取り出すシーンも露骨にカット。
      • ちなみにムービーシーンにおいて、真犯人が使用するシーンも暗転でごまかす対象になっている。
    • 入院してベッドで寝ている人物が立ったままジェスチャーを取るシーンも。
    • ゲーム序盤、居酒屋の店主が小指を立てて「女が出来た」と表現するシーンがあるのだが、なぜか立ち絵でこの動きを行わず、テキストで「小指を立てた」と無粋に説明している。問題点としては軽微だが、これこそジェスチャーを使う場面では……
      • もちろん原作ではテキストなど使わず、演者がハンドジェスチャーを行っていた*9。これくらいのモーションも作れなかったとは、どれだけ開発期間が無かったのだろうか……

説明書の重大な不備

今作の説明書には、3DO版説明書に書かれていた重要な情報が書かれていない。攻略情報なしでは本来の意図通りに遊べない状態に陥っている。
PSP版のレビューは3DO版から据え置きのシステムまで酷評する意見も見受けられるが、この前提の違いに要注意。

  • 捜査打ち切りとなるタイムリミットが書かれていない。それ以前に、制限時間の存在そのものが一切説明されていない。
    • 3DO版ではこの点が日付含めて明記されており、デッドラインもそれなりにシビアとなっていた。このためプレイヤーは総当たりに逃げてはならず、腰を据えて取り組まないとクリアできない仕様となっている。言うなれば、今作のゲームシステムの一番重要な部分を説明していないのである。
    • PSP版では日付が経過する事自体しか書かれていない。時間制限そのものはなんとなく予想できても、それがいつなのかわからなければ緊張感も持てないだろう……
      • 今作は「退屈して売った」などの感想が多々見られるが、このせいで緊張感が欠如したのも一因と見られる。
      • 日付の意図がわからなくなったせいで「時間が経つと手に入らなくなる証拠品があるのか」と誤解する意見も。
      • この仕様に気付かず、万が一「どこか調査するたびに捜査一課に戻ってセーブする」というプレイを行おうものなら、即刻ゲームオーバーである。
    • また今作では日数オーバーでゲームオーバーになると「行動に無駄が多すぎる」という理由でクビにされるのだが(原作据え置きの仕様)、当然これだけではゲームオーバーの原因がわかりづらく、クリアへの導線が欠けてしまっている。
      • 実際に「意味も分からず理不尽にゲームオーバーにされた」という批判は、PSP版レビューにおいて複数挙がっている。
  • 会議を最低限の会話で済ませなければならない大前提が書かれていない。
    • 3DO版にはこれが明記されており、「いかに最低限の情報だけ取り入れるか」という駆け引きがあったのだが、何故かPSP版には記載がない。
      • 一見して普通の聞き込みと変わらなくなっており、何のためのシステムかわからず困惑したプレイヤーも多いのではないだろうか。
    • しかし今作もこの仕様は健在で、実は無駄に話すとED分岐条件のスコア(情報力)が減点されるようになっている。
      • 全員に一通り話を聞くだけでアウトなのだが、前情報なしでこのシステムに気付くのは流石に無理がある。大半のプレイヤーは執拗に聞きまくることだろう……
    • 真面目に遊ぶほど減点され、原作同様に減点されたことは通知されないので、仕様としては理不尽極まりない。人によっては攻略情報なしで最高ランクのクリアを狙うのが不可能となる。
  • この他、3DO版では難しすぎると感じた人のためのヒントが巻末に書かれていたのだが、これらも削除されてしまった。
    • 特徴で前述した隠しコマンドも本来はここに記載されていたもので、単なる記載漏れの可能性がある。

ミニゲームの劣化

  • 原作の張り込みは特定の場所を監視するごとに時間が進行するというものだったのだが、今回は何をしても時間が進む。プレイヤーは何をすればいいのか、説明が一切ない。
    • ずっと対象の部屋を監視してもゲームが進むし、目を離してもゲームが進む。ストーリーに変化はなく、何のためのモードなのか全く見えてこない。
      • 何をやったら得点が上がり、何をやったら得点が下がるかも明かされないので、優先すべき行動がわからないまま長時間待たされ、ストレスも大きい。
    • 張り込み時のグラフィックも完成度が低く、意図のわからないネタが色々と詰め込まれている。
      • なぜか多くの人物が部屋の中で挙動不審に歩き回っている。ここにおいても、まともなモーションを作る時間がなかったらしい……(ちなみに原作は痴話喧嘩やベッドイン直前などユニークな光景が見られていた)。
      • 左上の方を見ると夜から朝にかけて謎の男がずっと窓に張り付き、こちらを見ている。もはやホラーでしかないし、監視対象よりこちらをどうにかすべきでは……?
      • これ以外にも、得体の知れない牛の人形(おそらく『牧場物語シリーズ』からのゲスト出演)が瞬間移動や感情表現を繰り返している。お遊び要素で入れたのだろうが、目を離すと別の場所に移動しており、純粋に怖い。
    • ベランダの手前にカーテン、さらにその手前に人物が描画される不具合あり。
  • 尾行はQTE進行の原作と異なり、実際に歩行して距離を取りながら追跡するものとなった(5回ミスすると失敗扱いとなる)。しかし著しくテンポが悪く、こちらも評判が悪い。
    • 尾行対象の歩行速度はかなり遅く、失敗すると数十秒ほど前に戻されるので、クリアまでやたら時間がかかるようになった。
      • 失敗時はやたらゆっくりした会話が入るのだが、なぜかスキップ不可。
    • なぜかプレイヤーは前進しかできず、ターゲットを見失うなどして道を間違えたらその場で1ミスが確定。結果的に上記のストレスを何度か味わう羽目になる。
    • また原作から据え置きの問題として、初見だと隠れるタイミングや追跡のタイミングが一切わからず、完全な初見殺しとなっている。これこそ改善すべき点だったのに……
      • それでいてギリギリの位置に接していないと尾行対象の行き先がわからなくなるという、理不尽な局面もある。
  • ちなみに原作では「人混みの中から尾行対象を探す」というゲームもあったのだが、これはそこまでゲーム性の低いものではないのに、なぜかカットされた。
  • なおこれらのミニゲームに登場する人物はフキダシとマークの組み合わせで感情が表現されている。ここでもジェスチャーは用意できなかったらしい。

その他の問題点

  • 15年前の前時代的なゲームシステムはほとんど変わっていない。
    • 普通のリメイクならそこまで問題にならないのだが、今作はリメイクであることがほとんど周知されておらず(後述)、各種レビューも完全新作と同等に扱っているものが多いため、本記事でも参考のため明記する。
    • 今作は初見でメモを取って最速ルートを把握しないとベストエンド到達が難しいのだが、これについて補完はなし。
      • 地道な作業はレトロゲームであれば好まれることもあるが、流石に2009年にもなってメモの用意と周回を前提としたADVは厳しい。
      • せめて「何日目でどの証言を引き出したか」を一覧表示できれば、かなり快適になっていたのだが……
    • テキストの高速スキップも無く、周回による特典・既読スキップ・ムービー機能などの追加は一切なし。
    • フローチャートやチャプター選択などの機能も存在しない。
      • 後者は原作にすらあった機能なのに削除されている。ただし今作はセーブ枠がほぼ無制限になったため、単純に不要と判断された可能性もある。
  • それどころかUIの一部は改悪され、15年前のゲームでも当たり前だった要素まで削られている。
    • 2009年のゲームにもかかわらずバックログ未実装。原作にもこの機能は存在しなかったものの、そちらは代わりに「直前に再生したムービーをもう一度確認する」という機能があり、うっかり聞き逃した内容を復唱することができた。PSP版はこの機能も削除されているうえ、それに代わる機能もない。
      • 特に今作はきちんとメモを取る前提の難易度設計になっているため、テキストを見返す機能がないのは厄介極まりない。
      • 幸い、重要な証言は原作同様に後から一通り確認可能。
    • 原作では既読メッセージを区別できたが、これも廃止。
      • より正確に書くと、前作では「一度見たムービーのみスキップができる」という仕様のおかげで、項目を選択してスキップボタンを連打することで既読かどうか判別できていた。
      • 今作は同じ項目を何度も選択する必要があるのだが、既読か新規会話かわかりづらくなり、未読の証言を引き出すのが煩わしくなっている。
    • カーソルが一周しない。たとえば会話などの選択肢を選ぶ際、一番下の項目で↓を押しても一番上に移動できない(逆も同様)。
      • これも原作では普通に実装されていた機能で、2009年のゲームでこれができないのは見過ごせない難点である。
      • 些細な欠点に見えるが、ゲームの仕様上何度も選択肢が出るため意外と煩わしい。
    • 選択肢のカーソルが最後に選んだ位置を記憶せず、いちいち先頭まで戻る。これも原作ではきちんとできていた。
      • 今作は同じ選択肢を何度も選んで証言を引き出すため、この不備も相当に厄介である。
      • この問題点だけは後発の『鞍馬山荘』で修正された。
    • 原作ではモンタージュにおいて証言を聞き直せる機能があり、会話を元にパーツを選べたが、これもカットされて遊びづらくなった。
  • ゲーム序盤、会議によって解禁されるフラグに設定ミスがある。
    • 3DO版は初日に北条刑事の話を聞くと「写真の調査をしよう」という話になり、翌日に新たな調査エリアとしてフォトスタジオが解禁されるようになっている。
    • しかしPSP版は設定を間違えており、もう一度北条刑事を選んで発生する汎用セリフを聞かないとフラグが立たない。
    • このせいで、原作にあった「日数が経過するまでやることがなくなる」という問題点がゲーム序盤でいきなり発生する羽目に。
  • 原作からしてトリックの不備があったのだが、今作の仕様で直せそうな部分も特に変更なし。
    • 第一の事件は詳細な現場の解説を増やす余地があったが、先述のとおり更に説明が減って悪化している。
    • 元々第二の事件は撮影現場や発見時の演出*10重視で不自然になっている面があるのだが、演出がバッサリカットされた今作でも根本的な部分は変わっておらず、「ロビーに呼び出したはずなのに被害者は無視して別の場所で殺す羽目になっている」「わざわざ犯行がバレる電話中に殺害している」と言った不自然な部分を中途半端に残している。
    • それどころか、第一の事件は新たな矛盾が増えている。
      • 幸い解決編だけの描写なので、推理には影響しないのが救いか。
+ 物語の核心を含むネタバレ注意
  • 解決編の描写の中で、真犯人が友人と会話している最中にボウガンを撃つという、新たな矛盾が発生している。
    • ゲーム序盤、友人たちは会話に夢中で外の音が聞こえてなかったと説明されている。普通に考えると室内での会話を指しているのだが、今作では外にいた真犯人と会話していることになってしまった。
    • ボウガンの音を掻き消すほど大声で会話していたのだろうか……
  • その他、原作のあらゆる要素がカットされた。
    • 実写要素削除に伴い、おまけムービーのNGシーン集はもちろんカット。
      • 陰惨なシナリオの清涼剤になる要素であった(特にバッドエンドを見た後ではそれが顕著だった)だけに、なんとも惜しい。
    • ストーリーだけを連続で閲覧するモードも削除。
    • 権利上の都合かBGMは全て差し替えられており、演出が凝っていたエンディングテーマも削除。
      • スタッフも未収録を惜しんでいたのか、8bit機のキャラゲーよろしく微妙に似たフレーズを繰り返して再現を試みてはいる。

賛否両論点

  • 3DO版は7/29までにDISK1を終わらせなければゲームオーバーになっていたのだが、この仕様はPSP版で廃止された。
    • このボーダーは実質クリア不可能となる日時にほぼ相当しており、その時点で足切りをしてくれるという親切設計だったのが削除されてしまった。
      • この変更により、プレイヤーによっては無駄足を食う羽目になる。
    • また最初のボーダーとしてシビアに立ち塞がる要素でもあったため、スリルが弱まってしまった。
      • 尤も、先述の通り説明書の記載そのものがカットされたので、この点は影響があまりないかもしれない。
    • ただし次の周回に向けてダメ元で情報収集が出来るようになったため、一概に問題とも言い切れない。
      • 参考に、3DO版でDISK2となるタイミングは、PSP版において行き先の選択肢が減少するのと同じタイミングである。7/30までに行き先が減っていなければほぼ詰みと見て良い。

評価点

  • 一部のUIが改善された。
    • ポインタの移動速度が上がり、操作が快適になった。
      • 原作は極めて操作性が悪かったので、これについては大きな改善点と言って良い。
      • 特に表示領域が2画面分あるシーンでのスクロールは遅くて煩わしかったのだが、今回は表示が1画面に収まっている。
    • 実写ムービー廃止により、テンポが格段に良くなった。
      • 原作のようなロード時間がなくなった分、会話をスムーズに読むことができる。
    • 原作と異なり、初見のムービーもスキップできるようになった。
      • 2周目を遊ぶ場合やセーブ地点からやり直す際に重宝する。
    • セーブできるファイル数がほぼ無制限となり、リカバリーしやすくなった。
      • 3DOは本体内蔵のフラッシュメモリに保存する方式だったが、容量が少なく圧迫しがちであった。
      • どんなに容量があっても3枠が限度だった3DOと異なり、PSP版は数百kbのデータをメモリースティックの限界まで格納できるので、この点は融通が効くようになっている。
      • 3DOの外部保存ツール「メモリーユニット」は2025年現在入手困難となっているのに対し、PSPのメモリースティックは入手も容易なので、セーブに関してはPSP版に軍配が上がる。
    • ロード機能が追加された。
      • 3DO版はいちいち電源を入れ直さないとセーブ地点からやり直せなかったが、PSP版ではいつでもセーブデータの読み込みが可能となり、謎解き失敗時にもやり直しやすくなった。
    • 時刻表トリックの解説がわかりやすくなった。
      • 今回は3DCGによる路線図を用いて「犯人がどう移動したか」を示すようになっており、「謎が解けなかったけど総当たりでゴリ押した」という人でも状況を把握しやすくなっている。
  • 夜道のシーンはシルエットになった事でホラーなムードが増している。
    • 今作におけるシルエット採用の数少ない評価点である。
  • ミニゲームは原作から改良された部分もある。
    • モンタージュにおいて、3DO版では目撃者が「口は私好みでした」というあんまりなヒントを出してくるのだが、PSP版はまともな特徴を言うようになり、初見でもクリアしやすくなった。
    • 尾行失敗時に尾行対象が発するセリフが原作から変更され、憎まれ口を叩いてくるようになったのだが、その態度は尾行対象が過去に受けた仕打ちがうかがえるもので、最終的に明かされる真相の地味な伏線になっている。
    • 尾行を5回失敗すると、ストーリーを強制的に進めてくれるようになった。
      • 具体的には、刑事たちが日を改めて尾行を再開し、成功した扱いにしてゲームを進めてくれる。難しくてクリアできなかった際にありがたい。
      • なおこのシーンは「尾行対象が肉親の命日に寺へ行く」というものだったので、1回目の外出はなんだったのかというツッコミどころが生まれてしまう。いちおう原作からしてプレイの度に命日が変わるというツッコミどころがあったので、深く考えるのは野暮だろうか。
  • 一部の事件はムービー劣化に伴い描写が不鮮明になったことで、結果的にトリックの矛盾が減っている。
    • どちらかといえば怪我の功名に近いが。
  • 3DO版は「雰囲気に合わないBGMが延々と流れ続ける」という大きな問題があったが、PSP版では場所ごとに異なるBGMが用意され、雰囲気を壊されることがなくなった。
    • ただし寺のBGMが雰囲気に合っていなかったり、先述のようにムービーシーンの音響演出が劣化していたりと、依然として問題はある。
  • 反面教師的な褒め方になってしまうが、3DOユーザーが遊んだ場合、カットされた原作シーンの魅力に気づく機会を得られる。
    • ドラマや映画の監督がなぜ細部にこだわるのか、その理由を嫌と言うほど理解できるかもしれない……
    • また脚本作りの話題では何かにつけて「プロットよりキャラクターが大事」と言われがちだが、今作の両機種版を遊び比べれば、間違いなくそれを痛感できる。

総評

原作の良かった部分を大量に削り、結果的に真逆の評価を受けてしまった失敗リメイク。
説明書に重要な仕様が書かれておらず、新規プレイヤーが前情報なしで遊ぶと退屈な作業ゲーになるのは避けられない。
最低限のプロットだけ見せられるシナリオは面白さが損なわれており、各種ムービーシーンは作画崩壊アニメさながらに大人の事情がダダ漏れである。
ましてミニゲームに至っては時代に合わせた改良を試みて失敗する有様。
今作の実態は、ガワだけ整えた未完成品と言ってよい。

シナリオ部分の残り滓が運良く刺されば普通に楽しめる可能性はあるが、実情としては「真エンドを見る前に挫折した」「最後まで遊ぶことなく中古に売った」という感想すら続出しており、とてもおすすめできる代物ではない。
3DO版の代替品として買うにも不向きであり、どうしても今作が気になるなら3DO本体を手に入れてでも原作を遊ぶことが推奨される。
(2025年現在PSP版は高騰しているので、その方が安上がりになる場合も……)


余談

  • ゲーム外で評価できる点として、原作と異なり"季節"通りに発売されたことが挙げられる。
    • 原作は11月末の発売で、作中の日時(7〜8月)と合致しない状況となっており、タイトルに反して季節外れとなっていた。
      • 舞台の一つにはスキューバダイビング可能な白浜の別荘地もあり、本来タイトルは夏場を想定していたことがわかる。
      • 今作は6月の発売になったため、発売日に買えばちょうど劇中の日時に差し掛かったタイミングで遊べたことになる。
    • しかし本記事で紹介した杜撰な作り込みに加え、3ヶ月後の『鞍馬山荘』は必要最低限の要素が揃っていたことを考えると、季節外れでも発売日を遅らせた方が良かったかもしれない……
  • 原作中盤、3DOの販売元でもあるパナソニック製品が露骨に出てくる宣伝シーンがあったのだが、今作でも該当シーンは続投を果たした。
    • もちろん今回の移植にパナソニックは関わっておらず、カットされてもおかしくないテキストだったため、今作のルーツを知っていればちょっとした感動を味わえる。
    • 流石に3DO登場シーンの方はカットされている。
  • 終盤の電車シーンにおけるテキストで「あふ」という謎の単語が出てくるが、これは3DO版のムービーでも言っている。
    • 該当シーンはなんとも微笑ましい雰囲気で撮影が行われており、笑い声がなんとなくそのように聞こえるだけなのだが、移植スタッフは何故わざわざこれを書き起こしたのだろうか……
    • セリフ自体は全面的に差し替えられており、ここだけ再現した理由は謎である。
  • パッケージ記載のキャッチコピーについて
    • 3DO版のシナリオを覚えているユーザーは違和感を覚えたかもしれないが……
+ 時刻表トリックのネタバレ注意
  • パッケージには「完全犯罪に隠された、900秒のアリバイを崩せるか?」とあるがこれは誤り。
    • 900秒(=15分)は真犯人が時刻表トリックを始めて最初に乗り込んだ電車の移動時間であり、実際に真犯人が捏造したアリバイは17分(1020秒)である。
  • ネタバレを防ぐために端数を切り捨てるにしても1000秒の方がキリがいいはずなので、担当者が誤読した可能性が高い。
    • 作中ではご丁寧に十津川警部が「17分しか無かった」と言っており、なぜこの変更が生じたのかは不明。
    • このパッケージを鵜呑みにして謎を解いたプレイヤーは気の毒である……
  • 発売時、今作は15年前に売られたゲームのリメイクであることをほとんど周知されていなかった。
    • 実写をカットしたことがバレてしまうから公表を避けたのか、そもそも3DO作品であることがアピールとして弱いから公表しなかったのか、理由は不明。
    • TVCMや販促ポスター、パッケージ裏はもちろんのこと、ニュースサイトの紹介文ですら割愛されている始末である。
    • ゲーム雑誌の特集記事でも「人気ミステリー作家原作の作品」という部分ばかりが強調され、元がレトロゲームであることはほぼ触れられていなかった。
      • かろうじてファミ通はクロスレビューでのみ3DO版の存在に触れていたが、同じく大手である電撃Playstationに至っては一切言及がなく、雑誌レビュアーですら3DO版の存在を知っているのか怪しいものであった。
      • 特に電撃Playstationの方は西村京太郎先生に今回のゲーム化を質問するインタビューまであったのにノータッチだった。もしや西村氏も3DO版を覚えていなかった可能性が……?
    • このため今作は前時代的なシステムの作品にもかかわらず完全新作と誤認しやすくなっており、各サイトのレビューでも「リメイクと知って驚いた」という物が含まれている。
      • 原作の発売時はちょうどプレイステーション発売の直前であり、2009年の完全新作と同列に並べられるのは厳しい側面がある。
  • そんな中で送り出された今作はパッケージ裏の宣伝文句もヤケクソ気味。
    • 「デモムービーを多数収録!」「動く!アドベンチャー!」と、やけにムービーやモーションを推している。全部シルエットで殺風景な上、原作の方がまともなムービーだったのだが……
  • よりにもよって、今作は2025年時点で西村京太郎シリーズのゲーム作品としては最終作となっており、以降は新作が出ていない。
  • 今作の3ヶ月後には、同じく3DOで発売された『山村美紗サスペンス 京都鞍馬山荘殺人事件』が同様の方式でPSP向けにリメイクされた。
    • 『悪逆の季節』と異なり、こちらはシナリオ・演出の割愛がラストを除いて*11ほとんどなく、説明書の不備も無い。ミニゲームも原作と違った形で楽しめるものになっており、ゲーム単体としての質は大分改善されている。
    • それでもシルエットの採用による劣化は避けられておらず、そもそも原作が映像美で評価されていたソフトなので、依然として評価は低い。根本的な企画に問題があったというべきか……
最終更新:2025年04月12日 00:18

*1 3DOでは他機種のSELECTに相当するXボタンが存在し、この隠しコマンドに使用されていた。

*2 より正確には、『2』以降に準じたポリゴンモデル。

*3 発売当時の雑誌やゲームメディアの紹介記事、マーベラスの紹介ページ、パッケージ裏を確認しても、これ以上の説明は本当に一切無い。もちろんゲーム中でもこれ以上の特筆性は一切ない。なお公式HPはフラッシュを使用していた都合、現在ではアーカイブでも閲覧不可能のため未確認。

*4 特にこの直前には婚約者から命を助けてもらったばかりであり、彼の優しい内面をある人物に訴えかける場面もあるため、当初と感情が変わっていた可能性も否定できない。

*5 特に店主はゲーム後半で警察に怒りを見せると大きく態度が変わるため、そのギャップを感じる上でも重要なシーンであった。

*6 ホテルから出る通行人が彼女の叫びを見て怯える描写があり、その怒りと辻井の焦りを示す上でそれなりの意味があった。

*7 原作では電話で怒鳴りつけていた。どうやら電話するモーションも用意できなかった模様。ちなみに呼び出した相手は売れっ子カメラマンなので、普通ならまず来てもらえないはず……

*8 原作では取り調べ室の外でやりとりしていた。

*9 それどころか元ネタの『かまいたちの夜』すら、1作目で「お金」のハンドジェスチャーを取るシーンがわざわざ描写されているのだが……

*10 3DO版では「公衆電話をかけられなくて困っていた中年男性が待ちあぐねて中を覗くと人が死んでいた」という、インパクトを重視したものだった。ちなみにPSP版は展開が大きく変更され、「何らかの会合に出席していたモブの男が定時報告のために帰宅しようとしたところ、通りすがりに遠くから電話ボックスで死んでいるのをたまたま見つける」というものになっている。

*11 PSP版はエンディングにおける重要なモノローグが欠けている。