本記事は3DO版の解説です。2009年に発売されたPSPリメイク版はこちらを参照してください。
山村美紗サスペンス 京都鞍馬山荘殺人事件
【やまむらみささすぺんす きょうとくらまさんそうさつじんじけん】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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3DO interactive multiplayer
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発売・開発元
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パック・イン・ビデオ
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発売日
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1994年3月20日
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定価
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12,800円(税抜)
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プレイ人数
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1人
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判定
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良作
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ポイント
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3DOの強みをアピールしたローンチタイトル 映像×ゲームを追求した最初期の作品のひとつ 推理ADVが次世代機の力でサスペンスドラマと融合
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山村美紗サスペンスシリーズ
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概要
日本における3DOのローンチタイトルの一つ。
FC時代から続く『山村美紗サスペンスシリーズ』の5作品目にあたる。
開発元は『牧場物語シリーズ』『ぬし釣りシリーズ』で知られるパック・イン・ビデオ。
主演はかの小川範子氏が務めている。
過去シリーズ同様、今作は極めてオーソドックスなコマンド選択式ADVとなっている。
最大の特色は、(当時としては)高画質な実写映像でゲームが展開されること。
「"次世代機"はどんな作品が送り出せるのか」「ゲームと映像ソフトを融合させるとどのような体験が待っているのか」といった、3DOが期待するコンセプトに応えた作品となっている。
あらすじ
フリーライターの園山千晶は、遅くまでかかった取材を終え、京都の鞍馬へ向けて車を飛ばしていた。
日本舞踊の名門、桜木流の家元、桜木扇舟の誕生パーティに出席するためである。しかし、約束の時間はとっくに過ぎていた。
数か月前、雑誌の取材で桜木流を訪問した時、知り合った、家元の長男・桜木陽扇が千晶を招待したのである。
……が、その夜、千晶がパーティ会場である鞍馬山荘に着く前に思いがけない事件が起こっていた……。
(取扱説明書より)
特徴
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王道的なコマンド選択式ADV
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画面中央に現場や人物の映像が写り、周囲をコマンドアイコンが囲むという、同ジャンルのゲームでおなじみのUIを採用している。
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最大の特徴として、今作は従来のドット絵の代わりに実写映像を使用しており、俳優の演技がフルボイスで流れる。
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たとえば関係者に質問を行った場合、通常のADVではテキストが表示されるものだが、今作では画面中央で関係者が喋る動画が流れるものとなっている。
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ボイス自体は前作『金盞花京絵皿殺人事件』から実装されていたが、今回は俳優が演じているためまた方向性が異なる。
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前作はボイスのスキップができない難点があったが、今回は既読(既聴?)テキストのみスキップ可能となっている。
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構成
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エピソードは全10章(DISK2枚組)。鞍馬の山荘で起きた殺人事件を巡り、 主人公・園山千晶(演:小川範子)が真相を追い求める。
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物語の主体となるのは踊りの名門・桜木家。多数の家族と弟子を持つ一流の家柄だったのだが、物語が進むにつれその家族関係は新たな様相を見せ、事件は混迷を極めていく。
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ゲーム内の行動により内部での評価ポイントが増減し、スコアによってエンディングが変化する。
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ただし物語に劇的な変化があるわけではなく、最後までたどり着けばどのエンディングでもひとまずの真相を見届ける事が可能。
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評価に応じて最後に警部が主人公にかけるセリフが変わるほか、好記録であるほど詳細なエピローグが追加される。
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分岐の詳細は不明だが、動画サイト等から確認できる限りでは「警部から酷評されて終わるバッドエンド」「警部からもう少し頑張るよう諭されるノーマルエンド」「警部から感謝されて終わるベストエンド」が存在する模様。それぞれに応じてスタッフロール後の内容が変わる。
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システム
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様々な場所に赴き、画面に移る現場をクリックして検証したり、人物への聞き込みを行ったりしてゲームを進める。
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場合によっては同じ項目を複数回選択しないと聞き出せない場合もある。
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調査を進めるにつれて作中の時間が進行し、計10日で物語は完結する。
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1日のうちに集められる情報を全て集めることで、自宅にいる場合のみ就寝コマンドが選べるようになり、これを選択することで日数が経過する。
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聞き込んだ内容のうち、重要な項目は画面上の「思い出す」コマンドから再確認が可能。
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ゲーム後半には、3Dダンジョンのような空間を探索して調査を進めるパートも存在する。
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おまけのミニゲームとして、対戦型パズルゲーム「彩選」を収録。
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色分けされた立体から同じ色のパネルを交互に取っていき、その取り方によって採点されるスコアで勝敗を競う。対人戦も可能。
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千晶の部屋でテレビを選ぶことでプレイ可能。本編との関連はない。
評価点
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実写映像と推理ADVの相性の良さ
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3DOはハード性能を活かした映像美を売りにしており、それまでの推理ADVでは不可能だったリアルな表現に成功している。
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ドット絵と文字で表現されていた既存の作品に対し、今作は2時間サスペンスドラマがそのままゲームになったようなビジュアルに仕上がっており、94年のゲームとしては画期的な体験を味わえるソフトとなっていた。
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エンディングのスタッフロールも、しんみりした実写をバックにブロック体の文字が上にスクロールするという、サスペンスドラマのエンディングを彷彿とさせるもの。最後まで雰囲気づくりが徹底されている。
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リアルさが生んだ魅力の一つとして、出演者の演技から登場人物の機微を味わえる点が挙げられる。
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かつて体験した痴情のもつれに重々しくも向き合う舞妓、野心を隠し切れていない不穏な弟子など、サスペンスを盛り上げる感情表現が表現力の向上によって可視化されている。
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特に冒頭の死亡描写は俳優の微細な演技もあいまって生々しく、プレイヤーを世界観に引き込む上で大きな役割を果たしている。
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京都の旅情
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これは山村美紗サスペンスシリーズの魅力の一つとされており、本サイトの過去作記事でも概ね評価点に挙げられている要素である。
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とりわけ今作では、実写化のお陰で観光気分をより深く味わえる。
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例えば踊りを演じるシーンなどはそのまま実写映像として流れ、祇園が舞台となるシーンでは鴨川が流れる音をバックに舞妓へ聞き込みを行うなど、雰囲気作りは濃厚。人気のあるADVは数あれど、山村美紗シリーズというチョイスは実写映像の魅力を伝えるコンセプトに強く合致したものとなっている。
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もちろん撮影は実際の京都で行われており、扇子屋や庭園などを舞台に物語が展開される。地元の人間以外は見られない日常を次々と味わえるのは、今作ならではの魅力である。特に化野念仏寺は一瞬の登場ながらも印象的。
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実在の料亭で会食するシーンも存在し、スタッフロールにも名前を連ねている(この料亭「ひろや」は昭和7年創業の老舗であり、2025年現在も健在で公式ホームページが見られる)。スタッフロールでは様々なロケ地が紹介されるので、興味を持ったプレイヤーは"聖地巡礼"してみるのも良いかもしれない。
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サスペンスシナリオの魅力
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主人公が調査を進めるに連れて、最初は表に出なかった桜木家の愛憎劇が次々と露わになっていく。
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今作の冒頭は「年老いた家元のもとに家族が皆で集まって誕生日を祝う」という微笑ましいものとなっている。だが和気藹々としたムードから一転、物語が進むにつれてこの印象は崩れ去り、歪な真実の数々がプレイヤーを引き込んでいく。
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ある登場人物が血液型に基づいて自分の性格を評したあと、そのどうでもよさそうな内容が意味ありげにヒントとして明示され、嫌な予感がよぎった人も多いのではないのだろうか。
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劇中では密室トリックも登場するが、その真相も丁寧に練りこまれている。
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ネタバレ注意
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今作は劇中の殺人事件全ての実行犯を捕まえたところで物語が幕を閉じる。
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しかしノーマルエンド以上を達成していると本編では明かされなかったもう一つの真相が明らかになる。
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この事実は劇中の描写から十分推理可能となっており、"プレイヤーへの挑戦状"として隠されている。
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単にゲームをクリアするだけでなく、自力でこの真相にたどり着いて初めて完全クリアになるという凝った仕様となっている。
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ただしこの結末周辺には問題もあり……(後述)
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賛否両論点
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ゲーム性が薄く、攻略は総当たりに終始している。
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プレイヤーが気を付けるべきことは手詰まりになるまで各コマンドを繰り返すことくらいで、悪く言えば作業ゲーに近いところがある。
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マルチエンディングに直結する質問ではプレイヤーの推理力を試されるが、直前でセーブしてやり直せば無傷で突破できてしまう。このため、必要な会話を聞き漏らさない限りは初見でもベストエンドが狙えてしまう。
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ただし言い換えれば推理ADVを遊んだ経験のないプレイヤーにもわかりやすく作られているということでもある。映像重視でゲーマー以外の層にも向けたハードのローンチタイトルとしては需要に見合っている面もある。
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重要な情報は会話後に要約して強調表示されるなど、UI面では推理ADV初心者向けの誘導がしっかり行き届いている。
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この反動か、後続作『悪逆の季節』はややシビアな時間制限が追加され、難易度とゲーム性が増した。
問題点
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やや起伏が弱いシナリオ
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ミステリーらしいどんでん返しは評価点のある場面に依存しており、それ以外で物語の前提を丸ごと変えてしまうような場面は少なめ。
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真犯人も証拠が出揃うなりあっさりお縄になるので、当該部分を含めた作品として捉えないと物足りなく感じる側面がある。
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演出面には効果的な実写映像だが、UI面に対しては相性が悪い。
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登場人物のセリフを俳優が読み上げる都合、聞き込みの際には逐一ボイス再生を待つ必要がある。字幕の表示も行われないので、テンポが悪い。
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重要な証言の後は要約した字幕が表示されるのだが、細かい伏線まで探す必要のあるミステリーとなればそれ以外の部分も検証の余地があり、過信できない。結局ボイスを全て聞く羽目になる。
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いちいちロードが入る煩わしさも前作同様。
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今作は同じ選択肢を何度も調べ、内容の変化を確かめなければならない場面が多い。既読かどうか再確認するまでに時間がかかってしまう。
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その他にもUIの洗練不足が垣間見える。
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「調べる」コマンド使用時はクリック用のポインタを操作することになるのだが、その移動速度が遅すぎる。
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3D空間の探索パートも同様で、移動のテンポがかなり悪い。
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しかも3D描写に不備があり、カメラの視野がかなり狭い。このせいで現在地を誤認しやすく、横を向いても思った通りの位置に向けない事がある。
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真エンドのとある要素は批判の声が根強い。
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初見プレイで到達した場合はそれほど問題ないのだが、ノーマルエンドに到達済みの場合は話が変わってくる。
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評価点の折りたたみ内容を含むネタバレ注意
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どれだけ完璧に攻略しても、黒幕を捕らえることはできない。
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この黒幕は真犯人とは別にノーマルエンド以上で明かされるのだが、真エンドでもその人物を制裁することはできない。事件の渦中となった桜木家を崩壊させておきながら、手を汚さずに一人勝ちをして逃げおおせることになる。
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挙句、肝心の真エンドの内容は小川氏演じる主人公がこの物語の作者である事を明かし、この真相にたどり着けたかどうかを聞いてくるというもの。
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単に後味が悪いだけならまだしも、黒幕が明かされるノーマルエンドの延長でこれというのがなかなかに厄介である。一見して「ベストエンドなら黒幕を倒せる」と誤認しやすくなっており、ハッピーエンドを目指して遊んだ末に見せられるのが「黒幕を倒せないどころか楽屋オチ」という……
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黒幕を倒せるエンディングは存在しないと伝えているも同義であり、その煮え切らない終わり方には不満を訴える声も多い。
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総評
高精細な映像が扱えるとゲームソフトはどう変わるのか、そんな3DOの命題に答えたローンチタイトル。
「テレビのサスペンスドラマをゲームで遊べるようになった」という点は画期的で、ハード初期にして新鮮な体験を実現することとなった。
単なる映像鑑賞だけでなく、ゲームとしても10年来のノウハウが蓄積された「選択式コマンドアドベンチャー」のシステムは問題なく担保されており、ジャンル未経験者にも優しく作られている。
当時の3DO市場の方向性がギュッと詰まった一作である。
余談
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前作に続き、作者の娘である紅葉氏は今作にも主要人物の一人として出演している。
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山村作品の準レギュラーである狩矢警部は、今作では西岡徳馬氏が演じているのだが、このキャスティングはTBS版キャサリンシリーズに引き継がれた。
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西岡氏は後発の『悪逆の季節』にも友情出演を果たしており、キャスト名も「狩矢警部改め西岡徳馬」と一風変わったクレジット表記が行われている。
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今でこそネットの口コミで高く評価されている今作だが、専門誌の評価は意外と苦戦気味だった。
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3DOマガジン編集部評価は10点満点中の4点と厳しめで、読者からは起伏の弱さを指摘する声があった。
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読者投票でも他の作品に票を取られており、同じADVでも評価が大きく割れた『チキチキマシン』を僅差で下回っている。当時のユーザーは後発の『悪逆の季節』の方を高く評価する向きが強かったようである。
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補足しておくと、前者のレビューはゲーム性を重視する傾向が強く、後者は性質上売れている作品が有利なうえ関連作品の『悪逆の季節』発売後(つまり票が割れやすい状況)だった背景がある。
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先述の通り今作はゲーム性が弱いため、編集部レビューが低かったのもこうした趣向が強く出たためとみられる。
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1996年に山村氏が急逝したため、今作は氏の生前に作られた最後のゲーム作品となった。
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真エンドではこの主人公による新作を示唆する描写があるのだが、叶わぬ夢となってしまった。
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「ミステリーが好きで推理も得意」というキャラ設定、評価点に記したフットワークの軽さなど、話を広げる余地の大きいキャラクターだったために何とも惜しい。
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「山村美紗」の名前を冠するミステリー作品自体はその後も媒体を問わず送り出されている。
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それはゲーム作品も例外ではなく、2008年にはDSで新作が発売された。
その後の展開
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発売・開発元のパック・イン・ビデオは今作の後も、3DO向けに実写ADVを展開した。
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3DOの性能を活かして実写サスペンスを作る動きは日本国外でも見られており、英語圏では『The Lost Files of Sherlock Holmes』『Who Shot Johnny Rock?』『Snow Job』などが発売された。
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3DOはリージョンフリーなので、英語を聞き取れるユーザーであればこれらのゲームも日本版3DOでプレイ可能。
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2009年には、今作が『悪逆の季節』と共にPSPでリメイクされた。詳しくはこちら。
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発売元は、パック・イン・ビデオを吸収合併したマーベラス。TVCMも放映されている。
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3DO専売ソフトが同世代以外のハードに移植されるのはかなり稀であり、需要の高さがうかがえる。
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ちなみに3DOでは後発だった『悪逆』の方が3か月先に発売されている。
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出演料や肖像権の都合か、登場人物は『かまいたちの夜』のような青シルエットに差し替えられている。最大の売りが失われてしまったため評判は総じて悪い。
最終更新:2025年05月31日 00:00