本記事は3DO版の解説です。2009年に発売されたPSPリメイク版はこちらを参照してください。


西村京太郎トラベルミステリー 悪逆の季節 東京~南紀白浜連続殺人事件

ジャンル アドベンチャー
対応機種 3DO interactive multiplayer
発売・開発元 パック・イン・ビデオ
発売日 1994年11月25日
定価 12,800円(税抜)
レーティング 3DO用審査:E 一般向
プレイ人数 1人
判定 良作
ポイント 3DO向け和製実写サスペンス第二弾
東京と和歌山で同時進行する連続殺人
迫る迷宮入り、限られた行動回数で謎を解け
『鞍馬山荘』に比べゲーム性が増し、遊びごたえ上昇
反面、仕様の都合でダレやすくなった部分も
西村京太郎シリーズ


概要

3DOのウリである実写映像を活かした推理アドベンチャー第二弾。
ローンチタイトル『京都鞍馬山荘殺人事件』の布陣により、同様のコンセプトで送り出された。
こちらも引き続き、販売はパナソニック、発売・開発はパック・イン・ビデオが行っている。
山村美紗氏と西村京太郎氏は家族ぐるみで親交が深く、ゲーム作品が度々セットで出されているが、3DOにおいても共演を果たすこととなった。

これ以前のゲームシリーズ作品は『西村京太郎ミステリー』と名付けられていたが、今作は89年以降のドラマシリーズに合わせて『西村京太郎トラベルミステリー』と改題されている。*1
キャストはドラマ版と異なり、今作オリジナルとなっている。

シンプルなシステムにまとまっていた『鞍馬山荘』とは打って変わって、今作は調査行動に様々なルールが追加され、ゲーム性が増した。


あらすじ

7月11日深夜、ジョギング中の男が路上で殺された。
手にはなぜか新進気鋭の写真家が撮影した、水着のファッション写真が2枚。背中にはボウガンの矢が深々とささっていた。
写真家はこの事件となにか関係があるのか?なぜ、犯人はボウガンを使ったのか?
謎を追ううちに次々と事件が発生したーー。

(取扱説明書より)


特徴

  • 今作は西村作品でお馴染みの十津川警部(演:松方弘樹)が主人公となり、捜査一課を率いて事件を解決に導いていく。
    • 捜査メンバーは相棒の亀井刑事(演:荒井注)を始め、西本刑事(演:宮川一朗太)、北条刑事(演:泉本のり子)、清水刑事(演:山本陽一)を合わせた5人の布陣で構成される。
    • おなじみの時刻表トリックはゲーム終盤で登場する。
    • シナリオ中にシリーズ作品の前提知識などはないため、原作を読まなくても概ね楽しむことが可能。
      • ただし今作単体では捜査一課の人物描写が薄く、前提知識が無いと感情移入しづらい点に注意。
  • ゲームの目的
    • プレイヤーは捜査一課を指揮し、謎めいた連続殺人を解決に導いていく。
    • 事件は1994年7月11日未明、ジョギング中の男がボウガンに撃ち抜かれて命を奪われるところから始まる。
      • この不審な死を皮切りに、事件の目撃者への襲撃、遠く離れた和歌山での殺人事件が時間経過に伴って発生し、様相は混迷を極めていく。
    • 各事件のつながりから真相を見出し、的確な捜査で真犯人を突き止めればゲームクリアとなる。
      • なお捜査の最中はプレイヤーの行動により点数評価が行われている。たとえ真犯人に辿り着いても、高得点を出さなければベストエンドとは認めてもらえない。
  • システムは『鞍馬山荘』同様、オーソドックスなコマンド式ADVそのもの。
    • 複数のエリアを訪問して質問を繰り返し、事件の真相を解き明かしていく。
    • 今作は持ち物の概念が追加され、様々な人物に見せることで情報を引き出すことが可能となった。
    • ムービー等に関する操作形態も『鞍馬山荘』を引き継いでいる。
  • 今作の大きな特徴として、事件解決に日数制限が課せられるようになった。
    • 一定のイベントを消化するごとに日付が経過した『鞍馬山荘』とは異なり、今作ではイベントの消化状況に関係なく、行動のたびに時間が経過する。
      • ゲーム前半の大半のイベントに限り、特定の日時に強制発生する。それ以外は捜査の進行に伴って随時発生する。
    • 1日のうち、捜査一課が調査できる場所は4ヶ所のみ。
      • ゲームを進めるにつれ、調査可能なエリアは9ヶ所にまで増えていく。適当に回っていると収穫のないまま1日が終わってしまうため、シナリオをきちんと理解しながら慎重に訪問先を選ばなければならない。
      • ムービーシーンの容量の都合、ディスクが変わると以前行けた一部エリアが調査不能となる。
    • 最初の事件は7/11に起きるが、8/9(ちょうど30日目)までに事件を解決できなかった場合はゲームオーバーとなる。
      • またDISK1を7/30までに終了できなかった場合も同様。
  • 一日の行動は捜査一課本部を拠点に始まり、そこでしか使用できないコマンドがいくつかある。
    • セーブはここでのみ実施可能。ファイルは最大3つ。
      • 3日ごとに別途セーブが可能となっており、後からその場面で再開することもできる。
    • 一日に一回、会議を行うことができる。
      • ここでは5人の刑事を好きなように一人ずつ選べて、何か情報があれば引き出すことが可能。
      • ただし無暗に選択すれば良いわけではなく、余計な行動を繰り返すとベストエンド条件のスコアが減点されてしまう。
    • 捜査に出発した後は捜査一課にいつでも戻れるが、その場合は1日経過してしまう。
  • ゲーム中には以下のミニゲームも一度ずつ挿入される。
    • モンタージュ:目撃情報を基にして人物の顔を作成する。
    • 張り込み:ある容疑者の自宅を監視し、不審な動きが無いかを探る。
      • ゲームというよりは疑似体験を意図したムービーに近く、カメラを様々な場所に切り替えて映像を見るたびにゲームが進行する。
    • 尾行:『ドラゴンズレア』『タイムギャル』のようなLDゲーム方式のミニゲーム。容疑者を追跡するムービーの最中、タイミングよくボタンを押し、分かれ道を追跡したり物陰に隠れたりしてゲームを進める。
      • 途中、人ごみに隠れた容疑者を見つけ出すパートも存在する。
  • なおレーティングは「E 一般向」となっているが、現代のCERO基準ではC相当以上に引っかかる描写も存在する*2。過激な表現が苦手な人や、子供が遊ぼうとしている場合は注意。

評価点

  • 『鞍馬山荘』同様、実写サスペンスドラマの魅力は健在。
    • 主演の松方弘樹氏や相棒役の荒井注氏を筆頭に、出演俳優はより豪華となった。時代劇やサスペンスドラマで名の売れていた俳優を中心に、アイドルから悪女俳優に転身を遂げた喜多嶋舞氏や『仮面ライダーBLACK』で知られる倉田てつを氏など、幅広い分野の俳優が集まっている。
    • 特に今作は登場人物の"二面性"を映し出した描写が多く、内面を意識した俳優陣の演じ分けも力が入っている。
      • 尋問の時だけねっとりした声で威圧する松方氏の演技はなかなかに印象的。
      • 女癖の悪い尊大な男が趣味の話の時だけウキウキになるシーンや、人当たりのいい好々爺のマスターが親しい店員を疑われて激昂するシーンは必見。後者はゲーム中盤の選択肢に応じて専用の会話も用意されている。
    • 後述の通り今作は周回プレイが前提の難易度となっているが、各登場人物の内面を知ってから動画を見直すと新たな発見に気づかされることも。
      • 特にゲーム序盤、ヒロインが夜道で追跡されるシーンなどは、2周目になるとモブキャラの印象が違って見えてくる。
    • ちなみに今回はサスペンスドラマらしくもきちんと出てくる。
  • 『鞍馬山荘』と比較して、ゲーム性が大きく増した。
    • 今作は日数制限が搭載されたことで、機械的に総当たりして突破することが不可能となっている。
      • 道中で得たヒントや会議で出た結論をきちんと咀嚼して行動しなければならず、いい加減に遊んでいると痛い目を見る。
      • 早く解決しなければ迷宮入りしてしまうシステム面も雰囲気作りに一役買っており、実際の捜査をしているかのような没入感がある。
    • この日数もタイトに設定されており、いい加減なプレイングは許されない。
      • 行き先の把握に限界がある初見プレイであれば、タイムリミットの8/9は割と間近に迫ってくる。エンディングまで、決して気の抜けないゲーム展開となっている。
    • 一周あたりのボリュームも2倍近くと、さらに深く遊べるようになった。
  • ベストエンドへの導線も親切。
    • エンディングを見終わった後は採点結果が示され、「どのくらい上手くプレイできていたのか」「何が良くて何がダメだったのか」を大まかに類推できるようになっている。
      • 項目は「情報力」「判断力」「日数」の3項目。最大値も明記される。
    • このシーンでは捜査一課の誰かがアドバイスをくれるようになっている。ノーマルエンド時はベストエンドの存在を示唆し、ベストエンド時は最高の結果で終われたことを教えてくれる親切設計になっている。
  • 起伏に富んだシナリオ・人物描写も見どころ。
    • 先述の通り、今作は登場人物の表と裏が強く意識されており、描写が丁寧。
      • ほとんどの人物が他人に言えない何らかの秘密を抱えており、キャストの演技も後から見直して伏線を楽しめたりする。中には、ゲームを遊び終えても明確な答えが無い、考察の余地がある表情も含まれている。
      • 今作では各被害者に対して自宅の検証ができるのだが、そこから各人物の平凡な日常が読み取れるようになっている。日常と殺人事件の対比は独特の雰囲気作りに一役買っており、殺された経緯や他の人物の噂を聞くことで様々な考察が楽しめたり。
    • 物語を進めるにつれムービーシーンが挟まるのだが、その多くは登場人物に命の危機が迫るもので、中弛みを感じさせない構成が魅力的。
      • これに伴って事件の構造も二転三転し、推理の楽しさが増す要因になってくれる。
    • 終盤に入ってからある人物の素性に闇が明かされるなど、作品の全般に渡ってどんでん返しが散りばめられているのも特徴の一つ。一見無関係な人物に様々なつながりが次々と発覚し、最終的に一本の線で繋がる構成はなかなかの見どころがある。
      • タイトルにある"悪逆"とは「人道に外れた、ひどい悪事・悪行」という意味を持つ。全ての真相を紐解くと、タイトルに偽りのない物語だったことが明らかに……
  • 時刻表トリックのユニークな楽しさも健在。複雑な情報から謎を解き、正解に導けた時の快感は格別である。
    • 実写映像が使えるようになったこともあり、今作では時刻表も実写取り込みを使用している。情報量が増えたことで露骨な伏線がわかりづらくなり、やりごたえが増した。
  • メインテーマ「ぬくもりの記憶」が良曲。
    • これは起動時に毎回流れるオープニングテーマなのだが、タイトルにある『悪逆の季節』を体現したような、悲壮感に溢れたメロディが印象的である。
      • 起動すると、企業ロゴが消えるよりも前にこの曲が耳に入ってくるのだが、イントロが綺麗。
      • 曲調はいかにも2時間ミステリードラマのオープニングといった雰囲気で、「ゲームで遊ぶミステリードラマ」と言うべき今作のコンセプトにも合致している。
      • 会議パートなどをやり直す目的で幾度となく聞く羽目になるので、耳につくことは間違いなし。そして……
+ ネタバレ注意
  • そのメインテーマがエンディングにおいて歌詞付きで流れる。
    • ゲーム起動時に何度も聞かされてきたBGMがいきなりパワーアップして戻ってくるので、これまた良い意味で意表を突かれる演出となっている。この曲の真価はここにあると言っても良い。
  • 必見のNG集
    • クリアデータを読み込むとNGシーンが見られるようになるのだが、意外と再生時間が長く、クリア特典としても充実の内容。
    • 本編の物語後半は陰惨な真実も明かされていくが、このNG集は本編での暗いムードも吹っ飛ばしてくれるので、ちょっとした救いにもなる。
      • 特にバッドエンドを見た後であれば、少し気分も晴れるかもしれない。
    • 余談だが、クリア時には全編をドラマ仕立てで見られるモードもさりげなく解禁されている(ロード時の日数選択で一番上を選ぶことで閲覧可能)。

賛否両論点

  • 『鞍馬山荘』がシンプルだった反動か、今回は難易度もやりごたえあるものとなった。
    • 1周目のベストエンドはなかなか厳しく、周回を前提としたガッツリ遊べる内容となっている。
    • 遊びごたえが増した一方、2周目でベストエンドを狙うにしても少しシビアなのが否めない。
      • 具体的には、1周目のプレイ内容をきちんとメモして挑んでも最後の採点で満点を取るのはかなり難しい。
      • 例えば採点項目の「日数」は最速ルートで無ければ満点にならず、調査の取りこぼしが許されない。
      • 満点を取らなくてもベストエンドは見られるが、ちょっと気を抜くとベストエンドを拝むのもままならない。
    • ベストエンド狙いは「どうすれば効率よく調査できるか」というパズル的な面白さがあり、作業になりにくいのが長所。
    • 一方、後述するUI面の不備により時間がかかり、少しダレやすいのも短所である。
    • 何にせよ、今作を攻略情報なしで挑みたいのであれば、1周目からメモ帳を準備しておくことを強く推奨する。

問題点

  • 『鞍馬山荘』とシステムが共通しており、そちらにあったUI面の不備(ボイスによるテンポの悪さ、既読確認の煩わしさ、ポインタ操作の遅さ)はほぼそのまま。
  • ムービーを飛ばせないことが多く、テンポが悪い。
    • 今作は一度見たムービーに限りスキップ可能なのだが、事あるごとに視聴フラグが消されるようになっており、同じムービーを何度も見せられる。
      • フラグが初期化されるタイミングは不明。
    • 会議を始める際に音頭をとるだけのシーンや、現場を立ち去るだけのシーンなど、必要性の薄い冗長なムービーが至る所に差し込まれるため、飛ばせないのはもどかしい。
  • 日数が経過しないと進行できないタイミングが点在し、少しダレ気味になる。
    • こうなるとどこを訪問しても物語が進展しないため、単に無駄足を歩かされることになる。
    • あろうことか、最速ルートでも何かしら発生する。
  • 会議が長引くと減点されるシステム
    • この仕様は説明書にも明記されているのだが、単純に面倒。
      • 具体的な仕様は明かされていないのだが、じっくり調べたらいいのか手を抜いたら良いのか判断しようが無く、何より初見では判断しようがない。プレイの快適さを削ぐものとなっている。
    • 厄介なことに、メンバーによっては複数回選択して初めて情報を出してくるケースが多々あり、会議を長引かせてはならないシステムと矛盾を起こしてしまっている。
      • 一度に複数回聞かなくても後日聞くことは可能だが、ベストエンドのために最速クリアを目指す場合は複数回選択が必須。
      • 酷いことに、情報がないときの汎用セリフを消化しないと次のセリフが出てこないパターンもある。
  • ミニゲームが初見だと理不尽。
    • モンタージュは目撃情報から顔を組み立てなければならないのだが、口に関しては目撃者が「私好み」と言い出すため、勘で当てなければならない。
      • それを抜きにしても主観的な表現(「小さめの団子鼻」など)が多く、初見の突破は難しくなっている。
    • 尾行も高難度。ボタンを押すタイミングは猶予時間が大きいものの、初回ではいつ押せば良いのか判断しづらく、失敗を繰り返す要因となる。
      • 意地悪なことに、このミニゲームの直前に行われる張り込みイベントは割と長く、セーブしてからやり直すまでに時間がかかる。リトライにわざと制約をかけているのかと思えるほどで、かなり厄介。
  • ムードを削ぐ音響面
    • 今作は大半のシーンにおいて淡々とした調査BGMが流れるのだが、シリアスな出来事が発生するムービーの後でも変わらず流れ続けており、雰囲気が台無し。
    • ムービーシーンでは焦燥感を煽る曲が流れるのだが、ムービーが終わるなり雰囲気に合わない曲に切り替わってしまう。
    • 例えばDISK1終盤は尋問シーンなのにサンバ調の曲が流れ、DISK2後半に至ってはある人物の墓参りが描かれて以降ずっと追悼ムードのしんみりした曲が流れるような始末。
  • 最初の事件は描写が不親切。
+ ネタバレ注意
  • 詳細は割愛するが、事件のネタバレにならないよう様々な過程を省略しており、真相を知ってから映像を見直すと意地悪に感じられるレベルで編集されている。
  • また現場周辺の上面図が無く、「ボウガンが撃たれたと考えられる位置」がどこだったのか一切言及がない。
    • 今作はこの発射位置が真犯人のアリバイトリックに利用されているのだが、場所についての説明が全くと言っていいほどなく、アリバイを仕組んだこと自体がわかりづらくなっている。
  • 時刻表トリックの謎を解く際、一度でも路線図や時刻表を見ると直前ムービーがリプレイできなくなるバグがある。
    • 状況が複雑なだけあり、問いかけの内容・状況を確認できなくなるのは割と厄介である。
  • ツッコミどころが多い犯行計画
    • 本シリーズの他記事でも指摘されている要素だが、今作にも健在。
      • 特に一つ目の事件は作中描写との矛盾も含まれ、推理を間違える要因にもなる。
      • 一部は脚本の問題というよりも、撮影現場の都合で不自然になっているものもある。
    • こうした事情を鑑みると、今作はトリックよりも人間ドラマに重きを置いた作品と割り切った方が良いかもしれない。
    • なおシリーズ名物の時刻表トリックについては、(ミステリー作品における睡眠薬の万能っぷりを許容するのであれば)きちんと成立したものになっているのでご安心を。
+ 核心に触れるネタバレ注意
  • 今作には4つの殺人事件が出てくるのだが、その殆どはやたら実現可能性が低く、大博打に近いものとなっている。
  • 1つ目は「ターゲットが日課のジョギング中に写真を拾ったところを上からボウガンで撃つ」というもの。アリバイ工作の都合により日を改めてやり直すのは一切許されないのだが……
    ・写真が風で吹き飛ばされたらアウト
    ・まず拾ってもらわなければアウト
    ・拾い方によっては犯人のアリバイを確保できる撃ち方にならない
    ・犯人は短時間で済む野暮用のフリをしてベランダから撃とうとしており、ターゲットが現場を通るタイミングが少し遅れるだけでも致命的
    ・まず犯人がボウガンの技術に長けている描写がない
    と、むしろ成功できたのが凄すぎる内容。
    • 決して重箱の隅をつつくような粗探しでは無く、実際にターゲットは危うく通り過ぎかけていたり、ボウガンの選手が「狙って当てるのは結構難しい」と発言しているシーンがあったりと、作中の描写だけで割と矛盾が成立している。
    • 特に「難しい」発言が厄介。劇中でボウガンを扱っている人間は1人しかおらず(しかも真犯人とは別)、作中には「なぜボウガンなんかを選んだのか」という発言もあるため、犯人を間違える要因になる(ちなみに犯人がボウガンを選んだのは技術面とは異なる理由)。
    • 作中で入るフォローによれば「競技ボウガンの試合を見ていて慣れていたから」とのことだが、見よう見まねでそこまでできる才能が恐ろしい。殺人ではなく別の場所で活かすべきだったのでは……?
    • また犯行現場のベランダの隣には室内に友人がいたのだが、ボウガンを撃った際には結構な音が鳴っている。作中では友人が「会話に夢中で外の音に気付かなかった」と語っているのだが、会話が盛り上がっていなければ普通にバレていたのでは……
    • また作中で説明されたトリックと実際の描写が異なっており、被害者はアリバイトリックの想定と異なる姿勢で普通に撃たれている。解決編での描写なので推理には影響しないが、もう少し丁寧に演出して欲しかったところ。
  • 2つ目の事件は、ターゲットを特定の時刻にホテルのロビーに呼び出し、17分しかない猶予の間に刺殺するという、これまたシビアなもの。
    • 結果的にターゲットはロビーにおらず、代わりに人目につく公衆電話を使っていたところを背中から刺すというリスキーなことをやっているのだが、気づかれた様子はない。
    • また電話の最中に刺されて断末魔をあげているのだが、通話相手にも周辺の人間にも気づかれた様子がない。
  • 4つ目の事件は殺意を持って襲ってきたターゲットを正当防衛の体で殺すというものなのだが、これも首を絞められていた最中に近くにたまたまナイフが落ちていて反撃できたという幸運すぎるもの。
    • 現場が自宅だったので、他にも凶器を隠しておいた可能性はあるが、あと一歩で死にかけていたことを考えるとかなり無計画である(実際、真犯人はここで昏睡状態になって病院に送られている)。
    • 劇中の描写ではどう見ても正当防衛なのに、その後は「真犯人が正当防衛で殺したのかどうか」が争点になっている。もしかすると、脚本の時点では第4の事件が描写される想定は無く、計画的に殺した後の現場しか描かれない想定だったのかもしれない。
    • 劇中でも、この計画はかなりリスキーに進められていたことが指摘されている。

総評

『京都鞍馬山荘殺人事件』で好評だった実写ドラマ要素はそのままに、システム面も正統進化させた作品。
そちらでのゲーム性に関する物足りない部分は概ね改善しており、3DOのADVとしても比較的濃厚に遊べる作品となっている。

シナリオは各人の秘密・内面が多数盛り込まれているが、その実写映像との相性は抜群。
表情・しぐさ・声といった俳優陣の演技が重視される展開が盛り込まれており、周回によって味わいが増す人間ドラマは今作一番の見どころである。

1周目でベストエンドを狙うのはかなり厳しいものの、次周からは諸要素をしっかりメモしてパズルを解く感覚で挑むことで、ギリギリ突破できる絶妙な塩梅に仕上がっている。
独特なシステムでありながら完全移植が一切ないので、3DOの中でも優先的に入手するソフトとしてもおすすめである。


余談

  • ネット上だと当時の3DOユーザーの話題はローンチである『鞍馬山荘』に奪われがちだが、当時の雑誌では『悪逆の季節』が更なる高評価を受けていたことを確認できる。
    • 94年ソフト限定の読者投稿では、ローンチ故にユーザーも多かったであろう『鞍馬山荘』に対しておよそダブルスコアを付けていた。これは3DOの主力ジャンルであるADVに限定すると、かの『アローン・イン・ザ・ダーク』に次ぐ2位だったりする。
    • 3DOは映像美によるADVと実写映像を主力に据えていたが、同誌の投票結果を踏まえると日本の3DO市場で最も支持を集めた実写ADVという見方もできる。
      • 投票でこれより上位に実写ADVは無く、翌年に至っては総合ランキング上位へのランクインが一切無い(ただし『ブルー・シカゴ・ブルース』のように知名度の都合でランクインしなかったと見られる作品もある)。
      • 3DOには『ショックウェーブ』『Wing Commander III』(いずれもSTG)『ザ・ホード』(SLG)のように演出の一環で実写を効果的に使った作品はそれなりにあるのだが、ADVに直接用いて成功させた作品は意外とごく一部であった。
    • 3DOマガジン編集部のレビューではなんと9/10点を獲得。
      • これは『アローン・イン・ザ・ダーク』や、同ハードの人気タイトルである『ロードラッシュ』と同点であり、同ハードの代表格である『スーパーストリートファイターIIX』(8点)を上回る大金星である。
    • ちなみに同ハードで『Dの食卓』をヒットさせた飯野賢治氏も同誌でお気に入りタイトル10本を挙げた際に今作を選出していた。
  • 現状、西村京太郎シリーズのゲームで十津川警部たちを題材にした最後の作品となっている(リメイク除く)。
    • ゲーム作品では彼率いる捜査一課が毎回主役を務めていたが、これより後に出たDS作品は専用の主人公にとって代わられた。
  • 今作の俳優陣が再度結集することはなかったため、完全オリジナルキャストとなった。
    • 数年後には主演の松方氏が不祥事を起こして干され、さらに数年後は荒井氏が鬼籍に入られたりと、再度集まる状況は早くも絶望的だった。
  • 東映特撮ファンになじみ深い白倉伸一郎氏がプロデューサーの一人として参加している。
  • ゲーム終盤、捜査一課が証拠品を確認するために3DO REAL*3を使ってフォトCD*4を再生する場面がある。
    • 今作はパナソニック販売ということで背景小物にも同社の製品が使われている*5のだが、あまりに斜め上な使い方にツッコミ必至である。
      • 該当シーンはある人物の悲壮な背景が明かされるシリアスな場面なのだが、そのシュールさに没入感を削がれたプレイヤーもいるのではないだろうか……
    • 尤も、3DOは様々な用途に使える家電製品を目指して売られていたハードであり、このシーンもまた3DO社やパナソニックが想定していた本来の使い方の一つということなのだろう。
      • 規格の生みの親であるトリップ・ホーキンス氏は新たな汎用ツールとして3DOが普及する未来を思い描いていたのだが、実現していたら警察が証拠検証に3DOを使う未来もあったのだろうか……?
      • ある意味3DOのアピール・宣伝を兼ねたシーンでもあるのだが、ここで再生していた写真は私的な目的のために撮影・保存した強姦現場という、フォトCD再生機能のイメージダウンに繋がりかねない代物である(過激なうえに物語の核心に触れるので閲覧注意)。3DOはソフト販売のチェックが優しかったらしいが、懐が広すぎないだろうか……

低評価リメイクによる風評被害

  • 『鞍馬山荘』同様、今作も2009年にPSP版が発売されているのだが、こちらの評価は褒められたものではない。
    • 詳しくはPSP版の記事参照。
      • なお数ヶ月後のPSP版『鞍馬山荘』はムービー削除やミニゲームの改悪はなされておらず、大分マシになっている(ただしこちらも依然として評価は低い)。
  • 単なる劣化リメイクはよくあることだが、今作の場合は3DOとPSPの知名度に開きがありすぎて、笑えない風評被害を起こしている。
    • 本記事初稿時点の2025年3月現在、3DO版を紹介した個人サイトは皆無と言ってよく、Amazonレビューすらも投稿されていない。このため検索するとPSP版の話題ばかりが出てきて、3DO版を遊んだ感想はほぼ言及されていない状態にある。
      • 先述の通り、当時のユーザーの話題はローンチの『鞍馬山荘』に集中しており、そちらを扱った記事は散見される。
    • 「別機種の評価なら3DOは関係ないのでは?」と思われるかもしれないが、実際はシルエット以外の深刻な劣化要素に言及したレビューが皆無で、一見3DO版と共通する要素までこき下ろされているので、3DO版の評価まで誤解される状況になっている。
      • 片やマイナーハード限定作品、片や原作プレイヤーからすれば見えている地雷でしかないため、両方遊んだプレイヤーが限られるのも仕方がないだろう……
    • 3DO版の感想はSNSや5ch、動画サイトのコメント欄などといった、検索ページからワンクリックで遷移しづらい場所に集中している。
      • こちらは当時遊んだユーザーを中心に好意的な声が多い。先述の通り、3DO版は発売当時から好評をもって受け入れられている。
  • PSP版は多くのレビューでシナリオ・システム・ミニゲームといったほぼ全要素が否定されているのだが、実はいずれも3DO版から改悪されている。
    • シナリオは基本的な流れこそ同じなのだが、人物描写から演出に至るまで重要な要素が大量に削られており、得られる印象は全くの別物。
    • ゲームシステムは必須レベルの情報が説明書に記載されておらず、本来のゲームコンセプトすらわからなくなっている。
    • ミニゲームはモンタージュ・張り込み・尾行といった構成は同じものの、張り込みと尾行に関してはシステムが別物となっており、そのうえ完成度が低い。モンタージュは改善点こそあるものの、UIが劣化した挙句、シルエットを採用した都合で本来想定されていた演出が意味をなさなくなってしまった。
    • そのうえ今作は発売時にレトロゲーのリメイクであることが公式から周知されておらず、完全新作と同等の扱いで批評したとみられるレビューもある。
    • また通常プレイでは明らかに発生しないタイミングでゲームオーバーになった報告もあり*6、PSP版には未知のバグが存在する疑惑もある。
  • 炎上したゲームではよくあることだが、不満が昂じるあまり、あらゆる推理ADVやシリーズ作品全般に言えることに対しても偏見・言いがかりに近いこき下ろし方をしている批評、実際のゲーム内容と食い違う批判も多数ある。
    • これにより、結果的に3DO版にも理不尽な流れ弾を飛ばしているレビューが複数ある。そういった観点からも、3DO版の入手を検討しているユーザーはPSP版のレビューを鵜呑みにしない方が良い(何ならPSP版の評価を調べる場合も注意)。
    • 両機種版の評判を見比べると、確証バイアス*7の恐ろしさがよくわかるかもしれない……
  • ただし現代の基準で遊び辛いシステムとなっている面は否定できないところもあり、そこはPSP版同様なので注意。
    • とは言えわざわざ3DOを手に取るレトロゲーマーであればこれも承知の上だろう。
    • 先述の通り、説明書にシステムの意図が記載されていないことで発生している批判もあるため、レビュー内容を3DO版に直接当てはめるのは避けた方が良い。
最終更新:2025年04月12日 00:18

*1 2作目『スーパーエクスプレス殺人事件』と3作目『北斗星の女』はいずれも90年発売で、改題が定着する前の作品だった。

*2 PSP版の判定より(ちなみに『鞍馬山荘』はB)。いずれも実写を廃止したことで表現がマイルドになったため、一概に同一視できない点には注意。3DO版の場合は終盤の描写により、D相当もありうる。

*3 3DO規格製品のうち、パナソニックが発売した最初のバージョン。おそらく最も有名な型。

*4 当時普及していた、写真保存用のCD。3DOはこれが再生できる点も売りの一つにしていた。後にセガサターンもこれに対応させているが、そちらは別売りのツールも用意する必要がある。

*5 テキストで明言される場面もあるのだが、所持している人物はどうしようもない犯罪行為に及んでいるので逆効果にも……

*6 Amazonレビューにて「5日目でゲームオーバーになった」とあるのだが、通常であれば選択肢の誤答を行うか30日目になるまでゲームオーバーイベントは発生しない(前者を5日目までに発生させるのは不可能)。レビュー内容はかなり詳細に書かれていることから、記憶違いの可能性も低い。

*7 一度決めた持論を補強するために、都合の良い情報ばかりをかき集めてしまう現象のこと。