都市伝説解体センター
【としでんせつかいたいせんたー】
ジャンル
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怪異を解き明かすミステリーアドベンチャー
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対応機種
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Nintendo Switch プレイステーション5 Windows(Steam) Linux(Steam) |
発売
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集英社ゲームズ
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開発
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墓場文庫
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発売日
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2025年2月13日
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定価(税10%込)
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パッケージ通常版: 3,740円 パッケージ限定版: 6,930円 ダウンロード版: 1,980円
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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オカルト✕SNSの現代ノベル 優れたピクセルアートと演出 ゲームとしてはカジュアル層向けの作り
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概要
インディーゲームメーカーの墓場文庫が開発したタイトル。
本作の前身となる同メーカー開発の『和階堂真の事件簿』がGoogle Play Indie Games Festival 2021にて集英社ゲームクリエイターズ賞を受賞した縁から集英社がパブリッシングを務めている。
ストーリー
怪異、呪物、異界などの調査・解体を行う『都市伝説解体センター』。
主人公の福来(ふくらい)あざみは、『都市伝説解体センター』のセンター長であり
国内屈指の能力者である廻屋渉(めぐりやあゆむ)とともに、
「都市伝説」絡みの依頼を解決していくことになるが…
(公式サイト Introductionより引用)
特徴・システム
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基本的なシステムは上記の『和階堂真の事件簿』シリーズがベースとなっている。
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2Dマップ内でプレイヤーは主人公のあざみを操作し、各人物との会話や特定の箇所を調べることで情報を集めることになる。
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必要な数の証言・証拠が集まればそれらを元に得た情報を整理することが可能となり、ストーリーが進行する。
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2Dマップ内ではあざみが眼鏡をかけると「念視」を発動し、現場の過去の痕跡を見ることができる。
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捜査は基本的にSNSでの情報集めから開始し、ゲーム中の架空のSNSツール上で気になる投稿の深掘りや絞り込み検索による状況把握を経て現地調査に移る。
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章仕立てになっており、各章はSNS捜査→現場での探索→SNS捜査…を繰り返してストーリーを進行する流れになっている。
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SNS捜査では作中のSNSにて語られている事件に関するコメントを精査し、事件に関連する情報を導き出すためのキーワードを発見することでさらなる情報を入手できる。
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SNS捜査中にも念視を使うことは可能で、進行に必要な特定の単語を見つけ出すことができる。
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現場での探索は概ね『和階堂』シリーズや一般的な推理アドベンチャーと同様、会話やオブジェクトの調査を重ねて、ある程度情報が集まるとそれを元に仮説を立てられるようになり、有力な説を導き出すことで進行する。
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十分な証拠を集めて推理の方向性が固まると、事件現場で起きた都市伝説の「特定」(扱っている事件が何の都市伝説にカテゴライズされるものなのかの判断)、および、実質的な事件解決にあたる「解体」が行える。
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「解体」後はその章のエピローグが綴られ、話に区切りがついた場面で幕引きとなり次章に続く。
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人物の関係や章のあらすじなどは調査メモに記録される。
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話題に上がった都市伝説についても記録され、都市伝説解体センターのキャラ「トシカイくん」による解説が記録される。
評価点
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登場人物のキャラがしっかりと立っている。
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純粋でかわいくも独特のシュールさも備えた主人公のあざみ、いかにもな胡散臭さを見せながらここぞという時に頼りになる廻屋、俗っぽさと裏の顔の両面があるジャスミンと、メインの三者それぞれが魅力的。
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関係性としても「騙されやすくふわふわとしたあざみを翻弄する廻屋」「そのあざみを一見冷たく突き放しながらもしっかりサポートするジャスミン」といった、異なるキャラクター性による掛け合いがハマっており、相関がゲームの面白さに寄与している。
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各章の登場人物も個性的だが過剰なキャラ付けをしすぎず、非現実的な存在にならないようになっている。
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ドット絵を用いたビジュアル・各種演出がとても良い
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『和階堂』ではシンプルなビジュアルというコンセプトとは言えど物足りなさもあった美術面が大きく強化されている。
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前作では会話場面でも各登場人物の顔をフィールドでのドット絵を引き延ばしたものを使用していたため、各人の感情把握に難があった(そもそも誰が誰なのかが一目で分かりにくかった)が、本作では表情が明確に描かれるようになり、更に豊富な差分も用意され、そうした問題は解消された。
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ゲーム全体で明度を抑えた色合いに統一されつつ、血や念視で見えるものに赤色を強調的に使うという特徴的な配色は本作でも踏襲されており、正体不明の物が強調されることでしっかりとしたホラー感がある。
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イベントスチルやアニメーションも多用し、見せ場で効果的な演出を行うことで、本を読み進めるようなじわじわ進むテキストパートとの間でメリハリがついている。
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そのため『和階堂』シリーズからの進化としても、あるいはアドベンチャーゲームのジャンル全般としても、演出面のレベルは高いといえる。
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特定、解体という一連の流れは「アイ・オープナー!」との決めゼリフと共に廻屋の精神世界のような背景で行われる。廻屋の変人的な振る舞いとオカルト・超現実感がないまぜとなった独特の雰囲気で進み、本作を象徴する場面となっている。
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作者曰く特撮の変身ポーズをヒントに考えた演出で、各話の「お約束」となると共に外連味が効いている。
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各章のラストでは主題歌「奇々解体」が流れつつ、その話での主要人物たちのその後が断章的に提示される。いわばテレビドラマのエンディングに近い手法であり、余韻を残しつつも次章への引きとなる終わり方をする印象的な演出となっている。
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ここで描かれるごく短いシーンがいかにも暗示的な、この先どうなるのか気になる描写をちりばめているため、物語への期待感を大きく高めている。
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結末に向けて集束してゆくストーリー
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一見章ごとに都市伝説を特定し解体していくという1話完結作品と思わせて、それぞれの事件の裏には一本の大きいストーリーがあり、各章の出来事が結末に向けて繋がっている。
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プレイ中に違和感を覚えるであろう箇所があるが、それこそがちゃんと結末及び「最後の真実」の伏線になっている。
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リアリティのある生々しいSNS
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ネットを取り扱う作品でたまにある失敗例として、作者のセンス・ネットの認識が一周遅れてて古さを感じてしまったり、既に寒くなったスラング等が出てきてしまい興ざめすることがあるが、本作は違和感がない2020年代のネット社会のそれとなっている。
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「現在は社会人の元・配信者」や「配信者自身が自らビジネスも行う」など個人の配信者が既に一般化された世界観で、作中のSNSの書き込みも往年の匿名掲示板のような独自文化に基づくムラ社会のようなものでなく、リテラシーが薄い若年層や陰謀論に傾倒気味の一般人などが書きこんでいるような現実に足ついたリアリティを感じさせる。
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SNSの書き込みの中にはここに記述するのは憚られるような内容もあるが、あざみ・ジャスミンのツッコミや、双方のシュールなコメントで緩和しているため見てて不快になりすぎないように配慮もされている。
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そして一見ただの情報収集に使うネットそのものが結末に向けた種蒔きとなっており、この点は構成の巧妙さを感じる。
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後述の様な問題点もあるが、システム部分ではベースの『和階堂』から改善されている。
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入手した情報をプレイヤーが手動でセットしなくても、一度聞けば自動で関連する情報も聞き出せるようになった。
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また、『和階堂』では話を聞くたびにカーソル位置が一番上に戻ってしまったため、誤って同じ話を何度も聞いてしまうことになりがちだったが、本作では自動的に新しい選択肢にカーソルが合うようになっている。
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『和階堂』では聞き込みをしている最中に別のマップにも行けたり、話の展開であっちこっちに行ったりしたが、本作では基本的には勝手に場を離れられないようになり、進行が分かりやすくなった。
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情報整理の場面で『和階堂』ではまぎらわしい選択肢(解答とほぼ同義だが、進行上正答の前段階で取得した情報なので不正解扱いになるなど)も表示されていたが、本作では確定情報と明らかな間違い選択肢だけになった。
賛否両論点
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選択肢でのバッドエンドや特定のイベントの失敗分岐などがない
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一本道という問題だけではなく、システムに慣れていない序盤はともかくそれ以降はあざみや現場に来ない廻屋が致命傷を負わないことがメタ的に予想できてしまう。そのため、どんな凶悪な怪異や狂人が出てきても緊張感に欠けがち。
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都市伝説を題材としたゲームの場合、主人公自身が都市伝説になぞらえて悲惨な目に遭うバッドエンドが用意されている作品もあるため(流行り神シリーズなど)、そうした手法を取り入れる手はあったかもしれない。
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もっともあまり選択肢次第の即死トラップを入れすぎてもテンポが悪くなる上に、変な選択肢を選んだ際のあざみのコメントに面白い物もあるので、ペナルティがない方向にしたのも一概に悪いとも言いにくい。
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ゲームの難易度は実質なし。
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PVなどを見ると推理ゲームのように思うかもしれないが実際はそうではなく、推理ゲームと思って買ったら違ったとの感想もある。
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ゲームオーバーがないのは前述の通りだが、仮説を立てる場面では間違い続けていると正解以外の選択肢はどんどん消され、特定・解体場面等で間違えてもあざみと廻屋のかけあいがあるだけなので、初心者向けの救済措置と考えたとしても手厚すぎる。
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近年のゲームではこうした救済措置を使うかどうか選べるソフトもあるが、本作ではオン/オフ切り替え機能などもない。
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失敗分岐がないことを含め総当たりでどうにかなるため、インタラクティブな遊戯性のある作品ではなくあくまであざみ視点で読み進めるノベルゲームと言える。
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そもそもかなり十分な手がかりを集めて初めて推理シーンに進行するので、普通にプレイしても9割方間違えることはない。
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ゲームの評価とは離れるが、公式サイトや各種ストア等に「怪異を解き明かすミステリーアドベンチャー」と書かれているため、(当然物語の紹介としては正しいが)プレイヤー自身の発想で推理できるものと誤解を生んだ可能性は否めない。
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各章の展開は冒頭のSNS調査→現場検証→特定→解体…と大筋が同じで「お約束」的な流れになっているものの、ややマンネリも感じる側面もある。
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証拠をあと〇個集めたら進行する、一区切りついたらSNSを見てからまた仕事に取り掛かる…という流れが見えているため、探索中に突然のタイミングで予見不可能な事が発生してユーザー側の感情が振り回されることはない。
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ただ最終章では「お約束」を踏まえた特殊演出が発生するので、この部分は好評。
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現場での情報収集時にはある程度順不同で攻略されることを許容しているため、発見済の要素について知らない体で会話するなど流れがおかしくなることがある。
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もっとも作者の想定以外の進行以外許されないような雁字搦めのゲームよりは、こちらの方が遊びやすくはある。
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ストーリー・設定面に関する重大なネタバレを含むので注意
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衝撃度は高いが無理もある「最後の真実」
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致命的なネタバレなので具体的な中身は記載しないが、物語の最後の最後で明らかになる真実については「完全に予想できなかった」「ショックで呆然とした」という旨の感想が見受けられ、多くの読者の予想を裏切ることに成功したとは言える。
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一方でその性質上「ここまでの物語が全部茶番ではないか」との感想も出る超展開でもあり、プレイ直後こそ衝撃はあれど、時間の経過に伴い「これはありなのか」と脚本の姿勢として疑問を抱いてしまうユーザーも存在する。
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後述の様な整合性を考えた時に無理も見受けられるため、黒幕の正体までは流れとして妥当だが大オチに関しては蛇足だとの意見もある。
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オカルト要素について
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本作のストーリーの根幹として実はオカルト事件など存在しなかったというオチがあるのだが、一部には実際に超常現象が発生していると思しき箇所がある。
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あくまで事件解決に関係ない部分ではあるし、「人為的な事件と思わせて実は超自然的な事件も発生していた」というのはオカルト物の鉄板要素でもある。物語の雰囲気づくりとして役立っており、その「全て解決されないこと自体」を好むプレイヤーもいるが、数々の伏線が仕込まれた物語だけに、人によっては物語の咀嚼にあたって邪魔になってしまっている面もある。
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シナリオで「特定」という段階を必ず踏むことについて
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ゲーム進行において各話で必ず発生する「特定」そのものに関して様々な意見がある。
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特定作業はまだ事件が詳細不明の段階で、今起きている事象から既存の都市伝説の何に当たるのかを「特定」するのだが、前述の通り「実はオカルト事件など存在しなかった」という話なので、詳細不明の段階で都市伝説と紐づける行為はある種捜査妨害を行っているような形になってしまっているのではないかとの指摘がある。
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人の起こした事件を都市伝説だと特定し、その後で人の起こした事件だと解体する流れから、マッチポンプという人もいる。
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事件の正体は超常現象ではなく人間というオチは全話共通しているので、物語を進める程に気になることもある。
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しかしながら、廻屋が特定を行うという流れが作品の雰囲気づくりの役に立っている面もあるので、そういうものとしてさほど気にしない人もいる。
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特定作業をせずに即座に解体まで進むと話として緩急がなくなる、一旦なんらかの形で間を置かないとシナリオのギミック上必要なSNSを見る機会が減る、といったシナリオ構成上の観点から必要との意見もある。
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問題点
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システム面での問題点
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各章の調査メモは次章に移ると見返せなくなってしまうため、後から事件や関係性を振り返ることができない。
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一部の箇所の調査や、人に話しかける際の挙動がやや不安定で、思っているところと違うとこを調べてしまう場合や、話しかけるつもりが中断されてしまいやすい。
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探索パートの移動スピードは常に固定でダッシュ機能がないため、画面端に調べに行く場面では遅さが気になる。
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チャプターセレクト機能がなく、既読スキップなどもできないため、特定の章だけ見返すことはできず、周回プレイにも向かない。
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一応オプションの復旧機能から章を選んで再プレイできるが、これは公式曰く進行不能不具合が発生した場合の処置として搭載された機能であり、セーブデータの内容との不整合が発生する可能性がある。
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なお、チャプターセレクトと二周目以降の既読スキップ機能は2025年6月上旬に追加予定とアナウンスされている…のだが、本記事製作時点(25年6月14日)ではまだアップデートは行われていない。
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フラグ管理に大雑把な場面があり、まだ入手していないはずの情報が手帳に記載されてしまうことがあった。→2025年4月のVer 1.0.3で修正
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考察するにも難しい場面が存在する
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多くは初見でわからなくても2周目で「これはこういう事だったのか」と気づかされる物が多いが、演出重視で仕込まれたようなセリフや展開等、やり直しても結局よく分からず、解釈しようがない箇所がいくつかある。
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終盤のネタバレ注意
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特に疑問視されるのが5章ラストのジャスミンとSAMEZIMA管理人が向き合うシーン。ジャスミンが何かに気づき、「ゼロ枚目」について言及する等、思わせぶりなシーンになっているのだが、全て解決した後に見返してもこれらがどういう事だったのか明確な答えが出ない。
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また、最終盤にて発覚する解体センターの状況からして、ジャスミンの言動にも疑問符が付きやすい。
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ジャスミンは解体センターの何を調べてたのか、ろくに調べもせずに報告していたのか、廻屋とどういうやり取りをしていたのか等、物語開始前~物語前半頃のセンターとジャスミンの関係や行動内容には疑問を抱くプレイヤーが多い。
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どちらも推測できなくはないのだが想像の域は出ず、オチの衝撃度を優先して整合性を放棄しているのではと言われる事もある。
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上記ほどではないが、4章で蔵に閉じ込められた原因、5章の依頼人のドッペルゲンガーは誰なのか、あざみが出会ったドッペルゲンガーは何だったのかなど、ただのドッキリシーンにしては意味深なこともあり話題にあがりやすい。
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一部の無理のある展開
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明かされた事実にも少々無理のある展開があり、これらは指摘される事も多い。
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描写の例、ネタバレ注意
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2章で扱う過去に発生した事件は「警察はそんなところに気が付かなかったのか?」と言いたくなるようなツッコミどころがある。
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3章の登場人物にはある共通点があるのだが、3章の事件の首謀者はどうやってその情報を入手したか、各人とも必ずしも常時その状況に至るとは限らないのに何故事件当日はそのような状況だったのか、という点は話のご都合さが否めない。
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作中で披露される廻屋のハッキングスキルや黒幕が起こす事件は、さすがにハッキング(クラッキング)が過剰に万能視されている。具体的にどのような技術で行われているかは不明で「できるものはできる」という前提で話が進んでおり、往年のネットスラングの「スーパーハカー」のようななんでもあり状態。
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「最後の真実」を考慮する場合作中の廻屋のいくつかの行動に関して、物理的に困難なタイミングで行われてたり、周囲が不審さを抱くのではないか? との指摘がある。
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いわゆる「信頼できない語り手」のトリックで済ませられる、との意見もあるが作中で提示された情報のみからしか察することができない読者側にとってアンフェアさを指摘する声もある。
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総評
キャラクター及び演出面が優れており、結末から計算された仕掛けも素晴らしい。
「都市伝説」という伝奇的な要素とSNS社会を融合させ、妖しさを醸し出す本作は同ジャンルの他作品に埋もれない独自色の確立に成功している。
だが、ノベルゲームとして一番重要なシナリオ面を注視した場合、力技的な部分はちらほらある。
全ての未解決事象が説明され、一切のしこりを残すことなく完全に種明かしされ、瑕疵のない納得が提供されることを望む人には合わないかもしれない。
また、公式が提示する「ミステリーADVとして謎を解いていくゲーム」というのはあくまで「ドラマとしての紹介文」であり、
ストーリー分岐やプレイヤーの積極的な推理への参加、偶然性からの揺らぎなどのデジタルゲームらしい遊びは搭載されていない。
以上の事から、ゲーム限らず緻密な設定の作品に慣れ親しんでいる層、またはゲームのインタラクティブ性を重視するコア層にはそぐわない部分もあるだろう。
しかしながら、特異なキャラクターやビジュアル・奇抜な事件による外連味のある展開は高く評価できるものであり、その点で強い魅力を持った作品である。
余談
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コミカライズ
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「りぼん」で少女漫画『都市伝説解体センター Parallel File』のタイトルで掲載された。
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「少年ジャンプ+」でも『都市伝説解体センター 異聞:くねくね』が掲載された。
最終更新:2025年07月22日 11:32