闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光
【とうじんまきょうでん へらくれすのえいこう】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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1Mbit+64kRAMROMカートリッジ
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発売元
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データイースト
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発売日
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1987年6月12日
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定価
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5,300円(税別)
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プレイ人数
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1人
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配信
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プロジェクトEGG 2020年10月20日/500円(税別)
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判定
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バカゲー
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ポイント
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意欲的な要素満載 謎解きと情報収集が熱い ゲームバランスには大きな難がある やっぱりデコゲー
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ヘラクレスの栄光シリーズ
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概要
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『ドラゴンクエストII』の大ヒットで、ファミコンにRPGブームが到来した頃。データイーストもこのRPGブームに乗って本作を発表した。
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公表された開発中の画面は、いかにも『ドラクエ』のパチモンを思わせていた。
だが、発売された実際の製品は、意欲的なシステムを垣間見せながらもやっぱりデコゲーだった。
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一般的なRPG同様、エンカウントする敵を倒し、経験値や金を稼ぎ、武器・防具を購入していくシステム。パスワードコンティニュー方式を採用している。
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「闘人魔境伝~」というタイトルからして仰々しく、人によってはパッと見RPGと想像出来るかどうか怪しい。
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しかしストーリーはしっかりしており、ギリシャ神話に出てくるヘラクレスの12功業をモチーフにして、諸悪の根源ハデスを倒しビーナスを救い出すのが目的。
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開発中の画面と異なり、マップと街が一体化している。
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マルチウィンドウ式ではなく、コマンド選択には画面下半分をまるまる使い、ステータス表示や会話などのメッセージ表示とも兼用。
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その他随所で『ドラクエ』との類似点は残っているが、両手と片手の武器の違い、武器や防具の耐久力、武器ごとで得意不得意が異なる敵の属性など、オリジナリティある特徴もみられる。
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両手持ちの武器は「片手持ち武器よりも攻撃力が高い」か「特定のタイプの敵に対し特攻効果がある」かのどちらかである。例えば、極めて素早いボスに対しては両手持ち武器「ぎんのゆみ」以外ではほとんどダメージを与えられないなど。
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一方で、片手持ち武器とは異なり「盾が使えない」ためにその分の守備力が引かれ、受けるダメージ量が増える欠点がある。
バカゲー(というよりデコゲー)要素
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そもそも「ヘラクレス(Hēraklēs)」とは「ヘラの栄光」という意味の名前である(女神ヘラからの難業に挑む者であった為。それ以前の幼名はアルケイデス)。
なので本作の題名は名前の意味だけ取れば「ヘラの栄光の栄光」という「頭痛が痛い」みたいな二重表現になっている。一応「ヘラクレス」は固有名詞であるので誤りというわけではない。
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おまけとして「ビーナス」はローマ神話の美の女神であり(ただしローマ神話はギリシャ神話のコピペな部分も多い)、ギリシャ神話の美の女神は「アフロディーテ」である。なお逆なら、ヘラクレスはハーキュリーズ、ハデスはプルートになる。
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尤もデコに限らず欧米人名の由来を知らない日本人にはよくある事なので仕方がない(逆に「外国人の考えた変な日本人名」もよくある話である)。
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そもそもギリシャ神話に題材を取るなら、ハデスが悪役である時点で色々とおかしいのだが……なお、同じくハデスを悪役にしてギリシャ神話ファンから非難されたディズニーの『ヘラクレス』よりも本作の方がだいぶ早い。
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金の単位はGだが、ゴールドではなくギルバート。
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2も同様。3以降はEC(欧州連合)加盟前までギリシャの通貨として現実に用いられていたD(ドラクマ)となった。
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体力を回復する食べ物としてとんかつ・はくさい・さんまが普通に八百屋や肉屋や魚屋で売っている。
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とんかつはいうまでもないが、白菜と秋刀魚も古代地中海沿岸地域にはない。なぜ無難に「ぶたにく」「レタス」「オリーブ」「サバ」など、ギリシャに関係がありそうなものにしなかったのか…。
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値段に見合った効果がないことやアイテム所持数制限の関係から、基本的には実用性のない遊びアイテム。ただし「にんじん」だけはイベントで役立つ場面がある。
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なお、続編からは「にんじん」はマヒ状態回復など実戦的な効果の回復アイテムに格上げされている。
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武器や防具の耐久力の概念があるので、耐久力がゼロになって消失する前に鍛冶屋のヘパイトスに直してもらう必要がある。
これ自体は別段おかしくもないが…
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このヘパイトスは5,000ギルバートで雇うことができるが、何故か「かじや」というアイテム扱いになる。所持中は戦闘後に自動で修理してくれる。
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さらにこの「かじや」は普通に店で売り飛ばせる。もしかして奴隷みたいな扱いなのだろうか…
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ところでこのゲームではヘパイトスが町の鍛冶屋のように扱われているが、本来は鍛冶神である。
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なお、本シリーズでは本作以降「ヘラクレスの顔なじみの鍛冶屋が後に神になった」という設定ではあるが、鍛冶神として扱われるようになった。
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戦闘では『ドラクエ』と違いヘラクレスはよくしゃべる。「ゆくぞ!」「かくごしろ!」「どうだ!」
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さらに、ボスキャラとは戦闘中に「はなす」コマンドで会話が可能。「こころみのまど」を使えばボスの心の中も覗けてしまう(大半のボスは「はなす」コマンドとは別のコメントを持つ)。ゲーム進行上重要なヒントが得られる場合もあるので試してみる価値はある。
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中盤のボス「ネイアス」が、「はなす」コマンドで話を聞こうが「こころみのまど」で心の中を覗こうが、戦闘中にも拘らず本心から常に友好的な描写になってしまっている点はご愛嬌。
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主人公を「にゃんにゃん」で誘惑するトルバとの会話は必見。
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戦闘に敗北した際のメッセージは壮絶。
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死亡時のメッセージ
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おびただしい りゅうけつ!
ヘラクレスは そのばに くずれおちた やがて しずかに めを とじて えいえんの ねむりに ついた
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普通のゲームは「死んでしまった」「気を失った」という簡単な文で済まされるところだが、妙にリアルで生々しい。また演出も相まって不気味。
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尤も、普通に所持ギルバートの半分で復活するので拍子抜けしてしまうが。
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ちなみに炎に焼かれても「おびただしい流血」で死ぬ。砂漠で死んだときは「体力の限界」と表示される。
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ヘラクレスは一切魔法を覚えない。
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原作に当たるギリシャ神話もこうなので仕方ないのかもしれないが…その代わり武器を使い分ける必要はある。
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自身の覚える魔法はないが魔法系アイテムはあり、それを使う際にはHPが消費される。
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移動中専用でも戦闘用でも、アイテム使用でHPが引かれて0になっても死ぬことはなく、0のままその後も使用を続けられる。
その状態で戦闘に入って1発でも食らうか、砂漠や溶岩地帯を歩けば死ぬ。
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ちなみに敵はHPを回復する「ヒール」、ダメージとなる「ブレス」、眠りに誘う「スリープ」、武器・防具の耐久力を下げる「ラスト」の魔法を使う。
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なお、本作以降もヘラクレスは魔法を使えなかったが、最新作である『ヘラクレスの栄光 ~魂の証明~』では使用可能になっている。
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アテネの街のバーで10G払うと、マスターの女性が次のレベルUPまで必要な経験値を教えてくれるが、主人公を「ヘラちゃん」と呼ぶなど性格が軽い。
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先述のことを考えると女神ヘラの名を呼んでいることになるが、これもまた外国語に疎い日本人には良くある話である。
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ちなみに敵を倒した際に表示されるのは入手Gのみで、入手経験値は何故か表示されない。
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住民が一部おかしい。
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店や宿の建物に入ると店主のグラフィックが表示されるが、何故か男も女も半笑いで右手を画面に向かって指差しているという謎の汎用グラ。建物に居るポセイドンやヘラといった神々も同様の使いまわしグラフィックで、しかも何だか顔色が悪い。
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カルノフの妹を自称するキャラがいる。
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ちなみにカルノフ本人らしきキャラも出てくる。情報によるとヘベの城の近くでわめいているのがカルノフらしい。
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「ぷっつん!」とだけ喋る住民がいる。
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「ドクターなかもと」「かにちゃん」など変な名前の住人がいる。
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モンスターはボスなどを除けば、「プノトン」「きこうへい」「コジマン」など、ギリシャ神話との関連性がなさそうなものばかり。
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特に「サタンきこうへい」という甲冑型のザコ敵にいたっては、「サタン」はギリシャ神話とは別の宗教や神話の登場人物である。
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救出対象であるビーナスもローマ神話の女神。ギリシャ神話ならアフロディテ。
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さらに文字数の関係もあるのだろうが「
レッドがいこつ
」「
りょくひる
」(緑色のヒル)などという独特のネーミングセンスも本作を彩る。
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「黄金の鹿」が誤植で「おおごんのしか」になっている。
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パスワード(蘇生の呪文)でコンティニューすると、全てのボスと宝箱の中身も復活する。
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ただし、これはDQ2でも基本は同じで宝箱は復活するし、固定敵も一部を例外として復活する(その例外も一か所以外は撃破後に手に入るアイテムがフラグになっている)。
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エラーチェックが甘いのか、パスワードを適当に入力してもゲームが再開出来てしまうことがよくある。
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本作のようにマップが東西南北でループしないRPGは、世界の端が進入不可能な地形(海や山など)で埋められていることが多いが、本作では街の外壁などで見られる水色の壁で埋められている。
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しかもマップの北端を見る限り「壁の側面」にあたる部分が見当たらないので実は壁ですらない。この水色のものは一体何なのか?
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ゾラ火山のイベントのエフェクトが掛かるタイミングがおかしく、会話中の女神が突然火山を爆発させたようにしか見えない。
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とある神殿は見た目がギリシャ風で、内部にスフィンクス像やモアイ像が並んでいる。
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天界にはペガサスに乗って行くことになるが、その時のデモは明らかにペガサス単体で飛んでいる。
評価点
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一部のモンスターに設定された武器の相性の概念。物理攻撃においても明確な相性の概念を持ち出したRPGとしてはかなり早期の例である。
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戦闘中に「ぶき」コマンドで1ターン消費して装備変更が可能。これによって「相性悪い武器を持った状況で戦闘に入った」場合でも気兼ねなく装備を変えられる。
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盾を持てないリスクはあるが攻撃力は高い両手持ち武器の存在に加え、鍛冶屋を雇う前は武器の耐久力も重要な要素であり、複数の武器を切り替えて戦う戦略性がある。
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最終盤になるまでは片手持ち武器は全体的に攻撃力が控えめなので、両手持ち武器と使い分けを行う価値はある。
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ただ、間違えて「ぶき」コマンドを選択してもキャンセルできず、1ターンの消費もされる。
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戦闘用のアイテムと相まって、『DQ1』のような一人旅、かつ魔法を使えない主人公でありながら、単調にしすぎない工夫が見られる。
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街とフィールドの境がないシームレスマップ。国産の家庭用RPGでは後に『MOTHER』などに取り入れられるが、当時としては珍しかった。
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一部の街道をNPCが歩いていたりして多少旅情を感じられないこともない…?
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アイテム「旅の翼」の効果である「訪れたことのある地名を選択してワープできる」という要素は、後に『ドラゴンクエストIII』など多くのRPGで採用されたことから、先駆的であったといえる。
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ボスは単体で幾つかのグラフィックパターンを持っており、攻撃時や防御時に切り替わる。
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ラスボスに至っては攻撃アニメーションまで用意されている。
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ザコの色違いバージョンもパーツが細かく変えられており、また表示も左右反転させたりしていて、ただの色違いではなくなっているものが多い。このあたりは『ドラクエ』の良い所をきちんと真似た形になる。
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BGMはなかなか聴き応えのある名曲が多い。
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当時のRPGとしては珍しく、ラスボス戦のBGMとは別に通常ボス戦のBGMが用意されている。
問題点
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戦闘面でのゲームバランスが劣悪。
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エンカウント率がとても高い。
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厳密には、このゲームのエンカウントは「256周期でオーバーフローしてリセットされる経過フレーム数のカウンタが、一定の範囲の値を取っているタイミングに十字キーのボタンを押している」ことでエンカウントする。そのため、移動中(十字キーを押しっぱなし)にすることで特定のタイミングで十字ボタンを押している状態となってしまい、エンカウントが多発することとなる。
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ちなみに戦闘における逃走判定もこのカウンタが一定の範囲の値を取っているタイミングでコマンドを入力すれば成功となる。BGMでタイミングを取って逃走を確定で成功させる手法が開発されたことにより、タイムアタックのクリアタイムが大幅に短縮された。
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色違いの敵(=強化版)が全種類、1つの地域にまとめて出て来たりする。
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特定の敵と相性の悪い武器ばかり持った状態でその敵が頻出する地域に入ると、逃げる以外に手が無くなる。
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ゲーム開始直後はザコとの戦闘でも死にやすいのだが、それなりに高いレベルと装備を揃えるとラスボスからのダメージも1に押さえられ、苦戦もせずに倒せてしまう。クリア出来ないくらいの大ダメージを受けるよりは良いのだが。
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ゲーム中最強の攻撃力を持つ敵は通常エンカウントする骸骨系最強の敵「しにがみ」。なお、下位種である「がいこつ」「レッドがいこつ」も、ラスボス以上に攻撃力が高い。まともに相手をするとほぼ確実に倒されるので逃げるが勝ち。
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パスワードを聞ける施設がなぜか2番目の村にしかない。どうしても時間がかかる。
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一部の街はムダにだだっ広いのに加えて通路が狭く、街の人に通路を塞がれやすい。
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また、建物も入場の可否やどんな建物かが見た目ではほぼ分からない。
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しかも建物内のNPCはほとんど役に立つ情報を持ってないのばっかり。
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街の人は通路を塞いでなかなか退かないが、室内の人は異様に軽快なフットワーク。流れるような動きでヘラクレスから逃げて行くので会話するのも一苦労。
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店は大抵は他の建物と違い派手なピンク色で、大きさも変えられている場合が大半だが、看板がないので入るまでは何の店だか分からない。
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重要アイテムですら簡単に店に売れる(上記のように再開時に復活するので詰むことはないが)。
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イベントアイテムが多いにも拘らず、アイテム所持可能数が少なすぎる。
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イベントアイテム枠と通常アイテム枠を分けるような工夫も無い。
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ヘラクレスは前後左右4方向分の歩きパターンがあるのに、街の住人は正面のみのカニ歩き。『ドラクエII』発表後の作品なのにどうしてこうなった…。
総評
本作には確かにゲームシステム上の欠点が多く、同時代の『ドラクエ』と比較するとクソゲーとみなす声もある。
その一方で、他作品にはない独特な作風や長所が光り、そういった意味で意欲的な作品であったことは疑いない。
後に名作とうたわれる『III』や『IV』をシリーズとして送り出すなど、色々な意味で不動の地位を確立した、まさにデコを代表するシリーズだったといえる。
余談
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奇抜な『I』や、名作として知られる『III』や『IV』と比べ、『II』は『ドラクエ』の模倣に徹してしまっており、ストーリーは高く評価されているが、やはり本作同様劣化『ドラクエ』である(しかもエンカウント率が高め)。
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『II』では八百屋の類は消滅。本作のキーアイテムとなったにんじんだけは麻痺回復アイテムとして残留。なぜにんじんにこだわる?
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さらに『I』と『II』をつなぐ外伝的作品『動き出した神々』がゲームボーイで発売。この作品で、本作で敵対したハデスは偽物であることが判明する。
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ちなみに、『動き出した神々』は2011年8月24日からニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで配信されていた。
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『III』と『IV』もバーチャルコンソールに配信されていたが、『I』と『II』は何故かバーチャルコンソールに配信されなかった。
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パスワードで「はんしんがゆうしようすることはありえないよ」と入力すると、レベル2でゼウスの剣を装備した状態から再開できる。現実のプロ野球の阪神タイガースは、本ソフトが発売された1987年、開幕直後から極度の成績不振にあえぎ、最終的にはダントツの最下位に終わっており、その事実を反映させたお遊びネタと言える。なお、2003年4月にデータイーストは倒産してしまうのだが、この年、阪神タイガースは18年ぶりにリーグ優勝を果たしており、何とも奇妙な因縁と言える。
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実際はバグアイテムを所持・装備していることから『ドラクエII』の有名パスワード「ゆうてい~」のような偶然の産物である可能性が高い。
最終更新:2025年04月12日 03:08