探偵 神宮寺三郎 灯火が消えぬ間に

【たんていじんぐうじさぶろう ともしびがきえぬまに】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 プレイステーション
発売・開発元 データイースト
発売日 1999年11月25日
定価 6,090円
配信 ゲームアーカイブス:2009年1月28日/600円
判定 良作
ポイント データイースト最後のゲームにして最後の意地
探偵 神宮寺三郎シリーズリンク


概要

  • 探偵 神宮寺三郎シリーズ第7作目。データイーストから発売された同シリーズ作品としては、最終作に当たる。
    • 発売直後に会社が和議申請によって倒産したため、結果的にこれがデータイースト製の最後のゲームとなった。
  • 前作『夢の終わりに』とシステムの基礎はほぼ同じ。イラストは寺田克也が担当している。

ストーリー

新宿歌舞伎町に構えられた神宮寺の探偵事務所に、ヤクザに追われているという一人の若者が駆け込んできた。
助けを求められた神宮寺は、若者を事務所に匿う事にする。

そんな折、神宮寺の元に、若い女性の失踪事件の調査依頼が舞い込む。また友人である熊野警部からは、新宿に潜む拳銃密輸ルートの捜査協力を求められた。
いつになく多忙な事務所に居候する件の若者──八木正隆は、世話になるせめてもの恩返しにと、雑用兼助手のような気持ちで自分なりに行動を始める。神宮寺はそんな素人の奔走に頭を痛めつつも、にわかに活気付いた事務所の空気に顔をほころばせる。
しかしこの時既に、新宿には不穏な影が忍び寄っていたのだった。

特徴

前々作、前作と同じ骨格のコマンド総当たりADVに、日付による時間制限やマルチエンディングなどの要素を追加したものが本作のシステムの大枠である。
ここでは、前作からの変更点を中心に記述する。

  • マルチエンディング制
    • 本作には昼夜の概念や日付設定があり、特定の日時でしか発生させられないイベントや、調査の期日に応じた派生エンディングが用意されている。
      • 場所を移動すると時間が進む。しっかり考えて手際良く調査を進めないと、無駄足を踏んでしまい期日までに必要な情報を揃えられない場合も出て来る。
      • 期日までに一定の成果を挙げ続けてゲームクリアを迎えれば正規終了(グッドエンド)、達成できなければその場でバッドエンドに分岐する。最短日数でクリアすると、内容が一部変化したベストエンディングとなる。
      • また、状況整理には今後の方針を決定する事もあり、間違った判断をしてしまうと即バッドエンドになることもある。
      • このため前作よりも難易度は上がっている。ただし、調査手順や推理道程に難解な部分がある訳ではなく、いちADVの難易度としては標準の範囲に収まる。
    • その代わり、ザッピングシステムは無くなっている。
  • 移動マップ
    • 場所の移動で行き先を選択する際に、移動マップが表示されるようになった。
  • 指示
    • 実際の調査はもちろん神宮寺自ら行うが、場合によっては、別行動するパートナーに指示を出す局面もある。
    • シーンに応じて最大4人まで、有能な助手・お調子者の居候・警察関係者など色々なキャラクターがいる。キャラごとにいくつかの候補から指示を選び、適材適所がうまくはまれば、神宮寺が調査しきれなかった方向から有益な情報を持ち帰る。
    • 調査という仕事に不慣れなキャラクターはそうそう役には立たないものの、それでもちゃんと指示通りに行動してくれる。時には別行動中のパートナーと神宮寺が遭遇し、ちょっとしたミニイベントが発生する事も。
  • 「聞き込む」
    • 重要な情報を持つ人物と相対する際は、専用の聞き込みモードに突入する。ここでは、「話す」の単一コマンドですべてをまかなう普段とは違い、尋ね方、情報を引き出す手順などに工夫が必要。時には「ほめる」「世間話をする」「脅す」などといった特殊な会話コマンドも駆使していく。
      • 接し方を間違えると情報を得られない。やり直しは一応できるが、当初よりも相手の心証が悪化してしまう場合もある。
    • ストーリー上の情報提供者が、みな神宮寺に協力的とは限らない。相手の警戒心を解いたり、こちらも何かしら情報を提供したりといった、会話の駆け引きが求められる。探偵である神宮寺の本領発揮でもあり、雰囲気的にも味わいのあるモード。
      • 「警察関係者ではない神宮寺」がいかに証言を引き出すかという、いわば「これぞ探偵業」という実感を味わえる。前作までは「警察関係者でもない神宮寺相手にみんな捜査に協力的」という現実ではほぼありえないシチュエーションであった(例をあげると、「あなたは警察官ですか?」という質問すら無く警察官では無い神宮寺に警戒することも無く店長が部下のバイトの店員のアリバイを教えるなど。)。
  • 「フローチャート」「D-MODE(調査内容をまとめるモード)」「S-MODE(3DCGに起こされたマップを捜索するモード)」「PASS WORD(おまけ要素開放用のパスワード)」は前作とほぼ同じ形で続投。

評価点

  • シナリオ
    • シリーズの過去作品同様、敵・味方といった単純な図式ではない複雑な相関関係にある多くの登場人物に対し、それぞれ背景や内面を描きこんで深みを与えていく探偵物語である。今回は聞き込みモードで脇役との会話も作りこまれ、より親しみやすい。
    • 序盤から丁寧に伏線が張られ、連続した複数の事件が絡みあって畳み掛けられるように話が進み、終盤でそれが1つの結末に収束していく。こうした、複雑な構成ながら理解しやすく、プレイヤーの興味関心を安定して保ち続けるシナリオ運びも好評。
    • 主要キャラの一人である正隆は「正直でお調子者の好青年」といった、シリーズ中では意外に珍しい人物像。事務所に何かと明るい話題を提供するが、若者らしい悩みも抱えており、物語の中で大人として成長する姿を見せる。
  • 本作独自の各種システムとシナリオの相性も良く、全体的に探偵ものADVとして「らしい」仕上がりと言える。
  • キャラクターや背景グラフィックの質は、前作から引き続き高い。
    • バッドエンドにもムービーシーンが入るなど、細部まで作り込まれている。
  • 舞台ごとの表現力も豊か。
    • 今回は移動マップが追加されて舞台を俯瞰視できるので、繁華街、歓楽街、神社、うらぶれた街外れ…と様々な側面を持つ新宿を歩きまわっているという臨場感がよく出ている。
    • 神宮寺シリーズは新宿以外の地域へ移動する事も多いのだが、その際の「空気の変化」のようなものも、本作ではより分かりやすくなった。
  • 要所要所で捜査の進捗や情報を整理するモードが挟まれ、ストーリーの混乱が起こりにくい。
    • ゲーム中の情報を参照できる「手帳」周りの仕様も、過去作品より着実に向上している。今回は登場人物の数が多いので、人物相関図などは頼れる助けとなるだろう。
  • 前作の『夢の終わりに』及び次回作『Innocent Black』と次々回作の『KIND OF BLUE』が全般的に暗い作風であるので、その中でも比較的明るい作風であり、特に神宮寺側の登場人物たちの人間的な魅力もふんだんに描かれている。

欠点

  • 細かく工夫されているとはいえ基本がコマンド総当りADVである事に変わりはなく、やり込みとしての「最短日数クリア」にはあまり求心力がない。ゲーム中にセーブデータをロードする機能が無いなど効率プレイを補助するシステムも未整備で、ベストエンドへのハードルが高い。
  • 助手が無能
    • 指示の選択肢が多く、情報を得れそうな選択肢でも失敗する事も多い。また何も情報を得れない日も多い
  • 「時間の経過」が導入されたことにより、ゆっくり街中を散策してみたいプレーヤーにとってはストレスがたまることであろう。なぜなら、今作は調査が停滞してしまえば一定期間でバッドエンドになるからである。街中を色々見て回りたい場合はバッドエンド覚悟で行うしか無いだろう。
    • 今作では、「調査」が最優先されるため、関係ない場所で色々散策したりタバコを吸っていたりすると、神宮寺から「いい加減に調査再開しろよ」的なコメントが発せられる。
  • 推理が比較的簡単な場面も
    • 明らかに間違った推理を行っても、場合によっては神宮寺が訂正してくれて即座に修正可能なケースもかなりあるので、このあたり歯ごたえの無さを感じるプレーヤーも少なくなかったのでは。
  • 事件の原因についての問題点(ネタバレ注意)
+ ネタバレその1

実は今作の事件の元凶は関東明治組と別の暴力団との抗争である。これに巻き込まれたことで真犯人Aの恋人(以下Cさん)が死んだことが全ての始まりである。Cさんは普段からAの元を訪れるため頻繁に明治組事務所を訪れており、いつものように事務所を訪れたところ抗争事件に巻き込まれ死んでしまった。神宮寺の調査によってそれが発覚したにもかかわらず風林豪造はあまり責任感を感じず、あまつさえ「今回はうちとは関係無いことにしてくれ」と開き直っているのでそこに違和感を感じたプレーヤーもいるのでは無いだろうか(ただし、今泉は多少なりとも罪悪感は感じていたようだが)。Cさんを殺されたAに明治組がもっと誠実に対処しさえすれば今作の事件は起きなかったと思われる(そもそも堅気のCさんに「今、うちは危ない状態だから事務所に絶対来るな」と誰も言わなかったのであろうか?)。明治組が終始こんな態度だったため、そこに違和感を持ったプレーヤーもいるのではないだろうか?

+ ネタバレその2

もう一人の真犯人Bに関して事件を引き起こしたきっかけの1つは、簡潔に言うと「自分をせせら笑いながら侮辱した相手を殺した」というもの。だが、その殺した相手というのが神宮寺が序盤調査した行方不明の女性(以下Sさん)であり、調査の過程においてはSさんがそのようなことをする人物では無いことが判明したために、このあたりの整合性が取れていない。もっともBに関してはある出来事をきっかけに精神が相当不安定になっていたために、そのように捉えたのかもしれないが、このあたりの説明が不十分である。

総評

前作で好評だった部分を維持しつつ新しいシステムにも挑戦し、『探偵 神宮時三郎シリーズ』としての雰囲気と、主人公の探偵を動かして調査している雰囲気の両方が丁寧に拾い上げられ、一つのゲームにまとまっている。
プレイヤーの推理や閃きを強く要求するシーンは無く難易度面の歯応えは期待できないが、よく練られ、かつスムーズに運ぶシナリオを楽しむ分には、大きな問題にはならないだろう。
新宿の街を飛び越えて広がる今回の物語は、調査に手間取っていると悲しい結末を迎える事になるかもしれない。そこに持ち前のタフネスと豊富な経験で切り込んでいく神宮寺の姿には、時代が下ってもそう簡単には衰えないいぶし銀の輝きがある。

会社としての命の灯火が消えぬ間に放たれた、データイーストの最後の輝きとも言える作品である。

余談

  • エンディングには本編中でタバコを吸った本数に応じた、クリアランクならぬスモーカーランク(?)が表示される。タバコ5000本クラスという肺の芯まで真っ黒になりそうな高ランクもあるらしいが、このランキングにどのような意味を感じ取るかはプレイヤー次第。
+ ネタバレ

ちなみにゲーム中にタバコを4000本吸うと神宮寺が倒れてバッドエンドになってしまう。元々第一作目から事件を解決するためにおびただしい量のタバコを吸う必要があるシリーズである為、いずれ健康を害するだろうとネタにされてきた神宮寺だが、本当に倒れてゲームオーバーになるという要素をぶち込んだという点でも斬新である。もちろん、4000本というすさまじい回数タバコを吸わないといけないので半ば都市伝説のような要素でもあるが。

  • 本作でシステムとして確立されているアイデアは、意外にもシリーズ初代作『新宿中央公園殺人事件』にその原点が見られる(日付の要素があり、特定の日にちにのみ登場する人物や、時間をかけすぎるとゲームオーバーになる点などが共通している)。
    1987年から長い歳月を経て今ここに1つの完成を見たのだと思うと、感慨深いものがあるような。