この項目ではPS3ソフト『忌火起草』と、その完全版であるWiiソフト『忌火起草 解明編』の紹介をしています。



忌火起草

【いまびきそう】

ジャンル サウンドノベル
対応機種 プレイステーション3
発売元 セガ
開発元 チュンソフト
発売日 2007年10月25日
定価 7,600円
レーティング CERO:C(15才以上対象)
判定 なし
ポイント 映像と音にこだわったホラーサウンドノベル
シナリオ面は微妙
チュンソフトサウンドノベルシリーズ

概要

チュンソフトによるホラーサウンドノベル作品。タイトルもサウンドノベルの元祖である『弟切草』を踏襲しているが、ジャンルが同じという以外に内容的なつながり等は無い。

あらすじ

「ビジョンって薬知ってる? すげー盛り上がるぜ」
遊び感覚で「ビジョン」を手に入れた若者達は、次々に謎の焼死を遂げる。
その災いに巻き込まれてしまった主人公とヒロインは呪いから逃れるため、すべての根源と思われる、朽ち果てたある屋敷へと向かう。
そこにあったのは、謎の花「忌火起草」に囲まれた、幾世代にも渡り祟りの因果が渦巻く禍禍しい場所だった。
(公式サイトより引用)

システム

  • 映像と音にこだわったホラー
    • PS3の高いスペックを生かして、映像を重視した作品になっている。
      • 映像はハイビジョン画質。音楽はドルビーデジタル5.1ch対応で、背後から音が聞こえるなどの臨場感あふれる演出がなされている。
  • ボイスと実写による新時代のサウンドノベル
    • 基本的には画面全面に文字が表示されるサウンドノベルの形式だが、キャラクターのセリフ部分はボイスで読み上げられ、文字として画面に表示されない(バックロールでは表示される)。
    • 映像は『』『428 ~封鎖された渋谷で~』と同じく実写の静止画。ただし、登場人物の目が基本的に写されない(顔は鼻までしか画面に入らない)という演出。
      • こちらは『街』のような実写と、『かまいたちの夜』のようなシルエットの表現の中間の形を取っている。
  • 選択肢によるシナリオ分岐
    • ゲームの進行も基本的なサウンドノベルと同様、選択肢によって物語が様々に分岐していくシステム。各シナリオは色で分類されている(赤、青、茶など)。
    • フローチャートによって、好きな場所まで簡単に飛ぶことができる。異なるシナリオ間でもジャンプ可。
      • ただしゲーム終盤の舞台である「屋敷」ではフローチャートが使えないため容易にリトライできないようになり緊張感を高める工夫がなされている。
    • 他にも時間制限付きの選択肢や、一方通行選択肢(1つずつ選択肢が提示され、選ばなかった選択肢を選びなおすことができない)など、ノベルゲームとして順当な進化と言える新システムもある。

評価点

  • 高画質な映像
    • 実写の映像は高画質で美しい。登場人物の目を見せない演出もホラー的な想像力を掻き立てるのに一役買っている。
  • ボイスによる演出
    • セリフがボイスになったことで、臨場感が増している。ただし所謂アニメ声なので人によっては実写寄りのゲーム画面に合っていないと感じマイナスポイントでもある。
      • 逆に言えば、本職の声優で固められているおかげで、滑舌も含めた演技はしっかりしているということ。キャストの大半が声の演技に慣れてない棒読みなうえに字幕もないので何を言ってるのかさっぱり聞き取れないという部分は皆無。
      • 通常のゲームはセリフの字幕と同時にボイスが流れることがほとんどだが、その場合、ボイスより先に字幕を読んでしまうので、どうしてもボイスの途中でセリフを送ってしまいがちになる。しかしこのゲームはボイス部分を文字として表示しないという珍しい形式を取っているので、映画を鑑賞しているときのように物語や演技に没入することができる。

問題点

  • シナリオ面の評価はあまり高くない。
    • ビジョンという怪しげで危険なドラッグ、大学を舞台にした都市伝説、オカルト要素やサークル内での不穏な人間関係など興味を惹きそうな設定はあるのだが、全体的に間延びした展開が多く、クライマックスである館に突入するあたりからは現実味が薄れ荒唐無稽なオカルト要素が強くなる。
      • ただし、総監督のイシイジロウ氏は「ホラーのタネがわかってしまうともう怖く無くなる」と語っており*1、そのためにこの様な作風になってしまったとも言える。
    • ルートは複数あるが、いずれもビジョンとその謎を中心としたストーリーであり、どれも暗いオカルト要素が含まれた似たような話ばかりなので代わり映えがしない。
      • ホラー作品なのでそういう雰囲気に統一されるのは当然だとも言えるが、『かまいたちの夜』のように選択肢一つで異なるジャンルに枝分かれしていくような面白さは無い。
    • マルチエンディング形式だが、ほとんどが後味の悪いバッドエンドと呼ぶべき結末で、ハッピーエンドやギャグエンドなど明るい終わり方をするものはほとんど無いのも代わり映えしない印象の一因になっている。
  • ホラーなのにあまり怖くない
    • 唐突に怖い映像を見せたり、大音量で怖がらせたり、というようないわゆるビックリ系の驚きはあまり無いが、かと言ってじわじわと心理的に恐怖を煽るような演出や展開も少ない。ホラー的な設定ではあるが、怖さに期待すると肩透かしを食らう可能性が高い。
  • ボイスをスキップできない
    • ボイスは一度聴いたものであってもスキップできない。更に本作はノベルゲームにおいて標準的な機能である既読スキップができず(前に戻ることは可能)、フローチャートの移動も章の節目と選択肢にしか飛べない。なので行きたい場所まで行くには何度も同じ文章を読んでボイスを聴かなければならず、選択肢を埋める繰り返しプレイ時は面倒。
  • 画面が全体的に暗い
    • ホラーとしての画作りではあるが、全編通して画面が暗いので、せっかくの綺麗な映像が見えにくくなってしまっている。
  • 「百八怪談」の意味の薄さ
    • 文章中で揺れている言葉を選択すると「百八怪談」という怪談を読むことができるという要素があるのだが、これが見つけづらい。
      • 文章が揺らいでいるページで□ボタンを押すとTipsのように下に赤い線が引かれるのだが、色も付いておらず、揺れる速度が鈍いためかなり集中していないと見逃してしまう。
      • また肝心の内容も、本当に「小話」以上でも以下でもない代物で、収集のモチベーションを掻き立てない。
    • 他にも『街』『428』に存在したTipsシステムがあるが、これも登場人物の名前にしかTipsがつかないため影が薄い。
  • 『解明編』の隠しシナリオが無い
    • 本作発売から1年も経たない2008年8月に、Wiiで『忌火起草 解明編』として完全版が発売された。
    • 後述するが、『解明編』で追加された隠しシナリオ、通称「車内編」は、本作全体の価値観をひっくり返すような非常に重要なものであり、これが含まれていないPS3版は「オチ」がない未完成の作品であるとすら言える。

総評

PS3の高スペックによる映像と音楽によって、現代版にアップデートされたホラーサウンドノベル……を目指したはずだったが、肝心のシナリオの出来はあまり良くなかったためサウンドノベルファンからの高い評価は得られなかった。

もっともノベルゲームとして致命的な問題があるわけではないので、雰囲気が気に入りそうであればプレイしてみても良いだろう。ただしその場合は可能であれば後述の理由から『解明編』のプレイを推奨する。


忌火起草 解明編

【いまびきそう かいめいへん】

ジャンル サウンドノベル
対応機種 Wii
発売元 セガ
開発元 チュンソフト
発売日 2008年8月7日
定価 5,800円
レーティング CERO:C(15才以上対象)
判定 なし
ポイント 驚愕の隠しシナリオ「車内編」

概要(解明編)

PS3版の移植。追加シナリオもある完全版。

主な変更点

  • 映像と音楽の環境の変更
    • Wiiはハイビジョンに対応しておらず、音楽は疑似5.1chに対応。またゲームの進行に合わせてWiiリモコンのスピーカーから音が出る演出がある。
  • PS3版では無料DLCとしてパスワードが必要だったピンク編シナリオが、Wii版では最初から収録されている。
    • ただし出現難易度自体は上がっており、他の通常ルート全ての完エンディングを見るのが条件となっている。
  • 2つの追加シナリオ
    • メインのシナリオとして、紺ルートが追加された。
    • そしてもう一つ、すべてのエンディングを見て「金のしおり」にした後にだけ見ることができる、最後の隠しシナリオ、通称「車内編」が存在する。
      • この車内編は作品上極めて重要な意味を持つ(後述)。

隠しシナリオ「車内編」

  • 金のしおりに到達した後に新たに現れる選択肢を選ぶと見ることができる隠しシナリオ。このシナリオにはゲーム内で名前が無いため、「車内」での会話から始まることから便宜的に「車内編」と呼ばれることが多い。
    • チュンソフトサウンドノベルの隠しシナリオの常だが、作中にほぼヒントがなく、自力で見つけるのは極めて難しいという問題点がある。
  • このシナリオでは、作品全体を根底から覆すような重大な事実が明かされる*2
+ ※車内編で明かされる内容についてのネタバレ
  • 『忌火起草』で語られた物語はすべて主人公の妄想であった、というオチ。
    • それまで「主人公は2年前、大学1年の時に行われたサークルの合宿を欠席していた」と語られるのだが、「車内編」では主人公が自分も合宿に参加していたことを思い出すことがきっかけとなって回想がスタートする。
      合宿からの帰路で主人公がサークルの仲間を乗せた車を運転していると、片思いの相手であるヒロインがサークルのOBとデートしているのを目撃してしまう。
      主人公がショックのあまり赤信号に気付くのが遅れた結果、信号無視で交差点に突入してしまった車はガソリンを積んだトラックと衝突し、ヒロインとそのデート相手が歩いていた歩道へ突っ込んだ上に炎上、ヒロインや仲間たちは全員焼死してしまう。
    • 1人だけ生き残った主人公は、罪の意識のあまり、存在しない薬物「ビジョン」にまつわる様々な物語を頭の中で作り上げ、仲間たちがビジョンの呪いによって死んでいく中、ヒロインを守ろうと奮闘する……というストーリーに逃避することで精神を保とうとしていた、という結末が精神病院の医者によって語られる。
      最終的に、現実と妄想が曖昧になった状態で「ヒロインを助けなければならない、退院させて欲しい」と訴える主人公を置いて医師は立ち去り、残された主人公は再び完全な妄想の中に落ちていく(作品冒頭の大学でのシーンに繋がる)、という結末を迎える。
  • 創作における禁じ手と言われることも多い「妄想・夢オチ」であるが、このシナリオを読むと、作中ではただホラー要素でしかなかった「焼死」「黒い爪」などの要素にすべて合理的に説明がつく。
    ちなみに、それまでの作中でも「大学3年生にしては忙しさを感じさせる描写が少ない」「よく読むと、登場人物たちに関する時系列が確定した情報は主人公が大学1年生の時点のものが最新で、大学2年生以降の情報はない(「最近」といった表現で誤魔化されている)」といった伏線が貼られている。
    • また、前述した「どのシナリオもあまり代わり映えがしない」「ハッピーエンドと呼べる結末や明るい終わりがない」という欠点も、主人公が妄想の中に完全に逃げ込んでしまうことを無意識に拒絶している(自罰意識から妄想の中の自分に事故を想起させる描写や救われない結末を突き付けている)からだと捉えることができる。
  • シナリオの立ち位置は『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』における「妄想篇」に近い。

難点(解明編)

  • 追加ルートのひとつである紺ルートの展開が緑ルートと酷似しており、クリアしたものと勘違いしやすいため、特にピンクルート出現の妨げとなる事が多い。
  • 最終シナリオである「車内編」の出現方法が分かりづらい。
    • 前提として他のルートの全エンディングを見て金のしおりにすることが条件なのだが、さらにその後、いずれかのルートでスタッフロールを見るまでもう一度完クリアする必要がある(スキップやフローチャートは使用可能)。
    • それ以降入り口となる追加選択肢が現れるようになるのだが、全8箇所のどこに追加されるかはランダムであるため、見当たらないようであればもう一度スタッフロールまで見てから再びやり直すしか無い。

総評(解明編)

「車内編」は作品全体の一つの「オチ」を付ける重要なシナリオであり、意義が大きいと言える。とは言えこれだけを持って作品全体の問題点を吹き飛ばせる程とは言い難い。

余談

  • 2007年12月5日に本作のシナリオライター3人によるノベライズ版が発売されている。
    • 同年にこれを元にした本作の映画化が発表された(参考)ものの、その後音沙汰が一切無くなっている。おそらく制作中止になったものと思われるが正式な発表は無い。
  • 2012年2月にiOS版が配信された。タイトルは『忌火起草』だが内容は『解明編』がベースで、追加シナリオ群も全て収録。
    • 現在はiOS11アップデート未対応のため配信終了している。
  • 同じくチュンソフトの『風来のシレン3』『風来のシレン4』『風来のシレン5』ではアイテムとして「忌火起草」が登場する。飲むと持っている道具がすべて呪われてしまうという強烈なバッド効果を持つアイテムである。
  • PS3版には予約特典として「忌火起草 生誕編 メイキング オブ 忌火起草」というBlu-ray Discが付属していた。
    • 忌火起草の製作上でのスタッフの苦労や裏話などが約20分に収められている。
    • 「忌火起草」を気に入ったのならぜひ見ることをおすすめする。
最終更新:2020年11月25日 18:36

*1 PS3版特典Blu-ray、「忌火起草 生誕編」より

*2 もちろん、サウンドノベルでは基本的に分岐したルートがそれぞれパラレルワールドなので、車内編の真実が『忌火起草』の物語すべての真実というわけではないが…。