ファミコン文庫 はじまりの森

【ふぁみこんぶんこ はじまりのもり】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 スーパーファミコン(ニンテンドウパワー専売)
メディア SFメモリカセット
Fブロック×8 (32Mbit)+Bブロック×4(64Kbit)
発売元 任天堂
開発元 パックスソフトニカ
発売日 1999年7月1日
定価 2,500円(税別)
プレイ人数 1人
セーブデータ 3個
配信 バーチャルコンソール
【Wii】2007年7月17日/800円(税5%込)
【WiiU】2013年8月21日/838円(税10%込)
判定 良作
ポイント SFC末期の隠れた名作
ひと夏の思い出を描いた絵本風ADV
ノスタルジックな世界観と美しいBGM
ADVとしては発売当時でも世代遅れ



概要

1999年にニンテンドウパワーで配信された書き換え専用ソフト。 開発は『ふぁみこん昔ばなし』でおなじみのパックスソフトニカが手掛け、本作もまた書き換え専用ソフトのADVとして発売された。

本作の配信時は2世代先のドリームキャストすら発売されており、スーパーファミコンはすでに過去のハードと化していた。ハードの終末期だったことに加え、シリーズ作品も存在しない単発作品だった事から、任天堂作品の中でもマイナーな部類に入ると言える。

だが本作は任天堂製ADVの一角として根強い支持を得て、今なお細々と語り継がれている。


特徴・評価点

  • コマンド選択式のオーソドックスなADV。
    • 夏休みに帰省した主人公の男の子と不思議な女の子との出会いを巡る、ジュブナイル小説風味の物語である。
    • 全6章で、プレイ時間は6~8時間ほど。
    • 平成 新・鬼ヶ島』や『遊遊記』同様、ADV要素だけでなく時たまミニゲームも挿入される。
      • 終盤はRPG風味の戦闘や、アクション要素のあるシーンも。
    • コマンドは「歩く」「見る」「話す」を基本とし、場面によってその他のコマンドが追加される程度で、不必要なコマンドが列挙されることはない。
  • ノスタルジックな気分に浸れる、ひと夏の思い出
    • 舞台は、昭和日本の田舎の村。本作が描くのは、夏休みに帰省した”ぼく”と、村で出会った女の子の甘酸っぱい恋物語である。
    • 村についた"ぼく"が真っ先に出会うのは、森に住む不思議な雰囲気の女の子。深い関心を示し、軽い交流を交わすものの、森を出た頃には女の子が跡形も無く消えてしまう。しかし、"ぼく"の心には「またあの子に会いたい」という気持ちが芽生えていて……
    • 子供の純朴な心を、ムードいっぱいに描いているのが本作の特徴。"ぼく"が感じる初めての気持ちとは裏腹に、女の子の正体も、住んでいる場所も全くわからない。"ぼく"はジレンマと葛藤を胸に、女の子の事を知るべく村の人から情報を聞きこみ、彼女の謎に迫っていく。
  • 上記のストーリーを盛り上げるのが、巧みで繊細な和風BGM。
    • 森のシーンなどで流れる曲調は幻想的。まるで、ジブリ作品のような本格アニメ映画を彷彿とさせる。
      • 女の子のもの悲しげな歌も象徴的。
    • ところどころの巧みな演出に加え、絵本のような味のあるドット絵と相まって、プレイヤーを感傷に浸らせてくれる。
  • 人物・世界観
    • 「夏休みの田舎町」という描写を『ぼくのなつやすみ』に一年先駆けて表現しているのも特徴。さびれた商店や分校を舞台に、味のある人間模様が描かれる。
    • 寺の住職で村人に一目置かれている主人公のおじいさん、排他的ないじめっ子や、魚を釣って暮らすおじさんなど、都会では見られない人間の数々に"ぼく"は翻弄されつつも、人間関係を紡いでいく。
    • 村を包むのは日本神話的な歴史観。背景設定として現れるのが、村に住む妖怪たち。
      • ゲーム終盤に出てくる妖怪たちは個性派ぞろい。土ころびの可愛らしいデザインや、どこか憎めないあまのじゃく等、彼らもまた本作の魅力である。
      • そして、「開発による環境破壊」などリアルな世情も交えながら、「あやかし」達の存亡が掘り下げられていく。どことなく西岸良平の漫画を彷彿とさせるかもしれない。
  • 主人公のデフォルトネームは存在せず、名字も含めてプレイヤーが決める。
    • 決めた名前はゲーム内で改変され、あだ名で呼ばれることがある。
    • ゲーム序盤は、ヒロインからの二人称を決める場面も存在する。
  • 変にこじれた要素は無く、きちんと前向きにシナリオが進む。
    • "ぼく"や女の子が目的に向けて葛藤する中、物語は少しずつ核心に近づいていく。余計なハプニングが起きて物語が後退するようなことは無く、適度にジラしてくれる。蛇足な要素はほとんど無く、素直にお話を楽しむ事ができる。
    • 意外なミスリードを入れてきたりも……?

賛否両論点

  • アクション要素
    • ゲーム性に幅を持たせている反面、終盤のアクションゲームは反射神経が問われる要素が盛り込まれているので、苦手な人やアクションゲームをあまり遊ばない人には難しい。
    • ミスしても直前からやり直せるので配慮はされている。
  • 主人公の口調
    • 主人公は語尾に「 ~なのだ 」と付けて話す。
    • 昭和時代のごく平凡な小学生の口癖としては非現実的でアクの強い設定といえる。方言というわけでもなく、作中でこの口調を使う理由が明かされることもない。
    • 名前を任意入力としプレイヤーとの一体感が図られているタイプの主人公にもかかわらず、個性の主張が強過ぎるこの口調では感情移入を削がれる人もいるだろう。

問題点

  • 良くも悪くも古典的なADV
    • ADVとしては最低限の要素しかなく、ほぼ総当たり。
    • 凝った謎解き要素などもなく、バックログやスキップといった便利機能は存在しない。
      • 一応、作中の世界設定を語るおばあさんには特定のタイミング限定で何度も話しかけることができるので、知っておくと吉。
      • すでに終えた章を最初からやり直すことはできる。
    • ルート分岐も無きに等しく、ストーリーも一本道である。
    • 画面構成は黒一色の背景にグラフィック、メッセージ、コマンドの各ウインドウを重ねたのみ。
      • 当時主流のCD-ROM機によるADVは当然として、SFCソフトとしても地味。
      • グラフィック部は場面により位置やサイズが変わるものの、画面全体を使うことはない。しかし終盤にはこれを逆手に取った演出がある。

総評

スーパーファミコン最終盤における、言葉通りの「隠れた名作」。『ふぁみこん昔ばなし』シリーズのファンはもちろんの事、絵本のような情緒的な作品が好きな人には、たまらない一品である。

次世代機の陰でひっそり生まれた本作は、大作の裏で確かなファンを獲得した。その古めかしいドット絵は、大人が忘れてしまった懐かしい気持ち、かつての居場所を追われるあやかしたちの想いを、良質なアニメ映画のようにしんみりと、飾ることなく表現している。

たまには懐かしい気持ちに浸ってみるのもいかがだろうか。可能であれば時期は夏、帰省先で遊ぶ事を推奨する。


余談

  • 本作を遊ぶ方法は2023年現在、書き込み済みのSFCカセットを入手するか、VC購入済みのWii/WiiU本体を入手するかのいずれかのみ。
  • 直接のつながりはないものの、「ふぁみこん昔ばなし」シリーズの3作目(4作目)とみなされる事も多い。
    • なお、「ファミコン文庫」シリーズが他に出ることは無かった。
  • 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』では、本作のヒロインが「女の子(はじまりの森)」として収集要素「スピリッツ」に登場した。
    • スマブラシリーズで本作が扱われるのは『SPECIAL』が初。
    • 上記の通り、本作は比較的マイナーな作品なのだが、バトルにおけるネタの拾い方がかなり細かい。
+ 詳細(ゲーム終盤のネタバレを多少含む)
  • 対戦相手は女の子役のむらびとと、主人公役のネス。ネスは「はじまりの森」の主人公同様、常にリュックサックを背負っている。
  • 対戦中は霧がかかっている。これは作中において、森の入り口や深部に霧がかかっている事の再現。女の子と主人公が揃っている事からして、ゲーム最終盤のある場所を再現したものと思われる。
  • ステージはダックハント。ドット絵で表現された原作のイメージに近く、周囲が黒枠で囲まれているのも同様。草木が生えている点も、上述したゲーム終盤のある場所を再現している。
  • BGMは『ふぁみこん昔ばなし 遊々記』の楽曲。
  • そして、むらびとが多用する下必殺ワザ「タネ植え」は、本作品のラストを知っていればグッと来るネタである。
  • 原作意識かどうかは微妙だが、スピリッツ名称が彼女の名前ではなく「女の子」になっているのは、本作のストーリーを汲んでいるとも言える。単純に公式サイトの表記にのっとっただけの可能性もあるが。
  • ネタの細かさに定評のあるスピリッツモードだが、マイナー作品の終盤まで遊ばないとわからないネタを拾ったバトルはこれと「カイル・ハイド*1くらいである。担当スタッフの中に、熱心なファンがいたのだろうか?
  • なお2019年秋には、とあるスピリッツイベントの告知でセンターを飾る厚遇を受けている。
  • 「ギガリーク」と呼ばれる2020年に起きた任天堂の機密資料が大量流出した事件で、本作の未発表のGBC版が流出し話題になった。GBC版はタイトルが「ゲームボーイ文庫 はじまりの森」に変更されている。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年10月04日 21:49

*1 こちらは、2作目のラストに出てくる屋上を再現してフォーサイドで戦うというもの。それ以外のネタも細かく拾っている。