THIEF: The Dark Project / THIEF Gold

【しーふ ざ だーく ぷろじぇくと】

ジャンル ステルスFPS

対応機種 Windows
発売元 EIDOS interactive
【Steam】Square Enix
開発元 Looking Glass Studios
発売日 1998年11月30日
定価 【Steam】711円
配信 SteamにてDL販売中(Gold版)
判定 良作
ポイント 一人称ステルスゲーム
ルート選択による高い自由度
難易度も高い


概要

System Shock 2』を手掛けたことで知られるLooking Glass Studiosが開発、1998年にアイドスから発売されたFPS。
自社のDark Engineが使われた最初の作品であり、近接攻撃システムなどの一部要素は『System Shock 2』に受け継がれた。


ストーリー

ガス灯が通りを照らし、電気が利用されだした、何処とも知れぬとある《街》

《街》は秘密主義の自警団「キーパー」・自然を尊重しトリックスターを信奉する「異教徒」・作り手(The Builder)と呼ばれる神を信奉しスレッジハンマーを携帯する「ハンマー騎士団」の三つの勢力に分裂していた。

元ホームレスの孤児であるギャレットは、キーパーの一人から窃盗を図り捕まえられつつもその腕を見込まれ、潜入や暗殺の技術を叩き込まれたのちに独立、《街》の泥棒として活動していた。

ある日、賄賂を払わなかったため犯罪領主ラミレスによる暗殺の対象となったギャレットは逆にラミレスの邸宅へと潜入。金目の物を片っ端から略奪し、悠々とその場を後にする。

その手柄を聞きつけ、彼の元にある依頼人が訪れる。自らを「ヴィクトリア」と名乗るその依頼人は、最近街に移住した風変わりな貴族「コンスタンティヌス」が所有する剣の窃盗を依頼する。

取引を受諾し、剣を盗むため活動を開始したギャレット。しかし彼は徐々に、街を巡る陰謀に巻き込まれていく。

ゲームシステム

基本システム

  • WASDで移動し、Q/Eで左右リーン、Spaceキーでジャンプ、Shiftキーで低速歩行し、[キーでアイテム選択、マウス左クリックで攻撃、マウス右クリックでアイテムの使用や取得、ドアの開閉を行う。
    • 画面左下の盾が体力を表し、画面下中央の電球が現在地の照度を表す。照度が低ければ低いほど敵に発見されにくくなり、体力は回復薬や食料品を使用することで回復する。
  • 武器は数字キーで選択。剣・ブラックジャック・弓の三種類が存在。
    • 剣は移動しながら攻撃することで入力方向に剣を振るようになっており、溜め攻撃、Spaceキーによる防御など対人戦に特化している。
    • ブラックジャックは上手くいけば一撃で昏倒を狙え、後ろから頭部を攻撃することで無力化できるステルスに特化している。警戒状態では役に立ちにくい。
    • 弓は唯一の遠距離攻撃手段であり、遠距離から倒す鉄矢・照明や血痕を消したり聖水でゾンビを倒す水矢、木に使用して別ルートを作り出すロープ、当たった場所の足音を消す苔矢とトリッキーな使い道がある。
    • また攻撃に転用可能なアイテムとしてはフラッシュボムが登場。投げることで、相手を一時的に気絶させることができる。

ゲーム進行

  • 難易度をノーマル・ハード・エキスパートの三段階から選択し、巨大な1マップで構成された邸宅や工場など目標のあるエリアに侵入、宝の収集や敵の無力化、装置の作動などを駆使し各目標を達成していく。
    • 難易度が高くなると敵の能力強化のほか「人間のNPCを殺さない」「一定量の価値を持つ宝を盗む」といったミッション目標が増え、より達成が困難になる。難易度が低い状態では、大雑把なプレイでも目標の達成が可能。
  • 入手した財宝はステージクリア時に換金され、ステージ開始前のみ利用できるショップでの物資購入に回せる。
    • 特殊な弓の補給などはショップ購入頼りのため、財宝回収は重要。回収しきれないままクリアした場合、後のプレイに支障が出ることもある。
  • 対人戦闘には重きを置かれておらず、プレイヤーは暗闇や遮蔽物への退避と微妙な暗殺に集中することが求められる。倒すことも可能だが難しく、複数体に囲まれた場合まず勝つことは不可能。
    • 道中にはゾンビや蜘蛛といったファンタジー要素のあるクリーチャーも登場し、ゾンビには聖水入りの水矢が有効など独自の攻略法が存在する。だが彼らも総じて強く、また全ての個体が倒さなくても進むことが出来るようになっている。
  • 道中には鍵の掛かった扉が配置されており、死体からもぎ取るか背後からスることで入手した鍵を利用できる。また中盤からは2種類のキーピックも登場し、開くまで長押しを続けることで開錠が可能。

評価点

自由度の高い潜入

  • 攻略可能な複数のルートが存在し、プレイヤー自らがそれを探し、見つけて進入していくという方式を採っている。
    • 普通のプレイでは気付かないようなルートも複数存在。塀から屋根に登りバルコニーから進入するなど、敵の裏を掻いたルートで進む盗賊ならではのゲームプレイが楽しめる。

光と音のシステム化

  • 音と光を三次元空間のステルスとしてゲームプレイに取り入れており、照明の明るさや床の材質などによって発見されやすさが左右する。
    • 鉄板の床を歩けば敵は即座に気付き、ランプの下に居れば遠くからも発見される。逆にカーペットの上を歩けば背後に迫ってもバレず、暗闇に潜んでいれば至近距離であろうと気付かれにくい。
    • それぞれ足音を消す苔矢、照明を消す水矢という戦略上有利になるアイテムも登場、地形を見定め、より有利な立ち回りを要求される。

高度な敵AI

  • 仲間の死体に気付いたり、音に機敏に反応したり、巡回をやめて虱潰しに通路を探したり、重傷を負うと仲間を呼ぶために逃走したりと人間敵のAIは非常に優秀。法則性を理解するのが難しいほど人間的な行動を取り、また通常巡回中も口笛を吹いたり雑談を交わしたり酔っ払っていたりとさまざまな動作を見せる。
    • これに対抗し死体を抱えて小部屋に放り込んだり、巡回路の照明を消して奇襲を掛けたりといった頭脳戦が繰り広げられる。

Dark Engineによる物理表現

  • 壷などの物体の投擲や弧を描いて飛ぶ矢など、物理エンジンの恩恵が多様に存在する。当時はまだ多くのFPSに小物を動かす物理エンジンは搭載されておらず、非常に斬新なポイントだった。
    • 後には同じエンジンを利用した『System Shock 2』も登場。こちらも物理エンジンを利用したインベントリシステムにより、エレベーターをそのまま物資保管庫として利用できるほどの自由度の獲得に成功するなど、当時としては非常に出来の良い物理演算を採用していた。

問題点

複雑なマップ構造

  • 複数の潜入ルートが存在する自由度はあるが、裏を返せばどこが最適解なのかまったくわからないまま進めることになるため探索と観察が重要となる。マップ構造を理解しなければ突破の難しい構造ばかりであり、総じて探索の難易度は高い。
    • マップも存在するが手書きでかなりざっくりとしており、あまり使い勝手が良いとは言えない。現在位置がくっきりと表示されるわけでもなく、コンパスと併用して大まかな位置を自分で予想しなければならない。

ストーリーが分かりにくい

  • かなり端折っているため、ストーリーの内容が分かりにくい。没入感の向上には一役買っているものの、ムービーの挿入などもない。
    • 一応ステージ冒頭部やストーリーの節目に動画は用意されており、ステージ中に配置されている文書を読むことで世界観を補完したりも出来るが、日本語字幕が無いため英語が分からないと厳しい。

無力化の難しい敵たち

  • 当時のステルスゲームにはまだ『メタルギアソリッド3』『ASSASSIN'S CREED』『Watch Dogs』のような「ボタン一つで相手をねじ伏せ、自動的に無力化する」というCQCやテイクダウン、アサシンブレードのような概念はない。このため、ブラックジャックを持って背後から襲撃しても狙いを定めてきちんと頭を殴らなければ敵は昏倒せず、慣れなければ非常に難しい。
    • 剣は剣で打ち合いが難しく、一方的に斬られて死ぬこともしばしば。また、剣を持っている際の立ち回りも普段以上にもっさりしていて回避が難しい。
    • 弓の威力も弱く、連続して放つこともできないため近距離からの射殺にも向かない。
    • 無理に倒さなくても進むことは可能であり、寧ろ回避重視のプレイスタイルを前提に構築されているので当然と言えば当然なのだが、やや自由度を阻害する部分でもある。

トライ&エラーの強いゲームプレイ

  • 失敗すると即座に死に繋がるタイミングが多く、初見で突破できるような容易な代物ではない。
    • 幸いセーブ回数は無限のため、死亡時のリスクは高くはない。

宝の収集がやりこみ要素として機能しにくい

  • ギャレットは即座に入手した宝を換金してしまい、宝の収集要素といったものはあまり重要視されていない。ゲーム的にも周回は考慮されておらず、自由度が高いわりにあまりリプレイ性が高くない。

盗賊っぽくないゲーム内容

  • タイトルのわりにゾンビや巨大爬虫類と戦うなどファンタジー色が強く、盗賊感に欠けるシーンが多い。人間がおらずゾンビが大量出没するだけのカタコンベなどで顕著。
    • こうした声を受けてか、続編『Thief II: The Metal Age』では不気味なオカルト的要素は薄まり、代わりに監視装置や巡回マシン等、その名の通り機械的要素が色濃くなっている。

総評

世界で初めて「戦闘を回避することを積極的にゲームプレイに取り入れたFPS」として「一人称潜入ゲーム(First-Person Sneaker)」を名乗り、北米における『ASSASSIN'S CREED』『スプリンターセル』『HITMAN』『Deus Ex』といった、自由度の高いステルスを重視する後の複数のFPS/TPSに多大な影響を残した作品。

難易度は高いながらも、そのAIや環境の作りこみのクオリティの高さ、自由度を念頭に置いた非常に没入感の高いゲームプレイは高く評価され、現在では初期の「イマーシブシム」ジャンルの傑作のひとつとして扱われている。


余談

  • 現在、Steamなどで配信中の『Thief Gold』は本作発売後に追加ステージやレベルエディタなどが同梱された完全版となっている*1

その後の展開

  • 2000年3月には続編『Thief II:The Metal Age』が発売されたものの、同年5月にLooking Glass Studiosが財政難によりスタジオを閉鎖。その後、2004年にはIon Storm Austinが開発を手掛けた3作目『Thief: Deadly Shadows』が発売された。
    • そして、2009年のスクウェア・エニックスによるEidosの買収といった経緯を経て、2014年には10年ぶりの新作かつリブート作としてEidos Montréalが開発を手掛けた『Thief』が発売された。
最終更新:2022年10月23日 16:36

*1 元々、1999年10月にパッケージ版が発売されたがそちらは当時製作中であった続編『Thief II: The Metal Age』のメイキングビデオも収録されている。