DISORDER6

【でぃすおーだー しっくす】

ジャンル サスペンス・フィクションアドベンチャー
対応機種 プレイステーション3
Xbox 360
発売・開発元 5pb.
発売日 2013年8月22日
定価 通常版6,800円
限定版8,800円(共に税別)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:C(15才以上対象)
判定 クソゲー
ポイント ヘタレ過ぎる主人公
出番が無さ過ぎるヒロイン
どこがサスペンス?
サスペンス・フィクションアドベンチャーシリーズ
DUNAMIS15 / DISORDER6

概要

5pb.とDivision ZEROのダブルプロデュースによる「サスペンス・フィクションアドベンチャー」の第二弾。
クローンとして生み出された学生達の人間模様や時間のループを描いた前作『DUNAMIS15』と異なり、記憶喪失の少年と多重人格の少女の逃走劇を描く。

関涼子を始めとする前作のライター陣は参加せず、六花梨花、健部伸明、稲村竜一がシナリオを手掛けた。キャラクターデザインは前作に続いて長浜めぐみが担当した。
前作プロデューサーの市川和弘、金杉はじめの両名はゼネラルプロデューサーとして携わっており、本作も「SDR project」を冠している*1


ストーリー

雨が降る夜、少年は倉庫のような場所で目を覚ます。
右手には重厚な手錠。
その鎖の先はシーナと名乗る不思議な少女の左手に繋がっていた。
彼女は少年のことを「ジョー」と呼ぶが、自分にはその記憶がない。
それどころか今までの記憶全てが抜け落ちていた。

自分は何者なのか?

状況が飲み込めないまま出口を探しているうちに、
二人は白衣の女性の死体を発見する。

一体誰が殺したのか?

愕然とする中、明かりとして灯していた火が倉庫の荷物に燃え移り、
二人は命からがらその建物を後にする。
外に出て彷徨っていると、一人の刑事・コバヤカワに遭遇する。
彼女は二人を殺人事件の重要参考人として連行しようとするが、
目が覚める直前の記憶のない二人では不利だと判断し彼女の前から逃亡。
そして二人は容疑者として追われることになったのだった。

「鎖で繋がれた男女」「記憶喪失」「逃亡」

失われた記憶から手繰り寄せた真実とは――?

特徴

  • 基本的なシステムは前作と同様。一本道のノベル形式で、選択肢は即バッドエンドかアナザーエンドに進み、後に影響しないものが殆ど。
    • 前作にあったフローチャートは廃止され、代わりに好きなチャプターから再スタートが可能になった。また、TIPS(用語集)も廃止された。
  • 本作の特徴はヒロインが多重人格者であることにある。タイトルの「ディスオーダー6」の通り6つの人格を有し、状況に応じてそれらが表層化し、ストーリーを動かしていく。
    • 主人公は何故かヒロインと手錠で繋がっており、否応なしに行動を共にすることを強制される。
  • ストーリーは全6チャプター。前述したように一本道のシナリオだが、途中の選択肢次第ではヒロインの別人格と個別のエンディングを迎える場合もある。
    • また、一度トゥルーエンドを迎えた後は別ルートへの分岐が出現する。

問題点

  • サスペンスとは程遠いシナリオ
    • ヘタレでM気質な主人公「ジョー」がヒロイン「シーナ」の破天荒な別人格達に振り回されるのが基本で、後半までとにかくドタバタのやりとりが繰り広げられる。サスペンスフィクションを名乗りながら、実際は殆どラブコメ調である。
    • 何処とも分からない倉庫で目を覚ます記憶喪失の主人公。自身と手錠で繋がれた謎の多重人格少女。そこに転がる見知らぬ女の死体という謎だらけの幕開けで、そこから自分達を殺人事件の容疑者と疑う刑事や、執拗に主人公の命を狙う殺人鬼の少年に追われることになる…と、チャプター1だけならミステリー、サスペンスの雰囲気が出ており、期待が持てそうに思わせるが実際は上記の通りである。
      • 体験版はこのチャプター1が丸々入っている。その為、体験版に惹かれて購入すると落胆する可能性が極めて高い。
    • 前作のような狂気や心の闇に迫る訳でもなく、かと言って別の新たなサスペンスドラマを生み出せているかと言うと、とてもそうは言えない。
      • メインのストーリーそのものも、言ってしまえば「主人公の身内の小競り合い」で、前作より遥かにスケールが小さくなっている。それが明かされるのも相当後なので、ドタバタラブコメが急に終わったと思ったら、後は流れで内輪揉めの終盤戦へ。前作のようなラストの盛り上がりは無く、寧ろ盛り下がっていく。
    • それらを差し引いてもシナリオの完成度自体低く、設定の練り込みや驚きのカタルシスは乏しくツッコミ所も多い。
      • 終盤になると「あんな事」「~のような行動」などとぼかした表現や、明言せず想像に委ねるような要素が目立つので、よく読み解いても消化不良の部分が出て来る。
      • シナリオライターの一人である健部氏は『偽典・女神転生』や『I/O』、『メモリーズオフ After Rain』などの数多くのゲームシナリオに携わっていたのだが…。今回は深くは関わっていないのだろうか?
  • 主人公が度を越したヘタレで、殆どの場面でナヨナヨした態度を取る。とにかく優柔不断であり、喋る際もいちいち言葉に詰まり、何をするにも尻込みして慌てふためいてばかりで、それでいて活躍シーンなども殆ど無いのでストレスの原因に。声優の演技(CV:小野賢章)も見事なまでにヘタレを演じきっているのが却ってプレイヤーを苛立たせる。
    • 選択肢では勇気を振り絞ったり、敢えて危険に立ち向かうこともあるが、大抵は返り討ちに遭ってバッドエンド行き。見せ場は悉くヒロイン(の別人格)が持って行ってしまう。
    • M男気質という設定まであるので、特に暴力的な人格「マリカ」の発現中は徹底した下僕扱いを受けるのを見続けなければならない。プレイヤーにもM属性が無ければきついシーンが少なくない。
    • 冒頭で死体を発見した際もヒロインをすぐ犯人と疑う。記憶が無く、冷静さを失っているとは言え、流石に短絡的ではなかろうか。
    • 一応、最終盤ではようやく見せ場があるのだが、事件収束にそこまで大きな貢献をしたとも言い難く、やはり主人公としては力不足。また、失った記憶に関しても口頭で知らされるばかりで殆ど戻らない。
  • ヒロインの本来の人格「シーナ」は大人しく、幼馴染とされる主人公を慕う純粋な少女だが、別人格は女王様のようなドS「マリカ」、女たらしの男性人格「ハヤト」、駄々っ子で大食らいの自称5歳「ユーノ」と、いかにも騒々しくサスペンスとは無縁そうな人格が揃っている。そして実際のストーリーもその印象通り…。
    • 「マリカ」は主人公を召使いのように扱き使い、「ハヤト」は行く先々で女性を口説き、「ユーノ」は駄々をこねたり暴飲暴食で騒動を巻き起こす。サスペンスらしさなど欠片も無いシーンが殆ど。
      • 「ハヤト」メインのエピソードでは、主人公とヒロインがそれぞれ女装と男装(身体は女、人格は男)をしてミックスバーで働かされるなどと言う展開もある。
    • 5番目の「ナヴィ」という人格は登場する必要があったのかと思えるほど出番が極めて少ない。ストーリー上でも大した役割はないし、個別のエンディングもない。本当におまけ程度の人格である。
      • しかし人格統合の際には「(主人公が)嫌いじゃなかった」と、取って付けたような好意を見せる。他の人格と違って交流どころかろくに話もしていないのだが…*2
    • 各人格名が判明した後でも、どの人格が表層化しようが名前表示は「シーナ」なのでややこしい。
    • 人格がコロコロ変わる上、殆どの場面で別人格の方が出張ってくるので「シーナ」本来の人格は驚くほど出番が少なく、掘り下げはかなり甘い。
      • 通常、多重人格ものは普段は主人格で行動し、必然性のある場面で別人格が表層化するのが一般的だが、本作の場合は別人格が終始出突っ張りというシチュエーションばかりで、主人格のはずの「シーナ」はなかなか出てこない。
      • というか、「シーナ」自身は自分が多重人格者である事自体に気付いておらず、主人公達もあまり説明しない所為で状況を理解すら出来ていないので、本筋にもまるで絡んでこない*3。本来の「シーナ」としての見せ場は殆どチャプター1で終わってしまい、結果としてヒロインにも拘らず出番が殆ど無いという事態に。主人公は「シーナに会いたい」と言うようになるが、プレイヤーも思わずそう言いたくなるほどの出番の無さである。
      • チャプター2まではそれなりに登場するのだが、チャプター3の冒頭で交代して以降は次の出番はなんとチャプター5の後半。それもすぐにまた交代してしまい、もうエンディング直前まで出てこない
      • チャプター4にも一応出番はあるのだが、それはバッドエンドで別人格の時に刺され、息を引き取る間際に「シーナ」に戻るというもの。
    • 別人格達は何かしらの役割を持って生まれたものであると説明されるが、必然性が感じられないその場のノリとしか思えない人格交代が少なくない。
      • 特に「マリカ」は「力技でジョーとシーナを守る際に発現する」と説明されるが、実際の所は誰彼構わず高圧的な態度を取ったり平然と他人のバイクを奪うなど、当人が一番のトラブルメーカーである。
    • 別人格達は記憶の共有ができていないので、切り替わるとまず状況判断と説明からやり直し。それまでの会話も勿論途切れるし、交代はいつも唐突なので周りの人間も混乱する。
      • それでいて、無駄な人格交代が多いので、「話している最中にヒロインの態度が変わる」→「◯◯に変わってたのか!」という(ギャグの)流れがやたら繰り返される。そして交代したらしたで、別人格がトラブルを都合よく解決してしまう。
    • そして別人格達はこんなに出突っ張りでありながら、ストーリー終盤に差し掛かる前に悉く消滅(主人格と統合)して他のキャラ同様、完全に退場する。
      • 以降は新たに登場した6番目の管理人格だけを主軸としたストーリーが展開され、他の人格がストーリーに大きな影響を遺したり、再登場すると言った事は一切無い。勿論、主人格の「シーナ」の出番が増えるなんて事も無く、そちらもエンディング直前までまるで登場せず。
  • 他の登場人物は元暴走族の姐さんと愉快な舎弟達、くノ一のようなウエイトレス化粧の濃い派手なオカマと、キャラ自体が悪い訳ではないが、サスペンスに合わないどこかズレたキャラばかり。やはりドタバタ系のシチュエーションコメディの雰囲気が漂う。
    • それでも作中で魅力あるキャラとして表現出来ていれば良いのだが、ストーリーに深く関わらないまま退場するキャラばかりなので感情移入もしにくい。
      • 序盤から登場して主人公達と親しくなる姐さんと舎弟達ですらチャプター4で完全に消え去り、以後の再登場も無し。冒頭から主人公達を追っていた刑事も終盤は物語に関わらず、エンディングで急に主人公への疑いを解く。
      • 前述のウエイトレスに至っては、完璧な仕事ぶり、尋常ではない身のこなし、明晰な頭脳と超人のように描かれた割に特に掘り下げも無いままフェードアウトする。結局、最後まで謎の人物のまま。
    • 前作では章毎に視点となるキャラを変えるなど心理描写が巧みだったが、この通り本作では主人公とヒロイン以外のキャラは捨て石のような扱いが多く、掘り下げが極めて浅い。
      • 黒幕はかなり背景が語られるが、出番は終盤のみでそれ以前は主人公のフラッシュバックにチラっと登場するだけなので、印象が強いとは言い難い。
  • 前作の黒幕と酷似したキャラが冒頭で死体となって登場するという、前作プレイヤーには衝撃的なサプライズがある。
    • 前作では黒幕が辛うじて生きていた事がエンディングで明かされており、当然これを見た前作プレイヤーはいやが上にもどんな関連性があるのか期待させられるが…。
      + ネタバレ
    • なんとそれらは前作との関連性を含めて最後まで明言されない。そのキャラは容姿ばかりか苗字まで前作黒幕と同じであり、CVも同じ声優が務めている。挙句、性格までそっくりと、同一人物としか思えない設定になっているにも拘らず思わせぶりなだけで終わり、結局謎のまま。
      • その人物が作中で何をしたか、何故殺されたのかは発覚するものの、正直「それで?」としか言いようが無い真相である。
      • 名前だけが微妙に違い*4、これまた何か意味がありそうな雰囲気を漂わせるが、そんなものは無かったというオチである。単にキャラを使い回したとも言える。
  • 再プレイ時には主人公達を追う刑事側の視点で描かれる小シナリオが随所に挟まる。
    • しかし特に驚きの事実が発覚する、刑事側の心情が深く描かれる、という事もなく、本編で分かる事のおさらいをしたり、刑事達の動向が多少分かる程度でしかない。一応、登場人物の掘り下げもあるが、それも僅かである。
    • また、再プレイとは言ってもクリア後ではなくメッセージが既読にさえなっていれば良いので、初回でシナリオ発生地点を過ぎてセーブ→その地点の前のデータをロード→再び読み進める、で見られてしまう。
  • 胸糞殺人鬼「マリヲ」
    • ゴスロリ衣装で女装し、主人公の命を執拗に付け狙う少年で、主人公が関わった人を次々と手に掛ける。
    • シナリオの基本展開が上記の通りなので、本作のサスペンス成分のほぼ全てを一人で担っている。実際、本作のバッドエンドの大半はマリヲに殺されるというもの。しかし…。
      + ネタバレ
    • まず本作の事件には、主人公の記憶喪失やヒロインの多重人格化に関わっている「元凶」と、主人公を巡る騒動の引き金になった「首謀者」の二人の黒幕が存在する。元凶は野望の為に主人公を連れ戻そうとしており、首謀者の方は主人公を利用して元凶に対するある目的を果たそうと画策している、というのが事件のあらましである。
    • マリヲは元凶の配下であり、「首謀者から主人公を守る」という使命を帯びていた。しかし、傾倒する姉が主人公に想いを寄せていた為に主人公に嫉妬し、使命を放棄してその命を狙っていたのだった。マリヲを制止できるのは姉だけで、その姉も主人公を守る事と、元凶の元へ主人公を連れ帰る使命を負っている。
      • が、姉の目の届かない所ではマリヲは平然と暴挙に出ており、姉はそれが分かっていながら対応がいつも後手に回って制御しきれていないという体たらくであった。
      • つまり本作のサスペンス部分の多くは根幹の事件とはさほど関係無い。一応、マリヲも関係者ではあるが、別に元凶が指示したとか言った複雑な背景があった訳でもなく(と言うか主人公が死んだら元凶の計画も台無し)、単なる一個人の私怨に過ぎなかった。更に元を質せば姉の監督不行届元凶の人選ミスだったという気が抜けるような真相である。しかもそのマリヲの件の決着も非常にあっけなく、納得し難い。
    • 終盤、マリヲの正体を知らされる主人公だが、なんとその姉から「(マリヲの行動を)主には黙っていて欲しい」と言ったような虫がいいにも程がある頼みを受ける。
      • マリヲが殺傷したのはいずれも主人公の恩人ばかりであり*5、当のマリヲも罪悪感が欠如している為、姉に叱られて表面上謝っただけでまるで反省していない(しかも直後に居直る)。当然、主人公もその頼みを簡単に聞き入れたりはしないが、最終的には結局許す事に。と言うか、姉も弟を止められるなら何故すぐにそうしなかったのか。
    • その後はマリヲが報いを受ける事はなく、ピンチに陥った主人公を仕方なく助け、無関係の人間を避難させる、首謀者の仕掛けた爆弾を解除する、姉と共に主人公を助けに来ると言ったような活躍が描かれ、まるで今までの所業など無かったかのような善者扱いを受ける。これで納得しろと言われても多くのプレイヤーにとっては無理な話だろう。
      • 挙句、マリヲの正体を知る場面で彼にセクハラ行為をさせられるコメディシーンが空気も読まず挿入される。こんな事で笑える人がいるだろうか?
    • 姉も姉で、弟をまるで制御できないポンコツぶり*6や、そもそも主人公が警察に追われる原因になっていたり、挙句は弟の暴挙を水に流すように頼むなどと、理解に苦しむキャラになっている。
      • ストーリー上では、弟と違って罪悪感を抱いている事や、主人公への献身的な態度がクローズアップされるものの、やはり全体を見ると人間的なおかしさが目に付く。育ちが育ちなので元より正常ではないのだろうが。
  • また、登場人物達の成長劇でもあった前作に対し、本作で成長するキャラはほぼ皆無。
    • 前作のように精神的に未熟な少年少女がメインという訳ではない関係もあるのだが、反省も改心もしないマリヲとその姉の例を見れば分かる通り、「成長するべきなのにしないまま終わるキャラ」は描かれる。
    • 一応、主人公の成長は描かれるが、はっきりと描写されるのは大分終盤になってから。それでも前作の面々のように見違えるほどでも無いのだが、作中では「大きく成長した」と持ち上げられる。
  • ヒロインの別人格に個別のエンディングが用意されているマルチエンドだが、単に該当する選択肢を選んだら短いエンディングを迎えて終了というだけで、バッドエンドと大差ない。スタッフロールもトゥルーエンド以外では流れない。
    • 内容も「宝くじを一枚買ったら大当たりで豪遊生活へ」「失われた記憶も追われている事実すらも全て放り投げて中華料理の修行に出る」「上記のミックスバーで働くうちに楽しくなって本職にしてしまい、女装、男装したまま追手の刑事達とのドタバタ逃走劇を続けていく*7」と、これまたヤケクソなコメディに走ったものばかり。
      • 分岐となる選択肢はごく普通であり、一回それを選んだだけでいきなりこのような結末へと至るので、初見では笑うよりも唖然とすること間違いなし。まるでネタのバッドエンドだが、これが途中で迎える個別エンドなのである。
      • こんな内容なのに、トロフィー/実績では「服従の終焉」「暴食の終焉」「倒錯の終焉」などと無駄に物々しいタイトルが付けられている。
      • コメディ調ではないエンディングもあるが、ただ暗いだけの結末でバッドエンド以外の何物でもない。
    • ストーリーを最後まで進めても、後味の悪い結末を迎えてしまう。スタッフロールも流れるので正規のエンディングのようにも思えるが…。
      • 実はその後でもう一度終盤をやり直すと選択肢が追加され、トゥルーエンドが迎えられるという分かりにくい構成になっている。ストーリー上の必然性も特に無いので、何故初見から進ませてくれないのか分からない謎仕様と化している。
      • しかしそのトゥルーエンドは…。
+ ネタバレ
事件は終わったが、シーナはこの事件の記憶を全て失っていた。
今のシーナにとってはジョーはこの数日間、共に逃避行を繰り広げたパートナーではなく、子供の時以来久しぶりに再会した幼馴染なのだ。
ジョーはそんなシーナを問い詰めることは無く、ただ「一緒に生きていこう」と告げた。
  • 一見ハッピーエンドだが、ヒロインに関する諸々を放棄した投げっぱなしのエンディングである。
    • しかも終盤では「記憶とは人格」であり、人格を構成する上で記憶が如何に重要であるかが何度も語られるので、それまでのテーマを全否定するような結末とも言えてしまう。
    • 別人格達も、主人公と「一つになってまた会う」という約束をしたり、主人公によって妄念が晴らされる形でヒロインの主人格と統合(作中の表現を借りるなら「溶けて一つになる」)するのだが、この下りを含めヒロインに別人格が生じる以前からの記憶が丸々失われてしまうので*8、「溶けて一つ」どころか全部無かった事になっているのは想像に難くない。クライマックスでの主人公と首謀者のやり取りも台無しである。
  • そもそもラストシーン直前までは綺麗に収まりそうな流れだったのに、何故それを切って最後の最後でこんな形に帰着させるのだろうか。
    • 崩れる病院からの脱出直前、ヒロインは「ある人格」が目覚めた事で一人病院の中に戻っていく。その後、最期の望みを果たした「ある人格」は「この娘を主人公の元に帰す」と言って去って行くのだが、ノーマルエンドではヒロインは病院跡から発見されず行方不明。トゥルーエンドでも前述の通り記憶を失っており、ろくに帰せていない。
  • 他の登場人物のその後も全く描かれないので、尚のこと虚無感が大きい。せめて前作のように丁寧なエピローグや後日談シナリオでもあれば…。
  • 単純にボリュームも少なく、前作と比べても明らかに早く終わる。テンポ良くやると10時間を切るかもしれない。
    • しかしその前作より遥かに少ない文章量の中、日常のコメディパートや主人公の煩悶が多くを占めるので、短いのに進めるのが億劫になるという事も。
    • 前者は楽しめる人なら楽しめなくもないが、後者はストレス要因になるばかり。しかも全編を通して万遍無くあるので最早苦痛ですらある。
  • トゥルーエンド後はヤンキーの姐さん「ヒナコ」と家出少女「アユミ」がそれぞれ主軸となる「ヒナコルート」「アユミルート」に分岐可能になるが、後述するように充実したヒナコルートに対し、アユミルートは上記の別人格のエンディングと大差無い短小シナリオで、内容も鬱なものであり、トゥルーエンド後にわざわざ見たいと思うものではない。
    • しかもアユミルートは分岐は最も遅いので、ヒナコルートの後で見て最後の最後で暗い気分になってしまう可能性が高い。
  • 2013年のソフトでありながらクイックセーブ、クイックロードが搭載されていない
    • 前作には勿論あったし、前作と同時期に発売した悪名高い『code_18』もPSP版に限っては搭載されていた。何故その二年も後に出た本作に搭載されていないのか。

評価点

  • 演出の大幅強化
    • ぱっと見はキャラの立ち絵とメッセージウインドウが表示されるごく一般的なADVだが、キャラの立ち絵が実によく動く。拡大縮小、上下左右へのスライドは当然として、揺れ動く、飛び跳ねる、足を映して目の前に現れたかのように表現、横からひょっこり顔を出す、背後に回り込む、画面が埋まる程のドアップなど、とにかく動作が豊富。
    • 更に画面の演出も豊富で飽きさせない。テキストADVと言うよりちょっとしたアニメーションを見ている気になれる。
  • 声優陣は前作はベテラン、中堅で塗り固めていたが、本作は主人公とヒロインを始めとして若手の人気声優も起用している。
    • 特にヒロイン(CV:早見沙織)は人格の演じ分けが見事。それだけに自称5歳児の「ユーノ」だとキャラの痛々しさが滲み出るが。
    • 勿論、若手のみならず中堅、ベテランも幅広く起用。演技は申し分無い。
    • 前作でエンディングを歌っていたが本編には出演していなかった今井麻美も参加している。但し、キャラ自体は脇役ですぐに退場する。
  • 最早お約束だが、BGMは良い。阿保剛を始め@sound、Czk、yuta*starと言った前作の作曲陣に新たなメンバーを加えており、安定の高品質である。
    • 主題歌も良曲。エンディングテーマは前作同様に今井氏が歌唱している。
  • ヒナコルート
    • トゥルーエンド後に分岐可能なルートの一つ。本編で退場したキャラ達が再登場し、本来の流れとは全く違う形で事件を収束させるという、熱く盛り上がる展開が用意されている。結末も正に大団円で、読後感が良い。
    • 主要キャラなのにあっさりフェードアウトしたヒナコと舎弟達、出番が極めて少なかったくノ一ウエイトレスとオカマ店長もこちらのルートではしっかり主人公に同行する。特に本編では見せ場に乏しかった舎弟の「ヤス」はその鬱憤を晴らすかの如き活躍を見せる。本編でやってくれ。
    • 本編では報いを受けず改心もしなかったマリヲもこちらでは初めて自身の行為を省み、最後は姉と共に自首して罪を償う形になる。釈然としなかった本編よりもずっとカタルシスを味わう事が出来るシナリオとなっている。だから本編でやってくれ。
    • 一方、ジョーとシーナは完全に主人公(笑)とヒロイン(笑)と化してしまい、特にシーナに関してはかなり強引にハッピーエンドに持って行っているので彼らのドラマとしては非常にあっけないものに。また、本編で明かされる真相も一部伏せられたまま終わってしまう*9。スタッフロールも無いので、あくまで本編の溜飲を下げる為のifルートという事なのだろう。
      • だが、出来る事なら本編をそのようなモヤモヤが燻る形で終わらせないで欲しかったものだが。
      • 寧ろ、このルートの展開を適宜盛り込んで本編の方を充実させれば、作品自体の評価もある程度上がったのでは無いのだろうか。
  • ドタバタ系のコメディが好きな人ならある程度は楽しめるかもしれない。
    • キャラのやり取りもそういう系統の作品によくあるものが多く、最初からそう割り切っていれば楽しく読めるシーンも少なくない。立ち絵がよく動くので、コメディシーンの演出自体は良い。
      • ただ、それも後半に差し掛かる頃までであり、以降はコメディでもサスペンスでもない面白みに欠けた展開で最後まで行ってしまう。前述のヒナコルートなら中盤までのノリのまま最後まで行けるが、それにはまず通常ルートをクリアしなければならない。
  • グロ描写はほぼ無い
    • 精々マリヲの殺人シーンぐらいで、前作のようなドぎつい暴力シーンやグロテスクな表現は殆ど無くなっている。そう言ったものが苦手な人には評価点にあたるかもしれない。
    • 今作ではメッセージ送りのカーソルが 血痕 で表現されているため、前作よりも残酷そうに見えるがそんな事は無い。

総評

『DUNAMIS15』の系譜となる新たなサスペンスとして期待されたが、
蓋を開けてみればサスペンスを投げ捨てたトンデモ系ラブコメであり、仮にラブコメ作品として見ても物語の完成度自体が低い。
体験版の時点での掴みこそ良かったものの、それを過ぎると後は一気に転落していく。
サスペンスをお望みなら前作か同系統の作品をプレイした方がずっと有意義なのは言うまでもなく、
キャラが気に入ったり作風自体に興味を持った人でも、クリア後に満足感が得られるかはかなり怪しいだろう。

ミステリアスともサイエンスとも違う、「サスペンス」として舵を切った本シリーズだが、
二作目にして早くもコンセプトを見失ってしまい、本作の不評もあってか第三弾が発売される事は無かった。

最終更新:2023年11月14日 22:56

*1 ゲーム中にブランドのロゴは表示されず、パッケージや公式サイトをよく見ないと気付かない程度だが。

*2 ナヴィが表層化するという事はそういう事、と説明されるが説得力は乏しい。

*3 説明を試みるシーンもあるが、シーナ自身は多重人格という症状そのものを理解していないので「シーナはシーナだよ」の一点張り。自称5歳のユーノですらおぼろげながら理解していると言うのに…。

*4 前作の黒幕は「妹尾梓(セオ アズサ)」で、死んでいた女は「セオ アケミ」。

*5 バッドエンドでは更に多くの人を手に掛けるものもある。

*6 後に正体を偽って主人公に接触してくるのだが、初見プレイヤーの目にも怪しさ溢れるほどにボロを出しまくるというポンコツさ。

*7 このエンディングだと刑事達までコメディリリーフと化してしまう。

*8 ある事件で別人格が生じて以来、その人格のみが何年も表層化していた。そのため、本来の「シーナ」としての記憶は主人公と遊んでいた子供時代で止まっている。

*9 事件の元凶は全ては語らないまま逮捕され、首謀者に至っては本編での姿が嘘のようなコメディ要員になってしまう。