いただきストリート ~私のお店によってって~
【いただきすとりーと わたしのおみせによってって】
ジャンル
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ボードゲーム
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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発売元
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アスキー(LOGIN SOFT)
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開発元
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アスキー(LOGIN SOFT) アーマープロジェクト ゲームスタジオ
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発売日
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1991年3月21日
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定価
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6,800円(税別)
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プレイ人数
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1~4人
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備考
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ターボファイル対応
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判定
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良作
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ポイント
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モノポリーの派生ビデオゲームの原点であり金字塔 5倍買いという発明
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いただきストリートシリーズリンク
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概要
『ドラゴンクエスト』シリーズの作者として有名な堀井雄二氏がゲームデザインしたコンピューターボードゲーム。
当時日本で流行した、世界的に有名なボードゲームである『モノポリー』のルールを下敷きに、敷居を下げるための簡略化や、コンピュータゲームならではの奥深さを加えてアレンジした作品である。
『ガイアマスター』『天空のレストラン』『カルドセプト』といった、モノポリーの基本ルールである「土地(マス)を購入し、止まったプレイヤーからお金(ポイント)を得る」という要素を含むビデオゲームの先駆けとなる作品である。
サウンドには「ゲヱセン上野」こと上野利幸氏、キャラクターデザインには「べーしっ君」の荒井清和氏など、堀井氏がシナリオを務めた、同じログインソフトブランドからリリースの『オホーツクに消ゆ』のスタッフが多く関わっている。
特徴・システム
多数の細かいルールが存在するが、ここでは基本的なゲームの流れに関わる部分を抜粋する。
(『いただきストリート2』の項目も参照のこと。)
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基本ルールはモノポリーと同様。
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すごろくのように、各プレイヤーが自分のターンにサイコロを振り、ボード上でコマを進める。
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止まったマス目が空き物件であれば、お金を払って購入(所有)するかどうかを選択できる。
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止まったマス目の物件がすでに他プレイヤーによって所有済みの場合、決められた金額(買い物料)を所有プレイヤーに支払う。
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「エリア」と呼ばれる同一のグループに含まれる物件を2件、3件と買い揃えると、同じ物件価格でも他プレイヤーからもらえる金額が跳ね上がっていくため、基本的には「エリア独占」を狙うのがセオリーとなる。
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止まったマス目が自分の所有物件だった場合、好きな所有物件にお金を支払い物件価格を上げる「増資」をおこなうことができる。物件価格が上昇すると、他プレイヤーが止まった際にもらえる買い物料が増える。
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物件マス以外にも、チャンスカード、カジノ、休日といった仕掛けマスが多数存在する。
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本家モノポリーとの主な違い。
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本作ではルートの分岐や方向転換等、ボードの移動に自由度があるため、その点が戦略性にもつながっている。
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モノポリーでは、ボードに分岐はなく一本道のため、サイコロを振った時点で止まるマスが確定する。
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モノポリーでは、ボードを1周することでもらえるサラリー(固定収入)が、本作では、マップの決められた箇所を通り、4つのマークを集めて銀行に戻ってくることで得られる。
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目標資産額(現金+物件額の総数)を達成した状態で銀行マスにたどりつくか、誰か一人が破産(総資産額がマイナスになる)することでゲーム終了となる。
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モノポリーのルールでは、最後の一人以外の全員が破産(または投了)するまでゲームは続行されるため、「勝つか、破産するか」のどちらかしかなく、勝敗結果が明確に分かれる。
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このルールによってモノポリーとは違う戦略の変化が見られる。(後述)
評価点
本家モノポリーの面白さを残しつつも、初心者にも楽しめ、戦略の幅を広げる見事なルールの数々
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いただきストリートで採用されているルールはどれも無駄がなく、すべてにゲーム的な意味がある。
続編でも新たなルールやシステムが追加されることはあれど、削除されていないことからも、この時点でのシステムの完成度が窺える。
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代表例としては下記の通り。
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「株」の売買。
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エリアごとに「株」があり、物件の所有状況に関係なく、全プレイヤーが自由に購入、売却ができる。
株価は株自体の購入・売却による増減の他、物件の増資による物件価格の上昇によっても増加し、他プレイヤーによる支払いによって、持ち株数に応じた配当金を得ることもできる。
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このシステムによって、サイコロ運に恵まれなかったプレイヤーでも戦略によって効率的に資産を増やしたり、相手プレイヤーの妨害をおこなうことができ、逆転の要素が生まれる。
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株価の増減や、1株単位での購入、売却など、アナログゲームでは煩雑になりがちな要素だが、ビデオゲームならではの手軽さでうまく融合している。
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「5倍買い」というシステム。
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他プレイヤーが所有している物件マスに止まった際に、物件価格の5倍の金額を支払うことによって所有者の拒否権なく強制的に物件を買い取ることができるシステム。
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本家モノポリーでは、誰かが所有している土地を手に入れるためには、交渉によって取引するか、所有者が競売にかけるのを待つしかなかったが、このシステムによって強引にエリア独占を達成したり、逆にエリア独占を崩したりできるため、逆転のチャンスが生まれる。
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人間同士がプレイすること、対象となるプレイヤーの年齢が比較的高いことが前提となるモノポリーでは、交渉の要素が非常に重要であり、交渉なしで勝つことはできないとされるが、AIで操作されるNPCや、低年齢層のプレイヤーに複雑な交渉をおこなわせることは難しく、ゲームのテンポを損なわないように考慮されたシステムである。
磨きに磨き抜かれたマップデザイン
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ファミコンというハードによるROM容量の制約もあり、本作でプレイできるマップは5つのみと少なめではあるが、そのどれもが違った遊びのコンセプトを持っており、遊ぶほどに戦略性を増す仕掛けに富んだマップとなっているため、飽きを感じさせない。
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そもそも、本家モノポリーでもマップは1つであり、それが長年遊び続けられていることからも、真に完成されたゲームであればマップのバリエーションは重要ではないことの証明でもある。
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1人プレイでは、マップ1の「おのころ島」から最終マップ5の「宇宙星雲」までをひとつずつクリアすることでアンロックされていく仕様となっている(宇宙星雲を1位でクリアするとエンディング)が、初心者が徐々にゲームに慣れていくことのできるよう、ギミックが徐々に複雑になっていくようにデザインされており、この難易度曲線の設定が見事。
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特に、最終マップの「宇宙星雲」だけに存在する特別なルールは、本作中どころかシリーズ中でもかなり特殊であり上級者向けではあるものの、慣れればかなりハイレベルな駆け引きが楽しめるため、上級者同士の対戦では特にこのマップが好まれる。
個性的なNPCキャラクター
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ゲームの相手をするNPCとして、荒井清和氏の描く個性的かつ美男美女揃いのキャラクターが7人登場する。
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プレイヤーキャラクターはユーザー自身であり(名前も自分で入力する)、選択できるキャラクターやアバターは存在しない。
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細かいプロフィール設定や豊富なセリフによる、キャラクターとしての個性もさることながら、それぞれのキャラクターに設定されたAIによるプレイスタイルとしての個性も特徴的で、この時代のNPCとしてはかなり高いレベルで「まるで人間と一緒に遊んでいる」感覚を得ることができる。
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特に女性キャラクターは人気が高く、荒井氏自身も気に入っていたようで、当時氏が連載していた「べーしっ君」にもゲストとして度々登場していた。
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最終マップクリア後のエンディングでは、女性キャラクターの専用グラフィックが表示され、そのクオリティも高い。
軽快で豊富なバリエーションのBGM
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『オホーツクに消ゆ』でも高い評価を得た上野利幸氏による数々のBGMは、8bit音源による少ない音色ながらも、ポップさ、アーバンさを兼ね備えつつ、どれも印象的なメロディで、1プレイが長時間になりがちなボードゲームというジャンルでも全く聴き減りしない良曲揃いである。
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隠しコマンドを入力することでサウンドテストモードに入ることができ、好きなだけ楽曲を堪能できる。
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と、ここまでは他のタイトルでもよくあるが、本作のサウンドテストでは、ノート情報(楽譜)をリアルタイムに見ることができる豪華な仕様となっており、当時の作曲方法に興味がある人はぜひ参照されたし。
賛否両論点
ルート分岐や一方通行の分かりにくさ
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前述の通り、各マップにはルート分岐や方向転換可能な交差点が設定されているが、進入方向によって行ける方向が変わったり、ちょうどそのマスに止まることで、次回のターンで方向転換が可能になるマスなど、条件が絡むルールがいくつかありとっつきにくい。実際にプレイして覚えていくしかなく、特に慣れないうちは「こちらに進めると思ったら進めなかった」という事故が発生しやすく興醒めしやすい。
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一度覚えてしまえば、その分岐をうまく使って相手の高額物件を避けたり、サラリー優先か、物件購入優先か、といったルート計画が組めるようになるため、戦略性を増す要素にはなっているものの、やはり分かりにくさが目立つ。
NPCキャラクターの露骨なまでのイカサマ行為
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プレイヤー目線からは理不尽に映るNPCキャラクター同士の取引。
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NPCキャラクター同士の取引が必ず成立するようになっている。おこなわれるのは等条件の交換のみだがそれでもプレイヤーが一方的に不利になることに変わりはない。
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成立しないNPC同士の取引を見せることにあまり意味はないものの、やはり不自然に見えてしまう。
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宇宙星雲では先述の2つのエリアに属する店の処理をうまくできずに縦のラインだけ又は横のラインだけを見て持ちかけるため自分のエリアの店を減らしてしまうなど大間抜けな交換をしてしまう事もある。
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高ランクキャラクターと低ランクキャラクターとの間でおこなわれる取引にこの傾向が見られる。
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NPCキャラクターのサイコロの出目調整がおこなわれていることが誰の目にも明らか。
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キャラクターごとに強さのランクがあり、そのキャラの強さ、弱さを際立たせるための手段であることは理解できるが、さすがにバレバレなレベル。
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高ランクキャラクターは高額物件に止まりにくくなっており、それによって憎らしさも倍増。そういう意味ではキャラクターに対する印象を強くすることに大きく貢献している。
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逆に、低ランクキャラクターはそこそこの確率で高額物件にハマる。
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とは言え、この頃のAIで、イカサマせずに「強い」「弱い」を表現するのは非常に難しいため、ある程度は仕方のない仕様であるとは言える。
「1人破産するとゲーム終了」という仕様
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1人が破産するとそこでゲームが終了するため、ルールはシンプルで、プレイ時間はある程度短く抑えられている。
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一方で、2位以下のプレイヤーが「これから追い上げよう」というタイミングでゲームが終了してしまい興醒めすることがある。
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そのため、2位以下のプレイヤーが逆転を狙うためには、「最下位のプレイヤーを延命させながらゲームを継続する」という理不尽でトリッキーなプレイを要求されてしまう。
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本家モノポリーの公式ルールは「最後の1人になるまでゲームが継続される」ので、心置きなく(?)最下位プレイヤーを破産に追い込むことができる。
一部のギミックマスの存在感が薄い
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カジノやラッキーマスなどは、序盤はそれなりにお金の動く要素ではあるものの、中盤以降からはほとんど勝負に影響しなくなっていき、意味合いが薄れていく。
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特にカジノはオープニングの演出が長めで、ゲームはプレイヤー全員強制参加のルーレットのみのため時間がかかりテンポを損ないやすい。
問題点
一部UIの不便さ
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サイコロを振ってコマを動かしている際に、残り歩数が0になる場所まで進めると、そこで進路が確定してしまいキャンセルができないため、操作ミスで間違った方向に進めてしまった場合にはショックが大きい。
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『2』以降では、止まるマスを確定させる前に、ここで止まってもよいかどうかの確認ダイアログが入るようになった。
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ゲーム起動後のマップ選択等のメニュー画面ではキャンセルが効かないため、間違って選択してしまった場合はリセットするしかない。
セーブの制限
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ハードの仕様上仕方ない部分もあるかと思われるが、セーブ機能はシングルプレイにしか存在せず、マルチプレイ時は中断セーブができない。
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シングルプレイでも、中断セーブデータは1つしか保存できない。
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問題を把握していたのか(はたまたビジネス上の都合か)、外部ストレージ機器の「ターボファイル」に対応しており、それを使うことで、シングル・マルチ問わず自由に中断データを保存・復元できる。
マルチプレイでもマップがロックされている
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最終マップの「宇宙星雲」だけは、シングルプレイでアンロックしていない限り、マルチプレイでも選択できない、シークレット的な扱いとなっている。
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先述の通り、他のステージを一通り遊んでルールや戦略に慣れた人でなければ楽しめないマップではあるものの、進行データが消えてしまった場合など、再度シングルプレイで到達しておく必要があり煩わしい。
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一番手有利
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モノポリー系ゲームでは仕方ないが、一番手が有利である。
総評
操作面での多少の不親切さはあるものの、ゲームのルールやバランスはすでに完成されており、30年の歴史の中で続編が数多くリリースされている今にあっても十分に遊べるコンピュータボードゲームの原点。
90年代初頭を象徴する、シティポップ感のあるBGMや爽やかな色使いのグラフィックス、地に足の着いたリアリティあるキャラクターなど、当時の「分かってる」ゲーマーに向けた雰囲気はシリーズの中でも本作特有のものであり、時代を経ても色褪せない魅力がある。
余談
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スタッフロールにクレジットされているプログラマは1名だけで、元ナムコでファミコン版の『ドルアーガの塔』などに関わっていた大森田不可止氏である。
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最初のシステムの試作はPC上で制作され、1~2週間で完成した、と堀井氏は後に語っていることからも、氏の技術力の高さ、そして本作がいかにマップデザイン、AI作成等の調整に時間をかけていたかが窺える。
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『オホーツクに消ゆ』ではプログラミングを担当していた上野氏は、本作では作曲のみでの参加となっている。
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大森田氏のナムコ時代の人脈によるものか、あるいは、アスキー販売のファミコン版『ウィザードリィ』の開発をゲームスタジオが担当していた縁からか、本作では『ゼビウス』のゲームデザイナーとして知られる遠藤雅伸氏がスーパーバイザーとして関わっており、堀井氏と合わせて日本のレジェンドゲームデザイナーの二人が同じクレジットに載っているという、日本のゲームの歴史的にも非常に意義深いタイトルである。
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上述の通り評価の高い本作のBGMだが、アレンジアルバム「いただきストリート サウンドマップ」は、バンド「FAIRCHILD」の作曲担当である戸田誠司氏によるプロデュースとなっており、全編シンセポップアレンジされている。こちらも原曲に負けず評価は高く、現在はプレミア価格となっており入手は困難。
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アスキー時代唯一の『いたスト』であり、『2』以降、著作権がエニックス(現スクウェア・エニックス)に移ってからは、開発体制も大きく変わり、路線が老若男女問わず、広く大衆向けにシフトしていくことになる。今となっては『いたスト』と言えば『ドラクエ』『FF』コラボの印象が強いが、本作は今の『いたスト』の姿しか知らない人にとっても新鮮に映るだろう。
最終更新:2023年09月02日 21:00