テトリス ザ・グランドマスター

【てとりす ざ ぐらんどますたー】

ジャンル パズル
対応機種 アーケード(ZN-2)
販売元 カプコン
開発元 アリカ
発売日 1998年8月27日
プレイ人数 1人~2人
判定 スルメゲー
ポイント "神の領域"への挑戦状
「20G」「段位認定」が導入
『テトリス』の新境地を開拓した作品
テトリスシリーズ
テトリス ザ・グランドマスターシリーズ
TGM / TA/TAP / Ti / TGM-ACE



すべてのテトリストに捧ぐ
神の領域 (グランドマスター)への挑戦権



概要

当時『ストリートファイターEX』シリーズの開発を手掛けていたアリカが制作した、高難易度をウリとする『テトリス』で、『TGM』と略される。
基本的な部分は1988年にセガが発売したAC版『テトリス』をベースとしており、そこに様々な要素を追加し「超高速プレイでのタイムアタック」を重視した調整を行った。
本作及びシリーズのプロデューサーは、アリカの副社長である三原一郎氏。本作ではディレクターも兼任している。


ゲームシステム

ゲームの基本的な遊び方は『テトリス』を参照。当項目では本作における特徴的なシステムを記述する。
これらのシステムはシリーズ共通の要素となっている。
NEXT表示は1個、ホールドはなし。回転法則はミノ最下段の高さなどの位置が変わらない「セガ則」で、A/Cが左回転、Bが右回転。

レベルについて

  • 本作にもレベルの概念が存在するが、一般的なテトリスのそれとは異なり、テトリミノ(以下ミノ)を1つ置くごとにレベルが1上がり、ラインを消すと消したライン数がレベルに加算される、という非常に特徴的なシステムになっている。
    ただし、ミノごとのレベル進行はレベル100毎の区切りとレベル998で一旦ストップし、そのセクションをまたぐときだけはラインを消さなければレベルが上がらない。
    • このため、本作及び本シリーズにおける「レベル」は、意味合いとしてはゲーム全体の進度を示す「進捗」に近い。ライン消しでレベルが999になるとその時点でゲームが終了する。
    • 今までに出ていたテトリスは終わりのない持久ゲームが主流であったが、本作は一定のブロック数とライン数によって直近の2000年版セガ『テトリス』よりも短め*1に到達する明確な終了地点が存在し、永久にプレイし続けることは出来ない。
      頑張ってゆっくりプレイしていても、一定の時間を超えるとペナルティとしていきなり20G状態に固定される。

20G

  • テトリスでは、何も操作しない状態における落下速度を重力になぞらえて「G」という単位で表すことがあり、1フレームでミノが何マス落下するかを「マス数/フレーム数」の形で表す。1秒間に60フレームの描画が行われる前提で、例えば1秒でミノが1マス落下すれば「1/60G」と、0.5秒で1マス落下すれば「1/30G」と、1フレームで1マス落下すれば「1G」といった具合…なのだが、そのきっかけを作ったのは本作の「20G」が由来だと言われている。
  • つまり『テトリス』用語で「20G」とは1フレームでミノが20マス落下するという意味。『テトリス』のフィールドは縦20マスであり、少なくとも本シリーズではミノ表示より先に自然落下が処理されるため、言い換えると「ミノが出現すると同時に地面に着地する」ことを意味する。
    • この状態になると操作が無理になると思われがちだが、本シリーズはセガ『テトリス』と同じく、ミノが着地した時点ではまだ操作可能であり、0.5秒の猶予をもって固定される*2。この猶予時間でミノを回転・移動させて積んでいくのが20Gの醍醐味である。
  • 本作が登場するまでの従来のテトリスでは、落下速度は最速でもせいぜい1G*3前後程度であったが、本作はレベル300を超えるとそれよりも速い2G~5G~3Gと変動し、レベルが500になってからは、最後まで最高速の20Gになる。
    • 20Gの状態ではタイマーやレベルなどの文字が金色に光る。またレベル表示の区切り線は、実はLv500未満の状態でも落下速度を大まかに示すゲージになっている。
  • なお、クレジット投入後にタイトル画面で隠しコマンドを入力することで最初から20Gにしたままプレイすることも可能。当然難易度は跳ね上がる。

G.R.S.(段位認定システム)

  • Grade Recognition Systemの略。
  • 本シリーズもう一つの特徴である腕前の指標で、スコアなどのプレイ内容に応じてグレード(段位)が判定される。
    • グレードは最初は「9」(九級)から開始し、スコアを稼ぐほど「8」「7」と数字が下がっていく。そして「1」からさらに昇段すると「S1」(初段)となり、次は「S2」「S3」と数字が上がっていく。
    • スコアを上げるだけでは「S9」で打ち止めになるが、ここまでに別の条件を満たしながらLV999まで完走することで、皆伝に相当する最高段位「GM(Grand Master)」が与えられる*4
    • 「S9」以下で完走した場合はそこでメッセージが現れてゲーム終了となるが、「GM」を達成した場合のみゲームが続行したまま背景でスタッフロールが流れる。おかげで見させる気がないスタッフロールとよく言われる。
      しかし本作ではスタッフロールに入ればそれ以降のプレイは記録には影響せず、窒息した場合ブロックが消えてそのままスタッフロールが続くため、グレード「GM」へ到達できた事への御褒美の側面が強い。

I.R.S.(先行回転システム)

  • Initial Rotation Systemの略。
  • 本作ではミノが出現する前(前ミノ接着から次ミノ出現前)に回転ボタンを押しっぱなしにしておけば、効果音が鳴ると同時にミノが押したボタンに対応した方向に90度回転した状態で出現する。すなわち、回転の先行入力をすることができる。
    • 一見すると大きな意味のないシステムに思えるが、本作では先述の20Gのように落下速度が速い状態でプレイする時間が長いため、このシステムがないと回転させる前にミノが着地してしまう。
      そしてスーパーローテーションがない本シリーズでは20Gなどのように着地している状態だと回転や移動にかなりの制約がかかるため、先行回転は必須テクニックとなっている
  • 関連して、本作の回転法則は、ベースとなったセガのAC版『テトリス』では回転できなかった場所でも回転を行うことができるよう「地形にめり込む回転を行った場合、1ブロック分ずれる(Iミノは不可)」に緩和されている。
    直近のリリースである『セガテトリス』(2000年)では「フィールド端にめり込む場合1ブロックずれる」となっていたが、本作では設置済みのミノも壁蹴りの対象に含まれている*5
    あくまでも左右に1ブロックスライドするだけなので、現在のスーパーローテーションほど自由な回転を出来る訳ではない。
    • なお、先行回転させるとミノ出現時に地形と重なって窒息してしまう場合はボタンを押しっぱなしにしても先行回転が無効になる。

T.L.S.(落下位置表示システム)

  • Temporary Landing Systemの略。直訳は「仮着地」で、公式サイトでは「ブロック仮想落下システム」と訳されていた。
  • レベルが0~99の間、ミノをそのまま落としたときの着地場所を影で表示するシステム。
    • このシステムは昨今では「ゴースト」としてテトリスのガイドラインに採用され、レベルを問わず有効となるが、ガイドラインの制定は2002年が最初であるため、それを4年先取りした形になる。
    • なお、20Gモードと同じくタイトル画面で隠しコマンドを入力することでレベル499まで表示させることもできる。20Gになるレベル500からはすでにミノが着地しているため無意味と化す

二人対戦

  • 本作では1人プレイ時に乱入を行うことによって対戦が可能である。
  • 本作の対戦はライン複数消去による相手フィールドのせり上げに加えてアイテムの概念がある。ミノを置いたりラインを消去するごとにゲージが上がり、満タンになるとNEXTにアイテムブロック化したミノが出現する。これを消去することでアイテムの効果が発動する。先にフィールドが積みあがったほうが負け、対戦時間が5分を経過した場合は引き分けとなる。
    • アイテムには様々な効果があり、主に攻撃型*6、防御型*7、特殊型*8に分けられる。攻撃型アイテムは操作中の相手のミノを吹っ飛ばして次のミノにスキップさせてしまうものも多く、アイテムミノでも構わずスキップさせるので、妨害手法によっては友情破壊に発展する場合も
    • なお、乱入時に1P2P両方のスタートボタンを押していると、アイテムを出さずラインせり上げのみで対戦する「ノーアイテムモード」になる。
  • ただし、本作においては乱入対戦を行うかどうかをプレイヤーが選択することは出来ない(後述の問題点へ)。

その他の仕様

  • 本シリーズではミノが落ちてくる際に、NEXTに出現したミノに応じて個別の効果音が鳴るようになっている。この効果音とミノの対応を覚えておくことで、フィールド外に注意を払わなくても次に落ちてくるミノを音で判断することができる。
  • 落ちてくるミノも完全ランダムに出現するのではなく、「直近4ミノまでに出現した種類のミノは一定回数まで再抽選され出現しにくくなる」「ゲーム開始時にS・Z・Oミノが出現しない*9」「L・Jミノ、S・Zミノはそれぞれに履歴補正があり、間隔を空けても交互に登場するようになりやすい」という出現補正がかけられている。
    • 出現補正を導入したテトリスも実は本作が初。この機能に関しては、TLSシステムと同じくのちにガイドラインで採用されることになるが、ガイドラインで採用された出現補正とは大きく異なっている*10
  • ランキングにはグレードとマスタリングタイム*11と全消し回数を示すメダルが記録され、グレード>タイムの優先順に順位付けされるが、スコアは記録されない。
    本作のスコアはあくまでグレードを決めるための主要条件に過ぎず、独自のスコア計算式にもかかわらず重要視されることはない。
    • なお、隠しコマンドを適用したプレイはランキング集計の対象外となる。

評価点

20Gと操作性の改善によって『テトリス』の新境地を開拓

  • 従来の『テトリス』では、ミノが着地した瞬間に固定されてしまったり、ミノを回転できなかったりすることがあるなどで、操作性が良かったとはあまり言えず、落下速度が少し上がっただけでも操作が困難になることが多かった。
  • 対して『セガテトリス』を発展させて作られた本作では、1G~20Gの高速落下状態でのプレイが長いことを前提とした操作性の改善が行われており、緩和された回転法則、IRSによる先行入力などを駆使することで高速状態でも快適にプレイできる環境が整っている。
    • これにより、高速落下域においてはミノが固定されるまでの短い猶予時間の中で、地面を転がすようにミノを操作し、目的の位置まで持っていく、というセガテトリスで生まれた独特のプレイ感が突き詰められ、テトリスの新たな難易度と新境地を切り開くこととなった。
    • TLSや出現補正など、いくつかの仕様は4年後に制定されるテトリスのガイドラインに採用されるものもあり、時代を先取りしていたとも言える。

テトリス段位認定

  • 本作は基本的にはスコアのみのランク評価ではあるが、到達したグレードによって自分がどの程度の腕前を持っているかをある程度客観的に見ることが可能になった。どこまでグレードを上げることができるか、という目標にもなり、プレイヤーの意欲を掻き立てるエッセンスにもなった。
    • GRSは次作以降も仕様を変えつつ受け継がれ、「安定して素早くミノを積めるかどうか」を重視した評価になっている。
  • 本シリーズはランキングにスコアではなくタイムが載ることもあり、タイムアタックが重要なファクターとして機能する非常に競技性が高い1人用テトリスになっている。特にハードドロップがない本作は、前半では地形をギリギリまで高めに積み、その上で極力3~4列消しを狙いつづけるハイリスクなプレイがタイムの短縮に強く影響する。

独特のテクノサウンド

  • BGMはテクノ調で統一されており、NEXTミノの効果音も相まって独特の世界観を築いている。
  • 本作のサウンドは、当時ナムコからアリカに移籍していた細江慎治(MEGA)氏と佐宗綾子(AYA)氏が担当。本作ではさらにサウンドプログラマーとして相原隆行(J99)氏も参加している。3人ともテクノに対して造詣が深く、『リッジレーサー』を代表とする通称「ナムコイカレ系サウンド」を形成していたメンバーであり、その流れを汲む楽曲は少ないながら健在。
    • このうち細江氏と佐宗氏はスーパースィープとして独立後も、シリーズを通して本作のサウンドを担当し続けている。

賛否両論点

従来出ていた既存の『テトリス』と比較して、難易度が非常に高い

  • 「高難易度」をウリとしているだけあって、本シリーズのゲームクリア条件であるレベル999到達、および真クリアにあたるグレードGMの取得は非常にハードルが高い。 今までのテトリス上級者や、現代のガイドラインテトリスに慣れたユーザーであっても本作独特の仕様に慣れていないと、レベル999のカンストはおろか20Gを切り抜けること、それどころか1G超え区間のLv251~499で足切りされることはザラにある。
  • かといって本作が完全初心者お断りであるかと問われればそうではなく、スタート時は従来のテトリスと同じく1/64G(1マス1秒以上)相当の非常にゆっくりとしたスピードで開始する。無論ゲームが進むにつれてスピードはどんどん速くなっていくが、長時間プレイでペナルティを発動させた時を除き予期しないタイミングで20Gが発動したりといった理不尽な要素はない。そのペナルティも「最初から下入れを全くしない」など、意図的に遅延プレイを行わない限りはまず達さない程度の条件がセットしてある。
    奥が深すぎる=「このゲームをクリアしたい」と思ったプレイヤーが超えるべき壁があまりにも高すぎるというだけであって、決して初心者への敷居が高いわけではない。本作・本シリーズのスタイリッシュな作風をきっかけに一人用『テトリス』を本格的に始めたり、極めたいと思ったマゾヒストプレイヤーも一定数いることもまた事実なのだ。
    • 稼働開始から25年以上が経過した現在でも本作及びシリーズを熱心にプレイする者は数多く存在し、プレイヤースキルが成熟した現在では"本作での"GM取得者はそれなりの数に上る。
      段位GMは「特定のレベルを規定以上のグレードかつ規定以下のタイムで通過」などの条件があるが、本作のものは自力で速度を上げれば自然とたどり着けるように比較的シンプルな条件となっているのも一因。
    • 本作のみ、ゲーム進行によるスピードの変動はあくまでミノの落下速度のみであり、Lv.500で20Gに突入してからは最後までスピード変化はなくなる。グレード度外視で単純にLv.999まで完走したいだけであれば、小刻みにラインを消す事で思考時間を稼ぐ手が使える*12
      ただ、小刻みにラインを消すということは地形が悪くなりやすいので、たどり着く先は結局20Gになっても「テトリスを狙い続ける」一点であるため、勝手にGMが近づいてくる…というのが上達を感じやすくなるポイントでもあったりするが。

背景画像が人によっては嫌悪感を覚えることも

  • 本作の背景画像は人体生命がモチーフとなっており、赤血球や血管、脳だったり胎児など人によっては生理的嫌悪感を覚えるかもしれない。20Gになると背景を気にする余裕はほぼ無くなるが。
    • ただし、画像そのものはCG然として美麗そのもので、いわゆるグロテスクさや生々しさを押し出したものではない。
  • なお次作以降の背景画像のモチーフは作品ごとに変更されている*13
    一応本作のそれはTA/TIのように背景がアニメーションしないので気を取られにくいという利点はある。

問題点

店員の知識に左右される

  • このゲームがプレイできるかどうかの根本要因、それはレバーが4方向設定であるか否か。
    というのも本シリーズは斜め入力で横入力が優先される仕様のため、8方向レバーでは20Gに入った後、ブロックを任意のタイミングで固定するための下入れが横入力に化けるというトラブルが頻発する。
    この仕様を理解しているゲーセンでないと、4方向レバーで稼働してくれないのである。
  • 本作はレバーを回すような入力をしないので、十字に近い形で動くセイミツ製の4方向レバーがベストと言われているが、この4方向ガイドの調整が非常にシビア。
    新品のガイドでは十字に動き過ぎて、横から縦に動かす時の引っかかりが激しい。そこでガイドを削って調整するのだが、今度は削りすぎて斜めに入ってしまったり、レバーを使い込んでいるとガイドが摩耗して斜め入力が誤爆してしまったりと、店員のメンテ技術にプレイ自体出来るかどうかが左右されてしまう。
    • 次作であるTA以降はレバーを回すような入力を使ったテクニックが発見され、この点は改善されるどころかもっとシビアになっている。

対戦が可能かどうかは店舗側の設定による

  • 本作では2人プレイをする際に、対戦モードとなるか、1人用モードをそれぞれプレイすることになるかはディップスイッチの設定に依存するようになっており、プレイヤー側で任意に選択することができない。
    • どちらのモードで起動しているかは1人プレイを開始するまで判別できないのも問題。フィールドが1人分しか表示されていない場合は対戦モード、2人分表示されている場合は独立プレイモード。
    • 次作以降は乱入するかどうか、また乱入対戦を受け付けるかどうかをプレイヤー側で任意に決めることができるようになった。

独立プレイモードの際にUIが部分的に消える

  • 基板性能の関係か、独立プレイモードで2人で遊んでいるとレベル表示の数字が部分的に消える事がある。下のノルマレベル数の表記だけならまだ影響は無いのだが、場合によっては現在のレベルの表記まで見えなくなってしまう時がある。

一部の回転法則が(まだ)おかしい

  • セガのAC版『テトリス』や従来のテトリスから回転法則が少しだけ緩和された本作であるが、それでもその実装はシンプルなものとなっている。そのため現行のスーパーローテーションと比べると回転挙動はかなりシビアで、直感的にも疑問符が付きかねない挙動もやはり存在する。
  • 特に指摘されるのが特定の地形においてJミノを寝かせようとした際に発生する挙動(図1)。これは「回転後に地形が重なり、左右にどちらにもズレられるスペースが存在する場合、押したボタンにかかわらず右側に優先してズレる」という仕様によるもので、この後に陥りやすい条件*14が重なると、壁蹴りと判定されずに回らなくなる。
    図1
    • 一部のプレイヤーどころか海外でも*15三原の陰謀(Mihara's conspiracy)」と言われ恐れられたが、これを利用した「J飛ばし」と言われるテクニックも編み出されたためか、この仕様は次々作Tiのクラシックモードに至るまで搭載され続けた。
  • また「Iミノを寝かせた状態で平らな場所に着地させた場合はもう回転できなくなり(図2)、着地中に回転できる地形について「回転軸が右から2番目のブロック」なため、右側空けが有利になっている(図3)」「Tミノの突起を下向きにして凹部分に入れた場合、左右90度は回るが180度は回らず、凹みから脱出ができない(図4)」という現象に悩まされる人が多かった。これも直感的にはわかりにくいが、上にずらす「床蹴り」の実装がないという前提で回転パターンを確認すれば不可能な事がわかる。
    図2 ← 平らな場所ではIミノは先行回転でしか立てられない。
    図3 ← この地形でのIミノは、20Gの状態では右側の溝にしか差し込めない。
    図4 ← Tミノはこの位置から脱出できない。
    • これらの問題も本作でよく槍玉に上がったが、実際にはセガのAC版『テトリス』や当時の他社製テトリス作品でも起こる問題であった。本作がここまで槍玉に上げられたのは、高速でミノを処理することが前提であることに対して障壁になり得るからという面が強い。Tiのクラシックモードで壁蹴り法則が拡張され「床蹴り」が1ミノにつき1回だけ可能となったことでようやく緩和された。
  • 回転法則ではないが、本シリーズの処理順は「移動→回転→落下→描画」となっている。この仕様を利用し、移動と回転を同フレームで入力する事により、本来20Gで届かない所にブロックを飛ばす高等テクニック「シンクロ」が存在する。

次作以降と比べてミノの出現補正が弱い

  • 従来の『テトリス』であった「特定のミノが10個以上に渡って来なかったり、逆に特定3種類のミノが何連続で降ってくる」等の偏りが本作でもそれなりに起こる。
    • 次作以降は出現補正が本作より洗練され、特定のミノが何連続で来るという状況はほぼなくなった。逆に特定のミノが降ってこない状況は依然として起きるものの、本作程極端なケースはない。

ランキングの仕様

  • 「記録されたグレードに到達した瞬間のタイムとレベルがランキングの対象になる」仕様のため、段位GM以外ではレベル999完走までのタイムがランキングに載らずに後から確認できない。
    • この問題点は次作のTAでもそのままであり、バージョンアップ版のTAPにて「途中終了時は直近の段位昇格時のタイム、完走時のみ最終タイムが優先される」ように改善された。
    • なお、レベル999へ到達した場合の記録は下部に緑色のラインが表示されるため、それで完走したか否かの判別ができる。これは次作以降でも同様。

総評

セガのAC版『テトリス』の単なるフォロワーに留まらず、意欲的な仕様を多数投入し難易度の上限を大きく拡張した本作は、テトリスの新たな可能性を切り開いた。
20GやGRS、IRSといった要素は『テトリス』のやり応えを大きく強化し、後のテトリス作品にも続々と採用されていくほど先進的なものであった。
クリアまでの果てしない道のりは賛否両論あるが、レベルを伸ばし、スピードを乗りこなしていく快感があるのもまた事実。
艱難辛苦の果てにつかみ取った最高段位「GM」とは、名実ともに「 神の領域 (グランドマスター)」の称号であると言えよう。


余談

  • サウンドトラックが発売されたが、そのままのタイトルではテトリスの版権に絡むためか「TGM ~ザ・グランドマスター~」と『テトリス』の名前を使用しないタイトルで発売されている。すでに廃盤になっており、現在ではプレミアがついている。
    • 効果音をまとめたトラックが存在するが、実際にゲーム上で鳴るものより半音下がった状態で収録されている。次作以降で半音下がった状態のものが使われていることを考えると、どうやら実際の音程はサントラのものが正しく、ゲームでは半音上がった状態で再生されてしまっている様子。
    • その後2023年に新たに版権を取得し、TGM1-3を纏めた『テトリス ザ・グランドマスター トリロジー - サウンドマスターズ』として実質再販が行われた。
  • シリーズ共通の隠し要素として「裏段位認定モード」が存在する。
    • これはモードの一つとして存在するわけではなく、ゲームオーバー時にフィールドの地形が特定のパターンであった場合に出現する特殊なおまけ要素。
    • 1マスの空白をフィールドの左下から順番に開けていき、右端まで来たら空白を折り返し、1マスの空白で逆くの字を書くように積み上げる(図5。最上段は実際は左端の1マスを埋めるだけでよい)。これが完成した高さに比例してSECRET GRADEが認定され、フィールドの一番上まで積んで地形を完成させると「SECRET GRADE GM」が認定される。
      図5
      • 裏GMの達成には詰将棋ならぬ詰めテトリスのような超高度な思考力が必要になる。
  • タイトル画面で入力できる隠しコマンドは全部で6種類存在し、本文で紹介した「20Gモード」「ずっとTLSモード」のほか、巨大なミノばかりが降ってくる「BIG BLOCKモード」、フィールドの上下が反転し下から上にミノが昇っていく「リバースモード」、ミノがすべて灰色になりNEXTを音で判別することが鍵になる「モノクロモード」、ライン消去したときに特殊なボイスが鳴る「UKIKIモード」がある。これらのコマンドは重複して入力でき、1プレイに6モードすべて適用させることもできる。
    • 中でもUKIKIモードは、ラインを消すと「うきっ」「うききっ」と喋るようになる。4列消しをすると「もえ~ん」と喋ってきたりする。本当にただそれだけのモードで、公式サイトでも隠しコマンドの紹介ページで「ただ単にそれだけの謎のモードです」と書かれる始末。
    • BIG BLOCKモードはミノのサイズが倍になるモードで、次作のTA/TAP、次々作のTiに至るまで搭載され続けたが、本作のみ後の作品とは異なり通常と同じく1マスずつ横移動する仕様のため、うっかり1マスだけ横移動させるともうそのラインは消すことができなくなり、あっという間に詰んでしまう。
      • さらに本作では全てのミノが出現時点で既に1マスズレた状態のため、やはりうっかりするとズレた状態で置いてしまうことになる。開幕高速落下して即詰むのは多分誰もが通る道。
  • 本作の開発はアーケードの一人用高難易度テトリスではなく対戦に特化した家庭用の『テトリス』からスタートしている。
    • 元々は当時放送されていた人気番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」において『テトリス』の対戦企画が行われていたことに端を発しており、「ダウンタウンを起用した対戦特化のテトリス」をまず作ろうとしていた。本作の対戦モードがラインの送り合いに加えてアイテムの概念があるのはこの名残による。
      試行錯誤しているうちに番組自体が急遽打ち切りとなってしまい、開発は一旦中止となる。
    • その半年後にダウンタウンとは切り離したアーケード用テトリスとして開発再開。開発中止前に松本人志氏が「やはりテトリスは元々シンプルな所に面白さがあるから、ごてごて付けるのはどうかなー」といった意見を出していたことがプロデューサー三原氏の頭の中にあり、「作っていく中に進化を遂げていかなければならない」と様々な機能が盛り込まれることになった。
      • 回転補正機能はそのような中で生まれた機能の一つで、事務職の女性がテストプレイ中に壁でミノが回転しない点に疑問を抱いたことがきっかけだったとか。
    • 結果、シンプルでストイックな「一人用モード」と、対戦の楽しさが味わえる「対戦モード」が融合した本作が誕生したという。
  • 上記の通り高速域では文字通り生命線と言えるIRSだが、ボタン押しっぱなしで発動できるのは元々バグであった事が現シリーズ総合プロデューサーから語られている*16
    • 当初の仕様ではミノが出現した1フレームジャストで回転ボタンを押す事で発動できる裏技的なものだった模様。そしてこのバグを直すつもりでいた所を三原氏が「このままで残そう」と判断したことで現在の形になったとか。

その後の展開

  • 家庭用としてPSハードに移植する予定だったが、ザ・テトリス・カンパニーの「『テトリス』の商品化は1プラットフォームにつき1社のみ」という方針が発表されたことを受けて中止になってしまった。
  • その後アリカは、2000年8月に1人用モードを「マップ上に配置されたターゲットブロックを全て消す」パズルモードと対CPU対戦のみにしたキャラゲー『テトリス with カードキャプターさくら エターナルハート』として制作・発売し、そこでTGM2までと共通した仕様を一部仕込んでいる。『テトリス』単品ではライセンスを取得出来なかったが、『CCさくら』のキャラゲーとしてライセンス発行にこぎつけたという。
    両回転ボタンを同時押しすることにより180度回転状態で出現させる『D-IRS』を採用しているのは今のところこの作品のみ。
  • 2000年10月に続編『テトリス ジ・アブソリュート ザ・グランドマスター2(略称:TA)』が発売。発売元は彩京で、使用基板は「PSIKYO SH2」に変わっている。
    • 上記の『テトリス with CCさくら』での改善点を逆輸入したうえでより難易度の間口を広げている。
    • 本作のPS2移植版は作られたが、上述のテトリスカンパニーのライセンス規制が尾を引いてか発売されなかった。三原さんが2020年4月27日に没版動画をアップロードしている。
  • 2005年3月には3作目となる『テトリス ザ・グランドマスター3 -テラー インスティンクト-(略称:Ti)』が発売。発売元はタイトーで、使用基板は「TAITO Type-X」に変わった。
    • テトリスのガイドラインが制定されてから初となるTGMシリーズで、ホールドやネクスト表示3つ・「ワールドルール」が実装され、「クラシックルール」の回転法則にも幾ばく化の緩和がなされた。
      これを受けてか、難易度・ゲームスピードの上限は更に際限なく上昇している。
  • 2005年12月には、シリーズようやくとなる家庭用版の『テトリス ザ・グランドマスター エース(略称:TGM-ACE)』が360でAQインタラクティブから発売。初代TGMのPS移植頓挫から、約6年越しのシリーズ家庭用進出となった。
  • 『テトリス ザ・グランドマスター4 -THE MASTERS OF ROUND-』も開発はされており、数度ロケーションテストが行われたが、権利元であるザ・テトリス・カンパニーとの折り合いが付かず、お蔵入りしている。
  • シリーズすべてで発売元・使用基板が異なる。このような特徴を持つシリーズ作品は『海腹川背』シリーズなどが該当する。
  • そして2022年11月22日。先述した事情で移植が長らく絶望視されていたが、ニンテンドーeショップでの300週連続配信の記念タイトルとしてアーケードアーカイブスで配信決定が発表された。稼働開始から24年越しである。この移植決定の電撃発表には各所で驚きの声が上がった。同年12月1日より配信開始。そして、アケアカ配信作では初の「PS互換基板作品の移植」でもある。
    • アーケードアーカイブス恒例のハイスコアモードはノーマルモードまたは20Gモードでの段位&タイム、キャラバンモードはノーマルモードとビッグブロックモードでの5分間のスコアを競うものとして実装されている。
    • なお、権利的な都合の関係でアーケード版であったカプコンとQサウンドのロゴ表記が削除されている*17

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最終更新:2024年04月16日 14:34

*1 ちなみに、新セガ『テトリス』は300ライン後、さらに1ライン消してから約200秒後がゴール。

*2 このことは本作のデモ画面においても説明される。

*3 それ以前では旧セガ『テトリス』の続編作であるブロクシードの最大2Gが有名。

*4 GM段位の存在は遊び方画面での上級者デモプレイで示唆されるのみで、ゲーム中に条件は一切表示されない。

*5 『セガテトリス』や本作以前だと『テトリスDX』や『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』で壁蹴りが導入されていたが、こちらは「回転で壁に接触する場合、回転軸自体が変わる」という実装。

*6 NEXTミノを倍のサイズにする「DEATH BLOCK」や、ラインごとに一か所ランダムで穴をあける「SHOT GUN!」等。

*7 積んでいる地形の上半分を消去する「↑DEL FIELD」や、偶数ラインを消去する「DEL EVEN」等。

*8 フィールドを交換する「EXCHG FIELD」等。

*9 S・Zミノは最初に出現すると必ずブロック下の空間が出来てしまい、Oミノも直後にS・Zミノが来ると空洞を作らざるを得ない状態になるためと思われる。この補正は即落下が導入された続編も同様である。

*10 ガイドラインの出現補正は「7種類のミノ1個ずつをランダムな順番に並べ、7手ごとに繰り返し」となる。

*11 プレイ全体のタイムではなく、記録されたグレードに到達した瞬間のタイム

*12 ラインを消去した場合、次ブロックの出現が41フレーム=0.7秒ほど長くなる。

*13 2作目は機械/電気、3作目は宇宙がモチーフとなっている。

*14 伏せた状態で、中央列のみに地形がある場合には壁蹴り判定とならない。

*15 海外で執筆されている「Tetriswiki」などにて文面を確認。

*16 「第395回 アーケードアーカイバー テトリス® ザ・グランドマスタースペシャル!」より。

*17 スタッフロールの方は変更がなく、カプコンの表記もそのままとなっている。