ルカノール伯爵
【るかのーるはくしゃく】
ジャンル
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ADV
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対応機種
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Windows(Steam) Nintendo Switch
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発売元
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【Win】Neon Doctrine 【Switch】Merge Games
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開発元
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Baroque Decay
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発売日
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【Win】2016年3月3日 【Switch】 2018年7月26日
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定価
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【Win】1,010円 【Switch】1,799円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:D(17歳以上対象)
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備考
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Steamでは原題『The Count Lucanor』で販売
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判定
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なし
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ポイント
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低解像度で描かれる恐怖のおとぎ話 ボリューム少だがホラー演出は抜群 移動速度やゲームバランスなどやや惜しい所あり
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概要
ビデオゲーム黎明期を思わせる粗いドット絵でのアニメーションやグロ表現を得意とする、Baroque Decayの家庭用ゲーム第一作目。
タイトルや登場人物の名は、14世紀スペインの寓話集『ルカノール伯爵』から取られている。
ストーリー
むかしむかし。あるところにハンスという少年が住んでいました。
その日はちょうど10歳の誕生日。ハンスにとって特別な日になるはずだったのですが、家は貧しく、プレゼントもお菓子もありません。
家を飛び出したハンスはお宝さがしの冒険を求めて森の奥へと進みますが、夜になると辺りは一変。血の河が流れ、人喰いヤギが跋扈し、ヤギ飼いは生首のままヘラヘラと笑っているのです。
暗い森をさまようハンスは、そこで見かけた奇妙な精霊の後を追ううち古いお城に辿りつきます。
ハンスを待ち受けていた精霊は言いました。ルカノール伯爵の跡継ぎとなり、その財産を得る者を探していること。そしてその資格を得るためには「夜明けまでに精霊の名前を当てる」必要があることを。
こうして、ハンスの恐ろしい冒険の夜が幕を開けたのでした。
特徴
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操作体系はスタンダードな2DRPGであり、方向キーでハンスを上下左右に動かし、気になるものはボタン押下で調べる定番仕様となっている。
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城内は回廊に沿って幾つもの部屋があり、それぞれに「文字が書かれた紙片」が隠されている。
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探索や謎解きによってその紙片を集め、精霊の名前を完成させるのが目下の目的である。
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中庭には商人をはじめとする奇妙なNPCたちがおり、鍵をくれたり城内を行き来したりと、彼らの行動も文字集めに影響する。
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鍵やイベントアイテム以外は基本的に消費制であり、中でも「金貨」は商人との取引のほか、セーブにも必要となっている。
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つまり実質的にセーブ回数を節約せざるを得ない仕様であり、ゲームオーバーへの恐怖を高める要因に繋がっている。
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本ゲームの特に象徴的なアイテムが「蝋燭」で、手に持って周囲を照らすほか、城内の任意の位置に1本ずつ置くことができる(設置後の回収も可能)。
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これによる視界の確保が、攻略的にも精神的にも重要となる。
キャラクター
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ハンス
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本作の主人公。誕生日すら祝ってもらえない貧しさにショックを受けて家出した後、恐怖の試練に立ち向かうこととなる。
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度胸があり、スプラッタ映画級の衝撃的光景を目にしても驚きはすれど怖がることはほとんど無い。
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ママ
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ハンスの母親。若々しく美人だが、夫は戦争に行っており女手一つでハンスを育てている。
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家出を決意したハンスに、祖父の形見である杖と全財産である3枚の金貨、それと数切れのチーズを渡して送り出す。
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老婆
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森の奥へ向かうハンスが最初に出会った老人。市場へブタを売りに行こうとしていたが杖を壊してしまい困っている。
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商人
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老婆の次に出会う中年の男。馬車の荷台を壊してしまい、雇い主への弁償代の工面に悩んでいる。
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ヤギ飼い
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森の奥で出会う若い男。ワインに合うつまみを探している。
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精霊
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一見すると悪魔のようなシルエットでもある青い顔の精霊。ハンスを城に誘い、ルカノール伯爵の跡継ぎ探しの試練を出す。
評価点
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忍び寄る不穏さと、急転直下の悪夢的演出
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ゲーム開始時はいかにもおとぎ話のような、牧歌的かつ寓話らしい雰囲気であり、上記の通り母親から渡された幾つかの物品とそれに対応する悩める人を前に自身の行動を試されるシーンから始まる。
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各所の立札には地名が書かれているが、初っ端から「首吊りの森」「呪われた峡谷」と不穏な雰囲気をじわじわ感じさせてくれる。
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そしてこの日中のシーンを終えた途端、巨大カラスに食べられるビジュアル、夜の墓場、戦争による血が怒涛の勢いで流れる河、更に不吉な内容に書き換えられた立札……と、悪夢のような状況下に落とされることとなる。
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こうした断片的な「悪いイメージの集合」が、オープニングの朗らかさやハンス少年の快活さとの落差も相まって、プレイヤーに強いインパクトを与えるものとなっている。
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戦うことのできない恐怖
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試練の行われる城内は蝋燭なしでは歩けないほどに暗く、しかも各所を死神のような「召使」たちが徘徊している。
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召使はハンスを見つけるや否や吸い込み攻撃をしてきた後、仮面を外し、顔面から血まみれの触手を伸ばして攻撃してくる。
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当然この攻撃によって体力が尽きるとハンスは死亡しゲームオーバーとなるが、一方ハンスからの攻撃手段は何ひとつなく、回廊を反対方向に進んで逃げたり、近くの隠れポイントや扉に入り込んでやりすごすしかない。
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暗がりの奥に突然召使が現れた時の「ゾワッ」とする感覚はなかなかのもの。また、彼らは常に「チィ、チィ」といった小鳥のような声で鳴いているため、初見では真っ暗闇の中、どこからともなく鳴き声が聞こえるという不安だらけのシチュエーションを楽しむことができる。
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ドットアニメーションで描かれるハンス少年の愛らしさ
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ゲーム中の局所でドット絵によるアニメーションムービーが再生される。少々輪郭のいびつさが見えるなどこなれていない印象はあるものの、オープニングでの誕生祝いに期待を膨らませる様子や、森で夜を迎え異変に気付くシーンなどが結構なコマ数で描かれている。
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ハンスの表情がアップになる構図が多いが、元々やや中性的な顔立ちのキャラデザであり、また子供らしく瞳や頭部が大きめの画風もあって非常に可愛らしい印象をもたらしている。
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プレイ中はほとんどアタリ時代並みの粗いドットでのハンス君を見ることにはなるのだが、会話時にはバストアップ画像も表示され、そちらも感情に応じて差分絵が豊富なため、パッケージ絵の雰囲気に惹かれて購入というのもアリだろう。
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その場合、ホラー耐性があるかは別の問題となってくるが……
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複数存在する隠し要素
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マルチエンディング方式であり、ゲーム終盤の行動に応じて5つのエンディングが存在している。
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また、精霊の名前を突き止める方法も1つではないため、クリアするだけなら必須でないサブイベント的な要素も少量用意されている。
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お話の舞台そのものは城と森で完結しており、時間的にも約1日のできごとでしかないためぱっと見のボリュームとしては小ぶりだが、こういった点での繰り返しプレイも可能なつくりは良ポイント。
賛否両論点
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文字通り出血大サービスのグロ表現
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CERO:D作品ではあるが、ドット絵の解像度が低いだけであり「血のしたたる生首」「断面から血液を噴き出し続ける千切れた両脚」など、起きていることはCERO:Z級である。ムービーやバストアップでも衝撃的な絵があるため、実質的なグロ度は高めだと言えるだろう。
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もちろん「それを求めていた」という人には持ってこいである。
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虫表現も人によってはキツいかもしれない。大量のワームが這いまわるマップがある、斑点模様の蝶のアップがある、という2点のみではあるが……
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一方ほとんどの時間を過ごす城内では「敵から隠れる怖さ」に比重が置かれているため、スプラッタ要素はやや控えめになる。
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ちなみにハンスについてはそうした凄惨な様を描いた場面はない。体力が尽きてゲームオーバーとなる時も、そのまま倒れ込んで血だまりができる程度である。
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リソース管理の緊張感のなさ
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「特徴」項に記載の通り蝋燭や金貨といった重要アイテムが消費制なのだが、これが城内で結構多めに手に入る。
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蝋燭は燃え尽きるわけでもないのに一度に複数本手に入るポイントが何か所もあるし、金貨もアイテムを買いそろえた後はそこそこ余りやすい。
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同開発チームによる『Yuppie Psycho』の場合、懐中電灯の電池が消耗品であったためこのあたりの印象がやや異なることになる。
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体力回復アイテムもかなり豊富に用意されているため、よほど行き当たりばったりで進めない限りは「アイテム枯渇の恐怖に怯えながら進める」という状況にはならないだろう。
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とはいえホラー的雰囲気を楽しみたいプレイヤーには「アイテム管理に悩まされる緊張感まで求めてない」として嫌がる層もいると思われるし、全部合わせても不足するようでは難度がシブめになってしまうため、一概に悪いとも言えない。
問題点
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歩行速度の異常な遅さ
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本作は歩行速度がかなり遅く、ファミコン時代の多くのRPGにおけるフィールド移動速度とほぼ変わらない。
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その割に「走り移動」というシステムもなく、夜の森での恐怖体験を経て自宅を目指そうが、城内で恐ろしい召使に追われようが、いっさい駆け足という選択をとらない。
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全編通した攻略がこの速度を基準にチューニングされているためゲーム的な不利はないのだが、人によっては城に辿りつく前に離脱してしまう恐れがある。
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また、マルチエンディング方式で周回プレイもあり得ることを踏まえると、一通りプレイした後も強い面倒さを感じる要因となり得るだろう。
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序盤だけ大変な金貨マネジメント
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ショップ要素のあるゲームではありがちだが、本作も資金繰りが「序盤だけ」キツめである。前述の通り金貨は買い物のほかセーブでも用いるので、「セーブするかアイテムに換えてしまうか」が悩ましい。
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しかしショップで取り扱いしているのはキーアイテムのみであり、しかも攻略手順によっては全て買う必要すらないため、序盤を過ぎれば完全に用無しとなる。
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その頃にはゲーム操作にも慣れてそうそうゲームオーバーにはならないため、以降はただただ金貨が余っていくことになりやすい。
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同位置に居座り続ける敵の存在
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特に城内1階の召使に顕著だが、一ヶ所に留まるとしばらく動かなくなることがある。
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これが謎解きのある部屋の前や、セーブポイントのある中庭への扉前でもよくあり、「召使が邪魔で謎解きが進められない」「中庭を出た瞬間鉢合わせ」ということがしばしば発生する。その場合わざと見つかって動いてもらうくらいしか対処がなく、煩わしいうえに恐怖感が削がれやすい。
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また、この傾向のせいで蝋燭は手元に持っていればほぼ十分であり、廊下に蝋燭を設置する必要性が薄くなっている。
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誤字脱字とページ送りの難
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ローカライズの結果意味が通らない文章はほとんど無いものの、少々誤字脱字や不要なスペースの挿入が見られる。
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また、全文章が1回の表示文字数に収まらず、末尾の句点(。)だけ2ページ目に送られていることがあり格好が悪い。
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他に特徴的なこととして、本作では三点リーダ「…」がなぜか「--」で表示されているため、人によってはキャラクターの心情がつかみにくいかもしれない。
総評
童話風の雰囲気からのホラー展開、ということでそうした「子供時代」と「残酷さ」という取り合わせが好きな人にはおすすめの一作。
プレイ時間は目安4時間ほどのためSwitchだとやや割高感があるものの、世界観はよくできており物語に蛇足もないため、ストアのプレビューを見て気になったなら期待を外すことはあまり無いだろう。
余談
Steamのストアでは『Yuppie Psycho』とのセット販売でややお得に購入できる。
最終更新:2021年12月22日 18:18