【ちきちきましんもうれーす けんけんとぶらっくまおうのいじわるだいさくせん】
ジャンル | インタラクティブ・ムービー | ![]() |
対応機種 | 3DO interactive multiplayer | |
発売・開発元 | フューチャー・パイレーツ | |
発売日 | 1994年3月20日 | |
定価 | 9,680円 | |
プレイ人数 | 1人 | |
判定 | 賛否両論 | |
ポイント |
ハイパーメディアクリエイター、ゲーム業界参入 良くも悪くも3DOの方向性を印象付けてしまった国内ローンチ プレイヤーはレースを見守るだけ 純粋なゲームとしてはとても評価できないソフト 映像ソフトの延長やファングッズとしては高評価の声も |
第5世代ハードの初陣を切った3DOの、日本向けローンチタイトル。
本記事ではジャケット側面に準拠してサブタイトルも併記しているが、他サイトでは単に『チキチキマシン猛レース』と表記されることが多い。
今作を手がけたのは、当時のテレビで何かと目立っていたハイパーメディアクリエイターこと高城剛氏。
ワークステーションや本格的CGを手掛けていた、周囲のクリエイターが3DOに興味を抱いたことがきっかけで、今作の開発に至ったという(3DOマガジン 創刊準備号のインタビューより)。
企画には大手広告代理店も関与しており、大々的な宣伝の元で送り出された。その結果、初期の3DOソフトとしては大きなセールスを記録したが……
『チキチキマシン猛レース』(原題:Wacky Races)とは、1968年に制作されたアメリカの人気テレビアニメである。
制作は『トムとジェリー』でおなじみのハンナ・バーベラ・プロダクション。
11台の個性的なマシンが奇想天外なレースを繰り広げるギャグアニメで、かの『スーパーマリオカート』は本作から着想を得たとも言われている(ただしソースは確認できず、推測の可能性も高い)。
2017年にはリブート版が作られた。
物語は11台のマシンに代わる代わるスポットを当てて描かれるが、中でもズルい作戦を仕掛けては裏目に出てしまう悪役・ブラック魔王は作品の中心的な立ち位置で描かれている。
彼の相棒にして愛犬のケンケンは90年代半ばにキャラクターコンテンツとして一大人気を得ていたので、『チキチキマシン』を知らない人でも一度は見た事があるのでは無いだろうか。口に手を当てて笑うシーンは象徴的で、ゲーム作品でも『ダックハント』『ライブ・ア・ライブ』などでケンケンの影響を強く受けたキャラクターが登場する。
日本では幾度となく再放送やソフト化が行われており、世代によっては高い知名度を誇る。
ユニークな題名、耳に残るオープニング、そして原語を無視したアドリブという思い切ったローカライズは好評を博し、本国を凌ぐ人気を集めることに成功。
しかし残念ながら2022年1月現在は日本語版を配信している動画サービスが無く、著作権も切れていないので、まともに視聴するにはワーナー発売の映像ソフトを購入するしかない(*1)。
このソフトもまた、日本語版を原作としている。
ソース:3DOマガジン創刊準備号のインタビュー
本記事ではゲームの乱数に関する話題を扱うが、その厳密な仕様は公表されておらず、あくまで推定である点には注意。
もし統計的に有意な情報を手に入れるのであれば膨大な時間が必要となり、検証は困難を極める(*2)。
以下「Races TVモードで各マシンが優勝する確率は等倍」という仮定のもとで記述する。
本編のTripに必要なドライビング・カードを集めるモード。
+ | 参考:期待値計算の詳細 |
行動 | 所要時間(秒)(*7) |
ベットする車をポインタで選ぶ。 | 5 |
ナレーションが選んだ車に対して解説を行う(操作不可・スキップ不可)。 | 5 |
選んだ車をベットするかどうか、画面下にある確認用のボタンまでポインタを動かして押す。選び直す意味は無さそうなのに手間だけかかる。 | 6 |
2つ目の車を選ぶようナレーションがまくしたてる(操作不可・スキップ不可)。 | 3 |
1〜3を再び繰り返し、レース開始。 | 16 |
1分半ほどレース映像が流れる。一度見た映像が来たら再び見る意味は無いのだが、内容の如何を問わずスキップ不可。 | 84 |
10秒ほどの結果発表シーン。外れた場合はブラック魔王が勝った場合を除きナレーションが必ず同じセリフで煽ってくるが、もちろん例によってスキップ不可。 | 15 |
+ | 参考:流れるレースのパターンとそれぞれの再生時間 |
本作のストーリーモード的な立ち位置。
Races TVモードで手にしたドライビング・カードに対応する世界へ突入し、最深部のブラック魔王を倒せばそのステージはクリアとなる。
行動 | 所要時間(秒) |
Tripモードを選び、ロード終了を待つ。 | 8 |
突然ドアの画像が現れ、数秒程度の操作不能期間ののち、ポインタをドアに合わせてボタンを押す。 | 6 |
部屋の中に入る映像のあと、画面真ん中に位置するマシンにポインタを合わせてボタンを押す。 | 5 |
マシンから降りてきた梯子にポインタを合わせてボタンを押す。 | 10 |
WREXのおしゃべりのあと、ロードを経てステージ選択画面へ。ここまで約40秒かかるのだが、一連の流れをやらされる意味は無きに等しい。 | 10 |
出発したいステージをポインタで選択する。 | 8 |
そのステージで良いかどうか確認が入るので、画面左下までポインタをわざわざ動かして選択する。キャンセルする意味は全く無く、無駄でしかない。 | 5 |
カードをマシンに挿入する演出。地味に長い。 | 20 |
WREXのおしゃべり(毎回パターン固定)が再び入り、たとえ初回プレイでなくてもチュートリアルを聞くかどうか選択を求められる。 | 12 |
例によってわざわざポインタを動かし、出発を選ぶことで、ようやくステージに出発する(この出発演出もかなり長い)。しかしここで謎の魔女が登場し、2分近くに渡って出発先のステージにいるブラック魔王の様子をわざわざ見せられる(例によってスキップ不可)。この魔女は原作に全く登場しないオリジナルキャラクターで、姿形すら存在せず、無理やり挿入した感じが強い。初見プレイ時はともかく、ゲームオーバーになってやり直しを余儀なくされた場合はじれったいことこの上無い。 | 約150 |
仮にもローンチタイトルでありながら、ゲームとして手に取ったユーザーから極めて低い評価を受けている作品。
「レース題材なのにプレイヤーは見るだけ」「全部運ゲー」「映像と音声のほとんどがスキップできない」という破綻が3つも揃っており、ゲームに必要なノウハウ全般が欠けてしまっている。ゲームと映像の融合を目指すにしても、なぜ無難にLDゲームなどにしなかったのか、そもそも高城氏がそういうジャンルを知っていたかさえ疑われる。
ただしアニメ自体の評価(特に原作再現度)は高く、今作のキャラゲー要素を重視した層からは「評判は悪いけど楽しめた」という声が少なからずある。映像ソフトの延長やファングッズとしては、必ずしも評価が低いわけではない。
こうしたポテンシャルに対し、数々の惨憺たる問題点が足を引っ張るという、何とも勿体無い一作になってしまった。
中には4か月程度で作り上げた作品もあって、キャラクタや宣伝だけで売っているものも目立つ。以前からこの業界にいる人間なら「世間をなめている」としか思えないような作品が話題になったりしている。
今だからはっきり言う。最も許せないソフトである。こんなソフトを作るヤツも、売るヤツも人間性を疑わざるを得ないのである。
*1 映像ソフトにおいて日本語字幕に切り替わる箇所があるが、これは本放送当時尺の都合上カットされ元々音声が無い為、及びクルクルパーやキチガイといったセリフが時代にそぐわないとされVHS版の販売を担当した日本コロムビアがカットした音源をワーナーがそのまま使用している為である。
*2 今後クイックセーブ可能な3DO互換機が生まれれば、検証が容易になると思われる。
*3 3番「マジックスリー」を操る発明家。メカニックの知識に長けており、マシンを様々な姿に変形させて優勝を狙う。日本語版では彼の技術に対して「忍術」という秀逸な訳が付いている。
*4 9番「ハンサムV9」のレーサー。5番「プッシーキャット」のミルクちゃんにぞっこんで、レースの最中にいいところを見せようとする事が多い。マシンはことあるごとにすぐ壊れ、ブラック魔王の代わりにオチを務めた回もある。
*5 FC版はケンケンを主人公としたアクションゲームだった。
*6 エントリーナンバー2番。お化け屋敷をモチーフにしたマシン。屋敷の窓からたまにドラゴンが出てきて、様々なギミックを披露する。
*7 次の行動に移るまでのロード時間を含む。
*8 この記事では「1年という短期間でも良い出来に仕上げたソフトもある」として『鞍馬山荘』『バーニングソルジャー』を挙げており、「4ヶ月でもきちんとした出来になった」と読めるように予防線は張ってある。
*9 教育ソフト系や洋ゲーの得票数が完成度関係なく明らかに少なかったり、ゲームジャンルそのものを根本的に否定している的外れなレビューも確認されている。ネットで見られる各種レビューとの乖離も大きい(例を挙げると、目的を全うしている実用ソフト・教育ソフトが妙に低い)。あくまで「買いたい」「買わない」を基準に選んでおり、大量のゲームを遊べる時間は限られているため、ファミ通のクロスレビューよろしく参考程度にしかならないと思われる。
*10 3DOソフトは全てのゲームが松下から販売されたわけではなく、一部は三洋電機など他の企業からも販売されていた。
*11 こちらもファミ通クロスレビューで最低点スレスレを記録した、筋金入りの不評ソフトである。
*12 一応「DIGITAL FILM」と書かれてはいるが、造語なので正しい理解を求めるのは難しい。何よりきちんとゲーム要素が追加された次回作にも同じ単語がついているくらいに適当である。
*13 自伝では自社のソフトを手がけたスタッフを所々で絶賛しており、各種作品で仕事を共にしたスタッフからも好意的な意見が見られたりする。
*14 日本では2001年にPS版とGBC版がそれぞれインフォグラムハドソンとシスコンエンタテインメントから発売された。また、Windows版も「日本語マニュアル付き英語版」という形でサイバーフロントから発売された。