本記事では、3DO/SSで発売された通常版と決定版にあたる『コンプリートグラフィックス』(PS)、追加要素を加えた完全版『ディレクターズカット』(3DO)について解説します(判定はいずれも良作)。


Dの食卓

【でぃーのしょくたく】

Dの食卓 コンプリートグラフィックス

【でぃーのしょくたく こんぷりーとぐらふぃっくす】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 3DO Interactive Multiplayer
セガサターン
PlayStation(コンプリートグラフィックス)
発売元 【3DO】三栄書房
【SS/PS】アクレイムジャパン
開発元 ワープ
発売日 【3DO】1995年4月1日
【SS】1995年7月28日
【PS】1995年12月1日
定価 【3DO通常版】8,800円(税別)【SS】【PS】
5,980円(税別)
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査 E(全年齢)
廉価版 【SS】1997年6月20日/2,800円(税別)
【PS】1998年7月9日/2,800円(税別)
備考 海外のみPC版あり
Steamで海外版のみ配信中
判定 良作
ポイント 3DOが打ち出した「インタラクティブ」の到達点
時代の寵児・飯野賢治の出世作にして代表作
緻密な映像と演出で引き込むホラーADV
ワープ作品

概要

1995年に3DO用ソフトとして発売されたインタラクティブ・ムービー。

当時の3DOはセガサターン・プレイステーションといった対抗機種に押され、下火になり始めていた。
そんな中で発売された本作はヒットを遂げ、日本の3DO市場に少しだけ活気を取り戻す事に成功する。
同年のうちに対抗機種にも移植されたものの、今なお後期3DOを代表するソフトの1つとして名高く、ゲームソフト大容量化の過渡期を象徴する作品として知られている。


あらすじ

1997年ロサンゼルスの総合病院で大量殺人事件が発生した。

犯人は同病院の病院長リクター・ハリス。今もなお、多数の入院患者を人質に取って病院内に立てこもっているため、手を出すことができない。

そこへ現われる一人の女性、リクターの娘ローラ・ハリス。

変貌した父の謎を突き止めるため、惨劇の舞台である病院に単身乗り込むのだが……

(3DO版パッケージ裏面より)


特徴

  • ゲームの目的
    • 父親の凶行を止めるべく、病院に突入した主人公ローラだったが、ほどなくして異世界に広がる謎の館に放り込まれてしまう。
    • ローラ、すなわちプレイヤーの目的は2時間という時間制限の中で館の謎を解き明かし、脱出を図ることである。
      • 今風に例えるならば「演出がフルプライス相応に作り込まれた脱出ゲーム」と言えるかもしれない。
      • ちなみに、この館は「Dの城」というストレートな名前が付いている*1
    • 2時間を過ぎるとゲームオーバー。ローラは異世界に永久に閉じ込められてしまう。
      • 残り時間はアイテムの懐中時計からいつでも確認可能。物語は午前3時に幕を開け、午前5時にタイムリミットとなる。
  • システムは単純明快で、オーソドックスなADVの形式を取っている。
    • FPS視点で3D空間を探索し、様々な場所を決定ボタンで調べる事で情報を収集する。
      • 移動はプリレンダリングムービーでリアルタイムに表現され、一部を除きカットは行われない。
    • LRボタンでアイテムを選択し、使用することが可能。
  • マルチエンディングを採用しており、ゲーム内のある行動によってストーリーが分岐する。
  • バージョンごとの相違点
    • PSで出たコンプリートグラフィックス版、3DOで出たディレクターズカット版はいわゆる完全版に相当する。
      • ディレクターズカット版は別項で解説。
    • いずれも映像が差し替えられ、クオリティが向上している。
    • DISC枚数が1枚増え、追加要素が収録されている。
    • ディレクターズカット版ではエンディング後に特典映像が追加されている。価格も後のSS・PSの廉価版ほどではないものの、多少安くなっている。
      • また隠し要素として、3DOは通常版とディレクターズカット版にちょっとした連動要素が隠されている。その隠し方もゲームソフトとしては稀にみるユニークな試みなので、もし自力で見つけ出せればちょっとした自慢になるかもしれない。

評価点

  • 大容量・高画質の動画再生機能を活かし、それまでのハードに成し得なかったアート性を徹底的に表現した。
    • 3DOといえば、高画質のムービーを再生できるようになったゲーム機として知られている。今作はその特色を最大限に活かし、それまでにない角度からプレイヤーを世界観に引き込んでいる。
    • インタラクティブ・ムービーは映画の延長上にあるジャンルだが、今作品は文章表現をほとんど用いていない。世界観の表現を"映像"だけに絞ることで、個人の感性に直接訴えかけてくる。
      • 何をしたらいいか、何をすればゲームが進むのかは説明がほとんどない。かわりに映し出されるのは、3DCGで表現された異質な空間の数々。当時の最新3DCGは発展途上にあった一方でホラーゲームと相性が良く、独特の無機質さが恐怖心をそそる。
    • 似たコンセプトのゲームとしては『夢見館の物語』という先例もあるのだが、今作は文章が少ないため差別化も図られており、ムービーのフレームレートや発色数も強化されたことでより没入感の高い体験を実現している。
    • 後年になって明かされた事だが、今作を送り出した飯野賢治氏はかつて『MOTHER』に大きな感銘を受けたという。同作からは「ゲームでアートを行なってもよい」という新たな価値観を見出し、『Dの食卓』を含む氏の作品はその影響を強く受けている。
  • このグラフィック表現がムードを盛り上げる傍ら、物語の構成も主人公とプレイヤーが一体となれるよう考えられているのが特徴。
    • ゲーム序盤、ローラが病院に着くやいなや世界が歪み、謎の屋敷に放り込まれてしまう。しかし一体何が起きているのか説明は一切無く、プレイヤーにとってはただ不安な感情が残る。
      • 解説は無いため、その不安を解くには自らの手で真相を明かさなければならず、プレイヤーはローラと共に得体の知れない恐怖と向きあっていく事となる。
      • そうしてゲームを進めると要所要所で少しずつ真相が明かされていくのだが、これがプレイヤーの好奇心をそそり、世界観へと引き込んでいく。
    • ホラー映像としての完成度も高い。陰影も細かく表現されており、時折プレイヤーを驚かせるような演出が差し込まれることで緊張感を維持してくれる。
      • そのうえ今作は「2時間」というシビアな制限時間が存在し、特に初見プレイだとゴールが全く見えないため、常に気の抜けないスリルがゲーム展開を静かに盛り上げる。
    • なおゲーム開始前に見られる、予告編のようなオープニングも雰囲気の盛り上がりに一役買っている。
  • こうして作風に呑まれたのち、その先に待っているのは、プレイヤーの没入感を削ぎ落とさない工夫の数々である。
    • 今作はHUDが一切無く、ゲームらしいユーザーインターフェースが徹底的に排除されている。
      • まさに映画さながらの雰囲気が作り出されていて、ゲームとして遊んでいる感触を抱きにくい。
      • それどころかBGMもほとんど使用されず、まるで館を自分で探索しているかのような気分に浸ることができる。
    • 主人公・ローラの動きは生き生きと表現されていて、不安な状況にありながらも人間味が感じられる。
      • 文章が控えめな分、今作は様々な描写に注目して登場人物の心情を汲み取る事になり、強く感情移入できるようになっている。
    • 探索中の静止画と移動中のムービーのCGは質感の差が薄く、シームレスに切り替わる。
      • この気配りにより、画面の切り替わりによって現実に引き戻される感触を薄めている。

賛否両論点

  • 癖のあるゲームバランス
    • 「2時間以内にクリアできないとゲームオーバー」というシビアな仕様により、今作は何度もやり直す事を前提とした「死に覚えゲー」の側面が強い。
    • ただし時間制限さえ除けばADVとしての難易度は低い部類に入り、極端な形でバランスが取れているとも解釈できる。
      • 隅から隅まで実行可能なアクションをこなしていけば謎は解け、理不尽な隠し要素はあまり無い。
      • ゲームを進めると前にいた場所には戻れなくなる。このため一度に探索できる範囲は小刻みに設定されていて、解決の糸口を見失い辛くなっている。
      • それでいてゲーム中はコンパクトを使って一定回数ヒントを見る事ができ、うっかりした見落としで詰む危険も避けられる。そのうえADVが得意な人であれば、このコンパクトを使わずに初見クリアするのも可能である。
  • 歩行速度がかなり遅い。
    • 制限時間のあるシステムと噛み合っておらず、この点でストレスを訴える声は少なくない。
    • しかしこの静けさがムードを維持しているのも確かで、「映画的演出の一環」として肯定的に捉える意見もある。

問題点

  • セーブ不可
    • 2時間ぶっ通しで遊ばなければならないシステムに関しては「遊び辛い」という批判が少なくない。
      • ゲーム終盤はある選択1つでバッドエンドに直行し、最初からやり直しになってしまう極端な場面もある(ただしゲーム内の人物の言動や、不自然なアイテム描写から推測は可能)。
    • 3DO版説明書によると、飯野氏は今作を遊ぶ上で「物語性」を重視しており、セーブとロードを駆使してエンディング分岐を消化するプレイを嫌っているとのこと。
    • ちなみに限定的ではあるがセーブ手段も存在する。DISC入れ替え時はデータを一時的に保存領域(3DOとSSは本体内蔵のセーブ機能、PSはメモリーカード)に確保しているため、時間をおいて交換後のディスクを本体に挿入すれば続きから遊ぶことが可能である(ただしこのデータは再開後すみやかに削除される)。
      • ディスク交換前にこのセーブデータをメモリーユニット(3DO)、パワーメモリー(SS)、別のメモリーカード(PS)にコピーして保存しておけば何時でもセーブポイントから再開可能となる。
  • 今作のプレイ時間は1周2時間程度にもかかわらず、上手く進めれば初見でベストエンドを引き当てる事も可能である。そうなると値段に対して低ボリュームなゲームソフトとなってしまい、かなりコストパフォーマンスが悪い。
    • ただし何度もやり直しを余儀なくされた場合はADV一本のボリュームとしては十分に遊べる。この問題点はプレイヤースキルや運も関わる要素と言える。
      • 様々なゲームを遊び慣れている当時の雑誌レビュアーからは、ボリュームについていくつかの否定意見が寄せられていた。
    • こうした欠点は先述の『夢見館』でも指摘されており、インタラクティブムービーの限界でもある。
  • ヒント機能であるコンパクトの説明がゲーム中に一切無く、ゲーム開始時に何も知らず使ってしまう事故が起きやすい。
    • 3DO版は説明書に存在すら言及されていない。

総評

ゲーム性自体は極めてオーソドックスな一方、映像面の進化を取り入れたことで斬新な作風に仕上がり、当時の業界で大きな反響を獲得した。
ハード進化の過渡期にヒットした本作は時代のニーズを余す事なく映した作品とも言い換えられ、その作風は映像技術が進化した今であっても換えられない魅力が詰まっている。

かつて次世代機が見た美しい夢に惹かれた人、時代に名を刻んだホラー映像に恐怖してみたい人は、是非ローラとともに館へ突入し、「D」の謎を解き明かしてみてほしい。


余談

  • 評価の変遷
    • 発売当時は大反響を呼んだ一方、ゲームの急速な進化に伴ってスポイルするのも早かった……と語られることも多い。*2
    • 今作の高評価は映像表現の活用も大きくかかわっているが、数年もすると同様のCGを取り入れたゲームは珍しいものでは無くなっていった。
      • その一方、ゲーム部分はプレイヤーを突き放した要素も多く見られるため、少しすると「賛否両論ゲー」として扱う意見も増えていった。
    • 具体的な例を挙げると、雑誌『セガサターンマガジン』の読者レースは「3DOの名作」と太鼓判を押された上で初登場8位(44作品中)と高順位をたたき出したが、最終号での順位は417位(866位中)と、中堅にまで落ちていた。
      • 遅れて出たPS版の『ファミ通』クロスレビューでは賛否ある部分に触れられ始め(ただしそのレビュアー自身は10点満点をつけていた*3)、『サタマガ』97年7月16日号では飯野氏が賛否両論のゲームばかり出しているクリエイターとして紹介されていたりと、雑誌ライターからもこうした空気が見られた。
    • こうした傾向は本作に限らず、3DOの作品で多々ある現象である。3DO自体が過渡期のハードだったこともあり、発売時点で良作扱いでも移植される頃には評価が厳しくなりがちであった。
      • 代表的なものは『ロードラッシュ』『アローン・イン・ザ・ダーク2』『BattleSport』など。いずれも英語版ウィキペディアで海外レビューを見られるが、ゲーム自体の変化はないのに「古い」という理由だけで移植版が厳しめに評価されている(これは日本の雑誌も同様の傾向*4)。
    • ちなみに3DOはハードのコンセプトも相まって映像面の需要が大きく、後続ハードと違った評価傾向があった(『チキチキマシン猛レース』の記事も参照)。こうした背景も評価の変遷とは無関係ではないと見られる。
      • 実際に『D食』の3DOユーザーからの評価は大絶賛と呼べるもので、『3DOマガジン』最終号で公表された読者投稿では通常版と完全版が2位と3位を独占し、票が分散しなければ1位の『ポリスノーツ』を超えていたほどである。
      • 同誌では編集部と読者の評価が剥離している作品もあったが、今作に関しては編集部からも評価が高く、歴史の変わり目に立ち会えたことに感謝するコメントが最終号で記されていた。
      • 当時の映像需要の高さは3DOに限った話ではなく、同じくCD映像を活かした『夢見館の物語』も短時間でクリアできてしまうボリュームでありながら高評価をもって受け入れられていた。
  • 当初は全く別のシナリオになる予定で、「交通事故で死んだローラの彼氏が幽霊となり、遠隔操作でローラを助ける」というものだったらしい(メンズ雑誌『ケイプ・エックス』最終号のインタビューより)。
    • ムービーの最中、Aボタンを押すことでアクションが成立するという、一般的なLDゲームのシステムを採用していたようである。
    • 同社の『宇宙生物フロポン君』等に収録されていた予告ムービーではローラがカーチェイスするシーンが描かれているのだが、本編の雰囲気と若干異なる。おそらく没版コンセプトに使われていたものなのだろう。
    • ちなみに後年、これと似たコンセプトのゲームとしてカプコンから『ゴースト トリック』が発売されている。
      • ただしこちらはLDゲームではなく、パズル要素が強いADVである。
  • ゲーム冒頭、「殺人鬼が立てこもっているにもかかわらず、なぜ病院に侵入するローラを誰も止めないのか」というのは突っ込まれがち。
    • この点は後述するディレクターズカット収録のノベライズで補完されており、立てこもったリクターの要求を呑んでこうなったとのことである。
    • 過去のワープ作品収録のPVでローラが警察を振り切るシーンが描かれているため、一見すると強引に侵入したかのようにも思えるが、先述のインタビューからするとそちらは単に開発段階の映像でしかないようである。
  • 雑誌広告はちょっと不気味なローラの顔をドアップにした見開きのもので、大きく目を惹くデザインに仕上がっている。
    • こうしたプロモーションのインパクトの強さも、今作がヒットした一因と見られる。
    • この画像はセガサターン版パッケージにも採用された。
  • 発売前、飯野氏はレーティング審査用にROMの中身を入れ替えるというとんでもない事を行なっていた(ソース:「ゲーム Super 27 years life」)。
    • まだレーティング審査の歴史が浅かったせいか大騒ぎにはならなかったものの、今なら確実に問題(というか当時でも十分アウト)である。
    • 今作のレーティングは「E 一般向」となっているが、実際は2023年現在の基準でCERO:D(17歳以上対象)相当の描写もあるため、これから遊ぶプレイヤーは要注意。
  • 女性誌でも積極的に広告を打った事もあり、今作は女性ファンの比率が比較的高かったらしい。
    • 3DOマガジンは今作がきっかけで、徳間書店の他ハード雑誌より女性の読者が多かったとされる(他は2〜4%だったのが3DOだけ10%)。
    • この影響か、雑誌後期は女性ユーザーに向けた専用コーナーも常設するようになった。
  • 元々は1月発売だったが、4月に延期された。
    • 延期が決定した後、飯野氏は3DOマガジンの広告スペースを丸々1ページを使ってお詫び文を掲載した。
      • 目を惹く広告や「クオリティアップのための延期」という文面は逆に注目を集めたのか、結果的に今作は期待度を高め、「3DOマガジン」の「欲しいゲーム」ランキングで長期に渡り上位を記録した(5月増刊号より)。
    • 延期の大きな理由は、当初ディスク1枚で終わらせる予定だったのが2枚に増えたためとのこと。
      • 「値段は当初の予定から据え置き」ということもアピールされた。
      • 3DOマガジンの編集部からは値上げを提案されたが、飯野氏は拒絶し、同じ値段での発売に至ったという。
  • 3DOの貴重なキラータイトルでありながら間をおかず他機種に移植されてしまったため、やはり当時の3DOユーザーからは惜しむ空気があったらしい。
    • 同社作品『フロポンワールド(仮称)』のとある広告では、他機種移植の件が自虐ネタにされていた。
    • 『ディレクターズカット』が発売された際、3DOマガジンでは「おかえりローラ!」という煽り文句で大々的に迎えられた。
    • このため『Dの食卓2』がM2専売となるのは3DOユーザーにとって朗報となっていた。
  • PS版は出荷本数を巡ってソニーと飯野氏の間にいざこざがあり、結果として飯野氏はとんでもない行動へ出る事に……詳しくは『エネミー・ゼロ』の記事を参照。
  • 生みの親である飯野氏は今作のヒットを機に発言力を強め、雑誌コラムなどで大きく露出を増やしていった。
    • 歯に衣着せぬ物言いは熱烈な支持者を獲得した一方、過激な発言や行動で何かと物議をかもす事も多かった。
      • それでいて手がけるゲーム作品は『SHORT WARP*5』『エネミー・ゼロ』『リアルサウンド ~風のリグレット~』といった突き放した作品が多く、よく言えばカリスマ性溢れるクリエイター、悪く言えばただのビッグマウスとして賛否両論の評価を受けていた。
      • 興味深いエピソードとして、『ファミ通』が97年11月21日号にてゲームショウやゲームスクールの調査を基に「好きなクリエイター」「嫌いなクリエイター」のランキングを算出したところ、飯野氏が両方で1位を取った。
    • 2000年代頃にはゲーム業界から距離を置き、様々な事業に意欲的に取り組んでいたが、2013年に心不全で死去。42歳という若さでこの世を去った。
      • 氏に対して肯定的だった者からも否定的だった者からも、彼が1990年代のゲーム業界に残した逸話の数々は印象的な思い出として語り継がれている。

Dの食卓 ディレクターズカット

【でぃーのしょくたく でぃれくたーずかっと】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 3DO Interactive Multiplayer
発売・開発元 ワープ
発売日 1996年1月1日
定価 5,980円(税別)
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査 E(全年齢)
判定 良作
ポイント 一部映像を差し替え、おまけ要素も追加
克明に語られる、ゲーム本編の前日談

概要(ディレクターズカット)

3DO市場末期に発売された完全版。
『D食』は元々3DOの数少ないキラータイトルだったが、発売から数ヶ月で他機種に移植されてしまい、3DOユーザーのアドバンテージにあまり繋がらない面もあった。
そんな中、ハード末期に専売となった今作は追加要素を加えた特別版とも言うべき存在で、3DOでしか味わえない要素が盛り込まれている。


特徴(ディレクターズカット)

  • DISKは3枚組となり、1枚目は続編の予告映像を始めとする特典要素を収録している。
    • 中でもメインコンテンツと呼べるのが、本編の前日談を描いたノベライズ『Dの食卓 -The Novel-』。
      • ノベライズを担当した人物の名前はネット検索してもヒットせず、詳細は不明である。
    • なお説明書等では明記されていないが、この小説は本編直前に読む想定の内容となっているため注意。
      • そのためか、DISK1に収録されている。
      • 原作未プレイであれば先に本編を遊ぶのもアリだが、原作プレイ済みであればこの小説を先に読んでおくことを推奨する。
  • ディレクターズカットの名の通り、映像が刷新された。
    • 単なる画質の向上ではなく、要所要所の映像そのものが差し替えられている。これは他機種版には一切見られない、3DOユーザー限定の特典の趣が強い。
    • なお差し替えられた映像は軒並み再生時間が増えているため、クリア難易度が通常版に比べて少しだけ上がっている。

評価点(ディレクターズカット)

  • 「-The Novel-」は今作のもう一つのメインコンテンツと言って良い充実度。一見単なるおまけに見えて、作品世界を掘り下げる上で欠かせないコンテンツとなっている。
    • 全て読むには3〜4時間かかるほどのボリュームで、本編の問題点であるボリューム面を補ってくれる。
    • この作品では本編の裏設定が明かされ、各ギミックの背景や登場人物の生い立ちも詳細に描かれる。
      • 先述した没案を基にしたと思しき、交通事故にまつわるシーンも。
    • 本編が本編だけに、効果音やBGMのタイミングといった演出も丁寧。サウンドノベルの特長を余す事なく活かし、ホラーシナリオの雰囲気作りを徹底している。
    • 文章も読み応えがあり、作中で描かれなかった登場人物の内面が明かされるなど見所が多い。
      • 中でも、本編で凶行に走る事が確定しているリクターはその生涯が克明に描かれており、先の展開を知っていると辛く切ない気持ちになれる。「ローラと共に脱出を図る」ゲームだった本編は、「リクターを救済する」物語として別の一面が浮かび上がるかもしれない。
+ もう一つの見所として……(若干のネタバレ注意)
  • 後半では主人公ローラの内面も初めて明かされるが、中盤の壮絶な出来事を通じて性格が歪み、本編では描かれない狂気を孕んでいたことが発覚する。
    • 要所で人間味溢れるモーションを見せてくれる本編の印象とは対照的であり、3DOの一時代を飾ったヒロイン像をイメージすると面食らうことになる。
    • それでいて普段はごく普通の女性としてはつらつに振る舞っており、ギャップが激しい。
    • 本編のヒント機能で使用する形見のコンパクトについても、"湿度"の高いバックボーンが明かされる。この描写におけるBGMは日常シーンと同じものが使われており、さも平凡な日常であるかのように明かされる点もホラー。
    • これらの情報を知った上で本編を遊ぶと、彼女の心理に違ったものが見えてくるかもしれない。もし初見時にプレイヤーの分身と解釈していたのであれば、2周目はまた少し違った体験になるだろう……
  • 演出強化
    • 一部の映像が全く別の内容に差し替えられたことで、原作プレイ済みでも新たに楽しめるようになっている。
    • 導入部分からして演出が濃くなった他、転がった岩を押し返そうとすると原作に無かったリアクションを取るようになったりと、感情表現が全体的に強化されているのが特徴。
+ ネタバレ注意
  • また最後まで遊ぶと原作のエンディングの代わりに、当時新公開となる『2』の予告映像が流れる。
    • 事件の元凶となる領主の視点で描かれた内容となっており、不気味な幻想のような世界がかなり印象的である。

賛否両論点(ディレクターズカット)

  • 詳細は割愛するが、小説冒頭にて本編の謎解きのネタバレが含まれる。
    • ただし本編の該当シーンはというと、先述した「ゲーム終盤なのに失敗すると全てが水の泡になる」という描写に相当する。初見プレイヤーにとっては、理不尽要素に対するフォローと言える部分もある。

問題点(ディレクターズカット)

  • 小説中盤では「本編で描かれる過去の事件が世間でどう扱われたのか」が明かされるが、展開に少し無理がある。
+ 本編終盤を含めたネタバレ注意
  • 該当の場面では、ローラが母親を殺害した件がどう扱われたのかが明かされる。
  • しかしその内容はというと「リクターがローラに薬物を大量に投与しつつ催眠術をかけ、強引に記憶を改竄することで捜査の手を免れた」というもの。
    • 今作はホラーファンタジー要素のあるシナリオではあるものの、超科学的な描写はそれ以前のシーンに存在しておらず、唐突さが否めない。
  • またローラの証言だけで彼女が捜査の網を外れてしまったり、リクターが現場を改竄したことに気づかないなど、警察の捜査能力にも問題がある。本編冒頭のシーンがフォローされてもなお無能だったのでは……
    • なおリクターが行った証拠隠滅の方法は「ローラが切り取った腕を勤務先の焼却炉で燃やす」というもの。勝手に起動したらどうしても形跡が残りそうなうえ、人体を抹消するには明らかに不十分*6だが、警察は調べなかったのだろうか……
  • フォローしておくと、リクターが心理学の技術に長けているという伏線はそれ以前から張られており、この描写が評価点に特筆した内容に繋がるなど、作中で必要不可欠なシーンでもある。
  • 小説モードにて、ノベルゲームの基本的な機能はほとんど搭載されていない。
    • プレイヤーができるのはセーブデータの保存(最大3個)とロードのみ。
    • バックログやスキップはおろか、好きな章から読み始めることも不可能となっている。

総評(ディレクターズカット)

3DOユーザーだけに許された、まさしく決定版とも言うべき内容。
他機種版では得られない変化が多く3DOだけの体験が得られるほか、ノベライズの内容もファンにとっては必読の内容に仕上がっており、通常版プレイ済みでも遊ぶ余地がある。

これから3DO版『D食』を遊ぶ場合、価格を気にしないのであればこちらの入手が推奨される。
金銭的余裕があれば作り手の想定に合わせ、無印を遊んだ上で小説→本編の順で楽しむのもアリ。


余談(ディレクターズカット)

  • 小説では『D2』の各種プロモーションに繋がる描写や、明かされないまま終わる謎がいくつか用意されていたのだが、これらは全て放置されることになってしまった。
  • 説明書が扱いづらい。
    • 説明書で遊び倒すのはワープのお家芸でもあるのだが、今作はファングッズの側面があるにもかかわらず、読み終えて収納するだけで説明書そのものを損壊しかねないという致命的な欠点を抱えている。
    • 台紙となる表紙を開くと、蛇腹状に折られた帯状のページが出てくるのだが、これが割と複雑な構造をしている。全開にして取り出すと、一切傷つけずに畳むのが困難。まず読みにくい。
      • 保存目的で入手する際は気をつけた方がよく、もしゲームシステムを知っているのであれば無暗に開かないことが推奨される。

その後の展開

  • 海外のみMS-DOS版も発売されている。
    • ちなみに、海外版タイトルは『D』というたった1文字のシンプルなタイトルである。*7
      • 現在はSteamでも配信されているため、英語が聞きとれるユーザーならこちらを購入するのも手である。
  • 当初は3DOの後継機「M2」で『Dの食卓2』が出る構想があったが、ハードそのものが立ち消えとなったため企画が流れた。
    • こちらは代わりにドリームキャストで発売されているが、当初予告されたものとは全く別の内容になっている。
      • ゲーム内容は雪山を舞台にクリーチャーと銃撃戦を繰り広げるアクションシューティングであり、1作目とはまるで別物である。他にも「電波」と称されるシナリオを始めとしたアクの強い要素が賛否を分けている。
  • 主人公の「ローラ」の名前は『エネミー・ゼロ』『Dの食卓2』に受け継がれ、本作と合わせて「ローラ三部作」と呼ばれる。
    • 無論、各作品のローラはいずれも別人であり、姓も異なったものが付けられている。
    • 当時のワープはローラをバーチャルアイドルとして扱っており、あるテレビ番組ではローラを一話限りの司会者としてゲスト出演させていたこともあった。
  • アメリカのゲーム販売企業Limited Run Gamesが本作の販売権を取得して3DO版(『ディレクターズカット』)とPC版を2023年に再販した。
    • 前者は海外版と日本版を両方収録したものをリリースしている。3DOはリージョンフリーなので、動作する本体を持っていれば日本でもプレイ可能。
    • Limited Run Gamesは「ゲームは実物の媒体に収録してこそ」という信念でゲームの権利を得てカートリッジやディスク版を販売する企業で(そのため前述のWin版もUSBメモリで販売予定)、どんなに需要があっても過去に販売したソフトを同一の形態では再販しないことを明言しており、おそらくマニア向けのグッズとしての販売だろうか。
    • ちなみに、同社による実機3DOソフトの再販は『The Eye of Typhoon』(『ファイトフィーバー』の幻の続編)に続いて2例目。
最終更新:2025年02月01日 12:03
添付ファイル

*1 『3DOマガジン』94年12月号の紹介記事より。一見すると開発名称に思えるが、『ディレクターズカット』の小説でも正式名称として使われている。

*2 なお本サイトにおける移植タイトルの判定は、発売時点を基準とするルールである。

*3 総合点もシルバー殿堂入りのお墨付きとなった。

*4 中でも『アローン・イン・ザ・ダーク2』に至ってはフォロワー作品の『バイオハザード』より後に出たことも加わり、高評価を受けた原作の強化版にもかかわらず16点(内訳は全員4点)という惨状であった。ただし低得点を付けざるを得なかった件はレビュアー自身も不服な様子を見せていた。

*5 3DO末期に限定販売された、歴代ワープ作品のミニゲーム総集編ソフト。バカゲーを突き詰めた空気感がゲーム内外に溢れており、熱心なワープファン以外お断りのとがった作品となっている。

*6 公共施設にあるような小型焼却炉の火力は火葬場のそれと同じくらいであり、当然遺骨が残る。

*7 海外版のパブリッシャーはアクレイムだが、アクレイムの倒産後にパブリッシング権が投売りされ、別の会社がサルベージしたことで後述のDL配信が可能になった。