アローン・イン・ザ・ダーク

【あろーん いん ざ だーく】

ジャンル アドベンチャー
,
対応機種 PC-9801
FM TOWNS
DOS/V
3DO Interactive Multiplayer
発売元 【PC】アローマイクロテックス
【3DO】ポニーキャニオン
※原語版はいずれもインフォグラム
開発元 インフォグラム
クリサリス(3DO移植)
発売日 【PC】1993年12月10日
(初出の欧州版は1992年11月)
【3DO】 1994年10月21日
レーティング 3DO用審査:E 一般向
備考 英語圏ではMac OS/iOS向けにも発売
海外PC版はボイスを追加したCD版あり
各機種にリマスター移植あり(日本語未対応)
判定 良作
ポイント バイオハザード』他あらゆるサバイバルホラーの始祖
ゲームの3D表現に新たな定義をもたらした伝説的作品
クトゥルフの異形に蝕まれた館からの脱出劇
伝統的なADVにリアルタイム戦闘要素も加わった
新ジャンルの草分けながらも演出・カメラワークが秀逸
当時から不親切さを指摘されていたほどシビアな難易度



暗闇の中では、誰も助けてくれない。



概要

CS機でまだSFCが現役だった1992年、ゲームを取り巻く技術の進歩に伴って生まれたアドベンチャーゲーム。
化物が潜む洋館「デルセト」を舞台に、プレイヤーは脱出を試みる。

当時発展途上にあった3Dポリゴンを画期的に活かした作品として知られており、現在では『バーチャファイター』『スーパーマリオ64』等と共に、ゲームにおける3D表現の在り方を変えた作品のひとつに数えられている。
同時にゲーム史上初のサバイバルホラーとしてギネス・ワールドレコードにも認定されている(ただし今作は戦闘よりパズル的な謎解きの比重が強い)。

またクトゥルフ神話*1を主題に添えたゲーム作品としても知られており、その異形に侵された人々の狂気が克明に描かれるのも特徴である。

本記事で扱うゲーム内用語は、特に断りがない限りPC版の日本語訳を使用する。
3D表現との歴史的な関わりについては、主に『マイコンBASICマガジン』1993年5月号の今作特集記事や、『LOGiN』1993年6月4日号の3D特集記事を参考とした。

あらすじ

ルイジアナ州の郊外にある謎の館“デルセト”。ここで一人の男が首吊り自殺をした。
男の名はジェレミー・ハートウッド
警察の発表では、自殺の動機について全く触れていなかった。彼は何故、自らの命を絶ったのか。

エミリーは、この知らせを弁護士からの手紙で知った。彼女は、突然の叔父の死が、自殺であったことに疑問を抱いた。そして「叔父が遺書か何かをきっと残している」そう信じて“デルセト”に行ってみることに決めた。


一方そのころ、私立探偵のカーンビーは、小さなアンティークショップでグロリア・アレンからの依頼を受けた。それは“デルセト”の屋根裏部屋でピアノを見つけてくれというものだった。

あなたは、「エミリー」か「カーンビー」となって“デルセト”に行き、この呪われた館の謎に立ち向かい、目的を達成しなければならない。

(3DO版取扱説明書より引用)

主人公

ゲーム開始時に好きな方を選択し、途中変更は不可能。
冒頭以外のストーリーや難易度に関して、違いらしい違いはほとんどない*2ので、好きな方を選んで構わない。
ちなみにカーソルのデフォルト位置はエミリーだが、パッケージやPC版説明書などではカーンビーが前面に出ており、後年の続編やメディアミックスでもカーンビーがシリーズ全体の主人公として扱われている。

  • エミリー・ハートウッド
    • デルセト最後の主人・ジェレミーの姪。幼少からジェレミーと親しかった彼女は、叔父が軽々しく自殺する人間ではないことをよく知っており、ただならぬ事態を察していた。
    • 幼少期に訪れたデルセトは陰鬱な瘴気に覆われており、彼女は叔父の死を「デルセトが獲物を捕らえた」と考えている。叔父が意味ありげに残した遺言を求め、彼女は単身で屋根裏部屋に向かい、ピアノに隠された引き出しを開くのであった。
  • エドワード・カーンビー
    • アメリカのはずれで私立探偵を営む尊大な男性。借金の督促に頭を悩ませる毎日だったが、ある日彼の人生を永久に変えてしまう仕事が舞い込む。それは事故物件に眠る高額なアンティークの調査依頼であった。
    • 現場である「デルセト」は、幽霊すらも侵入を拒む陰鬱な歴史を持っている。だがオカルトを信じず、悪魔崇拝すらも笑い飛ばすカーンビーにとって、この仕事は有給休暇のようなもの。館で起こる惨劇などつゆ知らず、彼は屋根裏部屋にあるピアノの調査へと向かうのであった。

特徴

  • 構成
    • 主人公選択後はオープニングが始まり、いずれも屋根裏部屋に閉じ込められるまでが描かれる。
    • 直後に操作可能となり、プレイヤーは屋敷からの脱出を試みることとなる。
      • 舞台となるデルセトには、家主の遺した日記や研究成果があちこちに隠されている。これらを紐解くにつれ、物語の影にある壮大な陰謀が明かされていく。
      • 探索の過程ではさまざまなトラップが行手を阻み、簡単に出してはもらえない。
    • デルセトを取り巻く魔物たちの正体を暴き、見事脱出すればゲームクリアとなる。
  • 3D空間
    • 今作最大の特徴は、3Dで表現された人物を疑似3D描画された空間で自由に動かし、探索を進められることである。
      • 今となっては何の変哲もないシステムだが、当時のコンピュータはポリゴンを充分に描画できる性能が無く、世に出るゲームの大半は2Dで表現されていた。ちなみに『スターフォックス』は今作初出から3か月後の発売である。
      • ポリゴンを使ったゲーム自体は既に当時からあったのだが、大半は「業務用レースゲーム」「PC向けフライトシミュレーター」のいずれかであり、「映画のように表現された世界でキャラクターを動かし、探索を進める」という新機軸を打ち出したのは今作が初めてである。
    • ゲーム画面には立体的な世界が映し出されるが、コンピュータ処理で実際に3D描画しているのは主人公や敵など動く物体のみ。背景に描かれているのは、ビットマップで描かれた風景である*3
      • これによってコンピュータが出せる性能以上のグラフィックを実現し、あたかも3D空間を探索しているかのような感覚をもたらしている。レースゲームやフライトシムとは異なり、テンポがゆったりしたADVだからこそ成せる技である。
      • 今作の処理技術の凄さたるや、後のある作品に多大な影響をもたらした(後述)だけでなく、Intel 80286(5MHzから10MHz程度)といった当時としても非力なCPUでも動作し*4、なんと8bit機のGBCで後継作品のマルチ移植*5を実現してしまったほどである。
    • 背景を固定にする代わりに、カメラワークや操作感は現代からすると異質なものとなっている。
      • 主人公を操作していても、それに連動してカメラがスムーズに動くことはない。所定の位置ごと対応したカメラワークが決まっており、場所に応じて主人公のアングルや背景画像が瞬間的に差し替えられる。例えるなら主人公の周りに沢山の防犯カメラが置いてあって、それが自動で切り替わるようなイメージに近い。
      • カメラが頻繁に切り替わるためか、方向キーを押しても主人公は見た目通りの方向に動かず、主人公から見た相対的な方向に移動する。たとえば↑を押せば主人公は前進し、←や→を押せば主人公はその場で旋回する。いわゆるラジコン操作。
  • 操作
    • 上述の通り、移動はラジコン操作によって行う。
      • 前進キーを2回押すことでダッシュ可能(3DO版はCボタン一度で可)*6
    • その他にはアクションボタン・オプション画面表示ボタン・パラメーター画面表示ボタンを使用する。
    • アクションボタンは、オプション画面で指定した行動を実行する。
      • アイテムを装備していない場合、「戦闘」「開く/探す」「閉める」「押す」「ジャンプ」のうち、オプションで選択したいずれかを使用する。
      • 戦闘時は、上下キーとの組み合わせでキック、左右キーとの組み合わせでパンチを繰り出す。
      • ジャンプに関しては、ゲーム終盤のとあるエリアでしか使えない。
      • アイテムを装備している場合、それを使って攻撃することが可能。
    • オプション画面を開くと、アクションボタンで行う操作を設定できる。
      • 主人公の体力や、飛び道具などの弾数も確認可能。
    • パラメーター画面からはゲームの音響設定や中断などが可能。
  • アイテム
    • 今作では道中でアイテムを拾い、それを使って謎を解いていく。
      • この辺は古典的なADVと全く同じ。
    • 持ち歩けるアイテムには重さが設定されており、一度に持てる総量に上限がある。
      • アイテムは屋敷内の好きな場所に捨てることができ、基本的に後から回収可能なので*7、持ち物がいっぱいなら置いていくことが推奨される。
  • 戦闘
    • 道中はモンスターが行く手を阻むため、時には戦闘をこなし、倒さなければならない。
    • ゲーム開始時、主人公は一切の武器を持っておらず、すべて現地調達となる。
      • 屋敷の中には「弓矢」「ライフル」「リボルバー」「サーベル」「剣」などが落ちており、これを拾ってモンスターに対抗できる。
    • 体力制を採用しており、ダメージを受けてプレイヤーの体力(初期値20)が空になるとゲームオーバー。
      • 道中には回復アイテムが落ちているが、個数は限られているので気は抜けない。
      • 体力に上限は無いため、回復アイテムを拾ったらすぐ使ってしまうのが吉。
    • 武器以外にも、ほとんどのアイテムを投げて攻撃することが可能。
      • 落ちずにまっすぐ飛んでいくので、軸合わせさえ出来ればあっさり命中してくれる。
  • セーブ/ロード
    • 今作はいつでも可能。
    • セーブ枠は6つ(3DO版は3つ)。
    • 主人公や敵の位置・状態までくまなく保存され、読み込み時は保存前の状況が忠実に再現される。

評価点

  • 3D表現を活かした、斬新な恐怖演出
    • 今作は単に新しいグラフィックを採用しただけで終わってはいない。3Dの世界でしか出来ない表現を盛り込むことで、それまでのゲームに無い独自のスリルを生み出している。
      • その様は総じて映画さながらで、ゲームにおける表現の幅を大きく躍進させた。
    • たとえば探索の最中、カメラアングルが突然切り替わったと思うと、死角から忍び寄るモンスターが突然映し出され、主人公を襲ってくることがある。
      • この時、普段は鳴りをひそめるBGMが騒がしくなり、プレイヤーの焦燥感を煽ってくる。
+ 以下、ゲーム序盤のネタバレを含んだ解説
  • この演出はゲームを始めるといきなり発生する。
    • オープニングを見終え、一息ついて探索を始めるや否や、まだ操作もろくに慣れていないのにモンスターが映り込み、主人公を襲うのである。
    • 今作の敵がいかに容赦ない存在であるか、プレイヤーは嫌でも思い知らされることとなる。
  • シビアな操作で倒したと思うと、すぐに第二陣が来るのも抜かりない。
    • モンスターを全員倒さなければ、スタート地点である屋根裏部屋の調査は困難を極める。しかし周辺にはクリア必須アイテムや、背景設定の重要な伏線が隠されており、放置して逃げるのも許されない。冒頭から立ち向かいがいのある障害を配置し、プレイヤーのチャレンジ精神を煽ってくる。
  • ちなみにゲームシステムに慣れた上で知恵を絞れば、これらの敵を出現させないことが可能。
    • 2周目を遊ぶプレイヤーへの親切設計にもなっている。
  • 探索の陰で忍び寄る恐怖は、ゲームの随所に盛り込まれている。これもまた、3Dという表現をフルに活かしたもの。
+ ネタバレ注意
  • 3階に降りて部屋の中を嗅ぎ回っていると、開け放たれた扉の向こうに無音でゾンビの影が映りこみ、ヒヤっとさせられる。
    • すかさずゾンビはこちらによってきて、対処を迫られる。音もなくにじりより、狭い部屋での対処を余儀なくされるため、初見ではパニックになるかもしれない。
  • 今作の大きな特徴の1つとして、「唐突に敵からの視点が映し出される」という演出がある。
    • ゲーム前半であるアイテムを取得すると、不穏なBGMが流れ初め、窓の外から主人公を映したアングルに切り替わる。
    • 突如、モンスターがガラスを突き破って部屋に入り込み、狭い部屋で戦闘になってしまう。
    • 意表を突く演出から少しずつ恐怖を与え、プレイヤーの感情を揺さぶる印象的なシーンである。
  • これ以降も唐突なBGM変化と共に、プレイヤーにしか見えない敵の襲来が次々と描かれる。
    • 画面の向こうの人物が知らない恐怖を一人で抱え込むという、ホラー映画の醍醐味がそこにある。
  • これらカメラワークの工夫に限らず、3Dを採用したことで表現の幅が広がったのは言うまでもない。
    • 死角になって見えない場所に期待を馳せたり、ゲーム終盤の広大なフィールドに意表を突かれたりと、2Dのゲームでは表現できなかった探索の魅力が詰まっている。
  • 人体をポリゴンで生き生きと表現し、ADVとしての演出に大きく影響を与えた点も、当時としては革新的であった。
    • 既存のゲームにおけるポリゴンの用途はもっぱら、機体や地形など単純な図形の組み合わせで表現できるものに限られていた。
      • 人体を表現するには間接などを複雑に考慮しなければならず、当時は『バーチャレーシング』のピットクルーを3D表現しただけで先進的なものとされていた*8
    • 今作の主人公は手足を柔軟に動かして攻撃や走行を行い、体力が空になれば苦しみながら倒れこむ。ポリゴンを用いて人間の感情を細かく表現した点は、当時のユーザーにインパクトを与えることとなった。
    • これ以前にも『アドバンテージテニス』(1991年、インフォグラム)や『4Dボクシング』(1991年、Distinctive Software)がポリゴンによって人体を表現していたのだが、映画的な感情表現に活かした点は今作ならではの長所である。
  • また「3Dポリゴンを採用した最初期のゲーム」という観点にあたり、「ホラー」という題材との相性も欠かせない。
    • 当時の3Dポリゴンはテクスチャが採用されていない*9。三角形の組み合わせでペーパークラフトさながらに表現された、不気味でこわばったものであった。
    • 結果、主人公のデザインはキュビズムさながらに抽象的なのだが、これが却って不気味なムードを演出している。
      • その様は、ちょっとマニア向けの青年誌に載っていそうなホラー漫画のようなもの。無機質で生気のない造形は、死と背中合わせの館に違和感なく溶け込んでいる。
      • ポリゴンの進化につれて、各種3Dアクションゲームは映画のような様相を強めていくが、原点である今作は言うなれば「前衛アート作品」に近い。現代から見るとまた違った味わいが詰まっている。
  • ゲーム性から離れた話題になるが、オープニングの完成度も高い。
    • アドベンチャーゲームである以上、今作は没入感を高める要素も重要となるが、この冒頭部分は大きな役目を果たしている。
      • 当時の雑誌記事でも、その魅力を伝えるうえでオープニングを併せて紹介しているものがいくつかあった。
    • 開発にはプロの映画監督も監修に参加しており、プレイヤーを恐怖に引き込む導入が丁寧に作り込まれている。
+ 詳細な内容
  • オープニング冒頭、舗装されていない道の向こうから、少しずつ車がやってくる。
  • 先が見えない状況で期待感を煽るシーンだが、突然プレイヤーの前にリアルなカエルのドアップがフルスクリーンで映る。
  • 意表を突かれる中、固唾を飲んでゲーム画面を見守ると、先ほどの車が横切る道に、3Dポリゴンで表現されたカエルが飛び込んでしまう。轢かれてしまう……と思いきや、ちょうどカエルはタイヤとタイヤの間を通り、事なきを得るのであった。
    • このシーンは一見して本編と一切関係ないのだが、意表を突く形でプレイヤーに死の恐怖を想起させ、不穏な気持ちを自然に高めていく。
  • 直後、デルセトに向かう主人公が映し出され、オープニング前のあらすじで予告された期待に応えていく。
  • するとカメラアングルは突如「デルセト2階の窓から見た主人公の様子」へと切り替わり、その窓枠にはおよそ人間のものとは思えない化け物の手が添えられている。
    • このシーンは化け物が屋敷の中に潜んでいることをそれとなく表現している。だが主人公はそれに一切気付く様子がなく、館へと歩を進めていく。プレイヤーだけが不安を抱える中、ディスプレイの向こうにいる主人公には伝えることが一切できない。
    • ご丁寧に、直前には主人公を送った車が走り去る場面も描かれており、帰り道は残されていない。
    • 不安が鑑賞者を掴んで離さない、サスペンスの王道をクリティカルになぞっている。
  • 引き続き歩を進め、館の中に入る主人公。すると主人公の背中で、エントランスのドアがひとりでに閉まってしまう。
    • 淡々と歩いていた主人公は、このとき初めて感情を表に出す。怪訝な態度で後ろを向くのである。しかし何事もなかったかのように前を向き、屋根裏へと向かう。
    • この動きがプレイヤーの注意を引き付け、扉が閉まったのは偶然ではないことを印象付ける。窓辺のシーンも合わせると、プレイヤーに突きつけられるのは「化け物が潜む屋敷に主人公が閉じ込められ、逃げ道も何らかの悪意によって断たれた」という事実である。
    • こうして鑑賞者だけに伝える婉曲的なメッセージは「サブテキスト」と呼ばれ、これを専門的に扱った脚本技法の本も存在する。
  • それでも主人公はただ歩き続け、屋根裏に到着。プレイヤーだけが抱えるもどかしい不安に翻弄されながら、物語は幕を開ける。
  • ここまでのオープニングムービーにおいて、文章で表現された要素は一切無い。不穏でただならぬ事態を全て婉曲的に表現しきった、秀逸な幕開けとなっている。
  • 書物を通じて物語の全容を映し出す、独特の世界表現も魅力的。
    • クトゥルフ神話を色濃く取り入れた今作では、屋敷に隠された書籍から事件の真相を追っていく。
    • それぞれの書籍は断片的な情報しか明かしておらず、入手も時系列通りになるとは限らない。少しずつ謎が明かされることで、プレイヤーの好奇心を刺激してくれる。
    • 全て繋げた末に現れるのは、3世紀に渡る壮大な陰謀。表現の限られたゲームでありながら、質の高い濃厚な文章で最大限のムードを実現している*10
    • 書籍を通じた恐怖表現も、クトゥルフフォロワーならではの魅力。
      • 化物どもの恐ろしさは「恐怖に身を置いて気が触れた人間」を描くことで間接的に表現されている。プレイヤーを直接怖がらせるだけでは得られない、各人の想像に委ねられる恐ろしさに導いてくれる。
    • 劇中にはクトゥルフで聞き馴染みのある用語が至る所に出現し、ファンからの評価も高い。
      • ゲーム後半には、クトゥルフ神話の魔導書として知られる『幼蛆の秘密』*11も登場する。ここでは詳細を割愛するが、とんでもない初見殺しが周辺に仕組まれているので、多くのプレイヤーに強い印象を刻みつける。
  • 演出だけでなく、ゲームシステムも新鮮。今作は限られた装備を現場調達し、試行錯誤で危機を乗り切るサバイバルホラーの原点となった。
    • キャラクターを動かす要素を取り入れたことにより、今作はアクションゲームのようにモンスターと戦闘する要素も加わった。
    • ゲーム開始時に武器はなく、対抗手段はその場で探す必要がある。しかし弾数は限られており、回復手段もいつ底を尽きるかわからない。
      • 時には敵が不意打ちのように襲う場面も存在し、管理を焦らされる。
    • 狭い空間で不意打ちされる恐怖が至るところに散りばめられており、没入感を維持したまま遊べるゲームとなっている。
  • 3DO版では、冒頭の語りや書物の読み上げがフルボイスで行われるようになった*12。そのクオリティは高く、吹き替え映画を見ているような気分でゲームを楽しむことができる。
    • 出演者は言わずと知れた千葉繁氏や、特撮悪役の名手である天本英世氏といった、昭和の俳優・声優陣がメイン。
    • 行間に笑い声を挟んだり、カタカナ語の発音を原語に即して読み替えたりなど、声優陣によるアドリブも工夫がこもっている。
    • 中でもラスボスの独白は鬼気迫る怒りがこもっており、感情を揺さぶられること請け合い。
  • 3DO版は説明書巻末に地図付きの攻略ヒントが追加され、プレイの快適さが向上している。
    • この項目では屋敷部分の見取り図とともに、生前のジェレミーの父の日記という体裁で攻略の手掛かりを仄めかしている。
      • 「どこで何を行うのか」などといった直球な表現は避けつつも、プレイに行き詰まった際に気付ける最低限の情報を示しており、ヒントとして絶妙な塩梅になっている。
      • 例えば3階突破に必要なアイテムの入手手段など、ノーヒントで気づきにくい部分に親切な誘導が入っている。
    • この項目は海外版説明書には存在せず、日本語版独自の書き下ろしと見られる。
      • それでいて世界観は損ねていないので、一度クリアしたプレイヤーが見る分にもおすすめ。
    • この他にも、説明書の一部ではかなり重要なヒントをチラつかせている。クリアしてから読み返すと意外な伏線に気付かされる部分も。

賛否両論点

  • 今作を語る上で欠かせないのは、至る所に隠された即死ポイントの数々である。
    • 開発者曰く「一見普通の行動であってもプレイヤーに不安を抱かせる」というのが根底にあるらしい。良く言えば恐怖演出の一環、悪く言えば理不尽要素である。
    • ただし今作はいつでもセーブとロードができるため、小まめな保存を怠らなければすぐにリカバリーが可能。
      • ゲームオーバー演出中でもロードが可能なので、この辺のストレスは薄くて済む。
+ 詳細(ネタバレ注意)
  • ゲーム序盤、廊下を歩いたら床が抜けてゲームオーバー。モンスターと一切関係が無いところで殺されるというのは……
  • 廊下を歩いていると、絵の中にいる老人が斧を投げて殺しにかかる。頑張れば避けられる*13が、避けようとしても何故かホーミングしてまで狙ってくる。
    • 屋敷の謎を解き、この絵を無効化することに成功すると、今度は反対側にかけられた絵の中からインディアンが矢を飛ばしてきて殺される。
  • 正面玄関から屋敷を出ようとすると、巨大な怪物に喰われて即死。
    • 簡単に出れることをいぶかしみ、面白半分怖さ半分に扉を開いてみれば、簡単にクリアさせてもらえないことを思い知る。
    • この玄関はゲーム中盤で早速入れるが、さぞ多くのプレイヤーが引っかかったことだろう。
  • 先述の『幼蛆の秘密(神秘の虫)』を読むと、そのまま体が捩じ切れて即死する。
    • 即死することはゲーム内でも示唆されるのだが、それが書かれた本は同時入手となっており、アイテム欄には即死する方が先に並ぶ。注意喚起が意味をなしていない。
    • ちなみにゲーム内のあるヒントに従うことで、実は即死を回避することも可能。「なぜこんな物騒な本がそこに置かれていたのか」という不可解な要素の説明にもなっている。
    • このシーンは突然得体のしれないラテン語がプレイヤーの前に突きつけられ、本を閉じると絶命するという、ゾッとする演出になっている。生理的な寒気が訪れる秀逸なシーンで、日本語版でもあえて翻訳は避けられている。
  • ゲーム終盤に出てくる橋を渡ると唐突に崩れ落ちてゲームオーバー。
    • 説明書をきちんと読まず、ダッシュ機能を知らずにここまで来た人は間違いなく引っかかる。
  • 意図的な配置かどうかは微妙だが、あるエリアで通路を塞いでいるタルをどけようとすると、それがスライドした際に轢き殺されることがある。

問題点

新ジャンルを開拓した反面、今作は遊びにくさも何かと指摘されている。
海外版から約2年後に出た日本向け3DO版説明書でも、既存のゲームに比べて不親切であることが触れられていた。

  • 操作性の悪さ
    • ノウハウ未成熟ゆえに仕方がないことではあるものの、操作のし辛さは批判の的になりやすい。
    • ラジコン操作を採用していながら、主人公がどの軸を向いているのかがわかりづらい。
      • ポリゴンの未熟さゆえに向きを誤認しやすく、前進したら思いもよらぬ方向に突っ走ってお陀仏ということも。
      • 今作には複数の飛び道具が用意されているが、せっかく構えて発射しても、望まない方向に飛んでいくことがしばしばある。
    • 状況によってはカメラワークも牙を剥いてくる。
      • 今作は「主人公がどこにいるか」でカメラワークが変わるようになっており、一定の境界を超えるたびにカメラワークが変わる。しかし戦闘中、攻撃の反動や被弾のノックバックで境界を超えてしまうと、視点が変わって混乱をきたす。
      • 主人公とカメラの距離が遠く、精細な位置調整ができないことが頻繁にある。
    • これらの問題が全て襲いかかってくるのが、ゲーム終盤に訪れる橋エリア。
      • この面はステージ全体を映すべく、遠方から主人公を描画するのだが、主人公の背丈は画面の高さの1/18程度*14。ここに7頭身ほどのキャラクターが押し込まれるので、どこを向いているのかわからなくなる。
      • しかもこのエリアは細い橋を次々と渡るというもので、キャラクターの軸合わせが必須となってくる。それでいて、橋から落ちた後は水没してリカバリーが面倒になる(高さによっては即死)。しかも一部の橋は早く渡らないと崩れ落ちる。
      • 立体交差がある箇所を通ろうとすると、通っていない方の橋に合わせたカメラワークに切り替わる不備もある。
      • 結果的に落下事故を頻発し、作中屈指の理不尽な難所として立ち塞がる。
    • この他、アイテムを投げても見えない壁に引っかかり、その場でストンと落ちることが多々ある。戦闘中に発生すると厄介。
  • 序盤の敵が硬い。
    • 素手で戦おうものなら、十数回は殴らないと倒すことができない。
      • 武器で対処しようにも手段は限られている。
    • このせいで、ゲーム序盤は「敵を殴る」→「セーブ」→「食らったらロード、もう一度殴れたらセーブ」といった不毛な作業になりやすく、ストレスが溜まりやすい。
      • 弾数も体力も後半でリカバリーは可能だが、初見ではゲームのボリュームや難易度を掴みようが無く、回復の制限も相まって、武器未使用かつノーダメージ突破を目指したくなりがちである。
      • 「ラストエリクサー症候群」を発症しがちな人は特に注意。
  • アクション部分を抜きにしても、謎解きからして難易度が高い。
    • ヒントが無いわけではないのだが、大量にある書物の部分的な記述が伏線になるケースもあり、婉曲的過ぎてほぼ気付かないものもある。「できる操作は全てこなす」という基本を抑えるのは必須で、これを抑えても自力での突破は厳しい。
      • 先述の通り3DO版は説明書でだいぶフォローされているのだが、それでも終盤はカバーしきれていない。
    • ヒントとなる本は所持数制限にすぐ引っかかるため、迷った時に読み返すのも厳しい。
      • 背景設定の整理にも大きく役に立つため、この不便さはなんとも惜しい。
    • とはいえ、こうした高い推理力と観察力を求められる難しい謎解きは『The Secret of Monkey Island』(1990年、ルーカスフィルム・ゲームズ)といった同時期のAmiga / MS-DOS時代のアドベンチャーゲームとしてはスタンダードであったため、文化や慣れの差で難易度感覚がプレーヤーごとに分かれるだろう。
+ 難所の例
  • ゲーム中盤、敵が追跡する中で情報収集しないといけない図書室がある。
    • その敵は壁もすり抜けて追跡してくるうえ、プレイヤーがランプを常備していないと画面が見えなくなる*15
    • 入ったら何か調べるどころではなく、そもそも情報が隠されていることにすら気づきづらい。
    • この敵を倒す方法もあるにはあるが、必要なアイテムが部屋の中に隠されており、先に謎を解かないといけない。必ず一度は無防備で付き合わされることになる。
  • 一部の敵は攻撃可能な武器が限定されており、そもそも倒せることにすら気づきづらい。
    • そのヒントの一部は上記の図書室に隠されている始末。
    • 中でも、図書室の前にいる鎧は正規ルートで攻略する場合に必ず倒さなければいけないのだが、隠されているヒントがあまりにも抽象的で、容易に詰むポイントとなっている。
  • ラスボスの倒し方に至っては、攻略のヒントがほとんどない。自力で気付けた人はほとんどいないのではないだろうか。
+ ネタバレ注意
  • その答えは、火のついたランプを放り込むというもの。ヒントと呼べるものは一切ない。
    • ラスボスは樹木と一体化しているため「植物相手だから燃えるだろう」と推測は可能だが、まずランプを投げることで火がつく描写はゲーム中に一切無い。今作のランプはやたら頑丈で、投げたからと言って発火する描写が存在しないのである。
  • その直前には樹木の前に刻印石*16を置くことで無力化する必要があるのだが、一見するとこれで解決したようにも見えてしまい、その次のシーンがあるとは気づきにくい。
  • 状況を読んでこまめにセーブしていれば回避可能だが、詰みセーブとなりうる場面がいくつかある。
    • アイテム取得後の中庭、地下世界の入り口は後から再突入することができない。特に前者は攻略必須アイテムを放置してしまった場合、その時点でクリア不能となる。
    • その中庭から隣のダンスホールに逃げた場合、閉じ込められて進行不能となる。2022年にはあるニュースサイトにて、昔ここで詰んだプレイヤーが再挑戦するという触れ込みの記事が掲載されたことも(参考)。
    • 回復アイテムや銃弾・ランプのエネルギーなどは有限で、攻略に必須なアイテムが尽きると詰みが確定する。
    • いずれも予備のデータを取っておけば回避は可能となっている。万が一最初からやり直す羽目になっても、一度攻略手順を知っていればリカバリーに時間はかからないのが救いである。
  • 3DO版はセーブデータサイズが非常に大きく、本体容量約32KB中の30KBを使用するため、本体のセーブデータをほぼ全て削除しない限り、一切プレイすることができない。
    • セーブデータは3つまで作成可能だが、3つ分の容量を確保していないとデータ削除を強制されて先に進めず、タイトル画面すら見せてもらえない。
      • 説明書によると「小まめなセーブが必要のためプレイヤーの便宜を考えて」とのことなのだが、だからと言ってプレイすらさせてもらえないのはいかがなものか。
      • ちなみに、ゲーム内には後戻りできなくなる場面が2箇所ほどあり、3枠でのプレイは本当に丁度良いバランスとなっている。上述の通り詰みポイントもあるため、このおせっかいが妥当なのは否定できない。
    • 3DO版は2025年現在でもそれなりに遊ぶ意義がある移植版であるため、この仕様は非常に残念と言わざるを得ない。
+ 実際に遊ぶ場合の注意点
  • まず、RPGやSLGを並行して進められないので記念に取っておいてあるクリアデータを泣く泣く消すハメになる。
    • 需要が多そうなところでは『ドラえもんズ』あたりが容量に引っかかるので、一緒に購入しようと思っている人は要注意。
    • 3DOはSLGの高評価タイトルが多いので、これらに興味を持つと大変。
  • 他ジャンルでも、会話フラグをかなり細かく管理している『ポリスノーツ』、敵の配置や拾得アイテム取得状況まで綿密に記録している『閉ざされた館』はアウト。
  • そこまで保存しないという人でも、中古本体のセーブデータについ思いを馳せてしまい、消すのに抵抗がある……という人は要注意。
  • 3DOには「メモリーパック」という外部保存ツールがあるのだが、中古の出回りは良くない*17
  • より高度な対処法として、実機の代わりに「RetroArch」などのエミュレータを使用する*18、セーブデータ圧縮機能付きツール『3DO GAME GURU』を購入する、3DOを複数台買うと言った方法も考えられる。いずれも手間がかかる、もしくはお財布には優しくない、またはその両方なので覚悟しておこう。

総評

ジャンル初期のタイトル故荒削り感が強くとも、「定点カメラのサバイバルホラー」という一ジャンルを築いた点で偉大な一作。
当時としては美しいグラフィックと不気味な雰囲気は『バイオハザード』などの多くのフォロワーを生み出し、ゲーム史に大きな影響を与えた。

残念ながら日本での展開が充実していないため、「Monkey Island」シリーズ同様日本での知名度は低く、プレイの敷居はやや高め。
また、現在のサバイバルホラーの基準で見れば理不尽な罠など荒削りな点が非常に多いものの、ゲームの歴史に興味があるレトロゲーマーであればぜひとも一度は遊んでおきたい一作。


後年への影響

それ以前の作品に無かった「3D空間の探索」というゲーム性は、様々なクリエイターに影響を与えた。

  • フォロワー作品として最も有名なのが、あのバイオハザードである。
    • 初代プレイステーションのキラータイトルとして一世を風靡し、以後もカプコンの代表的なIPとして知られる作品だが、1作目は『アローン・イン・ザ・ダーク』からの強い影響を指摘されている。
      • 「サバイバルホラー」というジャンル名も、初めて大々的に名乗ったのは今作である。
    • ディレクターの三上真司氏によれば、当初はFPSにする予定だったところ、ハード性能の制約を乗り切るうえで今作に着目したのだという。
      • 初代PSの性能はソニーが宣伝していた想定の半分しか出すことができず、FPSのようなリアルタイムレンダリングでは想定通りの描写ができなかった。
      • 開発が難航する中で三上氏が今作をプレイしたところ、その表現方法に感銘を受けて『バイオハザード』にも取り入れたのだという(参考)。
      • この性能にまつわる逸話は『クラッシュ・バンディクー』の記事も参照のこと。そちらのスタッフの見立てではもっと酷かったらしい。
    • 知名度に開きがあるからなのか、現在では『アローン・イン・ザ・ダーク』の方が「『バイオハザード』の元ネタ」として紹介される場合が多い。
    • 同時に、別のゲームでラジコン操作を説明する際も「『バイオハザード』の操作」と例えられることは少なくない(実際は『アローン・イン・ザ・ダーク』から採用されていた)。
    • ちなみに、企画の原点は『スウィートホーム』の方で、『アローン・イン・ザ・ダーク』は開発の途中で参考にした作品となる。
    • やがてその『バイオハザード』自体が様々なフォロワー作品を生み出し、ゲーム業界に大きな影響を与えることとなった。
      • 有名どころでは、操作形態まで共通する『SILENT HILL』が代表的だろうか。
      • 『アローン・イン・ザ・ダーク』は後年のサバイバルホラーの原点になったとされているものの、直接影響を与えたと推定できる作品は意外にほとんど存在しない*19。似たシステムのADVは大半が97年以降、『バイオハザード』の成功より後に出た作品となっている。
  • サバイバルホラーに限らずとも、黎明期の3Dゲームにおける様々な要素は、今作が先んじて実現していた。
    • 既述の通り、カメラワークを活かした映画的演出をゲームに落とし込んだ先駆者は本作である。
    • 同じく3Dポリゴンの草分け的存在である『ファイナルファンタジーVII』のフィールド画面も、『アローン・イン・ザ・ダーク』で行われた「静止画背景+レンダリングCGキャラクター」という方式をなぞっている。
  • アトリエシリーズ』でおなじみのガストは、『バイオ』よりも先にオマージュ作品『ウエルカムハウス』を発売していた。
    • 同作は元ネタの即死トラップを“イタズラ”に置き換え、「壁に潰されても死なずペラペラになる」「主人公がこっぴどい目に遭うとギャラリーの笑い声が響く」など、欧米のカートゥーンやスラップスティックのような演出を盛り込んだ「バカゲー版『アローン・イン・ザ・ダーク』」と言うべき内容に仕上げている。
    • それなりに売れたのか、後に『2』も発売している。
  • イナズマイレブン』『妖怪ウォッチ』等を生み出したレベルファイブ社長・日野晃博氏もまた、『アローン・イン・ザ・ダーク』のフォロワー作品を生み出し、その後の人生を変えたクリエイターとして知られる。
    • 氏はかつてリバーヒルソフトでゲームを開発していたが、海外の魅力的な3Dゲームを見て「これからは3Dの時代が来る」と確信し、社長に相談してノウハウを研究する許可まで得たという。
    • そして本格的に3Dポリゴンが扱えるゲーム機・3DOの参入が決まると、『アローン・イン・ザ・ダーク』を意識したADV『ドクターハウザー』のプログラミングに携わり、ハード初期に送り出した。
      • ちなみにこの作品、元ネタが3DOに移植されるよりも前に発売されている。
    • 『ハウザー』自体は比較的マイナーな作品に留まったものの、そのノウハウはプレイステーション用ソフト『OverBlood』に活かされ、そちらは無事ヒットを遂げた。続編の『OverBlood2』も発売されている。
      • なお「『OverBlood』は『バイオ』のパクリ」と誤解を受けることが多いが、上記の開発経緯から考えると実際は元ネタが共通しているというのが正しい。
      • そもそも『バイオハザード』発売から『OverBlood』発売までは5か月しか経っていないため、企画・開発などの期間を考慮すれば模倣するのはほぼ不可能である。
    • こうして積み上げたノウハウから、日野氏の地位も増していき、その後のレベルファイブ独立へと発展することとなった。
  • 残念ながら実現はしなかったものの、『星のカービィ』の生みの親である桜井政博氏も、N64向けに『アローン・イン・ザ・ダーク』の影響を強く受けたADVを企画していた(参考1参考2)。
    • 上記の“参考1”では対談相手の糸井重里氏もノリノリで反応しており、『アローン・イン・ザ・ダーク』が多趣味な大人に深く親しまれていたことがよくわかる。
    • ゲームの内容は「ラジコン操作でロボットを操作し、それを映す監視カメラを切り替えながら地下世界を探索する」というもので、仮称は「潜入探索型ラジコンロボット・アドベンチャーゲーム」で、提出先の任天堂営業担当者からも手応えのある評価をもらっていたのだという。
    • しかし開発には2年かかることが想定されており、当時は急いで新作を作らなければならない状況に置かれていた。同時に提出した企画が短期間で開発できそうだったため、残念ながらこの企画は流れてしまったのだという。
    • 『アローン・イン・ザ・ダーク』については『桜井政博のゲームを遊んで思うこと2』(2015年、KADOKAWA)の書き下ろし部分でも触れられているが、「環境や言語の差などに四苦八苦しながら、なんとか遊んだ作品のひとつ」と評しており、どうやら日本語版が出る前に原語版を遊んでいたようである。
      • 当時のPC性能は海外産のそれに劣っており、洋ゲーは気軽に遊べるものではなかった*20。1993年に発売された日本語版も性能低下に合わせた移植作業が必要だった*21ほどで、多くのPCゲーマーが環境の壁に翻弄されていたようだ。
  • 2016年には、今作を初めとする黎明期の3Dアドベンチャーをオマージュしたインディーズタイトル『Back in 1995』が複数機種で配信されている。
    • プレスリリースから多くの注目を集めていた反面、昔のゲームさながらの遊びにくさも忠実再現しており、エンディングのとある要素も相まって評価には賛否がある。

開発秘話

  • 開発者のフレデリック・レイナル氏はジョージ・ロメロ監督作品のファンであり、今作もその影響を大きく受けている。
    • クトゥルフを基調としていながら、劇中にゾンビも出てくるのはその影響だろうか。
      • ご丁寧に作中の書籍を読むと、黒幕はブードゥー教(ゾンビのルーツ)にも精通していたことがうかがえる。
    • 奇遇にも、インスパイア先の『バイオハザード』もゾンビと戦うゲームである。
  • 当初はTRPG『クトゥルフの呼び声』のメディアミックス作品になる予定で、「3Dレンダリングされたスナップショットを見るゲーム」を提案されていた。
    • その後企画は紆余曲折し、現在のさやに収まったのだが、クトゥルフ要素が背景設定程度にとどまったことで版権元が難色を示し、最終的にはタイアップ要素のない作品として完成した。
  • 生みの親であるレイナル氏は最終的にインフォグラムと対立し、今作の完成後すぐにチームを率いて退社してしまった。
    • 開発終盤は私生活が多忙になったうえ、デバッグ作業が難航したことで、作品への自信も喪失していたという。
      • 遊び辛さも指摘されている今作だが、レイナル氏もまた「プレイヤーが欠陥全てに気付くだろう」と感じていたという。
    • そんな折、クレジットされるはずだった製作者名を会社名に置き換えるよう要求され、完成間もなくエンジンを流用して続編を作るよう命じられたため、限界を感じて退社に至ったという。
    • 独立後は『リトルビッグアドベンチャー』『タイムコマンドー』などを開発している。いずれも日本では初代PSに移植されており、比較的プレイしやすい環境にある。
      • 後者は唐突に挟まれる戦国時代ステージなどシュールな要素が日本でも細々と知られており、ちょっとしたカルト人気がある。

余談

  • 当初はスーパー32XやAtari Jaguar CDへの移植企画もあったが、実現には至らなかった。
    • 3DOといい、先走りすぎてシェアを取れなかったハードばかり挙がるのは、何とも言えない間の悪さと言える。
  • 発売当時は『ミステリーハウス』(1980年)が前例として比較対象にされていた。
    • こちらはワイヤーフレームを使って画面を表現したADVで、文字表現のみが主流だった当時においてはエポックメイキングな作品であった。
      • ただし『アローン・イン・ザ・ダーク』ほど細かい画面切り替わりは発生せず、『MYST』のように現在地に応じて画像が切り替わる程度である。
  • 当時の3Dポリゴンの限界ゆえ、エミリー(女主人公)の顔面はあまりに醜悪なことで有名。
    • オープニングではその顔がカメラの目前まで迫ってくる場面があり、凄まじいインパクトを誇る。
    • この様は発売当時からネタにされており、『コンプティーク』(1993年12月号)はとても16歳に見えない顔としてわざわざコラム枠を設けて晒し上げ、『3DOマガジン』(1994年7-8月号)は主人公のアップ画像に「これは(敵の)モンスターではない」と注釈を入れる始末。
      • 当時の雑誌にとどまらず、後年には電ファミニコゲーマーの記事で「主人公の顔アップが一番怖い」と評されている。
      • 日本語版発売前から今作を大絶賛していた『マイコンBASICマガジン』(1994年1月号)では、日本語版移植に際して「女性主人公の顔はとりわけ笑えるので、一度見てみることをおすすめする」「顔はともかく、動きは本当にリアル。人間、顔がすべてではないと、証明してくれているかのようだ。」と書き連ねていた。あんまりである。
    • フォローできることがあるとすれば、後の『FIST』よりはマシだろうか……4年後なのに悪化しているこちらは相当である。
  • ゲーム後半でジャンプ可能になってから、飛んでいる間に特定の操作をすると空中歩行できるバグがある(おそらく全機種で可能)。
    • 飲み物を使用する方法が多くのサイトで紹介されているが、現在ではどんなアイテムでも実現できることが判明している(任意のアイテムで「捨てる/置く」コマンドを実行するだけ)。
    • この裏技を使うと終盤のダンジョンを丸ごとカットでき、難関ポイントであるガイコツ剣士との戦いもスルー可能となる*22。どうしてもクリアできない人は頼ってみても良いかもしれない。
  • 2005年には実写映画化したが、評価はあまりよろしくない。
    • 監督のウーヴェ・ボル氏は『POSTAL』などの様々なゲーム作品を映像化しているが、原作のリスペクトが欠けた改変を次々と繰り返しており、映画ファン(特に海外)からは悪い意味で有名となっている。
  • 2008年ごろにはアタリブランドで1作目のリメイクが企画されたが、同年に出た新作リブートの評価が思わしくなかったことで立ち消えとなった。
  • 2025年1月現在はその影響力に反して日本語移植に恵まれておらず、日本で遊ぶにはひと工夫が必要となる(後述)。
    • 意外なことに、CS機では3DOにしか移植されていない貴重なタイトルの1つである。
      • 声優陣による熱のこもった吹き替えはこのバージョンでしか味わえないので、もし3DOを入手する機会があったなら入手が推奨される。

その後の展開

  • 2014年には本作のiOS版が配信された。
    • 現在は配信終了。
  • 2016年にSteamで本作を含む初期作品のリマスター版が配信された。
    • 『Alone in the Dark Anthology』と題し、3部作と2008年版をパッケージしたものが配信。2025年現在、本記事で扱った第1作を最も容易に遊べる手段となっている。
      • 残念ながら日本語に対応していないのだが、Steam内ガイドにゲーム内の書籍の邦訳を載せた有志の方がおり、そちらを見ながら遊べば何とかプレイ可能。そのガイドがこちら。
      • 具体的には、ゲーム内で本を開くたびに上記ページの該当項目を読むことで、英語を訳さなくても問題なく進められる。ただし、ゲーム開始後に流れる主人公の独白は訳されていないので注意。
    • このSteam版は、CD版をDOSBOXエミュレータ上で動作させている移植で、当然日本語吹き替えは実装されていない。先述の通り、日本では現状3DO版でしか楽しめない要素なので、興味がある人は頑張って入手しよう。
      • 余談だが、このユーザーはゲーム内の敵キャラ紹介も別途書いており、その解説も緻密。ゲームだけではわからないクトゥルフ関連の背景設定を細かく触れており、時系列が複雑なラスボスの半生もわかりやすくまとめている。
      • クリア済みのプレイヤーも必見なそのまとめがこちら。ただし、物語の核心を含むためクリア後の閲覧が推奨される。
  • 2024年3月20日に本作のリメイク版がPS5/XSX/Winで発売された。2008年の企画頓挫から数えて、実に16年越しの悲願である。
    • ゲーム性は時代に合わせ大きく変化、設定も後発作の要素を取り入れつつリブートされている*23。ストーリーは、Frictional Gamesの代表作である『Amnesia: The Dark Descent』『Amnesia: Rebirth』『SOMA』で脚本を手掛けたMikael Hedberg氏が担当。
      • 加えて、本作が影響を与えた『バイオハザード』シリーズの『RE:2』を参考にして開発されたとリメイク版のプロデューサーが明言している(参照)。
    • デルセトは精神病練となり、主人公は途中で館と異なる異世界に次々と飛ばされるなど、ストーリーは原作から大きく異なるものとなっている。
      • 原作では主人公ごとの違いがあまり無かったが、今回は両者に差別化が図られている。
    • しかし、他のサバイバルホラー作品と比べて特筆するべき特徴が無いうえ、ストーリーもMikael氏が手掛けた過去のFrictional作品*24と比べ薄味であり、レビュアー・ユーザーからは「凡作」という評価を受け、売上も苦戦した。
      • その結果、発売からわずか3か月で開発スタジオの「Pieces Interactive」が閉鎖されるという憂き目にあってしまった。

続編・派生作品

  • アローン・イン・ザ・ダーク2』(3DO 1995年9月8日発売 / SS 1996年2月23日発売 / PS 1996年11月8日発売)
    • ナンバリング第2作。クトゥルフ神話がテーマの前作とは異なり、アフリカの原始宗教であるブードゥー教をベースにした物語が描かれる。
    • 前作と同じゲームエンジンを流用しているため、第1作と下記『3』を合わせて3部作として扱われることが多い。日本国内でもPS/SSにも移植されており、3部作の中では比較的遊びやすい環境にある。
    • PS/SS版はグラフィックをリファインしており、ポリゴンにテクスチャを用いたり動きが滑らかになったりなどかなり進化している。オープニングはわざわざカーンビーのグラフィックがオリジナル版から変化する様子を映しているほど反面、女性キャラはもっと不気味になってしまったが。
  • アローン・イン・ザ・ダーク3』(Win/Mac 1996年6月21日発売)
    • ナンバリング第3作。シリーズ完結編。西部劇風の世界観で、ネイティブ・アメリカンの精霊信仰がベースの物語が描かれる。
      • 当初は3DO版も予定されていたが、すでにハードが死に体だったためか、実現には至らなかった。もし実現していれば一ハードで3部作全てが遊べていたため、なんとも惜しい。
  • アローン イン ザ ダーク 〜新たなる悪夢〜』(Win 2002年12月20日発売)
    • 原題は『Alone in the Dark: The New Nightmare』で、シリーズ4作目。開発は「Darkworks」。前作までとは時代設定が変わり、21世紀初頭を舞台としている。主人公のカーンビーは前作までとは別人となっている。
    • 『バイオハザード』からの操作性の改善などのQuality of Life改善が逆輸入されており、遊びやすくなったためまずまずの評価を受けている。
    • 当初日本ではカプコンからPS/PS2版がリリースされる予定だったが発売中止となったため、国内版はWin版のみとなる。なお、海外GBC版の開発は別のチーム、「Pocket Studios」が行った。
  • アローン イン ザ ダーク』(PS3/360 2008年12月25日発売)
    • シリーズのリブート版とも言える作品。広大なニューヨークのセントラル・パークを舞台に超常的な存在と戦う、『バイオハザード4』のようなシューティングスタイルのサバイバルホラー。開発は「Eden Games」。
    • 旧3部作のカーンビーが復活して再び主人公となるのだが別人の如きイケメンになっており、崩壊する大都市からの脱出と言ったパニック映画のような派手な演出、海外ドラマのようなあらすじを盛り込むなど、作風としても大きく様変わりしている。
    • 高度な火の物理演算やFPS/TPSを任意で切り替える機能、傷口生成システムや『Penumbra: Overture』のように物理アイテムで敵を攻撃するシステムなどのユニークなアイディア盛りだくさんの野心的な作品ではあった。
    • しかし、ストーリーもゲームシステムもうまくまとめきられておらず、作り込みの甘さが低評価につながった。なお、Windows版はWindows自体の仕様変更故に現在のPCでは動作しない*25
  • Alone in the Dark: Illumination』(Win 2015年6月11日発売)
    • 日本未発売。上記リブート版の続編。開発は「Pure FPS」。前作同様にTPSのシューティングスタイルだが、内容は『LEFT 4 DEAD』風のCO-OPシューターへと変化している。
    • しかしバグの多さやCO-OP性の薄さ、根本的な戦闘ゲームデザインが成っていない時点で多くの批評を受けていて、Metacriticのスコアは100点中19点。
      • これは『Postal 3』の24点を下回り、『Ride to Hell: Retribution』の19-13点*26を少し上回る程度だとすると、本作の評判の悪さがわかるだろうか。
    • なお、ゲーム雑誌『The Escapist』の長寿ゲームレビューシリーズ「Zero Punctuation*27」では、この作品に「2nd Worst of 2015」という不名誉な賞を与えた(参照)*28
最終更新:2025年02月15日 00:08

*1 アメリカの怪奇小説家であるH・P・ラヴクラフトが複数の作品に用いた架空の神話。簡単に言えば「人類の誕生以前に高度な文明を築いた存在があり、その正体は地球外生命である」というもの。既存の信仰を無残に否定する「宇宙的恐怖」を示したもので、ラブクラフト作品の多くはその絶対性に侵された者の恐怖・狂気を巧みに表現している。1920年に生まれてからサブカルチャーに大きな影響を与え、商業・同人問わず『クトゥルフの呼び声』、『エターナルダークネス ─招かれた13人─』、『Amnesia: The Dark Descent』等、多くの二次創作が今なお生み出されている。

*2 主だったものでは、肉弾攻撃のモーションが多少変わる程度。シナリオ面では、屋敷内に置いてあるエミリーの写真を見た時の反応が異なる点のみ。

*3 一見してプリレンダリングCGに見えるが、実際は手書きで丁寧に描いた物らしい。開発段階では写真を使う想定だったとか。

*4 参考までに、1993年に発売された『DOOM』はIntel i486 CPU(16MHzから66MHz程度)を快適なプレイに要求する。

*5 2001年に『Alone in the Dark: The New Nightmare』として発売。日本未発売だが、Nintendo Switch Online特典として配信されているため、海外アカウントとSwitchさえあれば日本でも気軽にプレイ可能。

*6 3DO版説明書の前書きにおいて、PC版に無かった新機能であるかのように説明されているが、実際は元から存在する。この機能を使わないと終盤で詰むのだが、この筆者はPC版を試作品として手に取ったようなので、気づかなかったものと見られる。

*7 二度と回収できない穴に捨てることも一応可能。よほどふざけた遊び方をするのでなければ行うプレイヤーはいないだろうが。

*8 これは『バーチャファイター』開発の足掛かりになったことでも名高い。

*9 有名作品でまともにテクスチャが採用されたのは、1993年末のアーケード『リッジレーサー』あたりから。

*10 実際、今作でこうしたテキスト要素を盛り込んだのは、当時の技術で充分な恐怖感を盛り込めないことを不安視したためだという。

*11 PC版では『神秘の虫』というマイナー寄りの訳が採用されている。

*12 元々海外ではCD-ROM版が後から発売されており、そちらに準拠したものとなる。

*13 今作のRTA走者達は謎解きを無視して強引に回避・突破している。技術の進歩は恐ろしい。

*14 ブラウン管モニターで映らない部分も考慮した値。参考に、『[[スーパーマリオブラザーズ]]』の ちびマリオ(2.5等身)の背丈は画面の約1/13。

*15 実際はランプを手に持たず、部屋の中に置いておくだけで良いのだが、これに自力で気付くのは困難(検索して上位に出てくる攻略サイトすら、この仕様を認知していない)。

*16 3DO版は「タリスマン」と訳されている。

*17 あろうことか3DO版は移植時点ではまだ出ておらず、説明書では発売を待つよう促していた。発売当日に買った人は何を思ったのだろうか……

*18 エミュレータ自体は合法だが、BIOSを本体から吸い出す必要があるため、結局実機は買う必要がある。もちろん無断コピーされたROMのダウンロードは違法なので、ROMは自身での吸い出しが望ましい。

*19 今作の少し後には、同じく様々な作品の草分けとなった『DOOM』『トゥームレイダース』といった3D作品が生まれており、『バイオハザード』のようにカメラワークまで被っているレベルで無ければ元ネタと断言するのは難しい。

*20 「LOGiN」1994年6月4日号より。

*21 「マイコンBASICマガジン」1994年1月号より。

*22 空中浮遊によって特定の壁が抜けられるようになり、迷路脱出に必要なアイテムが不要となるため、その過程で必要な剣士との戦闘が不要となる。

*23 例えば『2』のパートナーであるグレースが登場し、体験版では彼女を操作する。そもそも『2』のデモ版もグレースを操作するものであり、この点もオマージュとも言える。

*24 彼がすべてのFrictional作品を担当したわけでなく、『Penumbra』シリーズは『The Talos Principle』『Subnautica』のTom Jubert氏が、『Amnesia: The Bunker』はPhilip Gelatt氏が担当している。

*25 一応、GNU/Linux環境下で互換レイヤーのProtonを使い、PCGamingWikiのパッチを使うなど、対処方法がProtonDBの有志によって記されている。

*26 機種間によってスコアにばらつきがある。

*27 現在はFully Ramblomaticに改名。

*28 「Worst Game of 2015」は『The Order: 1886』が獲得している。