【せくれ ふーみんのおもちゃばこ】
ジャンル | ビジュアルソフト | ![]() |
対応機種 | 3DO Interactive Multiplayer | |
発売・開発元 | グラムス | |
発売日 | 1994年8月27日 | |
定価 | 6,800円 | |
プレイ人数 | 1人 | |
レーティング | 3DO用審査:E(一般向) | |
判定 | クソゲー | |
ポイント |
画像編集ツール有数の劣悪ソフト 自由描画・塗潰し・操作取消などあるべき当然の機能が未搭載 セーブ不可能なのにフリーズバグ頻発の鬼畜っぷり お絵かきソフトにあるまじき遅延地獄「フーミンモード」 「弘法筆を選ばず」を実践したい職人向け |
後に『QUOVADISシリーズ』『ありす in Cyberland』を手がけ、根強い支持を集める事になるグラムスが初めて手がけたコンシューマー向け作品。
タイトルにあるフーミンとは、71年生まれ(発売当時23歳)のグラビアアイドル・細川ふみえ氏である。
音楽活動や映像作品への出演を当時から精力的に行なっており、後に入浴剤「バスロマン」のCMを長きにわたって務める事となる。
当時のグラムスはPC向けの遊べる写真集『セクレ(*1)』を発売しており、その成功を糧にコンシューマーへの足がかりとして独自要素を盛り込んだのが本作である。
元のシリーズ作品は様々な女優のデジタル写真を収録したソフトで、これを使って複数の写真を組み合わせることで人気の写真集を仕上げる要素が盛り込まれていた。この3DO版はPC版の画像編集機能だけを簡略化してアレンジしたもので、フーミンの写真を元にCDジャケットをデザインするツールとなっている。プレイヤーの目的は、優れたジャケットを制作して音楽ヒットチャートの1位を目指すことである。
本作はいわゆる「画像編集ソフト」「ペイントツール」に分類できる作品だが、その内容は同ジャンルで類を見ない苦行のようなツールに仕上がってしまった。
今作は画像編集機能と写真閲覧機能が収録されている。
+ | 参考:スコア計算の仕様(攻略のネタバレ注意) |
ここまででも画像編集ソフトとしては問題だらけなのだが、さらなる立ち塞がるのがこのモード。
+ | 実際に描くとこんな感じ(フーミンの写真未使用) |
様々な問題点を挙げてきたが、プレイヤーが辿るシナリオはおそらく以下の通り。
まず何を作ろうかワクワクして起動すると、必要な機能が全然揃っていない事に気付き困惑。
何とか軽く仕上げてみれば、得点をもらえないことに失望し、人によってはここで脱落。
説明書を読み、フーミンモードで長時間やりこむしか無いと覚悟を決めると、今度は高得点を取る方法もわからないまま、融通が利かない作業妨害にストレスを蓄え、運が悪いと強制終了で水泡に帰す。それでいてランキング1位を取れる保証はどこにもない。
結果的に今作は、全方位からプレイヤーを苦しめてくるツールとなってしまった。
PC版から簡略化された事情を鑑みても「お手軽な画像作成」「出演者の可愛さを引き立てるギミック」といったスタッフの意図は伝わってくるのだが、努力の方向を完全に間違えてしまったのが本作の不幸である。
しかし評価点にも挙げた通り、「制限だらけのツールから長所をどこまで引き出せるか」という一点については未知の可能性を秘めている。
制約が大きいほど燃えるタイプのクリエイターなら、本作ほど夢のあるツールはそうそう無いと思われる。
かつてMiiverseで綺麗な絵を描くのが好きだった人や、『Minecraft』『スーパーマリオメーカー』を芸術表現に使うのが好きな人であれば、本作にハマるかもしれない。
2022年現在もレビューが少なく、30年近く埋もれているのが勿体ないほど短所も長所も強烈な本作。再評価の機会を与える気鋭の絵師は果たして現れるのか。
興味を持ったマニア気質のクリエイターがいたならば、是非本作をお試しあれ。
*1 名前の由来はスペイン語のSecreto(秘密)。男性プレイヤーが胸に秘めておきたい、世界でたった一つの宝物を作れるツールとなるよう思いを込めて名付けられたとのこと(取扱説明書より)。
*2 描いた線や図形の情報をデータとして扱う描画ツール。通常のペイントツールは「どの位置に何の色が塗られているか」をデータとして管理するが、ドロー系のソフトでは「どの線がどこからどこまでどのように引かれているか」などを管理し、引いた線の太さなどを後から気軽に変更できる。画像や図形を組み合わせた単純なデザインを行う際に使われる。
*3 取り消せるのは直前の操作のみ。
*4 一般的な画像素材の背景には透明色というものが付与されており、別の画像の上に素材を重ねても透明の部分は元画像が残るようになっている。Googleなどの画像検索でフリー素材やゲームキャラの公式イラストを表示させる際、背景に灰色と白色の市松模様が広がっていることがあるが、この部分が透明色にあたる。
*5 色の三原色は赤青黄で、混ぜるほど暗くなる。主に絵の具などのアナログ絵を描く際に必要な概念である。光の三原色は赤青緑で、混ぜるほど明るくなる。古くはブラウン管から2022年現在でも液晶画面まで、電化製品での画面表示に使われる概念である(デジタル絵が主流となっている現在では後者に触れる機会が少なくない)。色の組み合わせも混ぜ合わせた結果も全くの別物で、前者しか知らなければ後者の扱いに苦労する
*6 色は彩度・明度・色相の三種類で表現することが可能で、それぞれ「色の鮮やかさ」「色の明るさ」「色の種類(赤や青など)」を表している。色のデザインを考えるうえで重要な概念である。
*7 『マリオペイント』の説明書でも保存方法の一つとして録画が紹介されていた。
*8 仮に画像を無圧縮で保存すると、3DO本体の保存容量の2倍近くに達する。それでも圧縮すれば何とかなっていた可能性が高い。
*9 読み込みが完了するまで何度もロードをやり直すゲームは当時の時点でも存在するが、今作は読み込み失敗が確定した時点でそのまま進めなくなる。
*10 3DOは同世代の他ハードと異なり、重篤なエラーが発生すると起動画面まで戻されるようになっている。
*11 1時間以内に終わらせるお絵かき。
*12 3DOは当時のゲーム機としては珍しく、データの保存容量をbyteで表現している。
*13 スタンプ機能を使用することで疑似的に複雑な色を再現するテクニックも存在する。
*14 ちなみにこの販売戦略は、当時の任天堂社長・山内溥氏をして「ユーザーが求めているのはソフトであって、メーカーが幾つ集まろうと何の自慢にもならない」とバッサリ否定されていた。言葉通りに3DOが失速したのは、当時を知るゲーマーに広く認知されている。