セクレ フーミンのおもちゃ箱

【せくれ ふーみんのおもちゃばこ】

ジャンル ビジュアルソフト
対応機種 3DO Interactive Multiplayer
発売・開発元 グラムス
発売日 1994年8月27日
定価 6,800円
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査:E(一般向)
判定 クソゲー
ポイント 画像編集ツール有数の劣悪ソフト
自由描画・塗潰し・操作取消などあるべき当然の機能が未搭載
セーブ不可能なのにフリーズバグ頻発の鬼畜っぷり
お絵かきソフトにあるまじき遅延地獄「フーミンモード」
「弘法筆を選ばず」を実践したい職人向け

概要

後に『QUOVADISシリーズ』『ありす in Cyberland』を手がけ、根強い支持を集める事になるグラムスが初めて手がけたコンシューマー向け作品。

タイトルにあるフーミンとは、71年生まれ(発売当時23歳)のグラビアアイドル・細川ふみえ氏である。
音楽活動や映像作品への出演を当時から精力的に行なっており、後に入浴剤「バスロマン」のCMを長きにわたって務める事となる。

当時のグラムスはPC向けの遊べる写真集『セクレ*1』を発売しており、その成功を糧にコンシューマーへの足がかりとして独自要素を盛り込んだのが本作である。
元のシリーズ作品は様々な女優のデジタル写真を収録したソフトで、これを使って複数の写真を組み合わせることで人気の写真集を仕上げる要素が盛り込まれていた。この3DO版はPC版の画像編集機能だけを簡略化してアレンジしたもので、フーミンの写真を元にCDジャケットをデザインするツールとなっている。プレイヤーの目的は、優れたジャケットを制作して音楽ヒットチャートの1位を目指すことである。

本作はいわゆる「画像編集ソフト」「ペイントツール」に分類できる作品だが、その内容は同ジャンルで類を見ない苦行のようなツールに仕上がってしまった。


特徴

今作は画像編集機能と写真閲覧機能が収録されている。

  • 編集機能は「シンプルモード」「フーミンモード」の2種類。
    • いずれもフーミンの画像を使用して、クオリティの高いCDジャケットを仕上げることが目的となる。完成後は「このジャケットでCDを発売した」という設定のもとで音楽CDのヒットチャートが表示される。
      • 内部計算されている評価点が高いほど順位が上がり、10位以内ならご褒美としてフーミンのPVを閲覧できる。特に1位の映像は再生時間が長く、プレイヤーの最終目標と言って差し支えないごほうびとなる。
    • キャンバスサイズは175×175(ピクセル)。
    • シンプルモードは普通の画像編集ツールだが、フーミンモードはツールの挙動がちょっと変わり、"ちびキャラ"となったフーミンがキャンバスを描き換えてくれる。
      • たとえば線を引きたい時は巨大な鉛筆を持ってキャンバスをなぞってくれて、決めた範囲に色を塗りたい時はバケツを持ってインクを流してくれる。
  • 判定
    • 完成した絵は SENSE TECHNIC ENDEAVOR からなる判定によって評価される。
      • 詳しい仕様は伏せられているが、説明書ではこれらの値を上げるヒントとして「じっくり描く」「写真選びや構図にこだわる」「できるだけ多くのツールを使う」「フーミンモードを使用する」の4点が挙げられている。
    • 3つの値が満点に近いほど、ヒットチャートの順位が高くなる。
      • 全て満点でなくとも、ランキング1位を取るのは可能。
    • ヒットチャートが表示された後はこれらのパラメータが最終結果として見られ、次のデザイン時の参考にする事ができる。
  • スライドショー」モードではゲームに使う写真が自由に閲覧でき、写真集としても楽しめる。
    • 収録数は150枚に及ぶ。

問題点

画像編集機能

  • 画像編集に必要不可欠なツールの多くが実装されておらず、自由なデザインを目指すのは無謀に近い。
    • 今作で使えるツールは以下の通り。
      • スタンプ機能(作業開始前に選んだフーミンの写真と、「SECRE」と書かれたロゴ)
      • 図形描画(四角形と円と直線のみ。線の太さは3段階で変更可能。四角形と円は塗り潰しが可能。線を引く際はスプレーへの切り替えが可能)
      • 四角形で囲んだ範囲をぼかす
      • 四角形で囲んだ範囲に半透明な色を付加する(灰色、赤、青、黄の4種)
      • RGB単位での色の変更(スポイト機能付き)。使用できるのは32768色。
    • では逆に実装されていない機能はと言うと……
      • まず画像編集ソフトで必ずと言っていいほど搭載されている自由描画(いわゆる鉛筆やブラシ)が無い。これではガラケーの画像編集機能と同レベルで、おしゃれなマークやロゴを付け足すなどの小回りは一切効かない。
      • 自由描画できる機能は無いため、当然消しゴムも未実装。細部のゴミを取り除く事すらままならず、後述するフーミンモードで生まれた書き損じを処理するのもままならない。
      • ドロー系ツール*2を意識した可能性もあるが、そうしたツールによくある後から線を書き換える機能・曲線の描画も無い。特に曲線が描けないのはかなり痛く、精細な絵を描くのは困難を極める。
      • 塗り潰しも未実装。背景一面を鮮やかな色で飾ることさえできない。
      • 塗り潰し無しで意地でも広範囲を塗ろうとすると図形描画が必須となる。しかし描けるのは四角形と円だけで、三角形などの多角形は不可能。点描でもしない限り斜めの角度を含んだ範囲を塗りつぶす事は出来ず、無理に実現しようものなら根気が必要となる。
      • ロゴは「SECRE」の固定で、好きな文字をジャケットに載せるのも不可能。仮にも「CDジャケットを作る」という触れ込みなのにレタリングすら不自由な始末。これに関してはガラケーの画像編集以下かもしれない。
      • 地味に操作取り消し(いわゆるundo機能)も存在しない。線をたくさん引いて構図を試行錯誤するのもままならず、注意力の無いプレイヤーは時として悲惨な事になる。なお同じ機能は2年前のお絵かきツール『マリオペイント』でさえ限定的*3ながら実装されていた。
      • この他「レイヤー」「範囲選択」も実装されていないが、この辺は当時のコンシューマ向け作品なら仕方がない範疇ではある。
    • なおPC版の画像編集機能は鉛筆・消しゴム・レタリングなども存在したようで、移植にあたって過剰なまでに簡略化したことでこうなった模様。
  • 搭載されている機能についてもいくつか難がある。
    • ジャケットに使うフーミンの画像は背景が透過*4されていない。イラストや幾何学模様の上にフーミンを乗せると言った、ごくありふれたデザインもまともに作ることが出来ない。
      • 「塗り潰し」「多角形描画」の未実装により、強引に背景を消すのは困難である。
      • ちなみにタイトルロゴの方は透過素材が用意されている。なぜフーミンにも用意してくれなかったのか……
    • キャンバスからはみ出す円・楕円は描画できない。
      • 例えば半円をキャンバスの端に描くといった事はできない。画面からはみ出す構図の月や太陽を描いたりするのは不可能。
    • スプレー機能は塗る範囲の太さを変更できず、一番細くしてもキャンバスの1/6~7くらいはある太さで塗られてしまう。使い勝手が非常に悪く、封印推奨の地雷ツールである。
      • 間違って塗った場合も取り消せず、元に戻すのがかなり面倒なのでタチが悪い。太さを最小にして試してから後悔しても後の祭りである。
    • 色はRGBで細かく設定できるのだが、一般的なペイントツールのようにサンプルで準備された色は無く、RGB値をいじって自力で色を作る必要がある。
      • 一般的な絵の具を混ぜる際に使うような「色の三原色」ではなく、このゲームで使われるのはあくまで「光の三原色」*5。求める色に必要な組み合わせ、彩度と明度*6の違いなど、デジタル絵の知識が無い初心者は苦戦を強いられる要因となる。
      • まして発売当時はインターネットすらなく、手元に百科事典や専門書がなければさぞかし大変だったと思われる。
      • 一度作った色が欲しい時はキャンバスからスポイトで再取得するしかないのだが、後述するフーミンモードでは恐ろしくテンポが悪い。
    • 半透明の色を付加する機能に至っては、使いどころが少なすぎる。
      • 4色しか使えないので自由度が低く、これより搭載すべき機能は数多くある。
  • ポインタの移動速度をゲーム開始時にしか決められず、後から変更できない。そのうえどの速度も短所があり、特に初期設定のMID以外は致命的な不備がある。
    • まず最速のFAST以外は動きがじれったく、操作の際にストレスを蓄積する。特に一番遅いSLOWは、カーソルを画面端から画面端まで動かすのに12秒もかかるほど遅い。
    • ではFAST一択なのかと思えばそうではなく、FASTを選ぶとカーソルが2ドット単位でしか動かせなくなる。細かい絵を絶対に描けなくなるため、上級者は封印推奨である。
    • なんでもいいからさっさと描きたいときはFAST、細かい絵を描きたいときはMIDが推奨されるが、いずれの場合もかゆいところに手が届かない。なぜ途中で変更できないのか……
  • 絵の判定システム
    • ランキング1位を取ろうとするとプレイヤーの行動に制約が入る。攻略情報を把握しない限り、シンプルなデザインで高得点を目指すのは不可能に近い。
    • 鬼門なのがTECHNICで、特にフーミンモードでは相当根気よくやりこまないと高得点が取れない。評価基準から単純計算すると、先述の不備だらけのツールだけで30分~1時間近く遊ばないと満点が取れない。
      • ちなみに、適当な遊び方をするほど満点を取りやすいSENSE、TECHNICの高得点条件を満たせれば自然に満点が取れるENDEAVORは大して問題ない。
    • 高得点パターンを探ろうとすれば試行に時間がかかってしまい、かなり面倒。
      • 人間の美的感覚をどうにか評価基準に落とし込んだ成功例に『バーガーバーガー』『ポケモンスナップ』などが挙げられるが、今作はこれらと違って一回の試行時間が長く、あてもなく絵を描いてフィードバックを得るのは非効率すぎる。
      • もし真面目に攻略するのなら絵を描くのを放棄し、あれこれ試して得点パターンを探る方が手っ取り早い。
+ 参考:スコア計算の仕様(攻略のネタバレ注意)
  • SENSE :使用した写真とロゴに応じて設定された点数を獲得する。複数の写真・ロゴを使った場合はその中で最高の得点を持つ物だけが反映される。
    • つまり満点相当の写真を使えば、後はどんな行動を取ってもSENSEをカンストできる。
    • 写真を配置する必要は無く、描画画面で選択して大きさ・位置設定画面に移行させればキャンバスに描画しなくてもOK。その後の頑張り次第では何も描いていない真っ白なジャケットを提出してもランキング1位を獲得可能。
  • TECHNIC :写真配置・ロゴ配置以外の描画ツールを使う度に増加し、100回使うと満点になる。
    • 鬼門であると書いたが、その理由は後述するフーミンモードの劣悪なテンポに由来する(シンプルモードを考慮しない理由も後述)。
    • しかも先述した図形描画メインのツールだけを100回も使えという始末。初見で気づくのはほぼ不可能で、わかった上でまともなデザインに挑戦するのは"とんち問答"の域に達している。
  • ENDEAVOR :作業時間に伴って増加する。キャンバス上にカーソルがあると加算され、シンプルモード・フーミンモード共に20分で最高値に達する。
    • ロード時やアニメーション中も加算されている模様。
  • この他、フーミンモードを使わない場合は得点が8割程度で打ち止めになる。
  • 説明書からわかる情報との相違について
    • 構図も考える必要があるかのように書かれているが、実際は無視して良い。配置によって変化するパラメータは見受けられず、明らかに画面に見えていない位置に配置しようが上から塗りつぶそうがSENSEは同じ点数を叩き出す。
    • 説明書に書かれた「構図」というのは、使用する素材内の構図を指していると思われる。
    • できるだけ全てのツールを使うことで高得点を取れるのは必ずしも間違っていない。あてもなくデフォルト選択位置のロゴを配置すれば自然にSENSEが高得点になるので、仕様を知らないうちはこの情報に助けられる。ただし半透明色付加といった使い所のないツールもあるため、無理して従うのは悪手である。
  • お絵かきそっちのけで全スコア満点を取りたい場合は、以下の手順で可能。
    • まずフーミンモードを選ぶのが前提。
    • 最初に7番目の写真(本作のパッケージにも使われている画像)を読み込み、描画画面が始まったらそれを選択する(配置するかどうかは任意)。この写真を使えばそれだけでSENSEがカンストする。
    • 続いて、一番早く選べるツール「四角形描画」の選択とキャンセルを100回以上繰り返す。かなり時間がかかるので注意。
    • 最後に、キャンバス上にカーソルがある状態で20分放置(上記の作業にかかる時間も計算されているので、正確にはもっと短くても良い)。
    • 以上の手順でランキング1位は獲得できる。何気に大変なので、これはこれで一際大きな感動が得られるかも?
  • セーブ不可。クリエイトゲーにあるまじき不備である(これも『マリオペイント』で既に実装されていた)。
    • 描いた絵を残すには、ビデオに録画するかカメラに収めるかする必要がある(というか開発スタッフが説明書でそうするよう推奨している)。*7
      • 3DOはデフォルトのセーブ容量があまりにも少ない(PSメモリーカードの約1/4)ので、技術上断念したのかもしれない。*8
      • 3DOは外部メモリの増設が可能だが、本作の時点では周辺機器が発売されていなかった。
      • もし保存媒体に不備があると目も当てられないので、ゲーム終了時は映像が保存できているか慎重に確認することを推奨する。
    • 絵をデータで残せないというのはすなわち、お絵かきを中断して再開する事ができないという事でもある。
    • 一時保存が出来ないということは、不測の事態でゲームが中断したら目も当てられない。にもかかわらず、本作はディスクのロード失敗判定や発生時の処置がやたら厳しく、フリーズや強制終了がそれなりの確率で発生し、折角の苦労が水の泡になる。
      • たとえば編集終了時、数秒以内にロードできないとそのまま先に進めなくなる場合がある*9。デジカメやビデオに完成品を収めることは可能だが、ランキング1位を目指して苦労した末にこうなると悲惨である。先述の通り、フーミンモードでランキング1位を取るには最悪1時間近く粘る必要があり、遭遇するとショックが大きい。
    • もっと酷い事に、フーミンモードで頻繁に発生するムービー(後述)はたまに一瞬でロード失敗判定となり、そのままフリーズしてハードリセット*10が発生する。
      • 長く遊べば自然に遭遇確率が高くなるため悪質極まりない。セーブ出来ないため、その時点で作業内容は全て無かったことにされる。
    • こうした理由から、フーミンモードでは2時間以上かかるような作品を作るのは推奨されず、複雑な絵を無理やり描こうとすると痛い目を見る。いわゆる「ワンドロ*11」に挑むような感覚で、フリーズに遭遇しないよう祈りながらチキンレースをするしか無い。
      • 特に3DO REAL(日本版)はコストカットのため廃熱機構を外しており、連続で長時間遊ぶほどディスク読み込みがしづらくなる不備があるため要注意。
    • 絵が保存できないだけでなく、一度見たPVを後から自由に見る事も不可能。
      • こちらも再生開始前にビデオに録画するよう指示が出る。
      • 閲覧フラグだけなら2バイト以内*12で済むはずなのだが、実装しなかった理由が謎である。

フーミンモード

ここまででも画像編集ソフトとしては問題だらけなのだが、さらなる立ち塞がるのがこのモード。

  • 先述の通りこちらではフーミンが編集をお手伝いしてくれるのだが、一挙一動のテンポがものすごく悪い。
    • 例えば四角形を描こうとすると、どこからともなくフーミンが「テクテクテクテク」と自分で言いながら歩いてきて、巨大な鉛筆を持ってゆっくりと描画範囲をなぞっていく。これによりシンプルモードだと一瞬で済む行動が10秒くらいかかってしまう。
      • そしてこの機能がほぼ全てのツールに実装されている。イメージとしては、クレーンゲームの先端に筆記具を付けて絵を描いているかのような煩わしさ。
    • しかもフーミンが出現する際、絵の右側を編集する時は左から、左側を編集する時は右からわざわざ遠回りしてやってくる。
    • あげくツール使用のたびにフーミンのアニメーションを読み込むため、何かツールを選ぶたびにゲームが数秒間止まる。
  • ただテンポが悪いだけなら根気次第で何とかなるかもしれないが、問題は一定の確率でフーミンが作業を放棄もしくは失敗する事である(スポイトなどの一部ツールを除く)。
    • 作業中、突然「きゃ~~~~っ!!」と悲鳴をあげたり、変な場所を歩行したり、奇行に走ったと思うと、画面が切り替わってフーミンが仕事を放棄した事を伝えるムービーが5秒ほど流れる(スキップ不可)。そして入力した操作は無効となる。
      • 図形描画や直線描画の場合、描いている途中で仕事を放棄すると途中まで描いた物が中途半端に残る。繰り返しになるが、本作は操作取り消し未実装である。
    • 失敗の理由は単純にミスしたというものもあれば「鉛筆やバケツが重くて面倒くさかったから」という自分勝手な物も。
      • そもそも「きゃ~~!!」と悲鳴をあげてから「面倒臭い」は繋がりが強引過ぎて、シュールギャグの域に達している。
    • 極め付けはその失敗確率。1/128くらいでたまに発生する程度でも問題視されそうな仕様なのに、酷い時には数回に一回くらいの頻度で発生する。3連続で失敗する事もザラにある。
      • プレイの度に確率が変わるのか、頻発する場合と滅多に発生しない場合が両方存在する模様(要検証)。気の短いプレイヤーは本作を触らない方がいい。
    • 失敗の度に謝る事もあるが、それでいて何度も失敗を繰り返すのでフーミンのイメージも落ちていく。スタッフとしてはドジな描写を入れて可愛さを引き立てたかったのかもしれないが(当時のフーミンはバラエティーでの天然ボケぷりも人気の一つだった)、いかんせん度が過ぎるのも困りものである。
      • こればかりは強調しておくと、問題なのはゲームの仕様であって、フーミンこと細川ふみえ氏には何の罪も無いので注意。むしろ被害者と言えるかも……
  • これだけ酷いならシンプルモードを選ぶしかない……と思いきや、フーミンモードで遊ばないと絶対にランキング1位を取ることが出来ない。
    • シンプルモードでは各評価値の上限が下がり、理論値を叩き出しても7位を取るのがやっとである。
    • つまり今作の完全クリアを目指すなら、フーミンモードのプレイが強制される。シンプルモードは逃げでしか無いらしい。

その他

  • スライドショーでは、フーミンの写真を拡大する事が出来ない。写真集の延長として作られたソフトとしては致命的である。
    • しかも画像の周囲に枠があり、写真は小さく表示されてしまう。
      • 特に縦向きの写真はかなり縮んでしまう。
    • 3DOのフォトCD再生機能でさえ写真の拡大縮小は可能で、それどころか当時のデータベース系ソフトでも大抵は実装されていた。こうした機能が搭載されていないのは明らかな不備である。

評価点

  • 画像編集ツールとしては何もかもが問題だらけなのだが、裏を返すと強い制約の中でどれだけ良い物を作れるか試したいクリエイターにとって、これほどうってつけのソフトは無い。
    • そもそも本作はツールとしての強みが全く無いわけではなく、「ぼかし」機能については唯一の良心と言っていいほどのポテンシャルを秘めている。
      • うまく使えば水彩タッチの絵が描けるだけでなく、塗り潰しの不便さによる縁取り編集の難しさを誤魔化す事も可能。デジタル作画ソフトのエアブラシ・水の代用として使える可能性を秘めている。
      • ぼかされ方も不規則で、思わぬ表現ができるのは楽しい。例えばモザイクアートなどを作ることが可能で、筆触分割で風景画を描くことも理論上は可能。
      • ここまで比較対象に挙げてきた『マリオペイント』にもこのような機能は無く、唯一と言って良い強みである。
    • 要するに本作は「自由描画や塗り潰しと言った当たり前の機能を縛った上で、ぼかしツールの強みを引き出し、どれだけ絵の完成度を高められるか目指す」という、"縛りプレイ"のような楽しさが秘められている。
      • フーミンモードの不便さも、裏を返せば「じれったさがプレイヤーを襲う中、いつフリーズするかもわからない限られた時間でどれだけ良い絵を仕上げられるか挑戦する」という、やり込みがいがある仕様とも言い換えられる。
      • もし今作にクソゲー以外の判定を付けるなら、次点はまず「スルメゲー」になるかもしれない。
+ 実際に描くとこんな感じ(フーミンの写真未使用)

作例1:三島一八
PS版エンディングを再現。作業時間は1時間。

作例2:ドンキーコング
公式イラストの一つを参考に描画。作業時間は1時間40分。

  • これらはあくまで一例にすぎず、絵の専門的な技術がある人であればより良いデザインが作れると思われる。
  • このツールで「ジャケットのデザイン」でない絵を描くのは用途を逸脱しているようにも見えるが、こうでもしないとTECHNICをカンストできないので、ある意味では正攻法である。
  • 各画像の左下にいるのはフーミン。これによりフーミンモードを使ったという証明ができる。ストイックな人は惜しみなく挿入しよう。
  • 使用可能な色数が多い。
    • 『マリオペイント』は原則16色しか使えなかった*13のに対し、本作は32768色も使用可能。次世代ハードの面目躍如である。
    • 本作の一か月後に出たSFC版『デザエモン』でさえ3万弱だったので、この点は画像編集ツールとして優れている数少ない要素である。
      • もっともそれを活かせるかどうかはまた別の話であり、『デザエモン』は一度作った色をパレットに保存できるため本作より使い勝手が良いのだが……
  • フーミンの写真は全部で150枚収録されており、ボリューム自体はかなり多い。
  • ランキングには実在の音楽を文字った名前がたくさん出てきて、思わずクスっとするようなものも。
    • わかりやすい例を挙げると「黒猫の団子」「Say No!」「逗子くいねぇ」「あずさ1号」「Let That Be」「どんなときでも」「田吾作」「パタパタパパ」「待伏」「スリダー」「送る言葉」「YWCA」「待つよ」「恋は勝つ」など。その他にも多数のパロディがあるが、全てわかるのは相当な音楽マニアだけかもしれない。
  • 1位の映像はプレイヤーの苦労に見合ったクオリティ。
    • スタッフロールは流れないものの、おしゃれなBGMと共にクリアを祝福してくれる。

総評

様々な問題点を挙げてきたが、プレイヤーが辿るシナリオはおそらく以下の通り。
まず何を作ろうかワクワクして起動すると、必要な機能が全然揃っていない事に気付き困惑。
何とか軽く仕上げてみれば、得点をもらえないことに失望し、人によってはここで脱落。
説明書を読み、フーミンモードで長時間やりこむしか無いと覚悟を決めると、今度は高得点を取る方法もわからないまま、融通が利かない作業妨害にストレスを蓄え、運が悪いと強制終了で水泡に帰す。それでいてランキング1位を取れる保証はどこにもない。
結果的に今作は、全方位からプレイヤーを苦しめてくるツールとなってしまった。
PC版から簡略化された事情を鑑みても「お手軽な画像作成」「出演者の可愛さを引き立てるギミック」といったスタッフの意図は伝わってくるのだが、努力の方向を完全に間違えてしまったのが本作の不幸である。

しかし評価点にも挙げた通り、「制限だらけのツールから長所をどこまで引き出せるか」という一点については未知の可能性を秘めている。
制約が大きいほど燃えるタイプのクリエイターなら、本作ほど夢のあるツールはそうそう無いと思われる。
かつてMiiverseで綺麗な絵を描くのが好きだった人や、『Minecraft』『スーパーマリオメーカー』を芸術表現に使うのが好きな人であれば、本作にハマるかもしれない。

2022年現在もレビューが少なく、30年近く埋もれているのが勿体ないほど短所も長所も強烈な本作。再評価の機会を与える気鋭の絵師は果たして現れるのか。
興味を持ったマニア気質のクリエイターがいたならば、是非本作をお試しあれ。


余談

  • ゲーム開始時のメニューで放置するとジャケット作成デモが流れる。しかしスタッフもツールの劣悪さに難儀したのか、作りはかなり雑。
    • まず上下を単色で塗りつぶし、フーミンの写真を画面上部に載せ、下にロゴを配置した後、端を太線で囲ってから直線ツールで強引に「フーミン」と描き、最後は画面全体にスプレーを円周上にかけるというもの。
      • 「フーミン」の字体は汚らしく、お手本としても出来が良くない。
      • 最後のスプレーに至っては逆に見栄えを悪くしており、蛇足となってしまっている。
    • それでもジャケットとしては最低限の形を成してはいるが、実際にこの画像をゲーム内で作って提出するとTECHNICもENDEAVORもロクな点数にならない。ゲームクリアに求められる条件の不条理さがよく表れている。
    • またこのデモではフーミンモードを使っているが、本編と違って失敗パターンは出てこない。デモを再現するとより酷い事になるのは間違いない。
  • 2019年、4Gamer.netでグラムス元社長・吉田直人氏へのインタビューが行われた際、本作の開発背景が明かされた(リンク)。
    • 当時3DOを販売していたパナソニックはソフトメーカーの数を増やす事に執念を注いでいて*14、小規模メーカーだったグラムスにも声がかけられた。そこで『セクレ』のコンシューマ版を発売するに至ったという。
    • しかしユーザーから返ってきたのは酷評の嵐であった。「変な事になってるな(と感じた)」という引用元のコメントからしても、経験したことのない規模の批判が寄せられたものと思われる。
    • 吉田氏は「ゲーム機にゲームじゃないものを出した事で酷評された」といった趣旨のコメントを残しているが、本記事で挙げた内容からすると、それ以前の問題のような……
      • 本作は写真集として見ても問題がある上、モード選択画面でも写真閲覧モードを下に配置しており、この言い分は少し無理がある。
    • 一方でコンシューマソフト開発実績を手に入れたのはグラムスにとって大きな足がかりとなり、セガサターンへ参入するきっかけを生み出したという。
      • こうしてグラムスは『QUOVADIS』を始めとする様々なソフトを送り出していった。"しくじり"を深刻に受け止めず大きなチャンスにつなげたという、ちょっと勇気付けられるエピソードである。
    • 逆境をチャンスに変えたのはこの時だけでなく、その後も吉田氏は闘病・倒産などの苦難に揉まれながら創作に対して熱意を向け続け、2022年現在もソーシャルゲーム業界で活動している。引用元のインタビューは社長の前向きさに元気付けられる内容なので、興味を持った方は要チェック。
      • 吉田氏こそ、本記事で触れた「受難に負けず創作意欲を燃やすクリエイター」の鑑なのかもしれない。
最終更新:2025年08月25日 22:25
添付ファイル

*1 名前の由来はスペイン語のSecreto(秘密)。男性プレイヤーが胸に秘めておきたい、世界でたった一つの宝物を作れるツールとなるよう思いを込めて名付けられたとのこと(取扱説明書より)。

*2 描いた線や図形の情報をデータとして扱う描画ツール。通常のペイントツールは「どの位置に何の色が塗られているか」をデータとして管理するが、ドロー系のソフトでは「どの線がどこからどこまでどのように引かれているか」などを管理し、引いた線の太さなどを後から気軽に変更できる。画像や図形を組み合わせた単純なデザインを行う際に使われる。

*3 取り消せるのは直前の操作のみ。

*4 一般的な画像素材の背景には透明色というものが付与されており、別の画像の上に素材を重ねても透明の部分は元画像が残るようになっている。Googleなどの画像検索でフリー素材やゲームキャラの公式イラストを表示させる際、背景に灰色と白色の市松模様が広がっていることがあるが、この部分が透明色にあたる。

*5 色の三原色は赤青黄で、混ぜるほど暗くなる。主に絵の具などのアナログ絵を描く際に必要な概念である。光の三原色は赤青緑で、混ぜるほど明るくなる。古くはブラウン管から2022年現在でも液晶画面まで、電化製品での画面表示に使われる概念である(デジタル絵が主流となっている現在では後者に触れる機会が少なくない)。色の組み合わせも混ぜ合わせた結果も全くの別物で、前者しか知らなければ後者の扱いに苦労する

*6 色は彩度・明度・色相の三種類で表現することが可能で、それぞれ「色の鮮やかさ」「色の明るさ」「色の種類(赤や青など)」を表している。色のデザインを考えるうえで重要な概念である。

*7 『マリオペイント』の説明書でも保存方法の一つとして録画が紹介されていた。

*8 仮に画像を無圧縮で保存すると、3DO本体の保存容量の2倍近くに達する。それでも圧縮すれば何とかなっていた可能性が高い。

*9 読み込みが完了するまで何度もロードをやり直すゲームは当時の時点でも存在するが、今作は読み込み失敗が確定した時点でそのまま進めなくなる。

*10 3DOは同世代の他ハードと異なり、重篤なエラーが発生すると起動画面まで戻されるようになっている。

*11 1時間以内に終わらせるお絵かき。

*12 3DOは当時のゲーム機としては珍しく、データの保存容量をbyteで表現している。

*13 スタンプ機能を使用することで疑似的に複雑な色を再現するテクニックも存在する。

*14 ちなみにこの販売戦略は、当時の任天堂社長・山内溥氏をして「ユーザーが求めているのはソフトであって、メーカーが幾つ集まろうと何の自慢にもならない」とバッサリ否定されていた。言葉通りに3DOが失速したのは、当時を知るゲーマーに広く認知されている。