本記事は、最初に発売された3DO版を元に解説しています。
より普及率の高いセガサターン版はゲームバランスが一新されているため、記事の解説と異なる場合があります。


ソード&ソーサリー

【そーど あんど そーさりー】

ジャンル RPG
対応機種 3DO interactive multiplayer
発売・開発元 マイクロキャビン
発売日 1995年9月14日
定価 6,800円(税別)
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査 E(全年齢)
備考 1996年5月31日にセガサターン版発売
廉価版(サタコレ):1997年12月11日
判定 良作
ポイント 3DOを代表する本格的JRPG
ゆる~いシナリオが特色
チェスのような戦場で射線上の攻防を繰り広げる
手堅く気軽に遊べ、初めて触れるゲームとしてもおすすめ
ヘビーユーザーにはやや不向き

概要

パワーズキングダム』など3DOソフトの開発を精力的に行なっていた、マイクロキャビンによるRPG。
当時の国内ゲーム市場はRPGの需要が高く、3DOの貴重なJRPGである本作はハードを支えた作品の一つとして知られている。
後にセガサターンにも移植されており、知名度はそちらの方が高い。


あらすじ

今とは違う時代、

我々の知らない世界での物語を集めた伝説。

人はそれを、ソード・アンド・ソーサリーと呼ぶ。

これは後に、

小さな魔法使いルシオンとその仲間たちの冒険として知られるようになる物語である。

(パッケージより)

はるか辺境の山間に、コッキンドールという偉大な魔導士が住んでいた。
ある日のこと、彼は弟子のルシオンに対し、意味深な言葉を残して旅に出る。

「わしの星占いによれば、留守中に、お前の人生に大きな影響を与える客人がやってくるだろう。
 それが吉か凶か、そこまでは分からん・・・。
 いずれにせよ、己が心の指し示す風向きに翔ぶがいい。」

そうしてルシオンが留守番をしていると、奇妙な青年・エルゴートがコッキンドールを訪ねてやってきた。
ひょんなことから狼男と化した彼は、その治療のために偉大な魔導士に助けを求めてきたのである。
しかし肝心のコッキンドールはその場にいない。暇を持て余していたルシオンは、「行くべき道を指し示す」という名目のもと、気の赴くままにエルゴートの行く末を唱え始めた。
彼の体質はミラドール付近に住む獣人族しか治せず、その旅路にルシオンも連れて行かなければならないのだという。

「なんですって!?いや、しかし・・・。」
狼狽するエルゴート。

連ーれーてー行ーくーのーだー!

……かくして、「占いの暗示」という名目でちゃっかり暇つぶしに興じるルシオン。
これが世界の運命を揺るがす旅の始まりになるとは、まだ知る由もなかった。


特徴

  • 世界観
    • 「剣と魔法」という直球なタイトルが示す通り、今作は中世ファンタジーの王道を貫いた作風が特徴である。
  • 基本的な戦闘システム
    • 同時に戦闘できるのは最大4人で、敵は最大6体まで同時に出現する。
      • 最終的なパーティは5人(+魔法で召喚できるゴーレム1体)となるため、ゲーム後半は必然的に欠員が出る。
      • 不参戦のパーティにも参戦パーティと同じだけの経験値が配分されるため、補欠メンバーの育成が疎かになる事はない。
    • 行動順は敵味方それぞれの素早さに応じて決定し、敵味方関係なく素早いキャラクターから順に行動する。
      • 多少のランダム性あり。
    • 戦闘不能のパーティに出番が回ってきた場合、戦闘に参加していないメンバーがいる場合はそれと交代する。
  • 戦闘システム
    • 今作の戦闘はチェスや将棋のような格子状のフィールドを舞台に、自陣と敵陣に分かれて行われる。
    • ただしこれらの作品とは異なり、フィールドの中央にはどちらの陣地にも属さない地帯も存在する(実際のチェスや将棋と同様)。
      • 各キャラクターは手番開始時に自分の陣地の中だけを自由に移動できる。
    • 中央の地帯には障害物が設置されており、敵味方問わず攻撃の妨げとなる。
      • 後述する特定の条件が揃えば、障害物の破壊も可能。
    • 各キャラクターは、攻撃対象に選んだ相手との射線上に障害物が無い場合のみ、それを攻撃できる。
      • 間に障害物がある場合、代わりにその障害物を攻撃してしまう。
      • 武器ごとに設定された破壊力が障害物の耐久力を上回っていれば、破壊することができる。
      • 破壊力が下回っていた場合、何も起きないまま別のキャラクターに手番が回る。
+ 戦闘シーンの具体例
A B
 
D C
  • 上の図は、戦闘シーンのフィールドを真横に傾けたもの。左2列が自陣、右2列が敵陣となる。
    • 実際のゲームでは、この左下あたりからのカメラアングルで描画される。
    • この例では3列のみ使われているが、実際のゲームでは最大7列で戦闘が行われることもある。
  • Aが味方パーティ、BCDが敵キャラクター、○はその間を阻む障害物。
    • 味方の隊列はあらかじめ決めることが可能だが、それ以外の配置は戦闘のたびにランダムに変化する。
  • プレイヤーのターンにおいて、AはBCDのうち誰を攻撃するか自由に選べる。しかしこの例で攻撃できるのはCのみ。
    • BかDを選んだ場合、Aとの射線上にある障害物を攻撃し、そのまま1ターン消費されてしまう。
    • 障害物だけでなく、敵が道を塞いでいる場合も同様。例えばBとDの間に敵がいたら、Cの代わりにその敵を攻撃することになる。
  • 武器に設定された「破壊力」が障害物の耐久力を上回っている場合、それを破壊できる。
    • 障害物が減ることで相手を攻撃しやすくなるが、それは敵にとっても同じこと。うかつに壊すと相手に先制のチャンスを与えてしまう。
  • 攻撃の前には位置変更が可能で、例えば☆の位置にパーティを移動させればBを攻撃できるようになる。
    • 逆に言うと、相手を攻撃できる位置に来たらこちらも狙われやすくなってしまう。もし相手から攻撃を受けたくないのなら、移動せずに障害物で攻撃を防ぐのが吉。
  • このように今作は「相手を攻撃できる位置に立つと自分も狙われやすくなる」と言った、各種シューティングゲームのような古典的な駆け引きが詰まっている。
  • 魔法
    • 全23種類。今作のパーティメンバーのうち、魔法が使えるのは基本的に主人公のルシオンのみ。
      • 各地のボスを倒し、周辺の街にいる人物に話しかけることで魔法を授けてもらえる。
    • 各地には魔神を呼び出せるアイテムが落ちていて、これを使えば他のパーティメンバーも魔法を使用可能。MPを100消費する。
      • 効果は魔神によって異なり、何度でも使用可能。
  • 障害物の破壊
    • これは戦闘だけでなく、街中やダンジョン等の移動でも有効な操作となる。
    • 破壊可能な障害物の前でCボタンを押すと、その耐久力を上回る破壊力の武器で破壊できる。
      • ダンジョンではこのコマンドが無いと先に進めない箇所が多い。
    • 障害物を破壊すると、一定の確率でドーピングアイテムが手に入る。
      • このため今作はドーピングアイテムを容易に無限調達でき、レベル上げをしなくてもパーティを育成可能である。
    • ちなみに破壊できる障害物は岩や木といった物ばかりではなく、人の家にある物体も該当する。
      • 「人の家に上がり込んでツボやタンスを物色するJRPG主人公」は数あれど、タンスや机、果ては暖炉まで片っ端から破壊していく主人公はそうそういないだろう……
  • セーブ
    • フィールドでのみいつでも可能。
    • データは最大で4つ。
      • ただし3DOの内部容量をフル活用しても3つ保存するのが限界なので、保存用の周辺機器を持っていない場合は素直にデータ1つで進める事になる。
      • 幸いなことに、今作には取り返しのつかない要素が1箇所しか無い*1ので、詰みの心配はしなくて良い。

パーティメンバー

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  • ルシオン
    • 今作の主人公。ちょっと能天気な魔法使いの女の子。「〜だよん。」「にゃは☆」など独特なセリフ回しが印象的。自由奔放なようでいておせっかい焼きな一面もあり、暇つぶしから始まった旅はやがて世界を救う旅へと発展していく。
    • 唯一魔法を使えるのが大きな強みで、多彩な戦略から攻めることが可能。
      • その分、回復や全体攻撃といった重要な技も彼女が全て担っており、戦闘不能になると窮地に陥る可能性も。
  • エルゴート
    • 獣人に襲われたことがきっかけで狼男と化した青年。自らの体質を変えた獣人を憎むシリアスなイケメンだが、仲間たちの緩いムードには振り回されてばかりいる。
    • 今作には昼夜の概念があり、夜になると攻撃力が大きく強化される
    • 前方と左右を薙ぎ払える武器を唯一扱うことができ、雑魚敵の一掃に重宝する。
  • ミミナガ
    • ウサギとモグラを合わせたような種族・モールベアの戦士。周囲から失望されるほどに弱虫な青年だったが、ルシオンとの出会いをきっかけに少しずつ成長していく。
    • 序盤は弱く、後半に強くなる大器晩成タイプ。いつでも使える全体攻撃「アースクエイク」は少し攻撃力が低いものの、障害物を全て一掃してくれる便利な側面もある。ササっと決着したい場合はアースクエイクから一気にカタを付けるのが基本となる。
    • 瀕死になると「死んだフリ」を行い、敵に狙われなくなる。
  • カネヨン
    • バトルマニアのリザードマン。おじさんと呼ばれることを気にしている独身。村を襲った怪物の迎撃をきっかけにルシオン達と出会い、行動を共にする。
    • 今作で唯一二刀流を扱える。攻撃力の高い武器を2つ構えることで、とてつもない威力を発揮することも可能。
    • 火炎放射により、不特定多数に攻撃を与えることができる。
      • うかつに障害物を壊してしまうことが多く、通常攻撃には劣る威力のため、炎弱点の敵に使うのが吉。
  • ビオメルダー
    • 硬い殻に身を包む種族・トラメックの戦士。殻を削る鉱石が入手できず困っていたところをルシオン達が助け出し、頼れる年長者として冒険を供にする。
    • 殻のおかげで防具が必要ない。防御力はパーティメンバー随一となっている。
    • 最大の特徴は「投げる」攻撃。ステージ内の障害物を敵に投げつける豪快な技で、攻撃と障害物の撤去を一度にこなしてくれる。
      • しかし本領発揮はむしろ障害物が無くなった後。このときにコマンドを選択すると代わりに近くの仲間を敵に思いっきり投げつける。障害物を投げたときよりも威力が高く、この技に気づくとその後の戦闘は一気に楽になるはず。
      • ミミナガのアースクエイクと相性が良く、このコンビでお世話になることも多い。
      • 印象的な攻撃ゆえか、のちのSS版に追加されたオープニングでもビオメルダーがミミナガを投げるシーンが描かれている。
  • この他、補欠パーティとしてゴーレムが存在する。
    • ルシオンが「ゴーレム」の魔法を使うことで使役できるようになる。レベルは魔法使用時のルシオンと同じ値になる。
    • 装備は出来ず、性能はあまり高くないものの、戦局が苦しい時の壁役になってくれる。縛りプレイで重宝するかもしれない。
    • 魔法でいつでも呼び出せる代わりに、一切回復が出来ないという独特な仕様を持っている。

評価点

  • とっつきやすく、気軽に楽しめるゲーム設計
    • 難易度は控えめに抑えられており、ゲーム初心者でもRPGの戦略や育成の楽しさを十分に味わえる。
    • システム周りはとにかく親切に作られており、ストレスを感じ辛い。
      • ゲームオーバーになってもダンジョンの入り口に戻されるだけなので、ボスに負けて苦労が水の泡になる事はない。
      • 戦闘に参加しなかったパーティメンバーにも経験値が入るため、育成が疎かになるのも避けられている。
      • 中盤からはMPも回復アイテムも有り余るため、リソース管理が楽である。
    • この時期のRPGは幅広い層に向けた遊びやすさが追求されていたが、今作もその需要に応えた仕上がりとなっている。
  • シンプルながらも駆け引きのある戦闘システム
    • 特徴欄にもある通り、障害物の破壊を巡ってシンプルな駆け引きが成立している。
    • ランダムな配置に応じて戦闘の切り抜け方が変わるため、単調な戦いは避けられている。このため簡単過ぎて飽きやすいということはなく、それなりのメリハリが担保されている。
  • バカゲー臭もする、ゆるーいシナリオ
    • 硬派なパッケージデザインとは裏腹に、シナリオは明るく呑気で緩く進むのが特徴。この点もプレイヤーからの人気が高い。
    • 壮大なストーリーを予感させるのはパッケージのデザインとそこに書かれた解説だけ。あらすじでも記したように、実際のお話は暇を持て余した主人公・ルシオンが来客にテキトーな出まかせを言って無理やり冒険に付き合わせるというちょっとふざけた幕開けとなっている。
      • その後もルシオンの好奇心から行き当たりばったりでお話が進み、最後は世界の命運をかけた戦いに飛び込んでいく。
      • 行動のノリこそ軽いが、ルシオンは優しさと面倒見の良さから行動を起こしており、その振る舞いはきちんとした英雄譚の主人公である。
    • クールに見えるキャラのドジな一面が見えたり、『ちびまる子ちゃん』を彷彿とさせるナレーションがシュールなツッコミを入れてきたりと、軽いノリのユーモアは盛りだくさん。
  • 国産RPGで3Dグラフィックを採用した最初期の作品でもある(ソース)。
    • まだ処理は重いものの、ゲームハードの進化を如実に感じさせるグラフィックとなっていた。
  • パーティメンバーの成長を感じさせる終盤の戦闘
+ ネタバレ注意
  • ラストダンジョンでは、これまで戦ってきたボスキャラが量産されて再登場。そのままの性能で雑魚敵として参戦する。
    • かつて辛酸を舐めさせられたボスも次々襲ってくるが、こうした敵キャラ達を高レベルで一掃できるのは爽快。クライマックスへの盛り上がりを高めてくれる。

賛否両論点

  • ボリュームが薄め
    • 総プレイ時間は15〜20時間ほどで、RPGとしては短い部類に入る。
    • しかし当時のRPGはプレイ時間偏重になりすぎて時間がかかる物も多く、サクッと遊べる範疇にある事を評価する声もある。
      • 先述した難易度面と合わせ、当時のゲーム購入者の需要を抑えているとも言える。

問題点

  • やりこみ要素が殆どない
    • 今作には寄り道できるダンジョンや隠しボスの類が一切無い。徹底的なまでの一本道ゲーとなっている。
    • その徹底ぶりたるや、先のダンジョンに無理やり進もうとすると必ず何かしらの理由を付けられて進行を拒否されてしまうほど。
      • このため難しいダンジョンを先に攻略して後の展開を有利にすると言った、攻略の自由度はなきに等しい。
    • 隠しイベントの類がほとんど無いため、アイテムコンプリートは初見でも容易に達成できてしまう。
    • それでいて難易度が低く、先述の通りボリュームも少ないため、イベント回収や育成にこだわるRPGを期待するプレイヤーは肩透かしをくらう羽目になる。
      • ルシオンの魔法が充実するゲーム後半にもなると、RPGが得意なプレイヤーならほぼ負ける要素が無くなってしまう。特に氷系の魔法は高確率で敵の動きを止められてしまい、これに頼るとほとんど苦戦しない。
    • 賛否両論点も併せると、今作は全体的にライトユーザー向けのRPGとしての趣が強い。
  • 3DO版のテキストは必ず3行区切りでページが分かれるようになっており、中途半端に区切られて読みづらい。
    • 「たわごとなど ききたくない」      「わ!のような区切りが頻発し、没入感を何かと損ねてしまう。
    • こうしたゲームは区切りに合わせてテキストが書かれる事も多いが、今作はそうした工夫が無い。
    • 後発のサターン版では解決されている。
      • こちらは文字がはみ出す場合にテキストが下へスクロールするようになり、違和感が軽減されている。

総評

がっつり遊ぶタイプの作品では無いものの、あらゆるプレイヤーが明るく緩く楽しめるのが本作の魅力。
ゲームシステムはシンプルながらもメリハリがあり、王道でありつつもネジの外れた作風はちょっと憎めなくてユーモラスに仕上がっている。
プレイヤーによっては、硬派なパッケージデザインとのギャップに意表を突かれるのでは無いだろうか。

3DOの貴重なRPGとして好意的な反響を受けており、ハードの歴史を語る上でも重要な1作である。


その後の展開

  • 欧米市場向けには『Lucienne's Quest』というタイトルで発売されている。
    • 海外でもそれなりに評価されており、「3DOの良作ソフト」を語る記事で名前が挙がることも多い。
      • 3DOの主力タイトルはFPS、レースゲーム、ウォーシミュレーションといった硬派なゲームが多くを占めている*2が、その中にポツンと混じるJRPGの本作は異彩を放っている。
  • 翌年には日本国内のみ、セガサターン版が発売された。大まかな内容は同じだが、細部に修正が入っている。
    • オープニングには、新たにアニメムービーが追加されている。
      • ラストの一枚絵は3DO版パッケージの再現となっている。
    • 最大の改良点として、各キャラクターにボイスが付いたことで演出面が強化された事が挙げられる。
      • 主人公のルシオンを務めるのは林原めぐみ。その他に当時の人気声優である椎名へきる等がキャストを務めた。
    • メッセージウィンドウには顔グラフィックが付くようになり、3DO版にも増してキャラクターに彩りが添えられた。とまどうルシオンのデフォルメ顔は必見。
    • 雑魚敵や魔神のデザインは一部を除く全てが一新されている。両機種で違いを見比べるのも一興である。
    • ゲームバランスにも調整が入った。多くのボスに護衛が追加された他、ラスボスの性能は3DO版よりも底上げされている。
      • 逆に難易度が下がった場面もあり、ゲーム後半に訪れるダンジョン・ビリケントンネルでは毒床の数が減少した。
    • 難点として、3DO版よりもロード時間が長くなったとの報告も挙がっている。
    • エンディング後に5分放置すると、各キャラの後日談をボイスドラマとして聴けるようになっている(3DO版には非搭載)。聞き逃さないよう要注意。
最終更新:2024年03月16日 17:56

*1 中盤で訪れる船のダンジョンのみ、一度クリアすると二度と入れなくなる。

*2 よく「3DOは映像美だけで中身の無いソフトばかり出た」と語られる事も多いが、これは半分誤り。本場の海外では日本以上に、真っ当なゲームがそれなりに送り出されていた。