厄痛 ~呪いのゲーム~

【やくつう のろいのげーむ】

ジャンル サウンドノベル
対応機種 プレイステーション
発売・開発元 アイディアファクトリー
発売日 1997年2月7日
定価 6,380円
プレイ人数 1人
レーティング CERO:B(12歳以上対象)*1
配信 ゲームアーカイブス:2007年4月26日
判定 なし
ポイント あの問題作にまさかの続編
ホラー漫画界の巨匠・日野日出志氏が監修
優れた文章力と共にまともなホラーに改善
グラとシステム周りが足を引っ張る
♪お魚ちゃんフォ~エバ~
IF TVシリーズ
厄 友情談疑 / CG昔話 じいさん2度びっくり!! / 厄痛 ~呪いのゲーム~


概要

クソゲーと名高い迷作『厄 友情談疑』の続編。『IF TVシリーズ』としては『CG昔話 じいさん2度びっくり!!』に続く3作品目となる。
読みで察しは付くだろうが、タイトルは『厄』の2作目という事で「痛 (つう)」と「2 (ツー)」を掛けている。
以下、本項における「前作」は『厄 友情談疑』の方を指し、「過去シリーズ」「シリーズ作品」は『じいさん』を含めた『IF TVシリーズ』全体を指すものとする。

今作もまたサウンドノベルとなっており、前作に引き続き「ザッピングシステム」を採用している。
説明書には「あれから1年…型破りなアドベンチャーとして絶賛の嵐をあびたプレイステーションソフト『厄 友情談疑』…」という印象的な解説が。堂々とウソを書くな。

シナリオや設定に前作との繋がりは無く、本作単体で楽しむことが可能である。
ただし、前作(ないしは他のアイディアファクトリー製ゲーム)を遊んでおくと、登場人物の言動に考えさせられるものがあるかもしれない。

本作を語る上で欠かせないのが参加スタッフ。今回はホラー漫画界の重鎮である日野日出志氏がゲームの監修とモンスターデザインを行なっている。
パッケージでもこの点は大きく強調されており、結果として本作の出来は前作から大きく改善された。


あらすじ

幼なじみの高校生、みすずと省吾はゲーム会社でアルバイトを始めた。

忙しい毎日を繰り返してゲームはようやく完成する。

しかし、雑誌社の評価はあまりにも冷たかった。

これと時を重ねるようにしてゲーム会社の社長が失踪し、謎の死を遂げる。

不審なものを感じるみすずの元に、死者からの電話がかかってきた・・・

(取扱説明書より)

  • 文面や前作の評判からも察せられる通り、本作はアイディアファクトリーの自虐と悲哀も多分に含んだ作品となっている。

特徴

大まかなシステムは前作と共通している。

  • 前作からの相違点
    • ボリュームの増加
      • 前作は一周20分程度のボリュームだったのに対し、本作は約1時間の大ボリュームとなった。
    • セーブ機能の追加
      • 今作は各チャプターの終了時にセーブ可能となった。
      • 容量は1ブロックで、最大3つのファイルを保存できる。記録されるのは主人公の名前、周回数(≒ザッピング可能キャラの解禁状況)、チャプターの進行状況および最後に選んだキャラ。フラグなどは前作同様全く存在しない。
+ 登場人物
  • 牧原みすず
    • ゲーム会社「ツブレソフト」でアルバイトを始めた女子高生。勝気で、一度やると決めたら最後まで突っ走る性格の持ち主。ツブレソフト社長の失踪後、謎の電話にいざなわれた彼女は、真夜中の社屋で決死行に巻き込まれる。
  • 福永省吾
    • みすずの幼馴染。弱気な性格で、いつもみすずの勢いに振り回されがちである。みすずに比べるとシニカルで、彼女のルートとは違った視点が本作の魅力の一つである。ツブレソフトの決死行に巻き込まれた彼は、さまざまな出会いを経て自分と向き合っていく。
  • ツブレコウジ
    • 謎が多きツブレソフト社長。ザッピング不可。出来の悪い自社のゲームに対して妙な自信を見せている。物語中盤では彼が失踪し、その裏にあった暗い事実が明かされていく。
+ 周回後にザッピング可能な人物(ネタバレ注意)
  • 楠木スミレ(1周クリアでザッピング可能)
    • 雑誌社で働くライター。ツブレソフトの新作を酷評するが、そうしてバッサリと切り捨てることには複雑な思いがある様子。コウゾウの手により、みすずや省吾の前では隠していた真の姿が暴かれる。
  • ツブレコウゾウ(2周クリアでザッピング可能)
    • コウジの兄。顔がよく似ているが、弟よりも痩せ型。真夜中のツブレソフトでみすずと省吾の前に現れ、スミレの正体を暴く。彼とスミレとの関係は、ゲーム内の情報から断片的に明かされていく。
  • 主人公(3周クリアでザッピング可能)
    • スミレの弟。名前はセーブデータ作成時に設定可能。ゲーム冒頭やみすずルート、一部エンディングなどで顔を出すが、交通事故にあって故人となっており、幽霊として登場する。彼のルートは他キャラのルートと比べて、抽象的でスピリチュアルな異色の物語が展開される。ちなみにポリゴンモデルは前作主人公の流用。

評価点

  • シナリオ面の大きなテコ入れ
    • 過去シリーズ2作が悪ふざけの過ぎる内容だったのに対し、今作はきちんとしたホラーシナリオとなっている。
      • ぶっ飛んだネタも所々にはあるが、ムードをぶち壊すまでには至っていない。
    • 「改造されて理性を失う人間」「それに巻き込まれる男女」という構成は前作と同じだが、今回はそれを大真面目に再構築していて、思わず引き込まれるような場面も存在する。
    • 主人公の成長を辿ることができる省吾ルートや、最初は見えてこなかった真相が明かされる隠しルートなど、見応えのある内容はシナリオ全体にちりばめられている。
      • 後者は、前作であまり活かされていなかったザッピングシステムが光る展開に仕上がっている。
  • 文章力も特筆すべき仕上がりに。
    • 過去シリーズでは平凡なテキストだったのに対し、今回は真面目な文芸小説に匹敵する文章を味わう事ができる。
    • 登場人物の機微や情緒の描写は中々巧み。
      • たとえば、省吾は地の文ではみすずを呼び捨てにしているが、セリフの上ではいちいち"牧原さん"と呼んでいて、彼の気弱さな性格が自然に表現されている。
      • 黒幕の動機は創作物としてありがちな物だが、テキストのおかげで陳腐さを感じにくく、読み応えのある心情描写が繰り広げられる。
    • ちなみに本作の脚本家は、ネバーランドシリーズのファンを生み出した『スペクトラルフォース』も手掛けている。
  • メタな視点から裏をかかれる展開も。
    + ...
    • 当時のIF製ゲームには内容と無関係な環境保護ムービーが強引に詰め込まれていたが、今作では物語のテーマにきちんと関わっている。
      • 一件本筋と関係無さそうな啓発がシナリオに絡められ、当時のアイディアファクトリーを知る人ほど意表を突かれやすい。
  • BGM
    • いくつかは前作のものをアレンジしているが、その質が高い。
      • 特に悲劇的なシーンのBGM*2は雰囲気が前面に出た編曲となっている。
    • エンディングは内容に応じてボーカル付きとなり、最良の結末を引いた時はムードを大きく盛り上げてくれる。
  • 過去作からの改善点
    • ようやくメモリーカードに対応。おかげで未読テキストやエンディング分岐を回収しやすくなった。しかしPSのゲームでメモリーカード対応が評価点になるのは本作くらいでは……?
    • 本作もエンディングの「終?」は健在。しかし「?」が無いエンディングも3つ用意され、グッドエンドが明確になった。
    • シャドウ機能のオンオフが1ボタンで切り替わるようになり、一度オンにした後はボタンを押しっぱなしにする必要がなくなった。そのうえテキスト送りも併用できるようになり、煩わしさが無くなった。

賛否両論点

  • ゲーム開発の下り
    • 本作でも特に語り草に上がるシーン。内容は「バイト先のツブレソフトがどうしようもないゲームを発売して酷評される」という物で、グラフィックのチープさも相まって大層シュール。
      + ゲームの詳細
    • タイトルは「お魚ちゃんフォーエバー」で、一匹の魚が凶暴なサメや海を汚す人間に立ち向かうというADV。
      • 中身は前作や『じいさん2度びっくり!!』をもっと酷くした内容で、エンディングは死亡ルート(しかも3種類)しか存在しない。
      • ただでさえグラフィックに難のある本作において意図的に酷いグラフィックとして描かれており、ゲーム画面は名状しがたい仕上がりになっている。まるでペイントツールでも使ったかのようなアートワークに加え、手書きの文字とレタリングされた文字が混在しているのもどこか不気味。
    • 結果、ゲーム雑誌からは『0点』『買うな』とまで評される始末。
      • 「予算をかけないで良いゲームが作れるはずがない」など、見るからに低予算だった過去シリーズへの自虐とも取れる記述もある。
    • 専用BGMも用意されており、男性がぼそぼそと、「お魚ちゃんフォ~エバ~」とコーラスを挟んでくる。とても商用ゲーム作品のBGMとは思えない。
    • 思わず人を選びそうなシーンだが、内容自体はそこまで批判されているわけではない。問題は作中の立ち位置で、みすずルート・省吾ルートはこのシーンだけで序盤の20分程を消費するにもかかわらず、その後の物語にゲームの存在はほとんど関係無く、蛇足に近い。
    • いちおう物語に全く関わっていないわけでは無いのだが、その絡め方はかなり強引である。
      + 詳細
    • スミレは黒幕に追われて世間から身を隠している身だったのだが、この場面で作ったゲームをスミレが雑誌でレビューしたところ、彼女が出版社で働いている事が黒幕にばれて、ゲーム後半の悲劇的な展開へと繋がってしまう。
      • 世間から身を隠している立場なのに本名で活動していた理由が描かれておらず、消息バレの理由としては不自然である。
  • フォローしておくと、ゲームに関与した登場人物全てに死亡ルートが存在しており、酷評の内容やタイトルの"呪いのゲーム"がきちんと伏線として回収されているため、全く無関係ではない。

問題点

  • 足を引っ張っているザッピングシステム
    • 今作はシステムの都合上、話の理解に必須な情報が各キャラのルートに分散しており、他キャラの視点を見ないと回収されない伏線も多い。しかし、初見のザッピングで的確に伏線を回収するのは難しく、結局は同じキャラで読み続ける方が安定する。
    • 最初から選べるみすず・省吾ルートでは最低限の情報しか得られず、事件の発生も唐突で没入感が薄い。スミレ・コウゾウルートでようやく話の全容が見えてくるが、前者は1回、後者は2回クリアしないと解禁されず、少々ダレやすい。
      • 仮に初周のどちらか一本に絞って遊ぶのであれば、省吾ルートの方がおすすめ。こちらを選ばないと怪物の出自が明かされない*3うえ、みすずルートの時より登場人物のキャラが立っている。加えて、省吾ルートでしか救済できないキャラがいる点も見所である。
  • 前作同様の安っぽいグラフィック
    • 今回はシナリオの質が向上した分、なおさら目に付きやすい。
    • 巧みなテキストが雰囲気を盛り上げているのに対し、グラフィックや演出が台無しにしている場面が多く見られる。
      • 例えば、前作にも存在した「登場人物が叫び、文字のポリゴンが横から流れてくる」というチープな演出は本作にも健在で、物語に入り込んでも引き戻されてしまう。文字の形をした影が顔にかかっている画像も頻出する。
      • 特に省吾のシャウトは気の抜けるような演技で、完全にムードぶち壊し。
    • 一応フォローしておくと、前作にも増してシュールな絵面を評価する意見もある。
    • なおパッケージ裏には「前作を遥かに凌ぐハイクオリティ3Dムービー!」と書かれているが、鵜呑みにしないように。
      • 前作より多少マシになった程度で、実際はほとんど変わっていない。
      • 同じムービーを何度も何度も流すという悪癖もそのまま。
  • エンディングについて
    • グッドエンドが明確化した点は評価点だが、ノーマルエンドとの区別が雑。
    • 悪役が因果応報な死に方をするエンディングはグッドエンドにならず、やや不穏な結末がグッドエンド扱いなど、どういう基準で分けたのか疑問が残る。
    • 悲劇的な人物が救われる唯一のグッドエンドがあるのだが、そのルートはゲーム開始時から到達出来てしまう。
      • 残りのグッドエンドは悲劇的な一面を含むものと、上述の不穏なものしか残っていないため、プレイヤーによってはガッカリする羽目になる。
      • プレイヤーが遊ぶ順序を考慮しないミスは、『じいさん2度びっくり!!』でも行われていた。

総評

クソゲーからの脱却を目指して作られた本作は、IFスタッフの前向きさを感じさせる一作となっている。
大御所ホラー漫画家監修のもとでシナリオ面は改善され、前作とうってかわってまともな内容に進化を遂げた。

かといって、必ずしも楽しめる保証があるわけではない。
不安定なザッピングシステムやチープなグラフィックが足を引っ張ってしまうためか、総合的な評価はプレイヤーによってまちまちである。
本作の魅力は独特のチープさに対する好みと、ザッピングが見せる内容に大きく左右されると思われる。

前作からの進化を知りたい人はもちろんのこと、日野日出志氏やアイディアファクトリーの作風が好きな人であれば、買う意義が大きい一作である。
特に、日野氏を目当てに遊んで満足した人のレビューはネット上で散見されるため、ファンであれば押さえてみるのはアリかもしれない。


余談

  • 過去の『IF TVシリーズ』と同様、今作もテレビ番組という設定は生きているようで、ゲーム中盤に唐突なCMが挿入される。
    • 内容はよりにもよって『お魚ちゃんフォーエバー』の広告である。
  • 『じいさん』でも見られた使い回し芸は本作でも健在で、物語後半に出てくるトカゲ人間がツブレ社長のおもちゃとしてあるルートに登場する。
    • しかし、よりにもよって多くのプレイヤーが最初に遊ぶみすずルートの序盤に登場するため、初見では物語の重要な伏線と勘違いしやすく、混乱の元になる。
  • あるムービーで妙にリアルなGが出てくるため、苦手なプレイヤーは要注意。
  • 過去作の『じいさん2度びっくり!!』を何かと推しており、社長の着ているシャツにタイトルが描かれていたり、ゲーム雑誌に『ばあさん5度びっくり!』という名前のゲームが出てきたりする。
    • こちらも人を選ぶゲームだが、本作を受け入れられるプレイヤーであれば触れてみてはいかがだろうか。
  • 雑誌『ザ・プレイステーション』96年40号では本作発売に先駆けて「ゲームの中で死んでみたい人大募集!!」という企画を行なっており、採用された二人が本作品に出演している。
    • 選出にあたってはきちんと面接も行ったらしい…。
  • 『厄』シリーズの第3弾として『厄惨』の発売も予定されていたが、中止になっている。
    • 当然ながら「惨」は「三」と掛けている。「つう」と「さん」を掛けたシリーズというと、どこかで聞いたような…。
      • なお、ナンバリングの「痛 (つう)」と「2 (ツー)」を掛けていて尚且つ「じいさん」が主人公のゲームもあったりする。
最終更新:2024年07月01日 06:26

*1 ゲームアーカイブスで付与されたレーティングを記載。

*2 前作においては、黒幕が悲痛な思いを独白していたシーンなどで使われていた曲。

*3 一応みすずルートでも、一部のエンディングで事件の発端が見られる。