菊の塵


あらすじ

 明治四十二年、秋の事件である。
 この年の秋といえば、韓国統監だった伊藤博文がハルビン駅頭で三発の銃弾に倒れている。
 満州の夜をひき裂いた三発の銃声は、いわば日露戦争以来、低迷に沈み、暗い雷動を底に潜めた不穏な世相そのものに響いたといえる。季節ばかりでなく時世もまた、暗黒の冬に向かって最後の落葉を舞わせようとしていた。

明治42年、落馬により不具となっていた元陸軍将校・田桐重太郎が、軍刀で喉を貫いた死体となって発見された。その死は自害として処理されたが、私は田桐の妻・セツに疑念を抱く……。

登場人物

    • 語り手。事件当時は国命館大学の学生。
  • 田桐重太郎
    • 元陸軍将校。日露戦争前に落馬事故で腰の骨を折り不具となる。明治天皇に絶対の忠誠を誓う軍人。
  • 田桐セツ
    • 重太郎の妻。会津藩士の家系。

解題

「幻影城」1978年10月号にて発表された、花葬シリーズの第2作。
というか第1作「藤の香」はもともとシリーズとして構想されていたわけではなく、「藤の香」に感銘を受けた「幻影城」編集長・島崎博の命でシリーズ化が決定し本作が書かれることとなったようだ。その経緯については「藤の香」のページを参照。また本作の発表にあわせ、エッセイ「〈花葬〉シリーズのこと」が同時に発表されている。

編集部より〉八月号で連城三紀彦の作品三篇を特集したところ、読者からの反響は大変なものでした。三篇の作品傾向が異なっているということもあって、それぞれの支持者がありました。〈花葬〉シリーズの第一話に当る「藤の香」は特に好評でした。
 この作品は、現在の推理小説に欠けているトリックが無理なく作中に生きていて、古い探偵小説に欠けていた動機も見事なもので、人間もうまく描かれています。トリック、動機、人間を総合的に描くことが、この〈花葬〉シリーズの試みです。詳しくは次頁の「〈花葬〉シリーズのこと」をお読み下さい。キットあなたは、これから〈花葬〉の虜になることと受け合います。
(「幻影城」1978年10月号より)

 なお、なぜか『戻り川心中』から漏れ、『夕萩心中』の方に回されてしまった。本作が『戻り川心中』に入らなかった理由は詳らかでない。

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収録アンソロジー

  • 新潮社編『昭和ミステリー大全集〈下巻〉』(1991年、新潮文庫)
  • 細谷正充編『大江戸犯科帖 時代推理小説名作選』(2003年、双葉文庫

関連作品


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最終更新:2018年07月06日 02:07