晦 -つきこもり
【つきこもり】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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スーパーファミコン
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メディア
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32MbitROMカートリッジ
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発売元
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バンプレスト
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開発元
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パンドラボックス
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発売日
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1996年3月1日
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定価
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7,800円(税抜)
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配信
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バーチャルコンソール 【Wii】2012年6月5日/800Wiiポイント 【WiiU】2016年9月7日/823円
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書換
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ニンテンドウパワー 1998年3月1日/1,000円/F×8・B×4
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判定
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なし
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ポイント
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システム退化 最終話激ムズ
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「七回忌の晩に怖い話をすると死者が蘇るっていうよな」
概要
前年の『学校であった怖い話』(以下『学怖』)に続く、パンドラボックス(現・シャノン)製サウンドノベル第2弾。
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6人のキャラから好きな順に怪談を聞いて行き、全て聞くと7話目が始まる。
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誰を何話目に聞いたかによって話の内容は変化する。更に話の中の選択肢によって、さらに細かく変化する。
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7話目の内容は、6話目に誰を選んだかによって決まる。つまり、基本となるシナリオの本数は6×7の42本。
…と、前作の基本的なシステムは踏襲されている。
前作が学校を舞台にした話に限定されたため、もっと色々な場所を舞台にした怪談を聞きたいというアンケート結果を受け、「法事の日に集まった様々な職業の親戚が怪談を語る」という設定になっている。
前作の監督・脚本を務めたパンドラボックス社長の飯島健男(現・飯島多紀哉)は今回はプロデュースに徹している。
氏が執筆したのは序章のみで、あとは語り手ごとに違うスタッフ(前作の分岐先のシナリオを書いていたライター陣)が書くという形が取られた。
ストーリー
主人公・前田葉子は、父方の祖母の七回忌のため、田舎の本家を訪れる。
昔ながらの藁葺き屋根の旧家には親戚一堂が集まり、そこには葉子にとって懐かしい顔ぶれもいた。
七回忌を終えた晩のこと。親戚たちが広間で談笑しているところ、葉子の混じっていたグループでは奇妙な話題に花が咲いた。
“七回忌の晩に怖い話をすると死者が蘇る”
葉子たちのグループは、今は使われていない客間に移動し、怪談をすることになる。
「それにしても、みんな、この部屋がどうして使われていないか知ってるの?
……ここって出るのよ」
1人がそう口火を切ったところから、暗く長い夜が始まった。
※OPより、一部セリフなどを引用
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登場人物・怪談紹介(長いので折りたたみ)
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登場人物・怪談紹介
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前田葉子(まえだ ようこ)
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本作の主人公であり、怪談の聞き手となる。名前は変更可能。
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15歳の少女であり、年上の従兄弟の泰明に好意を寄せる一方、年下の従兄弟である良夫のことは嫌っている。
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前田和子(まえだ かずこ)
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葉子の叔母であり、良夫の母親。本家の一人息子である良夫のことを溺愛している。
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話す怪談の内容は地元で語られる怪談話や民間伝承に関するものが中心となる。
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前田良夫(まえだ よしお)
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葉子の従兄弟であり、和子の息子。怪談の語り部としては最年少の小学生であり、葉子には子供らしく意地悪な態度を取ることが多い。
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話す怪談の内容も小学生の間で流行っている噂話や怪談話が中心となる。
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真田泰明(さなだ やすあき)
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葉子の従兄弟。テレビ局プロデューサーであり、今回の集まりの発案者でもある。
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33歳だが年齢の割に若々しく、人当たりのいい性格であるため葉子の憧れの的となっている。
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主にテレビ業界や芸能界に関する怪談をする。
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余談だがキャラを演じたのは当時パンドラボックス社員であり、後にアダルトゲームブランド「âge (アージュ)」を立ち上げ、『マブラヴ』シリーズのシナリオ・メカニックデザインを手掛けた吉田博彦氏である。
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山崎哲夫(やまざき てつお)
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葉子の親戚。本人は冒険家を自称しているがその実態はほぼフリーターであり、葉子を含む親戚からは半ば呆れられている。
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明るく単純な性格ではあるが、語り部の中では比較的常識人である。
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怪談の内容も彼が「冒険」の中で出会った怪談に関するものが多い。
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鈴木由香里(すずき ゆかり)
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葉子の親戚。高校卒業後に花嫁修業と称してフラフラしているフリーター。葉子とは年齢が近いために仲が良い。
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ボーイッシュで活発そうな見た目とは裏腹に、世の中に対して斜に構えた態度を取っており、癖のある性格。
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話す怪談の内容は彼女が参加した危険な「アルバイト」や若い女性の間で流行しているものが中心となる。
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藤村正美(ふじむら まさみ)
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葉子の親戚。看護婦として働いている。
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基本的には親戚や患者に対しておしとやかで献身的な性格だが、時折歪んだ人間性を見せることがある。
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話す怪談の内容も病院に関するものや人間の生と死に関するものが多い。
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和弘(かずひろ)
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怪談の最後の参加者。今回の七回忌に参加するはずだったが、なぜか姿を現さない。
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風間望(かざま のぞむ)
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前作からの特別出演。いわゆるギャグパート用のキャラクター。
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演じているスタッフは同じだが、都度設定が異なるため同一人物かどうかは不明。
しかし風間のキャラ的に、全て同一人物でも違和感は薄い。
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特徴・評価点
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主人公は中学生の女の子。語り手とは全員顔見知りという設定であり、一定の人間関係があらかじめ出来上がっている点が前作とは異なる。
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6人の語り手は年齢層が広く、年配の女性や子どももいる。いずれも一癖ある個性的な面々である。
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中には「TV局のプロデューサー」「看護婦」といった専門職に就いている者もいて、怪談のレパートリーは学校という枠を離れ幅が広がった。
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実写映像のグラフィックがパワーアップ。
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使いまわしの使用頻度は下がり、アップや部分加工などで上手くごまかせている場合も多い。
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今回も役者の大半を開発スタッフや身内で賄っているとのことだが、前作に比べ劇中における役の設定と見た目との間に大きな違和感はない。
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分岐を司るフラグの管理方法に、新しいものが増えた。
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選択決定までに一定以上時間がかかった場合に特別なルートに分岐したり、どの選択肢を選んだかに関わらずランダムで分岐したりといった方式がある。
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ランダム分岐は『四八(仮)』において問題となったが、本作は話が分岐した後もそれなりに選択肢が用意されているし、エンディングを回収するタイプのゲーム性ではないので『四八(仮)』よりはずっとマシ。
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後述するような問題はあるが、おふざけシナリオのふざけ具合は相変わらずで笑える人は笑える。
賛否両論点
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良夫の6話目は、1話で短編怪談を7本聞けるというもの。
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ボリュームがあるのはいいことだが、分量配分がアンバランス。
問題点
前作で好評だったシナリオのバリエーションの豊富さやシナリオ自体の面白さが、本作でパワーダウンしている。
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選択肢が1つもない短い7話目の数が4本に増えている(前作は2本)。
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選択キャラ6人中の4本、つまり過半数である。隠しシナリオを含めても半数。しかもそれらは救いのない結末しか無い。
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「選択肢や結末の種類が少ない」「一応違う結末だけどあまり代わり映えしない」「そもそも怖くない」といった、残念なシナリオの割合が上がっている。また、全体的に文章量が増えたと共に冗長感も増した。
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選択→即死のデッドトラップで結末を水増ししている話もある。
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和子6話目は正規ルート以外の分岐は全てゲームオーバー確定。一つの分岐に複数パターンがある場合もあるが、結果は同じである。しかもある分岐では「このまま進むとゲームオーバーになりますがいいですか?」→「ゲームオーバーはごめんだ」というメタな選択肢が存在するが、これを選んでもやっぱりゲームオーバー。
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それに輪を掛けて厳しいのが和子7話目で、グッドエンドが1つしかなく、少しでも選択を間違うと即ゲームオーバーである。
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「AとBのどちらだと思う?」という質問に対し、「A?そんな訳無いだろう、正解はBだよ」などと言われて強制的にBルートに進むといった、意味のない選択肢が前作『学怖』よりも多くなっている。
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泰明6話目はドラマ撮影スタッフが洋館を探索するというものだが、「まず館中を全て回り、2周目で各所にビックリ演出」という判りやすすぎる構成。それ自体は良いとしても、内容の薄さの割に無駄にボリュームばかりが多く不評である。
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回る部屋も無駄に多く、入っても汎用テキストが流れるだけの意味のない部屋も少なくない。更にこのスタッフ達の掛け合いもまた無駄に長く、ただ冗長になっているだけ。ライターが「怪談を聞かせている」というシチュエーションを忘れているかのような細かさである。
更に「横で気配がして俺は振り向いた」→「えっ…」→「花田さんだった」、「俺は気配を感じて振り返った」→「河口君がそこに立っていた」など、恐怖でも何でもないごくごく普通の事すらいちいち思わせぶりに語るため、冗長さに拍車が掛かっている。聞き手の6人も退屈極まりなかったことだろう。というかそんな細かいところまで再現すな。
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しかも一見探索型ADV形式のように見せかけて、実は最終的な結末を冒頭の選択肢のみで決定づけている。鍵を探して館内を歩き回るパートでも、全部の部屋を回って「結局鍵は無かった」という流れで進むので、長ったらしい探索そのものには実は意味は無い。プレイ時間の引き延ばしとしか思えない構成になっている。
それに加え、館で発見した数々や上述したビックリ演出は伏線でも何でも無く、どの結末とも殆ど無関係という有様。冗談抜きでプレイ時間の引き伸ばし以外の何物でもない。
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泰明6話目の分岐について ※ネタバレ注意
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ある作家が亡くなった時のことを覚えているかと聞かれるが、ここで「うん」と答えないとラストでゲームオーバー確定。
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覚えてるも何も作中世界のことなどプレイヤーは分かるはずもなく、初見では詳しく教えてもらえると思って大抵「知らない」と答えるだろう。それが既に罠である。
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更に次の「(その作家の)どの作品をドラマ化することになったか覚えてるかな?」という質問で「最高傑作」「処女作」「遺作」の中から「遺作」を選ばないとゲームオーバー確定。
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選んだ作品に応じて結末が変わるだけならまだしも、無駄に長い探索パートを必ずさせるのは不親切としか言いようが無い。しかも攻略情報無しでは、まさか最初の選択肢で全て決まっていたなどとはわかりにくく、膨大な選択肢の中から見当外れの場所を調べがちである。
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また、最初の選択肢で「知らない」と答えた場合でも、クリアルートと同じ「遺作をドラマ化することになった」という流れで進むのだが、結末は「処女作をドラマ化することになった」展開と同じ。何故ここで分岐先を変えてしまうのか。
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極め付けには、なんとかゲームオーバーを回避した所でこのルートは上述した「選択肢が1つもない短い7話目」に当たるため、ゲームオーバーと何が違うのかと言いたくなるような救いのない結末を迎える。それも唐突且つ理不尽なオチで、他のルートと比較しても理解に苦しむ。
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説明書には「7話目は遅れていた和弘というキャラがやってきて話す」とあるが、嘘である。
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登場しても話などしないし、そもそも登場しない話まである。せっかくのシチュエーション設定が活かされていない。前作の「7人目の語り部」のようなものを期待すると確実に拍子抜けする。
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隠しシナリオ「石の話」が地味。
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特定の順番で語り手を選ぶと出てくる隠しシナリオだが、前振りが長いわりに伏線的な描写を回収する内容ではなく、盛り上がりに欠ける。しかも結末のバリエーションが少なく、オチも単調である。
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ちなみに、前作における同類の隠しシナリオは、条件を満たすまでの話の展開と隠しシナリオの内容の関係が深く、話を盛り上げる演出も凝っていた。同じレベルのものを期待すると、ほぼガッカリする。
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単純に隠しシナリオ数も減っている。また、途中のシナリオに差し代わるものばかりで、締めを飾るのはこの「石の話」と後述の「風間」のシナリオだけ。前作のような最終シナリオも存在しない。
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語り部のキャラ付けが極端
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『学怖』の語り部が狂気的な内面を宿していても基本は「どこにでもいそうな怪談好きの高校生」だったのと比較すると、本作の登場人物はまず基本設定からして妙にエキセントリックな性格をしておりクセが強い。
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怪談の内容も語り部の個性や主観・偏見などを前面に押し出した話が多いため、『学怖』のような王道のテーマと比べると好みが分かれやすい。
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これは主人公の葉子も例外ではない。選択肢などに関係なく、年下の従兄弟の良夫を「バカ夫」「親戚だなんて思いたくもない」などと心の中で散々に罵倒し、理由もなく痛めつけ、子供の頃に「何となく」川に突き落として殺しかけているなど、やりたい放題である。
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システム面が改悪されている。
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現在の語り手を選び直す機能や、以前のシナリオに戻って読み直す機能が失われた。
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文章の早送りの仕様は、前作ではページ全体を瞬間表示していたところを今回は段落単位とやや鈍足化。
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同じセーブファイルで100周回以上した状態でセーブすると、そのセーブファイルは消されてしまう。もちろん、なんの説明もない。
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本作はSFCソフトとしては珍しく5箇所にセーブできるのだが、このときに備えてという仕様だったのだろうか!?
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もっとも、サウンドテストの追加曲(ED曲)以外には周回引継ぎによる隠し要素などは存在しないので、実害は少ない。そもそもこのゲームを好んで100周もする
暇人物好きはそう居ないだろう。
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ちなみに前作では、100周目をセーブすると表示が「第 周目」となり、何周目なのかがわからなくなるだけだった。
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ゲームオーバーになりやすく、クリアの困難な話がある。
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前述の和子7話目、泰明6話目に加え、序盤の5択のうち3つはその後様々に話が展開しつつも結局ゲームオーバーに至る正美6話目などが代表的。
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前作では7話目に限り、どんな結末を迎えても(バッドエンドであっても)その周はクリアとなり、セーブして再び第1話から始められたのだが、本作ではバッドエンドを迎えるとゲームオーバーになる。もちろん、そのシナリオの最初からやり直し。他の分岐を見たい場合ならともかく、次の周に移りたい時は地味に面倒である。
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同時期の『学校であった怖い話S』も同様の仕様だが、あちらはバッドエンドとゲームオーバーと区別されており、ある高難易度シナリオ以外はゲームオーバーは少ないのでそのシナリオを除けば(その分、当該シナリオの理不尽さは際立っていたが)特に問題ではなかった。しかし本作の最終話の大半はゲームオーバー地獄か分岐無しのどちらかとなっている。
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ゲームオーバーの理由が意味不明なものが多々ある。主人公が途中で死亡したり怪談を打ち切るゲームオーバーは『学怖』にも存在したが、本作は主人公も語り部も健在なのに「怪談の内容が真相に辿り着かなかったから」などの理由でゲームオーバーになる事がある。
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前作の「風間望」が語っていたような…というか風間自身が登場するあまり怖くないおふざけシナリオ6本は、語り手6人の持ちネタのうちに1本ずつ紛れ込む形で今回も続投しているのだが…。
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語り手6人中1人がギャグ担当という配分なら息抜きとも受け取れるが、本作では運次第で1周の内に2回も3回もネタ話に当たってしまう可能性がある。
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あろうことか、ゲームスタート時にデフォルトでカーソルが合っている人物の1話目が風間シナリオである。
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これらのシナリオで中心となる「風間」は異常に濃く、前作を知らないと「何だこのふざけた話?」との感想を抱きがち。知っていても少し辟易するくらいである。
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しかも全話を風間シナリオで埋める(且つ条件を満たす)と、最終話も風間シナリオになってしまう。確率は凄まじく低いだろうが、前作を知らない人が意図せず偶然それに当たった日には…。
総評
数多くのシナリオが詰め込まれた怪談ゲームというコンセプトは『学怖』と同じである。
グラフィックなどのパワーアップも果たしたが、残念ながら前作ほどの高評価は得られなかった。
それはシステム面やシチュエーション設定などが「前作と比較した場合に見劣りする」との相対的な見方でもあるだろう。
だが、やはり本作のシナリオはそれ自体に魅力が足りていなかったのではないかと思われる。
話が多彩に分岐して結末が変わるシステムやサウンドノベルならではの恐怖演出なども、本作発売時点ではみな使い古されてしまっていた。
単体のゲームとしてみればシステム面の不便さやシナリオの不安定さはあるが、語り手を選ぶ順番によって変化する40本以上ものシナリオを盛り込んだサウンドノベルであり、
ボリュームを重視する人ならそれなりに楽しめるだろう。
余談
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ATOKなどの日本語入力システムに「つきこもり」と入力しても変換できない本作題字の「晦」だが、「つごもり」で変換できる。この読みは「月隠り(つきごもり)」が転じたものであり、作中のある最終話でも、この月隠りに関するエピソードが登場する。
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DB芸人の完全体セルとしての活動で知られるスタジオカドタ氏が本作の朗読を行った事があるが、6話目によりによって上述した泰明のシナリオに当たってしまっている。
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その結果、氏の珍妙な朗読も相俟ってこのシナリオだけで3時間近い大長編になっている(他のシナリオは30分~1時間程度だった)。当該シナリオの冗長さが改めて分かる一幕であった。
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しかも氏は最初の選択肢で(話の流れ通り)ゲームオーバー確定のものを選んでしまったため、時間を掛けた挙句に最後はゲームオーバーで終わってしまった。
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『学怖』は飯島氏によって同人作品群「アパシーシリーズ」として再構成され、現在も展開されているが、本作については特に新展開は無い。
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しかし『アパシー 荒井昭二』に本作の山崎哲夫が登場したりと、忘れられている訳ではないようである。
最終更新:2022年11月27日 17:25