SOMA
【そーま】
ジャンル
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SFホラー・アドベンチャーゲーム
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対応機種
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Windows(Steam/GOG.com/Epic Games Store) Linux(Steam/GOG.com) Xbox One プレイステーション4
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開発・発売元
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Frictional Games
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発売日
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【Steam/PS4】2015年9月22日 【GOG/One】2017年12月1日
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定価
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3,400円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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ESRB:Mature (17歳未満プレイ非推奨)
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備考
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日本語なし。コンソール版は日本未発売 PC版は日本語化Modあり
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判定
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良作
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ポイント
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実存哲学を題材としたSFストーリーが魅力 ストーリーと孤独感あふれる雰囲気は高く評価されているが、サバイバルホラー要素は薄め。
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「現実とは、それを信じることを止めても消えないもののことである」 - Philip K. Dick
概要
『Amnesia: The Dark Decent』『Penumbra』シリーズで知られるカナダのインディーデベロッパー、Frictional Gamesの5作目のタイトル。
これまでのラヴクラフト的内容を舞台とした過去作から一転して、本作はSF世界を舞台にしている。
本作の"SOMA"という題名はギリシャ語の"σῶμα"、人の物体的な肉体(精神と切り離して考えたもの)を意味しており、プラトンやアリストテレスなどの古代ギリシャ哲学者によって、心と体の関係を考察する際に使われることが多かった単語。 本作のストーリーはAIといったSF技術を通したその「心と体の関係」を題材としている。
本作の開発は2010年からスタートしており、「深海を舞台にしたSFホラーゲームを作りたい」という思いから、独自エンジンのHPL Engine 3のアップデートと同時に始まった。
2013年時点で『Depth』というタイトルであらかた完成していた作品ではあったが、ストーリーの方針転換によりほぼ作り直されることになった…という『Half-Life 2』と似た開発経緯を持っている。
あらすじ
2015年、どこにでもいる本屋の店員、サイモン・ジャレット(Simon Jarrett)は、ある日交通事故に巻き込まれてしまい、彼女を失い、同時に自身も脳に致命的な傷を受けて、余命数ヶ月であることを言い渡されてしまう。
サイモンの状況を思ったのか、神経科学者であるデイビッド・ムンチ(David Munchi)に招待され、「脳の治療に役立つかも。」ということで実験も兼ねてPACE Laboratoriesで新技術の脳スキャンを受けることになるが、スキャンが終わるといつの間にか100年後、廃墟と化した水中の研究所「PATHOS-II」で目覚めることになる…
評価点
よく出来たミステリーストーリー
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ごく普通の一般人がいつの間にか水中研究所で目覚める…という筋から始まるストーリーで、どうやってタイムスリップしたのか、ここで何が起きたのかというミステリーが徐々に明らかになっていく中、「人であるとはどういうことなのか?」という哲学的な問いかけを投げるストーリーは常に先が気になる話で非常に面白い。
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特定の人物(?)との会話イベントやモラルを問う選択なども、ストーリーの哲学的テーマを掘り下げる内容として一役買っている。
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設定もよく練られており、PATHOS-IIがどういう施設なのか、AI関連の技術はどうなっているのかも細かく設定されており、考察好きにも興味深いものになっている。
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また、メモやコンピュータに残されたオーディオログやドキュメントも『The Talos Principle』のように大惨事の中、かろうじて生き伸びてた人々が人間性を保とうとする生活の跡はとても読んだり聞いたりしてて熱中できるほどに力が入っている。
よくまとまったキャラクター
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主人公の「サイモン・ジャレット」とヒロインである「キャサリン・チュン(Catherine Chun)」の立場も考え方も違う二人のやり取りはよくできている。
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彼らのロボットや人間に対する感じ方、世界の見方、思想の違いはキャラクターのなかで時に対立を起こし、そのストーリーもテンポが崩れない程度に掘り下げてくれる。
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彼らの会話は本作の陰鬱な世界設定としては少しコミカルではあるものの、ただ暗いストーリーを却って際立たせる、塩キャラメルの塩がキャラメルの甘さを際立たせるように、ストーリーをより味わい深いものにしている。
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他にも、カール・セムキン(Carl Semken)や、サラ・リンドウォール(Sarah Lindwall)など、チョイ役程度でしかないキャラクターにもほどほどの量で個性を十分に引き出してくれるセリフが用意されている。
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声優の演技も非常に上手で、キャラの大半は(設定の都合上)声だけの出演ではあるもの、喜怒哀楽の感情を声だけで表現しきっている。
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中でも、サイモンとキャサリンのエンディングの演技は見事。
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そのため、現地での本作のキャラの演技評価は非常に高い。
不気味で孤独感あふれる音響と雰囲気
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ただ唯一歩ける自分の足音だけ廊下には響きわたり、壊れた機械はノイズを発しつづけ、ゾンビ化した人間は床に横倒れ呼吸を続ける…
世界観構築に活かされるパズル
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『The Secret of Monkey Island』といった良質なアドベンチャーゲーム同様、本作のパズルはただののパズルで終わっていなく、世界観構築にもうまく活用している。
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「ストラクチャーゲル」や、「Omni-tool」といったデバイスを活用するパズル、どれも本作の世界観をうまく活用しており、同時にアイテムがどう動くかといったSF設定も掘り下げてくれるため評価は高い。
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中でも「Brandon Wan」を利用したパズルは本作のストーリーのテーマを象徴するものとして、非常に評価が高く、記憶に残るプレーヤーが多い。
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また『Amnesia』譲りの物理演算を活用した物理アイテムを動かす仕組みや、ゲーム内のパソコンのUIもきっちり作られている。
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そのため、レバーを動かす、アイテムを移動するといった些細な動きも地味に作り込まれており、没入感を上げるのに寄与している。
没入感を高めてくれる一人称視点
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本作は一人称視点のカメラでストーリーが展開される。それ自体は変哲もないことではある。
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一人称視点がストーリーの没入感を上げてくれるということは『Half-Life』ですでに証明されたことではあるが、本作は一人称視点の使い方においてその上を行く。
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「信頼できない語り手」を利用した世界観のテキストを使わない説明や、コピーにおける「コイントス」の意味など、最初から最後までそれを活用して展開する。
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この一人称視点の演出のおかげで人において「連続性」とはなにか?を問うストーリーの哲学部分について説得力を持たせている。
(インディー作品とはいえ)力の入ったグラフィック
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グラフィックはインディー制作故、同年の『The Witcher 3: Wild Hunt』と比べるとどうしてもAmbient Occlusionやポストプロセス、3Dアセットの質といった面で見ると劣ってしまう。
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それでも同社の『Amnesia: The Dark Descent』から正当な進化を遂げており、「放棄された不気味な水中研究所」の雰囲気を丁寧なライティング配置や物理演算、物語の説得力のあるように配置された小物、そしてなにより天井から漏れるストラクチャーゲルといった細かいポイントで表現しきっている。
DRMフリー
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そこまでの評価点でもないが、本作はPC版であればSteam・GOGの販売サイトに関わらずどこで買ってもDRMフリー。
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そのため、「インターネットにつながらない」「突然Steamにアクセスできなくなった」といった事態になっても本作を遊びたい時に便利かもしれない。
そして、本作のような世紀末な世界になっても遊べる…が、そうなってしまえば本作をプレイする余裕はないだろう。
賛否両論点
エンディング
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できるだけネタバレを伏せて表現するとサイモンがゲーム全体でキャサリンからとことん説明された内容であるのにもかかわらず、最後の最後で納得しないというオチ。
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「置いていかれる者の寂しさ」という点を表現するためにも必要であったし、「脳にダメージを受けている」というサイモンの状態もあるので辻褄は合うのだが、プレーヤーにとっては「あれ?」と思うことも。
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とはいえ、このエンディングを美しいと評するプレーヤーも多いので、いいエンディングと取るかダメなエンディングと取るかは少しプレーヤーの中で賛否が分かれる。
WAU関連の設定
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一応本作のストーリーに関わっている「WAU」の存在だが、全体的に描写が物足りていない感が強い。
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WAUの存在も本作のテーマにも深く関わっているし、設定も豊富で所々に面白い描写はあるが、シーン描写が足りてないせいであまりゲームのストーリーに溶け込めきれてない。
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特にゲーム終盤にWAUを壊すかそのままにするかを選択するシーンがあるが、適当に取ってつけたかのようなシーンで、WAU関係のシナリオの消化の雑さが否めない。
問題点
(ノーマルモードで)怪物が怖くない
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事実上の前作である『Amnesia: The Dark Descent』から「正気度」やランプのリソース管理などといった要素が廃止されているため、敵遭遇でのゲーム性は鬼ごっこに毛が生えた程度でかなり薄い。また、敵配置やバランスもそれと比べると雑。
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一応、最初の敵である「Construct」、中盤の「Terry Akers」との遭遇はテンポよくまとまっているため、そこはそこそこ怖く楽しめるが、段々と敵の攻撃ステータスや配置、マップ構造が後半になるに連れ段々雑になっていき、よっぽど下手でない限り簡単に逃げられるようになってしまうため、ゲームが進むに連れだんだんと怖くなくなっている。
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簡単とはいえ、気をつけなければ行けないのは変わらず、時間を取られるため、この怪物から逃げるところはゲームのストーリーのテンポを阻害することにもなってしまっていてる。
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結果的に、敵を無効化する「Safe Mode」のほうが、却って「雰囲気がより出て怖い」「無害とはいえ敵がウロウロしたままなのは精神的に辛い」「ストーリーに集中できてかえって恐怖を感じる」という意見が多くを占め、却って怖くなるという皮肉な結果になってしまっている。
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これから遊ぶ方はよっぽどの理由やこだわりがなければ、Steam実績が入手できないわけでもないので、「Safe Mode」で遊んだほうがいいかもしれない。
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ちなみに、その「Safe Mode」はあくまで敵がプレーヤーを殺さないだけで、近づきすぎたりちょっかいを出したりすると襲ってくることがある。ただし死ぬことはない。
オーディオログ・ドキュメントを見返せない
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ゲーム途中で拾ったオーディオログ・ドキュメントを聞ける・読めるのは発見したときだけで、一度過ぎてしまえば見返せないようになっている。
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サイモンとキャサリンが関わる本筋はわかりやすいが、世界観設定となると少し理解が難しいストーリーなので、見返せる機能が欲しかったところ。
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幸いにもゲーム自体は短め(6-8時間)なので、どうしても気になるなら周回して遊んでもいいし、何ならYouTubeのプレイ動画を見ていく、SOMA Fandom Wikiから見る程度でもいいかもしれない。
最適化不足
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HPL3 Engineのレベルストリーミング機能がまだ未熟なのか、PC版であればリメイク版『Dead Space』のように新しいエリアに到着するとPCスペックに関わらず一定の頻度でスタッターが発生するため、気になる人は気になるかもしれない。また、60fps以上のfpsを出すオプションも存在するが、正しく機能しない。
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PS4/One版もまた30fpsで固定されており、PS4Pro/PS5、OneX/XSX用に画質・フレームレートを上げる次世代機パッチも配信されていないため、たとえよりより性能の高いゲーム機でも1080p30fpsに固定されてしまう。
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一応、ゲームそのものは軽いので、スタッターにさえ目を瞑れば、ゲーム自体は安いIntel内蔵GPUしか無いノートパソコンでも遊べるくらいには動く。
総評
「モンスターが怖くない」というサバイバルホラーゲームとしては結構重大な欠陥を抱えてはいるものの、それをもっても有り余るシナリオや世界観の完成度をもっており、『MYST』の系統のウォーキングシミュレーターとして見ればそれだけで十分満足できる作品。
人間の「アイデンティティ」と「自我」、そして「人間たる意味」について考えさせられる哲学的テーマを扱い、深い設定と興味深いキャラクター、テーマを掘り下げるパズルで味付けされたストーリーは非常に奥が深いものになっている。
鬱ゲーが好き、SFミステリーストーリーが好きという方はもちろん、『Spiritfarer』や『The Talos Principle シリーズ』『To the Moon』といった生きる意味を問いかけるストーリーのゲームが好きな人であれば強くおすすめできる良作。
余談
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IMAGOS Filmsによって本作を題材にしたWebドラマシリーズ『SOMA: Transmission』と『Vivarium』『Mockingbird』がFrictional GamesのYouTubeチャンネルにて公開されている。
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非常に力が入っているが、残念ながら英語のみ。
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本編にも少し関わっていて、話の辻褄は合って入るが、あくまでプロモーションが主な目的といった感じで、本作のプレイには見なくても支障はない。
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これに加えて本作の映画化が2016年公開と計画されてはいたが、2024年現在続報が何もないまま。
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本作の前身である2013年の『Depth』だが、WAUが人格を持っていたり、K8ロボが本当は化け物だったり、サイモンの妹が生き返って襲ってきたりと、本作よりホラー要素が強かった。
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ただ、設定を詰め込みすぎたため、何がストーリーの主題なのかわかんなくなっていて、相当とっ散らかった内容になっている。
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そのため、厨二心をくすぐられるビジュアルや設定がある故没になった設定が惜しまれることが多い『Half-Life 2のベータ版』と違い、『Depth』は復刻Modがそこまで活発ではない。
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一応、『Depth』含め、本作開発中の映像などの内容がSOMAがインストールされたファイルの中にある「supersecret.rar」に隠されているので、興味があれば見てもいいかもしれない。
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本作はAIを主軸とした「人間で有ることの意味」を問いかけるSFポスト・アポカリプス作品として、一年先にリリースされた『The Talos Principle』との類似点がファンから指摘されている。
最終更新:2024年12月11日 14:08