Spiritfarer
【すぴりっとふぇあらぁ】
ジャンル
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マネジメントシム&プラットフォーマー
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対応機種
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Windows(Steam/GOG.com/Epic Games Store) Linux(Steam/GOG.com) macOS(Steam/GOG.com) Xbox One PlayStation 4 Nintendo Switch Android/iOS(Netflix)
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発売・開発元
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Thunder Lotus Games |
発売日
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2020年8月18日(海外PC版) 2020年 9月 29日(コンソール版&国内リリース)
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定価
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3,400円(PC・コンソール版) 無料(iOS/Android版) |
プレイ人数
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1~2人
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レーティング
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CERO:B(12才以上推奨)
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判定
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良作
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ポイント
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魂の旅人「ステラ」と出会った死者たちを巡る物語 生活シミュのゲーム性と濃厚な物語を融合させた傑作 かわいい見た目と裏腹に題材は良くも悪くも大人向け
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概要
カナダに拠点を置く、Thunder Lotus Gamesの3作目。XboxのE3 2019 Showcaseで発表された。
過去作の『Jotun』や『Thundered』などと比べると明るい作風が特徴。
魂の旅人であるステラを操作し、動物の姿で現れる死人の魂と共にほのぼのと旅を続け、心残りのケアをしながら、生前の心残りを晴らすことでエバードアへと旅立たせ準備を行うのが目標。
本作の設定の一部はギリシャ神話から基づいた内容で形成されているが、
死者を見送る、ともに生活するというテーマは映画「千と千尋の神隠し」を代表とするジブリ映画や日本の水彩画の影響も強い。
最終アップデートによって題名が『Spiritfarer: Farewell Edition』と変更されているが、基本的に『Black Mesa: Definitive Edition』や『Metro Exodus: PC Enhanced Edition』と同様の無料最終アップデートによるタイトル変更なので、ここでは無印版と同様に扱う。
あらすじ
エバードアの目の間で目覚めた少女「ステラ」はペットの猫「ダフォディル」を伴って、ギリシャ神話に登場する「カロン」にスピリットフェアラー(魂の旅人)としての使命と魔法のエバーライトを託される。
「カロン」がエバードアへと旅立ち、その後、鹿の姿で現れる彼女の幼馴染「グウェン」と大きな船を見つけたステラ。
そんな事で、スピリットフェアラーを任されたステラの死人の魂を見送る、長い、長い旅が始まるのであった…。
特徴
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本作のゲームプレイは主に2つの要素で構成されている。
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船上のマネジメントパートと、下船してアイテムを収集したりクエストをこなすプラットフォーマーパートに分かれている。
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マネジメントパートでは魂の為に調理をしたり、アイテムのクラフト、船上の家の建築や農業要素といったものをこなしていく。
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他にも、魂の世話、ご飯、ハグといった生活シム要素も部分的に入っている。
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クラフトツールを新たに作ることでアイテム製作の幅を広げていくのは『Minecraft』や『Subnautica』に近い。
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プラットフォーマーパートではクエストをこなしていったり、アイテムを収集したりすることでマネジメントパートを進めていく。
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一定の魂を船に招待することで得られるオボルで祠を開放することで、ダブルジャンプ・パラシュートなど様々なアクションが開放される。
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こうして収集したアイテムや、アンロックしたアクションで今まで行けなかったところに侵入することが出来るようになる。そういった点では、メトロイドヴァニア要素も部分的に見られる。
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ローカルCo-Opに対応している。
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1人はステラ、もう1人のプレーヤーは猫のダフォディルを操作することが可能。
評価点
深くも美しいストーリー
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本作の長い旅の中で、ステラと他の魂との間でゆったりと流れる時間、その中で知ることになる魂たちの過去、ステラたちと関わることで彼らに起こる変化、そして最後には受け入れなければならない別れを通して描かれるストーリーは心に残る。
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その旅だけでなく、本作は「ステラ」とその親族・友達・知り合い、そして彼女自身の記憶を巡る旅であり、彼女が何者であるか、この世界の真実・正体とは何か、ゲームを進めながら紐解いていく。
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様々な魂の心残りの世話をしながら彼らに付き添うことで愛着が生まれるが、いずれは別れなければならない。そして別れる間際に行われるハグは強く印象に残ることだろう。
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中でも「ハリネズミのアリス」のストーリーの評価は高く、特に最後は非常に効果的で切なく本作を象徴するシーンとして人気が高い。
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その表面下で様々な魂やオブジェクト・島がメタファーとして表され、その少ない情報からキャラの背景を考察していくのは『SILENT HILL 2』の感覚に近いかもしれない。
ストーリーとマッチしたマネジメントシム
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本作のマネジメントシムとコミュニケーションを合わせた内容はその印象にも強く繋がっていく。
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死んだ魂の心残りや気分を晴らしていき、旅立ちを手伝うというループはストーリーを語る上で非常に重要。
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彼らの頼みで建てた家が、彼らが旅立った後には空き家になってしまうのを見るのは心に来るものがある。
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他にも客人たちが教えてくれたアイテムの作り方や、彼らがいなくなった故食べることの無くなった料理、買う必要の無くなったアイテムなど、ゲームをプレイしていく中で甦る過去の記憶が切ない。
美しいビジュアルと滑らかなアニメーション
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本作のキャラクターアニメーションは非常に丁寧。
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他の過去作の『Jotun』や『Thundered』譲りの手書きで描かれたキャラは操作すれば軽やかに動く。
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『時と永遠~トキトワ~』と違って、アニメーションもどれも丁寧で滑らか。操作すればアニメーションもその通りに動くため、操作感の良さにもつながる。
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そのおかげでステラや魂たちの表情はとても豊かで見ているだけでも楽しい。
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その上でグラフィックも美しい。
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それぞれのキャラクターのスプライトはくっきり写っていて2Dのアニメゲームとして美しい。
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その明るくキレイなキャラクターに加え、画質エフェクトによる影響も良い雰囲気を与えてくれる。
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ゴッドレイやスクリーンスペースリフレクション等のエフェクトは本作の絵柄とマッチしつつ、雰囲気を引き立ててくれる。
魅力的なキャラクター
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本作のキャラクターはどれも魅力的。
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主人公の元気で可愛い少女の「ステラ」・その幼馴染で親しく接してくれる鹿の「グウェン」・体が大きく仕草が豊かなカエルの「アトゥル」・いつもジョークを噛ましてくれるサメの「アルバート」など。キャラクターはどれも愉快で設定も深く、船旅を続ける上で親しみを持ちやすい。
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キャラクターデザイン・アニメーションの彼らの豊かな動きもキャラクター性に寄与してくれている。
優れた雰囲気
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雰囲気も素晴らしく、手書きで描かれた世界は旅を彩ってくれる。
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海を船で旅するゆるさ、美しさ、そしてどことない不安感もビジュアル・サウンドによって上手く醸し出してくれる。
素晴らしいサウンドトラック
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本作のサウンドトラックはMaxime Lacoste-Lebuis氏が担当。
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メインテーマの「Spiritfarer」・お別れの「Last Voyage」・雨の中の「Rain」|冬の村の「Winter Village」など、どれも本作の雰囲気とマッチしていて、聞いていて心地よく、リラックスできる。
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どの曲も笛やピアノを基調とした曲調ではあるが、しっかりメリハリがついており、使い方も非常に効果的。『Xenoblade Chorenicles 3』で指摘された音楽の地味さ・記憶の残らなさといった問題もない。
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その中でもエンディングテーマの「What Will You Leave Behind」は最も人気が高い。
主人公を動かしていて気持ち良い
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地味な評価点ではあるが、本作の主人公、ステラのアニメーションはアニメーションの滑らかさもあって動かしていて気持ちいい。
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ゲームを進むごとにメトロイドヴァニア系のゲームのように様々な能力が開放され、ダッシュ・二段ジャンプ・パラシュートなど行けなかった場所に行けるように成長できるのも気分がいい。
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とはいえ、基本船での移動なのであまり活かされない要素ではある。
丁寧なローカライズ
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本作のローカライズは過去に『Half-Life: Alyx』の日本語ローカライズ翻訳を手掛けた、架け橋ゲームズが担当。
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キャラクターの会話・ジョーク・ゲームの世界観背景にも加えて丁寧にローカライズされており、元々日本語前提で作成されたのかと疑うほど。
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なお、HL: Alyxと違い、実績名までは何故かローカライズされていない。
賛否両論点
題材が重めで複雑
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『どうぶつの森』にも近く、人のように振る舞う動物との交流を題材とするゲームではあるが、それとは違って本作のストーリーは意外と陰鬱。
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それぞれの客人は記憶を失う重い病にかかる、自殺を図る、失踪する、精神的な病を抱えている、トラウマを抱えているといった陰鬱な展開も多く、人によっては心に来る展開も多い。
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とはいえ、そうした要素は本作の設定、死を問う世界観とはとても切っても切れない関係にあり、ストーリーに深みを与えてくれ、本作を本作足らしめる要素でもあるが、人によっては不快に感じるかもしれない。
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また、これらの描写は繊細でさりげないため、それはそれで深いのだが、『Hellblade: Senua's Sacrifice』や前述した『Spec Ops: The Line』などと違い直接的でないため少し分かりづらいのも賛否が分かれるところ。
ぼかされたストーリー
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良くも悪くもステラの船とその客人とのの生活がメインであるので、この世界の正体などについてはあまり語られない。
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主人公のステラ自体も『Hotline Miami』のジャケット同様、信頼できない語り手であり、どこからどこまでが夢なのか、事実なのかは意図的にぼかされている。
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ただでさえストーリーはぼかされているのにもかかわらず、客人の魂の設定についても同様。
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客人の設定も明確に表されるのは彼らの言動やセリフのみで、そこから先は家・ハグの仕草から考察する必要があるので、不親切なことにアートブックでしか明らかになってない要素もある。
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とはいえ、その分様々なゲーム内での描写と裏設定を照らし合わせることで考察のしがいがあるともいえ、本作のストーリーを構成する要素としても重要な内容でもあるので、一概に悪いか良いかも言えない。
素材収集とミニゲーム性
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一般的なマネジメントシムではワンボタンで済む要素ではあるが、本作はそうはさせてくれない。
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木を切る時は移動キーを左右に動かして木を切り倒し、鉱石はタイミングに合わせて鉱石を掘る事で採掘する。
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一般的なマネジメントシムに慣れているのであれば、この一風変わった要素は味変として良いのだが、人によっては面倒と感じることも。
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丸太を木材に加工するとき、糸を布に加工するときなどもそれぞれ、線を沿って上下に動かさなければいけない、目印にピッタリと合わせないといけないと、効率よくやれれば気持ちいいのだが、ここもまた面倒と感じる点もある。
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中でも顕著なのが鍛冶屋のミニゲーム。金属を板に加工するとき、ハンマーが熱を持ちすぎないようにハンマーを叩くのだが、ここはどうしても時間がかかる上、ゲーム性も乏しいため面倒。
割とあっさりとしたエンディング
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ネタバレを控えて言うとこのような感じである。
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これといった特別なシーンもなく、いつもと同じシーンで終わり。特に特別なセリフも無し。
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ただ、設定をしっかり見るとこのエンディングも筋が通っていると言えなくとも言えないのが難しい。
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それでも筋が通っているとも言える理由。シナリオの核心に関わるネタバレに注意。
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そもそもこのゲームの世界は死にかけのステラが完全に死を迎える前の走馬灯のようなもの。
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これまで出会った人々との記憶を元に形作られたものである。
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そうしてエバードアを自ら通るステラは、誰にも、そして彼女の周囲で起こった死への恐怖を受け入れることであり、彼女がまたその客人と同じようにエバードアを通るのである。
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そうしたストーリー背景がある以上、単純に悪いと断言できないのが難しいところ。
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問題点
マネジメントシムとしての不便さ
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ストーリーを語る上でこの要素は大事なのであるが、ゲーム性としては弱点が多い。
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船は『バイオハザード4』のインベントリのように拡張しながらテトリスみたいに建物を敷き詰めていくのだが、2Dスクロール制なので行ったり来たりがやや面倒。
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その上、船は夜では動かないなど、そういった必要のない要素が不便さを掻き立てる。
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いくつかの要素はFarewell Editionアップデートで改善されたが、それでも不便さは残る。
一部のアニメーションのスキップが効かない
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物を取り出すときや、キッチンから料理を取り出すとき、作物を引っこ抜くときに一々アニメーションが入る。
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これらのアニメーションは前述の通り凝ってはいるものの、長く、スキップ出来ないので妙にテンポがダレる。
案内が不親切
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クエストで「どこに行くべきか」「どのアイテムを収集すればいいのか」といった目的は明記されるが、地図上の位置やアイテムの場所などをマーカーで明確に示してはくれない。
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そのため、不器用なプレーヤーはゲームの進行に支障をきたす場合がある。
バグの多さ(その多くはアップデートで改善済み)
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度重なるアップデートのおかげでこの問題はほとんど改善されているが、初期リリース版はバグが多かった。
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壁の中でスタックする、客人が突然消える、など。プレイに関わる物が多かった。
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中でも非常に稀だがセーブデータが突然消えるバグに遭遇したプレーヤーも居た。この問題も対策済みであるが、どうしても気になる人はセーブデータのバックアップを行うと良いだろう。
調整不足なCo-Op要素
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シングルプレーヤーゲームをメインにデザインしたためか、全体的にCo-Opモードには調整不足が残る。
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シングル同様、画面の多くを占めるUIや、カメラワーク、シングルと比べると比較的発生しやすいバグ等に問題が残る。
スマホ・Switch版のパフォーマンス
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2Dアート絵のゲームとは言え、ポストプロセスエフェクトなどを使っていたり、高画質で滑らかなアニメーションであることから分かる通り、『Cult of The Lamb』同様、PS4/Oneでの8世代ハードウェアでの動作を前提としたタイトル。
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なので『OMORI』とったゲームと違って、古いハードウェア・ウルトラローエンドハードウェアの動作を前提に設計されてないため、それに当たるSwitch・旧式スマホ・ローエンドPCではパフォーマンスに支障を来す場合がある。
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Switch版は30~20fpsと安定せず、高負荷によるクラッシュや、テンポを乱す非常に長いローディングなどの問題を抱えている。iPhone 6などの古いスマホではプレイすら困難かもしれない。
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解像度もやや下げられ、スプライトの解像度も引き下げられている故、キャラクターの顔などが潰れてしまっている。せっかくの良いキャラクターデザインをちゃんと味わえないのは少し残念。
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2DのPCゲームとしても比較的重量級。旧式のPCユーザーであればRyzen 3 2200G (Radeon Vega 8)やGTX 750, Radeon RX 550相当のGPU性能を持ったパソコンは安定したプレイに必要だろう。内蔵GPUであれば、VRAMを1GB以上割り当てておくと良い。
総評
死者の魂と共に、海を旅する。
というコンセプトの元、死と人生を深くゲームとしての要素を合わせながら新たな深みに到達した良作。
ゲームとしての問題点は多いが、それを上回るポテンシャルや評価点、そして何より感情を揺さぶるストーリーは十分評価に値する。
世界観・ストーリー・ビジュアル、その1つにでも興味を持ったのであれば、是非おすすめする。
旅立つ時が来た。もう1人じゃない。
余談
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SteamやGOGで配信されている体験版は、どういうわけか固有名詞が英語のまま。
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製品版ではちゃんとカタカナに直っているので、ご心配なく。
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雑誌The Escapistのレビュー動画シリーズであるZero PunctuationのBen "Yahtzee" Croshaw氏は本作の不便な要素やゲームデザインの粗さを指摘しつつも、力強いストーリーと印象的な場面を高く評価した(参照1)。
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後に『Half-Life: Alyx』『龍が如く7 光と闇の行方』を差し置いて、本作に彼個人のGame of The Year賞を与えた(参照2)。
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それが影響してか、The Escapistで開発の経緯を語ったドキュメンタリー動画が制作された。
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英語の動画ではあるが、開発の経緯やベータ版の内容が映されている、開発の心情、影響元など細かく語られているので、英語に自信があるならば見る価値があるだろう。
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Switch版は2023年8月に「いっせいトライアル」の対象に選ばれた。
最終更新:2023年11月26日 15:00