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ツチグモ
発生地:屋久島、榧ノ木
土蜘蛛。
記念すべき最初の魔化魍であり、仮面ライダーシリーズ初回恒例となる
蜘蛛モチーフの敵。
粘着性の糸で罠を張り、獲物となる女性や子供を狩る。
頭胸部が
虎のようになった巨大な
蜘蛛という外見で、実際に虎に似た咆哮を上げる。
これは伝承に残るツチグモが
虎の体に蜘蛛の脚、獣の顔を持った怪物という姿で絵巻に残されているため。
『平家物語』と『土蜘蛛草紙』ではそれぞれ僧侶や女性の姿で現れたとの記述があるが、これらは劇中では童子と姫の目撃談だと設定されている。
榧ノ木山で発生した個体は、洋館の男女の実験によって
ヨロイツチグモと呼ばれる姿へと進化を遂げており、名前の通り体や脚が黒い装甲に覆われ、凶暴性が増している。
体表の装甲によって音撃への耐性も上がっており、
威吹鬼・轟鬼・鋭鬼が一斉に叩き込んだ音撃にさえ耐え抜いている。
余談だが、童子と姫の体液が白いという演出は、この土蜘蛛の伝承にある、
怪物の化けた人間が白い血を流したという描写から来ていると思われる。
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ヤマビコ
発生地:奥多摩、小菅
山彦、または空谷響、幽谷響とも。
巨大な霊長類を思わせる姿の魔化魍。背中には小さな鳥の羽がある。
毒気を含んだ咆哮を放つ。劇中の設定では、野生の猿が変異した可能性が示唆されている。
地域によっては
アマノジャク(天邪鬼)、ヤマンバ(山姥)といった妖怪との関連が語られているが、これらは本作では童子と姫の目撃談だと設定されている。
背中に羽があるという造形は、
鳥取県ではヤマビコを
ヨブコドリ(呼子鳥)という鳥の妖怪として伝承していたため。
奥多摩の個体は体毛で顔が隠れていたが、小菅の個体は顔が露出しており、言われてみれば尖った鼻が鳥の嘴のように見えなくもない。
だからと言ってあの外見で鳥と認識するのは無理があるような気がしないでもない。
ちなみに現存する山彦の絵は
長い耳を持った犬のような姿で描かれているが、これは同じく山中に棲むとされる
ヤマコという猿の妖怪の絵を参考に描かれたのではないかと、妖怪研究家の
多田克己は著書で述べている。
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バケガニ
発生地:房総、日光、大洗、葛野、三浦、佐野、他多数
化蟹。
巨大なカニの姿をした魔化魍。
海と河川、そのどちらにも発生する。
海のバケガニは溶解泡を噴出するフジツボが体表に群生しており、これで獲物の肉を溶かして残った骨を食う。川のバケガニはフジツボが無い代わりに鋏の威力が上がっている。
実際の伝承では
廃寺に出現し問答を仕掛けてくる怪僧の正体とされることが多いが、本作では童子と姫の目撃談だと設定されている。
劇中、洋館の男女の実験過程で大量に生み出されたため、『響鬼』を代表する魔化魍という印象が強い。
『
仮面ライダーディケイド』の響鬼の世界では、従来の個体より巨大かつ複数の腕を持ったバケガニ変異体が封印を解かれるという形で出現している。
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イッタンモメン
発生地:奥久慈、高萩、館林、日高
一反木綿。
巨大な
マンタとツバメを合成したような姿の魔化魍。幼体は水中で暮らし、成長すると飛行能力を得て人間を襲い、体液を吸い尽くして殺す。
伝承では人間に巻き付いて殺すとされるが、これは童子と姫が
布状に変化させた脚を伸ばして攻撃するという描写で表現されている。
本来は
鹿児島県のローカル妖怪だが、『ゲゲゲの鬼太郎』に登場したことで全国区の知名度を得た。
似たような事例として
フスマ(衾)や
フトンカブセ(布団かぶせ)という妖怪伝承が
新潟県や
愛知県に残っているが、横幅が広い造形はこれらを意識してのものだろうか。
実はこの妖怪、
伝承のみで絵が残されていない。我々がよく知る一反木綿の姿は水木しげるの創作である。
上述の通りエイがモチーフなので水棲と設定されているのだろうが、実際の伝承では
特に水辺に出現すると言った記述は無い。
ただし、『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する一反木綿は
水を浴びると再生するという特性が与えられている。
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オオアリ
発生地:藤岡、鳩山、本栖湖
大蟻。
その名の通り巨大な蟻の魔化魍。地下に潜み、強靭な顎と蟻酸で獲物を襲う。
その外骨格は
響鬼さんの鬼棒術・烈火弾をも弾くほどの強度。
日本国内に蟻に纏わる妖怪の伝承は一切存在せず、『響鬼』オリジナルの創作妖怪と考えられる。
一方で『百鬼夜行絵巻』に描かれた木槌を持った黒い姿の妖怪は、一部では
大蟻妖怪と解釈されており、博物学者の
荒俣宏も監修した作品でその名称を用いているため、制作側がその説を参考にした可能性は否定できない。
なお、アンソロジストの
東雅夫は、著書『響き交わす鬼』にて
本来妖怪とは既存の生物を単純に巨大化させたものであるとして本作のオオアリのコンセプトを高く評価している。
◆
オトロシ
発生地:秩父、東秩父
おとろし。別名「おどろおどろ」。
巨大なリクガメと
サイを合成したような姿の魔化魍。岩のような甲羅の側面には不気味な目が付いている。
本来は百年に一度しか発生しないレアな魔化魍だが、劇中ではオロチ現象も含め二度発生した。
作家の藤沢衛彦は自著にて
鳥居の上から落ちてきて不信心者を驚かすと紹介しているが、劇中では驚かすどころか落石を装って
自動車を潰し、ドライバーを捕食していた。
手足を甲羅に引っ込めた状態で、時速660キロという驚異的な速度で空を飛ぶことが可能。その際、黒煙を噴き出して体を覆うが、その姿は絵に残る
長い黒髪を振り乱した巨大な獣の顔そのものである。
十四之巻では、乱れ童子抹殺のためにクグツによって童子と姫のみが大月に発生したこともある。
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オオクビ
大首。
劇中未登場。九之巻、二十八之巻にて言及あり。
お歯黒を付けた巨大な女の顔が宙に浮かびニタリと嗤うというもの。
ゆっくりしていってね!!!
発生に必要な気温・湿度・気圧が後述のウブメと似通っているのは、
実際の伝承では産女と同じそぼ降る雨の夜に現れる女怪とされるからか。
実は当時発売されていた「TVプレイ」という玩具で遊べるテレビゲームには登場しており、そちらでの造形は
腹部の模様が人の顔のように見える巨大な蜂というもの。
大型魔化魍の中でもかなり特殊で、
自力で卵を産み、増殖が可能。
音速で空を飛び、大量にばら撒いた子を用いて獲物や敵に襲い掛かる。
音撃打を再現したゲームなのに管担当の魔化魍を出してどうすんだとか言ってはいけない。
◆
ヌリカベ
発生地:下野
塗壁。
巨大な二枚貝と蓑虫を合成したような姿の魔化魍。遠目からだと巨木のように見えなくもない。
普段は山中で樹木に
擬態しており、貝殻状の胴体に獲物となる人間を挟み込んで捕食する。
劇中で響鬼さんがライダーキックを叩き込んだ相手。
伝承では足元を木の枝などで払うと消えるとされるが、劇中のヌリカベも幼体は下半身が
弱点だと設定されている。
一反木綿同様、
伝承のみで姿が伝わっていない妖怪。ところが2007年に川崎市市民ミュージアム学芸室長の
湯本豪一により、『化物づくし絵巻』に描かれていた
三つ目の犬のような姿の妖怪が実は塗壁だったと発表されている。
もし発見が早ければ『響鬼』にもそちらの姿を参考にしたデザインで登場していたであろうことは想像に難くない。
実際、2015年の『
手裏剣戦隊ニンニンジャー』では当デザインでの登場が実現している。
◆
ウブメ
発生地:鎌西湖、浅間山、東秩父、日高
産女、または姑獲鳥、憂婦女鳥とも。
深海魚を彷彿とさせる巨大な魚に鳥の羽が生えた姿の魔化魍。幼体時は水中に潜み、人間の子供を食らって成長する。
鳥の妖怪なのにデザインは魚が主体なのは、
伝承ではそぼ降る雨の夜に水辺に現れる女怪とされるからか。
劇中では幼体が乱れ童子に捕食される、ヤマアラシと相討ちになる、オロチ現象で大量発生するといった感じで、出番は多いものの音撃戦士とまともな状況下で戦ったことはない。
◆
ヤマアラシ
発生地:足尾、浅間山
山荒。
ヤマアラシの棘を持った巨大な牛とでも言うべき姿の魔化魍。
前足は退化しており、後足のみで二足歩行して移動する。棘を打ち出して獲物を貫き捕食する。
尻尾で巻き取った裁鬼さんをお持ち帰りしていた姿が印象に残る。
伝承では山中にて木を伐り倒す音をさせる、いわゆる
音の怪。
和歌山県や
広島県では
この妖怪を牛が非常に恐れているらしい。
絵も残っているが、そちらには解説は一切なし。『百鬼夜行絵巻』には全身に棘が生えた奇怪な生物の姿で描かれているが、別の絵巻では全く同じ絵に
のぶすまと注釈が付けられており、現時点の研究では何が正しいのかよく分かっていない。
◆
オオナマズ
発生地:東雲、東秩父
大鯰。
チョウチンアンコウのような触角が生えた巨大な
鯰の姿をした魔化魍。
劇中において初めて都市部に発生した魔化魍でもある。
巨体に加え水の中から出ることができないため、人間の背丈とほぼ同じ大きさの胃袋を外部に放出して獲物を捕食する。そこから分泌される消化液は、
ディスクアニマルや音撃戦士の胸部装甲をいとも簡単に溶かしてみせた。
ちなみに本体は
いつもの地下神殿地下の排水施設で育てられていた。
伝承の通り地震を起こす能力を持っているようだが、劇中に登場した個体はまだ成長しきっていなかったためその能力を使うことはなかった。
オロチ現象の際は、東秩父に
胃袋のみが出現している。
◆アミキリ
発生地:大洗、三浦
網剪。
巨大なエビに昆虫を思わせる翅が生えた姿の魔化魍。
劇中では長らく発生条件不明とされていたが、二十之巻にてバケガニの変異体であることが判明した。
伝承では寝室の蚊帳を家人の知らぬ間に切る妖怪だとされるが、劇中では童子・姫が蚊帳を切って中の人間を拉致すると設定されている。
響鬼さんとの決戦地は海岸だったが、これはやはり伝承にて漁師の網を切るとされているからか。
◆
ナナシ
発生地:浅間山
名無し。
洋館の男女の実験によって、ウブメとヤマアラシが合成されて生まれた新種の魔化魍。
合体魔化魍とも。
ウブメの特性を持っているため本来は飛行可能なのだが、生まれたばかりだったためか空を飛ぶことはなかった。
本来の担当者である管の鬼、弦の鬼両方の清めの音に対して耐性を持っているらしく、太鼓の鬼である響鬼さんが合流し共鳴音撃を用いたことでようやく退治できた。
なお、ナナシが正式名称であり
後付けで名前が付けられるようなことはない。
小説家の
京極夏彦は
名前という「個」を与えられず記録されなかったモノこそが真の意味での妖怪であると持論を述べているが、つまりはそういうことなのだろう。
余談だが、ナナシとの決戦地は
鬼押し出しと呼ばれる景勝地であり、すぐ傍には
鬼押ハイウェーが通っている。
ここまで本作にピッタリのロケ地はないと言えるだろう。
◆
ドロタボウ
発生地:旭村
泥田坊。
夏の魔化魍で、人型の泥に苗が生えたような姿をしている。
親と呼ばれる個体はタニシのような瘤を背面に持ち、そこから子のドロタボウを生み出す。
猛毒の泥を吐き出して獲物となる人間を溶かし、体組織が溶け込んだ泥を体に取り込んで栄養にする。
童子と姫がやけにフレンドリーな性格をしていたのが印象に残る。
数の暴力で襲い掛かるが、動作は緩慢なので落ち着いて対処すれば音撃戦士三人だけでも全滅させることは可能。
伝承では
大事な田圃を子孫に売却された老人が死後妖怪化したモノとされるが、実は鳥山石燕の『画図百鬼捨遺』以外にこのような妖怪の伝承は存在しない。
そのため近年の研究では
泥田坊は石燕の創作妖怪であるとされているが、それはそれで「泥田を棒で打つという諺のシャレ説」「人間の悪徳を擬人化した説」「当時の有名人、
泥田坊夢成のパロディ説」「見立てを用いた吉原風俗擬人化説」が入り乱れており、今なお描かれた意図についてははっきりしていない。
◆
カッパ
発生地:秩父、東秩父、館林、さいたま
河童。
夏の魔化魍で、亀とカエルを合成したような姿をしている。
口から吐き出す粘液で獲物を固め、動きを封じたまま川に引きずり込んで溺死させる。
親となる個体は
体から抜けた首から子を増やす。抜けた首はすぐに新しいのが生えてくる。この方法でねずみ算式にどんどん増殖していくとのこと。
ちなみに実際の伝承では
抜けるのは首ではなく腕。
ある理由から
ヒビキさんには嫌われている。オレダヨ、オレ
童子と姫は既に裁鬼さんに退治されていたため劇中未登場。
実際の伝承では
河童も人間に化けるとされる地域があるので、仮に出てきていたらそのような解説が公式サイトに掲載されていたことだろう。
人間の尻子玉を抜くという伝承は、劇中では
肛門から内臓を吸いだして食べていると設定されている。
劇中に登場した個体には頭部に皿が無かったが、設定上は皿を持つ個体も存在する模様。
ちなみに人ではなく野菜を食べる個体も存在するとのこと。
実際、『ディケイド』では胡瓜を食べていた。
あれ、じゃああいつ無害だったんじゃ……。
◆
バケガラス
化烏。
劇中未登場。二十六之巻にて言及あり。
威吹鬼さんによって退治された模様。
オオアリ同様
日本国内にカラスに纏わる妖怪の伝承は存在しないが、水木しげるの
漫画『ゲゲゲの鬼太郎』及び『
悪魔くん』に同名の妖怪が登場する。
『ゲゲゲの鬼太郎』では、
鬼太郎の仲間として普通の烏と同じ大きさのバケガラスが登場するが、『悪魔くん』の実写版では敵として航空機を墜落させるほどの巨大なバケガラスが登場した。
このバケガラスは「烏人」と呼ばれる人間形態で普段は活動しており、高い知能を持ち、拉致した人間を魔力で同族に変化させて仲間を増やしていた。
アニメ版にもほぼ同じ設定で登場している。
◆
バケネコ
発生地:猿橋、鳩山、館林、さいたま、狭山
化猫。
夏の魔化魍で、人型の
猫。
親と呼ばれる個体は複数の尻尾を持った俗に言う
ネコマタ(猫又)で、尻尾が九本まで増えると千切れて子のバケネコを生み出す。
夜行性で昼間は家屋の中に潜み、夜になると獲物となる人間を襲っては生き血を啜る。
四十七之巻では、いくらオロチ現象によって発生したイレギュラーな個体とは言え、
変身していないヒビキさん相手に二体掛かりで返り討ちに遭うという失態を演じている。
劇中でそんな扱いを受けた一方で、『ディケイド』以降のテレビシリーズ、ゲームの『
バトライド・ウォー』、更には紅白歌合戦と外部出演の機会が非常に多く、バケガニとともに『響鬼』を代表する魔化魍となっている。
◆
テング
発生地:下久保、三浦、さいたま、佐野
天狗。
夏の魔化魍で、霊長類と鳥類を合成したような姿をしている。
設定上、ヤマビコ同様に猿が変異した可能性が示唆されているが、それとは別に
人間が変異した可能性についても触れられている。
オオクビとは逆に
夏の魔化魍ながら分裂・増殖を行わないが、その代わりに高い戦闘能力を有しており、タイマンならば音撃戦士相手にも圧勝するだけの力を持つ。
そんな特殊性ゆえか、昔から自然発生する個体が殆どで、クグツ産の報告件数は非常に少ないと言われている。
劇中に登場したのは鳥のような顔を持った
カラステング(烏天狗)と呼ばれる種類だが、鼻の高いテングも設定上は存在しているとのこと。
ちなみに伝承では、日本各地の霊山にはオオテング(大天狗)と呼ばれる格上の天狗が存在し、中には
八大天狗と呼ばれ畏敬の対象とされた存在も伝わっている。
もし『響鬼』の世界にもそんなヤバめの個体が存在するのだとしたら、妄想が捗ると言わざるを得ない。
余談になるが、ロケ地となったダム周辺は当時
鬼石町と呼ばれていた。
これまた本作のロケ地としてぴったりの名前である。
◆カシャ
発生地:四谷、さいたま
火車。
浅間山のナナシの実験を基に誕生した合体魔化魍第二弾。ただし劇中でそれに関する説明は一切ない。
姿は人型のキツネ。合成の際、霊的な力を発揮する呪具や梵字が体に移植されており、従来の夏の魔化魍とは一線を画す能力を持つ。
この姿を見て衝撃を受けた妖怪ガチ勢多数。と言うのも、火車が猫の妖怪だというのはガチ勢にとって常識だからである。
設定上、カシャとワニュウドウ(輪入道)の合体魔化魍であり、劇中でも炎の輪となって走り回る能力を披露した。
ちなみに輪入道の伝承の方にも、狐に関連するエピソードや連想させる要素は皆無である。
別地域の呼び名であるカタワグルマ(片輪車)にもそのような要素は微塵もない。
四十五之巻にも登場。洋館の男女の差し金かと思いきや、公式でオロチ現象によって発生した個体と説明されている。
人為的に造られた合成魔化魍という話だったはずだが……?
◆
カマイタチ
発生地:奥多摩
鎌鼬、または窮奇。
巨大なイタチの姿の魔化魍。やはり洋館の男女の手によって呪具や梵字が合成されパワーアップしている。
自らの体を旋風と化して高速移動し、攻撃の際には
竜巻を放つ。
日本各地に伝わる
悪い風の伝承の中でも特に有名な妖怪。転じて旋風そのものを指す言葉でもある。
三匹一組の妖怪として表されることが多いが、この魔化魍は
西洋のケルベロスのような三つ首の姿で造形されている。
公式の解説では三体に分離・
合体する能力が示唆されているが、合成の影響で
新たな力と引き換えに分離機能をオミットされたのだろうか。
◆
ウワン
発生地:港区、三浦、館林、さいたま
うわん。
夏の魔化魍で、人型のセミ。幼虫と成虫とで外見や能力が異なり、幼虫は
地中移動能力を、成虫は
飛行能力を持つ。
呪具と梵字の合成により、幼虫と成虫両方の特性である大声による威嚇を、超音波に変えて攻撃に用いている。
この大声という特性、妖怪図鑑などに記載されているうわんの特徴として有名なのだが、実はおとろしと同じで
残された絵には妖怪に関する説明は一切記されていない。
うわんに関する伝承は、これまた上述した藤沢衛彦の本が初出であり、その解説を水木しげるが自著に転用、それらを参考に山田野理夫が実際の伝承という体で創作エピソードを発表……という形で広まったとするのが研究者の見解となっている。
ちなみにウワンも
呪具や梵字を埋め込まれた状態で、オロチ現象の際に大量発生している。本当にオロチ現象とは何なのか……。
劇中の登場人物たちはオロチ現象のことを「魔化魍が季節に関係なく大量発生する現象」だと認識しているようだが、ひょっとしたら『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる「ブリガドーン現象」のようなものと解釈するべきなのかもしれない。
◆
ノツゴ
発生地:長瀞
のつご。別名「のづこ」。
十年に一度発生するとされる、巨大な
サソリにクワガタムシの顎を持った姿の魔化魍。
普段は地中に潜み、糸を吐いて獲物を絡めとるほか、顎と尻尾の針による高い攻撃力、堅牢な外骨格を併せ持つ。
実際ののつごは四国のローカル妖怪。伝承では地域によって
泣き声を上げる音の怪だったり、
人の足元に纏わりつく道の怪だったりとまちまち。
共通しているのは
伝承のみで姿が存在しないという点。
ただし四国では
牛馬の死霊として塚が築かれていることもある。
◆
ヨブコ
発生地:東筑波、さいたま、佐野
呼子。
人型をベースに
ワニと大蛇を合成し、更に
コウモリの羽を加えた姿をした夏の魔化魍。捕らえた獲物を洞窟などの棲家に吊るし、搾り取った体液を啜る。
東筑波に現れた個体は、呪具と梵字の合成により高い戦闘能力を得たのに加え、左肩の蛇の口から放つ「隔壁音波」によって
清めの音を無効化したり、装甲響鬼への強化変身を妨害するという対策が施されている。
ナナシ戦で使われた共鳴音撃さえも
無効化し、猛威を振るった。
が、この音波は常に垂れ流しているのではなく一定の周期で発生しており、そこを見破られて敗北を喫した。
後に登場する個体は隔壁音波発生器官がオミットされており、野生個体であることが判りやすい。
梵字はそのままだが。
前述の通り呼子とは山彦の別称であるが、この魔化魍が出現してしまったことで『響鬼』世界にはヤマビコとヨブコが別個に存在していることになってしまった。
言うまでもなく、
ヤマビコの鳥要素は完全に意味を失ってしまっている。
なお、後述する古文書にはヨブコについても記載されているのだが、漢字表記は
呼蠱だった。
読みが同じというだけであくまでも『響鬼』オリジナルの創作妖怪だとするのが制作側の見解なのだろうか。
なお、公式サイトではバッチリ
ヤマビコとの関連が説明されていた。
◆
コダマ
木霊、または木魂、木魅とも。
オロチ現象の前兆として出現する異空間「コダマの森」の主。本体は森の奥に鎮座する巨木であり、人型の分身を生み出して外敵を排除する。
山で大声を出した際の反響を妖怪化した存在という意味では山彦や呼子と同じなのだが、伝承では
樹木の精霊それ自体を指すこともあるので、この魔化魍に関してはヤマビコと同時に存在していても問題はないと言える。
なお、『
画図百鬼夜行』では
古木の化身と思しき男女が描かれているので、従来通り童子と姫が存在していればと思わざるを得ない。
ちなみにオロチ現象の際には、分身のみが発生している。
◆
カエングモ
発生地:長瀞
ツチグモの亜種で、その名の通り
火を吐いて攻撃する。
実は
奈良県には、数百もの蜘蛛が集まって火を噴くとされる
蜘蛛火という怪火の伝承が残っている。
が、公式サイトでもツチグモの亜種以外の情報はなく、これが意図したものなのか偶然の一致なのかは不明。
◆サトリ
発生地:東松山
覚。
サイズ的に夏の魔化魍。造形は人型の山犬。洋館の男女の強化を受けて武装している。
また、伝承通り相手の思考を読むことが可能だが、通常の個体がこの能力を危機回避に用いるのに対し、強化された個体は攻撃に転用していると設定されている。
実際の伝承や絵では等身大の猿と表現されており、従来通りならばそれは童子や姫の目撃談なのだろう。
ではサトリの造形が四足獣なのは何か理由があるのだろうか。
なんと「山村民俗の会」という研究機関の報告によると、さとりの怪と同じ特性を持つと伝承される獣の話が国内にあったのだ。
だが残念なことに、伝承にて語られているのはオオカミとは似ても似つかないオコジョだったが。
◆
ロクロクビ
発生地:東松山
轆轤首。別名「飛頭蛮」。
巨大なムカデの胴体に
シュモクザメの頭を持った魔化魍。
設定では
オオムカデ(大百足)との合体魔化魍。ということは
ロクロクビの部分はサメということになるのだが……。
まず前提条件として、轆轤首とは
人間の首が伸びる、または胴体から離れて空を飛ぶ妖怪である。
ムカデの胴体を長い首に見立てたいのであれば、最初からオオムカデとの合成と設定しなければいいのに何故そうしたのかは不明。
もしかしたら、本来は別のニョロニョロした生き物が首のパーツになっており、そこをオオムカデと組み替えたのかもしれない。
サメ要素については、轆轤首もその元ネタである大陸のヒトウバン(飛頭蛮)も
海どころか水辺とは一切関係がない。
類話を探せば東南アジアの海洋民族の伝承まで辿ることが可能だが、そこまで行くとただのこじつけになってしまう。
ちなみに
岐阜県には
轆轤首はヘビが化けたモノという話が残っている。