実現したひみつ道具

登録日:2018/08/03 Fri 14:26:10
更新日:2025/03/29 Sat 22:02:03
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国民的漫画である『ドラえもん』。
その作品世界を構成する重要なガジェットが「ひみつ道具」であることは言うまでもない。

そんなひみつ道具には、色々な種類が存在する。
役に立つもの、微妙なもの、果ては危険なものまで……
そして、 もはや現実に実現してしまったひみつ道具も中には存在する
ここでは、そんな「時代に追いつかれた」ひみつ道具達を紹介していきたい。

なお、一部の技術は 本当にドラえもんに追いつくことを目指したために 実現したものも存在する。
は現実を動かすのである。


現実の方が勝ってしまったひみつ道具

リアルの技術進歩により、今やひみつ道具以上のものが実現してしまったもの。
……とはいえ、ここに記載されている物はその殆どが通信衛星を介したネットワーク接続による拡張性を得て初めてひみつ道具を越えるポテンシャルを発揮できる物ばかりで、通信衛星が飛んでいない過去や異世界に行ってもスタンドアローンで同じだけの活躍はできない。そういう部分はひみつ道具の方が優れているだろう。

  • 糸なし糸電話 →無線機(トランシーバー)・携帯電話
大長編・映画『のび太と鉄人兵団』等に登場。この手の道具の話題になると、必ず登場するだろうひみつ道具。

「糸なし糸電話」同士なら離れていても通話ができる。
『のび太と鉄人兵団』が公開された1980年代にも既に携帯できる無線機は存在していたが、現代の無線機や携帯電話と比べると高価で大きくて重く、とても小学生が持てるようなものではなかった。

現在では価格も下がり小型で軽量になっており、特に携帯電話どころかその上位互換のスマートフォンさえほとんどの人が持っているため、通信アイテムとしては時代遅れな代物となっている。
21世紀生まれの人だと、もう糸電話どころか顔まで映るのが当然の時代だ。

とはいえ、携帯電話は基地局が稼動していなければ通話ができない(ちなみに基地局と基地局の間は有線でつながっている)。
無線機では基地局が無くても通話はできるが、それでも無線機も携帯電話も時々充電や電池交換をしなければならないという大きな欠点があるため、完全な上位互換というわけではない。
「糸なし糸電話」の動力がどうなっているかは不明だが、外観通り動力不要、もしくは殆ど充電が要らないとすれば糸なし糸電話にも利点は十分あるだろう。
ちなみに、通話機能とは関係ないが、『鉄人兵団』劇中ではリルルに気付かれないように空を飛ばして接近させ、会話を盗聴している。そのために飛行機能なんてついているのか……?

のび太とアニマル惑星』では、「探検ごっこセット」の一つとして「糸なし糸電話型トランシーバー」が登場。映画作中では「糸なし電話」と呼ばれている。
『アニマル惑星』が公開された1990年代になると、トランシーバーを内蔵したドラえもん型のラジコンが発売されるなど、小学生でも持ちうるものになっていた。「探検ごっこセット」の中身はいずれも当時の時点である程度は実現しているものばかりで、名前通りごっこ遊びなのだろう。
ただし遠く離れた地球・アニマル惑星間でも遅延なく通信できる点は、現実の道具よりはるかに優れている。

  • どこでも地図 →スマートフォン・タブレットコンピューター・カーナビ
現在地の地図を表示できるひみつ道具。
今やスマホ・タブレット端末の地図アプリか、カーナビを使えば現在地の地図はおろか経路探索・渋滞状況・通行止情報を知ることができる。
カーナビ自体は『ドラえもん』が連載されていた頃から存在していたが、今のように誰もが持っている携帯端末で現在地の地図が見られるようになったのはかなり後の話。
もっとも、実在のツールは連動した衛星によるマッピングや追尾、道路情報の受信ができなければ役に立たないので、異世界や過去にも出向く事のあるドラえもんたちにとっては「どこでも地図」に劣るだろうが。

  • もち製造マシン →餅製造マシン
『タタミのたんぼ』に登場。
読んで字の如くもち米からを作る道具。
パンを作るホームベーカリーに餅を作る機能が付いているものも増えている。
さらには、蒸す・つく・こねる・つぶすを1台でこなす家庭用の自動餅つき機も発売されている。
流石に稲からは無理だが、脱穀や精米も現在「脱穀精米マシン」が普通に存在することを考えれば不可能ではないだろう。稲から直接餅、の需要が無い……

ちなみに同エピソード内では200個を超える餅をぶっ続けで製造したうえ、正確に個数をカウントする機能が描写されるが、さすがに家庭用でここまで大規模だったり精密だったりはまだ。
むしろこの話のオチを考えると*1、数えてはくれない方が親切かもしれない。

  • 荷物運び用荷物 →芝居用の小道具
大長編・映画『ブリキの迷宮』に登場。荷物運びをさせるための道具。芝居等で使う道具がまさにそれである。
てか、これ道具じゃなくて慌てたときにポケットから出てくるガラクタなんじゃ……

  • トレーサーバッチ →GPSなどの衛星測位システム
『トレーサーバッチ』、わさドラ版『あべこべ惑星』、映画『南極カチコチ大冒険』に登場。
バッチを付けた相手がどこにいるか判るひみつ道具。現代のGPSなら更に小さい機械で追跡可能。
とはいえGPSは衛星からの信号が受信できない場所では使用できない。なお、わさドラでは「ドラえもん体内GPS」という秘密道具がある。また、先述の「糸なし糸電話型トランシーバー」も地面に転がすことで特定の同じ道具へ誘導する機能が付いている。

  • セルフ将棋 →AI技術
『ひみつ道具大辞典』に登場する道具。将棋の相手をしてくれるため一人で将棋ができる。強さも調節可能。
富士ゼロックス(現:富士フイルムビジネスイノベーション)が極力『ドラえもん』の設定に忠実に作ったものがあるほか、形態を考慮しないならこの手のアプリやゲームはそこら中に溢れている。
対戦すればするほど強くなるAIの学習方法上、現在のAIの棋力は人間をも凌駕し、世界チャンピオンを破った例さえある。

  • カラオケキング →カラオケ
『雨男晴れ男メーター』に登場。10万曲のCDが入った自動採点式カラオケ。
今時、通信により最新の曲が自動配信されるのが当たり前になっているため、「キング」の名に反し普通のカラオケに劣ってしまっている。
「お世辞機能」により誰でも100点を出せる、が…… 実はこれ、カラオケ店に行けば誰でも使える普通のカラオケの機種にも搭載されている機能

  • インスタントチョコメーカー →3Dプリンター
わさドラ『チョコのび太をめしあがれ』に登場。どんな形のチョコレートでも作れる機械。
3Dプリンターにより、今や設計図さえあれば誰でも作れるようになっている。

『世界沈没』に登場。自動で材木を切ってくれるのこぎり。

  • 人間ブックカバー →オーディオブック
『人間ブックカバー』に登場。本のタイトルを書いて人間にかぶせると、その人が本に書いてある内容を朗読してくれる。
オーディオブックは合成音声で読み上げてくれる電子書籍で、人身御供も必要ない。

  • インスタント旅行カメラ →Photoshopなどの画像編集ソフト
『行かない旅行の記念写真』に登場。人物と旅行先の写真を合わせればその人がその旅行先にいるような写真をとれる道具。
Photoshopのような画像編集ソフトや画像合成アプリなら、いちいち旅行写真を用意しなくてもネットから拾ってくればいいので劣化といえる。
ただし手軽さはひみつ道具のほうが上だが。

  • メロディーお玉 →orpheusなどの自動作曲システム
『シンガーソングライター』に登場。歌詞を吹き込むと中にいるオタマジャクシが自動で作曲してくれる道具。
東京大学の嵯峨山茂樹教授が開発し、ネットで公開している自動作曲システム「orpheus(オルフェウス)」がこれに当たるだろう。
作曲時間は最短で1秒以内で、おそらく本家よりも速いスピードで作曲可能。まあ手軽さの方は前者には及ばないだろうが。
後に様々なサービスが自動作曲を提供するようになり、現在SNSではネットミームを読ませたものが粗製乱造日々投稿されている。

  • やまびこ山 →レコーダー
『やまびこ山』に登場。「やまびこ山」に吹き込んだ声が、しばらくすると山びこのように遅れて再生される。
レコーダーのタイマー機能を使えば同じことができる。
ちなみに『鉄人兵団』に登場したのはや爆風を反射できる「改良型山びこ山」という似て非なる道具。
破壊光線や爆風を反射して改とは何事か


ほぼ実現されたひみつ道具

まだ微妙に完全実現ではないもの、法的問題や一部機能が微妙など技術以外の理由で「ほぼ」止まりなもの。

  • 観光ビジョン →Googleストリートビュー
『サハラ砂漠で勉強はできない』に登場。緯度と経度を入れればどんな場所でも瞬時に映し出してくれる機械。
まんまGoogleストリートビュー。
一応、観光ビジョンと違い「リアルタイムではない」が、プライバシーなどの問題を考えると、技術的には可能でも実現は困難だろう。

  • スパイ衛星カメラ 無人探査ロケット UFOカメラ→ドローン
映画『新魔界大冒険』、『宇宙人の家?』に登場。自由に飛ばして周囲の様子を確認できるカメラ。
現代では、ドローンがこれに近い存在であると言えるだろう。

  • めんくいカメラ →めんくいカメラアプリ
『めんくいカメラ』に登場。
平均以下の顔は写そうとしないカメラ。今は配信終了しているが、実はかつてこれを再現したアプリが存在した。平均以下でも写るには写るがモザイクがかかったり、ネガポジ反転になったりと失礼な機能付き。顔認証技術の進歩の証明といえる。
ただし、その場で現像することはできないし、作中のジャイアンのように「カメラぶっこわすぞ」と脅してもびびって写すということはしない。
配信終了という点からも分かるように技術的には可能なので、実は似たようなものがすでにテレビ番組などで実用化されている*2後ろ暗い技術ほど部分的な実用化は早いのだ。

  • イージー特撮カメラ →画像編集ソフト
『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』に登場。簡単に画像合成ができる特撮カメラ。
今やパソコンとカメラがあれば素人でも特撮が作れる時代になっている。
流石に小学生でも楽勝な「イージー特撮カメラ」の方が優れている部分もありそう……だが、一部の小学生の吸収力もまた侮れないもので。

  • エアコンスーツ →MINOTAURI/OCOLLECTION
大長編・映画『日本誕生』に登場。
着ると自動で温度を調整し、快適な状態に保ってくれる道具。
スマホで温度をコントロールできるスーツが開発済み。
ただし、作中に登場したものは原始生活セット内の一つであることから、原始人が着る毛皮を思わせるデザインとなっていて、肩など体の大部分がむき出しとなっている。
"服のデザインを問わず"というのは難しいかもしれない。

  • ききがきタイプライター →音声認識ソフト
「ききがきタイプライター」に登場。言葉を聞き取ってそれを文字に起こしてくれるひみつ道具。
これも実現済みで「タイプライター」というのが時代を感じる。
とはいえ現実の物は声の個人差や滑舌、同音異義語による「聞き間違い」はまだまだ多く、クオリティはまだ改善の余地がある。
ちなみにこれを「気難しいキャラクター」を実装することによって人間側に矯正させるよう仕向けたのが、1999年に発売されたあの『シーマン』である。

  • ウォータークリーンシップ →Seabin(海上に浮く自動回収ごみ箱)
『酒の泳ぐ川』に登場。
のごみを回収する道具で、オーストラリアに同様のものがある。

  • うそつきかがみ →プリクラ・SNOW・Photoshop
『うそつきかがみ』に登場。映った人を美形に映す鏡。
現在のいわゆる「盛れる」プリクラやSNOW、Photoshopの画像加工機能が近いだろう。ホントに化けるヒトは化ける。

ちなみに2018年のテレ朝夏祭りにはホンモノの「うそつきかがみ」が登場した。
(実際にはディスプレイ)の前に立つと、目の部分がマンガチックに表示されるという代物であった。
まぁ実はそもそも服屋の鏡が凹面鏡で、顔用の鏡は小顔に、姿見は長身で痩せて見えるようにしているってのがあって……その方向の技術が行きつくところにまで行きついた、というところだろう。
実は運転免許証などの証明書の写真がやたらブサイクに見えるのもこの理屈。ブサイクに映すのではなく、写真の字義通り「真実を写している」ってわけ。

  • わりこみビデオ →DeepFake、Vtuber技術
『わりこみビデオでテレビ出えん』『ジャイアンテレビにでる!』に登場。
人物が登場する映像内に別の人物の顔や音声をはめ込むことができるひみつ道具。
DeepFakeはAIを使い、演説の映像などを別の人物のものに差し替える技術だが、これを利用したフェイクニュースなどが出回っており、後述の「インスタントテレビ局」との併せ技で「フェイクドキュメンタリー」なんてもんまで登場してしまった。実際Youtubeに陰謀論や人種差別を助長するドキュメンタリーがアップされて世界的に問題になっている。
その気になれば好きな芸能人の顔と声を無断で使って、30分間のNHKドキュメンタリー風の、真剣な雰囲気だが内容はトンチキな番組を制作できてしまうのである。
また「下地になる動画に別の人物を(ある程度人力で)追加して映像を完成させる」という意味ではVtuberも近い。
こちらは平和利用……というかコンテンツとしての利用が確立されていることもあり、非常に知名度の高い技術と言える。

  • 人間あやつり機 →fusion
『人間あやつり機』に登場。体に取り付けることで、マリオネットのように体を自動で操る道具。
慶應義塾大学でこれと同じようなFusion(フュージョン)という機械が開発されている……が、これは機械自身が自動で動かしてくれる物ではなく、第三者が機械を装着した人を専用のコントローラーで操作するという物らしい。
まあ内部にAIを埋め込めば技術的に十分再現可能と思われるものの、まだ研究段階で実用には至っていない。

  • 六面カメラ →360°カメラ
『六面カメラ』に登場。
被写体を同時に6方向の角度(正面・右面・左面・背面・上面・下面)から撮影した写真が出てくる。
2016年以降、RICOH THETAやInsta360といった様々な角度から同時撮影が可能なカメラが登場。
もっともあの子のスカートの中下面や印刷物に刷り込まれた写真まで立体で撮影可能な点では「六面カメラ」の方がはるかに優秀。
なにせある方向から撮影すれば、そこから90度刻みで六面撮影してくれるのだ。回り込ませる必要すらない。

  • ハウスロボット →AIスピーカー
『家がロボットになった』に登場。
家に取り付けるだけで、家が掃除や洗濯などの家事をこなしたり住人と会話をしたりするもの。
2014年にAmazon echoが発売されたのをきっかけに各社でAIスピーカーが発売され、これに対応する掃除機やエアコンなどIoT家電が登場し一部の機能が実現するようになった。
本編ではテレビのモニターを使って会話していたが、AIスピーカーにもモニター付きのタイプが登場している。

  • おざしきゲレンデ →コンベア式室内スキーマシン
『勉強べやの大なだれ』に登場。
ベルトコンベアが斜面型に配置され、その上に乗ってスキーで滑ると速度に合わせてコンベアが上向きに流れるため、いつまでも滑り続けられるという道具。
スキー練習用のベルトコンベアは実用化されており、中国・深圳市の「雪楽山滑雪」、シンガポールの複合スポーツ施設「トライフェクタ」などの室内スキー場は、人工雪ではなくコンベアを使用している。
中国では2022年の北京冬季オリンピック開催に合わせたウィンタースポーツ普及施策の一環として、都市部の小学校などにスキー練習室を設置したというニュースもあった。
原作ではのび太が「雪景色じゃないと滑る気にならない」とわがままを言い出したのに対し、ドラえもんがひみつ道具「おざしきゲレンデ」の立体映像機能を使って周囲を雪山の風景にする場面がある。
プロジェクションマッピングなどの技術進歩は目覚ましいが、使用者がVRゴーグルを着ける方が簡単。のび太が立体映像で周囲の状況がわからなくなった結果室内で遭難しかけたことを考えると、何かあればすぐ外せるゴーグルの方が安全面でも適切だろう。
「ターンするのに合わせてベルトも方向転換する」などの機能を残して家庭用サイズに小型化するのは、技術的にも需要的にも厳しいものがありそうだが、ほぼ実現した道具といえる。

柄の部分にレーダーとコンピューターが内蔵されている刀で、相手の相手の位置や動き・作戦を察知。
電光丸が自動的に使用者の腕や身体を動かして、握っているだけで相手との斬り合いに勝利することができる。
こちらは武器…ではなくGoogle社が開発したスプーンで、内蔵のコンピューターが加齢や病気による手の震えを察知・利用者の動きを制御し食事を助けるものだが、理屈としてはほぼ同じようなものと言える。



ある程度近いところまで実現したひみつ道具

今のところは「それっぽい」で我慢するのが関の山。
でも、これからの技術の進歩次第で完全再現に至ることも期待できそうなひみつ道具たち。

  • 真水ストロー →ライフストロー
『海底ハイキング』に登場。海水でもこれを通せば真水になるストロー。
なんとリアルでは 泥水だろうが飲料水にできる ストローが開発されている。サバイバルにはもってこいのアイテム。
ただし海水を淡水化するにはもっと大掛かりな装置が必要で、現在の技術ではストローサイズにすることは不可能。

というより現代の浄水技術はかなりすさまじく、下水だのタバコの吸い殻の入った水だのはもちろん、コーヒーでもコーラでも極めて強いフィルタリングによって「美味で健康な真水」にしてしまうという魔法のような浄水器が存在する。
浄水器というと何やら詐欺めいたビジネスの道具のように思えるが、これはアフリカのような「飲用に適した水」の確保の難しい場所への援助や被災地支援から、高級レストランの料理用の水の確保まで幅広く使われている立派な技術。その真贋はあなた方の判断に任せるが、問題はここから。
浄水器はある程度の量を確保・運搬・保存できた方が利便性が高い。つまり個人用途にしか使えず、しかも水場が必要なストロー状にする理由が道楽以外に存在しない。飲み口の部分の衛生とかもあるし。
「タケコプター」とか「どこでもドア」くらい知名度が高ければ宣伝効果もあるのだろうが、たとえドラえもんのひみつ道具を実現できたとしても、そこに合理性がなければわざわざ細部に至るまで実現する意味がないのだ。
逆にドラえもんとコラボすることで宣伝ってのはあるかもしれないが

おなじみ、取り付けると空を飛べるようになる竹トンボ型のひみつ道具。
背中に取り付けて空を飛ぶ一人乗りの小型飛行機は既に開発されており、ヘリなどの介入が難しい災害現場などでの活用を期待されている。

ただ、タケコプターサイズにまで縮めると反作用で体が逆回転するなど流石に問題が大きすぎるようで、かの「空想科学読本」では「猛烈な風圧で体がバラバラになり、最終的にはわずかな頭皮とタケコプター本体だけが飛んでいくだろう(要約)」と考察されたのは有名。*3
というか作中における「タケコプター」の揚力は反重力で、現実世界では物理的にあり得ない。なので既存の物理法則がひっくり返るようなビッグイベントでもなければ設定通りの完全再現は不可能。
また、作中の様に日常で自由に用いるには現実世界のドローンでもそうであるように、航空法を始め様々な問題が生じて大きく規制されることが予想されるので、現状では法律面での課題も多い。スポーツなどでも安全面をクリアする必要があるため(事故るとまず大惨事なので)、技術的には可能でも法的な道のりは非常に遠い……。

  • ようろうおつまみ →粉末酒
『ようろうおつまみ』に登場。
ただの水を酒にかえる道具。お酒の風味とアルコールを残したまま水分を抜いて粉末にする技術が実現したが、まだまだ研究中で市販には至ってない。

  • インスタントテレビ局、おいかけテレビ →動画配信サービス
『テレビ局をはじめたよ』に登場。手軽にテレビ番組を作れる道具。
YouTubeを始めとする動画配信サービスを使えば誰でも手軽に動画を配信できるようになり、ある程度は現実になった。

おなじみ食べるだけで世界中の人と会話ができるこんにゃく。
食べるだけで翻訳なんていうのはさすがに無理だが、それに近い機械は存在し、2017年に世界の74言語に対応した自動翻訳装置「ポケトーク」が発売され話題となった。
英語やスペイン語、フランス語などの主要な言語が公用語の国なら十分カバーできるだろうが、困ったことに人類の言語は数千(一説には7000近く)にも及ぶ上、「聞き書きタイプライター」同様、発音や滑舌などを正しく聞き取れるかの問題もあるため、完全再現となったらほぼ無理だろう。
少なくとも、「ドラえもん」みたいに古代人や異星人の言語まで入り用になる機会はまだ来なそうだ。

  • 動物語ヘッドホン →バウリンガル
『どうぶつごヘッドホン』『のら犬「イチ」の国』に登場。
あらゆる動物の言葉を翻訳できる動物語ヘッドホンほどではないが、バウリンガルなどのの鳴き声をある程度翻訳できる道具は開発されている。
もちろん精度などお察しでジョークグッズに毛が生えた程度だが、それでもアイデアは画期的。

また見出しからは省いたが、犬や競走馬など産業動物の側面が強い種類は「身体の動き」「文字通りの様子」などで何を思っているかの推測は十分できるし、その裏付けとなる信頼性の高い研究結果も多数発表されていて、ある程度なら人間から指示を出して動いてもらうこともできる。各種「働く犬」や競馬*4が好例。
そういったものの解説本も、ある意味では近い位置にいるだろう。

  • オコノミボックス →スマートフォン
『オコノミボックス』に登場。「四角い物ならなんにでもなる」ひみつ道具。作中では、テレビやラジオの他、ストーブや洗濯機、冷蔵庫にもなった。
流石に洗濯機などの家電は無理だが、スマートフォンはテレビだろうがカメラだろうが目覚まし時計だろうが、まさになんにでもなるまさに現代の「オコノミボックス」だ。
熱を持たせればカイロにもなるぞ!……まあ熱を持つのは大抵バッテリーが劣化してダメージを蓄積してるってSOSなんですがね*5

  • ミニチュア製造カメラ →3Dプリンター
『夢の町 ノビタランド』『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』に登場。
撮影した対象のミニチュアをその場で作ってくれるカメラ。
設計図がいるので「撮影するだけ」「その場で」という手軽さは無理だが、3Dプリンターを用いれば再現可能な技術である。

  • とうめいマント →不可視化膜
被ると透明になる、『ハリー・ポッター』でもおなじみのアイテム。
極小ナノサイズではあるがなんと実現済みで、技術的課題がクリアされれば等身大のマントも作れる可能性があるとのこと。

  • かくれん棒 →メタマテリアル技術
『かくれん棒』に登場。
持っているとを自分の周りを避けるように屈折させて、姿を見えないようにする道具。自身から出る光も棒に吸い込まれる。
メタマテリアルは電磁波の透磁率と誘電率を操作できる画期的な物質。つまり、上記と同じように光を曲げることができる。
現在は情報通信分野を中心に研究が進められているが、技術が進歩すれば、かくれん棒と全く同じ原理で光学迷彩を実現させられるようになる。
棒本体が隠れない=「光学迷彩が使えるようになる機器」自体は見えてしまうという致命的な欠陥には対処してほしいもんだ。

  • 空気クレヨン →拡張現実デバイス、3Doodler
『夢中機をさがせ』に登場。空気中に自由に絵を描けるクレヨン。
拡張現実デバイスを用いてそれっぽいことを再現する実験は行われている。
デバイスなしでは見ることすらできないので劣っている部分もあるが、クレヨン以外を使って描くという遊び方もできるのは勝っているところ。
また、このほかにも先端からプラスチック樹脂を線状に射出し、それを使って絵を描くように物を作れるペン型3Dプリンター「3Doodler(スリードゥードゥラー)」も開発されている。もちろん空中に静止させた形で絵を描くことはできないが、形態的には十分空気クレヨンといえる。

  • 宇宙探検ごっこヘルメット →拡張現実(AR)
『のび太のスペースシャトル』に登場。被ると周囲が宇宙に見えるごっこ遊びの道具。
こちらも同じく拡張現実を用いて再現されつつある。
例えば『Pokemon GO』などは「スマートフォンを通してみると周囲がポケモンの世界に見える」という意味で、ほとんど同じ道具だと言えるのではないだろうか。

性能は全くの別物だが、リアル技術では共に「VR」が近い。
「たちユメぼう」は同名エピソードに登場した道具で、立ったまま夢がみられる。最近出てき始めたVRがそれに近い。
どこでもドアもVRを使って「行った気になる」ところまでは行けた。
気分ではなく本当にそこへ行けるようになるまでには100年はかかるらしい。
まあ仮に実現しても、たぶん宅配業者のブラック性が増して社会問題になったり、旅行先から休日出勤させられたり、出張の楽しみである旅先での食事や電車での一服を奪われたりする……という負の側面が目立つようになるのだろう。
藤子・F・不二雄本人も、「T・Mは絶対に」という短編において「タイムマシンが実現しないのは、実現されては困る人がいるからだ」として技術の負の点に切り込んでいる。現代でもSNSやディープフェイク、AIによる絵柄盗用などの技術の進歩が、新しい社会問題を招いている。*6


  • おすそわけガム →Tag Candy
『おすそわけガム』に登場。半分食べてもらうと、その人の食べた味をコピーできるひみつ道具。
なんとこんなメルヘンなものもある程度実現しているのである
慶応義塾大学が開発した「Tag Candy」は拡張現実を利用して咥えたキャンディーに食感をコピーすることが可能で、まさに「おすそわけガム」そのものである。

過去、現在、未来、一般知識から高度な科学知識、人類の歴史から人間一人一人の一生についてまで、この宇宙のありとあらゆる情報が記録されている百科事典。
本体は 宇宙空間に置かれている天体サイズのコンピュータ で、ドラえもんが取り出すのはそれにアクセスする「宇宙完全大百科端末機」。
規模や精度はまだまだ遠く及ばないが、インターネットの普及や、このアニヲタWikiも含めたWikipedia系サイトの登場で、あらゆる知識を得られるシステムは既に出来上がっている。
また、「天体レベルの巨大コンピュータ」こそ実現していないが、「地球全体を覆うコンピュータの情報網」ならば実現していると言える。

  • コンクフード →カロリーメイト、ウィダーインゼリー系のゼリー飲料、スペース・ラムなど
『海底ハイキング』に登場。様々の食品が半ねり状になって入った携行食、一缶30食相当。味もハンバーグカレーなど多彩。
この道具自体が掲載当時の宇宙食*7をヒントにしたものだったが、「おいしくて栄養たっぷり」とされるコンクフードとは異なり、栄養はともかく味はお世辞にもいいとは言えなかったそうだ。
当然現実のこれらも一缶30食分なんてことは流石に無理ではあるが、味に関しては申し分ないレベルにまで向上している。
戦場、災害時、極地、コミケなどの過酷な条件下での安らぎと言える飲食が味の面で苦痛となるのは非常にストレスがたまるものである。
昔はこれらの食事は食べ過ぎを防ぐために意図的に不味くされていたそうだが、現代はその考えも改められている。

  • スーパーインスタントおぞうに →インスタントのお雑煮
『ぐ〜たらお正月セット』に登場した同名のひみつ道具セットの中の一つで、容器のふたを剥がすだけでアツアツのお雑煮が食べられるというもの。
さすがにふたを剥がしただけではたべられないが、お湯を入れたり電子レンジで温めて食べたりするものが販売されている。
紐を引っ張ると化学反応で加熱が始まるヒーターは存在しているため(例えば一部の駅弁はこれを使うことで「店弁当だけど、どこで開けてもほかほか」を実現している)、うまく応用すれば実現は可能かもしれない。

  • おくれカメラ →鎌倉今昔写真ほか
『おくれカメラ』に登場。時間を入力してからシャッターを押すと、入力した数字に合わせたその場所の過去の風景や出来事を写真にできるカメラ。
アプリ上で写真をスライドさせるだけで同じ場所の昔の写真が見られるアプリがいくつかあり、国内だと神奈川県鎌倉市(昭和20年代以降がメイン。比較的長期間にわたって収集されている)や兵庫県神戸市(『震災写真アーカイブマップ』、名前の通り「1995年1月中旬~下旬ごろの同じ場所」)などがアプリサービスを行っている。流石に分単位の指定は無理だが。

  • サウンドカメラ →instax mini LiPlay
『サウンドカメラ』に登場。現像された写真に付いているボタンを押すと、撮影した時の音声を再生できるというもの。
富士フィルムの「チェキシリーズ」のひとつである同商品では、撮影した際の周囲の音声を記録し、現像した写真に印刷されるQRコードをスマホで読み取ることで音声を再生できる。
写真自体から音声が流れるわけではないが、ほぼ実現したと言っていいだろう。

  • 室内世界旅行セット →Googleストリートビュー
『室内世界旅行セット』に登場。地図の上の場所に針を刺すと、付属のスクリーンにそこの風景がリアルタイムで映し出されるというもの。
屋外の風景だけでなく屋内の様子も自由に分かる上、何と 女性の入浴シーン までも無修正で写すことが可能という、ひみつ道具としては珍しくもないがプライバシーもへったくれもない代物である。
現代ではGoogleストリートビューによって概ね似たようなことが可能。
屋内の様子は映せずリアルタイムでもないため完全に同じとまではいかないが、基本的に人やGoogleカーが行けるところであれば、世界のどんな場所の風景も画面上で自由に見ることができる。

  • お料理ワッペン →料理アプリ
わさドラ『お料理ワッペン』に登場。
このワッペンを着けることで初心者でも手が勝手に、もしくはめちゃくちゃ軽やかに動かせる。そのため誰でも簡単にプロ並みの料理を作ることが可能。
流石に手を勝手に動かすのは無理だが、ニンテンドーDSのソフト「しゃべる! DSお料理ナビ」のようにナビ付きで料理を教えてくれるアプリも今ではそこらじゅうに溢れている。
ただしアニメのようにお金をかけずにと言っても原地に材料を取りに行かせることはない上、別に何かを付ける必要はない。

  • ねむらなくてもつかれないくすり、ハツラツンほか →各種エナジードリンク
ねむらなくても~は「さようなら、ドラえもん」、ハツラツンは「夜の世界の王さまだ!」などに登場。後者も効果はほぼねむらなくても~と同一で、こちらは本当に眠くなくなる程度しか差異が無い(前者は最終的にのび太は眠ってしまう*8)。
90~00年代のドラファンの間では冗談めかしてこれ覚醒剤じゃねえのかなんて失礼すぎる解釈もされていたが、現代ではコンビニに行って適当なカフェイン飲料…いわゆるエナジードリンクを買ってくればほぼ同一の効果が得られる。実際にもほぼこの「眠くなくなる」「寝なくても元気なまま」になるための用途で広く普及した。
さすがに「一切」疲れないは上で触れた解釈のように道義的・法的な問題が出る成分が前提になってしまう、致死量*9や依存性のようなカフェインの毒性を考慮する必要がある、そもそも人道的に問題ある使われ方をされかねないなどかえって実用性を削いでしまう問題点とぶつかるため、おそらく実現は不可能に近いだろうが。

  • 雑誌作りセット アニメーカー →AIによる画像生成
前者は『週刊のび太』に登場した道具で、「製版印刷製本機」「編集ロボット」「まんが製造箱」の三つがセットになったもの。
この中の「まんが製造箱」は、お手本となる漫画を読み込ませるとその漫画家の作風や作画を学習し、漫画家の代わりに漫画を描いてくれるという代物。
後者は『アニメ制作なんてわけないよ』に登場。シナリオを吹き込めば自動でそれに沿ったアニメを作ってくれる。
2021年、手塚治虫の作品のパターンを学習したAIが全く新しい漫画を描くことに成功し、雑誌に掲載された。2022年には、広く一般の人でも扱えるようなAIによる画像生成サービスが現れ始めており、同時にいくつかの社会的問題も指摘されるレベルになっている。
というかのび太の使い方(手塚治虫の自筆作品として生成する*10)をした場合、おそらくその本をどうするかによっては現状でも違法になりうるだろう*11

ちなみに現在主流の意見の中には「AIを使っていたか否か関係なく、アウトな画像生成・使い方はさすがに訴追できるんじゃない?」もある(本文で採用している解釈もこれ)。のび太のは個人利用の範囲と見なせるだろうが、例えばこれで制作した単行本を「手塚肉筆なのが確定している、幻の作品」などとして販売や公表すれば、この説に沿えば詐欺罪や商法上の優良誤認には問われることになる。
これ以上は単なるAIお気持ち表明になっていくためこの辺で。

  • ミチビキエンゼル →AIとの対話システム(ChatGPTなど)
同名のエピソードに登場したひみつ道具で、困りごとを相談すると最適な答えを出してくれる。ただしこいつの言うことを聞かずに独断専行に走ると痛い目を見る。そして「ほーらみろ、ほーらみろ!」とバカにされる。
AI技術の発達により、困りごとや質問などをAIに相談すれば最適解とは行かないまでも何かしらの解答を得られるようなサービスが登場している。
「ミチビキエンゼル」のようにバカにされることもないが、とにかく言質を取られないようにふわっとした物言いをするせいで常におべんちゃらを言われているような気分になったり、サービス提供する国の道徳にかなり沿うため、たとえば何気なく尋ねたことがなぜか規約違反扱いされたりもする*12
「死にたい」と質問すると特定の宗教のサイトが出てくることが話題になったこともあった。後述する「ハルシネーション」が大問題になるのもこっちの方。

  • もはん手紙ペン →対話型AI(ChatGPTなど)
設定した年齢、性別に合わせて書きたいことを理想的な文章にして書いてくれるペン。AIに設定を打ち込めば、手紙どころでない様々なシチュエーションを想定した文章を生み出してもらうことが可能。
朝日新聞の「しつもん!ドラえもん」でも「もはん手紙ペン」に似たAIとして取り上げられたことがある。執筆時点での技術では「ハルシネーション*13」と呼ばれる誤りを生成してしまうこともある他、このひみつ道具のようにアナログで出力することはできないが、限りなく近いところにまで来ている。

ただしこのように「理想的な文章」にしてくれるのはいいところばかりではない。
現在では就職活動の自己PRやコミュニティの管理者を決める際の立候補文、国際的な詐欺の返答や「インプレゾンビ」によるレス、果ては俳句や短歌、ショートショートや読書感想文のコンクールに至るまでに利用されており、特にコンクールは「粗製乱造の文が届くようになって負担が大きくなった」「AI生成の作品が多すぎてもはや続ける意味がないと判断された」「入賞作品がAI生成したものだと暴露された」などの理由で終了に追い込まれたものも少なくない。
文章の著作権の所在(それはAIの製作者が書いたのか、それともAIの使用者が書いたのか?)や、AI作品であるということの明示を適切に行わないことなど、新しい社会問題を招きつつある。*14
+ かなり話がそれていく余談
コンクールについては、逆に世相に乗る形でAI使用を全面的または限定的に認めているものもある。著作権管理を行う人物など、法的にややこしくなりそうな部分を明記していれば審査をするという賞や、むしろ「AIのべりすと文学賞」のように自社のAIの宣伝のために行うものまで登場している。SFなどではむしろジャンルの特殊性から、AIの利用を認める向きが強い。

ただしそれはあくまでもそのコンクールにおいてのみの話。先述のように終了に追い込まれたコンクールもあるし、俳句や短歌では肯定派と否定派がもはや修復不可能なほどの溝を作ってしまっている(元々これらは17~31文字で作れることもあり、コンクールに粗製乱造した作品を投稿する人が問題視されていた。AIはこれを人間よりはるかにハイペースで行えてしまう)。
そして読書感想文のようにそもそも作文の能力の啓蒙のために行っているものは認められない。つまり2024年の時点では、あくまでも「ジャンルや主催の方針次第」である。これらの問題は法的な免責云々ではなくAI使用が適当ではない、あるいはそれを認めていない場所で、前提や趣旨を無視して無断で使うから問題視されているのである。
「日々あったことを発信していく」SNS*15におけるインプレゾンビや、「作文の能力を啓蒙する」読書感想文のAI使用作品はまさにその典型例。
特にインプレゾンビは「災害時のような人命に関わる事態の際にデマを生成して投稿している」ことが真剣に問題視されている。元々日本語圏以外のアカウント、そもそも日本語がひらがなさえ読めない人々がこういった運用をしているのも一因なので、「背景が異なる国への配慮はどこまでが『知らなかった』で許容されるのか」「その場合翻訳アプリなどの免責範囲はどこまでとするべきか」など新しい社会問題の噴出にもつながっている。

このように「理想的な文章の出力」というのは、素朴に人を騙す行為(詐欺のように実害があるものから、就活PRやクソリプによるインプレ稼ぎなどに至るまで)以外にも、法的な責任所在などの面で多大な社会問題を引き起こしている。
これらについては様々な意見があるが、「チューリング・テスト(1950)」「中国語の部屋(1980)」など、先人が知能や知性の定義に一石を投じた例があるため、その辺でも読んで見識を深めてみてはいかがだろうか。
ひとつ言えることは、我々は今、ひみつ道具の実現によって生じた道徳変遷の過渡期に立っているのである。
よく見ればAIっぽい文というのは分かるのだが、そもそも「これからだますよ」なんて事前に予告する詐欺師なんているわけがない。
理想的・模範的な文章(特に中立性や客観性を重んじていそうな文)というのは、「それを書く人間は立派であり、この人の言うことなら絶対に真実だ」という先入観を抱かせてしまう。これらはすべてその盲点を突いたものなので、読者諸兄も注意されたし。
漫画の中では夢いっぱいだったひみつ道具は、実現しても案外夢のないことに使われていく。そんな実例のひとつだろう。
いやまあこれも「ネットミーム食わせて新作をAIに作らせる」みたいな使い方してる人もいるが…

  • つづきスプレー →AIによる動画生成
絵や彫刻に吹きかけると動き出し「そのシーンの続き」を再現してくれる道具。AIはイラストや文章だけでなく動画も生成できる。
主に画像を読み込ませてアニメーションさせる使い方がメインで、動きはAIに任せるだけでなくプロンプトを入力すればその通りに動かす事も可能でありその点ではつづきスプレーに優っているとも言える。
だが上述のDeepFakeのように実在する人物の画像を読み込ませて悪用も出来てしまうのが課題点。


番外編


  • カップめんのプラモデル
ひみつ道具ではないが、なぜか実現してしまった劇中のSFアイテム。

『ぼくを止めるのび太』において、「お小遣い1,300円で大量のカップ麺を買おうとするのび太」「そのお小遣いでプラモを買わせようとするのび太」「やはりカップ麺を買わせようとするのび太」……以下5名ののび太が一度にタイムマシンで過去に干渉した結果、時間軸がもつれて誕生してしまった物体。
藤子F先生は「時間軸のもつれでもなければ発生し得ないヘンテコな物体」という考えで登場させたのだろうが、なんと2020年に日清カップヌードルプラモデルがバンダイから本当に発売されることに。 大丈夫か時間軸。
君ものび太くんのやるせない気持ちを存分に味わえるぞ!
一応、現実のプラモデルはちゃんとしたパーツ数の本格派。


  • オキテテヨカッタ
夜でも昼間と同じように寝ながら活動させることができるひみつ道具。
本編ではのび太がこれを使い深夜にテレビを放送させ、近所の商店街にある書店やパン屋、映画館やゲームセンターを無理矢理開かせていた。

……お気付きかと思うが、例に挙げた店舗は今や深夜営業しているものも少なくなく、テレビの終夜放送も1987年から開始されている。
原作が発表された1980年当時は深夜営業の店と言えばコンビニ程度*16しかなかったが、道具ではなく社会のシステムがひみつ道具に追い付いた実現例といえよう。


  • 夜間ふとんの中からおしっこできるホース
言うなれば「やろうと思えばとうに実現可能だったひみつ道具」。
部屋からトイレまで届くほどの長~いホースが用意できればそれでOK。
っていうかひみつ道具かこれ……?
なお、介護用品にも似たようなものがあるが、こちらはあくまでホースを通して専用のバッグに尿を溜め込むだけなので、ある程度溜まったらトイレに捨てる必要がある。ネットゲームスラングの「ボトラー」を想像してもらえばいいか(無論、目的は大きく異なるが*17)。

この系統のひみつ道具は他に、前述の「荷物運び用荷物」(ホテルのボーイなどに仕事を与えるための道具)や「スカートめくり用マジックハンド」などがある。


そして、最後に。
  • AIによる「道具の選択」「生活上の事態対応」の補助、「遊び相手」の確保
AIは現在進展中の法律・道徳の話題でもあるため、編集者の間でぶつかり合いが起きがちだが、
実は『ドラえもん』は生活の中のAIという意味では素晴らしい示唆を与えてくれるという側面だってある。
いくつか挙げてみよう。

上で挙げたスマートスピーカーのみならず、スマートフォンでももはや常識となりつつある音声入力・会話入力による操作AI。何がしたいかを喋りかければ、それで要望に応じた家電やアプリケーションを動かしてくれる。
『ドラえもん』ではこのAIによる使用ツールの提案や選択は文字通り毎エピソードのように描写される。

社会問題を引き起こしている文章やイラスト生成AIだって、本来は誤字脱字の修正であったり、下書きやラフスケッチを清書してくれたりが想定されていた。
実際、簡易的なものなら単なるワープロソフトにだってこのAIによる補正機能はついている*18
『ドラえもん』では、こういった「誤りが多い」「単純にヘタ」なものを補正しようとAIが頑張ってくれる上手くいくことは正直保証されてないが…エピソードが多い。また文字通りAI自身が創作に励む描写も見られ、外伝作品ではあるがAIによるスポーツチームの命名が描写されたことまである(アマチュアどころか単なる町内の趣味団体ではあるが)。

また上で触れた将棋ソフト*19など、近年は…大掛かりなものでなくても…プログラムルーチンによる「画面の中の相手」がいるボードゲームは数多い。これもプログラムに本格的な思考能力を与えているという意味ではAIの一種とは言える。
そして『ドラえもん』におけるAIは、将棋、トランプ、野球*20など、周囲の人間が楽しんでいる競技・勝負ごとは一通りたしなんでいる。将棋でのび太に負けたりしてたんでお世辞にも強くない可能性もあるが。

もうお分かりだろう。AI技術は、確かに「人工知能、AI」「社会の中のロボット」としてのドラえもんに向かってしっかりと歩いていっているのだ。
もちろん「喜怒哀楽のような感情、美意識・美的感覚、自尊心などを実装」「人格と呼べるレベルのものを持つ」「同型機の中に個性がしっかり存在する」などは社会的理由以前に技術的にまだ不可能と呼べるレベルだが、それでも連載当時に比べれば大きく「ドラえもん型ロボット」に近づいている。
家族、親友としてのドラえもんだって、例えば四肢欠損などでスマートスピーカーに頼る「しかない」人にとってはこういった生活補助AIは…家族、は言い過ぎにしても…生活にいないことなど信じられない存在であるだろうし、そうではない人だって「うちのルンバが掃除してくれないなんて考えられない」くらいのはもう珍しくない。
つまり、既に、ロボットに対して一種の身内としての愛着を持つのは一般的な価値観になりつつある。将来的に、のび太とドラえもんのような関係性が人とAIに築かれるようになる可能性は十分にあると言えるだろう。

もちろん漫画の中の「ドラえもん型ロボット」は、
他人の不幸をのび太と共に悲しみ、また見返りを求めていないも同然の助力を申し出たり、
ダジャレやトンチを解したり(ただしこれも既に実現に向かって進んでいる*21)、
同窓生の概念を持ち、長きにわたって友情を持ち続けたり、あるいは彼らと悪友であり続けたり、ついでにサッカーや製菓を趣味としていたり、
野球人として時に試合を楽しみ、時に真剣勝負やそのための練習に打ち込んだり、ロボットのくせに変化球がちっとも打てなかったり、割と言い訳できないレベルで王貞治なプロ野球選手に憧れたり、
現在のAI技術では正直不可能と言わざるを得ないほどの「感情」「感性」を持っている。

それでも、いつか「作中における2112年9月3日」…ドラえもん誕生の日は、きっと訪れることだろう。
その時、世間にはたくさんのドラえもんの親友…たくさんののび太が生まれるに違いない。
世界中がのび太になったらこの世の終わりだろって?そういう意味じゃないからいいんだよ。

道具じゃなくてドラえもん自身が実現する可能性は、着実に増しているのだ。





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最終更新:2025年03月29日 22:02

*1 120個以上食えるにも関わらず、1個の差でのび太とドラえもんの喧嘩が再開する。元々「たくさんの餅があれば喧嘩しなくて済むのにね」「そりゃそうだ」で道具出したので…

*2 これ以前のテレビ番組は「スタジオに入れる人の配置」や「抽選時のブラックリストによるフィルタリング」などで対応していた。

*3 頭部よりローターの範囲が狭いタケコプターは接地する部分=頭のてっぺんだけ引っ張り上げてしまい、装着者は頭上がとてつもない激痛地獄になるらしい。もしサイズ問題をクリアできても今度は反作用で逆回転しながら飛び、その際に身体が暴れてバランスが取れず2秒で墜落する問題を残している事が有志により(物理エンジンソフトで)確認されている(ヘリのテールローターはこの反作用を打ち消す役割を果たすのだ)。ちなみに同氏の動画では関節を完全に固定すれば逆回転でしても墜落はしないという結論に至っている。

*4 文字通りスタートからゴールまでフルスピードの馬もいるが(wiki内で紹介されることが多い馬であればサクラバクシンオーやダイワスカーレットのような逃げ型の馬、メイケイエールなどがこれに近い)、普通は「スタミナを温存しよう」「ここでスパートをかけよう」を鞭や手綱で指示しながら走らせている。

*5 2010年代前半、スマートフォンの普及し始めた頃はたびたび熱を帯び、質の低いスマホを「カイロ機能が付いている」「冬場はありがたい」などと褒める皮肉があった。

*6 なお実際にタイムマシンが実現しないのは「過去も未来も自由自在というのが現時点での物理法則をガン無視した超理論だから」だが、もしかしたら本当に「実現したら困る奴がいるから秘匿されている」のかもしれない……。

*7 当時は全てペースト状で、歯磨き粉のような容器に入っていた。

*8 あるいは最初から2人ともこうなることを分かっていて「それでも、ちょっとでも長くおしゃべりしようよ」として服用したか

*9 カフェインで服毒自殺しようとするには非現実的な量のコーヒーを飲まないといけないだけで、ちゃんと存在する

*10 当時は存命であったためか?

*11 この辺は現在「法の未整備地帯」になっており、明らかに無断で使用してはいけないと解釈されるような絵柄・画像を盗用して生成した画像の有償販売サービス、絵柄を盗用して『本来描いてはならないもの』を生成してそれを拡散して個人攻撃を行う、そもそも使用したデータの適法性(例えば児童ポルノのような「それ自体が違法とされる画像」を学習して出力したら、AIが作った画像は法規定上の児ポに含まれてしまうのか、など)などで社会問題化している。また、たとえある国で違法になったとしても別の国で販売すればいいのでさっぱり対策になっていないというのもある。国際的な取り組みが行われていることがたまにニュースになっている(実際に法的な動きが進んでいるとは言っていない)。

*12 たとえば東アジアでは、その後の顛末はともかくとして「教師と生徒の恋愛」というのはさほどインモラルなものではない(それをテーマにした人気作品もある)。しかしアメリカではこれは「常軌を逸したレベルの不潔な考え」とされるため、回答を拒絶・削除されるならまだしも、サービス提供会社から警告が来る。ちなみにこれでまだ全然平和な方。

*13 AIがもっともらしい大嘘を事実のように言いきってしまう現象のこと。

*14 「ドラえもん」作中でも同様の問題は取り上げられており、先述の「アニメーカー」登場エピソードのオチも、スタッフロールがボタン押しのドラえもん以外全てアニメーカーだったため、「のび太は何をやったんだ!」とジャイアンとスネ夫に問い詰められるというものである。

*15 これについてはもはや「日々あったことの発信」というのが時代遅れという考えもある。

*16 ひみつ道具の名称も、当時のセブン-イレブンのキャッチコピーをもじったものである。

*17 あっちは「トイレに行かなくてもいいように」だが、介護の場合「そもそも身体的に自力でトイレに行けない」が珍しくないため

*18 「ふいんき」で「雰囲気」と変換できるワープロソフトは珍しくないが、実はこれ、漢字の定義上は誤り。正しくは「ふんいき」である。一応プログラムの時点で人間のスタッフさんが登録していたものの方が多くはあるが、AIが「ふいんき」入力の多さを把握してフィードバックしているのだ

*19 ものによっては現役プロ棋士ですら「確かに電王戦は人間の棋士が獲れたが、おそらく普段のリーグのような場で本気を出されるととてもかなわない」と評価するソフトすら普通に存在する

*20 これ自体を主題とする外伝のものが有名だが、F先生名義の本編でも楽しむ描写が存在する

*21 例えば大阪大学の研究室がすでに「脚本から自分で作れる、漫才師AI」の開発に成功している。お笑いの都だからと笑うなかれ、わざと不合理なことをこのレベルでよくできたAIに言わせるのは難しいのだ