パチパラ12 ~大海と夏の思い出~

【ぱちぱらとぅえるぶ おおうみとなつのおもいで】

ジャンル パチンコ実機シミュレーション+推理アドベンチャー
対応機種 プレイステーション2
発売元 アイレムソフトウェアエンジニアリング
発売日 2005年12月15日
定価 4,800円(税抜)
レーティング CERO:15才以上対象
判定 なし
ポイント バンピートロット風雲録
パチンコはほぼ無関係
バカゲー要素もやや薄め
パチパラシリーズ


概要

アイレムソフトウェアエンジニアリングと企業提携しているパチンコメーカー三洋物産のパチンコを収録したパチンコシミュレーターシリーズのナンバリング12作目。
前作まではタイトルが『三洋パチンコパラダイス』だったが、本作からは略称の『パチパラ』を正式名称として展開されていくこととなる。

今作の収録台は「大海物語」。更に本シリーズではお馴染みのストーリーモード『パチプロ風雲録』の4作目『パチプロ風雲録4~銀玉殺人事件~』を同時収録している。
パチプロ風雲録は『パチパラ8』から収録されているシリーズであり、パチンコゲームながらギャルゲー要素や妙にシリアスなストーリー(…とバカゲー要素)が特徴的なシリーズであった。
旧3作では画面が見下ろし型だったが今作では同社製作・発売の『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット』と同じゲームエンジンを採用したことによってゲームの可能性が広がりを見せた。


モード紹介

  • 「大海モード」
    • 『大海物語』をリアルに再現し、クギや台の寝かせなども調整しながら打つ事が可能。当時は表示されるパスワードで軍資金5万円やオリジナルグッズなどのプレゼントに応募できた。
  • 「パチプロ風雲録4」
    • オマケモードにして本作のメイン。ひょんな事から殺人事件に巻き込まれたパチプロの推理劇。詳しくは後述。
    • 前作「風雲録3」までとは世界観もストーリーも独立しているため、シリーズ初の人でも問題無くプレイできる。
  • 「お楽しみモード」
    • 大海物語の演出、パンフレットやデモムービーなどが閲覧可能。また、『パチプロ風雲録4』のキャラモデルの鑑賞もできる。

ストーリー(風雲録4)

時は昭和。時代は変化の波に乗れぬ者達を置き去りにして急速に移り変わろうとしていた。
パチプロとして修行のために全国を旅している主人公は、ある雨の朝、「パチパラ町」のパチンコ店を訪れた。
何気なく立ち寄ったつもりだったが、店の中では男女が血を流して倒れていた。
男性は既に息が無く、女性は気を失っていた。
その場に現れた店長に殺人犯として通報され、濡れ衣を着せられた主人公は自らの疑いを晴らすべく調査を始める。
しかし謎が謎を呼ぶかのように、惨劇は繰り返される…。


パチプロ風雲録4~銀玉殺人事件~

  • パチプロである主人公を操作してストーリーを進める。パチンコをするだけではなく、キャラと会話したり、ヒロインとの恋愛を楽しんだり、部屋をカスタマイズすると言った生活部分も作り込まれたシリーズであるが、今作では大幅にリニューアルされている。
  • 前作までがパチンコメインでシミュレーション的要素が強かったのに対し、今作では『バンピートロット』に極めて近い本格的なアクションアドベンチャーとなった。
    • 前作まではキャラがデフォルメ化された見下ろし型+アニメ風のイラストだったが、今作からは全編ポリゴンで描かれたリアル頭身のキャラによる3D視点で描かれる。アクションを取れる人や物に近付いた際に表示されるアイコン、人に話しかけると手を上げる主人公など、探索部分はほぼ『バンピートロット』そのままである。
    • 全体マップから行き先を選ぶ形式で基本は自宅とパチンコ店の往復+αだった前作までと異なり、本作では町を自由に探索できるようになった。
      • 前作までは1作につき1つの町のみが舞台になっていたが、今作は3つの町を収録。パチンコ店の店舗数は変わっていないが、世界は大幅に広がった。
    • 日中と夜しか無かった時間経過の概念も拡張されており、朝→昼→夕→夜と細かく変化するようになった。それに応じて住民達の行動も変わる。時間も特定の行動を取らなければ進行しないので、好きなだけ歩き回れる。
      • 時間はパチンコや自室で休憩の他に食事や釣りを「じっくり(ゆっくり)」*1することでも進行する。『バンピートロット』のようにマップ移動では進行しない。
    • 「腹具合」のパラメーターは「腹ぺこ」「腹へり」「腹八分」「満腹」「大満腹」に分類され、時間と共に減少するようになった。
      • 放置しても餓死したりはしないが大当たりの出やすさや、必殺技に必要な気力ゲージの上昇スピードに影響する上、「腹へり」以下になると移動速度も遅くなってしまうので食事は必須である。また、「大満腹」まで食べるよりも「満腹」で止めておいた方が引きが良い模様。
  • 自室の模様替えが出来るのは前作までと同様だが、今作では3D画面ではっきりキャラの姿が見えるようになったため、主人公の外見のカスタマイズも可能になった。多数用意された髪型、服装、アクセサリーを組み合わせて自由に主人公の見た目を設定可能。
  • 「銀玉の狼」の通り名を持つパチプロ・須藤真幸を主人公とした三部作が前作で完結した事で、今作は繋がりの無い新規のストーリー・世界観となっている。
    • 今回は時代設定がかなり遡り、シリーズでも特に古い時代を舞台としている。更にキャラがリアル寄りの等身大になったことで全体的な雰囲気は前作までとかなり異なっている。
      • 前作までは悪のパチプロ組織との戦いやぶっ飛んだ設定の数々、ギャルゲー風のデザインのヒロイン達*2など、アニメ・漫画チックな世界観だったのに対し、今作からは(比較的)現実寄りになっている。
  • 主人公の性別が選択可能になり、性別に応じて発生するイベントが一部変化するようになった。
    • 主人公は男主人公「須藤真幸」か女主人公「村瀬杏子」から選択する。須藤は前作までの主人公と同じ名前(声も同じ)だが、設定は引き継がれておらず、別人扱いとなっている。
      • そもそも須藤というキャラ自体、同社の『絶体絶命都市』の主人公が元ネタのスター・システムでの出演である。
  • パチンコ勝負
    • ライバルのパチプロと出玉数を競う勝負。制限時間までに先に規定の玉数稼いだ方が勝利。時間切れの場合は出玉の多い方が勝利で、或いは持ち玉が無くなった者はその場で敗北となる。
    • 気力を消費して放つ「パチプロ必殺技」は前作までは固有の技しか出せなかったが、今回からはパチンコ勝負に勝利することで新たな必殺技を会得できる。技のセットと使い所を上手くコントロールすれば勝負を有利に進められる。
      • 必殺技は玉が役物を通過する「蒼き流星群」、一定時間持ち玉が減らなくなる「賢者の金庫」、相手の玉をスローモーションにする「惑わしの月」、などもはや超能力の類である。いつからパチンコ勝負は能力バトルになったんですか…?
      • 発動中に左右の風車に一定数の玉を当てることで即座に大当たりを引く「運命の風車」と言ったトンデモ技は勿論だが、気力の上昇を早める「燃える魂」*3チューリップを開きっぱなしにする「開花の万力」*4は地味に役立つ。
  • 推理エディタ
    • 本作独自のシステム。作中で起きる事件を解決するためのコマンドで、集めた証言をピースとして当てはめて事件の謎を解くパズル形式になっている。事件毎にボードとして表現され、全てのピースを正しくはめる事で事件を解き明かす事ができる。
    • スタートとなる「問題ピース」からゴールの「結論ピース」までを、捜査で集めた「証拠ピース」を正しく配置して繋げる。「問題ピース」と「結論ピース」がうまく繋がれば謎を解いた事になるため、ピースの位置は関係ない。
      • しかし「証拠ピース」が足りなければ当然パズルは完成しないため、プレイヤーの役目は推理よりも捜査がメインとなる。また、「証拠ピース」の中には必要の無いフェイクが混ざっていることも。
      • また、「証拠ピース」は人の会話のみならず、オブジェクトを調べた際や、自室で考えをまとめた際に入手できることもある。
    • このシステムは少し内容を変えて、後に『絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち-』にも応用されている。
  • 選択肢
    • キャラが明確に決まっていた前作までに対し、今作からは原型である『バンピートロット』を踏襲した豊富な選択肢が登場した。
    • 但し、『バンピートロット』や後のシリーズに比べるとまだ控えめで、奇抜な選択肢は(比較的だが)そこまで多くはない。暴走が本格化したのは翌年の『絶体絶命都市2』や『パチプロ風雲録5』からである。
    • また、今作の主人公は選択肢の文章以上に喋ることが多く、後発作に比べると台詞量も多めである。
  • メニュー画面は新聞風の作りになっており、現在のストーリー状況に応じて見出しが変わるという凝った演出もある。

評価点

  • パチプロ風雲録の作り込み
    • パチンコシミュレーターのストーリーモードとは思えないほどで、1本のゲームとして十分楽しめる。
    • カスタマイズ、推理、グルメ、恋愛と、前作までと違ってパチンコと離れた所も作り込まれており、昭和レトロな世界で自由に生活を送る事ができる。
      • ルーレット方式の極めてシンプルなミニゲームだが釣りも可能になっており、釣った魚は売って玉に替えることができる。また、初めて釣った魚は魚拓を取って貰えるので部屋に飾ったりできる。
    • 町も大幅進化。パチンコとは無関係の店舗が一気に増え、生活部分が格段に充実した。
      • 前作、前々作では食堂1件しか無かった飲食店を取っても、最初の町だけで串カツ屋、ホルモン屋、お好み焼き屋と複数店舗が存在する。勿論、他の町に行けば更に増える。
      • 他にもファッションショップ、理髪店、釣り具店なども追加。正に自分なりの気ままな生活が楽しめる。
    • 昭和の時代を舞台とした作品自体貴重であり、他のゲームではなかなか味わえないどこか懐かしい世界観が体験できる。
  • カスタマイズの自由度
    • 前作までも部屋のカスタマイズアイテムは豊富だったが、今作からは主人公の見た目もいじれるようになり、これだけでもかなり遊ぶ事ができる。
      • 勿論、男女で装備可能なアイテムが異なるので、それぞれのコーディネートが楽しめる。服装だけではなく髪型もカスタマイズできる。
      • 更には写真館で写真を撮ってもらうとその時の姿が保存され、好きな時に3Dモデルを鑑賞できるようになる。
      • タバコを持っていると待機モーションが喫煙に変わるという細かいネタもある。持っていると病院内だろうが銭湯だろうがお構いなしに吸う。迷惑な…。
    • 前作まではざっと見回すぐらいだった部屋も、実際に歩き回って詳しく見る事ができるようになった。また、服を壁に掛けたり靴を床に置くと言ったように装備品も配置できる上、鍵と言った本当にただのアイテムに過ぎないものすらも配置対象となっている。
    • なんとタイトル画面までカスタマイズ可能。背景を全く別のものに変えたり、マリンちゃんをサムに差し替えることもできる。
  • 恋愛要素
    • ストーリー上のメインヒロインは存在するが、恋愛対象キャラは複数登場し、好きなキャラと交流を深める事ができる。最後には同棲も可能。
    • 前作まではギャルゲーに一本化していたが、今回から女主人公も登場したことで、ヒロインに限らずヒーローたる男性キャラも登場。ギャルゲープレイだけではなく乙女ゲープレイも可能になった。
    • 恋愛対象キャラは男女それぞれ3人ずつ(メインヒロインは男主人公の相手の1人)。11人もいた前作から減った印象が強いが、そもそも前作は銀玉の狼三部作のヒロイン候補が全員集合という触れ込みであり、『風雲録』は3人、『風雲録2』は5人、『風雲録3』は初登場ヒロインが3人だったため、むしろ標準以上である。単純にギャルゲーとして楽しんできた旧作プレイヤーには不満かもしれないが。
    • 女性キャラ3人のキャラクター性は『風雲録1』のヒロイン候補達に近い属性になっている。作中に3店登場するパチンコ店にそれぞれ勤めているのも同じ。
      • 男性キャラ3人も真面目な警官、ボクサー志望のパチンコ店員、高級料理店で働く大企業の御曹司とそれぞれ差別化されている。
    • 新要素として合コンが可能になった。飲食店にて攻略可能な恋愛対象キャラのうち2人とのお喋りを楽しめる。会話が弾めば好感度も上がる。ちなみに同性の参加者は異性主人公で攻略可能な恋愛対象キャラが務める。
    • やや玉と手間が要るが、条件を満たせば浜辺で海水浴デートしたり、ベッドの上でイチャイチャする事も可能。
  • 推理アドベンチャーとしても結構本格的なストーリー
    • メインとなる事件は序盤から謎をめいた開幕であるが、そこから更に別の惨劇が巻き起こり、後になって思わぬ点と点が繋がったりとミステリー部分の作り込みも手は抜かれていない。
    • モブかと思ったキャラが実は重要なポジションだったり、普段から何気なく目にしているものがトリックの鍵だったりと、驚きの展開も用意されている。
    • そして辿り着く真相も、時代が大きく変わる時期故の重苦しい事情があり、「経済成長」や「時代の変化」の負の側面を描いた考えさせられるシナリオとなっている。
      • 『バンピートロット』でも「産業の発展が必ずしも人に幸せを齎すとは限らない」というテーマを扱っており、本作と通じる所がある。
    • 本筋から外れる事件にも予想を裏切る真相が用意されており、謎を解く快感はある。
  • その他
    • 賽銭を入れる、ホームレスに恵む、欲しがっている人にアイテムを渡すイベント(報酬が無し)など、一見メリットの無さそうな行動がいくつも存在するが、実はパチンコの引き易さに影響している。善行を積めばそれだけ運も向いて来る。
      • 逆に賽銭泥棒をしたり、信号無視で車の前に飛び出したりなどすると、引きが悪くなったり腹具合が悪化しやすくなる。開発陣の後年の作品と違って善行も悪行もしっかり自分に返ってくる作りになっている。
    • 後半から行ける裏パチンコ店では10倍のレートで実戦攻略ができるため、短時間で一気に玉を稼ぐことが可能。…勿論、当たらなければあっという間にすっからかんだが。

問題点

  • パチンコ要素の薄さ
    • パチプロ風雲録はパチンコが世界観に深く根ざしていたり、登場人物の多くがパチンコ関係者と言った感じでパチンコがストーリーに絡んでくるシリーズなのだが、本作のパチンコの絡みは「主人公がパチプロ」「第1の殺人がパチンコ店で起きた」「被害者がパチンコ玉を握っていた」という位で、はっきり言ってパチンコゲームである必要性はほとんど無い。
      • メインストーリーにおけるパチンコの重要度は皆無で、登場人物にパチンコ店関係者が若干いる程度である。一応、恋愛対象キャラ6人中4人はパチンコ店勤務*5だが、それがストーリーに絡む事も殆ど無い。
      • 強いて言えば、あるパチンコ店の常連客が死亡した事件の際の捜査に関わってくる程度。ストーリー上の必須のパチンコ勝負もここだけである。
    • そればかりか、ストーリークリアまでにパチンコをする必要自体がほとんど無い。無論、生活面で自由を謳歌するには玉稼ぎのためにパチンコに打ち込む必要はあるが、クリアを目指すだけならほぼしなくても良い。
      • ストーリー上でパチンコ勝負をする機会は前述した1回のみ。それ以外のパチプロとの勝負は完全に任意である。前作までのようなラスボスも存在せず、事件を解決*6すればエンディングである。
    • 大金(玉)が必要になり、パチンコをせざるを得ないような場面こそあるが、これも玉さえ稼げるならパチンコの必要は無い。
      • 食事代ぐらいは釣った魚を売れば稼げるし、あるサブ事件を解決するとストーリークリアに十分な玉が貰えるのでこれを活用すれば本気でパチンコ無しで進めることが出来てしまう。
      • 質屋も利用できるので、不要なアイテムを質入れすれば玉を増やせる。釣りで順当に増えていく魚拓を質入れすれば結構な玉になる。
        ただ、最初の玉稼ぎが必要なイベントが終わるまでは質屋含む殆どの店舗が利用できないため、ここは素直にパチンコをした方が早い。
    • サブイベントでもパチンコが迫られるシーンは殆ど無い。特定キャラの攻略と最強のパチプロとの対戦に必要な位で、あとはあるサブ案件の開始条件として打つ程度。
    • そもそものジャンルが「推理アドベンチャー」である時点でお察しである。パッケージ裏にもパチンコについて全くと言っていいほど書かれておらず、表に描かれたマリンちゃんの立場が無い。
      • パチンコ云々抜きで昭和ライフをエンジョイしたい人には気兼ねしなくていいかもしれないが、「パチパラシリーズ」として見るとそれは望ましい事とは言えないだろう。
  • シナリオの誘導力が弱い
    • 足で情報を稼いで推理するというシステムの関係上、次に何をしろと教えて貰えることは少ない。
    • 序盤のうちはストーリーに沿って進めるのだが、途中からはプレイヤーが実際に歩き回ってイベントフラグを探さなければならない。
    • 事件の捜査ならそれも納得できるのだがストーリーのフラグも見つけにくい場合があり、捜査する以前に事件すら起こらず、次にどこへ行けばいいのか分からなくなることもしばしば。散々歩き回って何の成果も無く、仕方なく自室に戻って寝たら実はそっちの方が進行フラグだったなどという事も。
      • 自室で「考える」を選択すれば、現在進行中のイベントに関してはヒントが貰える事もあるが、始まってすらいないイベントはどうにもならないのでひたすら歩き回って探す事になる。
    • しかしストーリー自体は短いので、チャートを知っていると数時間でクリアできてしまう。
  • 推理モノとして
    • 全10件の事件が用意されているが、1つのトリックの解明に1事件を丸々当てたり、「裏パチンコ店に入る方法を探る」「闇商人から買ったアイテムの受け渡し場所を見つける」など事件とすら呼べない例もあるので実際に10件もの事件に遭遇する訳ではない*7。また、うち4つは本編と関係無いサブ案件である。
    • メイン案件は冒頭の殺人事件から繋がる一連の事件なのだが、これは最終的には最初の事件に収束するため、主人公が明確に「事件を解決した」と言えるケースは皆無に等しい。それをやるのはほぼサブ案件の小さな事件のみである。
      • それでいて、いよいよ迎えるクライマックスでは主人公がやる事は犯人を言い当てるだけ*8で、動機なりトリックなりは全て犯人の長台詞で済まされてしまう。主人公の推理ショーではなく犯人の自白ショーになっており、せっかくの謎解きも推理もあまり活かされない残念な解決編になってしまっている。
      • せっかくの豊富な選択肢も、制作陣の拘りである「プレイヤーの感情を反映すること」ばかり注視されており、推理ADVでは活用されて然るべき推理シーンにはほぼ使われない。
    • 事件の真相も、犯人は分かっても殺された理由がはっきりしない被害者がいたりなど、答えが明言されない謎が一部残り、スッキリ解決とはいかない面もある。推理アドベンチャーとしての完成度は高いとは言えない。
  • ストーリーには理解に苦しむ部分もある
    + 重大なネタバレ
    • 実は事件の犯人には大勢の共犯者がいたことが明らかになるのだが、ラストは首謀者ともう1人の殺人犯*9が逮捕・連行されるだけで終わる。
      • 証拠隠滅や偽証に何人もが協力しており、犯人から「皆、覚悟はできている」とは語られるのだが、それ以外の共犯者への追及は弱く、当人達もそれを省みている様子はあまり無い。エンディング後も彼らに変化はほとんど無い。無関係の人間も巻き込んでおきながら、まるで他人事である。
      • 冒頭の主人公に容疑が掛けられた件についても、状況から犯人と思われたのではなく、知った上で一時的なスケープゴートにされていたのである。だが、それについても「巻き込むつもりはなかった」「ごめんねぇ」などと軽く言われるだけ。
    • エンディング後に事件概要を見ると犯人の項目に「(被害者の)凶悪な○○に立ち向かった」と書かれる。確かに被害者は相当な悪でこれも間違いではないのだが、殺人事件でこの表現はどうなのだろうか。
    • また、本気だったのかは定かではないが、ヒロインは「(主人公が現れなければ)被害者と心中に見せかけて殺されるはずだった」とも語られる。ヒロインは大学の夏休み中に肉親を探してたまたま町を訪れていた部外者であり、しかも犯人がその肉親であることが示唆されている。主人公が現れたから良かったものの、もしこれが本当なら「何も知らないヒロインが肉親に殺される」という目も当てられない惨劇を起こす所だった。
      • ただ、そのヒロインも終盤に事件の真相が暴かれることを恐れ、自作自演で主人公を騙し討ちして証拠品を奪うという犯罪行為に出ている。しかし主人公に追求されるや否や、全て白状して証拠品を返す。…それだけである。勿論、当人と同棲中でもこのイベントは普通に起こる。
        また、この時のヒロインは「手当てをしないと」と語っており、主人公はそれだけの傷を負わされたことが分かる。好意的に解釈するなら、思いがけない傷を負わせてしまって本気で心配していたとも取れるが、どちらにせよ立派な傷害罪である。
  • あるサブ案件について
    • 銭湯の覗き魔を捕まえるという依頼が存在し、かなり複雑なイベントをこなして情報を集めていくのだが…。
      + ネタバレ
    • 最後に明らかになる真相は、「実は騒いでいたおばちゃんの勘違いで、覗き魔などいなかった」というもの。怪しい人物はいたが、それは潔白であった。
    • 何が問題なのかと言うと、その情報は散々ピースを集めさせて推理を進め、調査が大詰めになったところで急に出てくるものだからである。それを手に入れたら、今までのピースを全部無視してそのピースをはめると事件解決である。真面目に推理をしても無駄に終わる。
    • 一応、容疑者は実はシロではないかという情報はあるが、かなりさり気ない。名推理を披露したければ、あからさまな情報に惑わされず、僅かな手掛かりから真相を導き出せと言う事だろうか。
    • しかもこの事件、上述した「大量の玉が貰える事件」なのだが、正解でクリアしないと貰えない。
      • 警官に自分の推理を伝える→警官がそれを元に捜査→翌日、結果報告という流れで終わるので、後述するセーブの問題もあって初見ではうっかり上書きして取り返しが付かなくなる恐れがある。単純にやり直しも面倒。
  • ボリュームが不足気味
    • パチンコシミュレーターのストーリーモードに贅沢な望みではあるが、ストーリーの長さ、カスタマイズアイテムの種類、恋愛対象キャラの数、サブイベントなどは充実しているとは言えず、物足りなさがある。前作のようなストーリー分岐も無い。
    • 上述の通りストーリーは短いが、調査があるため初見では相応の時間は掛かる。
      • しかしその中にイベントを進行させるために特定の曜日まで待たされるシーンもあり、水増しを感じさせる。
    • 髪型や装備アイテムの数はさほど多くはなく、コーディネートの幅はまだ狭い。
    • エンディング後には一年後を舞台としたフリーパートが始まるのだが、クリア後限定の新要素も特に無い。
  • グラフィックがあまり綺麗ではない。3Dモデルの質も低め。
    • キャラの顔も全体的にデフォルメが掛かっており、『バンピートロット』同様にイメージイラストとは結構顔つきが異なる。ゆるいイラストの割に3Dモデルはリアル調だった『バンピートロット』よりは違和感は少なめではあるが。
      • また、表情の変化もあまりよく分からず、冒頭の取り調べのシーンからして主人公が無表情で声を張り上げると言った事もある。
    • 主人公が土足で畳の上に上がる*10など、リアル頭身化第1弾故の粗もある。一方、同棲中の相手はちゃんと靴を脱ぐので中途半端な印象がある。
  • セーブが不便
    • 自室での「寝る」のコマンドがセーブ扱いになっているため、セーブするには日を進めなければならない。
      • 次の時間帯まで一休みもできるが、セーブは翌日まで寝ないとできない。
    • 1日の行動を終えないとセーブできないのは前作までと同じだが、探索要素が強まった本作でも同じ仕様では不便としか言いようが無い。
      • この反省なのか、次回作では随所にセーブポイントが設けられ、いつでもセーブ可能になった。
  • パチンコの問題
    • シリーズ全体に言えることだが、パチンコシミュレーターとしては良くも悪くも普通である。風雲録が無かったら凡百のパチンコゲームと大差ない。それだけに風雲録の評価がほぼそのまま作品の評価に直結する訳だが。
    • パチンコ部分は確かにリアルでレア演出も見られるが、収録が1機だけなのはやはり寂しい。また、実機と違ってハンドルを固定してしまえるためプレイヤーは見ているだけの時間が結構ある。
    • 風雲録部分がよく出来ている分、ストーリー進行やイベントクリア、玉稼ぎのためのパチンコが面倒になってしまうという本末転倒な問題もこのシリーズは常に抱えている。
      • 本作はパチンコ要素が薄いのが幸い(?)してかその問題もあまりないのだが、要素が充実した次回作では顕著になってしまっている。
    • また、旧作と違って風雲録中の実戦攻略が玉を借りるのではなく持ち玉を使う形式になっているため、無一文ではパチンコを打つことすらできないというリアルさ。持ち玉を増やそうとして逆にスるなんてことは現実同様、普通にある。そうなっても勝負で玉を獲得したり魚を卸すなどで稼ぐ手段はあるので破産するような事にはならないのが救いではあるが。
      • 実戦攻略は勝負と違って必殺技が使えないので、ただでさえ勝負より大当たりが出にくい(=挙動がリアルな)中で自腹を切って打たなければならない。一応、腹具合で大当たりが出やすくなったり店舗毎のサービスデーが設定されてはいるが、稼ぎ目的ならパチプロを見つけて勝負を挑んだ方が効率的である。
    • ある場面に必要なポーズを集めるシーンがあり、その一つがマリンリーチでのマリンちゃんのポーズなので、パチンコを打ってマリンリーチの演出を見なければならない。よって、マリンリーチが出るまでひたすら打ち続ける必要があるため、運が悪いとなかなか進めない。
      • しかしここで演出をトレジャーモードにしているとポーズを覚えた扱いにならないという罠がある*11。その事に気付かないと無駄に打ち続ける事になってしまう。
  • バグ・不具合
    • 初期ロットのディスクでは、女主人公でプレイ中に「銭湯のサブ案件の発生時にフリーズが起こる」バグが存在する。発生してしまうとそのセーブデータでは銭湯のサブ案件がプレイできなくなる。
      • タチの悪いことに、バグの発生条件は「サブ案件イベントが起きる前に銭湯に入る事」なのに、バグが発生しているのかいないのかは実際にフリーズが起こった時に初めて分かる。つまり気付いた時には手遅れである。しかも女主人公でのこの案件の発生条件は銭湯に何度か通う事*12なので、普通にプレイしていれば高確率でバグが起きてしまう。
      • アイレム側からの対策法は、イベントが発生するまでは「銭湯から出たら自分の部屋や他の町に行かず連続で銭湯に出入りする」とのこと。だが普通はそんな事はする訳もなく、事前にこの事を知っていなければ女主人公でこのサブ案件をプレイすることは不可能に近い。
    • 男主人公でプレイ中、恋愛イベントとパチンコ対決が特定条件下で発生させられなくなるキャラがいる。
      • 登場人物の1人「桂木綾」は恋愛対象キャラ且つ対戦可能なパチプロなのだが、先に彼女と合コンで会ったり他の女性キャラと同棲すると、彼女及び関連キャラと対戦が出来なくなる。
      • うっかり合コンに出ただけで攻略不可になる事も然ることながら、桂木達に勝つことが最強のパチプロと戦う条件の一つなので、そちらも出来なくなってしまう。故に男主人公で最強のパチプロと戦うためには、桂木のイベントを起こすまで合コンに出てはいけない、誰とも同棲してはいけないという窮屈なプレイを強いられてしまう。
    • また、男主人公の恋愛対象キャラの「美沢ゆき」関連で海釣りをするイベントがあるのだが、この約束をして「ゆきが埠頭に立っている状態」でメインストーリーのヒロインと埠頭で会話をするイベントを起こすと、重大な話をしている横でゆきが無言で突っ立っているというシュールな光景になる。
      • それだけならまだしも、この状況になるとゆきによって埠頭に閉じ込められてしまう(去ろうとすると「早く釣ろうよ」と引き留められる)。釣りをして時間を進めれば解放されるのだが、餌を持っていない場合はリセットするしかない。
      • 通常であれば餌を持っていない場合はゆきから貰えるのだが、この状況では埠頭を訪れた際に起こるイベント(ゆきと合流して釣りを始めるやり取り)のフラグが立っていないため、話しかけても通常の会話しか起きず餌は貰えない。
    • 『絶体絶命都市2』に比べれば軽い方だが、町の探索中に処理落ちがある。
  • その他
    • 「じっくり食べる」を選択するとキャンセルができない。玉を使わずさっさと時間を進めたい時は便利だが、間違えて選択した時には困った仕様である。
      • メニューを何も選択せず画面を抜けると何も食べずに店内で時間を過ごしたことになってしまう。迷惑な客である。

総評

平凡なパチンコシミュレーターに『パチプロ風雲録』という充実のストーリーモードを加えた本シリーズだが、
中でも本作の『パチプロ風雲録4』は、前作までと大きなモデルチェンジを果たし、新たな可能性を切り開いたシリーズの転換点と言える作品である。
しかし推理部分に注力し過ぎて薄くなったパチンコ要素、物足りないボリュームと、まだ新路線の地盤が固まりきっていない模索中の段階という印象が強い。
これらは次回作にて大幅に拡充され、新ジャンル「ギャンブラーRPG」として結実を迎える事となる。


余談

  • 他シリーズとの関連性が特に薄い本作だが、設定を共有しない前提で登場人物が次回作『風雲録5』に出演することはある。
    • 作中に登場する医師「加納早苗」は次回作にも高校の保健の先生として登場しており、今度は恋愛対象キャラになっている。
      • ネタなのか本当なのか、公式サイトの「よくある質問」でも「加納早苗と恋愛できる?」という質問があった。ユーザーからかスタッフからかは分からないが要望が多かったらしく、次回作でそれが叶えられた形となる。
    • 村瀬は次回作でも女主人公として続投している。時代が違う事と、次回は「高校を卒業したばかりの少女」という設定なので大分印象が変わっているが、担当声優は同じなので声が妙に大人びて聞こえる。
    • 男主人公は須藤から新キャラの「椎名銀次」に交代となったが、須藤自体は次回作にも登場する。但し、本作ではなく旧作の「銀玉の狼」としての出演である。
  • 『風雲録』から登場していた「パチパラ町」は本作にも登場するが、やはり前作までとも時代が違うため、雰囲気は大きく異なっている。パチンコ屋「銀玉会館」があるのは同様。
    • 今作にて「パチパラ町」は「八原(やはら)町」の愛称だったことが明かされ、次回作では「八原町」と呼ばれるようになり、「パチパラ町」の呼称は使われなくなった。
    • また、本作に登場した「出玉町」は次回作にも登場。ビル街という点は同じだが、時が流れているためかこちらも構造が大きく様変わりしている。
    • 舞台の1つ「大海町」は勿論、「大海物語」が元ネタ。『風雲録2』にも「新海物語」から取った「新海町」が登場している。
  • 本シリーズ、というより九条一馬プロデューサーの手掛けた作品ではヒロインは不幸というのが通例な中、本作メインヒロインの「白石紀子」はいかにも幸薄そうな見た目に反して*13不幸度は低め。声は前後作のヒロインと同じだが、不幸ぶりまでは共通しなかったようだ。
    + 他作品のネタバレ込み
    • 両親を殺されたり店も損壊させられる旧シリーズの橘あおい、家が火事に見舞われて最後は父親も亡くす『風雲録5』の小川桜子、殺人容疑を掛けられた挙句展開次第では死亡する風雲録6』の三浦千夏に比べると、記憶喪失ぐらいは全然弱く見えてしまう。
    • 一応、事件の真相は彼女にとって辛いものではあるのだが、それでも他のヒロインに比べれば(他が酷過ぎる所為で)大したことはない。何より本人も決して褒められた事ではない行動を取っているので他ヒロインのような憐憫の感情は湧き辛い。不幸は見た目の印象に反比例するのだろうか?
最終更新:2022年09月28日 15:46

*1 食事と釣りは時間帯を進めず「サクッと」することも可能。

*2 全11人中9人の名前が平仮名表記と、あざとさも全開だった。片仮名表記の1人(アメリカ系)にも平仮名の別名があるという徹底ぶりで、残る漢字表記の1人は1作目では敵だった。

*3 これを使う為に気力を消費するが上昇率は高いため、総合的には何もしないよりも気力を早く多く溜める事ができる。

*4 スタートチャッカーに簡単に入るため、僅かながら玉を稼げるし、図柄をしばらく回し続けることもができる。

*5 元々働いていたのは3人で、メインヒロインは途中からバイトを始める。

*6 基本は勿論、真相を解き明かして犯人を逮捕させる結末だが、自分が犯人だと名乗り出て逮捕されるエンディングもある。

*7 また、ストーリー上では事件として起きても主人公が推理はしないので推理エディタには追加されない例もある。

*8 しかも名指しではなくかなり大雑把に。

*9 エンディング後に当人を訪れると別人に代わっているので逮捕されたことが分かる。

*10 脱ぐには手動で靴を装備から外す必要がある。

*11 トレジャーモードでのマリンリーチではマリンちゃんがカメラを持っているためと思われる。

*12 男主人公の場合は条件が違う上、イベント内容も異なるのでこのバグは発生しない。

*13 実際、作中でも指摘され、本人も気にするイベントがある。