SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日

【しょーとぴーす つきぎめらんこのいちばんながいひ】

ジャンル ハイスピードエフェクトアクション
対応機種 プレイステーション3
メディア BD-ROM
発売元 バンダイナムコゲームス
開発元 クリスピーズ
グラスホッパー・マニファクチュア
発売日 2014年1月16日
定価 6,980円(税込)
レーティング CERO:C(15歳以上対象)
判定 怪作
ポイント 『SHORT PEACE』5番目の作品
やりたい放題の極み
物語もゲームもハイスピード
ゲーム自体のボリュームはかなり少ない


概要

オムニバス映画『SHORT PEACE』の5番目の作品としてリリースされたPS3用ゲームソフト。
本作の監督・脚本は『シルバー事件』や『ノーモア★ヒーローズ』シリーズ、『ロリポップチェーンソー』などで知られる須田剛一氏が担当。
本ソフトはハイブリッドディスクとなっており、BDプレイヤーで再生することで映画作品『SHORT PEACE』が視聴できる。


『SHORT PEACE』プロジェクトとは?

『SHORT PEACE』とは『AKIRA』などで知られる大友克洋氏など、著名なクリエイターたちが監督を務める「日本」をテーマとした映画作品集のこと。
タイトルの『SHORT PEACE』も大友氏の初期漫画短編集『ショート・ピース』から拝借している。

  • 森田修平『九十九』 - 江戸時代。古くなって捨てられ、物の怪と化したモノ達と一人の男の奇妙な一夜。
  • 大友克洋『火要鎮』 - 江戸時代。火消となった男を忘れらぬあまり、江戸を火で包んだ女の物語。
  • 安藤裕章『GAMBO』 - 戦国時代。少女に救いを求められた白い熊と、悪鬼の戦いを描く。
  • カトキハジメ『武器よさらば』 - 近未来。廃墟と化した東京で、無人戦闘兵器と戦う男達を描く*1

これら4作品をオムニバス形式で2013年に上映された映画が『SHORT PEACE』である。
そこに5番目の作品『月極蘭子のいちばん長い日』を加えてリリースされたのが本作であり、謂わば『SHORT PEACE』の完全版という位置付けとなっている。

  • 須田剛一『月極蘭子のいちばん長い日』 - 現代。立体駐車場に暮らす女子高生にしてスナイパー・月極蘭子の長い一日。

映像作品である他4作と違って5番目はまさかのゲーム作品という意表を突く構成である。
これらの作品間は直接の繋がりは無いが同一の世界観であり、『月極蘭子のいちばん長い日』の時系列は『火要鎮』と『武器よさらば』の間に位置する。


特徴

  • 基本操作。
    • ×でジャンプ、×長押しで空中を浮遊できる。
      • 壁に隣接した状態で×を押すことで三角飛びが可能。
    • □で攻撃、攻撃で敵の弾を弾き返すこともでき、攻撃がヒットした際に出るエフェクトにも、攻撃判定がある。
    • L1で後方に射撃、R1で前方に射撃できる。
      • 射撃のゲージは敵を倒すごとに溜まっていく。ゲージのメモリは最大3。
    • 坂道などで下方向に入力することでスライディングができる。
  • 基本は右方向へ進んでいく、2Dの横スクロールアクションゲーム。
    • HPやライフなどは存在せず何回被弾しても直接ミスになることはない。
      • ただし、後ろから追いかけてくる化け物に追いつかれるとゲームオーバーとなる。化け物に追いつかれそうになった場合は、後方への射撃(L1)によって一時的に化け物を後退させることが可能。

評価点

  • スピード感のあるゲームパート。
    • 「ハイスピードエフェクトアクション」と謡っているだけあって、スピード感はかなりのもの。
  • 声優陣による演技も好評。
    • 本作のキャラクターボイスは女性キャラは内田真礼氏、男性キャラは鈴村健一氏が全て担当しているのだが、両者共にエンドロールを見るまで同一人物が演じているとは思えないほど、演じ分けが上手い。
    • 当然と言うべきか、エンドロールのキャラクターボイスのクレジットでも「内田真礼」「鈴村健一」の文字が大量に映し出されるため、一種の笑いどころとなっている。

怪作要素(というか賛否両論点)

  • 本作のストーリーは「普段は女子高生として生活している暗殺者『月極蘭子』が、母親の仇を討つために父親を殺す」……と思わせておいて、そんな設定は早々に放り投げられる
    • 導入部なら須田ゲーらしからぬ分かり易い展開とギャグで、「ちょっと変わったユニークなアニメ」程度の印象で楽しめるが、それも最初だけである。
    • 世界設定や雰囲気、絵柄などから同じく須田氏が手掛けた『解放少女*2を連想しそうだが、実際の所は作風が全く異なっている。
  • ムービーパートの画風はころころ変わる。
    • 本作のアニメーションは基本的にはアニメ会社の神風動画が担当しているのだが、唐突に『GRAVITY DAZE』や『エクストルーパーズ』のような漫画風になったり、いきなりAC部*3のシュールムービーになったりと、良くも悪くも一貫性がない。 神風動画&AC部ということである意味『ポプテピピック』のプロトタイプとも。
    • エンディングに至っては実写映像のダンスをバックにクレジットが流れる。良いか悪いかは置いといてインパクトはある。
      • ここで踊る三人の役者は主人公と友人二人という事になっているが、三人とも特にキャラに似せていない。これもツッコミ所のギャグなのか。
  • ゲームパートも一貫性がない。
    • 途中でシューティングが入ったり、ラスボス戦ではマスク剥ぎデスマッチが始まったりと、やりたい放題。
    • killer7』や『ノーモア★ヒーローズ』のようなカオスさと言えば聞こえはいいが、そもそも本作はボリュームが圧倒的に少ないため、もはや本来どんなゲームなのかすらも忘れがち。
  • ストーリーに至っては「おバカ」を通り越してもはや「意味不明」。
    • 過去の須田ゲーの「おバカ」な部分を突き詰めた…のは良いのだが、『ノーモア★ヒーローズ』はまだ話の作りがしっかりして理解も難しくなかったのに対し、本作は本当に意味不明としか言いようが無い。
    • 「一見ゲームの会話パートのように見えて実はムービーでした」というギャグが入るのは序の口。最初のボス戦を終えた後はそのボスがゾンビになって復活したり、「紅の廉」と呼ばれる主人公の友人の兄が突如登場してメタルヒーローに変身したりと無茶苦茶もいい所。
      • 特に友人の一人(ゆるふわ系のドジっ子)がいきなり獰猛な巨大ドラゴンに変貌する展開は色んな意味で常軌を逸しており、インパクトは絶大(Before)(After)。
    • この友人が変異したドラゴン戦(ステージ8)辺りまでなら(設定の理解はともかく)話の流れそのものはまだ理解できる。寧ろ『ノーモア★ヒーローズ』や『KILLER IS DEAD』などのギャグ系須田ゲーではよくあるノリであり、慣れている人にとってはこの位はまだ「須田ギャグらしいぶっとんだ展開」で、そこまで驚くべきでもないだろう。
      • 言ってしまえば、整合性など放り捨てて勢いのままギャグと超展開で押し切る『とんでもクライシス!』的な展開であり、深く考えずギャグとして観れば楽しめる範疇である。
    • しかしそれ以降となると話の流れすらも理解できなくなり、中途半端にシリアスが入ったかと思いきや変な所でギャグも混ざるので完全に意味不明であり、もはやプレイヤーに理解させることを放棄している。特にドラゴン戦後のムービーはAC部による混沌極まりないムービーがプレイヤーを混乱の渦に叩き込み、そのまま何の説明も無く更なる超展開に続く。
      • 終盤はそもそも描かれて然るべき描写が単純に欠けており、話数が飛び飛びのアニメを観せられているような感覚に陥る。編集ミスか収録漏れを疑ってしまうほど。
      • 『killer7』に出て来た「八雲」や「羈絆門」と言った単語が唐突に登場するがもちろん説明は無しな上に伏線としても回収されず、ただの謎要素(一発ギャグ?)で終わっている。当然ながら『killer7』との関連性についても触れられない。
      • そして続くステージ9とラスボス戦は完全に説明放棄の電波。エンディングも最終的には丸く収まったようだが、大半のプレイヤーには何が起きたのか、何がどうなったのかなど到底判るまい。そしてラストシーンもこれまた不条理なギャグで締めとなる。
      • ステージ8までなら主人公が驚き役・ツッコミ役を務めるのだが、ステージ8後からは主人公自身が意味不明の一部と化してしまい、その置かれた立場も目的も全て謎のままラストバトルに向かわされるという説明放棄ぶり。
    • 確かに須田ゲーと言えば「理解するではなく感じる」作風として極めて難解な作品が多いが、本作の場合は短過ぎるストーリーを説明らしい説明も無くただひたすら不条理ギャグの大洪水で押し流す形になるため、「感じる」ことすらも難しい。
      • 考察好きなプレイヤーは作中の情報から物語を紐解こうと考えを巡らせるのも通例だったが、本作は考察の材料も殆ど与えられない。
+ どう意味不明なのか知りたい人向けにステージ8以降の展開の詳細(ネタバレ)
  • AC部による混沌極まるムービーについては説明しても理解できないと思われるため省略。
  • AC部ムービーが終わったかと思うと、何の説明もなく廃墟の一室で三つ目の少女が目を覚ますシーンにジャンプする。そして「50年後」というテロップが表示される超展開になる。
    • この三つ目の少女はファミ通の記事によると主人公の妹らしいのだが、ゲーム中ではそのことは一切説明されない。
  • 続くステージ9では富士山をバックに巨大なポメラニアンに追いかけられる。舞台がどこなのか、主人公は目的は何なのか、一切説明されない。
  • ステージ9をクリアした後は、ラスボス戦なのだが主人公と謎の覆面レスラーによるマスク剥ぎデスマッチが始まる。しかも二人とも何故かドット絵
    • この覆面レスラーについてもどういう人物なのか説明はないが、まだまともな時期のムービーにも登場しており、主人公に対して「大きくなったな」と話しかけるため、辛うじて当初の目的である殺す対象の父親であることは感覚でわかる……いや、わからないか?
    • しかもこのマスク剥ぎデスマッチでは、攻撃を食らった方が三つ目の少女(ちなみに主人公とラスボスと違って何故かドット絵でなくイラスト)にマスクを剥ぎ取られるのだが、途中で三つ目の少女も敵に回る
  • ラスボス戦後のムービーでは覆面レスラーが消滅し、主人公が「百合子*4、ありがとう」と言って三つ目の少女の肩に手を置く……と思いきや、首を絞めて殺す。AC部によるムービーと違い画風は正常であるため、人によってはここが一番の狂気かもしれない。
    • それまで全く外見が変わっていなかった主人公も、首を絞めるシーンで唐突に50年の時を重ねたように皺が刻まれた姿になる。場所は桜の木の下から唐突に廃墟のベッドの上に移り、三つ目の少女も人形のような見た目になって絶命するが、これらの意味も(ry
    • ギャグなのか電波なのか狂気なのか判別に困る点は須田ゲーは元より、ある意味では前月発売の『ドラッグ オン ドラグーン3』臭も感じさせる。主人公の声も同じだし。
  • そして、次のムービーでは現代の駐車場(主人公の自宅)で倒れている主人公が目を覚まし、迎えに来た友人たちとカラオケへ向かうエンディングへ。主人公は若い見た目に戻っているし、主人公への憎悪からドラゴン化した友人も、何事も無かったように元の姿に戻っていつも通り接する。全て無かった事になったのか、夢オチだったのか、妄想オチだったのかすらわからない。
    • 主人公は「私はパルスとなってバラバラ散り散りに空を飛ぶ」「最強のファイヤーウォールを打ち破り、一点だけを目指して偽物の世界を破壊してきた」だのと語り、「孤独な戦いで世界を取り戻した」らしいがさっぱり分からない。須田ゲーは須田ゲーでも、もはや『ムーンライトシンドローム』時代並みの電波ぶりである。
      • 好意的に解釈するなら、滅茶苦茶になってしまった世界をあるべき形に戻したということなのだろうが、どうやったのか、何故そうなったのか、そもそも元凶が何なのかなどは全て投げっ放し。
    • 挙句、最後は倒したはずのラスボスが「騙されるな。戦いはまだ終わっていない。銀河大戦の幕開けだ!」と無茶苦茶という言葉すら生ぬるい宣言をし、主人公が「ウソでしょ!?」と言ってエンドロールへ。そしてその言葉通り、エンドロール後はあの三つ目の少女と思しき「何か」が謎の大軍勢を率いて街を襲撃するという最後の最後まで意味不明な結末を迎える*5よもや、これで壊滅した東京が『武器よさらば』の舞台なのではなかろうか。
  • 上記のような作風なので、そもそも「『SHORT PEACE』5番目の作品として売るべきではなかった」という手厳しい意見もある。
    • 前述したように『SHORT PEACE』のテーマは「日本」。しかし本作のストーリーは日本とは関係ないどころか、それまでの『SHORT PEACE』作品と比べて作風に落差がありすぎる。
    • 『武器よさらば』も原作付きという事で他作品とは大きく異なっているが、『SHORT PEACE』のコンセプトに合わせるために舞台を東京に変更するなどの処置があった。
      • 対して本作も一応日本が舞台ではあるが、ギャグや意味不明なシーンの洪水が押し寄せてくる作風で他作品とはかけ離れており、しかもその内容は日本とは関係ないものばかり。精々、ステージの背景に申し訳程度の日本要素が見えるぐらい。
    • 他作品で過去と未来を描いているので、本作で現代を描くという構成は良いのだが、それにしては他作品との乖離があり過ぎると言わざるを得ない。しかも終盤はその「現代」も怪しくなっている。

問題点

  • ゲームとしてはあまりにも少ないボリューム
    • 本作は定価が約7,000円するフルプライスソフトであるが、トライアンドエラーをしても1~2時間程度でクリアできるほど、ボリュームが少ない。
    • しかも全10ステージ中、ステージ5まではイベントが無い。プロローグの後は淡々とアクションをこなし、ゲームが半分終わってからやっとストーリーが動き出す構成になっており、ただでさえ短いストーリーが余計に短く思える。
      • 具体的には「暗殺の仕事に取り掛かった主人公が謎の襲撃者から逃れつつ狙撃場所に向かい、標的を撃ち抜いた後で事件に巻き込まれる」という流れなのだが、その狙撃場所に向かう道中でゲームの半分を使ってしまっている。明らかにアンバランス。
      • また、それはつまり上述の混沌としたストーリーはほぼ全て後半に押し込まれていることになり、意味不明さの一因となっているとも思われる。
    • そのため、タイトルの「いちばん長い日」が完全に名前負けしている。プレイしてみれば一応その意味は分かるのだが、プレイヤーからすれば「とても短い日」なのが実情であり、タイトルからボリュームを期待してはいけない。
      • 「いちばん長い日」の描き方にしても、上記のネタバレで解説している通りかなりあっさり且つハイテンポ過ぎて説得力も今一つ。
    • ただし、本ソフト(ディスク)には映画『SHORT PEACE』が同時収録されている点は留意すべし。
      • 本作と同時発売された『SHORT PEACE』DVD/BD版の定価*6を差し引くと『月極蘭子のいちばん長い日』の実質的な値段は大体1,000~2,000円程度と言える。それでもボリューム不足なのは否めないが。
  • 操作性が若干悪い。
    • 横方向への移動スピードが速いせいで、縦方向に移動するのが難しい。
    • 例えば序盤のステージで金庫を探さないと先に進めない場面があるのだが、これが一旦段差を上りながら後ろに戻っていくものであるため、もたもたしているとゲームオーバーになりやすい。
    • 最初のボス戦(と言ってもステージ6)も「下から上がってくる歯車から上に逃げつつボスと戦う」形式であるため、プレイヤーの腕前によってはここでもゲームオーバーを連発しやすい。

総評

『SHORT PEACE』5番目の作品としてリリースされた本作であるが、あまりにもやりたい放題な作風故に、かなり賛否が分かれる結果となってしまった。
ゲーム作品としては映画がセットになっているとはいえ、定価に対するボリュームがかなり少ない上に、ストーリーも意味不明であるため、本作に対して厳しい評価を下すユーザーも少なくない。
元よりセンスとパンクを売りにする須田作品と『SHORT PEACE』のコンセプトとはかけ離れており、短さ故か従来よりも格段に意味不明になってしまったストーリーは特に厳しい目で見られる。
一方で、ギャグや演出面の独特さは確かで須田ゲーらしいセンスも健在のため、頭を空っぽにして観る映像作品としてであれば全く楽しめないわけではない。
かつての『ヘビーメタルサンダー』のように、あくまでヘンな映像と演出が主体の作品で「ゲームはおまけ」と割り切るのが良いだろう。


余談

  • 2022年現在ではプレミアがついており、中古やフリマサイトでは定価以上の値段で取引されている。
  • 本作に関わったAC部は後の『ノーモア★ヒーローズ3』にも参加し、一部ムービーを手掛ける事になる。
    • あちらは元より無茶苦茶な作風で展開してきたシリーズであり、本作のように重要シーンにAC部ムービーを延々と捻じ込む事も無いので演出の一つとしてうまく機能している。
    • ただ本作同様、描くべきストーリーがすっぽ抜けたような「理解させることを放棄」した展開はある。こちらは須田氏の作風以上に制作の都合があった模様であり、もしかしたら本作もそう言った事情があったのかもしれない。詳しくは当該記事にて。
最終更新:2024年08月03日 01:53

*1 この作品のみ、過去に大友氏が掲載した読み切り漫画を原作としている。

*2 キャラクターデザインはどちらも『ノーモア★ヒーローズ』以降の須田ゲーでお馴染みのコザキユースケ氏。また、オムニバス形式の作品の一つという点も同じ。

*3 暑苦しいリアルな絵をベースに敢えてデッサンを崩した絵を混ぜるなど、シュール且つアバンギャルドな映像を特徴とするユニットで、本作のパートディレクターを担当している。

*4 三つ目の少女の名前。これまでその名前が出たのはラスボス戦のセリフだけでストーリー中では上述の通り何の紹介も無し。

*5 案の定、ここもAC部ムービー。

*6 DVD版は税抜4,800円、BD版は税抜5,800円。