BLOOD+ ONE NIGHT KISS

【ぶらっどぷらす わんないときす】

ジャンル アクションアドベンチャー
対応機種 プレイステーション2
発売元 バンダイナムコゲームス
開発元 グラスホッパー・マニファクチュア
発売日 2006年8月31日
定価 7,480円 (税込)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:B(12歳以上対象)
判定 なし
ポイント BLOOD+Suda51


概要

2005年にテレビ放映された、刀を手にした女子高生が吸血鬼を切りまくるホラーアクションアニメ『BLOOD+』のメディアミックス*1によるゲーム化作品。
時系列はアニメ7話で小夜が戦う決意をしてから8話でベトナムに渡るまでであり、語られなかったとある1日のエピソードが描かれる。

『BLOOD+』のゲーム化としては、前月に発売された『BLOOD+ 双翼のバトル輪舞曲』に続く2作目。
開発は『シルバー事件』や『killer7』のグラスホッパー・マニファクチュアが担当しており、同社開発のキャラゲーとしても『サムライチャンプルー』に続く2作目となる。
監督・脚本はGHM代表であり強烈な作家性で知られる須田剛一氏で、本作もまたキャラゲーの垣根を越えた「須田ゲー」と化している。


ストーリー

S玉県式市*2のニュータウンにて、翼手と似た怪物による事件が頻発していた。「赤い盾」はその掃討のために音無小夜を式市に送り込む。式東高校に特別編入生として潜入した小夜に与えられた猶予は僅か1日であり、翌朝までに式市の翼手を狩り尽くさなければならなかった。一方、数年前にパートナーを翼手に殺された刑事・青山轟も、探し求めた仇敵がいるという情報を掴んで式市を訪れていた。


システム

  • 操作キャラは原作主人公「音無小夜」と、オリジナルキャラ「青山轟」の二人。ストーリーは小夜視点と青山視点を交互に繰り返す。
  • 本作は街を探索する「アドベンチャーパート」と、翼手や実験動物体(後述)と戦う「バトルパート」で構成される。
    • アドベンチャーパートではマップを自由に歩き回り、目的地を目指す以外にもサブイベントやメールマガジンの受信場所を探すと言った要素がある。
    • サブイベントは任意だが、クリアするとコスチュームが貰える。着替えは各々の拠点で可能。コスチュームはシステムデータに保存されるので、一度入手したものは以降のプレイで最初から着替え可能に。
  • 章の最初はターゲットとなる翼手の名前、続いて操作キャラと現在時刻が表示されて始まる。アドベンチャーパートでの探索を終えるとボスである翼手との対決となり、バトルパートに移行する。
    • ストーリーが進むと雑魚敵にあたる「実験動物体」というモンスターが各地のマンホールに出現する。これも全滅させなければ翼手との戦闘に移れない。
  • 戦闘では小夜は原作通り刀と体術を織り交ぜた近接戦闘を行い、青山はショットガンを用いた銃撃戦を展開する。
    • 小夜は攻撃を当てると画面上部の「BLOODメーター」が上昇し、最大になると覚醒モードに入る。覚醒モード時は高速の連撃が可能で、翼手の部位にダメージを与えられるようになる。
      • 体術は通常時は効果がほぼ無いが、特定のタイミングでアイコンが表示された時に繰り出すと、敵をダウンさせて隙を作り出せる。ただし、距離が開き過ぎていると失敗する。
      • 攻撃を受けて吹き飛ばされた際には◯ボタンを素早く押すと受け身を取ってダメージを軽減する。また、特定の攻撃は×ボタンを押すとハジが防いでくれる「ハジガード」となり、ダメージを受けずに済む。
    • 青山はショットガンで敵を撃つ。狙いは自動で付けてくれるので防がれたり障害物が間に無い限りは外さない。
      • 弾数は無限だがリロードは必要。『killer7』同様に残弾数は表示されないので、敵前のリロードで隙を晒さないように残弾には気を配る必要がある。
    • 翼手の体力は破壊可能な部位や耐久度を示す複数のアイコンで表示される。中には翼手そのものではなく周囲のオブジェクトを示すアイコンもあり、その場合は対象を攻撃する必要がある。
      • 翼手の体力を削り切るとトドメモードに入れる。ただボタンを押せば良いだけの時もあれば、特定の攻撃に対するカウンターとして発生する場合もある。
      • 小夜の場合は原作でお馴染みの「刀に自分の血を通す演出」が入り、コマンドが表示される。これを時間内に入力すれば翼手が結晶化して死亡し、戦闘終了となる。入力に失敗するとトドメモード直前に戻る。
      • 青山は小夜と違って翼手を殺せず、ダメージを与えて行動不能に追い込むのが限界*3なのでトドメモードに入ると無条件で勝利となる。
  • 一度クリアすると2周目となる『BLOOD+ PERFECT KISS』がプレイ可能になる。
    • 難易度が上昇し、エンディングや一部イベントにも変化が生じる。
    • 小夜と青山の初期コスチュームが変化し、武器も小夜は原作後半の刀*4に、青山は強力なグレネードランチャーに変わる。
  • 『PERFECT KISS』をクリアすると『BLOOD+ BLUE MOUNTAIN』がプレイ可能になる。
    • 「ブルーマウンテン」つまり青山を操作して作中の翼手と連戦していくサバイバルモード。HP回復は無く、負けたらそこで終わり。
    • 青山が戦った相手のみならず、小夜が戦った翼手もチュートリアルを除く全てが登場。ラスボスも青山の手で倒せる。
    • このモードでは小夜限定だった体術の反撃やハジガードまで青山が使用可能になっている。
  • 原作は残酷描写が多く、GHMも過激なゲームを得意としているのだが、 CERO:B(12才以上対象)というレーティングや「土6のアニメはティーンエイジャーが観る作品である」という須田氏の意向により、残虐表現は抑えられている。
    • 翼手や実験動物体の血の色は黄色く、出血表現は火花でも散っているかのようなものになっている。欠損の描写もほぼ皆無。人間側の流血表現も基本的に無い*5

評価点

  • 『BLOOD+』と須田ワールドの融合
    • 元より非常にアクの強いゲームで有名な須田氏とGHMが手掛け、その上にアニメの藤咲淳一監督が「好きなように作ってください」と言っただけあり、その内容はまごう事なき須田ゲーに仕上がっている。
      • 奇抜なほどの演出のユニークさ、癖が強くも説得力のあるテキスト、悪ふざけのシュールギャグと過激で衝撃的な展開を織り交ぜたストーリー、と言ったGHMの作風は『BLOOD+』の世界観においても健在。
    • オリジナル主人公の青山を始め、登場人物はメインキャラからモブNPCに至るまで揃いも揃って癖だらけ。登場から間もなく翼手化して倒されるキャラであっても、その癖は強いインパクトを残す。翼手も例外なく癖者揃い。
      • 青山は小夜と対極になるように作られたキャラであり、ノリの軽さを始め、リーゼントにサングラス、ショットガンを普段から携行しているなど、刑事の「け」の字も感じられないキャラクターだが当人の過去は重く、シリアスなシーンではしっかり決める熱い男として描かれている。
      • ちなみにリーゼントは何故か『喧嘩番長』へのリスペクトらしい。
    • 癖が強いだけではなく舞台の不安定な土地柄を活かし、人の心の闇や狂気、悲哀と言ったシリアスなテーマも描いている。翼手化に身を委ねてしまった人、翼手にならざるを得ないほど追い込まれた人、立場故に翼手にさせられた人などをその感情と共に描写し、翼手という存在について原作と少し違う切り口から踏み込んでいると言える。
    • 本作は須田作品としては『ムーンライトシンドローム』以来の現代日本モノであり*6、そちらを意識していることが明言されている。
      • ニュータウンという地場で人々が狂っていく様は『ムーンライト』を踏襲したような流れであり、それを翼手という敵に置き換えて『BLOOD+』の世界観で再現しているという。現に、翼手化する人間の長台詞は『ムーンライト』を想起させるようなものも多い。
      • 敵対関係が明確なので『ムーンライト』的なサイコホラーを、同作とは対照的な理解しやすい流れで追えるのは本作ならではの見所だろう。
      • 女子高生と男性キャラのダブル主人公もある意味『ムーンライト』を踏襲しているとも言える。
  • シナリオそのものも一つのストーリーとしてまとまっている。
    • 「須田ゲー」と言うと理解させる気の無い難解さと電波とすら言えるほどのぶっ飛びぶりで、ほとんど判らないまま終わってしまう作品が多いが、本作は比較的分かりやすい説明が多く理解は難しくない。誰が誰なのかを把握しきれていない初回では混乱するかもしれないが、それも周回すればおおよそ分かるだろう。
    • 須田ゲーの中では比較的シンプルなストーリーではあるが、エンディングは須田ゲーらしく解釈の余地のあるもの。1周目はかなりあっさり終わってしまうが2周目では内容が変わっており、より解釈に委ねて余韻も残る結末となっている。
  • 『killer7』を継承したスタイリッシュな映像表現
    • 本作の前月に発売された『BLOOD+ 双翼のバトル輪舞曲』が原作準拠の絵柄だったのに対し、本作はGHMの代表作『killer7』同様のシャープな陰影のトゥーンレンダリングで描写される。アニメ本編や他の関連作とは一線を画したクールな『BLOOD+』が展開される。
      • これはバンナムから『killer7』のタッチが『BLOOD+』に合っていると言われた事から採用された。しかしGHMは『killer7』のPS2版にはほとんど関わっていなかったので、本作のためにPS2用の描画エンジンを新しく開発したという。
    • 小夜の覚醒演出、刀に血を通すお馴染みの表現、翼手1体1体に用意されたトドメの刺し方など、クールながらも原作の雰囲気もまたしっかり再現した、本作ならではの表現方法を実現している。
    • GHMらしい演出のユニークさも忘れていない。『killer7』とはまた違った独特のタイポグラフィ、荒いドット絵のようなアイコンなど、他のゲームではそうそう見ない演出も盛り込んでいる。
      • 今作も須田ゲーお馴染みの「月」に関する演出があり、マップ移動時には必ず月がズームアップされる。しかしそれも場所によっては道端に落ちているボールやポスターのイラストを月に見立てるなど、見る者を唸らせる遊び心がある。
      • メニュー画面は携帯電話を開く形式だが、小夜と青山とで待ち受け画面が異なる。小夜は沖縄の家族、青山はパートナーだった女刑事の在りし日の姿と、それぞれの性格を表しているのも面白い。
  • コスチュームの豊富さ
    • サブイベントをこなすとコスチュームが増えるが、これがなかなか種類が豊富。デフォルトのコザ商業高校の夏服*7だけではなく様々な学校の制服を小夜に着せられる。それも上下別々に着こなす事も可能。
      • ムービーは流石にデフォルトで固定だがカットシーンには反映されるので、いつもと違う制服の小夜でストーリーを展開するのも面白い。
      • BLUE MOUNTAINモードをクリアすると、なんと原作終盤の衣装に着替えられるようになる。髪型もそちらに合わせて変わる懲りようである。
    • 青山の方はTシャツを着せ替えられる。数は少ないが、説明文が青山本人のコメントになっており、いちいち笑いを誘う。

問題点

  • 画面の見づらさ
    • 『killer7』譲りのクールな映像表現は売りではあるのだが、シャープな陰影故に影が濃くなり過ぎており、移動中は見えづらいだけのシーンも多々。時には画面の大半が黒塗りのような状態になってしまう場合も。
      • 加えて本作は夜のシーンが大半なので余計に画面が見えづらくなっていく。夕方の時点でもかなり黒い。特に警察署近辺のマップは道路が真っ黒なので主人公の服と髪が溶け込んでしまう。夏服の小夜はともかくスーツの青山はほぼカムフラージュ状態に。『killer7』ではこのような事はほとんど無かったのだが…。
      • 戦闘中は見えやすくする為か全体に色が掛けられる効果もあるが、そもそも普段から見えるようにして欲しいものである。
    • 単純にカメラワークも悪い。戦闘時は常時ロックオン状態になるので距離を取るのも思うように行かない。
      • かと思ったら急に敵視点になったりする。特に良好な演出としても機能しておらず、ただ混乱の元に。
  • 爽快とは言い難いアクション
    • 小夜の攻撃モーションはかなりもっさりしており、爽快感に欠ける。同系統のチャンバラゲームのようなスタイリッシュな剣戟はあまり望めない。
    • 見栄えだけではなく隙も大きく、注意しないとコンボ後にすぐに反撃を喰らう。
      • 回避アクションはあるが、右スティックを倒すという独特の操作方法なので少々やり辛い。ジャンプもカメラワークの所為もあってかなり癖がある。
    • アイコンが表示される特定のタイミングで体術を繰り出すとダウンさせられる、とは上述したが敵との距離が適切でないと発動しない。しかし距離が離れていてもアイコンは表示されるので、「アイコンが出たから◯を押す→距離が足りなくて空振り→その隙に被弾」というケースが珍しくない。
      • 上述の通り、アイコンが出ていない時に体術を出しても軽く蹴って少し仰け反らせるだけでこれと言った隙も生み出せない。体術で怯ませて斬撃を叩き込むような戦法は不可。
    • 覚醒モードに入ると素早い連撃で敵の部位にダメージを与えられるが、そもそも小夜は覚醒モードでなければ翼手にダメージが通らない
      • よって翼手戦における通常攻撃はダメージを与えるのではなく「BLOODメーター」を貯める意味しか無い。バッサバッサと斬って血を撒き散らしても全然効いていないのでは爽快感も何もあったものではなく、テンポも非常に悪い。
      • 1回の覚醒モードにつき一つしか部位を破壊できないので、部位の多い敵との戦いはひたすら面倒である。覚醒モードも時間制限ありなので、もしも破壊できないまま効果が切れた場合は余計なBLOODメーター溜め作業が発生する。
    • トドメモードのコマンドも妙にトリッキーで難しいものが多く、ここで躓いてやり直し→反撃を喰らってゲームオーバーもあり得る。
    • これらにより、超人的身体能力を駆使するはずの小夜編よりも、攻撃を避けて銃弾を撃ち込むというシンプルなゲーム性の青山編の方がよほど爽快感があるという事態に。
      • クリア後のおまけは上述の青山を操作するサバイバルモードだが、実質小夜で苦戦させられた翼手に青山でお礼参りするようなものとなっている。
    • 戦闘中はHP回復手段が無い。アイテムを持ち込んだり、回復アイテムが配置されるなどの救済措置は一切存在しないので、この悪い操作性とカメラワークの中で己の腕だけが頼りになる。
      • 1周目なら難易度イージーにあたる「Adventure Mode」があるので苦手な人でも安心だが、2周目『PERFECT KISS』は強制高難易度で容赦が無い。しかも真のエンディングを見るにはこれをクリアしなければならない。
    • アドベンチャーパートでは全力疾走が可能だが、何故か連打が必要。早く連打する必要はなく、軽く叩くだけで良いとは言え、走る度に連打させられるのは億劫である。スピードが上がるまでも少し掛かる。
  • コンティニュー不可
    • 敗北してもコンティニューは無く、タイトル画面に戻される。翼手戦前にはほぼ確実にセーブポイントがあるとは言え、戦闘がシビアな本作では非常に億劫である。うっかりセーブを忘れた日には…*8
    • 主人公が倒れてからのゲームオーバー演出も無駄に長くスキップ不可。ゆっくりとフェードアウト→力尽きる主人公の台詞→ゲームオーバー表示→仲間の台詞と共にまたゆっくりフェードアウト、という一連の流れが毎回あるので余計にストレスに。
      • また、仲間の台詞の前にいちいち◯ボタンを押すように指示される。こんな操作を入れるくらいならコンティニューを入れて欲しかった。
      • 台詞は無駄にバリエーションが豊富であり、「こんなとこで終われねえよなぁ!」「俺は信じてるぜ」「私が付いています」など再起を促す台詞も多い。ならばすぐに再挑戦させて欲しいものだが。
    • ちなみにGHMのキャラゲー1作目である『サムライチャンプルー』にはしっかりコンティニュー機能があった。
    • こんな仕様なので、高難易度でリトライさせられやすい『PERFECT KISS』は本当に苦痛である。
  • 全体的な作業感
    • 『双翼のバトル輪舞曲』と違ってフィールドの自由な探索が可能ではあるのだが、肝心の探索は退屈で飽きが早い。
      • 基本的に目的地に向かうだけなので、序盤はともかく街の風景を見慣れた後にはただの面倒な移動シーンになってしまう。
      • 上述の通り薄暗いを通り越して黒い景色ばかりなので、『花と太陽と雨と』のように歩き回る事自体に楽しみを見出すのも難しい。
    • それに輪をかけるのが実験動物体との戦闘。弱い癖にワラワラと湧く敵を処理するだけなのに、これを全滅させないと翼手と戦えないのでただストーリーのテンポを阻害するだけの遅延作業になっている。ストーリー的に「急いで向かう」というシーンであってもお構いなし。実験動物体自体も本筋に全く関わって来ないので本当にただの作業でしかない。
      • 敵の種類も少なく、攻撃パターンはそれに輪をかけて少ない。しかもバトルフィールドは全部同じ。
      • 強制ロックオンで切り替え機能も無いので、敵を倒す度に狙いが勝手に定められる。敵が出現したから近付いて斬ろうとする→反対方向の離れた敵に向けて刀を振るう、など日常茶飯事。
      • ストーリーが進むと実験動物体戦でも覚醒モードに入れるようになるが、覚醒とスローの演出の所為で却ってテンポを損ねている。
      • そして『PERFECT KISS』では実験動物体出現ポイントの数が激増するのでうんざりすること請け合い。マップを開いた際に表示される大量のアイコンは何の嫌がらせかと思えるほど。
    • これら以外に、特定のフラグを立ててストーリーを進めるポイントもあるのだが、いずれも無駄にNPC間をたらい回しにされるのでこれも作業じみており、プレイ時間の水増しを感じさせる。
      • サブイベントも然り。とにかく無駄にお遣いをさせられるのでひたすら面倒である。コンビニ店員にラブレターを渡すイベントなどは内容も相まって苛立たせられる。
      • NPCの台詞はやたらと個性的だが、主人公側が全く反応しないのは面白味に欠ける。
  • 1日限りの弊害
    • Production IGから与えられた期間が1日だけだった関係で本作はたった1日、それも夕方から翌朝までであり、ストーリーがかなりタイトなスケジュールになっている。
      • 翼手関連で他校に編入するのは『BLOOD THE LAST VAMPIRE』時代からのお馴染みの展開*9だが、今回は当初の予定からして1日だけである。確かに式東高校内にも複数の翼手が潜伏していたがそればかりではないので、編入する必要性も少々疑問である*10。実際、チュートリアルを含む最初の2戦を終えると式東高校から離れてしまう。
    • 赤い盾の介入に気付いた敵側が光化学スモッグ発生と偽って外出禁止令を出し、一般市民を家に閉じ込めて街を小夜との戦場にしようとする展開があるのだが、それ以降も普通にNPCは街にいる。本当に一般人を消してしまったらサブイベントなどで都合が悪いからだろうが、平然と外出禁止令をガン無視させてそれについてのツッコミも無いのは違和感が否めない*11。かと言って、一般市民が戦いの巻き添えになる描写もない。『BLOOD-C』にはならなかった。
    • ある敵キャラは小夜編と青山編に跨って登場するのだが、短い時間で複数の場所に出現したり、翼手と人間の姿を切り替えたりと非常に忙しないばかりか明らかにおかしい行動を取っている。
      • 具体的には、「翼手状態で警察署にて青山と遭遇するも頭を撃ち抜かれて瀕死に」→「貯水池にて人間の姿で小夜の前に仲間と共に現れるも、仲間が倒されて撤退」→「また翼手化して警察署に出現するが署長に任せて青山は先を急ぐ」→「青山が向かった先の邸宅に人間の姿で居る」と、同一人物の行動にしては非常に不自然である。他のキャラと混同したのだろうか。
    • 『双翼のバトル輪舞曲』に続き、「小夜と友達になった相手との悲しい戦い」の展開もあるのだが、あちらは7日間の物語だったのに対し本作はたった1日なので今一つ説得力に欠ける。
      • そのキャラは小夜と知り合った直後にいきなり親友宣言し、「小夜のこと大好きだよ」「私が守るから」などと胡散臭いまでに宣う。
      • 案の定、最初から小夜の正体を知り騙すつもりで近付いたのだが、最終的には小夜への本当の友情が芽生えたという展開となる。しかし作中でやったのは、無関係を装って翼手を嗾ける行為ばかりで、どこで友情を育んだのかが伝わりにくい。一応、当人の重い過去も語られるが、それと小夜との友情についてはあまり関係ない。
      • 小夜の方も洗脳されているのかという程の寄り添った態度で接し、何度怪しい素振りを見せられても多少困惑するだけで実際に対決するその時まで友情はほとんど揺らがない。
      • 2周目には死の間際に小夜と和解するシーンが描かれるが、『双翼のバトル輪舞曲』の同ポジションキャラの最期と大体同じ。役割そのものもは違うとは言え、少々芸に欠ける。
  • イベントに字幕が表示されない
    • イベントシーンはフルボイスなのだが、何故か字幕はオフで固定。BGMの流れないイベントが大半なので聞き取りにくい状況は少ないものの、説明の理解や人名や用語の把握には手間取る。『ムーンライトシンドローム』もそうであったが、まさかそんな所まで踏襲したのだろうか。
    • ちなみに『サムライチャンプルー』にはしっかり字幕があった。コンティニューと言い、字幕と言い、何故本作に限って導入しなかったのか。
  • 原作との乖離
    • 原作が放送中の開発・発売という点に加えて須田カラーの強さ故に、単純に『BLOOD+』のゲーム化として考えると首を傾げるような作りなのも否めない。
      • 身も蓋もない話をしてしまうと、『BLOOD+』のシリアスな作風と須田ゲーとの食い合わせは良いとは言い難い。前作『サムライチャンプルー』は原作からしてカオスなごった煮感が特徴だったが…。
    • オリジナルキャラによる会話の流れ、キャラクター性などはほぼ完全に須田ゲーのそれであり、『BLOOD+』原作の雰囲気とはかけ離れている。
      • 特に婦警の「桃山さん」は性格や言動が自由極まりない事に加えて、青山が倒せない翼手をあっさり撃退たまたま買い物に出て敵襲を免れる最後は合コンに行って退場する*12など、ストーリーの空気を読まずやりたい放題である。
    • 小夜やハジ、デヴィット、ルイスと言った原作キャラの性格は基本的に原作準拠なので、キャラ崩壊の心配は無い*13。それ故に彼女らとオリキャラの温度差は大きいが、意外と違和感は少ない。
      • ただ、それは原作キャラとオリキャラの掛け合いが少なめだからという理由もある。小夜が敵と対峙しても、「相手が一方的にまくしたてて小夜は困惑」→「翼手の正体を表したからとにかく斬る」、もしくは最初から翼手化した相手と遭遇して即戦闘という流れが多い。小夜自身のドラマも無くもないのだが、熱く語り合ったり啖呵を切るなどの主人公らしい役割は青山がほとんど担っている。
      • 事件の核心に迫るのも青山であり、小夜の方はまるで『BLOOD THE LAST VAMPIRE』のようにひたすら翼手を斬る立ち回りが多い。これはそれぞれの役割上*14、仕方なくもあるが原作主人公が本筋から外れている感覚も否めず、少々寂しい。
    • 本編キャラに輪を掛けてはっちゃけているのがNPC。名前からして変なもの*15ばかりであり、言動も個性的を通り越してイカれているのかと思えるような者も。
      • ちなみにNPCの台詞担当はあの『michigan』のシナリオライターである。
    • ストーリー自体、原作とは特に関連性は無い。一応、ラスボスがシュヴァリエだという繋がりはあるが、ベトナム編の前というディーヴァの影も形も無い頃だからか具体的な素性については語られない。
      • 小夜以外の原作キャラの活躍は皆無。リクもカイも、小夜の携帯の待ち受け画面とエンディングに登場する以外は、ゲームオーバーで喋る程度で本筋には全く関わらない。ルイスは序盤にしか登場しないし、デヴィットは基本メールや電話で指示を出すのみ。
      • ハジもセーブやバトルの度に「貴方が望むなら」「小夜、戦って」などの原作台詞を言うので存在感はあるものの、ハジガードを除けば戦闘に関与せず、原作のように一緒に戦ってはくれない。
    • 原作のスケジュール的に仕方のない話ではあるが、沖縄編とベトナム編の間と見ると違和感がある。
      • 小夜は沖縄編の直後とは思えないほど戦い慣れており、最後はシュヴァリエまで倒してしまう。また、原作アニメの描写だけでは7話の後ですぐにベトナムに飛んだように見えるので、こんな事をやっている暇があったのかとも思えてしまう。
      • カツカツなスケジュールという点は『双翼のバトル輪舞曲』も同様だが、あちらはベトナム編とロシア編の間なので、小夜の戦闘能力に関してはまだ説得力がある。
      • ただ、エンディングの描写を見ると、本作の出来事が単純な「沖縄編とベトナム編の間の、原作アニメで描かれていない1日」とは言い切れない可能性もある。

総評

キャラゲーながら開発側の作家性が強く出た作品。
原作との繋がりもほとんど無いので、純粋な『BLOOD+』のゲーム化というよりは「『BLOOD+』の世界に出現した須田ワールドを体験するゲーム」「青山が主役の須田ゲーに小夜やハジがゲスト参戦したもの」と言った方がいいかもしれない。
原作が好きだからという理由で手を出すと作風に面食らい、原作要素の薄さに肩透かしを喰らう可能性が高い。
逆に原作を大して知らなくとも重大な弊害が無く、『BLOOD+』ファンよりも須田ゲーファン向けのゲームと言え、ここから原作に興味を持つのもアリだろう。
しかしそれを別としても、まだGHMが本格アクションの開発に熟れていなかった時期故かゲーム部分の出来も荒く、須田ゲーファンにも素直にはお勧めし辛い。


余談

  • 本作の方向性は後の『ノーモア★ヒーローズ』で全体的にプレイしやすく昇華される。
    • 同作では、戦闘システムや探索要素など様々な点が本作の不出来な部分を改善するような形で盛り込まれている。実質、本作の改良版とも言える仕上がりに。
      • アクションステージなど『サムライチャンプルー』の改良と思しき部分もある。
    • 本作での特徴的な荒いドット風のアイコンも、同シリーズにてお馴染みの要素となっていった。
    • 同シリーズの日本語吹き替えでは小夜とハジ、そして本作オリジナルキャラ三人の担当声優が主要キャラ役として参加している*16
    • フィールドを回って敵出現ポイントを潰し、ボスの元へと向かう、というゲーム性はある意味『ノーモア★ヒーローズ3』の原型と言えるかもしれない。
    • また、GHMのバトルヒロイン物という点では『解放少女』『ロリポップチェーンソー』『月極蘭子のいちばん長い日』などの先駆けとも言える。
  • GHMは『サムライチャンプルー』に続き本作と短期間でキャラゲーを連続してリリースし、須田氏も「原作モノの終着駅はガンダム」「『閃光のハサウェイ』を作りたい」と語っており、キャラゲーの開発に意欲を見せていたが、以降は『ノーモア★ヒーローズ』などのオリジナルタイトルの開発に注力する形となり、キャラゲーはほぼ手掛けなくなった。
    • 本作と『サムライチャンプルー』の発売元であるバンダイナムコゲームス*17からも『.hack』のようなゲーム先行型のオリジナルタイトルをやろうという話も上がっていたようだが、実現はしなかった。
    • 一応、2011年にはまたバンナムのキャラゲー『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 -サウンドインパクト-』を開発している。
  • GHM公式サイトでは過去の開発作品が紹介されており、本作の紹介ページもあるのだが、掲載されているスクリーンショットの中に何故か一枚だけ『双翼のバトル輪舞曲』のものがある
  • 実は本作はエンディングを当初のプロットから大きく変更している。
    • というのも、当初は小夜のクローンが死ぬという展開を想定していたのだが、原作サイドから「ヒロインが死ぬ」という点を怒られて変更を余儀なくされたという。本人ではなく偽物でも駄目だったらしい。
    • 作中ではOPムービーで出てくる小夜に似た少女や終盤で語られる実験体などははっきりしないまま終わってしまうが、その弊害だろうか。

最終更新:2025年01月26日 10:16

*1 この作品自体は2000年に劇場公開された『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を中心としたメディアミックス作品群をベースに設定やキャラクターを一新した作品ものである。

*2 名前からしてモデルはやはり埼玉県志木市だろうか。

*3 本作の翼手は独自のプロセスで生み出された不完全体なので、銃火器でも息の根は止められないが瀕死までは追い込める。一部、青山が普通に殺していると思しき翼手もいるが、原作でも小夜以外が翼手を殺す描写はあるのでその辺りは深く考えるなという事だろう。

*4 養父ジョージの結晶を埋め込んだ刀。

*5 翼手にトドメを刺す際、小夜が自分の血を刀に巡らせる際にはちゃんと赤い血で表現される。

*6 『シルバー事件』も現代日本ではあるが、舞台設定に関しては独特の世界観であった。

*7 一度クリアすると冬服も追加。

*8 一応、翼手戦直前にはBGMが緊迫感のあるものに変わるので、それを理解していれば大丈夫だろうが。

*9 『BLOOD+』においては本作の他、ベトナム編や『双翼のバトル輪舞曲』でも編入している。時系列上は本作の件が初。

*10 小夜自身、今回の任務が1日限りとは知らされておらず、実際に調査を始める放課後になって初めて知る状態だった。

*11 街を出歩いているNPCには、明け透けに外出禁止令を無視している旨を語る者もいる。

*12 しかもこれらによって本作オリキャラで唯一息災のまま終わるという優遇ぶり。

*13 強いて言えば、原作であまり言わないような台詞を口にしたり、一部のサブイベントなどでナレーション的に出る小夜の短いモノローグがはっちゃけている程度。

*14 小夜の任務はあくまで式市の翼手の全滅で、事件を追っているのは青山の方である。

*15 「オイちゃん」「チャッキー」「御洒落泥棒」など。これは全て"女子高生の名前"である。

*16 オリジナルキャラの一人の担当は『サムライチャンプルー』で主人公役を務めた中井和哉氏であり、『ノーモア★ヒーローズ』でも主役となっている。

*17 『サムライチャンプルー』時はバンダイ。須田氏曰く「それまで1度仕事をすると、嫌気をさされるのか、何なのか(笑)、つぎの仕事に結びつかなかったんです」との事で、連続して仕事をくれたメーカーは初めてだったとか。