ギリシャ神話

今日、ギリシア神話として知られる神々と英雄たちの物語の始まりは、およそ紀元前15世紀頃に遡ると考えられている。物語は、その草創期においては、口承形式でうたわれ伝えられてきた。紀元前9世紀または8世紀頃に属すると考えられるホメーロスの二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』は、この口承形式の神話の頂点に位置する傑作とされる。当時のヘレネス(古代ギリシア人による彼ら自身の呼称)の世界には、神話としての基本的骨格を備えた物語の原型が存在していた。

ギリシャ神話の物語

ギリシア神話は、以下の三種の物語群に大別し得る。
  • 世界の起源
  • 神々の物語
  • 英雄たちの物語

第一の「世界の起源」を物語る神話群は、分量的には短く、主に三つの系統が存在する(ヘーシオドスが『神統記』で記したのは、主として、この「世界の起源」に関する物語である)。
第二の「神々の物語」は、世界の起源の神話と、その前半において密接な関連を持ち、後半では、英雄たちの物語と絡み合っている。英雄たちの物語において、人間の運命の背後には神々の様々な思惑があり、活動が行われ、それが英雄たちの物語にギリシア的な奥行きと躍動を与えている。
第三の「英雄たちの物語」は、分量的にはもっとも大きく、いわゆるギリシア神話として知られる物語や逸話は、大部分がこのカテゴリーに入る。この第三のカテゴリーが膨大な分量を持ち、夥しい登場人物から成るのは、日本における神話の系統的記述とも言える『古事記』や、それに並行しつつ歴史時代にまで記録が続く『日本書紀』がそうであるように、古代ギリシアの歴史時代における王族や豪族、名家と呼ばれる人々が、自分たちの家系に権威を与えるため、神々や、その子である「半神」としての英雄や、古代の伝説的英雄を祖先として系図作成を試みたからだとも言える。

世界の起源

古代ギリシア人は他の民族と同様に、世界は原初の時代より存在したものであるとの素朴な思考を持っていた。しかし、ゼウスを主神とするコスモス(秩序宇宙)の観念が成立するにつれ、おのずと哲学的な構想を持つ世界の始原神話が語られるようになった。それらは代表的に四種類のものが知られる(ただし、2と3は、同じ起源を持つことが想定される)。

神々の系譜や人間の起源などを系統的な神話に纏めあげたヘーシオドスは、『神統記』において二つの主要な起源説を伝えている。
  1. ヘーシオドスは古代オリエントなどの神話の影響を受けたと考えられ、後に「混沌」と解釈されるカオスが最初に存在したとしている。ただし、彼はカオスを混沌の意味では使っていない。それは空隙であり、カズムとも呼ばれる。その後、大地(ガイア)が万物の初源としてカオスのなかに存在を現し、天(ウーラノス)との交わりによって様々な神々を生み出したとされる。ウーラノス、クロノス、そしてゼウスにわたる三代の王権の遷移がここで語られることになる。
  2. 他方、ヘーシオドスは、上記とは起源が異なると考えられる、自然哲学的構想を備えた世界の始源神話を同じ『神統記』においてうたっている。胸広きガイアが存在し、それと共に、地下の幽冥タルタロスと何よりも美しいエロース(愛)が生まれたとする。原初にエロースが生まれたとするのは、オルペウス教の始原神話に通じている。エロースは生殖にあって大きな役割を果たし、それ故、愛が最初に存在したとする。
  3. 第三の宇宙観は哲学的・宗教的に体系化されていたと考えられ、オルペウス教が基盤を置いた、あるいはこの宗教が提唱した世界の初源神話である。オルペウス教は多様な神話を持っており、断片的な複数の文書が伝える内容には異同がある。その特徴としては、原初に水や泥があり、大地(ガイア)も存在し、クロノス=時 Chronos(ウーラノスの子のクロノス Kronos とは異なる)やエロースが原初にあった。そして「原初の卵」が語られ、他のギリシア神話では語られない、パネース(Φανης)あるいはプロートゴノス(Πρωτογονος)が存在したとする。
  4. 以上に挙げた世界の始原神話以外に、第四のものとして、ホメーロスが『イーリアス』でうたっている、より古く単純とも言える始原についての神話がある。それは万物のはじめにオーケアノス(海洋・外洋の流れ)が存在したという神話で、彼と共に妻テーテュースが存在したとされる。この両神の交わりより、多数の神や世界の要素が生み出されて来たとする。これは素朴な神話で、海岸部の住民が信じていた始原神話と考えられる。

ギリシャ神話の神々


ゼウス(ΖΕΥΣ/Zeus)

ギリシア神話の主神たる全知全能の存在。全宇宙や天候を支配し、人類と神々双方の秩序を守護する天空神であり、オリュンポス十二神をはじめとする神々の王でもある。全宇宙を破壊できるほど強力な雷を武器とし、多神教の中にあっても唯一神的な性格を帯びるほどに絶対的で強大な力を持つ。

ヘルメス(ΕΡΜΗΣ/Hermēs)

ギリシア神話に登場する青年神である。長母音を省略してヘルメスとも表記される。オリュンポス十二神の一人。神々の伝令使、とりわけゼウスの使いであり、旅人、商人などの守護神である。

アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ/Artemis)

ギリシア神話に登場する狩猟・貞潔の女神である。のちに月の女神ともなった。オリュンポス十二神の一人。セレーネーやヘカテーなどの女神とは同一視されることがある。アテーナー、ヘスティアーと並んでギリシア神話の三大処女神として著名である。

ディケー(Δίκη, Dikē)

ギリシア神話に登場する正義の女神。 ホーラ女神3姉妹の1人。長母音を省略してディケとも表記される。
ゼウスとテミスの娘で、エウノミアー、エイレーネーと姉妹。人類を見守り、人類が不正を働いた時にはこれをゼウスに訴えるという。

最終更新:2017年09月10日 13:52
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