福音書(希: ευαγγέλιον, ラテン語: Evangelium)は、
イエス・キリストの言行録である。通常は新約聖書におさめられた福音書記者による四つの福音書(
マタイによる福音書、マルコによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書)を意味する。その他に
トマスによる福音書や
ペトロによる福音書などがあるが、正典として認められなかった外典文書である。
うち、マタイ福音書、マルコ福音書、ルカ福音書は記述が並列することから、
共観福音書と呼ばれる。
内容
以下の時系列は、基本的には最も古いマルコ福音書の記載を中心に進めるものとする。
1.誕生の次第、幼年時代 (マタイ1:18-2章)(ルカ1:5-2章)
2.公生涯の準備(マタイ3章-4:16)(マルコ1:1-14)(ルカ3章-4:13)(ヨハネ1:6-2:12)
3.ユダヤでの初期の活動(ヨハネ2:13-4:42)
4.ガリラヤ及びその周辺での公の活動(マタイ4:17-16:20)(マルコ1:15-8:30)(ルカ4:14-9:21)(ヨハネ4:43-7:9)
5.ガリラヤでの私的な活動(マタイ16:21-18章)(マルコ8:31-9章)(ルカ9:22-9:56)
6.ユダヤでの後期の活動(マタイ19-25章)(マルコ10-13章)(ルカ10-21章)(ヨハネ7:10-12章)
7.告別演説(ヨハネ13-17章)
8.イエスの死と復活(マタイ26-28章)(マルコ14-16章)(ルカ22-24章)(ヨハネ18-21章)
9.その他
福音書の成立時期
四つの福音書の成立時期に関する説はいろいろあって、そのどれも確証に欠くきらいがある。一部の保守的な研究者たちは伝承どおり、福音書の成立を1世紀の中ごろから後半と考えるが、現代もっとも広く受け入れられている説は以下のようなものである。ここでは現代を代表する
聖書学者の一人レイモンド・ブラウン(Raymond E. Brown)の著作から成立時期に関する解説を参照してみる。
- マタイ:70年~100年ごろ成立
- マルコ:68年~73年ごろ成立
- ルカ:80年~100年ごろ成立(もっとも有力な説は85年ごろの成立)
- ヨハネ:90年~110年ごろ成立
それぞれの福音書の特徴
|
マルコ福音書 |
マタイ福音書 |
ルカ福音書 |
ヨハネ福音書 |
時期 |
60年代 |
70年代 |
80年代 |
90-100年代 |
イエス観 |
主の僕 |
この世の王 |
人の子 |
神の御子 |
受け取り手 |
ローマ人 |
ユダヤ人 |
異邦人 |
全ての人類 |
福音書のシンボルとエゼキエル書との関連
各福音記者のシンボルは、
エゼキエル書1章1-28節に出てくる四つの有翼の生き物(10節によると人間、獅子、牛、鷲)とそれも踏まえた黙示録4章1-11節に出てくる同様の生き物(7節によると獅子、雄牛、人間、鷲)がやがて教父たちにより、四福音記者のシンボルとして解説されるようになる。
エゼキエル1:5-11
またその中には、四つの生き物の姿があった。その有様はこうであった。彼らは人間のようなものであった。それぞれが四つの顔を持ち、四つの翼を持っていた。脚はまっすぐで、足の裏は子牛の足の裏に似ており、磨いた青銅が輝くように光を放っていた。また、翼の下には四つの方向に人間の手があった。四つとも、それぞれの顔と翼を持っていた。翼は互いに触れ合っていた。それらは移動するとき向きを変えず、それぞれ顔の向いている方向に進んだ。その顔は人間の顔のようであり、四つとも右に獅子の顔、左に牛の顔、そして四つとも後ろには鷲の顔を持っていた。顔はそのようになっていた。翼は上に向かって広げられ、二つは互いに触れ合い、ほかの二つは体を覆っていた。
また、玉座の前は、水晶に似たガラスの海のようであった。この玉座の中央とその周りに四つの生き物がいたが、前にも後ろにも一面に目があった。第一の生き物は獅子のようであり、第二の生き物は若い雄牛のようで、第三の生き物は人間のような顔を持ち、第四の生き物は空を飛ぶ鷲のようであった。
2世紀末のリヨンの司教イレネウス(エイレナイオス)は、上述の四つの生き物をまず神の救いの計画の四つの次元を表すものと考えた。獅子はキリストの王としての姿、雄牛は大祭司キリストの奉献、人間はキリストの人としての来臨、鷲は教会に降る聖霊のシンボルと考えた彼は、さらに獅子をヨハネ福音書、雄牛をルカ福音書、人間をマタイ福音書、鷲をマルコ福音書のシンボルとした。
その後、教父により四つの生き物のあてはめ方が多少変わるが、4世紀のヒエロニムスは、人間をマタイ、獅子をマルコ、牛をルカ、鷲をヨハネに当てはめ、これが定着した。
最終更新:2020年10月06日 15:44