反キリスト

反キリストはキリストの考えに背く者という意味であり、聖書中ではヨハネの手紙一ヨハネの手紙二に記載がある。またヨハネの黙示録にも「獣」として隠喩されている。旧約聖書のダニエル書にも記載があるとする考えもある。

ヨハネの手紙における「反キリスト」

ヨハネの手紙の著者の考えでは、反キリストは終末に来るものだが、すでに新約聖書の書かれた時代には世界は終末に近づいており、反キリストも出現しているという立場に立っている。

ヨハネの手紙一2:18-23
子供たちよ、終わりの時が来ています。反キリストが来ると、あなたがたがかねて聞いていたとおり、今や多くの反キリストが現れています。これによって、終わりの時が来ていると分かります。彼らはわたしたちから去って行きましたが、もともと仲間ではなかったのです。仲間なら、わたしたちのもとにとどまっていたでしょう。しかし去って行き、だれもわたしたちの仲間ではないことが明らかになりました。
しかし、あなたがたは聖なる方から油を注がれているので、皆、真理を知っています。わたしがあなたがたに書いているのは、あなたがたが真理を知らないからではなく、真理を知り、また、すべて偽りは真理から生じないことを知っているからです。
偽り者とは、イエスがメシアであることを否定する者でなくて、だれでありましょう。御父と御子を認めない者、これこそ反キリストです。御子を認めない者はだれも、御父に結ばれていません。御子を公に言い表す者は、御父にも結ばれています。

反キリストは、神ではなく俗世に属していて、キリストを否定する偽預言者のことを指していた。そして、反キリストはただ一人ではなく、複数いたようである。

ヨハネの手紙一4:1-6
愛する者たち、どの霊も信じるのではなく、神から出た霊かどうかを確かめなさい。偽預言者が大勢世に出て来ているからです。
イエス・キリストが肉となって来られたということを公に言い表す霊は、すべて神から出たものです。このことによって、あなたがたは神の霊が分かります。
イエスのことを公に言い表さない霊はすべて、神から出ていません。これは、反キリストの霊です。かねてあなたがたは、その霊がやって来ると聞いていましたが、今や既に世に来ています。
子たちよ、あなたがたは神に属しており、偽預言者たちに打ち勝ちました。なぜなら、あなたがたの内におられる方は、世にいる者よりも強いからです。
偽預言者たちは世に属しており、そのため、世のことを話し、世は彼らに耳を傾けます。
わたしたちは神に属する者です。神を知る人は、わたしたちに耳を傾けますが、神に属していない者は、わたしたちに耳を傾けません。これによって、真理の霊と人を惑わす霊とを見分けることができます。
このように書くのは、人を惑わす者が大勢世に出て来たからです。彼らは、イエス・キリストが肉となって来られたことを公に言い表そうとしません。こういう者は人を惑わす者、反キリストです。

ヨハネの手紙二5-11
さて、婦人よ、あなたにお願いしたいことがあります。わたしが書くのは新しい掟ではなく、初めからわたしたちが持っていた掟、つまり互いに愛し合うということです。愛とは、御父の掟に従って歩むことであり、この掟とは、あなたがたが初めから聞いていたように、愛に歩むことです。
このように書くのは、人を惑わす者が大勢世に出て来たからです。彼らは、イエス・キリストが肉となって来られたことを公に言い表そうとしません。こういう者は人を惑わす者、反キリストです。
気をつけて、わたしたちが努力して得たものを失うことなく、豊かな報いを受けるようにしなさい。だれであろうと、キリストの教えを越えて、これにとどまらない者は、神に結ばれていません。その教えにとどまっている人にこそ、御父も御子もおられます。
この教えを携えずにあなたがたのところに来る者は、家に入れてはなりません。挨拶してもなりません。そのような者に挨拶する人は、その悪い行いに加わるのです。

黙示録における「獣」

伝統的には、黙示録13章に現れる「第一の獣(先の獣)」が反キリストの化身であり、これに追従する「第二の獣」がそれを喧伝する偽預言者の化身、またはサタンと考えられた。
反キリストと考えられる「第一の獣」は、「竜」により権威を与えられ、聖なる者たちを滅ぼしていく。そして、この獣を拝むのは「命の書」に名前が記されていない人であるという。

ヨハネの黙示録13:1-10
わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒瀆するさまざまの名が記されていた。
わたしが見たこの獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた。
この獣の頭の一つが傷つけられて、死んだと思われたが、この致命的な傷も治ってしまった。そこで、全地は驚いてこの獣に服従した。
竜が自分の権威をこの獣に与えたので、人々は竜を拝んだ。人々はまた、この獣をも拝んでこう言った。「だれが、この獣と肩を並べることができようか。だれが、この獣と戦うことができようか。」
この獣にはまた、大言と冒瀆の言葉を吐く口が与えられ、四十二か月の間、活動する権威が与えられた。そこで、獣は口を開いて神を冒瀆し、神の名と神の幕屋、天に住む者たちを冒瀆した。
獣は聖なる者たちと戦い、これに勝つことが許され、また、あらゆる種族、民族、言葉の違う民、国民を支配する権威が与えられた。
地上に住む者で、天地創造の時から、屠られた小羊の命の書にその名が記されていない者たちは皆、この獣を拝むであろう。
耳ある者は、聞け。
捕らわれるべき者は、
捕らわれて行く。
剣で殺されるべき者は、
剣で殺される。
ここに、聖なる者たちの忍耐と信仰が必要である。

サタンのことを考えられた第二の獣については、有名な獣の数字で暗喩されている。

ヨハネの黙示録13:11-18
わたしはまた、もう一匹の獣が地中から上って来るのを見た。この獣は、小羊の角に似た二本の角があって、竜のようにものを言っていた。
この獣は、先の獣が持っていたすべての権力をその獣の前で振るい、地とそこに住む人々に、致命的な傷が治ったあの先の獣を拝ませた。そして、大きなしるしを行って、人々の前で天から地上へ火を降らせた。
更に、先の獣の前で行うことを許されたしるしによって、地上に住む人々を惑わせ、また、剣で傷を負ったがなお生きている先の獣の像を造るように、地上に住む人に命じた。
第二の獣は、獣の像に息を吹き込むことを許されて、獣の像がものを言うことさえできるようにし、獣の像を拝もうとしない者があれば、皆殺しにさせた。
また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。
ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。

この反キリストはその後、神の裁きに遭う。

ヨハネの黙示録19:19-20
わたしはまた、あの獣と、地上の王たちとその軍勢とが、馬に乗っている方とその軍勢に対して戦うために、集まっているのを見た。
しかし、獣は捕らえられ、また、獣の前でしるしを行った偽預言者も、一緒に捕らえられた。このしるしによって、獣の刻印を受けた者や、獣の像を拝んでいた者どもは、惑わされていたのであった。獣と偽預言者の両者は、生きたまま硫黄の燃えている火の池に投げ込まれた。

ダニエル書7章の「小さな角」


ダニエル書7章に記されている「小さな角」については、その顛末がヨハネの黙示録19章に記載のある反キリストへの裁きと重なることから、キリスト教では伝統的に反キリストのことと考えられてきた。

ダニエル書7:7-11
この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があった。
その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。
なお見ていると、
王座が据えられ
「日の老いたる者」がそこに座した。
その衣は雪のように白く
その白髪は清らかな羊の毛のようであった。
その王座は燃える炎
その車輪は燃える火
その前から火の川が流れ出ていた。
幾千人が御前に仕え
幾万人が御前に立った。
裁き主は席に着き
巻物が繰り広げられた。
さて、その間にもこの角は尊大なことを語り続けていたが、ついにその獣は殺され、死体は破壊されて燃え盛る火に投げ込まれた。

ダニエル書7:19-27
更にわたしは、第四の獣について知りたいと思った。これは他の獣と異なって、非常に恐ろしく、鉄の歯と青銅のつめをもち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじったものである。
その頭には十本の角があり、更に一本の角が生え出たので、十本の角のうち三本が抜け落ちた。その角には目があり、また、口もあって尊大なことを語った。これは、他の角よりも大きく見えた。
見ていると、この角は聖者らと闘って勝ったが、やがて、「日の老いたる者」が進み出て裁きを行い、いと高き者の聖者らが勝ち、時が来て王権を受けたのである。
さて、その人はこう言った。
「第四の獣は地上に興る第四の国
これはすべての国に異なり
全地を食らい尽くし、踏みにじり、打ち砕く。
十の角はこの国に立つ十人の王
そのあとにもう一人の王が立つ。
彼は十人の王と異なり、三人の王を倒す。
彼はいと高き方に敵対して語り
いと高き方の聖者らを悩ます。
彼は時と法を変えようとたくらむ。
聖者らは彼の手に渡され
一時期、二時期、半時期がたつ。
やがて裁きの座が開かれ
彼はその権威を奪われ
滅ぼされ、絶やされて終わる。
天下の全王国の王権、権威、支配の力は
いと高き方の聖なる民に与えられ
その国はとこしえに続き
支配者はすべて、彼らに仕え、彼らに従う。」


参考

最終更新:2020年09月25日 12:45