ヨハネの黙示録

ヨハネの黙示録は、『新約聖書』の最後に配された聖典であり、『新約聖書』の中で唯一預言書的性格を持つ書である。

伝統的に、『黙示録』の成立はドミティアヌス帝時代の紀元96年周辺であると考えられてきたが、聖書学者の中にはネロ帝時代の69年頃と考える者も居る。前者の説の有力な傍証とされるのは202年に死去したエイレナイオスの著書『異端反駁』5巻30における証言である。エイレナイオスは著者ヨハネと会ったという人物から『黙示録』の執筆は「というのは、それが登場したのは余り前のことではなく、殆ど我々の時代、ドミティアヌスの治世の終わり頃のことである」という証言を直接聞いたと記す。さらに96年成立説を有力なものとするのは、『黙示録』に小アジアにおける迫害というテーマが含まれていることである。ネロ帝のキリスト教徒迫害はローマ周辺に留まっていた為、小アジアでも迫害が行われたドミティアヌス帝時代の成立の方が、遙かに辻褄が合うということになる。

著者

ヨハネの黙示録はその冒頭で、著者がヨハネであると述べている。(黙示録1:9)
わたしは、あなたがたの兄弟であり、共にイエスと結ばれて、その苦難、支配、忍耐にあずかっているヨハネである。わたしは、神の言葉とイエスの証しのゆえに、パトモスと呼ばれる島にいた。
終盤にもまた著者がヨハネであることを強調している。(黙示録22:8)
わたしは、これらのことを聞き、また見たヨハネである。
そのため、伝統的には使徒ヨハネとされてきたものの、古代より反対する者が多かった。

黙示録の著者「ヨハネ」に関してもほとんど知られていないとし、2世紀には、文体上の違いに着目し、『ヨハネの黙示録』は、使徒以外の「違うヨハネ」の筆であることを指摘する議論があったことを、教会史家エウセビオスは伝えている。

エウセビオス自身もヨハネの黙示録の作者は使徒ヨハネではないと考えていたようである。使徒ヨハネの弟子と伝えられるパピアスは黙示録を含め使徒ヨハネの作と考えていたようだが、エウセビオスは使徒ヨハネ以外のヨハネがいることを紹介する目的で、パピアスが使徒ヨハネとは別人である長老ヨハネを紹介している部分を引用している。(エウセビオス『教会史』3-39-4に引用されている。)
わたし(パピアス)は、誰か長老たちにつき従った人が来たときには、長老たちの言葉を詳しく調べた。つまり、アンドレが、ペテロが、ピリポが、トマスが、ヤコブが、ヨハネが、マタイが、あるいは主の弟子たちの他の誰かが何を言ったか、また、主の弟子であるアリスティオンと長老ヨハネとが語っていることを(調べたのであった)。

構成

1.緒言(1章)
  • 初めの言葉(1:1-3)
  • 七つの教会へのあいさつ(1:4-8)
  • ヨハネへの啓示が示された顛末(1:9-20)
2.七つの教会へのメッセージ(2章-3章)
  • エペソ教会: 偽りを退けたが、愛から離れた(2:1-7)
  • スミルナ教会: 貧しいが富んでいる。死に至るまで忠実であれ。(2:8-11)
  • ペルガモ教会: サタンの王座がある場所で忠実に証ししているが、ニコライ派の教えを悔い改めよ。(2:12-17)
  • テアテラ教会: 愛、奉仕、信仰、忍耐を知っているが、イザベラという女の好き勝手にさせている。(2:18-29)
  • サルデス教会: 死んでいる。目を覚まして悔い改めよ。 (3:1-6)
  • フィラデルフィヤ教会: 門を開く。みことばに従い、名を否まず、力があった。(3:7-13)
  • ラオデキヤ教会: 冷たいか熱くあれ。門の外に立ってたたく(3:14-22)
3.神の玉座 天における礼拝と小羊の登場(4章-5章)
  • 神の御座に上れ(4:1-3)
  • 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな(4:4-11)
  • 黙示録の仔羊だけが封印を解くことのできる(5:1-7)
  • 彼らは讃美をささげる (5:8-14)
4.子羊が七つの封印を開封する(6章-8章5節)
  • 第一の封印:白い馬。勝利の上に更に勝利を得ようとして出て行く(6:1-2)
  • 第二の封印:火のように赤い馬。戦争をもたらす(6:3-4)
  • 第三の封印:黒い馬。飢饉をもたらす(6:5-6)
  • 第四の封印:青ざめた馬。死をもたらす(6:7-8)
  • 第五の封印:殉教者が血の復讐を求める(6:9-11)
  • 第六の封印:地震と天災(6:12-17)
    • 神の刻印を押されたイスラエルの子ら(7:1-8)
    • 大患難を通り、子羊の血で洗った白い衣を着た大群衆(7:9-17)
  • 第七の封印:しばらく沈黙があり、祈りがささげられる(8:1-5)
5.七人の天使がラッパ(士気を上げる音)を吹く(8章6節-11章19節)
  • 第一のラッパ:地上の三分の一、木々の三分の一、すべての青草が焼ける (8:6-7)
  • 第二のラッパ:海の三分の一が血になり、海の生物の三分の一が死ぬ (8:8-9)
  • 第三のラッパ:ニガヨモギという星が落ちて、川の三分の一が苦くなり、人が死ぬ (8:10-11)
  • 第四のラッパ:太陽、月、星の三分の一が暗くなる(8:12-13)
  • 第五のラッパ:いなごが額に神の刻印がない人を5ヶ月苦しめる(9:1-12)
  • 第六のラッパ:四人の天使が人間の三分の一を殺した。生き残った人間は相変わらず悪霊、金、銀、銅、石の偶像を拝んだ(9:13-21)
    • 天使に渡された小さな巻物を食べた。腹には苦いが、口には甘い(10:1-11)
    • 二人の証人が殺されるが生き返る(11:1-14)
  • 第七のラッパ:この世の国はわれらの主、メシアのものとなった。天の神殿が開かれ、契約の箱が見える。(11:15-19)
6.天の戦い、地における獣の増大、地の刈り入れ(12章-14章)
  • 女を見た。太陽を着て、月を踏み、12の星をかぶる(12:1-6)
  • 天で戦いが起こった。サタンが地に投げ落とされる(12:7-12)
  • 赤い竜が神の民を迫害する(12:13-17)
  • 第一の獣:獣が神の民と戦うために海の中から上ってくる。いのちの書に名が記されていないものはこれを拝む(13:1-10)
  • 第二の獣:獣が地から上ってくる。獣の刻印を付ける(13:11-18)
  • エルサレムのシオンの山の子羊(14:1-5)
  • 三人の天使が裁きを宣言する(14:6-13)
  • 鎌が地に投げ入れられる(14:14-20)
7.最後の七つの災い 神の怒りが極みに達する(15章-16章)
  • 七人の天使が神の怒りの満ちた七つの鉢を受け取る(15:1-8)
  • 神の怒りを地にぶちまける(16:1)
    • 第一の鉢:獣のしるしを付ける者、獣の像を拝む者に悪性のはれ物ができる(16:2)
    • 第二の鉢:海が死人の血のようになって海の生物がみんな死ぬ(16:3)
    • 第三の鉢:水が血に変わる(16:4-7)
    • 第四の鉢:人間が太陽の火で焼かれる。それでも神を冒涜し、悔い改めない(16:8-9)
    • 第五の鉢:獣の国が闇におおわれる。激しい苦痛(16:10-11)
    • 第六の鉢:しるしを行う3匹の悪霊、ハルマゲドンに王を集める(16:12-16)
    • 第七の鉢:大地震 島も山も消える(16:17-21)
8.大淫婦の裁きとバビロンの滅亡(17章-18章)
  • 大淫婦が裁かれる(17:1-18)
  • バビロンの滅亡 (18:1-8)
  • 人々がバビロンの滅亡をなげく(18:9-19)
  • 喜べ。バビロンが完全に滅びる(18:20-24)
9.天における礼拝 子羊の婚礼(19章1-10節)
  • 大群集が神を讃美する(19:1-6)
  • 子羊の婚宴(19:7-10)
10.キリストの千年の統治の開始、サタンと人々の裁き(19章11節-20章)
  • この世の支配者たちの上に君臨される方
    • 白い馬に乗った方の名は「誠実」「真実」、血に染まった服を着る「神のことば」、「王の王」「主の主」(19:11-16)
    • 獣と偽預言者が火の池に投げ込まれる (19:17-21)
  • 千年王国
    • サタンは底知れぬ所に封印されるが、その後しばらく自由の身となる (20:1-3)
    • 殉教者と、獣の像を拝まず、獣の刻印を受けなかった者が復活して、千年間統治する。(20:4-6)
  • 千年王国の後
    • サタンが一時的に解放されて神の民と戦うが、滅ぼされる(20:7-9)
    • サタンが獣や偽預言者もいる火と硫黄の池に投げ込まれて、永遠に苦しむ(20:10)
    • 最後の裁き:いのちの書に名が無い者がすべて火の池に投げ込まれて、永遠に苦しむ (20:11-15)
11.新天新地
  • 新しい天と新しい地 最初の天と地は去った。(21:1-8)
  • 神が人と共に住み、涙をぬぐわれる、死もなく、悲しみもない。そこにはいのちの書に名が書かれている者だけが入ることが出来る。(21:2-8)
  • 新しいエルサレムの説明 (21:9-27)
  • 神と子羊の玉座からいのちの水の川が流れる(22:1-5)
12.全体の結び
  • イエス・キリストの再臨(22:6-17)
  • 警告:この書物に(記述を)付け加える者には災害が加えられ、(記述を)取り除く者からはいのちの木と聖なる都から受ける分が取り上げられる。 (22:18-21)

最後の三年半(四十二か月、千二百六十日)

ヨハネの黙示録には、1260日(360×3年6カ月)または42か月という数字が登場する。これはダニエル書に現れる1290日(360×3年7カ月)とほぼ同義であり、終末までに残された時間のうち、最後の1週の詳細について語ったものと思われる。

ヨハネの黙示録11:1-3
それから、わたしは杖のような物差しを与えられて、こう告げられた。「立って神の神殿と祭壇とを測り、また、そこで礼拝している者たちを数えよ。しかし、神殿の外の庭はそのままにしておけ。測ってはいけない。そこは異邦人に与えられたからである。彼らは、四十二か月の間、この聖なる都を踏みにじるであろう。わたしは、自分の二人の証人に粗布をまとわせ、千二百六十日の間、預言させよう。」

ヨハネの黙示録12:1-6
また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、この女が千二百六十日の間養われるように、神の用意された場所があった。

ヨハネの黙示録13:5-8
この獣にはまた、大言と冒涜の言葉を吐く口が与えられ、四十二か月の間、活動する権威が与えられた。そこで、獣は口を開いて神を冒涜し、神の名と神の幕屋、天に住む者たちを冒涜した。獣は聖なる者たちと戦い、これに勝つことが許され、また、あらゆる種族、民族、言葉の違う民、国民を支配する権威が与えられた。地上に住む者で、天地創造の時から、屠られた小羊の命の書にその名が記されていない者たちは皆、この獣を拝むであろう。

一般的には文字通り1260日(3年半)と捉えることが多いが、1日を1年と置き換えて考える例もある。例えば、物理学者のアイザック・ニュートンは、「大淫婦」が世俗化したローマ教皇のことだと考えた。このことから、最後の審判が起こる年を具体的に計算し、教皇が世俗的権威を得たピピンの寄進(755年)の1260年後、すなわち2015年だと計算した。
最終更新:2017年10月14日 21:13
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