真理の福音

福音書とは名乗っているが、実在のイエスとはほぼ関係のないグノーシス神話について触れられた福音書である。

これによると、世界に存在するすべてのものは、「真理の父」に由来する。しかし父は、把握できない者、考えることができない者、あらゆる思考を超えた者であるため、誰も父について知ることができず、そこから父に対する無知、不安、恐怖が芽生えた。そして、不安が霧のように濃くなったとき、「プラネー(迷い)」が力を得ることになった。プラネーは物質に働きかけ、真理の代替物を作り上げたが、彼女は実は真理については知らなかったため、その作り物は虚しかった。

プラネーの作り上げた世界に閉じ込められた「完全なる者たち」を父は憐れみ、イエス・キリストを派遣して、彼らに福音を知らせることにした。するとプラネーは、イエスに対して怒り、彼を迫害して、十字架に付けて殺害してしまった。しかしながら、イエスが自らを死に至るまで低めたとき、永遠の生命がもたらされることになった。というのは、キリストは父から「活ける者たちの書」を着せられており、彼はその書を十字架上で掲げたからである。

「活ける者たちの書」には、教えを受けるであろう人々の名が記されている。彼らは自分の名が呼ばれたことに気づき、父の方へと向きを変え(回心し)、父のもとへと上昇してゆく。彼らは酔いから醒めた者のように、自分自身を知るのである。
その書物は、「真理の文字」によって記されている。真理の文字は、人がそれを読んで虚しいことを考えるような、「音の文字(母音)」でも「音を欠く文字(子音)」でもない。それは父によって書かれた、それを認識する者だけが語ることのできる文字である。

最終更新:2017年05月14日 16:32