荒野の誘惑

洗礼者ヨハネにより、“霊”により洗礼を受けたイエスは、荒れ野で四十日間、絶食した。ここで、悪魔からの誘惑に打ち勝つ必要があったのである。一説によれば、40日間の絶食は、出エジプトの時代にイスラエル人が40年間荒野をさまよったことに対応しているという。

マルコ1:12-13
それから、“霊”はイエスを荒れ野に送り出した。イエスは四十日間そこにとどまり、サタンから誘惑を受けられた。
その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた。

マタイ福音書とルカ福音書ではその詳細についても書かれている。これはQ資料の2番と考えられている。

マタイ4:1-11
さて、イエスは悪魔から誘惑を受けるため、“霊”に導かれて荒れ野に行かれた。そして四十日間、昼も夜も断食した後、空腹を覚えられた。
すると、誘惑する者が来て、イエスに言った。「神の子なら、これらの石がパンになるように命じたらどうだ。」 イエスはお答えになった。「
『人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる』
と書いてある。」
次に、悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて、言った。「神の子なら、飛び降りたらどうだ。
『神があなたのために天使たちに命じると、
あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える』
と書いてある。」
イエスは、
「『あなたの神である主を試してはならない』
とも書いてある」と言われた。
更に、悪魔はイエスを非常に高い山に連れて行き、世のすべての国々とその繁栄ぶりを見せて、「もし、ひれ伏してわたしを拝むなら、これをみんな与えよう」と言った。すると、イエスは言われた。「退け、サタン。
『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」
そこで、悪魔は離れ去った。すると、天使たちが来てイエスに仕えた。

ルカ4:1-13
さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。
そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」イエスは、
「『人はパンだけで生きるものではない』
と書いてある」とお答えになった。
更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」イエスはお答えになった。
「『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」
そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。というのは、こう書いてあるからだ。
『神はあなたのために天使たちに命じて、
あなたをしっかり守らせる。』 
また、
『あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える。』」 
イエスは、
「『あなたの神である主を試してはならない』
と言われている」とお答えになった。
悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。

旧約聖書からの引用箇所

ここではマタイ福音書における順番に従って、引用部位を羅列していく。申命記と詩篇より引用されているが、申命記はモーセが死の直前に行った演説の内容である。詩篇は主を褒め称えた詩を収録したものである。

申命記8:3
主はあなたを苦しめ、飢えさせ、あなたも先祖も味わったことのないマナを食べさせられた。人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるためであった。

詩篇91:11-12
主はあなたのために、御使いに命じて
あなたの道のどこにおいても守らせてくださる。
彼らはあなたをその手にのせて運び
足が石に当たらないように守る。

申命記6:16
あなたたちがマサにいたときにしたように、あなたたちの神、主を試してはならない。

申命記6:13
あなたの神、主を畏れ、主にのみ仕え、その御名によって誓いなさい。

マナの奇跡

エジプトを脱出し荒野をさまよう民は、たちまち飢えに直面した。主は民を導き救い出す、と約束したご自分の言葉が真実であることを示すため、空腹を訴える民に天からの不思議な食べ物・マナを雪のように降らせた。(出16:11-15)
主はモーセに仰せになった。「わたしは、イスラエルの人々の不平を聞いた。彼らに伝えるがよい。『あなたたちは夕暮れには肉を食べ、朝にはパンを食べて満腹する。あなたたちはこうして、わたしがあなたたちの神、主であることを知るようになる』と。」
夕方になると、うずらが飛んで来て、宿営を覆い、朝には宿営の周りに露が降りた。この降りた露が蒸発すると、見よ、荒れ野の地表を覆って薄くて壊れやすいものが大地の霜のように薄く残っていた。イスラエルの人々はそれを見て、これは一体何だろうと、口々に言った。彼らはそれが何であるか知らなかったからである。モーセは彼らに言った。「これこそ、主があなたたちに食物として与えられたパンである。
これをイスラエルの人々はマナと呼んだ。(出16:31)
イスラエルの家では、それをマナと名付けた。それは、コエンドロの種に似て白く、蜜の入ったウェファースのような味がした。

この後カナンに入るまでの40年間マナによって、養われた。(出16:35)
イスラエルの人々は、人の住んでいる土地に着くまで四十年にわたってこのマナを食べた。すなわち、カナン地方の境に到着するまで彼らはこのマナを食べた。

マサの奇跡

エジプトを脱出し荒野をさまよう民は、マナの奇跡を受けたものの、今度は渇きに直面した。ここで民は主に水をよこせと頼んだ。これは「主を試す」のと同じことであったため、これ以降モーセは、「主を試してはならない」という話をするときにマサでの出来事を持ち出すようになった。(出17:1-7)
主の命令により、イスラエルの人々の共同体全体は、シンの荒れ野を出発し、旅程に従って進み、レフィディムに宿営したが、そこには民の飲み水がなかった。民がモーセと争い、「我々に飲み水を与えよ」と言うと、モーセは言った。「なぜ、わたしと争うのか。なぜ、主を試すのか。」 しかし、民は喉が渇いてしかたないので、モーセに向かって不平を述べた。「なぜ、我々をエジプトから導き上ったのか。わたしも子供たちも、家畜までも渇きで殺すためなのか。」
モーセは主に、「わたしはこの民をどうすればよいのですか。彼らは今にも、わたしを石で打ち殺そうとしています」と叫ぶと、主はモーセに言われた。「イスラエルの長老数名を伴い、民の前を進め。また、ナイル川を打った杖を持って行くがよい。見よ、わたしはホレブの岩の上であなたの前に立つ。あなたはその岩を打て。そこから水が出て、民は飲むことができる。」モーセは、イスラエルの長老たちの目の前でそのとおりにした。
彼は、その場所をマサ(試し)とメリバ(争い)と名付けた。イスラエルの人々が、「果たして、主は我々の間におられるのかどうか」と言って、モーセと争い、主を試したからである。
最終更新:2017年04月15日 21:23