グノーシス神話を書いた書物である。ヤハウェ神の誕生までを含んでいるが、それによると次のとおりである。
至高神は「霊の泉」に映る自己の姿を注視することによって、最初の思考であり、自己の鏡像=似像である「バルベーロー」を発出する。バルベーローとは、至高神が自己観照によって生み出す最初の理念、最初の「アイオーン(永劫性)」なのである。
こうして誕生したバルベーローは、至高神の承認を得ることにより、「第一の認識」を始めとする種々のアイオーンを次々に発出する。このようなバルベーローの働きを通して、神的な完全性に満たされた世界、「プレーローマ(充溢)」界が創造された。
プレローマ界の上位を占める神々の内、ソフィア(知恵)が自分自身の影像を発出しようとした。しかしそれは失敗に終わり、ソフィアは自らが生み出したその存在を他のアイオーンたちに見られることを恐れ、これをプレーローマ界の外部に投げ捨てる。そして彼に玉座を与え、「ヤルダバオート」と名づけた。
プレーローマ界から放逐されたヤルダバオートは、自らの出生の由来を知ることのないまま、自らの住まう世界、すなわち可視的世界の創造に着手する。最初に創造されるのは、恒星天や惑星天の星々と同一視される「アルコーン(支配者)」たちである。ヤルダバオートはソフィアから継承していた力の働きによって、無知の裡にプレーローマ界の似像としての可視的世界を創造する。これが
旧約聖書におけるヤハウェ神の世界の創造だとこの書は主張する。
最終更新:2017年05月14日 17:07