本記事では、欧米市場限定ソフト『Gex: Enter the Gecko』と、その日本向けローカライズ作品『スピンテイル』について解説します。
(判定は『Gex』が良作、『スピンテイル』が良作・劣化。)



Gex: Enter the Gecko

【げっくす えんたー ざ げっこ】

ジャンル アクション
対応機種 PlayStation
発売元 (欧州)クリスタル・ダイナミックス
(北米)ミッドウェイゲームズ
開発元 クリスタル・ダイナミックス
発売日 1998年1月31日
プレイ人数 1人
備考 日本語版は作品設定を一新し、『スピンテイル』として発売(後述)
判定 良作
ポイント おしゃべりヤモリ、堂々帰還
2Dから3Dに鞍替えし、『マリオ64』ライクの別ゲーに
癖は強いが歯ごたえ満点の王道アクション
ゲックスシリーズ
Gex / Gex: Enter the Gecko(スピンテイル) / GBC版2 / Gex 3: Deep Cover Gecko / GBC版3

概要

クリスタル・ダイナミックス社が生んだ人気タイトル『ゲックス』の続編。副題は直訳で「ヤモリ登場」となるが、これは映画『燃えよドラゴン』の英題『Enter the Dragon』のパロディである。
欧州版タイトルは微妙に異なり『Gex 3D: Enter the Gecko』となっている。
日本でのローカライズ版は本記事下部で後述する。

2Dアクションゲームだった前作とは打って変わって、今作は『スーパーマリオ64』のようなミッションクリア型の3Dアクションとして発売された。

海外では前作に劣らない支持を集め、その後も次回作も発売されるなど、クリスタル・ダイナミックス社のマスコットとしての地位をほしいままにした。
日本ではPS版のみローカライズされたが、原語版はニンテンドウ64やWindowsとのマルチプラットホームで展開されている。

本記事で扱う固有名詞は、原則として日本語版に準ずるものとする。
ステージ名は英語版と日本語版を併記する。

あらすじ

ぼくは人目をしのんで自由気ままな暮らしを送っていた。この2年*1、ぼくの一日はカンフー映画*2を観ることから始まって、毎日・毎週のようにボーっとしながら長ったらしい番組に見入ってたんだ。

ふと顔を上げると、政府の木っ端役人がぼくの家に踏み入って来やがった!なんでも、あのクソッタレ*3野郎・Rezの気配を捉えたらしいんだ。再びメディア空間に現れたアイツを元いた場所に帰すに、ぼくの力が必要なんだってさ。

連中はぼくを『1984年』みたいな拷問室に放り込んだかと思うと、荒々しく迫って来た。少しお返ししてやったけどね(動じない様子で役人にオナラをかますゲックス)。

それで、僕を雇うための良心価格を提示してやった(したり顔のゲックスに対し、役人が焦るような態度でアタッシュケース一杯の札束を乱暴に押し付ける)。役人どもが特別諜報員のスーツを差し出してくれたんで、ぼくは言ってやったのさ。「交渉成立だ」ってね。

どうやらぼくはまたメディア空間に帰って来ちゃったみたいだ。

ああこの既視感……いやいや、またイチから始めてやるさ。

(オープニングより。記事掲載にあたり独自に和訳)


特徴

  • 構成
    • 通常のステージは全部で14種類。加えて隠しステージ3つとボーナスステージ8つ、ボスステージ4つが存在する。
      • ステージ選択にあたっては、『マリオ64』のピーチ城に相当する拠点ステージ"MEDIA DIMENSION"を行き来する。
      • 『マリオ64』のように箱庭を探索するコースは少なく、2Dアクションのようにスタートからゴールにまっすぐ向かう構成の面が多い。
    • 最初は2つのステージしか遊べないが、ステージ内に落ちているリモコンを集めることで、個数に応じて新たなステージが解禁される。
      • 前作のリモコンは特定のステージを開ける「鍵」のような役割をしていたのに対し、今作のリモコンは『スーパーマリオ64』のパワースターや『バンジョーとカズーイの大冒険』のジグソーピースと同様、集めた個数に応じてステージを解禁させるアイテムとなっている。
    • リモコンは3種類ある。
      • 赤いリモコンは通常コースに最大3個落ちていて、集めた個数に応じて通常ステージが解禁される。ステージ開始時は『マリオ64』のように配置のヒントを見られる他、後の『スーパーマリオサンシャイン』のように在処となる場所のヒント映像も見られる。
      • 通常ステージでは、『マリオ64』のコインに相当するステージアイテム(後述)を120個集めることで銀のリモコンが手に入る。これを一定個数集めるごとに、ボーナスステージが解禁される。
      • 銀のリモコンはこれ以外にも、ステージのどこかにノーヒントで1個落ちている。
      • ボスステージかボーナスステージをクリアすると、金のリモコンが手に入る。これを集めると隠しステージが解禁されていく。
    • 全ての赤リモコンを集めてゲームをクリアすると、エンディングで前作同様に特典映像が見られる。
+ 存在が伏せられている収集要素
  • 隠しステージにはThe Lost Gex Tapeと呼ばれる隠しアイテムが1つずつ存在する。
    • 取得してからクリアすると、クリア時に短めのおまけムービーが見られる。
    • 完全クリアには必要ないため、知らないまま真エンドまで見てしまったプレイヤーも少なからずいる模様。
  • 操作
    • ×ボタンでジャンプ、□ボタンで攻撃。この基本操作は前作同様である。
      • キーコンフィグで変更可能。
    • L2・R2でしゃがむ。
    • おなじみの壁はりつきも健在だが、今回は特定の壁にしか張り付けなくなった。
      • 2017年の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』でようやく「あらゆる壁に貼り付ける」という点が話題になったように、この時代に自由な壁張り付きを実現させるのは厳しかったと思われる。
    • カメラはL1・R1で左右移動が可能で、△ボタンを押すたびにカメラの距離(3段階)を変更する(押しっぱなしにすると主観視点となり、周囲を自由に見回すことができる)。
    • 新たなアクションとして「ハイジャンプ」「カンフーキック」が追加。
      • 着地と同時にもう一度ジャンプボタンを押すと、尻尾をバネのように縮めてハイジャンプを行う。ある程度操作に慣れた中級者向けの技だが、劇中ではこれを使わないと進めない場所が多い。
      • 走りながらしゃがみジャンプするとカンフーキックが繰り出される。攻撃に使うには精度が悪くて心許ないが、遠くに飛び移ったり早く進むための移動技として重宝する(簡単に言うと『マリオ64』の幅跳びや『クラッシュ2』のスライディングジャンプに近い技)。使用しなくても今作の完全クリアは可能だが、使いこなせれば様々なショートカットに利用できる。
    • カメラ設定は3種類。必ず後ろを追従する「自動」、操作しないでいると後ろを追従する「セミオート」、全て自力で操作する「手動」の中から選択できる。
      • デフォルトではセミオートになっているが、3Dアクションに慣れている人なら「手動」一択である。「自動」は不便なので封印推奨。
  • ステージアイテム
    • 『マリオ64』のコインにあたる収集アイテム。ステージによってデザインが異なる。
    • このアイテムは3段階までランクがあり、一定個数集めるごとにデザインが変化する。
      • 例えばアニメをモチーフにした世界では"にんじん"の形をしており、続いてホウレンソウの缶>ポパイ→ダイナマイトへと変化していく。
    • 第1段階を30個集めると第2段階に、それを40個集めると第3段階に変化(その度に残機も1増える)。第3段階を50個集めると、通常ステージなら銀のリモコンが、それ以外なら残機が手に入る。
    • この仕様により、本作は一般的なアクションゲームと比べて残機がかなり増えやすい。
  • パワーアップアイテム
    • ステージの至る所にアイテムの入ったテレビが置いてあり、壊すとハエが一匹出てくる。
    • 触れるとゲックスの周囲を飛び回り、○ボタンで食べると効果を発揮する。
      • 周囲を飛んでいる間は一度だけ敵の攻撃を防いでくれる。
    • ハエは4種類。緑ハエを食べると体力が回復し、紫ハエを食べると残機が1増え、赤や青のハエを食べると炎および氷をまとって一定時間無敵になる。
      • 赤や青のハエを飲み込んだ状態で攻撃ボタンを押していると歩いたところに軌跡ができる。その軌跡で敵を囲むと、燃やしたり凍らせたりして攻撃できる。
    • 余談だが、こうしたアイテムストック仕様は前作の没アイデアとして存在していた。
  • ボーナスステージ
    • この面では制限時間内にステージアイテムを一定個数集めるよう求められる。
      • すべて集めるとステージのどこかに金のリモコンが出現し、時間切れまでに取得すればクリア。

評価点

  • バラエティ豊かに彩られたステージの数々
    • 前作同様、様々なテレビや映画をモチーフに多様なゲーム性が用意されており、プレイヤーを飽きさせない。
    • 平野を駆け回るステージ、屋内を探索するステージ、溶岩地帯の足場を乗り継いでいくステージなど、オーソドックスな面はもちろんのこと、「自分に静電気を帯電させて、一定時間内に機械まで走って作動させる」「酸素のない宇宙空間で一定時間ごとに空気を補給しつつ進む」「怪獣になってビル街のメカ怪獣と戦う」といったユニークな試みもあり、あらゆる方面からプレイヤーの腕前が試される。
      • 謎解き、戦闘、緻密な操作といった様々な楽しみが盛り込まれており、3Dアクション参入1作目としては破格なまでに王道的面白さが詰め込まれている。
  • 骨太なゲームバランス
    • 前作同様、今作も洋ゲーさながらの難易度を誇り、やりごたえは十分。
      • ステージ数は『マリオ64』とあまり変わらないが、難易度が高い分だけボリュームをたっぷり味わえる。他の3Dアクションに慣れてしまったという人でも、一本のソフトとしては大きなお得感がある。
    • しかし単に難しいだけのゲームではなく、絶妙な親切設計がいたるところにちりばめられている。
      • たとえば道中の収集アイテムは『マリオ64』のコイン以上の頻度で手に入るが、30〜50個集めるだけで簡単に1UPする。その上、道中の1UPアイテムはミスする度に再度入手可能である。前作以上に残機が増えやすく、残機が2桁に到達するのも珍しくない。
      • 『マリオ64』と違い、ミスしても収集アイテムのカウントはリセットされない。一部のステージアイテムが再配置されるのも良心的である。
      • ゲームオーバーのペナルティも「残機がリセットされて強制的にマップに戻される」という軽いものに収まっている。前作と違ってセーブはいつでも可能であり、中間地点を経由する前提のステージや、収集アイテムのカウント稼ぎ以外にデメリットは無い。中間地点のあるステージで困る程度なので、難易度の高さに対して丁度良くバランスが取れている。
      • こうした仕様が功を奏し、難所へのストレスを抑えつつもクリア時の爽快感を味わえるのが本作の魅力である。
  • 絶妙な塩梅の攻略自由度
    • 『マリオ64』ライクな設計の本作だが、基本は一本道で、「どこから進めばいいかわからない」という事態にはなりづらい。
    • それでいて分かれ道や寄り道は至る所に用意されており、ミスして戻される度に攻略ルートを模索する楽しみがある。
      • 操作に慣れてくると、様々な操作を活かしてショートカットを見つけ出す楽しさも生まれる。
    • ノーヒントの隠し要素は各ステージ1つだけで、あるステージを除けば理不尽な隠し方をされてはいないため、隅から隅まで歩き回るような探索のストレスもほとんどない。
    • 総合すると本作は「2Dアクションの単純明快な目的」「3Dアクションの自由度」が程よく入り混じり、既存の箱庭ゲーとは異なる独自の楽しさを味わえる。
  • 世界観のこだわり
    • テレビを題材とした舞台のバラエティさは前作同様だが、今作はステージに応じてゲックスがコスチュームを着るようになった。
      • ほぼ全てのステージにコスチュームが用意されており、見ていて楽しい。
  • アイテムの駆け引き
    • 今作も前作と似た形で、アイテムの扱いに駆け引きがある。
    • ハエを手に入れたからといってすぐ飲み込めば良いとは限らず、防御のために温存するかどうか考える楽しさがある。
      • 特に無敵効果のハエは早く使いすぎると損をしてしまうが、温存しすぎると敵にぶつかってロストしてしまう。使い所の見極めが試されるユニークな試みとなっている。

賛否両論点

  • 1つだけ、見つけるのがかなり難しい銀リモコンが存在する。
    • 裏技のような行動を取らないと取得困難で、場所を察する事はできても実際に到達するのが難しい。初見プレイで入手するのはほぼ不可能である。
+ 詳細(ネタバレ注意)
  • 該当するのは、「Mao Tse Tongue/燃えよ!レノゴン」ステージの銀リモコン。
    • ある部屋の屋根の上に扉があり、その中に隠されている。
      • 扉自体は主観視点で視認することが可能。
    • しかしこの屋根へ登るには、部屋の仕掛けを動かす銅鑼の上に乗り、その真上の屋根に飛び移らなければならない。
      • 直立した銅鑼の上は足場が狭くて乗りづらく、上に乗るのが攻略に必須だとは気付き辛い。他に登れそうな場所は無く、扉に気付いてもただの飾りに見えてしまう。
    • そのまま銅鑼からジャンプすると、屋根に頭をぶつけて上に乗ることができない。空中で方向転換をすることで迂回しつつ無理やり屋根に登るという、こみいった操作が必要となる。
  • しかし幸いにも、本作ではこのリモコンを取らずに真エンドを見る事が可能である。
    • 今作の赤リモコンを全て集めるには金リモコンを12個集める必要があり、そのために必要な銀のリモコンは27個ある。しかし銀のリモコンは全部で28個あり、1つだけ取り逃がすことが許されている。
    • 他の隠しリモコンは「Frankensteinfeld/フランケンの館」が少し凝っているのを除き、隅々までステージを見回せば攻略情報無しでも自力で見つけられる。
  • この最難関リモコンについても隠し場所に気づくこと自体は問題なく、プレイヤーの知恵次第で十分取得可能なので、完全コンプリートしたい人だけのおまけと割り切る事もできる。

問題点

  • カメラワークと操作性
    • 本作最大の問題点。
    • まず3D移動の不便さが根本的な問題となっている。今作はアナログスティックの入力に対して8方向しか認識してくれず、スティックを倒した方向に直感通り進むことがない。
      • 例えば北北西の方向にスティックを倒すと北西の方向にゲックスが歩いてしまう。実際の操作とゲックスの動きにギャップが生じ、狭い足場の移動時や浮遊台を飛び移る際にミスを誘発してしまう。
    • 解決策として、今作ではカメラを自機の真後ろや真横に持っていき、操作の軸をズレないようにするのが基本となる。
      • 先立って出ていた『クラッシュ・バンディクー』(アナログスティック非対応)は、カメラを同様の視点に固定することで快適な操作感を確立していた。
    • だがカメラが壁の中に入りそうな位置に動かそうとすると、キャンセル音が鳴って移動できない。遊びやすい視点を確保するのも一苦労である。
      • 『マリオ64』のカメラはマリオとの距離を近づけるなどして柔軟に対応してくれるが、今作はそうした融通が利かない。
      • △ボタンを押してカメラを近づければこの問題は緩和されるが、自力で気づくのは難しい。
    • 壁がない場合もカメラの挙動は不安定で、激しく揺れ動く場面が多い。
      • 狭い足場を飛び移る際に踏み外したり、3D酔いを引き起こしたりする。
    • これらの点が響き、限られた時間で狭い足場を乗り継ぐボーナスステージ「The Spy Who Loved Himself/自分を愛したスパイ」や、即死する池の上を渡る最終ステージ「No Weddings and a Funeral/おいしくない結婚」はかなりの理不尽ステージとして立ち塞がる。
    • 今作以前に出た3Dアクションと比較すると、カメラ固定+3DADV操作の『クロック! パウパウアイランド』よりは遊びやすい部類に入るものの、『マリオ64』『クラッシュ2』などの快適な操作は期待されず、カメラは難ありだが360度自由に動ける『がんばれゴエモン ~ネオ桃山幕府のおどり~』にも操作性の面で一歩劣る。
      • 後年の3Dアクションゲームでは考えられない事だが、本作はカメラの扱い方もひっくるめた難易度調整と割り切った方が良い。操作しやすいカメラワークを試行錯誤するのは、他の3Dアクションとは違った趣がある。
  • ほぼアナログコントローラー必須
    • 今作は通常のPSコントローラーでも遊べるが、方向キー操作は劣悪である。
    • 「最初はゆっくり歩き、長押しすると走る」といった融通が利かない操作になり、まともに遊ぶのは難しい。
    • 今ではすっかり標準搭載のアナログスティックだが、当時は前年実装されたばかりなので、発売初期にPSを買って不便に感じたプレイヤーもいたと思われる。

総評

前作から大きくゲーム性が変わり、海外では第5世代ハードを代表する3Dアクションの一つとして支持を得る事に成功した。

カメラワークや操作性については荒削りな部分もあり、本サイトの判定で言うと「スルメゲー」に近い遊びづらさがある。しかしどうにも太刀打ちできないほどの難関というわけではなく、ある程度遊び慣れてくればプレイヤースキルで補う事も不可能ではない。
残機の増えやすさと難易度の高さはバランス良く噛み合っており、豊富に揃えられたギミックはプレイヤーに柔軟な楽しさを提供する。
王道ながらも、それなりの完成度が保証されたアクションゲームである。


余談

  • 64版は容量の都合でボイスとステージが減少した。
    • 代わりに、オリジナル要素として『タイタニック』をモチーフにしたステージが収録されている。
  • 少し変わったイースターエッグ
    • ゲーム中、チュートリアル用のTipsが表示される仕掛けが様々な場所に配置されているが、とあるステージでは公式チートコマンドの書かれた隠しホームページのURLが閲覧できる。
      • このような形でインターネットと連携させるのは、中々にユニークな試みである。*4
      • このURLは現在閲覧不可能なので、今から見るにはアーカイブ系サイトの利用が必須となる。リンクはこちら。
  • とあるステージの僻地に、1UPアイテムが無限に出現する場所が存在する。
    • ポリゴン欠けが見えてしまうイレギュラーな場所なので、意図的な隠し要素なのかどうかは不明。一説には、スタッフがデバッグ用に配置したものをあえて残したとも。
  • 後述する日本語版ではカットされているが、最後のボーナスステージには開発スタッフの顔写真があちこちに貼られている。
  • エンディングはちょっとした考察の対象になる事も。
+ ネタバレ注意
  • その内容は、追い詰められたRezがGexに対し「俺はお前の父親だ」と言って命乞いを行うというもの(言うまでもなく某名作映画のパロディ)。
  • ボス戦でのマヌケっぷり*5も含めると苦し紛れの言い逃れに聞こえるのだが、逆に「実は本当のことを言っている」という説もあり、その真意は2022年現在も明かされていない。
    • ちなみにゲックスの父親は前作のあらすじ(ゲーム内未登場)で死亡したと説明されている。
  • 今作のRTAは同時期の3Dアクションの例に漏れず、バグ技・ショートカットお構いなしの無法地帯となっている。
    • 特に重要なのが、ステージの出入口となるスイッチを押してから少しだけ移動できるバグ技。いわゆる"デスルーラ"を成功させてステージ脱出の手間を省いたり、ステージ遷移先をバグらせてゲーム開始時から隠しステージに侵入したりする事が出来る。初見だと困惑必至である。
    • カンフーキックやハイジャンプを使った近道が多数見つかっており、原作を遊んでから視聴すると走者のスタイリッシュさに度肝を抜かれる。
      • そのうえ不便なカメラワークと操作性にもかかわらず、移動先の見えない足場へ正確に飛び移る場面が多数あり、スーパープレイとしての魅せ場は多い。

スピンテイル

【すぴんている】

ジャンル アクション
対応機種 PlayStation
発売元 バンダイ
開発元 クリスタル・ダイナミックス
発売日 1998年9月10日
定価 6,380円
プレイ人数 1人
備考 『Gex: Enter the Gecko』の作品設定を一新したローカライズ作品
判定 良作
劣化ゲー
ポイント トンデモローカライズが為された日本語版
主演はまさかのせんだみつお
すがすがしいまでの翻訳放棄
一部除くとゲームとしては問題なく遊べる
ゲックスシリーズ
Gex / Gex: Enter the Gecko(スピンテイル) / GBC版2 / Gex 3: Deep Cover Gecko / GBC版3
バンダイ×クリスタル・ダイナミックス社ローカライズシリーズ
マジカルホッパーズ / 魔女っ子大作戦 / ミラクルジャンパーズ / スピンテイル

概要(日本版)

『Gex: Enter the Gecko』の日本向けローカライズ作品。原作とは全く異なる世界設定で発売されている。

当時のバンダイはクリスタル・ダイナミックス社のIPをローカライズ販売していたのだが、担当スタッフはいくつかの作品を全く別の世界観に差し替えていた。
たとえば2.5Dアクション『Pandemonium!』を売る際はアニメ調世界の『マジカルホッパーズ』というタイトルに差し替え、殺伐とした『The Unholy Wars』を売る際はファンシーなキャラクターを起用した『魔女っ子大作戦』にするなど、原作の面影が無いレベルの変更が施されている。

今作は既に過去作が日本で出ていたにもかかわらず、例によってぶっ飛んだローカライズが行われた。
その内容はコメディアンのせんだ光雄(現:せんだみつお)氏*6が主人公を演じ、彼自身のギャグを交えながら喋り出すというものであった。

ゲーム内容は上述の原作記事に解説を譲り、本項ではローカライズによる差分を中心に解説する。

あらすじ(日本版)

テレビのモニター内に自由に入り込める能力を持った主人公・レノは、モニターの中で起こる様々な事件・問題を解決する「モニターディック(電影刑事)」のひとりとして活躍していたが、今は気ままにその日暮らしを楽しんでいる。

ある日、そんなレノのもとに黒いスーツをまとった政府の役人が訪ねてきた。今世紀最強*7の悪党と言われる輩が、モニター内で悪事の限りを尽くしているとのこと。モニターディックの中でも、特にスゴ腕でならしたレノの力が必要だというのだ。

レノは平和で気ままな今の生活に満足していた。「面倒なことはゴメンだ」と一度は断ったが、彼らのスーツケースの中の大金に目がくらみ、この事件を引き受けることにした。

さあ、レッツゴー、レノ!モニター内の悪党どもを捜し出し、大金をガッポリ獲得しようじゃないか!

(取扱説明書より引用)


特徴(日本版)

  • ゲーム内容自体は原作と同じ。
    • 上述のあらすじにある通り、今作の主人公はレノという名前の刑事になっており、ラスボスもラナルトという独自設定のキャラクターに変更されている。
      • ラナルトの素性はエンディングで明かされる。
    • パッケージを飾るレノはゲックスと似ても似つかないシブめの風貌となっているが、ゲーム内のポリゴンは原作と全く変わらない。前作を遊んだプレイヤーでも違和感なく受け入れられる。
      • 同じスタッフの過去作『マジカルホッパーズ』『魔女っ子大作戦』はポリゴンも差し替えていた。

賛否両論点(日本版)

  • せんだ氏の起用
    • 数少ない日本の前作プレイヤーが抵抗を示しうる要素。洋ゲーのキャラクターに対し、日本のコメディアンを起用するのはいくらなんでも無理がある。
      • そもそもどういう需要を汲んで起用したのか全くもって不明。『魔女っ子大作戦』といい、本作をプレイする層に刺さる要因が無さすぎる。ちなみに氏の最盛期は70年代である。
    • せんだ氏のギャグは良くも悪くもおやじ臭さが強く、本作を遊ぶであろう年齢層が笑えるかは微妙。
      • 「おいおいおいおい!俺の兄貴の子供は甥」「とぉー!十ー!英語でTen」「ようこそ、港のヨーコソ・ヨコハマ」こんな調子である。
    • 単にギャグをかますだけならまだしも、事あるごとにせんだ氏の持ちネタがそのまま飛び出し、さもせんだ氏自身が言っているかのような形*8で語られるため、世界観ぶち壊し。
    • 原作のゲックスも軽快なおしゃべりをかっ飛ばすキャラではあるが、笑いの方向性が違いすぎるというか、スタッフは何か履き違えている節がある。
      • 例えるならデッドプール*9の吹き替えを20年前に流行った芸人が担当し、自身の持ちネタを自重せず連発しているような状態に近い。
    • 何より『魔女っ子大作戦』と違って本作は過去作が既に日本で発売されており、先に前作をプレイした人間であれば「原作レイプ」と感じてもおかしくないほどの暴挙である。
    • ただし手に取ったユーザー全てから否定されているわけでもなく、原作のノリを少しでも再現しようとした事を評価する声もある。
      • 前作は日本語吹き替えが行われず、リスニング能力の無い日本のプレイヤーはゲックスの喋りを楽しめなかったため、初めて吹き替えが行われた意義は大きい。もし「英語が聞き取れなかった」という前作プレイヤーであれば、本作は「不明な言語」が「原作と全然関係ないコメディアンの語り」に変わっただけで済む。
      • 持ちネタを挟んでこないオープニングとエンディングのムービーに関しては、この手の作品らしいゆるいノリの吹き替えに仕上がっている。
    • グラフィックの造形は原作にほぼ忠実で、吹き替え以外の改変は細部にとどまっている。おかげで主人公が喋っているというよりも「アメリカのゲームを遊んでいる最中に横からせんだみつおが茶々を入れてくる」と言った範疇に収まっており、人によっては慣れると気にならなくなる。

問題点(日本版)

インパクトの先行するローカライズだが、それ以外のあらゆる点が雑。
あろうことか今作はゲーム内の英語ほぼ全てを撤去するといういい加減な改変を行なっていて、細部で支障が出ている。
『魔女っ子大作戦』の記事にあるように、このローカライズ担当スタッフには英語を自由に扱える人員がいなかったらしいが、それにしても杜撰である。

  • 特に乱暴なのは、チュートリアル用のメッセージ表示ギミックを全て撤去したこと。日本語訳の手間を省くためと思われるが、あんまりである。
    • たとえば「壁に張り付く」アクションを初めて求められる場所は原語版だと誘導を入れてくれるのだが、日本ではチュートリアルが無く、どう進めたらいいのかわからなくなってしまう(あろうことか説明書にも一切説明が無い)。前作を遊んだプレイヤーはかろうじて推測できるものの、本作から初めて遊ぶプレイヤーは詰まる可能性すらある(ステージアイテムが壁に沿って配置されているので推測できないこともないが)。
    • 原語版の項目で触れたイースターエッグも、日本版では見る事が出来ない。
      • 幸いコマンド自体はほぼ問題なく作動するのだが、ボイス再生機能を使うと終わり際が不自然にリピートされる不具合がある。
  • 英語が書かれている看板は日本語に書き換えるなどせず、ほぼ例外なく撤去されている。
    • 英語や漢字が入り混じるエキゾチックなステージも、そこら中に落書きが残されているコミカルなステージも、全て雰囲気が損なわれている。
  • 看板の文字を撤去した結果、「恐怖の館」ステージではプレイに支障をきたす場面ができてしまった。
    • 原語版ではある地点に到達すると"STEP INTO LIGHT"(光のある場所に入り込め)と書かれた看板がアップで映るのだが、本作では代わりに電球が書かれた看板になっている。しかし周囲に電球などは無く、これで原語版と同じニュアンスを読み取れというのは無理がある。むしろ何らかの操作で光を発する仕掛けか何かだと誤解しやすい。
    • 原語版ではこのヒントに従うことで、幽霊の攻撃から身を守ることができる。しかし本作ではレノを追ってくる幽霊への対処を把握しづらく、理不尽に体力を削られていく。
    • そもそも原語版の"LIGHT"はランタンの光であって、電球では無い。ゲーム内に置かれた状況を全く考慮していないいい加減さがうかがえる。
  • 似た例として、宇宙ステージでは"AIR"と書かれた箱に酸素が入っているのだが、これも消されたせいで初見プレイ時に支障をきたす。
    • こちらはすぐ気づけるのでまだマシな方である。
  • 原作ではステージの入り口にステージ名が表示されるのだが、これも非表示に。
    • ステータス画面を見てからリモコン未回収のステージに入ろうとする際、どこに入ればいいのかわからなくなる事がある。
  • 数少ない日本語表示箇所はフォントが酷い。ジャギー丸出しなワープロ字体を拡大表示させただけで、雰囲気などあったものではない。
    • 原作では独自のコミカルな3Dポリゴンで字体が表示されていた。ここまでやる必要は無いにしても、せめて日本語版『クラッシュ・バンディクー』のような2Dフォントは用意できなかったのだろうか。
    • あげくゲーム起動後に選択可能なモードは何故か「すたーと」「ろーど」「おぷしょん」といったひらがな表記。スタッフ間の連携不足か、世界観を作ろうとして放置したかのようないい加減さである。
  • 説明書も誤訳らしき箇所があり、アイテム取得時の効果として「炎や氷の爆弾が作れる」というデタラメが書かれている。そんな機能は無い。
    • 実際は「無敵になれる」「敵を軌跡で囲むことで攻撃できる」という物なのだが、一切説明が無い。後者に至っては自力で気付くのがほぼ困難である。
    • 今ならインターネットで海外サイトを巡れば解決できるものの、ネットの普及率が低かった当時では致命的な問題だったと思われる。せっかくの多彩なアクションの一つが封じられてしまうのは何とも勿体ない。
      • この能力を知らなくてもゲームクリアには問題ないものの、これらアイテムが配置された場面では固い敵を一撃で倒せるよう工夫されており、せっかくの配置の意図が台無しにされている。
  • 細かいところだと、特定ムービー後の一枚絵に出る「Now Loading」が撤去されて意味不明になったり、エンディング後に出る「Press X to continue」が撤去されていつまでも流れるエンディングを見せられたり、ボス面突入時の黒幕のセリフがカットされていたり、隠しエンディングでゲックスが語るメッセージが未翻訳だったりと、細かな問題を挙げるとキリが無い。
  • ローカライズ自体の問題ではないが、今作は洋ゲー特有の画面の暗さが顕著である。
    • 欧米のプレイヤーは目の色が薄いため暗い画面も認識できるが、黒目の日本人は適応できずに苦労する(これは本作に限らず、一種の洋ゲーあるあるである)。
    • 他の洋ゲーと比べても暗くて見辛いステージがやたら多く、ディスプレイの質によってはまともに遊べない事がある。場合によってはS端子ケーブル(PS3所持者ならHDMIケーブル)を用意した方が良い。

評価点(日本版)

  • せんだみつお起用にあたり、世界観もキャラクターも全く別の設定にしたこと。
    • このキャストで『Gex』として売り出していたなら、前作ファンから顰蹙を買っていたのは間違いない。全く別の設定にしたことで、原作のイメージが守られたのは最低限評価できる。
  • ゲーム性自体の変更は無く、『Gex 2』の代替品としては十分に遊べる。
    • 上述した問題点も単なる説明不足だけで済んでいて、情報さえ把握していれば何の問題も無い。
  • 隠しムービーではせんだ氏が映像に合わせて面白アテレコをかましており、原語版とは違った魅力がある。

総評(日本版)

日本版『Gex 2』を語る上で避けられないのはローカライズのいい加減さである。
作風を理解していない芸人起用に加え、愛着の薄さが見える仕事ぶりに対しては、前作ファンであれば悪印象が避けられない。
雰囲気作りが放棄されている点は目をつぶれたとしても、雑な翻訳の結果として「チュートリアルの説明不足で詰まる箇所がある」「攻略の重要なヒントが非表示」「アイテムの用法の一つが説明されていない」「おまけ要素であるチートコードへの誘導が削除」という明確な実害が生じている。

しかしこれらの欠点は本作の一部にしか過ぎず、上述の原作記事で触れたゲーム内容は概ね残されている。
ローカライズ内容に不安のある前作ファンも、興味があれば躊躇せず手に取る事をお勧めする。


余談(日本版)

  • 「原作でヤモリだった主人公がトカゲに変更された」という話がネットに広まっているが、これは半分誤りである。
    • 実際は説明書で「トカゲのような生き物」と紹介されているだけにすぎない。まぁ確かに二足歩行するヤモリやトカゲなんていないだろうし……。
  • 当時のせんだ氏はなにかとゲーム関連の仕事が多かった模様。
    • 本作以前にはPS用パズルゲーム『バーミンキッズ』でも主人公の声を演じていた。
      • こちらも世界観と声があっておらず、本作同様の謎な起用となっている。
    • 『スピンテイル』の翌年には『beatmania APPEND GOTTAMIX』において、トロンボーン奏者としても知られる谷敬と組んで楽曲を提供した。
      • こちらはゲーム自体が自由な作風だった事に加え、ギャグのノリが音楽を演奏するシステムに上手くマッチしており、プレイヤーからの人気が高い。
  • ゲーム中、レノは本作のスタッフが手がけた作品を宣伝することがある。多くはクリスタル・ダイナミックスのコンシューマ向けタイトルなのだが、ごく稀に『アルケミスト』という無名のPCタイトルを宣伝することがある。
    • おそらくこの商品と思われるが、ネット上には日本語版も海外版もほとんど情報が無く、プレイ動画すらない。幻の作品となっている。
    • 海外版と思われるパッケージは確認できるが、詳細は不明。少なくともクリスタル・ダイナミックスの作品では無いと思われる。
  • やはりこのローカライズで売るのは無理があったらしく、続編『Gex 3: Deep Cover Gecko』が日本で出る事は無かった。遊べない事を惜しむべきか、粗悪な開発体制の元で改悪されなかった事を喜ぶべきか……。
    • セールスの失敗に対して『Gex 2』が日本で遊べる需要は大きい模様。
      • もしかすると、物珍しさで入手している海外ファンの需要もあるのかもしれない。
      • 中古ではかつては定価を割っていた事もあったが、動画サイトで取り上げられるなどで、現在はそれなりに高い値段を保っている。
  • 『Gex 3: Deep Cover Gecko』の発売後、開発元のクリスタル・ダイナミクスは主人公を幼児化した『GEX.JR』や当時の次世代機向けに『GEX4』に開発を進行していたが、販売元のアイドスが関心を失っていたこともあり、実現せずに終わっている。
    • ただし、上記の未発表作品の発想やゲームシステムは、PS2やXBOXで発売された『Whiplash』(日本未発売)に採用されている。

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最終更新:2024年01月20日 12:16

*1 前作は2年前に発売された。

*2 イギリス版では何故か『Supermarket Sweep』という実在のゲーム番組に変わっている。

*3 原文は"old Mr. Sunshine himself"。「カマホモ親父」と言ったニュアンスで罵倒している模様。

*4 似たような例として、アメリカのホビー会社「ウィザーズ・オブ・ザ・コースト」は同じようなギミックを自社のカードゲームに取り入れている。

*5 得体の知れない多彩なアクションで苦しめた前作から一転、今作はゲックスに誘導されて自爆してしまい、モーションもどこかコミカルさを見せている。

*6 1947年生まれのコメディアン。「ナハ」という語感の良いフレーズが持ちネタ。

*7 本作は20世紀も終わりに差し掛かった1998年に発売されている。当時はバズワードとして何かと「今世紀最○○」が乱用されていて、これが2001年になると「今世紀初の○○」などにシフトしていった(後の「平成最○○の○○」「令和の○○」に通ずる物がある)。

*8 「私より売れてるタレントは、消えろ!」「新しいギャグ思い付いた!」など。

*9 マーベル社のアメコミヒーロー。漫画と現実世界の間にある「第四の壁」を認識する能力があり、自重しないメタ発言をコミカルに連発するなどの強烈な個性で知られる。