本記事では、欧米市場限定ソフト『Gex: Enter the Gecko』と、その日本向けローカライズ作品『スピンテイル』について解説します。
(判定は『Gex』が良作、『スピンテイル』が良作・劣化。)
【げっくす えんたー ざ げっこ】
ジャンル | アクション | |
対応機種 | PlayStation | |
発売元 |
(欧州)クリスタル・ダイナミックス (北米)ミッドウェイゲームズ |
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開発元 | クリスタル・ダイナミックス | |
発売日 | 1998年1月31日 | |
プレイ人数 | 1人 | |
備考 | 日本語版は作品設定を一新し、『スピンテイル』として発売(後述) | |
判定 | 良作 | |
ポイント |
おしゃべりヤモリ、堂々帰還 2Dから3Dに鞍替えし、『マリオ64』ライクの別ゲーに 癖は強いが歯ごたえ満点の王道アクション |
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ゲックスシリーズ Gex / Gex: Enter the Gecko(スピンテイル) / GBC版2 / Gex 3: Deep Cover Gecko / GBC版3 |
クリスタル・ダイナミックス社が生んだ人気タイトル『ゲックス』の続編。副題は直訳で「ヤモリ登場」となるが、これは映画『燃えよドラゴン』の英題『Enter the Dragon』のパロディである。
欧州版タイトルは微妙に異なり『Gex 3D: Enter the Gecko』となっている。
日本でのローカライズ版は本記事下部で後述する。
2Dアクションゲームだった前作とは打って変わって、今作は『スーパーマリオ64』のようなミッションクリア型の3Dアクションとして発売された。
海外では前作に劣らない支持を集め、その後も次回作も発売されるなど、クリスタル・ダイナミックス社のマスコットとしての地位をほしいままにした。
日本ではPS版のみローカライズされたが、原語版はニンテンドウ64やWindowsとのマルチプラットホームで展開されている。
本記事で扱う固有名詞は、原則として日本語版に準ずるものとする。
ステージ名は英語版と日本語版を併記する。
ぼくは人目をしのんで自由気ままな暮らしを送っていた。この2年(*1)、ぼくの一日はカンフー映画(*2)を観ることから始まって、毎日・毎週のようにボーっとしながら長ったらしい番組に見入ってたんだ。
ふと顔を上げると、政府の木っ端役人がぼくの家に踏み入って来やがった!なんでも、あのクソッタレ(*3)野郎・Rezの気配を捉えたらしいんだ。再びメディア空間に現れたアイツを元いた場所に帰すに、ぼくの力が必要なんだってさ。
連中はぼくを『1984年』みたいな拷問室に放り込んだかと思うと、荒々しく迫って来た。少しお返ししてやったけどね(動じない様子で役人にオナラをかますゲックス)。
それで、僕を雇うための良心価格を提示してやった(したり顔のゲックスに対し、役人が焦るような態度でアタッシュケース一杯の札束を乱暴に押し付ける)。役人どもが特別諜報員のスーツを差し出してくれたんで、ぼくは言ってやったのさ。「交渉成立だ」ってね。
どうやらぼくはまたメディア空間に帰って来ちゃったみたいだ。
ああこの既視感……いやいや、またイチから始めてやるさ。
(オープニングより。記事掲載にあたり独自に和訳)
+ | 存在が伏せられている収集要素 |
+ | 詳細(ネタバレ注意) |
前作から大きくゲーム性が変わり、海外では第5世代ハードを代表する3Dアクションの一つとして支持を得る事に成功した。
カメラワークや操作性については荒削りな部分もあり、本サイトの判定で言うと「スルメゲー」に近い遊びづらさがある。しかしどうにも太刀打ちできないほどの難関というわけではなく、ある程度遊び慣れてくればプレイヤースキルで補う事も不可能ではない。
残機の増えやすさと難易度の高さはバランス良く噛み合っており、豊富に揃えられたギミックはプレイヤーに柔軟な楽しさを提供する。
王道ながらも、それなりの完成度が保証されたアクションゲームである。
+ | ネタバレ注意 |
【すぴんている】
ジャンル | アクション | |
対応機種 | PlayStation | |
発売元 | バンダイ | |
開発元 | クリスタル・ダイナミックス | |
発売日 | 1998年9月10日 | |
定価 | 6,380円 | |
プレイ人数 | 1人 | |
備考 | 『Gex: Enter the Gecko』の作品設定を一新したローカライズ作品 | |
判定 | 良作 | |
劣化ゲー | ||
ポイント |
トンデモローカライズが為された日本語版 主演はまさかのせんだみつお すがすがしいまでの翻訳放棄 一部除くとゲームとしては問題なく遊べる |
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ゲックスシリーズ Gex / Gex: Enter the Gecko(スピンテイル) / GBC版2 / Gex 3: Deep Cover Gecko / GBC版3 |
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バンダイ×クリスタル・ダイナミックス社ローカライズシリーズ マジカルホッパーズ / 魔女っ子大作戦 / ミラクルジャンパーズ / スピンテイル |
『Gex: Enter the Gecko』の日本向けローカライズ作品。原作とは全く異なる世界設定で発売されている。
当時のバンダイはクリスタル・ダイナミックス社のIPをローカライズ販売していたのだが、担当スタッフはいくつかの作品を全く別の世界観に差し替えていた。
たとえば2.5Dアクション『Pandemonium!』を売る際はアニメ調世界の『マジカルホッパーズ』というタイトルに差し替え、殺伐とした『The Unholy Wars』を売る際はファンシーなキャラクターを起用した『魔女っ子大作戦』にするなど、原作の面影が無いレベルの変更が施されている。
今作は既に過去作が日本で出ていたにもかかわらず、例によってぶっ飛んだローカライズが行われた。
その内容はコメディアンのせんだ光雄(現:せんだみつお)氏(*6)が主人公を演じ、彼自身のギャグを交えながら喋り出すというものであった。
ゲーム内容は上述の原作記事に解説を譲り、本項ではローカライズによる差分を中心に解説する。
テレビのモニター内に自由に入り込める能力を持った主人公・レノは、モニターの中で起こる様々な事件・問題を解決する「モニターディック(電影刑事)」のひとりとして活躍していたが、今は気ままにその日暮らしを楽しんでいる。
ある日、そんなレノのもとに黒いスーツをまとった政府の役人が訪ねてきた。今世紀最強(*7)の悪党と言われる輩が、モニター内で悪事の限りを尽くしているとのこと。モニターディックの中でも、特にスゴ腕でならしたレノの力が必要だというのだ。
レノは平和で気ままな今の生活に満足していた。「面倒なことはゴメンだ」と一度は断ったが、彼らのスーツケースの中の大金に目がくらみ、この事件を引き受けることにした。
さあ、レッツゴー、レノ!モニター内の悪党どもを捜し出し、大金をガッポリ獲得しようじゃないか!
(取扱説明書より引用)
インパクトの先行するローカライズだが、それ以外のあらゆる点が雑。
あろうことか今作はゲーム内の英語ほぼ全てを撤去するといういい加減な改変を行なっていて、細部で支障が出ている。
『魔女っ子大作戦』の記事にあるように、このローカライズ担当スタッフには英語を自由に扱える人員がいなかったらしいが、それにしても杜撰である。
日本版『Gex 2』を語る上で避けられないのはローカライズのいい加減さである。
作風を理解していない芸人起用に加え、愛着の薄さが見える仕事ぶりに対しては、前作ファンであれば悪印象が避けられない。
雰囲気作りが放棄されている点は目をつぶれたとしても、雑な翻訳の結果として「チュートリアルの説明不足で詰まる箇所がある」「攻略の重要なヒントが非表示」「アイテムの用法の一つが説明されていない」「おまけ要素であるチートコードへの誘導が削除」という明確な実害が生じている。
しかしこれらの欠点は本作の一部にしか過ぎず、上述の原作記事で触れたゲーム内容は概ね残されている。
ローカライズ内容に不安のある前作ファンも、興味があれば躊躇せず手に取る事をお勧めする。
*1 前作は2年前に発売された。
*2 イギリス版では何故か『Supermarket Sweep』という実在のゲーム番組に変わっている。
*3 原文は"old Mr. Sunshine himself"。「カマホモ親父」と言ったニュアンスで罵倒している模様。
*4 似たような例として、アメリカのホビー会社「ウィザーズ・オブ・ザ・コースト」は同じようなギミックを自社のカードゲームに取り入れている。
*5 得体の知れない多彩なアクションで苦しめた前作から一転、今作はゲックスに誘導されて自爆してしまい、モーションもどこかコミカルさを見せている。
*6 1947年生まれのコメディアン。「ナハ」という語感の良いフレーズが持ちネタ。
*7 本作は20世紀も終わりに差し掛かった1998年に発売されている。当時はバズワードとして何かと「今世紀最○○」が乱用されていて、これが2001年になると「今世紀初の○○」などにシフトしていった(後の「平成最○○の○○」「令和の○○」に通ずる物がある)。
*8 「私より売れてるタレントは、消えろ!」「新しいギャグ思い付いた!」など。
*9 マーベル社のアメコミヒーロー。漫画と現実世界の間にある「第四の壁」を認識する能力があり、自重しないメタ発言をコミカルに連発するなどの強烈な個性で知られる。