ドクターハウザー

【どくたーはうざー】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 3DO interactive multiplayer
発売・開発元 リバーヒルソフト
発売日 1994年4月29日
定価 8,800円(税抜)
判定 賛否両論
ポイント 後のレベルファイブ社長が未開の3Dゲームに挑んだ意欲作
CSゲーム初の『アローン・イン・ザ・ダーク』フォロワー
次世代ハード3DOの優位性を存分に発揮した
ボリュームは控えめで、元ネタ以上に荒削り
死に様がシュール



彼の屋敷に足を踏み入れ、 戻ってきた者はいない…。 何より、彼自身がその一人である。



概要

PCゲームを中心に活動していたソフトメーカー・リバーヒルソフトが送る、3DO初参入作品。
発売時期はハードの初期で、パナソニック販売のもと大々的に送り出された。

今作のメインプログラマを担当したのは、後に『妖怪ウォッチ』などの人気コンテンツを送り出すレベルファイブ社長・日野晃博氏である。
1989年ごろ、海外で発達し始めた3DCGに可能性を見出した日野氏はリバーヒルソフト社長に「今後のゲームは3Dが主役になる」と直談判。他ゲームの開発ラインから外れ、ノウハウ取得の機会を得て積極的な研究に乗り出した。
時は流れて1993年ごろ、ついに3Dを扱えるCSゲーム機・3DOのソフトが開発できるようになり、そこで生み出されたのが今作である。
日野氏の独立の足掛かりを作ったとも言える作品で、そのキャリアを知る上でも外せないタイトルである。

+ 補足:「3Dが主役になる」発言の時期に関するソースの信憑性について

この逸話は日野氏が各種インタビューで何度か話しているのだが、そのうち「社長が訊く」第一回の内容は以下の理由により信憑性が低いため、上記の解説では採用していない。

日野氏はこのインタビューで当時のことを詳細に答えているのだが、記憶が曖昧になっていたのか、明らかな間違いや後発インタビューとの矛盾が含まれている。
以下の解説は、Wikipediaの年表も併せて参照のこと。

記事では「入社直後24歳でメインプログラマに抜擢されたあと、2本くらいソフトを作ってから、SFC全盛期の17〜18年前に上記の発言をし、開発ラインから外すよう頼んだ」(※記事公開は2011年2月)とある。
しかし日野氏が実際に初めて*1メインプログラマに抜擢された『黄金の羅針盤~翔洋丸桑港航路殺人事件~』(1991年、参考*2)は、氏が24歳になる1992年7月20日より前の作品なので辻褄が合わない。氏が初めて手がけたソフトは1989年発売なので、入社直後に任されたのは事実と見られるが……
また『黄金の羅針盤』を作った後2本目のソフトは1995年発売で、「プレイステーション(1994年12月)が出る前」とする文中の時系列と合わなくなる。
仮に「リバーヒルソフトで2作手がけた後」と解釈した場合も、そもそも『黄金の羅針盤』は日野氏が3番目に手がけたタイトルなので時系列が前後し、いずれにしてもおかしい。
さらに、発言を行ったとされる17〜18年前は掲載までの時間差も考慮すると1992~1994年までの間となるが、2016年のGameBusinessのインタビューでは「PCエンジンが出たぐらいの時」「関わっていた大規模RPGを降りた」との発言があるため1989年末「3Dが主役になる」発言をしたことになり(この時期に日野氏は『BURAI』というRPGの開発を上巻だけ担当して降りている)、時期が完全にズレている(しかもこのインタビューが正しければ「2本作った後」と一致する)。
加えて「社長が訊く」の17〜18年前にはリバーヒルソフトが当時作っていたRPGのうち、GameBusinessのインタビュー内容と合致するものがない*3

このGameBusinessインタビューが正しいと仮定し、客観的に正しい出来事と組み合わせると、以下のようになる。

  • 1988年にPCエンジン発売
  • 1989年に日野氏が『BURAI 上巻』の開発に参加
  • 海外の最先端3Dに感銘を受けた日野氏、「これからは3Dの時代が来る」と社長に直談判して大規模RPGの開発を降りる
    • これが『BURAI』なら「PCエンジン発売から間もない頃」と合致
  • 1990年に『下巻』が発売されるが、日野氏のクレジットなし
  • その後、日野氏が『黄金の羅針盤』のメインプログラマを任命され、1991年発売
  • 1992年、リバーヒルソフトが初めてPCエンジンのゲームを出す
    • GameBusinessソースによれば、日野氏はリバーヒルソフトがファミコンやPCエンジンを触り始めたころに高いスペックのパソコンで強引に3Dのプログラムを作っていたとのこと。つまりこのあたりの時期に相当する
  • 1992年7月20日、日野氏が24歳になる
    • この頃は「社長が訊く」にもある通り、CS機はSFCが主流
  • 『ドクターハウザー』が1994年3月に発売されたこと、元になったゲームが1992年11月に海外で出たことを考えると、そのメインプログラマに日野氏が抜擢された可能性が高いのは1993年ごろ、つまり氏が24歳か25歳の時
  • その17〜18年後は件の「社長が訊く」公開時期

これらの事実から察するに、日野氏は「社長が訊く」において、「3Dの時代が来る」発言の時期と『ドクターハウザー』メインプログラマ任命時期を混同し、諸要素を混ぜこぜにして答えてしまった可能性が高い。
一方でGameBusinessのソースに実際の出来事との矛盾は見られないため、本記事はこちらが正しい想定とする。

あらすじ

考古学の権威ハウザー博士が行方不明になった。
天才にありがちな奇行だという周囲の声をよそに、
新聞記者アダムスは大いに興味を抱き、博士の消息を追い続けた。
そしてついに、町から遠く離れた博士の古い館をつきとめたのである。
アダムスはハウザー邸に向かった。
館に足を踏み入れると、その扉は二度とは開かなかった。
しかたなくアダムスは、博士を捜そうと奥へ、奥へと進んでいく。
それが恐怖と戦慄の序章であることを、まだ彼自身知る由もなかった…。

(取扱説明書より)


特徴

  • 今作は3D空間を探索して謎を解くという、当時としては画期的なアドベンチャーゲームである。
  • ゲームの目的
    • プレイヤーは主人公アダムスとなり、ハウザー博士失踪の謎を突き止めることとなる。
    • ゲームの舞台は、命を奪いかねないトラップがそこら中に仕組まれた洋館。
      • なぜ侵入者を拒むのか、博士はどこへ行ったのか。その謎は、ゲームを進めるにつれて明らかになる。
  • 主人公・アダムス
    • ハウザー博士の専属取材をきっかけに出世した、28歳の新聞記者。博士とは決して気の合う友人では無かったものの、今回の失踪には複雑な感情を抱え、その行方を突き止めるために奔走する。
    • 床にすさまじい穴が開いていようが、見るからに不審なトラップが仕掛けられていようが、どんな危険な状況においても彼は後先を顧みず前に前にと進んでいく。若さゆえの前向きさだろうか。
    • 時代相応のローポリゴンで表現された鋭い顔つきはやや不気味で、今作の雰囲気作りに大きな影響を与えている。ちょっとサル顔で愛嬌があるが、よくよく見ると割と美形。
      • 至る所にある窓を調べることで、ガラスの反射を通じて彼の尊顔を拝むことができる。
    • そんな無機質で人を寄せ付けない雰囲気と裏腹に、何かにつけて訪れるゲームオーバー時のインパクトは必見。
      • 「アァァァァァァァッッッッ!!!!!」と情けない断末魔と共に、後の理不尽にも吹き飛んだおっさんを彷彿とさせる変顔で事切れる様子は、今作を一度でも遊べば嫌でも印象に残ること請け合いである。
      • ゲーム終盤ではこの断末魔が強制的に流れるイベントがあるため、心臓と腹筋に悪い。
  • システム
    • 移動はラジコン操作。↑キーを押せばカメラの方向にかかわらず前進し、左右キーを押せば向きを変えることができる。
      • 『アローン・イン・ザ・ダーク』同様、走行やジャンプも可能。後者は元ネタと違って常時使用できる。
    • 道中ではアイテムを拾うことができ、メニューを開くことでいつでも使用可能。
      • このアイテムは全てがフルポリゴンとなっており、3DOの性能を存分にアピールしている。
    • ある場面を除き、今作で戦闘と呼べるものは存在しない。
    • アイテムのうち、手帳を使うことで基本的にいつでもセーブが可能。
      • ただし詰みセーブが発生しうる状況など、使えないタイミングも一部で存在する。
  • 『アローン・イン・ザ・ダーク』にない要素として、複数のカメラワークを使い分けられるのが最大の特徴である。
    • 今作ではLボタンを押すことにより、3種類の視点を使い分けられる(名称は本記事向けに便宜的に命名したもの)。
      • 固定視点:特定のカメラで画面が描画される。アダムスがカメラの外に出ようとするとカメラ位置が切り替わり、別の視点から画面が描かれる。要は『アローン・イン・ザ・ダーク』と同じ仕様。
      • 鳥観視点:2DのJRPGのように、真上から探索中エリアを描写する。いわゆるトップビュー。
      • 主観視点:FPSのように、アダムスの視点から見える光景をリアルタイムで映し出す。

評価点

  • 今作は『バイオハザード』よりも2年早く、CSゲーム機初の3Dサバイバルホラーを実現した。
    • 3DOといえば、3Dポリゴンを自由かつ柔軟に使えるようになった最初期のハードである。当然、それ以前にポリゴンを利用したゲームは限られており、同様の作品は家庭用ゲーム機に存在しなかった。
      • 結果的に3DOを手にしたユーザーは、多くのゲーマーが『バイオ』を遊ぶよりもずっと早く、斬新なホラーゲームを体感できるアドバンテージを得られた。
  • 3Dポリゴンが織りなす色濃いムード
    • 鉄人』『Dの食卓』といった同ハードのタイトル同様、今作もまた3DCGの無機質さを全面的に活かした演出が見どころとなっている。雰囲気に飲まれたファンも多く、3DOらしいアート性が前面に押し出された作品の一つである。
    • ナレーション控えめの導入を終えると、焦燥感をあおるハイテンポなBGMがプレイヤーを出迎える。その先に待つのは、ポリゴンで冷たく表現される不気味な洋館である。
      • ちなみにこのオープニングテーマは今作の書き下ろしではなく、既存の版権BGMである(タイトルは『Hurry Up, Halloween's Almost Over』)。2025年現在YouTubeにてTopicとして公式配信されているため、興味のある人や原作を遊んで刺さったという人は必聴である(リンク)。
      • イントロで不協和音に切り替わる部分は映像の構成に上手く溶け込んでおり、このゲーム向けに作られた曲でない事実は驚きである。
    • 影やテクスチャをほとんど付けない独特の質感は不安を煽り、主人公の心情を表しているかのよう。
      • 時おり描写されるアダムスの鋭い目つきは、このゲームの世界が平和でないことをなんとなく思い知らされる。
      • BGMは控えめで、ときにノイズのような響きだけに抑えるなど、音響効果もムードを高めてくれる。
    • 地味ながら、タイトル画面の演出も高揚感を煽ってくれて印象的。
      • 背景にはアダムスが乗ってきた車のホイールがアップで映し出され、いざ屋敷に乗り込まんとする足音が夜風に響く……というもの。
      • ゲームオーバー時に幾度となく見せられるが、やり直しの際もモチベーションをそそってくれる魅力がある。
  • 日記から少しずつ狂気を明かす演出
    • これまた『アローン・イン・ザ・ダーク』同様の手法だが、今作では屋敷のあちこちに博士の日記が隠されており、そこから物語の真相が少しずつ浮かび上がってくる。
      • 元ネタに比べると文章は簡潔で、文字を読むのが苦手な人にも優しい。
    • 主人公と親しかった不思議な博士、というイメージは物語を進めるにつれて崩れ去っていき、彼が変化するまでの経緯に関心が向くようになっている。
    • 狂う過程は決して単純ではない。被害妄想に至るまでの流れは丁寧に描かれており、妙な生々しさは印象深いものとなっている。
  • 謎解きに理不尽要素が無く、ADV初心者でも楽しみやすい(後述するラスボスは除く)。
    • 元ネタはPC向け洋ゲーらしいシビアな難易度となっていたが、今作の謎解きはうってかわって易しい部類に入る。
      • 説明書で操作を学び、周囲の様子やアイテムの内容をしっかり観察すれば、スムーズに進めることができる。
      • ゲーム終盤では後戻りできない場面があるが、それ以前に必要なアイテムが足りていなければ「もう少し調べよう」と誘導が入る親切設計になっている。
    • 3DOは家電の側面も持って送り出されたハードであり、ゲームマニアだけでなく幅広いユーザーが対象となっていたが、その需要にマッチしている。
  • 部屋の移動時には扉を開く演出が入るのだが、これによりロード時間のストレスを軽減してくれ、ムードも盛り上げてくれる。
    • ピンと来た人もいるだろうか。後に『バイオハザード』が行った工夫をいち早く取り入れていたのである。
      • 『バイオ』の秀逸な演出としてしばしば語り草になるシステムだが、実はこちらの方が先に行っていた。

賛否両論点

  • 予測不能な死にゲー要素
    • 元ネタの『アローン・イン・ザ・ダーク』同様、今作には「特定のアイテムを取ったら即死」「ある場所を調べたら即死」といった不条理な要素が随所に仕込まれている。
      • そのシュールな死亡演出は今作を象徴する要素の一つでもあり、ネタ的な魅力では『ノットトレジャーハンター』に通ずる部分も。
      • ニコニコ動画には(マイナーハードの専売作品にもかかわらず)100万再生を突破した実況プレイ動画が存在し、その人気がうかがえる。
+ 詳細
  • ゲーム開始直後にそのまま前進すると、上から落ちてきたシャンデリアが直撃して即死。
    • 上述した『ノットトレジャーハンター』における「洞窟から出たら即終了」並の出オチであり、引っかかるとあまりにもシュールこの上ない。
  • あるドアに入るとその先が何故か崖になっていて落下死する。
    • 仮にも屋敷なのに、今作では落ちたらアウトな穴が大量に設置されていて雑な殺意に満ちている。
  • 設置されている花のアイテムを回収したら毒ガスが発生して死亡し、シャワーを捻れば部屋が水でいっぱいになって溺死、時計の前を通ったら矢が頭を貫通して何とも言えない表情をしながら死亡する。やりたい放題の極み。
  • 廊下の奥からインディ・ジョーンズばりの大岩が転がってきたり、鎌のついた振り子が設置された部屋があったりと、もはや個人の邸宅とは思えないほどのセキュリティはツッコミ必至である。
  • ただし元ネタの方はロード面が快適で、即死トラップに引っかかってもその場でセーブデータの読み込みが可能だったのだが、『ドクターハウザー』の場合はいちいちタイトル画面に戻るのを待たなければならず、ストレスが大きいのが難点である。

問題点

  • ボリュームが少ない
    • ラスボス到達までは1.5~2時間程度。3DOのADVは比較的ボリュームの少ないソフトが珍しくないが、だとしても短い部類に入る。周回による特典などもない。
    • スタッフもその短さは懸念していたのか、説明書にはクリア後も色々な遊び方を楽しむよう勧められている。
      • その内容は「特定の部屋までの到達タイムを競う」「クリアまでのゲームオーバー回数の少なさを競う」「オブジェクトの配置にまつわるカルトクイズをドクターハウザー・クリア仲間で出し合い、答えが食い違ったら実際に遊んで答え合わせして楽しむ」というもの。楽しそうなのは否定できないが、このゲームでやる意味は果たして……というか3DOを持っている友達そのものが希少すぎるのではないか。なぜそんな仲間が少なくとも3人集まる前提なのか。大学のサークル棟などに3DOと今作を置いてみんなで楽しもうとでも言うのか。*4
  • フレームレートが低すぎる
    • 今作は全ポリゴンのレンダリングにこだわっているが、そのせいでかなり動作が重い。
    • その処理速度はなんと約10FPS。すべての操作が重く、操作性にストレスを感じさせる。
      • ちなみに3DOでは後に元ネタの『アローン・イン・ザ・ダーク』も移植されているが、こちらの方が(『ハウザー』より前に作られたソフトのベタ移植なのに)動作が比較的快適である。
    • フルポリゴンにしたことで多彩な視点が実現できているのは一見強味に思えるが、ここに下記の問題点が加わってくる。
  • 3D酔いをもたらす劣悪なポリゴン描画
    • 『アローン・イン・ザ・ダーク』式の固定視点時は問題ないのだが、主観視点や鳥観視点の描画があまりにも酷い。
    • 今作のポリゴンは描画される直線がカメラ視点に応じて不自然に歪む性質を持っている。主観視点だと少し動くたびに激しく線が歪み、気分を害する恐れがある。
      • 原因は不明だが、丸め誤差の計算か何かが上手くいっていないのではないかと見られる*5
      • なお他の3DOソフトにこのような現象は存在せず、今作特有の問題となっている。
    • 厄介なことに、この主観視点は主人公の首に合わせてゆらゆら揺れるので、一度3D酔いが始まったら悪化を余儀なくされる。
    • もう一つ、鳥観視点も問題。こちらはこちらで、向きを変えるごとに先頭が1番上になるよう巨大なマップが大きく回転し、これまた酔いを誘発する。
    • 結果的に静止画でも実現できる固定視点以外は難ありなので、フレームレートを犠牲にしてまでフルポリゴンにしたメリットが薄い。
    • 固定視点のカメラワークは練り込まれておらず、状況によってはどうしても見づらい部分があるため、他の視点も要所要所で使わなければクリアできない。プレイの際は3D酔い対策を事前に講じることが推奨される。
  • 理不尽なラスボス戦
    • この局面に限り、あるアイテムを選択した上で、それまで一切行って来なかった操作をノーヒントでこなさなければクリアできない。
    • アイテムの推測は難しくないが、正解であることを示すようなエフェクト・導線が一切ない。
    • このラスボス戦は「主人公の移動速度で捌ききれない弾幕を避けきって本体の元に辿り着く」というものなのだが、特定の操作を行わなくても運が良ければ到着できそうな雰囲気もあり、必須の操作に気付きづらくなっている。
    • さらに酷いことに、このラスボスは再戦のたびに、1分ほどの会話を毎回見せられる。
      • 様々な方法を試行しようにも、この下りとタイトル画面を何度も見せられてダレるため、プレイヤーの心を折ってくる。

総評

特殊なパッチを用いることなくフルポリゴンが実現できる、3DOの強みを存分にアピールした作品。
荒削りな完成度ゆえに厳しい意見も散見されるが、3Dポリゴンの無機質さを前面に押し出した作風には好意的な評価を寄せるユーザーも多く、その革新性も相まって「3DO初期の名作」と推す意見も根強い。
同ハードでありがちな「ゲーム部分はともかく演出面で惹かれたファンが多い」という、特殊な立ち位置のソフトである。

謎解きの難易度は低くサクッと遊べるので、当時のポリゴン演出が好きなプレイヤーであれば、3D酔いへの対策を十分整えた上で触れてみるのもおすすめである。


余談

  • 説明書からは要所要所で不穏な展開を匂わせてくるのだが、実際に遊び終えると中々に捻くれたミスリードだったことが判明する。
+ 物語の結末に触れるネタバレを含む
  • 説明書の2P目にはこうある。

    天才考古学者ハウザーの古い館に踏み入れた新聞記者アダムス。
    しかし、その玄関は二度と開かなかった…。

  • これだけ読むと、「主人公のアダムスは死ぬのか……」と、バッドエンドを予期させる。
    • 本記事冒頭で引用したあらすじにも「その扉は二度とは開かなかった」とあり、玄関が開かなかったという話は二度にわたって強調されている。
  • しかしゲームを遊び終えるとそんなことはなく、アダムスはきちんと生存して戻ってくる。
  • 嘘予告ではないか、と思いつつ改めて説明書を読んでみると、間違ったことは一切書かれていない。何せアダムスが"戻ってこなかった"とは一言も言っていないのだ。屋敷が崩壊し、"玄関"の概念もろとも消滅したので、確かに"二度と開かなかった"のである。
  • まるで『頭の体操』の解答に出てきそうなトンチでは無いだろうか……

その後の展開

  • 日野氏は後年「(3DOソフトは)あまり思わしい結果ではなかった」「3DO自体があまり普及しなかったので厳しい状況だった」と述懐しており、『ハウザー』は商業的に上手くいかなかったようである。
  • 今作の開発チームが次に手がけたのは、あのドラえもんズのゲームであった。
    • そちらは3Dを活かした作品とは言えず(疑似3D上の2Dキャラクターが拡大縮小される程度)、3D開発のノウハウを活かす余地はほとんど無かったと思われる。
  • しかしその次、プラットフォームをプレイステーションに移して『ハウザー』の後継作品とも言える『OverBlood』を送り出した際はヒット作となる。日野氏は3Dのノウハウを優位的に持っていたことで、社内の地位を一気に上げたのだという。
    • 同作は『ハウザー』の視点変更システムが流用されており、そのノウハウが巡り巡って活かされることとなった。
    • そうして続けて出した『同2』もヒットとなる。
  • 一方、日野氏はこの頃から会社の一員としてゲームを作ることに限界を感じるようにもなり、『OverBlood』のプラットフォームであったPSの発売元SCE(後のSCI)に対してセカンドパーティにしてもらうよう直談判を行った。しかし担当者からは拒否されたのち「自分で会社を作った方が良いのではないか」と提案され、これによって独立するきっかけになったのだという。
  • こうして日野氏は株式会社レベルファイブを設立し、企画・シナリオ・絵コンテ全てを担当した『ダーククラウド』でデビュー。同作を世界市場でヒットさせ、後にヒットメーカーの一つとして躍進を遂げていくのであった。
  • ソースは以下より。
最終更新:2025年02月15日 10:17

*1 「社長が訊く」原文に「初めて」とは書かれていないが、「入社間もないのに先輩が推薦してくれた」という話からすると、未経験と考えるのが自然。

*2 Wikipediaには1990年とあるが、ソースが併記されていない。本記事ではより具体的な日時が書かれた8-bitsの記述を採用する。

*3 強いて言うなら『プリンセス・ミネルバ』(1992年12月)が怪しいが、大規模と呼べるか微妙な作品で、スタッフロールに日野氏の名前はない

*4 とはいえ世界は広いもので、今作を検索すると4人で遊んでいるプレイ動画がヒットする。

*5 丸め誤差とは、割り算した値を管理する際にどうしても本来と違う値になってしまうことで生じる誤差のこと。たとえば1を3で割ると0.3333…となるが、流石に数字を無限に並べることは出来ないため、内部では途中で小数を打ち切らなければならず、これによって誤差が出てしまう(ここではわかりやすく10進数で表したが、実際は2進数)。初代PSでポリゴンに隙間ができるのもこれが原因とされる。