エノク書(ヘノク書)は、長い間エチオピア教会において正典としてエチオピア語訳でその全体が伝えられてきた。そのエチオピアでエチオピア語訳の写本は多くあったが、1773年そこに旅したジェイムス・ブルースがその写本を三つ英国に持って帰った。その一つがローレンス大司教によって訳され、1838年に出版された。
それ以来エチオピア語訳エノク書の写本が西欧に多く持って来られ、その本文が刊行され、またそれに基づいて翻訳も相次いだ。 本文の刊行はA・ディルマン(1851年)、J・フレミング(1902年)、R・H・チャールス(1906年)によるものがあり、最近のものとしてM・A・ニッブ(1978年)がある。 日本語訳は、ディルマンの本文に基づいて村岡崇光氏によってなされている。(『聖書外典偽典』4、旧約偽典II、教文館、1975年、161-202、339-389)
ギリシア語訳は、部分的に発見されている。1886年、エジプトのアクミムで11-326が発見された。976-104、106-107の断片は、1930年にミシガン大学図書館が入手したパピルスにある。これらギリシア語訳エノク書の写本断片は、M・ブラックによって出版された。
このヘノク書の写本断片がかなりの数でクムラン洞窟(
死海文書)で発見された。それによって、この教団にとってのみならず、当時のユダヤ教に広く行き渡り、重んじられていたことが明らかとなった。
内容
義人エノク(
創世記5:24)が天使に導かれ、天空を世界の果てまで旅し、星々の運行などの自然界の秩序を見届ける。やがてその運行が乱れて世界の終末が訪れ、その後に新天地が実現することが、
天地創造から編集者の現在までの事後預言を含めて語られる。スラブ語エノク書や
ギリシャ語バルク黙示録もほぼ同様の内容である。
構成
1-5:
最後の審判の啓示
6-36:天使たちの堕落とヘノクの見聞記
37-71:メシアに関する教説
72-82:天文学および暦法について
83-90:夢の書(歴史的考察
91-108:ヘノクの手紙
新約聖書への引用
ギリシャ語エノク書1:9
彼の一万人と、彼の聖なる者たちといっしょに進軍なさるのは、万人に対する審判をなすため、そうして、不敬な者たちすべてを破滅させ、あらゆる肉を、彼らの不敬の所業 — 彼らが不敬を犯したすべての所業、彼らが口にした耳障りな言葉 — すべてに関して吟味されるであろう。不敬な罪人たちが彼に対して『そしったことすべてに関しても。』
アダムから数えて七代目に当たるエノクも、彼らについてこう預言しました。「見よ、主は数知れない聖なる者たちを引き連れて来られる。それは、すべての人を裁くため、また不信心な生き方をした者たちのすべての不信心な行い、および、不信心な罪人が主に対して口にしたすべての暴言について皆を責めるためである。」
最終更新:2017年10月08日 13:03