王国のグランシェフ

【おうこくのぐらんしぇふ】

ジャンル クッキングファンタジーRPG
対応機種 3DO interactive multiplayer
発売・開発元 サラ・インターナショナル
発売日 1996年3月1日
定価 6,380円
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査:E(一般向)
判定 なし
ポイント 飯テロ注意! 料理で旅するRPG
心温まるシナリオと新鮮なシステムが魅力
実際に使われるレシピを頭に叩き込んで料理に挑む
ひそかにスローライフRPGを開拓していた意欲作?
RPGというよりADVに近いゲーム性
練り込み不足で進行に詰まりやすいのが難点


概要

3DO末期に発売された、知る人ぞ知るRPG。
一流の料理人を目指す主人公が各地で料理をしながら冒険するという、あまり類例の無いテーマを扱った全年齢向けタイトルである。
発売・開発は、総合商社・日商岩井の子会社にあたるサラ・インターナショナル。企業参入数の多さに重きを置いた3DOらしい、ゲーム畑でない会社による参入作品であった。

当時はテレビ番組『料理の鉄人』ブームのさなかであり、今作もそのヒットに乗じる形で発売された。
監修には同番組の解説役としても知られる料理研究家・服部幸應氏を迎えている。
ちなみに氏はゲーム内で料理の守護神・ハットリとしてカメオ出演を果たしている。

あらすじ

時間と空間をこえたその昔、とあるところに飢えに苦しむ人々がいた。
人々は『デプリバ』という薬で苦しみから逃れようとした。
だが、このデプリバという薬、料理のおいしさを忘れさせ、料理をする気持さえ無くしてしまう、おそろしい薬だった。
そんな中、このグルマン王国を支配しようと企てる者があらわれる。
しかし、この悪巧みに闘いを挑んだのがおいしさを愛する『ロップ』族。
やがて、この長い料理大戦争はロップ族の勝利で幕を閉じ、ロップ族はこのいまわしいデプリバを封印したのだった…。
その後、グルマン国王のもと、『グルマン王国』はおいしい料理にあふれ長く平和な日々が続いたのであった。

時はながれある日、王国最高の位『グランシェフ』につきながらも、本当は料理のおいしさを憎んでいたジプシャの領主『エヴァ』。
ついにデプリバの封印を解いてしまった。
エヴァも再びデプリバで王国をわがものにしようとしたのであった。

その時、現れたのがこの世でたった一人のロップ族の末裔『ファル』。
チラベルト伯爵から「グルマン王国を救えるのはお前だけだ」と告げられる。
ファルは王国を救うため、そして新たな『グラン・シェフ』を目指してつらい料理の修行へと旅立つのであった…。

さあ、旅立て、『グルマン王国』が君を待っている!

(取扱説明書より引用)

  • このあらすじは、プレイ開始前に読んでおく事が推奨される。
    • オープニングはこれを既に見ている前提で駆け足気味に進むため、先に見ておくかとうかでストーリーへの没入感が変わってくる。

特徴

  • ゲームジャンルについて
    • 今作は、新ジャンル「クッキングファンタジーRPG」と銘打たれて発売された。
      • RPGを謳っているが、実際は「スローライフRPGに近い要素が盛り込まれた探索型アドベンチャーゲーム」と言った方が近い。
  • グラフィックにはフルCGを採用。
    • 3D空間を自由に動き回って冒険を進めていく。
  • 当時はまだ珍しかったフルボイスを採用。
    • ゲーム内のセリフは全て、プロの声優が読み上げる。
      • 読み上げはAボタンでスキップ、Cボタンでリピートが可能。後者はセリフを間違えて飛ばした際に有用である。
    • 参加声優はとにかく豪華。(以下、人数が多いため敬称略)
      • 主演の折笠愛や矢島晶子を筆頭に、山口勝平、緒方賢一など、誰もが一度は聞いたことがあるようなアニメ声優陣をことごとく揃えている。
      • 肝付健太とたてかべ和也がコンビで登場するという、狙ったとしか思えない配役も(後述のスタッフロールを見る限り、特別出演に近い扱いらしい)。
      • 後述するように、力の入ったキャスティングはゲーム内のある場面を盛り上げる一因にもなっている。
  • ゲームの進行
    • 物語の舞台は、忘却のかなたに消えゆく料理の国・グルマン王国。英雄の血を引くファルは王国を救うべく、最高料理人「グラン・シェフ」を目指して旅に出る。
      • ファルは各地の人物からシェフの位を授かるべく冒険するが、その旅路で悩める人に料理を振る舞い、料理人として成長していく。
    • 冒険のさなか、至るところで「指定された料理を調理するよう頼まれる」というイベントが入り、これをクリアするごとに物語が進行する。
      • 今作のシナリオは戦闘よりも、この料理イベントのクリアに重きが置かれている。
  • ステージをクリアするごとに、ファルに与えられたシェフのランクは一つずつアップしていく(アプランティ→コミ→シェフ・ド・パルティエ→スー・シェフ→グラン・シェフの順)。
    • この階級は実際のフランス料理のシェフのそれと全く同じもの。
      • 説明書には現実の各役職の詳細が書かれており、雰囲気作りに一役買っている。
      • なおゲーム内ではポケモンのジムバッジを授かる感覚でぽんぽん出世する。あくまで現実の位とは設定が異なる点に注意。
  • 世界設定は一般的な中世ファンタジーを彷彿とさせるが、一見するとバカゲーっぽい一面も。
    • 上記の通り、主人公はシェフを目指すという設定なのだが、作る料理はオールジャンル。のっけからほうれん草の胡麻和えに始まり、和風も中華も何でもあり。
      • この胡麻和えは一見すると簡単そうな料理だが、システムに慣れるまでは割と苦戦しがち。料理修行の道は厳しいのである。
  • 料理
    • それぞれの街で7回ほど発生する、ミニゲーム形式のイベント。
    • 街で出会った住人のために指定された料理を作り、制限時間内に完成させればクリアとなる。
    • 料理の前にはまず、「レシピの入手」と「材料集め」を済ませる必要がある。
      • 頼まれた料理の作り方は、必ずその場で伝えられるわけではない。場合によっては特定の場所を訪問し、レシピを入手しなければならない。
      • レシピとは別に、料理に必要な材料・調味料・道具を別途購入する必要がある。
      • 材料は消耗品だが、一度購入した調味料・道具はそれ以降ずっと使用可能である。
    • こうして必要な物を揃えて特定のキャラクターに話しかけると、料理が始まる。
  • 料理のルール
    • このミニゲームでは、プレイヤーが約10個のコマンドを次々と選択して、調理を進めていく。
      • 形式としては、往年のコマンド選択式アドベンチャーに近い。
    • プレイヤーの目的は、入手したレシピの手順に沿ってコマンドを次々入力し、料理を完成させること。制限時間内にレシピの全手順を終わらせれば、料理は完成となる。
    • 選択できるコマンドは「各材料」「調味料*1」「道具」「鍋」「コンロ」「水道」「アクション」。
      • 「アクション」は使用タイミングに応じて「鍋をかきまぜる」「材料をひっくり返す」などの動きを自動で判断し、実行してくれる。
    • コマンド入力後の細かい操作は、ファルが大まかに判断して行動してくれる。
      • 例えば包丁を使う手順の場合、「道具」コマンドを選択すればファルが自動で包丁を持ってくれる。使うべき道具を指示する必要は無い。
      • ただし材料・調味料に限り、どれを使うか具体的に選択する必要がある。調味料は分量も決める必要がある。
    • レシピは料理中いつでも確認可能だが、見てしまうと最終結果が減点されるため、できるだけ作り方を暗記しておくのが必須である。
    • 画面左上では、ファルを冒険に送り出した老人・チラベルト伯爵が料理の様子を見守っている。間違った手順を選ぶと伯爵から「ちがうぞ」とダメ出しを食らい、操作は取り消される。
      • このため、間違った手順のまま調理を進めてしまう事はない。
      • 数回間違えるごとにペナルティと扱われ、画面上部のゲージが減少する。
    • ペナルティが一定回数を超えるか、制限時間を過ぎてしまうと、調理失敗となる。料理はその場で中断され、消費した材料は戻らない。
      • 料理の再チャレンジは何度でも可能だが、そのたびに材料を集め直すか、補助アイテム「オタスケの鈴」を消費しなくてはならない。
  • 料理後のリザルト
    • レシピを見なかったかどうか、どれだけミスが少なかったかどうかに応じて採点が行われ、評価に応じて賞金がもらえる。
      • お金の単位は「ルカ」。各料理を作るのに必要な資金はおよそ2000ルカとなる。
    • 上手く作れないと500ルカしかもらえないが、上手く作れば2000ルカや5000ルカ、満点になると10000ルカをもらえる。
      • 賞金2000ルカは初見でギリギリ行けるか行けないかレベルの難易度。このラインに頑張って到達できるかが、攻略のポイントとなる。
  • 戦闘
    • シンボルエンカウント制。敵キャラに接触することで戦闘が始まる。
    • 戦闘システムは『ポケモン』に近いシンプルな内容。毎回ファルと敵との一対一で行われ、それぞれが交互に行動して進行する。
    • 戦闘のコマンドは「ATTACK」「SUMMON」「ESCAPE」のみ。
    • SUMMONを選択すると、それまで出会った仲間の一人をMP消費で召喚し、それぞれの能力を発揮させる。
      • HPを回復させる者、バフ効果を与える者など、発揮される効果は多彩。
    • ESCAPEを選択すると、一定確率で敵から逃げられる。
    • 敵味方ともに、攻撃をたまに外す事がある。
      • 命中率は互いのレベル差で決まる模様。
    • 勝利できれば経験値と賞金がもらえる。
      • 後述するように今作で唯一と言ってよい金策の手段なので、お金が足りない場合は積極的に戦闘を仕掛けることになる。
  • 実用ソフトとしても使用可能
    • ゲーム序盤をクリアするとレシピブックというアイテムが手に入り、タイトル画面経由で料理のレシピをいつでも確認できるようになる。
      • 閲覧できるのはゲーム内で作ったことのある料理と、このモードでのみ見られるレシピ11種類。
    • 各レシピは実際の料理に使用できる。

評価点

RPGの常識にとらわれない新鮮な体験

雰囲気こそ既存の中世ファンタジーRPGをなぞってはいるものの、ゲーム性は『ドラクエ』『FF』等とは全くの別物。
各地の悩める人々に美味しい料理を振る舞い、新たな物語を切り開いていくストーリーは、他のゲームではなかなか見られない。
RPGと銘打ってはいるが、強制戦闘のボス戦はごく一握りしかなく、戦闘やレベル上げは材料の資金を集める手段でしか無い。
あくまでファルの目標は、皆に「おいしい」という気持ちを思い出してもらう事である。

  • 料理を主軸にしたストーリーの魅力
    • ゲームの要所要所で立ち塞がる課題は、様々な住民にふるまう料理の完成。ファルは武力ではなく食の喜びで和解を図り、敵と味方の垣根を超えた人情味溢れる物語が展開される。
      • 流石に各地のボスとは戦闘を繰り広げる必要もあるのだが、それはあくまで旅の過程の一つに過ぎない。主人公のファルは美味しい料理を振る舞って和解する事からアプローチを試み、最後は食を通じて心を通わせることになる。
    • 戦いの要素は控えめに、人との繋がりに重きが置かれたRPGというのは先見性があり、今遊んでも斬新な楽しさが詰まっている。
      • 翌年の『moon』『マリーのアトリエ』といったアンチRPG、同年の『牧場物語』や5年後の『どうぶつの森』といったスローライフゲームなど、90年代後半頃からはRPGから戦闘要素を薄めた新しいゲームが送り出されていったが、今作はこれらの作品よりも先に作られていた。
  • 今作の魅力は育成や戦闘よりも、料理の成功体験に重きが置かれている。
    • プレイヤーの記憶力・推理力・料理センスを試すシステムは独自性が強く、普段のゲームでは見られない試行錯誤を要する。
      • 料理シーンは単純ながらもシステムに工夫がなされており、プレイヤーの頑張りに応じて報酬が大きくなる。始めたばかりの段階であれば、程よいゲームバランスに仕上がっているのが特徴。
    • 調理手順はゲーム内のレシピが元となるが、プレイヤーはその内容をある程度暗記する必要がある。
      • 作るイメージを頭に叩き込むので、遊んでいるだけで自然と食欲を刺激してくれるのが今作のミソ。プレイヤーの記憶力と料理知識が試される展開は、独特の楽しさが詰まっている。
    • 暗記と聞くと勉強のような敷居の高さを感じるかもしれないが、実際に遊んでみると現実の調理手順をなぞる事になり、作業チックになるわけではない。「完成までに何をすれば良いか」を考えると意外にすんなりと進められる。
    • それでも手順が思い出せない時、料理中にレシピを確認できるので、どうしても進めなくなるような事態は避けられている。
      • ただしレシピを見ると最後の報酬が減ってしまうので、好き放題カンニングできるわけではない。救済措置としてのバランスは最低限考えられている。
      • また料理シーンにはタイトな制限時間が設定されており、見ながら調理しようものならあっさりタイムオーバーになってしまう。あらかじめレシピを暗記しておくことで時間に余裕を持たせることができるため、こういう点でも暗記のメリットは大きい。
  • レシピの虫食い穴は料理クイズの様相を示していて、ゲーム性にメリハリを与えている。
    • この穴に対して空いている手順を推理する楽しみがあり、単調な暗記ゲーになるのが避けられている。
      • 行うべき手順は料理の内容や使われていない材料から十分推測可能。さながらクロスワードパズルのようで、敢えて確認せずに上手く作れると爽快である。
      • 料理の知識やセンスがある人、ゲーム内の料理を作った経験がある人ならば、殆ど穴を埋めずに解けるかもしれない。
    • この穴は街の住人に話しかければ埋めることが可能なので、無理して解く必要も無い。任意にバランス調整できるやりこみ要素として機能している。
      • ただし穴埋めのために聞き込み作業をするかどうかは任意で、プレイヤーが面倒に感じたら無理に歩き回る必要は無い。
      • ステージによってはヒントを聞ける相手が見つかりづらいため、敢えて無視してしまうのも手である。

独自の魅力を押さえたシナリオ・世界観

ぶっ飛んだゲームに見えて、シナリオや世界観の作り込みはなかなか丁寧。
NPCの会話を一つ一つ調べると、街や人物の意外な一面が掘り下げられたりもする。
それこそゲーム好きの子供から、日々料理に携わる大人まで、幅広いユーザーが楽しめるよう工夫されている。

  • 共感しやすいテーマ
    • 物語で一貫して描かれるテーマは「食の楽しさ」。劇中ではデプリバの副作用に侵された人物が次々と現れ、「何故食べる必要があるのかわからなくなった」「食べる楽しさを忘れてしまった」といった悩みが描かれる。
      • これらの悩みはテレビの前のプレイヤーもちょっとしたきっかけで抱きかねない、ふと考えさせられる素朴な悩みとなっている。
      • そんな悩める人達に向け、美味しい料理を振舞って打開に奮闘するファルの姿は、悩みの普遍さも相まって思わず応援したくなる一面がある。
  • テキストの質も悪くなく、キャラクターは皆生き生きとしている。
    • 優しいながらも要所要所で芯の強さを見せる主人公ファルを始め、登場人物の性格はそれなりに細かく描写されており、親しみを抱きやすい。
    • 惜しみなく有名声優を起用したお陰で、各キャラクターの言動には感情がこもっており、没入感を強めてくれる。
  • 勧善懲悪に終わらない、多彩な価値観の描写も今作の魅力。
    • ゲーム序盤では、エヴァ配下の強面の兵隊が様々な因縁をつけてファルに襲ってくる。一見するといかにも悪役然としているのだが、物語を進めていくと親しみやすくて善良な一面が見えていく。
      • 彼らも普通の住人と同じように食の悩みを抱えており、利害関係の垣根を超えた人情味あふれる物語が展開される。
      • 子供と共に敵地に忍び込むと「こんなところに子供を連れてくるんじゃない!」という言葉を浴びせるなど、根っからの悪人では無い一面をのぞかせるシーンも。
    • これは物語の序盤に過ぎないが、ゲームを進めるにつれて、他にも多様な価値観のぶつかり合いが描かれていく。
      • 例えば一見して悪にしか見えないデプリバの普及も「誰も食に文句を言わなくなる」「料理する時間がいらなくなる」など歪んだ正義として一部住民に受け入れられており、ふと考えさせられる側面も多い。
  • 「デプリバ」を軸にした世界設定も、単なる全年齢向けソフトにはとどまらない練りこみっぷり。大人が遊んでも意外な面白さを見出せる。
    • 敵の首領・エヴァはデプリバ普及のために各地で暗躍しているのだが、その作戦は妙に本格的。
      • 街で一番偉い聖職者を抱き込んで住民を洗脳したり、ヤクザを使役させてデプリバを使わない料理店に圧力をかけたりするなど、童話的な世界観にそぐわないガチっぷりを見せてくる。
      • この他にも「部下が裏切った時のため、警備を放棄したら通知されるよう仕向ける」「反乱を察知してファルの偽物を送り込む」など、何から何まで先手を打ってくる策士っぷりで、立ち向かいがいのある敵キャラに仕上がっている。
      • 親しみやすくも入念に考えられた世界観は、どことなく藤子・F・不二雄の児童漫画を彷彿とさせる。
    • そんな洗脳・圧力を巡って描かれるNPCの言動も多種多様。
      • デプリバは盲信する敬虔な信者がいると思えば、デプリバを拒否したばかりに営業停止されて葛藤する料理人、逆に反デプリバの意思を示すなり菜切包丁で襲いかかってくる狂信者などがおり、人物描写はバラエティ豊か。
  • その中でも、最後に訪れる街・ジプシャはとりわけ印象的である。
+ 軽いネタバレ注意
  • この街の住民は栄養剤しか食べない歪な文化が広まっており、どことなく不気味な空気が漂っている。
    • 「料理は時間がかかるだけ」「栄養さえ取れれば良い」という、文明社会の悪い部分を凝縮した街になっており、NPCに一人一人会話を聞くと様々な闇が垣間見える。元気がなさそうな声で「自分は幸せだ」と言う男がいたり、物を噛まなくなったせいで歯が弱くなった子供が出てきたり……
    • これまでの街とは違い、食材を置く店は1件しか無い。それ以外の建物は全て栄養剤を自動で販売するのみ。どこに入っても中々食べ物が手に入らないのは、えも言えぬ無機質さがある。
    • この思想が激化した末、絶食を奨励するようになった過激なカルト団体の建物まである始末(物語の本筋には関わらない)。
  • それまでの街とは打って変わって、機械文明が広がっているのも特徴の一つ。終盤にはアンドロイドが敵として登場するが、それまでの世界観と異なる生命感の無いデザインはちょっと不気味。
    • 前後ではストーリー展開も大きく動き、印象に残りやすい。
  • こうした不気味な街の様子は、ラスボスが悪の道に堕ちた動機へとすんなり繋がるようになっている。
    • それまで散々主人公の道を阻んできた黒幕だが、この街を見た後では少し同情できてしまうかもしれない……
  • この最後の街をはじめ、時折ブラックな描写を覗かせるファミリー作品が好きな人ならば、今作は刺さる要素が中々多い。
    • やたら酒に溺れている大人が出てきたり、追加料金をせびってくるバーのお姉さんから情報を聞き出したりと、大人が突っ込みたくなるようなシュールさも今作の特徴である。

食の魅力を押し出した作風

  • 今作のレシピは専門家監修のもと、全てが実際の料理で使用可能となっている。
    • 一見すると些細な長所に見えるかもしれないが、今作では攻略にあたってレシピの一挙一動を頭の中に叩き込むため、現実の料理を想起することになり、独特な没入感がある。
      • 例えば「にぎりめし」という単純明解なメニューであっても、美味しく作るための米の研ぎ方が詳細に定められており、「握る前に塩を手に塗っておく」といった工夫も事細かに言及されている。
      • 普通にゲームを攻略しているだけで厨房の細かな情景が思い浮かび、遊ぶだけでお腹が空いてくるその作り込みは、料理題材のゲームとして間違いなく大きな評価点である。
  • 料理を巡る描写の数々も見所の一つ。
    • 調理後のリザルト画面やその後のストーリーにおいて、料理を出された相手は美味しそうに感想を述べてくれる。いわゆる食レポの様相を示しており、傍から見ているプレイヤーまで食欲をそそられる困ったシーンとなっている。
+ 劇中の感想の一例。夜中に見ない方が良いかも

「なんだ?そ、そうか!これが『美味い』ってことなのか!
まさかあんたの作ったサバのホイル焼きで『おいしさ』を取り戻したのか?」

「お味はいかがでしたか?」

「美味かったよぉ。サバに脂が乗ってて最高だったよ。
なんだか知らんが、取りつかれたようにコイツを食いたかったんだ。
『おいしさに飢えていた』…とでも言うのか?」

  • 人気声優・ベテラン声優を一通り揃えているだけあり、登場人物の食事シーンには感情が強くこもっている。上記のテキストも、読むだけでなく実際に聞く方が食欲をそそるかもしれない。
    • プレイヤーは主人公ファルと共に美味しい料理を作り、お客さんに振舞っていくが、その際に「美味しさ」を思い出して大喜びする人々、一緒になって無邪気に喜ぶファルの姿は、平和で微笑ましいところがある。
    • 中世ファンタジーの世界で「にぎりめし」「あさりの味噌汁」が出てくるのはバカゲーっぽくも見えてしまうが、誰もが食べたことのある日本のソウルフードは親しみを感じやすく、登場人物へ感情移入しやすくなっている。
  • このリザルト画面では、完成した料理の実写映像(静止画)がアップで表示される。美味しそうに撮影されているので必見である。
    • 今作発売時にはすっかり優位性が薄れていたが、3DO本来のアピールポイントであった映像美が遺憾無く発揮されている。
  • 実用ソフトとしても優秀。
    • 攻略のためには詳細な工夫を含めた手順をしっかり記憶する必要があるため、ゲームを楽しみながら自然に料理を覚える事ができる。
      • 自炊の機会が多いプレイヤーならば、作中のレシピを実際に試したくなること請け合い。
    • 入手したレシピはタイトル画面からいつでも確認できるので、実際にメモして活用しても良い。
    • 元々3DOは実用ソフトの分野にも手を広げていたハードだが、今作はその原点に立ち返りつつゲーム性も担保されている。
      • 没入感や映像美といい、ハード末期にしてそのテーマを追求した作品と言えるかもしれない。
    • 今でこそ実用的なレシピ収録ソフトは他にもあるが(『しゃべる!DSお料理ナビ』など)、攻略のために四苦八苦した料理を自分の手で作れる魅力は、他のゲームで決して味わえない。
      • 何か自炊をするきっかけが欲しい人にも、このゲームはおすすめできる。
  • 実際の調理の上で参考になる描写も多い。
    • 先述したおにぎりの作り方もその一つだが、他には「ゆで卵を茹でる際に酢を入れる」といった工夫*2も細かく説明されている。一見レシピが不要そうな料理でも、そういう見落としがちなテクニックを色々と知る事ができる。
    • ゲーム後半では、ある意外な道具を使って「漬け物」を作るエピソードも。
      • 料理に詳しい人なら常識かもしれない*3が、このゲームで初めて知って驚いたプレイヤーもいるかもしれない。

その他の評価点

  • こう見えてボリュームが多い。
    • 実用ソフトと聞くとこぢんまりした印象を抱きがちだが、実際のクリアまでに想定されるプレイ時間は30時間前後と結構多め。
      • 料理をどれだけ上手く成功させるか、後述のマッピングを使用するかどうかにも左右されるが、一本のゲームソフトとしてはボリュームたっぷり遊ぶことができる。

問題点

RPGらしい戦略性が無い

何度か書いてきたように、今作の方向性はRPGよりもADVに近い。
今作の進行はプレイヤーの単純な暗記力に重きが置かれており、ゲームならではの駆け引きや自由度を求めるには不向きな仕上がりとなっている。

  • 攻略手順はあるステージを除き一本道で、ストーリー進行の自由度はない。
    • レシピは一度に一つしか持つ事が出来ず、好きな料理から作っていくことは基本的にできない。
  • ゲーム性はほぼ「おつかいゲー」で、進行に関わる場所を次々と訪れる単純な構成となっている。
    • 1本道で進むADVと捉えればさほど問題は無く、どこを訪問して物語が進行するか推理する楽しさはあるものの、そうしたゲームに面白さを見出せないプレイヤーにはおすすめできない。
  • 材料や道具の調達に金策を求められる要素はあるものの、その手段は「雑魚敵を狩る」「余った材料を売る」といったものだけ。
    • 後者は購入時の費用で赤字にしかならないため、ほぼ前者一択である。
    • 手持ち無沙汰な調味料や道具を売る事は不可能。一度手に入れたら捨てることはできず、質屋のように一時的な資金を確保する事は出来ない。
    • お金が無いときはひたすら戦闘を繰り返すことになるため、コツコツと資源や素材を回収するのが苦手なプレイヤーには向かないゲーム展開となる。
      • 引き合いに出したスローライフRPGではおおむね多彩な金策が用意されているが、この点においては自由度の面で劣っている。
  • 2面の途中までは回復アイテムの調達でお金の管理がものを言うのだが、そのゲーム性もゴブリンという仲間が加入してから崩壊してしまう。
    • ゴブリンの能力を簡単に言うと、MPを6消費して20近いMPを回復させられるというもの。ケアレスミスをしない限り、決してMPが尽きなくなってしまう。
      • しかもHPはMP消費で回復できるため、ゴブリンに頼れば回復用のアイテムが一切いらなくなり、戦闘バランスが崩壊する。
      • 今作は金策が限られている都合、ゴブリンがいないと詰む可能性もあるのだが、いくらなんでもやりすぎなのが否めない。
  • さらなるバランス崩壊の要因に、賞金のインフレも挙げられる。
    • このゲームでは全部で36種の料理を作る事になるが、満点を取った際にもらえる賞金は料理5つ分の材料を買えるほどの大金で、慣れてくるとそれなりに取れてしまう。
    • このため一度満点を取ると金策の機会がめっきり減り、さらに戦略性が失われてしまう。
    • 2周目にもなると大抵の調理手順をなんとなく把握したうえて遊べるため、余裕でお金が余ってしまう。

調理シーンの仕様が粗い

正解となる選択肢の設定が雑で、トライアンドエラー必須の死にゲーとなっている。

  • レシピからは明らかに推理できない手順が高頻度で含まれており、正しい行動を取ったつもりでも「ちがうぞ」と切り捨てられることが多い。
    • それなりの高得点を取るだけならプレイヤーの努力がダイレクトに反映されるので、普通に遊ぶだけならかろうじてバランスは保たれている。しかし満点を取ろうとすると理不尽ゲーへと早変わりする。
    • ある程度プレイして、このゲーム特有の"不文律"を覚えていく必要がある。
+ 詳細
  • 食材や調味料を同時に投入する場合、レシピでの指定が特に無くても、決められた順番通りに入れなければ怒られてしまう。
    • 現実にも「調味料は"さしすせそ"の順に入れる」などの決まりごとはあるが、今作ではそうしたルールと無関係に順番が決まっていて、レシピから推測する事が出来ない。
    • それどころか、レシピに書いてある順番で入れたら怒られる事もしばしば。
  • 調理道具関連もややこしい。
    • 今作では「鍋」「道具」のカテゴリが別々に用意されているが、何故かフライパンは前者で、鉄板は後者。鉄板を取ろうとして「ちがうぞ」される事故が発生する。
      • お好み焼きを作る際に面食らったプレイヤーは多いと思われる。
    • 何か物を切る場合、食材を出す前に包丁を持たなければ減点される。
      • おそらく初めのうちは頻繁にやらかすであろうミス。
    • かと思うと「おろし金で山芋を摩り下ろす」という手順では、なぜか道具ではなく山芋を選択しないといけない。
      • ちなみにこれもお好み焼き調理時の手順のひとつ。二重にプレイヤーを苦しめてくる難関地点として立ちふさがる。
    • 鬼門の一つが菜箸。「○○をかきまぜる」などの手順で必要になるが、レシピでは大抵省略されているので、使うタイミングを自力で推測しなければならない。
      • 手でかき混ぜられそうな料理も道具を求められたりと、判別が難しい。
      • レシピに菜箸が書かれていないのに、実際の調理で使わされる理不尽なパターンも……
  • コンロも中々の鬼門で、使い終わったらいちいち火を止めないと先に進めない。「火の用心」という事なのだろうか……
    • しかもこの工程はレシピには書かれておらず、慣れるまでは頻繁に見落としがち。
      • これが原因で、初料理の「ほうれん草の胡麻和え」では、地味ながらも最難関ポイントとして立ち塞がる。
    • 火を消す手順は、例え料理のラストであっても必要とされる(一部を除く)。
      • 全ての手順が終わって安堵する中、何故か採点に移らずパニックになり、無関係な操作から大量減点されてしまう事も……
  • こうした重要な仕様の多くは説明書必読な上、書かれている場所が散逸している。ゲーム内では一切説明が無く、少々わかりづらい。
    • 重要な仕様というのは、「レシピを読むと減点」「薄く色を塗られた手順はカットされる」「コンロを消さないと先に進めない」「調味料は順番通りに入れないと進めない」など。
    • 今作の説明書では、一番最初に作る「ほうれん草の胡麻和え」の具体的な解答が書かれており、自力で遊びたい人は思わず読み飛ばすページとなっている。
      • しかし実際は上記に挙げた仕様のいくつかがここに書かれており、見落とすと理不尽に減点される罠がある。
      • この解答ページは仕様の不明点を埋める要素となっており、一度読んでおいた方が良い。
      • これから中古で遊ぶプレイヤーは、説明書付きのソフトを購入する事が推奨される。
  • スタッフが設定を間違えたのか、一部のレシピでは書いてある通りに調理を行うと減点扱いになる。
    • 分量の設定ミスがあらゆる料理に点在し、スキップ可能とされている手順をやらされる事もある。
  • 誤植とは少し異なるが、「唐揚げの油を強火で温め続ける」という不自然な操作を要求されるシーンも(一般的には中火を使う事が多い)*4。調理経験者は要注意。
    • ただし「最初は強火で外側を温め、すぐ中火に落とす」という唐揚げの調理法は存在しており、全くの間違いというわけでは無い。このゲームでは中火に落とす手順が省略されているとも解釈できる。

街が広すぎる上に迷いやすい

  • 今作では街中の建物に看板が無く、入ってみるまで何の施設か全く判別できない。
    • ゲームを中断するのに必要なセーブポイントすら、見つけるのもままならない。
    • それでいて大きめの街には建物が40近くあり、全ての施設を一通り見るだけで30分から1時間はかかる。
      • 普通のRPGなら多くても十数件程度なのに、この量は尋常ではない。
      • 必須では無いものの、マッピングしておかないと攻略が面倒になる前時代的なシステムに陥っている。
    • 処理落ちの酷さと場面転換のロード時間がテンポを悪化させるため、うろ覚えで各施設を探し回るプレイングは苦行を強いられる。
  • 幸いマップ機能も搭載されているが、判別できるのは料理開始に必要なアイテムがある店だけで、攻略上寄るべき他の建物は判別できない。しかも表示が色々と間違っている。
    • マップでは店の場所がオレンジ色で塗られているのだが、ゲーム内はおろか説明書にもその説明が無い。その上に不備があるせいで意味を理解し辛く、街中の建物にあてもなく立ち寄って時間を浪費する原因になる。
    • 具体的には、ロップ村(1面)とロマニアン(2面)では、料理と関係ない建物が店として扱われており、殆どの街ではマップに印の無い店がある。
      • 実は印の付いていない店は他所で買えるものしか売っておらず、立ち寄らなくても攻略には関係ない。しかし一切の説明無しでそれを理解しろというのは無理がある。
  • 特に4つ目の街・シノワはマッピングしないと面倒な事になる。
    • 一部の建物は入っただけで即座に戦闘が発生してしまう。
      • 記憶を頼りにあてもなく様々な建物に入ろうものなら、酷く時間を浪費する羽目に。
    • 後述の通り、街中に点在する鍵付きの建物を覚えていないと、痛い目を見る。

バグ・設定ミスが多い

今作で特に問題視されている要素。
まともにデバッグする時間が無かったのか、普通に遊ぶだけで気付くようなバグが平然と放置されている(ここまで挙げてきたレシピ・マップのミスもその一端)。
中には進行困難に陥る物もあり、見過ごせない難点となっている。

  • まず一番悪質で厄介なのが料理可能フラグ入れ替わりバグ
    • 一部の料理は、調理イベント開始に必要な調味料・道具のフラグが別の物と入れ替わっている。レシピ画面で未入手扱いなっている物を買っても揃えた扱いにならず、ゲームを進められなくなってしまう。
      • それでいてバグ再現率はおそらく100%。
    • 対処法は、その場で調味料を手当たり次第に買い揃えること。近くに売っている物が代わりのアイテムに設定されているため、適当に買い占めればバグを突破できる。
      • そのせいでスタッフが見落としてしまったのだろうか……
    • 回避方法を知ってしまえば問題無いのだが、初見では突破方法に気付き辛く、最悪の場合はそこで攻略を諦める羽目になる。
      • 進行不能バグに近い悪質さなので、これからプレイする際は要注意である。
  • 牛乳の値段設定が明らかに間違っており、凄まじい暴騰を起こしている。
    • 現実の牛乳は1000ccのパックを手頃な値段で求められるが、このゲームでは10ccあたりの値段が野菜と同じになっており、プリンを7つを作るために普通の料理の5倍の費用がかかってしまう。この世界の乳牛は絶滅寸前に追い込まれているのだろうか……
      • 普通の料理の5倍の値段というと、頑張って満点調理に成功した際の賞金が丸ごとふっとんでしまうほど。
    • ゲーム内では10cc単位で購入できる調味料が多い為、このようなミスが生じたと思われる。
    • この資金を調達するにはいずれかの料理で満点を取っておかないとキツく、ぼったくりにも程がある。
      • 幸い、この少し前に作る「ゆで卵」が初見満点クリアも余裕なのが救いだろうか。
  • 2面・ロマニアンで特定の場所に立つと、会話内容のバグった強制戦闘イベントが発生し、そのまま先に進めなくなる。
    • セーブしていなかった場合は悲惨なことに。
    • ボス弱体化イベントを消化していればきちんと倒せるが、イベント開始にともなって壁の中に閉じ込められるため、そこから進行不能になる。
    • ロマニアンのクリア直前になると、なぜかこのイベントは発生しなくなる。
  • 登場人物の言動の一部について、物語との整合性が取れていない。今作はフルボイスを採用しているため、シナリオの変更に対して柔軟な対応ができなかったものと思われる。
    • 物語を進めてもNPCの会話が殆ど更新されない。
      • 街に平和を取り戻しても敵対したままのセリフを放ったり、既に解決したイベントのヒントを与えてくる事がザラにある。
    • ロマニアン(2面)の最初の料理シーンでは、まだ登場していないはずのキャラクターが料理を食べ、感想を語り始める。*5
    • 同じく「銅像に聖水をかけると扉が開く」というヒントがもらえる場所があるのだが、該当の場所には銅像など無いので混乱の元に。
      • ただし聖水を入手してそれらしき場所に立ち入ることでゲームは進行する。
    • 中でも厄介なのがシノワ(4面)中盤。あるイベントをこなすと「ピラミッド周辺で働き手を募集している」というヒントをもらえるのだが、この指示に従って周辺を散策しても一切イベントは発生しない。ひどい罠である。
      • しかもこの時点で得られる進行のヒントが他に殆ど無く、プレイヤーによっては攻略を断念する要因になる。
      • 今作最大の難所は、先述したレシピフラグ設定ミスと、この誘導ミスの2点に集約されていると言っても過言では無い。
+ ここで次に行うべき行動(攻略のネタバレ注意)
  • このイベントの次にやるべき事は、それまで鍵がかかっていた建物(全5件)に入り、料理のレシピをもらう事である。
  • 一度に入れるのは一件のみ(レシピ入手中は鍵がかかって入れなくなる)。焼肉のレシピを手に入れたらコロシアム、それ以外は屋敷周辺の監禁部屋に行くことで、ゲームが進行する。
  • この行動を示すヒントは何処にもない。元々入れなかった建物に攻略のヒントがあるというのはなかなかに厄介である。
  • 例によって街にはやたら多くの建物があるため、マッピングしていなければここで容易に詰んでしまう。
  • 終盤は特に多くのバグが残されている。
    • 上述した会話設定のミスが多い。
      • 初めてもいない試験の料理のコツを教えられてネタバレを食らう場面も。
    • ある会話イベントでは音声が全く再生されず、会話時の顔グラフィックの欄に戦闘時の斬撃エフェクトが表示される。
    • 一部の場所ではファルの横に妖精チョミラが表示されたまま消えなくなり、移動の邪魔になる。
    • 極め付きはラストシーン。いよいよこれから大団円というタイミングでエンディングが始まらず、タイトル画面に戻されてしまう。

その他の問題点

  • 会話シーンにおいて、テキストは一切表示されない。
    • 毎回いちいちボイスを聞く必要があり、少しテンポが悪い。
    • Cボタンによるリピート機能を知っておかないと、聞き逃した時に面倒なことになる。
  • 3Dゲーム黎明期という事もあり、フィールドの操作性が悪い。
    • 操作形態は、当時のFPSやラジコン操作ADVの物を採用している。
      • 方向キーの左右を押しても旋回するだけで移動できず、柔軟に動くのが難しい。慣れるまでは苦労を強いられる。
  • 移動時の処理落ちが激しい。
    • 画面内に建物が映るほど露骨に移動が遅くなり、テンポの悪さを感じさせる。
      • ポリゴンが絡むと処理が遅くなるのは3DOソフト全般の特徴で、ハード末期に出た本作も改善しきれなかったようだ。
    • もし急いで歩こうとする場合、ファルを壁に向けながら全力でカニ歩きをするというRTAばりの奇行が最速となる*7。ちょっとシュール?
  • RPGとしてのUIに所々難がある。
    • 戦闘で敵に与えたダメージを知る手段が一切存在しない。
      • どれだけ攻撃が効いたのかわからないため、成長の楽しさや大技を打つ爽快感が薄れてしまっている。
    • 召喚によって発生するバフ、攻撃力の変化などの効果も可視化されない。
      • 性能を知るには様々な行動を試さなければならない。かなりストイックな仕様となっている。
  • 終盤が色々と投げっぱなし
    • 劇中、思わせぶりな伏線や説明の無い設定がいくつか出てくるのだが、これらに関して触れられる事はない。
    • なぜゲーム冒頭で伯爵の部下がファルを突き放したのか、なぜヒロインが1人で暗躍していたのか、行く先々で助けてくれる魚売りの正体は何なのか等々、含みを持たせる描き方がされていながら、詳細は明かされない。
      • ヒロインは説明書でメインキャラのように書かれているにもかかわらず、実際は物語にほとんど関わっていない。
    • 劇中には取り返しのつかない失態を犯した人物もいるのだが、その後どうやって償っていったかも描写されない。
    • 特に目につくのは最後の仲間となるアンドロイド。
      • 「デプリバのせいで父親が失職し、機械に魂を移植してもらった」と説明があり、見るからに人間性も損なわれているのだが、その壮絶な背景はほとんど掘り下げられない。
      • 周囲の登場人物も深入りする様子が無く、物語が省略されているかのような端折りぶりとなっている。
    • 各キャラクターの後日談の類もなく、最低限の物語を描いて唐突に終わるため、エンディングの件と合わせて尻すぼみになってしまっている。
  • セーブデータのUIが『聖剣伝説3』方式。デフォルト位置がファイル1固定で、確認無しにセーブができてしまうため、誤削除を引き起こしやすい。
    • 家族で遊べるゲームかつ、実用的なレシピを確認できるゲームなので、間違って身内のデータを消さないように要注意。大事なデータは別売りのメモリーユニットに退避させておこう。

総評

新ジャンル「クッキングファンタジーRPG」として送り出された今作は、そのオリジナリティに恥じない唯一無二のシステムに仕上がっている。
ハード末期にひっそり出された作品でありながら、印象に残ったゲームとして語るプレイヤーは決して少なくない。

今作は従来のRPGとは違った魅力が売りとなっており、育成や戦闘はそれほど重視されていない。
大きなポイントとなるのは、食を中心に据えた人情味溢れるストーリーと、料理ミニゲームの没入感。
一国の存亡をかけた冒険のさなか、悩める人に美味しい料理を振舞って旅する不思議な物語には、この作品だけの温もりがある。誰もが感じられる食の楽しさがゲームへ落とし込まれており、老若男女を問わず幅広い層がターゲットとなっている。

進行に支障をきたす粗が多く、RPGならではの戦略性が薄いのが難点だが、普通のJRPGでは見られない独特の味わいが詰まっているだけに、避けてしまうのも勿体ない。
料理が好きな人はもちろんのこと、『MOTHER』『ペーパーマリオRPG』のような"黒い任天堂"ライクの全年齢ゲームが好きな人、ラブデリック系やスローライフ系のように戦闘薄めの温かなゲームが好きな人、そして3DOでしか遊べないソフトを徹底的に遊び尽くしたい人ならば、きっと新しい楽しさに出会える一作である。
たとえ料理に触れない人であっても、このゲームを遊んだ後は思わず自炊をしてみたくなるかも……?


余談

  • 2013年に入り、本来流れるはずだったエンディングとされる映像がニコニコ動画にアップロードされた。
    • 投稿者のSUM氏曰く、中の人(スタッフ?)からもらった貴重な映像とのこと。
+ 詳細

  • 内容は、オルゴールから12人のキャラが飛び出し、綺麗な音色とともにスタッフロールが流れるというもの。
    • 飛び出すキャラクターは、作中の重要アイテムに導かれた12人の勇者たち。
    • 童話的な世界観を彩っており、実際のゲームで気軽に見られないのが勿体ない。
  • 未完成品だったのか、途中の画面切り替え時にノイズが入っている。
  • 数名を除く声優陣は名前のみの公表に留まり、どの役を具体的に担当したかは明かされていない。
  • 残念ながらこの映像で見られるのはスタッフロールのみで、ストーリーを補完するようなエンディングムービーは無い。
    • 本来想定されていたであろう後日談がいかなるものであったか、関係者が現れない限りは詳細不明である。
  • 本来は少し早く96年2月に発売予定だった模様(ソース)。
    • 予定されていた価格も、実際の製品より少しだけ安い。
    • 延期したにもかかわらずゲーム終盤が粗い本作だが、3DOがほぼ終息に向かっていたため再延期の余地はなかったのかもしれない。
      • 開発期間の足りなさが垣間見える要因はバグの多さだけでなく、劇中に無い料理がレシピブックに収録されている点も挙げられる。ここで見られる料理は和食とフレンチに偏っており、本来はこれらを作るイベントも予定されていたものと思われる。
  • 上記ソースでは「料理をテーマとした初のコンピュータRPG」と紹介されているが、実際は92年の『ひとりでできるもん! ~クッキング伝説~』が先に該当しており、史上初では無い。
    • ちなみにRPG以外のジャンルであれば『もと子ちゃんのワンダーキッチン』(93年、ADV)、『美食戦隊 薔薇野郎』(95年、ACT)が先駆けて登場している。
      • この点を踏まえて「RPG」という括りにしたのかもしれないが、ゲームの世界は広すぎたようだ。
    • この他、97年発売の『PAL-神犬伝説-』(ゲーム内に料理システムあり)はパッケージ等の著作権表示が95年としてクレジットされており、僅差で先を越す可能性があった。
  • 当初は年内にプレイステーションへの移植も予定されていた(ソース)。
    • 当時は『FF7』のPS発売が決まった直後で、様々なメーカーが参入に名乗りを上げていた事で知られている。
    • しかし残念ながら、この移植が実現することは無かった。
      • 今作は開発期間の足りなさを感じさせる部分が多く、バグの多さで損をしている面もあるため、作り直す機会が生まれなかったのは大変悔やまれる。
    • なお元ソースではこのゲームを話題作として扱っているが、ゲームに疎い(というか明らかに偏見を抱いている)記者が大げさに書いたと見られるため、信憑性に関しては注意が必要である*8
  • 開発元であるサラ・インターナショナルの活動は、その後確認されておらず、謎が多い。
    • 帝国データバンクには会社の情報(企業名と所在地のみ)が残っているが、現在は何をしているのか全くの謎である。
    • それだけ無名な企業の単発作品でありながら、今作は豪華スタッフを惜しみなく起用し、クオリティの高いオープニングムービーも作られている。力の入った企画だったのは間違いなかったようで、次作を作る機会が無かったのは何とも悔やまれる。
    • 今作以前の活動としては、『ドラゴン・タイクーン"エッジ"』というRPGを発売した事が確認されている。

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RPG 3DO 1996年
最終更新:2022年10月14日 08:48

*1 ゲーム内での表記は「チョミラ」。物語序盤でファルと出会う妖精で、料理イベントで調味料を入れるお手伝いをしてくれる。

*2 ゲーム内での解説は特に無いが、この手順を踏むと皮を剥きやすくなる事で知られている。

*3 2022年現在、ネット検索を行うと同様のレシピを数多く確認することができ、この調理法を想定した保存容器も販売されているほど。

*4 強火で衣を固めてしまうと中まで火が通らない事がある。それどころか場合によっては火事の原因になることもあり、実際の揚げ物は中火を使うのが一般的である。このゲームのレシピでは火加減の指定がないため、同じケースの手順同様に強火として設定されていると思われる。

*5 単に先行して登場した可能性もあるが、このシーンの料理はデプリバが混入しており、後のシーンと矛盾をきたしている(ここで料理を食べたキャラはデプリバ反対派で、少しでもデプリバが入っていたら糾弾する旨を主人公に伝えている)。

*6 下記のエンディング動画では「昔見て感動した」という旨のコメントがある。

*7 今作の移動は通常の歩行に比べ、何故かLRボタンによる左右平行移動の方が速く動けるよう設定されている。

*8 よく見ると「ひそかな話題」「兆しを見せている」「声も聞かれる」と保険をかける表現を多用しており、数値的なデータは一切書かれていない。