PAL-神犬伝説-

【ぱる しんけんでんせつ】

ジャンル RPG
対応機種 プレイステーション
発売元 東北新社
開発元 フィルインカフェ
東北新社
東映ビデオ
東映東京撮影所
発売日 1997年4月25日
定価 6,800円
プレイ人数 1人
廉価版 PlayStation the Best
1998年6月25日/2,800円
判定 バカゲー
賛否両論
ゲームバランスが不安定
ポイント 東映特撮スタッフ揃い踏みのRPG
刺さる人にはとことん刺さるシナリオ
ゲームの作りがかなり粗く、人を選ぶ
PS1有数の凶悪ラスボス
売り文句のせいでガッカリゲー扱いを招いた



英雄になった今も、うれしいと、
尻尾を振ってしまう私であった。



概要

1997年に東映ビデオにより開発されたRPG。
作品名はパッケージとジャケット側面で表記揺れしているが、本記事はPS Storeに合わせてジャケット側面の作品名を表記する。
読み仮名のソースは説明書より。

本作はちょっと変わった現代日本を舞台に、人間の姿を手に入れた子犬パルが一人の少女を救うべく奮闘する物語である。
開発には、東映特撮のスタッフが数多く参加している。

「100時間遊べるRPG」を売り文句に発売された本作だが、様々な問題が足を引っ張り「音楽以外はクソゲー」と評する声が多く挙がっている。
反面、プレイヤーによってはゲームの粗を補うくらいにシナリオが刺さり、「ラスボスは酷いけど良ゲー」と高く評価する声もまた存在する。
PS1のRPGの中でも、特に賛否が真っ二つに分かれる一作である。


スタッフ

  • 演出やデザイン監督を務めたのは雨宮慶太氏。
  • オリジナルストーリーを手掛けたのは、混沌としたコメディ脚本に定評がある脚本家・浦沢義雄氏。
    • 代表作は『東映不思議コメディシリーズ』、『激走戦隊カーレンジャー』、アニメ版『忍たま乱太郎』など。
    • ゲーム作品では、本作以前に『TIZ -Tokyo Insect Zoo-』の世界設定を手がけている。
  • キャラクターデザインは篠原保氏と阿部統氏が担当。
    • 二方とも、『スーパー戦隊シリーズ』の怪人デザインを長年にわたり務めている。
  • BGMを手がけたのはベーシストの後藤次利氏。彼だけは東映特撮との接点がそこまで無い。

あらすじ

舞台は現代の日本。
連邦政府の任命により、世界は「ノストラダムス委員会」が実権を握っていた。
組織の長であるノストラダムスは、世界の存亡を担う一人の少女カオルを誘拐し、自らの手の内に呼び寄せる。

カオルの元には、彼女の愛に包まれた子犬パルがいた。
神様から力を授かったパルは人間の姿を手に入れ、少女を救うための大冒険に旅立つ。


特徴

  • 戦闘システム
    • パーティメンバーは最大4人。
    • ターン開始時は各メンバーに好きな順番でコマンドを指示し、入力順番に応じて攻撃が行われる。
    • 相手の素早さに応じて、敵味方の攻撃順序も変化する。
    • コマンドは通常攻撃と術攻撃の2つがある。
      • 術攻撃は6つの属性に分かれており、全ての敵もまた何らかの属性を持っている。それぞれの属性には、対応する弱点・耐性が存在する。
      • パル以外のパーティメンバーにも属性は存在し、各地の神社に行けば属性を変更できる。
    • メンバーの一人ユキトだけは術の代わりに料理コマンドが使用可能。
      • 豊富なアイテムの中から材料となるものを消費して料理を作り、仲間を回復したり料理を投げて攻撃したりする。
    • 時にはオート戦闘でスポット参戦する仲間も登場する。
  • 育成
    • ユキト以外のパーティは全6個の巻物から2つを装備できる。これは別作品で言うと『ファイナルファンタジーVI』の魔石や『同IX』の装備品に近いもの。
    • 装備可能なメンバーは6属性の「術」が使えるのだが、巻物を装備している間だけ術のレベルが1上がる。レベルが上がるほど攻撃は強い。
      • パル以外のメンバーの技はレベル0から始まり、この時は術を全く使えない。
    • 巻物使用中に一定回数技を使うと、そのレベルの技を習得する(最大でレベル3まで上昇)。
      • 覚えたレベルの技は巻物が無くても使えるが、その場合はどれだけ使ってもレベルは上がらない。
    • またゲームを進めると特殊なバフ効果を持つ「特殊術」が使えるようになる。
  • パーティメンバー
    • パル
      • 主人公。修行を乗り越えた事により、全ての属性を持ち全ての技が使える。
    • 貧乏神
      • パルのお供として山の神とともに派遣された、ちょっと小汚いおっさん。調子は軽いが、意外と他人思いな一面がある。通常攻撃より術の方が強い。
    • 山の神
      • 大きくて力持ちのおばさん。貧乏神の旦那でかかあ天下。パルの事を自分の息子のように慕ってくれる。貧乏神とは逆に通常攻撃の威力が高め。
    • ユキト
      • カオルと恋仲にある同級生。彼女が拐われた事を知り、紆余曲折のすえ旅に同行する。神では無いので術は使えないが、戦闘中は料理を作って仲間たちをサポートする。

評価点

  • 後述するごった煮のような世界観とは裏腹に、シナリオ面の作り込みは間違いなく本物である。
    • 世界観の許容が大前提となるが、刺さったプレイヤーからのシナリオの評価は高い。
    • カオルには好きな男の子がいて、犬のパルが頑張ったところで振り向いてもらえるわけではない。単に女の子を救うだけの冒険譚では終わらず、その過程では人間と相容れないパルの葛藤が描かれていく。
    • 構成もあざやかで、賛否両論で挙げるような「雑な展開」一辺倒では決して無い。終盤の展開は多くの人物の思いがぶつかり合い、世界観を受け入れられたプレイヤーにとって大きな感動が待っている。
      • 中盤で「真の勇者では無い」とされたパル達が終盤でそれを覆す行動を取っていたり、エンディングを見るころには忘れているような場面が後々重要な意味を持っていたりと、伏線の仕込みと回収は巧みに行われる。特にゲーム終盤のとある戦闘シーンは、BGMも場所も相まって堪えるものがある。
      • 本作を調べる際は様々な理由により、ネタバレに要注意である。
    • 監督の雨宮氏・脚本の浦沢氏の作風はいずれもゲームに強く出ており、両者のファンならば要チェック。
      • 試練と向き合うパルの姿は、雨宮氏が後に制作した『GARO』を引き合いに出す声もある。
      • 浦沢脚本定番の石や物を投げてくる大衆*1もしっかり登場。
      • 方や壮大なファンタジーやシリアスなヒーロー作品を手がける監督で、方や人間味全開のスラップスティック物が得意な作家。両者の作風は相反する物でありながら、上手く溶け込んで斬新な作風に仕上がっている。
  • そんな物語を盛り上げるのが、温かみのある登場人物たち。
    • スケベでいい加減な貧乏神と、そんな彼を尻に敷く山の神は人情味があり、ゲーム内の会話機能では二人なりにパルを気遣う様子が垣間見える。つっけんどんに見えて、仲の良い一面が垣間見えるのは味わい深い。
      • 中盤の貧乏神離脱イベントは、二人の意外な一面を覗くことが出来る。
    • ユキトはメンバー唯一の一般人であり、周りが異能者ばかりだからこそキャラクターが引き立てられている。
      • 生真面目な常識人と見せかけて、ちょっとズレた部分も覗かせるのも魅力の一つ。まず料理で戦いを補助するという時点で発想がぶっ飛んでいる。
      • 後述する難点もあるが、唯一の一般人ゆえの人間味は印象的であり、だからこそ最後に彼が残す言葉は重要である。
    • 主人公のパルはRPG定番の無口主人公であるが、本作においてはプレイヤーの分身以上の意味を持つ。
      • 先述の"葛藤"は周囲の人物やゲーム内の演出から推測されるだけで、彼自身の口から語られる事は無い。無口だからこそプレイヤーに想像の余地が与えられるのは、RPGだからこそできる演出である。
      • 終盤のイベントでは、パルの心情に関して様々な見方ができる。
    • 途中で出会う脇役達も魅力的。
      • 報われない恋心を経てパルに大切な事を教えてくれる船長、人間の事が大好きな幽霊たちなど、優しい登場人物が多い。
      • モブキャラは会話シーンでの人間臭さとは裏腹に、自分たちを救った事に感謝を伝えてくれたり、苦戦しているところに加勢してくれたりと、人情味のある人ばかり。ヒーロー物によくある迫害とは全くの無縁で、プレイヤーが頑張る気持ちを素直に奮い立たせてくれる。
  • BGMも"神"曲ぞろい。
    • 単にプロのミュージシャンを起用しただけに終わらず、ゲーム音楽として魅力的に仕上がっている。
    • 中でもボス戦BGMは壮大な戦いを予感させる曲調で、イントロが流れただけでプレイヤーの感情を奮い立たせてくれる。聞く機会の多さもあって、プレイヤーからの人気も高い。
    • 本作否定派のプレイヤーからも「音楽だけは神ゲー」「音楽だけがとりえ」と高く評価されている。
  • 小ネタ満載の豊富なアイテム
    • 今作は無駄にアイテムが多く、一つ一つに使用時のメッセージが設定されている。
    • 悪ふざけのような説明文も含まれており、どんな理由で効果が発動するのか予想するのも楽しみの一つ。
+
  • 花火を使うと懐かしい気持ちに浸り、状態異常の「どわすれ」を解除できる。
  • 納豆を食べると水戸のご隠居に活を入れられて戦闘不能から回復する。食べ物自体の効果では無いらしい。
  • ジュースは「のどごしがたまらない」、ハムサンドは「程よく熟成された旨味が胃袋に染みる」などの説明文とともにMPを回復する。いちいち書き方が美味しそう。
  • 「まったりくっきりすっきりはっきりしゃっきり!うまさによろこんだ!」というよくわからない説明文があると思えば、「うまい!」だけで片付けるような適当な説明文もあり、バリエーションは豊か。
  • 極め付けは「しこうのみ」使用時のテキスト。これは「きゅうきょくのみ」と対になるアイテムで、要するに『美味しんぼ』のパロディアイテムなのだが、食べるとその旨さに思わず柏手(かしわで)を叩いてしまう。それ、違うグルメ漫画です。*2
    • こんなふざけたテキストでありながら、効果は作中屈指の高性能*3で、ラスボス戦でもお世話になる。シリアスな展開のさなか、ツッコミどころ満載のパロディが飛び出す様はシュール極まりない。
  • 料理システム
    • 美食戦隊 薔薇野郎』とともに、90年代に料理システムに目を付けた先見性は見張るものがある。
    • 材料となるアイテムもレシピは非常に多く、多彩な料理を作る事が出来るのは本作の個性的な魅力の一つ。

賛否両論点

  • 奇抜で取っ付き辛い世界観
    • 今作のシナリオに対する好みは、その破天荒な世界観を受け入れられるかどうかに委ねられている。『ラブクエスト』『里見の謎』のようなイロモノ臭が強く、人を選びやすい。
    • 作中世界はノストラダムス委員会なるものに支配され、日本神話風の世界観なのにゼウスが最高神に君臨している。
    • ノストラダムスが支配するオカルト全開な世界観に対し、住民の言動は妙に生活感があって生々しい。
      • 「政府は委員会に不況の責任を押し付けているだけ」など冷静に分析する人、憧れるあまり世間の批判に感情的になる人、親族が委員会に入ったことを喜ぶ人など、世相の描写は何ともリアル。
      • こうした世知辛い生活感をぶち込んでくるユーモアは、浦沢脚本のお約束でもある。
    • セーラー服を売っている原住民が出てきたり、飛行機の翼の上で一般人が物を投げてくる中戦ったりと、ツッコミどころは満載。
    • キャラデザのセンスは完全に『ビックリマンチョコ』のノリ。
      • 街を歩いて襲いかかる雑魚キャラは、仏の顔をしたスライム「スラ仏」や、胴体が机になったブルドッグ「テーブルドッグ」などおふざけ全開。時にはデモ隊のような格好をした「イヌぎらい」やハンカチを噛んで悔しがっているOL「泣き虫」など変な人間も相手にしなければならない。
      • ノストラダムスの手下達もデザインは自由奔放で、体からサグラダファミリアがたくさん生えたガウディや、常に重力に逆らって宙吊りになっているニュートンなど、小学生向けのギャグ漫画みたいなノリの連中が次々と現れる。
      • 主要キャラクターは妙に顔が濃く、それでいて2~3頭身なのでかなり癖が強い。
    • そもそもパーティメンバーの二人が中年の夫婦という時点であまりにも特殊である。最後まで遊ぶと印象が変わるかもしれないが……。
  • 自由奔放過ぎるストーリー
    • 時には突拍子の無い展開もあり、プレイヤーによっては雑なシナリオとも捉え兼ねない部分がある。
    • カオルとの再会後に話の腰を折るような展開が待っていたり、王道RPGらしい勇者の世界が唐突に出てきたりと、良くも悪くも節操が無い。
      • 仲間の想いと世界の運命を背負った最終決戦の直前に女子高生やサラリーマン*4と戦わされるのは本作くらいだろう。
    • 世界観を受け入れて「そういうお話」と捉える事も可能だが、本作のシナリオが満場一致で肯定されないのはこうした部分が理由である。

問題点

ここまでなら「癖のある世界観さえ受け入れられれば魅力的なゲーム」で終わるのだが、問題はそれ以外。本作は肝心のシステム全般に何かと粗が多い。

  • ゲーム開始直後にいきなり詰みポイントが存在する。
    • 最初はパルが鎖に繋がれており、限られた範囲しか移動できない。ここから何をしたら物語が進むのかは一切明かされず、プレイヤーによっては攻略を断念してしまう。
    • 正解はエサ入れを調べる事なのだが、その判定が小さく、きちんとボタンを押しても調べた扱いにならない事がある。
    • パルが行ける範囲の左上にはアイテム配置場所が光っているのだが、何とかしてここに行かなければならないのかと勘違いしやすく、手詰まりの原因になっている。
  • 本作は街中でランダムエンカウントが発生する。単なる個性的なシステムでは終わらず、これが中々に厄介。
    • 宿屋やショップなど、重要な施設の場所を把握するだけで一々戦闘をやらされる。気軽に街の様子が把握できず、ストレスが溜まりやすい。
      • 街の面積は大きく、自然と歩行距離が多くなる。
    • ゲーム開始時は神社に行くように誘導されるのだが、その神社を探すだけで煩わしい戦闘を消化しなければならない。
      • 2021年現在のゲームで一般的な、イベント発生地点を示してくれるようなマップなどは当然無い。
  • 上記の問題を強めているのが、2つ目の詰みポイント。
    • 修行によって力を得たパルはカオル探しの旅を始めるのだが、最初に何をしたらイベントが進行するのかゲーム内の誘導やヒントが殆ど無い。
      • 正解はカオルの家の窓から中に侵入するというわかりづらいもの。これに気づけなかったプレイヤーは、イベント発生の条件を探すために街中を歩くことになる。だがランダムエンカウントが発生して探索もままならず、またしても攻略を断念する要因になる。
    • 以降はここまで理不尽な詰みポイントが無いものの、その次の町でイベント発生場所を探すのに手間取ることがある。
    • その後は極端にプレイ時間が長引く詰みポイントは無く、ゲーム中盤からはエンカウントを一切発生させなくする能力が使えるようになる。
      • これらの特徴により、ゲーム中盤は余計な邪魔が入る事なくストーリーをさくさく味わう事ができる。本作の問題点は序盤と終盤に集中しているので、中盤は決して悪くない。
  • 戦闘について
    • 簡単に言うと大味でバランスが悪く、戦略性が薄い。
    • パーティが選ぶ技は必然的に、装備中の巻物の技からの2択となる。それ以外の行動をとるメリットは殆ど無い。
      • 術が使えないユキトは殆どの行動をパスする事になる。
    • ある程度強くなった技は全体攻撃に切り替わり、「どの敵から倒すか」などといった選択の余地も与えられなくなる。
    • 何度も戦う事になるゲーム序盤のザコキャラは、開始1ターン目で倒せてしまうほど弱い。仮に殴られてもダメージは微々たる量。
      • 街中で戦う都合、HPが減ってきたらすぐに宿屋に行ける。何も考えなくてもスムーズに進めるため、いかにダメージを減らすか、効率よく倒すかなどプレイヤーが入り込む余地が殆ど無い。
    • 後半になると状態異常を駆使した強ボスも増えてくるが、終盤以外は有り余るアイテムと料理によるゴリ押しが可能。
      • 逆に、強いボスは状態異常になるかどうかの運ゲーと化していて極端。一部地域で戦う「じゃあくないし」やゲーム終盤のとある二人組ボスは顕著で、ラスボスは更にその上を行く。
    • ゲーム終盤は体力の硬い敵が増えてきて、ダルめの長期戦が増えるようになる。
      • この点は本作の大きな不評要素の一つであり、後述する一方通行やパーティ離脱と併せてプレイヤーの疲労感を強くしている。
  • 奇をてらいすぎて不便なシステム
    • このゲームはレベル、HP、MP、術レベル、装備品の情報を除き、メニュー画面でステータスが一切確認出来ない。
      • 攻撃力や防御力が見られないのでメンバーの得手不得手が見えづらく、戦略を立てにくい。次レベルまでの経験値や術レベルアップまでの行動回数がわからないので目標意識も持てない。
      • ステータスを確認するには、ゲーム中2回だけ訪れる場所にある「ステータス屋」へ訪問しなければならず、それ以外で知る手段は一切無い。
    • 一般的RPGの装備品に相当する巻物は、街のどこかにある「神社」でしか付け替える事が出来ない。
      • さまざまな技をバランス良く育てるには非常に不便である。巻物の技をマスターしてしまうと、神社に行くまでその技を使えなくなるも同然。
      • このシステムが響くのはゲーム終盤で、途中からは一切巻物を持ち替える事が出来なくなる。技の育成もままならず、運が悪いとラスボス相手に潰しが効かなくなる可能性も……。
    • パルの後ろを付いてくる仲間は時々壁に引っかかって付いてこなくなり、その間に戦闘が始まると該当メンバーが不在になってしまう(数ターン進むと参加する)。
      • 仲間が離れたらいちいち引き返すか、適当な建物に入って仲間の位置をリセットする必要があり、単純に面倒。引き返す間にエンカウントしてしまうリスクもある。
      • このシステムで戦略の幅が広がるわけでもなく、育成の機会が減るだけで面倒な仕様にしかなっていない。
  • 極端なまでの一方通行ゲー
    • 今作はゲーム中盤まで、前来た街に戻る手段が一切無い。
    • ファストトラベルの役目を果たす「後ろ神」が途中で手に入るが、毎回何らかの理由を付けて移動を断られてしまい、あまりにも役に立たない。
    • 終盤に至ってはかなり理不尽な一方通行を要求される。
      • 本作はアイテムの補充が重要となるのに、後に引けないムードを無理やり作り出されて買い物に行けなくなる。
      • 終盤は限られたアイテムで硬いボスと連戦しなければならず、ストレスが大きい。あらかじめ補充をきちんとしていなかった場合は詰む可能性もあり、後述するラスボスに次ぐ脱落ポイントとなっている。
      • クライマックスに至っては一度補充したアイテムを再度補充出来ず、最低でも5連戦させられる事になる。
  • パーティの永久離脱がある
    • RPGの永久離脱は何かと物議を醸しがちだが、本作も例外ではない。
+ 軽いネタバレ注意
  • ゲーム終盤はパル以外の全ての仲間が離脱し、強制的に一人旅となる。
    • この後はゲームバランスが極端に変わり、パルが行動不能になるだけで窮地に追い込まれる。特に離脱後最初のボス戦はほぼ運ゲーに近い有様。
    • ユキトの料理は有用な物が多いのに、以降は一切頼れなくなる。
    • ここに至るまでの経緯はかなり盛り上がるだけに、ゲーム的には何とも惜しい。
  • グラフィック
    • 97年発売のPSソフトでありながら、グラフィックは完全にSFC相当である。
    • あげく、汎用の漢字フォントが全く用意されていない。テキスト表示は全て平仮名とカタカナなので読み辛い。
  • 料理システムの練りこみの甘さ
    • このゲームでは同じアイテムを9個までしか持てないのだが、重要な料理レシピの殆どは「こめ」を使う。
    • ショップで補充するまでに「こめ」を使いきりやすく、ユキトが手持ち無沙汰になりがちである。
  • ユキトは中盤で身勝手な行動を行い、プレイヤーの株を大きく落としてしまう。この点が後を引いて、彼を嫌悪するプレイヤーも少なくない。
    • シナリオ上は重要な意味を持つ場面なのだが、直後の唐突な展開も相まってストーリーへの悪印象も抱きやすい。
    • またゲーム終盤も、プレイヤーによっては難色を示す場面がある。
+ ネタバレ注意
  • エンディングの後日談にて、別の少女と結ばれる様子が描かれる。
    • 先述のシーンと併せ「あれだけカオルへの熱意を見せていたのに乗り換えた」と批判するプレイヤーは少なくない。
  • フォローしておくと、このシーンはパルが最終決戦に出発してから3年経過しており*5、安易に乗り換えた訳では無い。キャラクター設定をよく覚えていなければ誤解を招くシーンになっている。
    • その間少女が一途に想いを寄せ続けた事で心変わりしてもおかしくなかった事、ユキトは決してガワだけで相手を選ばないと明言している事も、このシーンを見る上では重要である。

RPG屈指の凶悪ラスボス

本作を語る上で欠かせないのがラスボスの異常な理不尽さである。
ゲームで最も苦戦したラスボスの話題で名前が挙がる事も多く、本記事の「不安定」判定の9割はこれである。
逆に言うと、ラスボス以外は概ね問題なく進めるバランスでありながら、この一体のためだけにクリアが困難になってしまっている。

  • まずは体力が問題。
    • どれだけ攻撃してもHPが尽きず、異常なまでに長期戦を強いられる。
    • 攻略情報無しで挑む場合、勝利にかかる戦闘時間はおおむね40分~2時間。いくらラスボスとは言え、とてもRPGの戦闘でやらせていいプレイ時間ではない。
      • 当時の子供は一日のゲーム時間でクリアできたのだろうか?
  • 体力だけなら単に硬いボスで済むのだが、もう一つの問題が攻撃手段である。このラスボスはプレイヤーが使えるのと同じ術を数ターンに一回ランダムで発動するのだが、そのうちの一つ「雷の術」を使われるとほぼ確実にその場で負けが確定する。
    • この術を食らうと4~5ターン行動不可能になり、その間受けた攻撃によって体力満タンからもHPを全て削られてしまう。
  • 豊富なアイテムを使ってバフを行えば即死を防げるが、対するラスボスも数ターンに一度バフを無効化してくる。
    • 再びバフをかけようにも、回復しようともたついている間に「金の術」(1ターン行動不能にするデバフ付き)で遅延させられ、結局バフの無い状態で「雷の術」を撃たれるのはザラにある。
    • 酷い時には雷の術を重ねがけしてくる時があり、こうなったらもうどうしようもない(このゲームではデバフ効果が重複すると効果が増大する)。
  • ラスボスの戦いを要約すると「即死技を引き当てるまで戦闘を引き延ばす」という卑怯極まりないものであり、早い話が雷の術を出されないよう祈るだけの運ゲーである。
    • 安定して勝つ戦略は無きに等しく、レベルカンストしても負けるときは負けるとされている。
    • ここにたどり着く頃にはレベル60弱くらいになっているが、適正レベルは70~90とされる事が多い。
  • このラスボスに勝つには術の性質を熟知し、ゲームシステムを最大限活かして挑むしかない。
    • 巻物の手持ちによっては育成が困難なので、それを知った上でも詰む可能性があるが……。
    • たまに殆ど雷を撃ってこないパターンもあり、運が良ければ勝てない事もない。
    • またゲーム中盤で手に入る特殊術も重要になってくる。しかしこれに気付くのも難しい。
      • 入手時はこれも育成できる事に気付き辛く、同時にエンカウントの機会もめっきり減るので、育成が疎かになりがち。
      • 重要な術の一つはレベルが低いうちだと全く使えない技となり、必要性に気付きづらい。
    • そして、敵の"からくり"に気付く事も大きなポイントとなる。攻略法さえ知ってしまえば、普通のRPGのラスボス相応に片付けるのも不可能ではない。
+ 対処法
  • まず敵の体力の秘密を知るのがポイント。
    • プレイ時間のせいで異常なHPがあると勘違いされやすいが、それは誤解である。実はHP自体は常識の範疇に収まっていて、ある程度進めると使ってくる回復行動に秘密がある。
    • この行動、実はHPを20%も回復していて、その量は3400。プレイヤーの攻撃11ターン分にも相当する。
      • 常軌を逸した戦闘時間はこの回復が原因であり、回復より早いペースで殴れれば、30分程度で決着する事も可能である。
    • 回復している事はゲーム内で明示されているのだが、流石にそこまでの量とは思うはずもなく、この事実に自力で気づけたプレイヤーの話はほとんど聞かれない。
  • それを踏まえた上で、攻略には以下の技が有用となる。
    • 火の術・氷の術
      • 使うと一定確率で敵にスリップダメージを与えられる。その量は全体HPに対する割合で決まり、普段の攻撃の3倍を数ターンだけ削る事が可能。
      • 重ねがけすれば威力が1.5倍になり、デバフも解けづらくなるので、グッと勝利に近づく。
      • 以下に挙げる技を覚えていなくても、これさえ使えばレベル上げをしなくても運良く勝つのに十分。RTAでもこれを使ったチャートが構築されている。
    • 土の術
      • これを自分に使うと防御力が跳ね上がり、雷による即死を回避できる。
      • 術が自分に使えるのは忘れがちで、これもまたラスボス戦になるまで気付きづらい。
      • 土耐性の敵は意外に多く、育成が疎かになってしまう事も。
    • 助け神の術
      • 自分の体力を回復。レベル2まで上げれば余裕で全回復が可能。必須とも言うべき術である。
      • これについては中盤の一人旅で重要性が明らかになり、終盤で頻繁に使う事になるので、自然と育成が施されると思われる。
    • 疾風神の術
      • 使うと攻撃回数が飛躍的に上昇。ダメージレースで有利に働く。
      • レベル1の時は一回行動を消費して一回行動を増やすだけの弱い技なので、その重要性に気付き辛い。レベルアップで化ける代物である。
  • 理不尽極まりないラスボスだが、それだけに勝利した後のエンディングで得られる感動はひときわ大きい。見事打ち破った暁には、一息ついてパル達の行く末を見届けよう。

総評

戦略性のある戦闘や育成を重視するか、ゲームの世界に落とし込まれた奇特な世界を味わうか。本作の価値は、RPGに何を求めるかで大きく変わってくる。

ゲーム面の出来はお世辞にも良いとは言えず、序盤の不親切さと終盤の冗長さは擁護し難いものがある。脇を固めるシナリオも万人受けする内容ではなく、ラスボスの常軌を逸した理不尽さも相まって、本作を"クソゲー"と評する声は後を絶たない。*6

しかしシナリオが刺さるプレイヤーにとっては話が別で、埋もれさせるには勿体ないほどの魅力が隠されている。プロット、キャラクター、音楽のいずれも丁寧に作られていて、遊んで良かったと評価するプレイヤーもまた少なくはない。

雨宮氏や浦沢氏のファンであれば、知っておいて損は無い一作。
プレイする機会がある場合は躊躇せず、素直に攻略情報を頼るのがオススメである。


余談

  • 「100時間遊べるRPG」
    • 実際は一本道ゲームでやり込み要素もアイテムコンプリートくらいしか無く、誇張が過ぎるとの見方が強い。
      • こうした前情報との落差も、本作がクソゲー扱いされやすい原因と思われる。
      • 本作の評価点はシナリオ面、問題点はゲーム面に依っており、後者を押し出した宣伝は判断ミスだった節がある。
      • 「ラスボス打倒への育成で100時間かかるかもしれない」とフォローしているサイトもあるが、流石にそこまでかかったりはしない。
    • 逆に「多くのプレイヤーが10時間とかからずクリアした」とされる情報を載せているサイトも存在するが、これは明らかにデマである。
      • 普通に遊んでいればラスボスにたどり着くまでに20時間近くかかるため、RPG一本のボリュームとしてはかなり標準的である。
      • デマと言い切れる最大の根拠として、このゲームのRTA記録は2021年現在でも8時間半である(それもラスボス戦で幸運を引き当てるまで試行錯誤した結果)。初見でRTAに肉薄した記録が出せるはずも無く、否定的なプレイヤーの思い込みが多分に含まれていると考えられる。
  • シナリオ担当の浦沢氏について
    • 氏は本作以前から滅茶苦茶な作品に定評があり、担当作品では「チャーハンとシュウマイが結婚式を挙げる」「敵怪人が老舗和菓子屋の芋羊羹を食べて巨大化する」など数々の伝説を残している。
    • 概要で浦沢氏の参加作品として触れた『TIZ』もまた、「ゲーム面は問題だらけだがシナリオが刺されば良作の奇ゲー」という、本作と似たような評価を受けている。
      • 氏の脚本作品は肯定派と否定派で真っ二つに分かれる事が多い*7のだが、ゲーム作品のシナリオにもその傾向が出ているのかもしれない。
      • なお両作とも、どの程度作品に関わったのかは明かされていないので、シナリオへの影響力は不明である。特に『TIZ』の脚本は別のスタッフが手がけている点にも注意。
    • パッケージ裏には参加スタッフの名前がいくつか名を連ねているが、浦沢氏の名前は無い。もしきちんと表記をしていれば、本作は違った評価を得られたのではないかと考察する声もある。
    • 劇中、ノストラダムス委員会の面々はいずれも「委員会で最も○○な××」を自称しているのだが、本作の前年に浦沢氏が手がけた『激走戦隊カーレンジャー』の敵組織「ボーゾック」もまた、メンバーが毎回「ボーゾックいちの○○」を名乗るのがお約束であり、セルフオマージュの可能性がある。
  • 説明書に関する小ネタ
    • 3ページ目のあらすじ紹介において、作中の重要な事実がネタバレされている。
      • 後の方で大々的に明かされるノストラダムスの出自が思いっきり書かれており、プレイヤーによっては大まかな展開が予測できてしまう。
      • 幸い、これを見た上でも予想を裏切る部分があるため、ストーリーは十分楽しめる。いずれにしてもゲーム内の見せ方を根本的に変えてしまうのは不親切である。
      • これから遊ぶプレイヤーは、説明書のあらすじページを見ないで遊ぶのも一つの手かもしれない。
    • 何故か説明の各項目が毎回「『PAL 神犬伝説』では~」で始まっており、一冊の中でこのくだりが17回も出てくる。
      • 「このゲームでは」「本作では」で済む場面が多く、ここまで入れる意味が無い。担当者はよほど作品名を覚えてもらいたかったのだろうか。
  • 本作は97年発売のゲームだが、パッケージ裏等の著作権表記は95年になっている。
    • 表示が1年ズレるゲームは少なくないが、2年もズレている例は珍しい。
    • もし95年に発売されていたなら、グラフィックは十分許容できるクオリティだったと思われる。
  • 本作は片手操作を可能にする珍しいオプションが搭載されている。
    • 画期的に見えて使いどころは無く、片手に負担が集中するので結構遊び辛い。
  • RPGとしては珍しく、アイテムコンプリートに特典が用意されている。
    • ゲーム内でも報酬がある事を示唆されているのだが、残念ながらあまり旨味が無い。
  • タイトルに「PAL」と書かれてあるが,入力信号はNTSCオンリーである
    • PAL地域の外国人が「NTSC」という字を見ずに買ってしまうことがあるか心配になってしまう
+ 実際に揃えると……?
  • コンフィグ画面にある謎の項目「CONGRATULATION」が選択できるようになり、開く事でプレゼント用のキーワードが紹介される。
    • 当然この企画は終わっているので、早期に遊べたプレイヤーにしかメリットはない。

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最終更新:2022年05月25日 16:34

*1 通称・浦沢投石。本作では石を投げるシーンは無いものの、石を投げようとしている一般市民が敵キャラとして登場する。

*2 元ネタは少年マガジンの『将太の寿司』。作中には美味いものを食べると思わず柏手を打ってしまう審査員がおり、勝敗のボーダーを可視化する大きな役割を担っていた。

*3 ちなみに「きゅうきょくのみ」よりも明らかに強く作られている。この世界でも山岡は雄山に勝てないらしい。

*4 しかも、このサラリーマンはラスボスより強いと評する声が多い。任意でスルー可能なのが救い。

*5 ユキトは元々中学生だが、このシーンでは大学受験の勉強をしている。

*6 実は当wikiでも本作の記事が6年にわたり「クソゲー」判定で存在していた。以前の記事はゲーム部分の問題に殆ど触れておらず、肯定派も多いシナリオ要素をクソゲーの理由にしていたため、2016年に要強化依頼を経て削除されている。

*7 例えば2019年から参加している『名探偵コナン』では担当回の度にSNSを賑わせており、普段絶対やらないようなカオス脚本を高く賞賛する視聴者と、真面目にミステリーを書かない事に憤る視聴者とで大きく評価が分かれている。