- セン一族
セン一族とは。
人の願いを叶える特殊な魔術の継承者達の総称であり、
祖はセンと呼ばれていることからこの名称が定着した。
多くは無自覚な魔術師であり、かつ彼らが叶える願いも、好みはあっても、法則性は無い。
無自覚な点も含め、基本的に善良な魔術師ではあるが、一族の中でもゼン、と呼ばれる異端が時折発生する。
祖はセンと呼ばれていることからこの名称が定着した。
多くは無自覚な魔術師であり、かつ彼らが叶える願いも、好みはあっても、法則性は無い。
無自覚な点も含め、基本的に善良な魔術師ではあるが、一族の中でもゼン、と呼ばれる異端が時折発生する。
これはセン一族の音が濁った=センが濁ったと言う意であり、悪性の願いを「叶えてしまう」異端中の異端。
歴史に名を残したセンは、
祖のセンに始まり、ニ・セン、ヨン・セン、ゴ・セン、ロク・セン、ナナ・セン、ハッ=セン、キュウ・セン
と、数多いが、対し、
ゼンは、悪名高き、サン・ゼンのみ。
近年では、ワルクヌェー領がサン・ゼンの無自覚の悪意により、呪われたことはあまりにも有名である――
祖のセンに始まり、ニ・セン、ヨン・セン、ゴ・セン、ロク・セン、ナナ・セン、ハッ=セン、キュウ・セン
と、数多いが、対し、
ゼンは、悪名高き、サン・ゼンのみ。
近年では、ワルクヌェー領がサン・ゼンの無自覚の悪意により、呪われたことはあまりにも有名である――
なおサン・ゼンの人となりとして、きのこの山を好む上に唐揚げにレモンをかけて下半身裸だったと伝わっている。
民明書房:「今日からあなたもセン一族」より一部抜粋
- 一条三位麻呂 ~ スペースコブラ王国wikiより
『教育に関しては非常に熱心で、妥協を許さぬ人物であったと言われる。
学校教育に関して戦勝国メガザル首脳部と話し合った際には、互いの利益となることを信じ、一切怯まずに朗々と発言したという。
特に、「ノウハウがない我が国ではまず実行せねばならんのだ」と説くラインハルト・ハイドリヒ卿に
「ノウハウならばここにある。紙とペンを持て」*1と言い放った逸話は特に有名である。
*1…「ノウハウならば、私の頭の中に入っている。紙とペンを出せ」とも訳される』
学校教育に関して戦勝国メガザル首脳部と話し合った際には、互いの利益となることを信じ、一切怯まずに朗々と発言したという。
特に、「ノウハウがない我が国ではまず実行せねばならんのだ」と説くラインハルト・ハイドリヒ卿に
「ノウハウならばここにある。紙とペンを持て」*1と言い放った逸話は特に有名である。
*1…「ノウハウならば、私の頭の中に入っている。紙とペンを出せ」とも訳される』
- やらない夫・クール ~ メガザル王国人名録より
――とかく、このやらない夫・クールという男は人材を愛した。
父である先代ダディ戦没の後、若くして男爵領を継いだこの男が一年程度であれよあれよという間に
子爵へと昇進したのには、確かによく言われているように運がよかったせいでもある。
だが、その運はあくまで契機にめぐり合うための運であり、労せずして成果を得られるというような
類のものではない。むしろ一つ対応を間違えれば昇進どころか家名が途絶える可能性すらあった。
その中で、その契機を確実にものにして自領の発展へとつなげたその功績は、彼が愛し、また彼を慕う
一癖も二癖もある家臣たちの活躍があったのはご存知の通りである。
子爵へと昇進したのには、確かによく言われているように運がよかったせいでもある。
だが、その運はあくまで契機にめぐり合うための運であり、労せずして成果を得られるというような
類のものではない。むしろ一つ対応を間違えれば昇進どころか家名が途絶える可能性すらあった。
その中で、その契機を確実にものにして自領の発展へとつなげたその功績は、彼が愛し、また彼を慕う
一癖も二癖もある家臣たちの活躍があったのはご存知の通りである。
ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイという男がいる。
クール家に先代より仕える、かの領の武門はといえば真っ先に名の上がる第一の騎士だ。
戦場にあれば単騎で敵部隊を蹴散らすその華々しい活躍の反面、普段の態度は決して褒められたものではなく、
ありていに言って市中で管を巻く慮外者と大差がなかった。
しかしやらない夫は、うわべの態度を一顧だにすることなく、かの者の中の筋の通った忠義心を見抜き、
第一の騎士として信頼しつ続けた。
その信頼に騎士がどう応えたかは、語る必要はあるまい。
クール家に先代より仕える、かの領の武門はといえば真っ先に名の上がる第一の騎士だ。
戦場にあれば単騎で敵部隊を蹴散らすその華々しい活躍の反面、普段の態度は決して褒められたものではなく、
ありていに言って市中で管を巻く慮外者と大差がなかった。
しかしやらない夫は、うわべの態度を一顧だにすることなく、かの者の中の筋の通った忠義心を見抜き、
第一の騎士として信頼しつ続けた。
その信頼に騎士がどう応えたかは、語る必要はあるまい。
シュテル・ザ・デストラクターというものがいる。
先代のころより館に居つく食客であり優秀な魔法使いであるが、怠け癖があり声がかからねばいつまでも
自室に引きこもって研究に没頭する、一歩間違えれば無駄飯ぐらいと言うべき存在であった。
しかしやらない夫はそんな彼女を放逐することなく養い続け、ここぞという場面ではその力を頼った。
そしてシュテルもまたそんな時には文句一ついう事なく、むしろ喜び勇んで駆けつけ惜しむことなく
その力を振るったという。
先代のころより館に居つく食客であり優秀な魔法使いであるが、怠け癖があり声がかからねばいつまでも
自室に引きこもって研究に没頭する、一歩間違えれば無駄飯ぐらいと言うべき存在であった。
しかしやらない夫はそんな彼女を放逐することなく養い続け、ここぞという場面ではその力を頼った。
そしてシュテルもまたそんな時には文句一ついう事なく、むしろ喜び勇んで駆けつけ惜しむことなく
その力を振るったという。
ルルーシュ・ランペルージという男がいる。
歴史書のみならず、農業の教科書にも名の載る農業界の革命児である。その功績はといえば枚挙に暇がないが、
本人の性格はといえばごぼう玉を愛して止まないと公言して憚らない、率直に言って変人であった。
しかしやらない夫はそんな彼の奇矯な言動を否定することなく、むしろ厚く援助を行ない自由に研究させた。
どれほど重用したかといえば、ルルーシュの功績を聞いた信長公より、爵位と引き換えに彼の引抜を打診された
とき、即断で爵位よりも彼を取るほどと言えば十分であろう。
その結果がどうなったかは、農業の指導書に載る彼の功績のなされた年号と、彼がクール領に在籍した期間を
照らし合わせれば一目瞭然である。
歴史書のみならず、農業の教科書にも名の載る農業界の革命児である。その功績はといえば枚挙に暇がないが、
本人の性格はといえばごぼう玉を愛して止まないと公言して憚らない、率直に言って変人であった。
しかしやらない夫はそんな彼の奇矯な言動を否定することなく、むしろ厚く援助を行ない自由に研究させた。
どれほど重用したかといえば、ルルーシュの功績を聞いた信長公より、爵位と引き換えに彼の引抜を打診された
とき、即断で爵位よりも彼を取るほどと言えば十分であろう。
その結果がどうなったかは、農業の指導書に載る彼の功績のなされた年号と、彼がクール領に在籍した期間を
照らし合わせれば一目瞭然である。
ルサルカ・シュヴェーゲリンというものがいる。
市井にて暮らしていたところを見出されてやらない夫の配下で働き出し、主に内政の場で活躍した才媛で
あるが、その素性は当初は知らされておらず、優秀な能力と人品卑しからぬ振る舞いはどこで身に着けたか、
長らく謎であった。
しかし、その素性が判明してやらない夫は仰天する。
なんと、メガザル王国の宮廷魔術師長を代々輩出している名門、アームストロング侯爵家の次女であり、
しかもそこから家出をしてきた言うのだ。
相手は当時男爵家であったクール家とは比べ物にならない名門であり、この事が広まればよくて彼女は
実家へと連れ戻され内政が滞り、悪ければ侯爵家と対立しかねないという爆弾という他ない事態であった。
しかしやらない夫はそんな彼女を手放す事を拒み、静かに水面下でアームストロング家へと粘り強く
根回しを続け、ついには国王すらも巻き込んでバーン侯爵本人より奉公を認める言質を勝ち取ったのである。
市井にて暮らしていたところを見出されてやらない夫の配下で働き出し、主に内政の場で活躍した才媛で
あるが、その素性は当初は知らされておらず、優秀な能力と人品卑しからぬ振る舞いはどこで身に着けたか、
長らく謎であった。
しかし、その素性が判明してやらない夫は仰天する。
なんと、メガザル王国の宮廷魔術師長を代々輩出している名門、アームストロング侯爵家の次女であり、
しかもそこから家出をしてきた言うのだ。
相手は当時男爵家であったクール家とは比べ物にならない名門であり、この事が広まればよくて彼女は
実家へと連れ戻され内政が滞り、悪ければ侯爵家と対立しかねないという爆弾という他ない事態であった。
しかしやらない夫はそんな彼女を手放す事を拒み、静かに水面下でアームストロング家へと粘り強く
根回しを続け、ついには国王すらも巻き込んでバーン侯爵本人より奉公を認める言質を勝ち取ったのである。
アシェラッドという男がいる。
老練を絵にかいたような歴戦の傭兵で、だが一頃は部下を養うために盗賊に身を落としクール領を荒らしまわりもした。
グンマーとの折衝の際にも老練に立ち回り、持ちえた情報を一時は敵であったクール領に繋ぎをつけて
売りつけるというのは、まさにかの傭兵の真骨頂というべき大胆な判断だったが、そんな彼も
それを受け止めたやらない夫の器の大きさは測りかねたという。
情報をもたらした彼を賓客として迎え、過去の一件を水に流して一時的にとはいえその場で雇い入れすらした。
そしてその情報を国王にへと伝え、国の一大事を救ったその功績にと報酬をたずねられたとき、
真っ先にアシェラッドの赦免を望んだ際には、かの老練で利に聡い傭兵をして、思わず遠慮の声を
上げさせてしまったという。
老練を絵にかいたような歴戦の傭兵で、だが一頃は部下を養うために盗賊に身を落としクール領を荒らしまわりもした。
グンマーとの折衝の際にも老練に立ち回り、持ちえた情報を一時は敵であったクール領に繋ぎをつけて
売りつけるというのは、まさにかの傭兵の真骨頂というべき大胆な判断だったが、そんな彼も
それを受け止めたやらない夫の器の大きさは測りかねたという。
情報をもたらした彼を賓客として迎え、過去の一件を水に流して一時的にとはいえその場で雇い入れすらした。
そしてその情報を国王にへと伝え、国の一大事を救ったその功績にと報酬をたずねられたとき、
真っ先にアシェラッドの赦免を望んだ際には、かの老練で利に聡い傭兵をして、思わず遠慮の声を
上げさせてしまったという。
他にも、クール家の家臣といえばどの人材をとっても癖があり「どこに出しても恥ずかしくはない」
とはお世辞にもいえないものばかりであった。
しかしやらない夫はそんな彼らを、欠点を見て縛るのではなく、長所を見てそれを生かしてきた。
そうして自由に辣腕を振るう機会を得た家臣たちは、その信頼に応え領を発展させてきたのである。
とはお世辞にもいえないものばかりであった。
しかしやらない夫はそんな彼らを、欠点を見て縛るのではなく、長所を見てそれを生かしてきた。
そうして自由に辣腕を振るう機会を得た家臣たちは、その信頼に応え領を発展させてきたのである。
やらない夫より、戦場で活躍できる人間はいくらでもいた。
やらない夫より、政治をうまく廻せる人間もいた。
やらない夫より、耳ざとく重要な情報を掴んでくる人間もいた。
しかし、そんな彼らが自由に腕を振るえたのは、やらない夫の元にあったからこそなのである――
やらない夫より、政治をうまく廻せる人間もいた。
やらない夫より、耳ざとく重要な情報を掴んでくる人間もいた。
しかし、そんな彼らが自由に腕を振るえたのは、やらない夫の元にあったからこそなのである――
―――メガザル王国人名録より抜粋
- ジェレミア卿の忠義の証
古代のメガザル国クール家に、先代の頃より仕えるジェレミアという家臣があった
決して無能な人物ではなかったが、他の綺羅星のごとく名だたる名将・能臣たちの中に
あってはいまひとつ目立たず、また常に仮面を外さないその奇妙ないでたちに、
(その働きを知る古参の家臣たちはともかく)新参の家臣たちには侮られる事が
幾度もあった
決して無能な人物ではなかったが、他の綺羅星のごとく名だたる名将・能臣たちの中に
あってはいまひとつ目立たず、また常に仮面を外さないその奇妙ないでたちに、
(その働きを知る古参の家臣たちはともかく)新参の家臣たちには侮られる事が
幾度もあった
そんなある日、主君のやらない夫は宴のさなか、ジェレミアにその仮面を取るように命じた
そこに現れたのは、その場の誰もが息を飲む、凄惨な戦傷であった
しかしその中でやらない夫だけは動じず、その傷こそ死を恐れずクール家を守り続けた
揺らがぬ忠義のあかしだと褒め称えた
そして家臣一同を「ジェレミアの働きを貶す者は、クール家を貶すも同然と心得よ」
と一喝したのである
以降、家臣の中にジェレミアを侮るものはいなくなり、ジェレミアも一層主君へと忠義を
尽くしたという
そこに現れたのは、その場の誰もが息を飲む、凄惨な戦傷であった
しかしその中でやらない夫だけは動じず、その傷こそ死を恐れずクール家を守り続けた
揺らがぬ忠義のあかしだと褒め称えた
そして家臣一同を「ジェレミアの働きを貶す者は、クール家を貶すも同然と心得よ」
と一喝したのである
以降、家臣の中にジェレミアを侮るものはいなくなり、ジェレミアも一層主君へと忠義を
尽くしたという
- 老練なるアシェラッド
アシェラッドは計算高い人物である
部下たちを養うために傭兵から盗賊に身を落とすも、殺しは避けて必要以上に恨みを買わないように
立ち回ったり、そこを追い払われても一銭にもならない恨みをもったりせず、むしろそこに渡りを
つけて情報を売りつけるなどの行動を見れば一目瞭然であろう
部下たちを養うために傭兵から盗賊に身を落とすも、殺しは避けて必要以上に恨みを買わないように
立ち回ったり、そこを追い払われても一銭にもならない恨みをもったりせず、むしろそこに渡りを
つけて情報を売りつけるなどの行動を見れば一目瞭然であろう
一方、そのアシェラッドに領内を荒らされながらもその罪を許し、優遇し信頼し重要な仕事を任せる
ことで結果としてその裏切りを封じたやらない夫が計算高い人物であるかどうかは、いまだに
論議に決着を見ない
ことで結果としてその裏切りを封じたやらない夫が計算高い人物であるかどうかは、いまだに
論議に決着を見ない
- 人民の騎士
英傑ぞろいのラインハルト・ハイドリヒ元帥の部下の中でももっとも民衆に人気のあった騎士である。
確かに優秀な騎士であり、軍人であったが、彼より武名をはせたものは数多い。
では何故彼が民衆に愛されたのか。
では何故彼が民衆に愛されたのか。
己を偽り飾ることを嫌い、分厚い鎧で身を守ることも、強大な剣で威圧することもなく
只ひたすらに本当の彼自身で民人に向かい合った姿勢である。
只ひたすらに本当の彼自身で民人に向かい合った姿勢である。
たとえかつて敵対した占領地であっても、彼は一切の武装をせず、その身一つで民心の安定に努めたと言う。
- 騎士72様
旧レックス領の騎士。女性ながらも質実剛健で、不正横暴のはびこった
レックス領にあってその身の肥やす事なく、むしろ圧政に苦しむ民を思い、
自分だけが贅沢をするわけにはいかぬと粗食を続け、身を細らせていたという。
レックス領にあってその身の肥やす事なく、むしろ圧政に苦しむ民を思い、
自分だけが贅沢をするわけにはいかぬと粗食を続け、身を細らせていたという。
グンマーとの紛争の際、旧領主ミストが民を見捨てて出奔する中、ただ一人
領内に残り民のための壁とならんとした、まことまっすぐなる女騎士であった。
領内に残り民のための壁とならんとした、まことまっすぐなる女騎士であった。
また剣の腕も立ち、領内で行われた剣術大会においては常に優秀な成績を修め、
特に第72会大会においては並み居る男性騎士達を抑え優勝を飾り、その華々しい
活躍に民衆は72様と呼んで慕った。
しかしそう呼ばれる本人は至って慎ましやかで、その過分な呼び名が気恥ずかしい
のか、そう呼ばれるたびに胸に手を当て複雑な表情を浮かべていたという。
特に第72会大会においては並み居る男性騎士達を抑え優勝を飾り、その華々しい
活躍に民衆は72様と呼んで慕った。
しかしそう呼ばれる本人は至って慎ましやかで、その過分な呼び名が気恥ずかしい
のか、そう呼ばれるたびに胸に手を当て複雑な表情を浮かべていたという。
- ヤムチャ流統治の極意
曰く「自分にわからんことは、わかる奴に聞け。
自分が苦手なことは、できる奴に頼れ。
これでだいたいOK。」
自分が苦手なことは、できる奴に頼れ。
これでだいたいOK。」
- とある男爵の宣伝行為(プロパガンダ)
レックス領に、一人の少女がいた。
特筆すべきことはない、ごく普通の領民の子である。
両親の庇護の下、無邪気に日々を過ごしていた彼女であったが……両親が自分のいないところで、戦争が迫る
不安や、重税に苦しんでいることを話し合ってることを聞き、子供なりに不穏な空気は感じていた。
実際、町を行く騎士はと言えば彼女にとって怖い人ばかりで、町の人々も怯えてばかりであった。
特筆すべきことはない、ごく普通の領民の子である。
両親の庇護の下、無邪気に日々を過ごしていた彼女であったが……両親が自分のいないところで、戦争が迫る
不安や、重税に苦しんでいることを話し合ってることを聞き、子供なりに不穏な空気は感じていた。
実際、町を行く騎士はと言えば彼女にとって怖い人ばかりで、町の人々も怯えてばかりであった。
しかしそんな中でも、一人だけ彼女も怖がらない騎士がいた。
如月千早――他の騎士たちのように怖いことをしたりせず、むしろ自分たちにも優しくしてくれる彼女の事を、少女は
『やさしくて、きれいで、かっこいい、きしのおねえちゃん』として慕ってた。
如月千早――他の騎士たちのように怖いことをしたりせず、むしろ自分たちにも優しくしてくれる彼女の事を、少女は
『やさしくて、きれいで、かっこいい、きしのおねえちゃん』として慕ってた。
だが、曲がりなりにも平穏であった日々は、ある日唐突に破られる。
グンマーの挙兵と侵攻、領主ミストと兵たちの逃亡、子供である彼女には何が起こっているかはわからなかったが、
それでも大変な事になっているのは彼女にも分かり、不安げに母親に抱きついていた。
だから、そんな右往左往する民達の前に千早が姿を現したとき、少女は目を輝かせた。
――きっと、おねえちゃんがなんとかしてくれる! おねえちゃん、つよいもの!
……だが、現実は残酷だった。
千早が悲壮な顔で告げたのは「自分たちが敵を食い止め時間を稼いでいるうちに隣領へ逃げろ」という指示だった……
グンマーの挙兵と侵攻、領主ミストと兵たちの逃亡、子供である彼女には何が起こっているかはわからなかったが、
それでも大変な事になっているのは彼女にも分かり、不安げに母親に抱きついていた。
だから、そんな右往左往する民達の前に千早が姿を現したとき、少女は目を輝かせた。
――きっと、おねえちゃんがなんとかしてくれる! おねえちゃん、つよいもの!
……だが、現実は残酷だった。
千早が悲壮な顔で告げたのは「自分たちが敵を食い止め時間を稼いでいるうちに隣領へ逃げろ」という指示だった……
少女は、母親に手を引かれながら必死に歩いていた。
周りを見回せば、レックス領の民たちが同じように、誰もが不安げにうつむき背を丸めて歩いている。
その誰もが着の身着のままで、その足取りは一様に重い。
少女も、お気に入りのお洋服も、せっかく作った花輪も、大切に育ててる鉢植えも、誕生日に買ってもらったオルゴール
も、川原で拾ったきれいな石も何もかもを置いてきていて、持ち出せたのは唯一、いつも一緒に居る人形だけだった。
自分はどうなるんだろうか、ちはやおねえちゃんはだいじょうぶなんだろうか。
少女は、訳も分からず不安で泣き出したい気持ちで一杯だった……しかし、人形を抱く手の反対側の手を引く母親の、
不安に強張りながらも必死に自分に向けて笑顔を浮かべ「大丈夫、大丈夫」と繰り返す顔を見たら、泣くに泣けなかった。
周りを見回せば、レックス領の民たちが同じように、誰もが不安げにうつむき背を丸めて歩いている。
その誰もが着の身着のままで、その足取りは一様に重い。
少女も、お気に入りのお洋服も、せっかく作った花輪も、大切に育ててる鉢植えも、誕生日に買ってもらったオルゴール
も、川原で拾ったきれいな石も何もかもを置いてきていて、持ち出せたのは唯一、いつも一緒に居る人形だけだった。
自分はどうなるんだろうか、ちはやおねえちゃんはだいじょうぶなんだろうか。
少女は、訳も分からず不安で泣き出したい気持ちで一杯だった……しかし、人形を抱く手の反対側の手を引く母親の、
不安に強張りながらも必死に自分に向けて笑顔を浮かべ「大丈夫、大丈夫」と繰り返す顔を見たら、泣くに泣けなかった。
そうして、いつまで続くかも分からない不安な道行の中……不意に、周りの人々がざわめき始めた。
彼女の身長では、大人たちに囲まれて何が起こってるか判らない。だが、周囲の大人たちが「あの旗は……」
「クール男爵さまだ」「隣領の男爵さまの兵が通られるぞ」とつぶやくのは、彼女の耳にも届いた。
人々は、クール軍を通すために誰からともなく道の左右に分かれ、そうなると少女の目にもそれは映った。
自分の町にいた、だらしなく着崩した姿でない、立派な鎧姿の兵士が、きれいに並んでこちらに向かってきている。
と、大人たちの何人かがその前に駆け寄り、口々に事情を話しはじめた。
すると程なく、兵たちの中からひときわ立派な戦装束の男性が馬を進めてきた。
まだ若い――少女にとっては自分より大きい人は誰でも大人に見えるものだが、それでもその人は周りの大人たちに
比べて若く見えた。
だが、その周囲の人たちがそのお兄さんを大切にしてるのはなんとなくわかり「きっとこのひとが、いちばんえらい
だんしゃくさまだ」と思ったとき、少女は母親の手を離して、自然とそのお兄さんの前に歩み出ていた。
背後で、母親が戸惑った声を上げるのが聞こえる。だが、少女の歩みは止まらなかった。
その少女に男性が気づき、目を向けた時――少女は、ずっと我慢していた涙が溢れるのを感じながら、声を絞り出した。
彼女の身長では、大人たちに囲まれて何が起こってるか判らない。だが、周囲の大人たちが「あの旗は……」
「クール男爵さまだ」「隣領の男爵さまの兵が通られるぞ」とつぶやくのは、彼女の耳にも届いた。
人々は、クール軍を通すために誰からともなく道の左右に分かれ、そうなると少女の目にもそれは映った。
自分の町にいた、だらしなく着崩した姿でない、立派な鎧姿の兵士が、きれいに並んでこちらに向かってきている。
と、大人たちの何人かがその前に駆け寄り、口々に事情を話しはじめた。
すると程なく、兵たちの中からひときわ立派な戦装束の男性が馬を進めてきた。
まだ若い――少女にとっては自分より大きい人は誰でも大人に見えるものだが、それでもその人は周りの大人たちに
比べて若く見えた。
だが、その周囲の人たちがそのお兄さんを大切にしてるのはなんとなくわかり「きっとこのひとが、いちばんえらい
だんしゃくさまだ」と思ったとき、少女は母親の手を離して、自然とそのお兄さんの前に歩み出ていた。
背後で、母親が戸惑った声を上げるのが聞こえる。だが、少女の歩みは止まらなかった。
その少女に男性が気づき、目を向けた時――少女は、ずっと我慢していた涙が溢れるのを感じながら、声を絞り出した。
「おねがい、だんしゃくさま――おねえちゃんを、ちはやおねえちゃんをたすけて!」
涙ながらに訴える少女の事を見つめる事ほんのしばし。
青年は側に控える黒衣の男性を振り返る。
「――ヴィルヘルム」
「おう」
呼びかけに対する応えは短く、直後にドン!と大きな音がして、黒衣の男性の姿が掻き消えた。
びっくりして涙も止まった少女が周囲を見回すと、自分たちが歩いてきた方角にものすごい砂埃が立ちあがり、それが
見る見る離れていくのが見えた。呆然と少女がそれを見送っていると、そばでがしゃりと音がする。
振り返ると――青年が馬から下りて、そのぴかぴかの戦装束が土で汚れるのも構わずに膝を付き、少女と目線を
合わせて覗き込んでいた。
そして、ゆっくりと手を伸ばし――その手が篭手に包まれていることを途中で思い出したように一度止めてから、少女を
怖がらせないよう、ことさらにゆっくりと手を伸ばしなおし、少女の頭を優しくなでる。
「もう大丈夫だろ。お嬢ちゃんも、周りの皆も、それからお嬢ちゃんたちを守った立派な騎士様も、俺がきっと助けるだろ」
そう言いながら浮かべるお日様のように暖かく優しい笑顔を見、少女は止まっていた涙が再び溢れ始めるのを感じた。
そして、子供ながらに思ったのだ。
ああ、きっと、これがほんとうの「きぞくさま」なんだ、と――
青年は側に控える黒衣の男性を振り返る。
「――ヴィルヘルム」
「おう」
呼びかけに対する応えは短く、直後にドン!と大きな音がして、黒衣の男性の姿が掻き消えた。
びっくりして涙も止まった少女が周囲を見回すと、自分たちが歩いてきた方角にものすごい砂埃が立ちあがり、それが
見る見る離れていくのが見えた。呆然と少女がそれを見送っていると、そばでがしゃりと音がする。
振り返ると――青年が馬から下りて、そのぴかぴかの戦装束が土で汚れるのも構わずに膝を付き、少女と目線を
合わせて覗き込んでいた。
そして、ゆっくりと手を伸ばし――その手が篭手に包まれていることを途中で思い出したように一度止めてから、少女を
怖がらせないよう、ことさらにゆっくりと手を伸ばしなおし、少女の頭を優しくなでる。
「もう大丈夫だろ。お嬢ちゃんも、周りの皆も、それからお嬢ちゃんたちを守った立派な騎士様も、俺がきっと助けるだろ」
そう言いながら浮かべるお日様のように暖かく優しい笑顔を見、少女は止まっていた涙が再び溢れ始めるのを感じた。
そして、子供ながらに思ったのだ。
ああ、きっと、これがほんとうの「きぞくさま」なんだ、と――
「ってのはどうですよ?! これをウチの新聞に載せたらやらない夫様の人気もウナギのぼりってなもんですとも!
はっはっは、やっぱり人気取りに子供ネタってのは鉄板ですよ! 子供好きの国王夫妻もイチコロじゃないですかね?」
「捏造はやめなさい! っていうかそんな話広められたら俺が羞恥で死ぬ!!」
はっはっは、やっぱり人気取りに子供ネタってのは鉄板ですよ! 子供好きの国王夫妻もイチコロじゃないですかね?」
「捏造はやめなさい! っていうかそんな話広められたら俺が羞恥で死ぬ!!」