衣玖の冒険日誌 2 - 【安価】やらない夫は貧弱男爵家を立て直すようです【内政】 @ ウィキ

大陸暦８８７年（１月～６月）

１月

年が明けるとやはり気持ちが改まる。一年前には存在すら知らなかった村で年を越したことに、自分が変わったのだとつくづく感じる。
不律村長から受け継いだ剣を蛍光燈さんに見せると、良い剣になると保証された。工房が完成したらできない夫さんのために打ち直すと約束してくれた。
続いて才人さんから声を掛けられ、亜竜退治に行くことになった。私たち以外のメンバーは虎徹さんとレヘルンを持ったモモメノさんだ。
対策した甲斐あって無事に亜竜を撃破した。それは喜ばしいが、できない夫さんたちには死骸が貴重な錬金素材だともう少し強く言っておくべきだった。
気になっていた植物はアイヒェといい、良い錬金素材らしい。但し、温泉もアイヒェも利用できる量が少ないため、使い道を絞る必要があるそうだ。
亜竜から採れた素材は私たち用の装備に加工してくれるよう、モモメノさんにお願いした。つくづく彼女は村の柱だと感じる。
温泉は村人へのアンケートにより錬金素材採取場に特化することになった。大禍津に錬金術学校を作るという大事業に挑戦することになる。

さて、次は先日の祭の折、ジョースター卿から受けた遺跡捜索及び探索依頼の遂行だ。鈴仙さん・才人さんと共に出発し、程なく発見。
壁の崩落に才人さんが巻き込まれて負傷しながらも、最深部に住み着いていた亜人を排除。残っていた書籍は残念ながら風化していた。
才人さんの負傷を受けて、レヴィさんが診療所の建設を提案してくれた。私財を投じてくれた彼女のために、医療の専門家を早めに探したい。
その遺跡をモモメノさんと定光さんに調べて貰ったところ、一部を除きかなり頑丈な造りだったそう。才人さんはつくづく運がない。
フラムの原料になるフロジストンという下級火薬が採取できるので、そのためにしっかりした建物に造ったと推測できる。
折角なので素材採取場及びそのための訓練施設として再利用することにした。錬金術学校設立の一助となればと願う。
チャドさんはできない夫さんと定光さんに勉強を教えてくれたらしい。彼のお師匠様は武術以外にも様々な知識を授けてくれたそうだ。
……ところで、できない夫さんが「プライドのお礼」とチャドさんにジュースを奢っていたのは何故かしら？

建築をお願いしたり資金を渡したりした後、村の皆さんに別れを告げて大禍津に戻る。まずは先月やり残していた依頼からだ。
最奥部で待ち構えていたのは怪盗・松永久秀。長らく待たせていたせいですっかり拗ねた彼は、平蜘蛛（埴輪に命名）や私たちごと自爆しようとした。
できない夫さんが埴輪を奪取しようとしたが、揉み合いになり破損。ロックさんとチャドさんが責任転嫁のクズ発言をしたので窘める。
謝罪や賠償を行うことで話を付け、依頼人に失敗を報告……のはずが、破損状態がいたくお気に召したらしく、成功扱いになった。

続いて過去を捨てたいという依頼に関する情報収集を……と思ったがロックさんの進言により中止し、依頼人の元に出向く。
事務処理能力の他に錬金術素材の知識をお持ちだったので、村でモモメノさんの補助をしていただくことになった。
また、テイガーさんとは「北」の件に協力することで手打ちということに話が落ち着いた。相変わらず義理堅い方だ。
村では店舗と民家が完成したそうだ。先の方の受け入れ準備をお願いすると共に、民家二軒の建築指示を出す。
……ところで、みょっつ１世から１５世まではどんな方かしら？

２月

タクト店長の留守番依頼を受けたが、できない夫さんが山賊退治の依頼に来た人と一緒に飛び出して行った。……後でじっくりお話しよう。
依頼自体は無事完遂できたが、何と依頼人が藍染領主の腹心だった。彼ことヴァニラ・アイスさんは入れ替わりを知らず主君の変化に心を痛めている模様。
偶然に驚きながら、麻呂伯爵に面会する。メガザルの侯爵にしてグラズヘイムの総督という重鎮直々に、情報の裏付けを報告してくださったそう。
先に話していたとおり、しばらくは静観路線だ。ただ、もっと情報が集まった場合ヴァニラさんの協力を仰げる可能性がある、とも仰った。
先日受けた遺品捜索依頼について話を伺ったり、村へ文官育成の人材派遣をお願いしたりして、ひとまず会見を終了する。

そして夫婦の亜竜がいると聞いた遺品捜索依頼に向かう。特段下調べしなかったため、凶暴な亜竜二体と同時且つ正面から戦うことになった。
こちらの作戦が上手くはまり亜竜を倒せたのは幸運だった。或いは……洞窟にあった遺体の魂が、故郷に帰らんと私たちを守ってくれたのか。
高品質の戦装束からして、麻呂伯爵から話を聞いていたメガザル西部の貴族だろう。遺族の使者である冒険者は一度向こうに帰ったらしい。
近々ギャル夫さんにメガザルへ行っていただくつもりだったので、ついでと言ってはなんだが遺品や遺骨を一緒に届けてもらうことで麻呂伯爵に許可を得た。

できない夫さんがチャドさんと話していたら、チャドさんの師匠が先日の依頼人みょっつ１６世さんではないかという話になった。
色々食い違う点もあるが、直接会って確かめるのが妥当だろう。亜竜アイテムや新しい武器のこともあり、近いうちに村へ帰ることにする。
……ところで村からの手紙にあった、お姉ちゃんとサイトさんが作った汎対応型重攻撃式剣とはどんな物かしら？

魔導書の主を探しているという自称邪術師の霍青娥さんの依頼を受ける。魔導書・“道胎動”を開き、試練を受けて合格すれば主になれるそうだ。
失敗しても死んだり狂ったりはしないそうだが、不穏な気配が……と考えていたら、できない夫さんがあっさり開いてしまった。
……この書には魔神が取り憑いていた。霍青娥さんに不死を与え、試練に打ち勝つ者が現れないかぎり解放されないという呪いを掛けた者。
できない夫さんへの試練は、ばらまいた金貨100枚から当たりを拾うこと。失敗しても呪いはできない夫さんには掛からないそうだが……
彼はあっさり一枚を拾った。が……いまいち、その後は現実味が薄い。ただ一つ確かなのは、魔神は消失したということ。
呪いの解けた青娥さんは、村で医者をやってもらうことになった。魔導書は強力なマジックアイテムで、できない夫さんが持った。

青娥さんを加えた6人で村へ向かう。……できない夫さんについて話す彼女に胸がむかむかするのは何故だろう。
一月しか経っていないのに、村は明らかに人が増えていた。青娥さんが村役場へ行ったのをはじめ、各々好きなように行動する。
チャドさんの師匠はやはりみょっつさんだった。彼の指導は的確にチャドさんを強化した……が、みょっつさん自身はまだまだと感じているそうだ。
発展についての定例会に出席。……できない夫さんは才人さんと飛び出して行ったので、青娥さんの医療技術を見られる良い機会になるだろう。
富裕層が流入して新旧の住民で摩擦があったものの大きなトラブルはないそうだ……村に「ノーモア・ヒキニパ」の張り紙が増えたのは錯覚ではなかった。
ここで負けて帰ってきたできない夫さんの治療のため、一旦解散する。治療のため青娥さんが彼を連れて行く姿が妙に目に付く。

できない夫さんは治療の後、蛍光燈さんとモモメノさんから頼んでいた物の受け取りに行ったそうだ。
彼専用の武器とは双剣で、マジックアイテムにも近しい逸品だった。銘は羽那天駆・対陰刃(パナソニック・ツインパ)──鍛冶の女神という言葉すら浮かぶ。
また、才人さんの助力を得て打った短剣・暁晴来(キョウセラ)、そして暴竜の鱗から作ったマントは共に私が使うことになった。
帰りが遅かったのは、新しい武器で才人さんにリベンジを挑んでいたからだそう。今夜はみっちり書き取りをしてから寝てもらおう。

メガザルへ向かうギャル夫さんとマミさんを見送る。錬金術や温泉も大事だが、何より亡き魂が遺族の元へ何事もなく帰れますように。
マミさんに「婚前旅行ですね」と言ったら顔が真っ赤になった。青娥さんが新婚旅行とか言って、今度は耳まで真っ赤に。
しかし何故、青娥さんはそこでできない夫さんに２人で旅行の話を振るのかしら。私たちは冒険者だというのに……全く。
……後に聞いた話だが、ギャル夫さんに託した遺骨は彼の元主君の父君、先代クール男爵様だった。縁とは不思議としか言いようがない。
先代様の葬儀後に行われた交渉では、事前にお知り合いに話を通しておいたのが功を奏し、こちらの希望がほぼ認められる形となった。
寒冷地の温泉育ちという珍しい環境のため、当地のアイヒェはメガザルでも中々見ないほどの高品質だったらしい。
この話はクール伯爵家とココニ村、そして麻呂伯爵の寡占とし、クール伯爵家から専門の人材を派遣してもらえることとなった。
また、宇宙マメ(通称ガウェイン)という水の綺麗な寒冷地用の品種をいただけた。耕作条件の厳しさを除けば、主食にも酒肴にもなる凄まじい改良品種だとか。
スペースコブラへのメガザルによる食糧支援の減少が見込まれ、麻呂伯爵の利益にもなるそれを、ココニ村は格安のマージンで栽培できることになった。
麻呂伯爵には色々とご面倒を掛けることになるが、両国の安定や餓える子供の減少に繋がるのは事実であり、良いことだと思ってくださるだろう。
クール家から派遣された農業技術者は間桐慎二さんという、髪や性格に癖のある方だ。二度と子供が餓えない村にしてやる、と真摯な意志を持つ方だ。

ギャル夫さんがメガザルで旧交を温めている間、こちらでも人間関係に多少の変化があった。いや、変化を知らされた、というべきか。
ロックさんと鈴仙さんは、村の復興が終わったら大禍津で生活することにしたらしい。根無し草気質のロックさんを鈴仙さんが捕まえたという雰囲気か。
鈴仙さんも過去の恐怖から段々立ち直ってきたようで、スリルジャンキーとトリガーハッピーの中々面白いコンビになりそうだ。
……彼等は先を見ており、できない夫さんにも復興後を考えるよう示唆した。できない夫さんは復興が終わったらどうなるか、私は知りたい。
村に資金を５０提供し、冒険者の宿と民家の建設をお願いする。これ以上ヒデオさんに負担を掛けないよう、村内トラブル解決の手を増やすためだ。
ところで、できない夫さんが村内の挨拶周りに忙しくて家にいる時間が少ないのが、妙に寂しく思えるのは何故かしら？

３月

依頼を複数受注したままなので、大禍津へ戻る。新規受注も避け、さて何をしよう──となったところで、ギャル夫さんが宿に現れた。
待望の農業専門家たる間桐慎二さんは私たちの挨拶に泣きながら逃げていったが、何か失礼をしただろうか。こちらは素直に感謝を伝えただけなのに。
ともあれ、ギャル夫さんは麻呂伯爵からの緊急呼び出しを伝えに来たのだった。できない夫さんとマミさんがゲームの話をしつつも、急いで伺う。
領主館には凄まじく憔悴した麻呂伯爵と、メガザルの使者がいらしていた。お届けした遺骨の関係者らしいが、律儀な方だ。
友好を深めるため、できない夫さんの提案で４人でゲームをする。徹夜で遊んだ結果、私＞使者様＞麻呂様＞できない夫さんの順で終わった。
私は素直に喜んで……そう、傍目にも判るほど感情を表に出して、それが自然と感じていた。……できない夫さんの熱が私をここまで変えてくれた。
翌日の交渉では、アイヒェ栽培から寒冷地野菜、遺骨返還に至るまで、麻呂伯爵が素晴らしい交渉手腕を発揮しておられた。
錬金術学校の件でハイドリヒ卿を一喝され、猛然と何かを書き始めていらしたが、終始穏当かつ平和裏だった。“まーじん”で和んだお陰だろう。

続けてテイガーさんから受けた謎の落書きについて調査する。私たちが麻呂伯爵にお呼ばれしている間、ロックさんたちがある程度調べてくれていた。
どうやらスラムの連続殺人事件と落書きの数が関連していると目星を付け、私とロックさん・鈴仙さんとで調査に向かう。
結構な金銭と引き替えに、筆跡が同一＝単独犯らしきこと、隣大陸の文字で「たすけて」と書かれていることが判った。
依頼自体は達成したので、できない夫さん・チャドさんと和んでいたテイガーさんに報告。真相や解決はまた別の方向からアプローチしたい。
……さて、仕事をしてきた私たちのお茶とお菓子が用意されていないなんてこと、ありませんよね？

麻呂伯爵から受けたZIP探索のため、ダンジョンに向かう。出入り口は伯爵の部下によって厳重に封鎖されていた。
厳重に情報封鎖されているらしく、部下の方々はあまり事情をご存じなかった。一抹の不安を抱きながらダンジョンに入る。
果たして、図書館内には警備用魔導ゴーレムが配置されていた。先制攻撃でチャドさんに怪我を負わせ、更に複数のビットが空中から攻撃してきた。
多方向から強力な魔力砲撃を浴びせられ苦戦したが、何とか勝利できた。遺跡、それも図書館内で爆弾使用は危険すぎたが、被害がなくて良かった。
どうやらゴーレムも本には砲撃を当てないようプログラムされていたようだ。……事前に伯爵に聞いていれば、と情報収集の重要性を痛感する。
情報と言えば、書架に「真実の姿を映すマジックアイテムの研究」の本があった。今の私たちに必要な物ではないだろうか？

麻呂伯爵への報告を終え、できない夫さんと共に広川商会へ向かう。先の戦闘で装備を使い果たしたので補充は必須だ。
そして村で店舗や住居の準備が整ったので、商会の移転をお願いする。最近発展が目覚ましいこともあり、広美さんに快く了承してもらえた。
また、装備を大量購入したお礼として、幾つか情報を教えてもらった。麻呂伯爵の元にメガザルから使者がいらしてたこと、
スペースコブラの女王神綺様の再従兄弟・オルステッド閣下も頻繁に麻呂伯爵を訪問していること。
何か重要な会談だろうと噂になっているそうだ。オルステッド閣下は最近婚約が悲しいことになったとか……ご愁傷様です。

村から移住直後の慎二さんや広美さん、少し前に来たばかりの青娥さんについての報告がメインの手紙が届いた。
「農術士爆誕」「ブルドーザーごっこ」……何故だろう、ヒデオさんの文章は分かり易いのに、内容が中々理解できなかった。
過程はともかく、皆さんが村に馴染んでいる様子なのは良いことだ。交流や理解を深めるために公民館と学校の建築を頼んでおく。
また、月島さんが自腹で冒険者を雇い、チャドさんのトレーニングをしてくれた。明らかな成果が表れて、皆が目を瞠る。
……ところで、「青娥さんができない夫さんに宜しくと言っていた」の記述が目に付いたのは何故かしら？

早いもので、できない夫さんと出会ってからもう1年が経とうとしている。あの時とは異なり、今の私は「熱」を持っている……そのことが「嬉しい」。
タクトさんと蘇芳ちゃんの小芝居を眺めながら、依頼を受注する。村の皆が頑張ってくれている以上、私たちも頑張らないと。
まずは麻呂伯爵を訪問し、メガザル・スペースコブラ両国の使節がココニ村を視察される際の護衛についての話を伺う。
我が国からはオルステッド閣下、メガザルからは島津豊久陛下直下の武人・カズマさんが、ガウェインとアイヒェの状況を見に来られるとのこと。
襲撃される可能性はあるが、竜殺しであるカズマさんは色々な意味で放置が正解らしい。オルステッド様の護衛が主な仕事となりそうだ。
そして先日のZIP遺跡で見た、真実の姿を映すマジックアイテムについてお尋ねする。伯爵もその「ヲーの鏡」は気に掛かっていたと仰った。
古文書解読となるためジョースター卿に連絡したいとのことで、卿からの依頼を丁度受けていることをお話しし、概要の手紙をお預かりする。
ヲーの鏡は「最愛の母を奪った、あの憎き魔導書を滅ぼすために」製作したと、序文に書かれていた程度しか解読できていないようだ。
また、ココニ村を錬金術学校の材料採取地にすると伯爵の決定がいただけた。重要性を鑑み、定期便の増便もしていただく。
できない夫さんが言っていたとおり、麻呂伯爵が先日のようにハイドリヒ卿や私たちと楽しく“まーじん”できる日が来て欲しいものだ。

気を抜かれたのか悲鳴を上げて眠ってしまった麻呂伯爵の元を辞し、連続殺人事件についての調査を開始する。
スラム街で半月に1度バラバラ殺人が起きる……生き延びた被害者に話を聞くと、先の落書き事件との関連、そして刀の不穏さが浮かび上がった。
その点を踏まえて調べた結果、刀は「アヌビス神」と言う道胎動と同じ魔術師が作った呪いのアイテムだと判明した。
囮作戦か皆で探すかはともかく、大体の情報は出揃った。念のため村に帰って青娥さんに訊いてみるというのも一手かもしれない。

古文書解読の件もあり、ジョースター卿の依頼に向かう。壁画遺跡“バキュラウォール”に居座る防衛用ゴーレムのスイッチを切るという内容だ。
言うなれば壮大な『だるまさんがころんだ』のため、速度に秀でたできない夫さんを名指しで依頼したと聞いて納得した。
挑戦できるのは3人までなので、神速のできない夫さん、勘の良い鈴仙さん、耐久力に秀でたチャドさんでチャレンジする。
鈴仙さんはタイミングを上手く見計らい、できない夫さんは出遅れても鈴仙さんに追いつき、チャドさんは走り出せず……
更に瓦礫に足を取られて転んだのをゴーレムに感知され、ビームを浴びる羽目になった。……ジョースター卿の顔が見られなかった。
その隙に鈴仙さんとできない夫さんが完全同時のタッチダウンを決め、ゴーレムは停止した。……計算したわけでないと信じてもらえるだろうか。
依頼を無事達成したところで、麻呂伯爵からの古文書解読依頼についてお伝えする。結構難解な物らしく、解読にはしばらく掛かるとのこと。
新たに読み取れた内容は、鏡の制作者・宮古芳香さんが本当に壊したかったのは道胎動……できない夫さんの持ち物となった魔導書だ。
なんという奇縁だろうか……ジョースター卿の仰ったとおり、芳香さんの宿願を果たせた幸運に深く感謝し、鏡を正しく使いたいものだ。

できない夫さん・ロックさん・チャドさんがアヌビス神対策を相談した結果、チャドさんが囮になることになった。
危険は勿論あるが、自分が一番向いているとチャドさんから言い出したそうだ。彼が時間稼ぎしている間にできるだけ早く合流したい。
村に診療所や商会ができて嬉しいと、ニャル子さんから手紙が届いた。娘の玩具を村内で買えるなんて一年前には思いもしなかった、と。
手紙で「村の『お姉さん』として頑張ります！」とカギ括弧＆一回り大文字で強調されていたのは、少し気になったけれど。
ある日、子供たちや仲間たちと同行することのない空白の時間がぽかんと現れた。結構仕事人間のできない夫さんは少し戸惑っていた。
前のめりな姿勢が少し悔しくて、やりたいことを聞いてみる。ハイドリヒ卿やザ・レッドちゃん、チャドさんで“まーじん”とか。
でも、私の手料理が食べたいと言ってくれたのは、少し嬉しい。私のやりたいことを訊いてくれたことも、同じく嬉しい。
……距離を縮めてぴたりとくっつき、私やあなたのこと、未来のことなど、色々な話をする……私の休日は、それで充分だ。
村から「緊急！」と赤字で書かれた手紙が届いた。近日予定されている視察の件で、貴賓館等の施設を急ピッチで建築しているそうだ。
緊急の要件とは、ギャル夫さんがカズマさんに話がある旨を必ず伝えて欲しいというものだった。メガザル出身同士、何かあるのだろう。
……ところで、「脳筋がノット常識ヤル気満々リベンジゴーゴー、ニートに延焼大惨事予定」とは流石に混乱しすぎではないかしら？

４月

私ができない夫さんと正式なパーティーを組んで、一周年になる。ちょっとだけ夕飯を奮発してお祝いした。
蘇芳ちゃんがタクトさんの代わりに依頼を纏めて持ってくるアルバイトを始めたこともまた喜ばしい。お祝いは彼女に止められたけど。
今回は依頼を受けなかったが、いつか蘇芳ちゃんがココニ村で冒険者の店のマスターになる姿を想像して楽しかった。
そのためにも要人護衛依頼をきちんと果たさないといけない。襲撃されそうな場所や近隣の危険について調査する。
資金を投じた甲斐あって襲撃に適した場所と、小規模ながら襲撃を行いかねない勢力の情報を入手できた。気を引き締めて行こう。

今回の護衛対象であるオルステッド閣下は、できない夫さんの二つ名「神速蒼狼剣士」まで御存知だった。何となく誇らしい。
王位継承権も爵位も放棄し国内安定に努める姿は、とても誇り高くていらっしゃる。元婚約者は見る目がないと思うが、極力触れないようにしよう。
メガザルの使者カズマさんは竜殺しの逸話が真実だと感じられる、それでいて気の良い方のようだ。
砕けた口調でオルステッド閣下やできない夫さんに話し掛けていた。ギャル夫さんの名前にも憶えがあるようで、少し安心する。
危惧が当たり襲撃が発生……したが、あっさり終わった。「一人の方が楽」と仰っていたカズマさんの言葉は正解だと実感した。
襲撃犯はメガザルを恨むグラズヘイム工作員の残党で、実質捨て駒らしい。黒幕は不明だが、ロックさんは何か考えているようだ。

ほぼ予定どおりにココニ村へ到着する。不律村長の挨拶後、事務担当のヒデオさんと農業技術者の慎二さんが視察の担当として使節団に応対した。
カズマさんの所に時ギャル夫さんが走ってきたと思ったら、武器を構えた定光さんが続いて表れた。どうやらお二人には因縁があったらしい。
対戦したい旨を早口で伝えたギャル夫さんの言葉が聞こえていたかどうか、即座に戦闘開始、順番待ちが才人さん。……まったく。
翌日、ガウェインの生育状況を見たオルステッド閣下は、寒冷地の主食作物に充分なり得ると最大限の支援を約束してくださった。
青娥さんが畝乗りサーフィン、もとい、楽しそうに地面を耕している姿は、慎二さんが上手く誤魔化してくれた。
その間、チャドさんの動きをサポートできる中級の武器を蛍光燈さんに発注する。出来上がりが楽しみだ。

翌日青娥さんの診療所に行くと、オルステッド閣下が酔い潰れていた。虎徹さんと酒場で泥酔するまで飲んでいたとか。
ともかく、アヌビス神とヲーの鏡について青娥さんに話す。アヌビス神は10m以上離して破壊すれば使用者に害はないそうだ。
ヲーの鏡制作者・宮古芳香さんの名前を出すと、青娥さんの顔色が変わった。判っている限りの情報によると、実の娘さんである可能性が高い。
名字が違うのは結婚したからだろうと……泣きながら娘さんの結婚を喜ぶ青娥さんの姿は、母としての愛情に溢れていた。
聞いていたオルステッド閣下も二日酔いが吹っ飛ぶほど感動して、青娥さん以上に泣いておられた。こちらの涙が引っ込むほどに。
落ち着いた所で、青娥さんから芳香さんの遺した本を読ませてくれたらアヌビス神やヲーの鏡に全面協力すると言ってくれた。
オルステッド閣下からも情報の提供を求められた。古文書の所有者たる麻呂伯爵に相談してからということで、ひとまず保留する。

使節の方々が帰られたところで、慎二さんが提案したアイヒェ栽培施設の建築、及び生育実験を行う。
様々な状態で試した結果、栽培に成功したもののかなり繊細な条件が必要と判明した。大量栽培はかなり難しいようだ。
なので高級品としてブランド化することになった。CoCoNiブランド第一弾アイヒェ──いつか大きなブランドとなれるよう、祈るばかりだ。

視察後の事務作業が増えていそうなのでヒデオさんの様子を見に行くと、モモメノさんもいた。家が近いから入り浸っているそうだ。
村役場入口で酒類持込チェック・解毒剤・非殺傷武装など、ヒキニパの使徒を再臨させないための対策は万全とのこと。
勿論事務がパンクしないのが一番なので、無理しない範囲で頑張ってほしい。ノーモア・ヒキニパは絶対だ。
派遣された文官さんに新しい事務官養成を頼んだり、冒険者の店に短期の事務処理依頼を出したり、色々対策しているそうだ。
丁度事務処理の依頼を受けた冒険者のランスロットさんと雪華綺晶さんが、村役場に来た。彼等は偶然にもできない夫さんを探していた。
事務処理は後にして話を聞くと、道胎動と同種のアイテムに呪われていた被害者で、ジョースター卿に紹介されたという。
呪いのアイテムを滅ぼすため、魔術師やヲーの鏡についての情報を求めている……という話なので、別室にロックさんを呼んで相談する。
こちらは魔術師の情報を提供し（但しアヌビス神はこちらに任せる）、ヲーの鏡は麻呂伯爵に決定権がある、オルステッド閣下への紹介を行う。
対価はランスロットさんの出身地・グンマーのマリナ大族長に紹介状を書いてもらい、移住希望者を募るということで合意した。
──後に薬草師・山田ルイ53世さんが村に移住して珍しい薬草の栽培に成功し、また不律村長と友誼を育むことになる。
……ところで、モモメノさんが村役場に入り浸っていると指摘された時、顔が赤くなったのは何故かしら？

ジョースター卿が古文書の解読を終えたと雪華綺晶さんから伝えられたので、大禍津に戻る。
ほぼ唯一の友人から依頼が来ていたが期限が曖昧なので保留し、ランズベルク男爵とヤン退役元帥の依頼を受ける。
するとすぐ傍のテーブルに当の牛乳和服娘こと信長がいた。驚き呆れたものの、久しぶりなので挨拶を……した途端、信長が凍り付いた。
どうやら私は、昔に比べると別人レベルに応対が変わったらしい。できない夫さんのおかげだと言うと、意味有りげな顔で同意していた。
信長は引き受けたばかりの依頼を果たしにさっさと出て行ったけれど、依頼抜きでも改めて色々話をしたいものだ。

まずは麻呂伯爵の元に伺う。魔術師やヲーの鏡の件をオルステッド閣下や青娥さんにどこまで話すべきかを始め、相談すべき点は多い。
魔術師だけでなくアーロニーロの件までオルステッド様やジョースター卿にお話しして協力を求めた方が良いと伯爵は仰った。
丁度ジョースター卿は別室で解読中……と思ったら、ヲーの鏡のレプリカを冒険者や錬金術師の協力を得て完成させたという。
今回作ったレプリカは一回限りで壊れるが、本物の製法も解明済であり、特殊な材料が揃えばきちんと作れると仰った。
ジョースター卿に事情をお話しした結果、アーロニーロが連続で変身した場合を考えて本物の鏡を用意する方が良いという結論が出た。
レプリカは実験の意味でもできない夫さんに渡し、アヌビス神に使うことになった。効果を発揮することを祈ろう。
できない夫さんが見た夢の話で和んだ後、オルステッド閣下と青娥さんに事情を打ち明ける。話し終わったらお二人とも凄い顔だった。
ヲーの鏡が完成すればこちらからアーロニーロ排除に動けるとできない夫さんが言ったことに、皆さんが同意した。
オルステッド閣下に魔術師の情報やランスロットさんの話をした後は、青娥さんの話だ。芳香さんがお母さんを助けるための、研究記録。
芳香さんが恨みと復讐に人生を費やしたのではないか……青娥さんの危惧は幸いにも外れていた。
当初こそ脇目も振らずに研究していたけれど、依頼で知り合った冒険者の男性に少しずつ心を許し、彼を心配し、生還に涙し……結ばれた。
研究は続ける、けれど二人で生きる喜びも手放さないという話。青娥さんは安心して、私は……もう一度読まずにはいられなかった。
「胸がほんわりと温かい。不思議な“熱”だ」──その“熱”が“恋”ならば、私ができない夫さんに感じているのも……？
……このページにも栞を挟んでおく。きっと、とても大切なことだから。

ヤン退役元帥の依頼について情報収集しようとしたが、有益な話はなかった。これは本人に話を伺うのが一番良さそうだ。
気を取り直し、辻斬り事件の対処を行う。情報が正しければ、操られている被害者の精神がそろそろ限界を迎えるので失敗できない。
チャドさんが囮になって時間を稼ぎ、駆け付けた皆で取り押さえる方針で行く。死亡フラグごっこに勤しむチャドさんは余裕綽々だ。
頃合いを見計らい走り出した時、チャドさんがいると思しき方向から爆音がした。できない夫さんが「チャドの霊圧が──消えた」と……
……ええ、ピンピンしていました。「一度はこういうセリフ言ってみたいなあ」ってチャドさんと話していたそうです。
「こういう相手。こういう状況で──茶渡泰虎が負けるかよ―――ってね」……ですって。全く、私たちの胃に悪すぎます。
念のため刀を被害者から離し、ヲーの鏡で核を見定めてから破壊すると、嫌な魔力が消えた。浄化は成功だ。
眼蛇夢さんに通訳してもらったところ、彼女は「デスサイズ高嶺汚れた香り」というらしい……異国の文化は理解しにくい。
デスサイズさんは人買いに北の領地で売られた後、刀を持たされたそうだ。ロックさんによるとアヌビス神の最終目撃も北だという。
辻斬りの件はテイガーさんやｱｯｻｼｰﾝさんにとっても不快な事件なので、上手くすればアーロニーロ包囲網に引き込めるとか。
他の依頼も受けていることだし、これからしばらくは忙しくなりそうだ。
デスサイズさんは麻呂伯爵に保護をお願いし、呪いを解いたアヌビス神は私たちが使うことになった。

村から公民館と学校が完成したと連絡が来たので、図書館の建設をお願いする。完成したら麻呂伯爵に書籍支援をお願いしようか。
なお、ギャル夫さんが破壊魔と穀潰しにより自宅療養中だとか。才人さんと……凶悪な魔物の戦闘に巻き込まれたのだろうか。
ロックさんが密かに調査していた事柄を鈴仙さんが持ってきてくれた。アヌビス神の来歴はやはり、というべきか。
ランズベルク男爵からお話を伺いたいので、きっちり依頼を実行しよう。幸い、ロックさんが色々と下調べしてくれている。
ロックさんは既にテイガーさんにも根回し済だそう。知らぬ間にこれほどの調査ができているとはまるで超人だ。
鈴仙さんとロックさんは良いパートナーのようだ。村の復興が終わった後についてもしっかり考えている。
振り返って私は……と少し考えていたら、チャドさんから「大切な誰かと酒を酌み交わして相談すればいい」と言われた。
なのでできない夫さんに訊いてみたら、二つ返事で……というには慌てて台詞を噛んでいたが、快く了解してくれた。
……できない夫さんと二人で朝まで飲むお酒は、どんなに美味しいのかしら？

５月

蘇芳ちゃんと「アイアンマン」の早苗さんが依頼を持ってきた。時間的余裕ができたので新しく彫刻モデルのお話を受ける。
依頼人のご希望は率先して畑を耕していた「農地の女神」青娥さんなので、村に手紙を出しておく。
さて、まずはランズベルク男爵の依頼だ。先方はゴブリンロード退治の返礼として簡単な護衛依頼を下さったようだ。
亜竜の存在は全く知らなかったご様子だったので、護衛契約の一環として退治を引き受け、亜竜の巣に向かう。
亜竜が４体といえども１体ごとの能力はさほどではなく、また事前に能力や奇襲戦法が判明していたため危なげなく討伐できた。
男爵に報告した際に奥方様も同席していらっしゃった。元楽士らしく、明るく笑顔を絶やさない元気な方だ。
ヴォーカロイド領への旅路でその奥方様とお話しする機会を得た。奥方様は「貴方は私と似ている」と仰った。
自分が理解できない物を求めて焦っているなら、胸の奥に感じるキモチを信じなさい、と。それが幸せに繋がる、と。
私に熱と感情を与えてくれたのはできない夫さん。貴方を信じて素直になれば、私はもっと変われるのだろうか……？
考えているうちに到着した会談場所で、男爵のイア様から亜竜討伐の謝礼として魔法のペンと例の魔術師に関する資料をいただけた。
ランズベルク男爵にアヌビス神の件をお話しすると、この方とは思えぬほどひどく憤り、協力を約束してくださった。
ヴァニラさんへの連絡やココニ村への金銭支援の他、アカデミーの校歌を作詞して貰えるとは望外の名誉だ。

続いてテイガーさんたちとの交渉だ。ロックさんの根回しに加え、ｱｯｻｼｰﾝ商会も藍染と敵対を決めたそうだ。
暗殺者の生き方を捨てた彼等は、藍染の手の者に一族の少女……最も陽の当たる現在を楽しんでいた娘を殺され、復仇を望んだ。
一流の技をもってしても藍染に届かなかった理由は、最近藍染が急激に戦力を増強させたからだという。
お二人に成り代わりやヲーの鏡、麻呂伯爵がたとの協力体制について説明し、実行時の協働や情報提供をお願いした。
最近雇用した魔術師によりゴーレムやマジックアイテムが配備されたそうだ。……もしかして魔術師だろうか。
魔術師の雇用に反対したヴァニラさんは藍染に遠ざけられ、身の危険を感じて潜伏する準備に入っているようだ。
テイガーさんからはデスサイズさんの身の保証も得られ、またハサンさんは情報収集を約束してくれた。
さて……テイガーさんからいただいた、伝説の大剣豪が使っていたお菓子作りセット、使うより飾るべきかしら？

青娥さんが大禍津にいらしたので彫刻のモデル依頼に向かう。スキップしそうな彼女のどこが「邪悪」な「邪術師」なのだろうか。
依頼主のキンブリーさん（松永さんと気が合いそうだ）から「農地の女神」の名前を聞いた時の顔はなかなかの見物だった。
私ができない夫さんとランチに行っている間に、オルステッド閣下が工房にいらして青娥さんの像をご覧になったという。
一目で作品に魅了された古い友人の姿に、キンブリーさんは呵々大笑して閣下に像を売ると決めて……これ以上は野暮だろう。
美しく優しい母性に溢れた「農地の女神像」は高く評価され、青娥さんの名は敬愛と共にスペースコブラ全土へ広まっっていった。

村から手紙が届く。……できない夫さんが時々想像の埒外にある行動に出るのは、この村出身だからなのか。
最大の知らせは、藍染領から逃亡したヴァニラさんが偶然ココニ村へ辿り着き、才人さん・定光さんと共に追撃用ゴーレムを撃退した件だ。
主君が変貌した理由を知ったヴァニラさんは才人さんと共に藍染領へ戻り、魔術師こと妖僧スペシネフの戦力を削ることにしたそうだ。
早速呪いの剣を破壊し、ムーンフェイスとラウ・ル・クルーゼという妖僧の腹心をどちらかでも倒せば「完成」が遅れるとの情報を得ていた。
呪いの剣を渡されていた女傭兵・ディードさんは仕送りのため傭兵稼業をしていたと聞いた才人さんは、ココニ村の護衛を頼んだそうだ。
だが、新たな特産品「農地の女神パイ」効果で人が増えていたものの、新旧の住人対立が先鋭化していた余裕のない時期だった。
それが慎二さんの演説で喧嘩していた人々は寒村の悲哀を思い出し、ディードさんの村の復興のため慎二さんを先頭に旅立ったという。
支援は見事成功し、お礼として羊が贈られてきた。ニャル子さん曰く、かの地域では結納の品だがメガザル人の慎二さんは知る由もない。
「外堀埋立にご協力を！」とあったので、図書館の次の建築には素材加工所と牧場をお願いした。
……ところで、「恋の花咲くココニ村」とは新しいキャッチフレーズなのだろうか？

タクトさんの話によると、北……藍染領の治安が悪化しているそうだ。気になる話だが、とりあえず信長の依頼だけ受注する。
期限が近いヤン退役元帥からの人捜し依頼に向かう。極秘裏に探して欲しいと言われたのは……レヴィさんだった。
政治的利用の防止及び人道的理由からの保護が目的だったので、村での暮らしぶりをお話しすると安堵なされていた。
彼女が幸せならこれ以上干渉しないと仰り、祝杯を上げ始めたので辞去する。……説明は全て終わってからでも良いだろう。

麻呂伯爵にこれまでの報告に伺う。ヴォーカロイド男爵からお預かりした文書を同席していたジョースター卿にお渡しする。
マジックアイテムやゴーレムの資料で、制作者は妖僧スペシネフ……藍染領に雇われた「魔術師」の名。復活したと見ていいだろう。
ヲーの鏡を作るにはあと火鼠の衣が足りないそうだ。幾つか入手できそうな伝手はあるので、今度訊いてみよう。
また、麻呂伯爵には定期便と書籍支援をお願いした。伯爵があれほどヒートアップしたのは、ラインハルトさんとの会談以来だ。
……後に聞いた話だが、この頃才人さんたちはクルーゼという狡猾にして強力な敵と戦い、無事撃退したらしい。

恐ろしいことに、軍隊と呼べるほど多数のゴーレムがココニ村を襲撃したそうだ。手紙を呼んだできない夫さんの顔色が一気に変わった。
が、ヒデオさんの作戦により人的被害皆無で撃退できた、と続いていたので二人揃って安堵の息を吐く。流石はヤン元帥麾下の参謀だ。
ゴーレム以外にもう一人いたが、マミさんと射撃訓練して柵を蜂の巣にするほどやる気がなく、悠々撤退していったそうだ。
そこまで読んだ時、ロックさんがスラムで襲撃されたと急報が入り、急行する。ハサンさんによると半月は安静が必要な重傷だった。
情報を付き合わせるに、ゴーレム・グラトニーに鈴仙さんが「呑まれた」。１ヶ月以内なら救出できると……次の行動が決まった。
落ち着いてから手紙の続きを読む。ゴーレムの残骸から作った缶バッチが好評という明るい報告で、肩の力が抜けた。
……ところで、定光さんは蛍光燈さんが年上と知って畏まったそうだけど、できない夫さんも年齢を気にするのかしら？

６月

まずはグラトニーの捜索とハサンさんに協力を願って調べてもらったら、偶然にも私たちが受けた藍染領住民からの依頼と重なっていた。
ロックさんは待機してもらい、3人で救出に向かう。もし私が鈴仙さん、できない夫さんがロックさんの立場だったら、
できない夫さんは同じ煮え滾る思いになるそうだ。そう思ってくれる彼なら、必ず誰より早く助けてくれるに違いない。
被害地域たる街・雛森フォーエバーは……彫像が数多く建ち並ぶ、独特の雰囲気の村だった。亡き雛森さんが敬愛されているとよく分かる。
問題なくグラトニーを発見・撃破し、鈴仙さんを救出できた。ロックさんの伝言「俺もだ」を伝えた途端、真っ赤になって可愛らしい。
そういえば戦っている間、少し離れた崖が崩落して巨大な牛が巻き込まれて落ちていったのが見えた。気の毒なことだ。
……グラトニーと戦闘中の私たちを襲う罠をロックさんが見破り、定光さんが伏兵を倒してくれたというのが真相だったそう。お見事です。

鈴仙さんはロックさんのお見舞いに行き、私たちはオルステッド閣下を訪問した。閣下のお陰でガウェインは国中に広まっている模様。
農地の女神像を購入したことから神綺女王様をはじめとしたお祭り騒ぎとなり、ココニ村やできない夫さんの名も連動して高まったそうだ。
火鼠の衣取り寄せも了承していただけた。到着までかなりぎりぎりだが、最終決戦には何とか間に合うようで良かった。
資金と装備がごっそり減っていたのでできない夫さんを問い詰める。なんと鈴仙さん救出の前日、才人さんたちに会って渡したそうだ。
ヴァニラさんには敵地で穀潰しを抱えてゲリラ活動させて申し訳なかった、とできない夫さんは言っていた。二人とも無事でありますように。

家に帰ると差出人のない手紙が届いていた。文面は「トカゲ喰えなかった、古参兵マジチート、タラシキープしたしご休憩」
情報漏洩を恐れてぼかしているが、才人さんからだ。敵の配下を撃破したが行動しにくくなったので潜伏に移る、という意味だろう。
また、ランスロットさんが火鼠の衣を受け取りに行ったので入手が早くなりそうだと、オルステッド閣下からのメッセージもあった。
ロックさんはハサンさんと協力して敵の逃げ道を封じることに成功したそうだ。博打とは言うが見事に読み切った彼を素直に賞賛する。
村から届いた手紙には、そろそろ発展の限界だと書いてあった。既に中規模の街レベルなので、今後は安定に努めるそうだ。
……ところで、「一晩のうちに荒れ地を畑に変える魔法使い」の噂が聞こえてきたけど、本当かしら？

冒険者の店が協力して藍染領のトラブル解決に動いているそうだ。だから私たちは安心して大元を叩くようにと。必ず、とお約束する。
まずは信長の弟子捜しだ……が、待たせすぎた報いか北の不穏さの影響か、かなり時間が掛かってしまった。
結果、ミトさんとインコマンさんという二人を見つけたのだが……できない夫さんには私がついていないと危険だと実感した。
……さて、そろそろ信長が正気に戻る頃合いなので、お茶でも持っていこう。

---